- 著者
-
村田 浩平
- 出版者
- Arachnological Society of Japan
- 雑誌
- Acta Arachnologica (ISSN:00015202)
- 巻号頁・発行日
- vol.44, no.1, pp.83-96, 1995 (Released:2007-03-29)
- 参考文献数
- 22
- 被引用文献数
-
9
10
水田の栽培管理が水稲害虫の有力天敵であるクモおよびその餌昆虫の発生消長に与える影響を明らかにするために, 農薬および化学肥料を使わない保全田と慣行田において調査を行った. 1990年と1991年に, 水田内および畦畔においてクモおよび餌昆虫の個体数をスイーピソグ法によって調査し次のような結果を得た.1. 畦畔を含む水田環境では, 10科から14科のクモが採集された. 各水出とも水田内のクモの個体数はアシナガグモ科, カニグモ科, フクログモ科の順に多かった.2. 保全田の水田内では慣行田に比べてクモの個体数が明らかに多く, その差は2倍以上であった. 特に保全田では慣行田に比ベアシナガグモ科, カニグモ科, ハエトリグモ科の個体数が多かったのが特徴である. 保全田と慣行田のこのような違いは, 栽培管理の違い, 特に水管理によると考えられた.3. 水田内と畦畔のクモ相を比較すると, 両年とも畦畔が科数, 個体数ともに多い傾向がみられた. このことは, 畦畔が天敵としてのクモの温存場所として重要であることを示唆すると考えられる.4. 全ての調査水田でウンカ, ヨコバイの発生消長とクモの発生消長が重なる傾向が見られ, この傾向はウンカに比べヨコバイに対してより強かった.5. 保全田では慣行田に比べてユスリカの個体数が多く, これはクモの密度を維持するうえで重要であると考えられた.以上のことから, クモを天敵として有効に活用するためには, 農薬の使用を避け, 春期にはゲソゲを栽培し, 落水時も水田内を完全に干上がらせないことによって, ウンカ, ヨコバイの発生の間隙においても餌昆虫の安定した供給を計ること, 畦畔の除草回数を減らしクモの温存場所を確保することが重要であると考えられた.