著者
若林 明雄
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
性格心理学研究 (ISSN:13453629)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.122-137, 1998-03-31 (Released:2017-07-24)

本論は, 1980年以降アメリカを中心に社会現象にまでなった`多重人格(現在は解離性同一性障害)'という現象について, その基底症状である解離という現象と併せて精神病理学的ならびに認知心理学的に再検討し, その症状の発現メカニズムについて考察することを目的とする.まず, 多重人格の基底症状である解離性障害(従来のヒステリー)について精神分析学的視点から病因論的に考察し, Freud以降心因論的に説明されていた解離症状が外傷性障害として再認識される傾向があることを指摘した.次に, パーソナリティ傾向と多重人格との関係について, 被催眠性-ヒステリー傾向の観点から両者の親和性を明らかにした.さらに, 多重人格を含む解離性障害の基本症状である健忘(記憶障害)について認知心理学的に検討し, 解離は心因性の記憶機能障害であり, 脳神経レベルの機能障害を伴うこと, そして多重人格は特殊な場合における記憶障害である可能性があることを示唆した.さらに, 解離および多重人格と記憶に関する神経生理学的研究から, 障害の基底に大脳辺縁系が関与していることを示した.以上の諸点を整理した結果, 多重人格症状は, 生得的な被催眠性の高さを準備状態とし, そこに自我形成期の前後にわたる重大な外傷的体験を被ることによって形成される個人内同一性間健忘という特殊な解離症状として説明できることを明らかにした.
著者
北田 宗弘 古家 大祐
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.5, pp.294-301, 2013-05-01 (Released:2014-05-01)
参考文献数
46

栄養応答シグナルは,アミノ酸やグルコースなどの栄養素摂取や活動により刻々と変化する細胞内のエネルギー状態を認識し,個体のエネルギー・栄養代謝の恒常性を維持している.栄養過剰状態では,栄養応答シグナルの調節不全として,mTOR経路(栄養過剰シグナル)増強やSIRT1, AMPK(エネルギー不足感受シグナル)の減弱が生じることで,エネルギー代謝の恒常性が正の方向へ破綻する.その結果,肥満・メタボリックシンドローム・糖尿病を引き起こしている可能性が考えられるため,栄養応答シグナル調節不全の是正,すなわちmTOR経路抑制やSIRT1, AMPK活性化が治療標的として期待できる.
著者
サイエンスウィンドウ編集部
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
サイエンスウィンドウ (ISSN:18817807)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.1-40, 2014-04-01 (Released:2019-02-19)

目次 【特集】 わたしの体が教えてくれる p.06 人体には無限に学ぶべきものがある p.10 なぜ今、人体を教えるのか? p.12 ヒトで教える授業 p.15 「ヒトの遺伝」を小中高校でどう教えるか p.16 人の体が持っている700万年の進化の歴史 p.18 実物そっくりの標本で生物授業 学校訪問 p.22 教材づくりで学ぶ人の体や生命 現地レポート 【連載】 p.02 共に生きる:ミヤマシジミとクロオオアリ p.20 人と大地:アフリカ/ガボン共和国 p.24 タイムワープ夢飛翔:実験犬/医学研究に身をささげた p.25 カタカナ語でサイエンス!:インフルエンザは「流れてくるもの」!? p.26 文学と味わう科学写真:春の水 p.28 TOPICS1:震災後の放射線教育はいま3 p.30 動物たちのないしょの話:シロテテナガザル p.32 自然観察法のイロハのイ:手作り聴診器で知る 心音リスニング p.34 TOPICS2:理科教育の課題をどう克服するか p.36 発見!くらしの中の科学:ミクロの敵を防ぐマスクの工夫 p.38 読者の広場:サイエンスウィンドウ カフェ p.40 人と大地:解説
著者
公安調査庁
出版者
法務省
巻号頁・発行日
vol.平成15年版, 2002-12
著者
安藤 香織 竹橋 洋毅 梅垣 佑介 田中 里奈
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
pp.2102, (Released:2022-08-20)
参考文献数
35

本研究では,人類にとって新規のリスクである新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について,リスク認知,不安感情と関連する要因を検討した。先行要因として,性別,年代,及び情報接触を検討した。本調査はオンラインによって実施し,1,555名の有効回答を得た。分析の結果,女性の方が一貫して新型コロナウイルスに関するリスクを高く認知しており,不安感情が高かった。年代については,リスク認知は60代が高いが,不安感情は年代による差が見られず,感染確率の評価は60代が最も低くなっていた。リスク認知はテレビ,ネットニュースからの情報接触との関連が強かったが,不安感情はSNSとの関連が強かった。また,自身の感染確率を他者よりも低く見積もるという楽観性バイアスも確認された。本研究の結果からは,性別,年代によって新型コロナウイルスのリスクの捉え方が異なることが示された。新型コロナウイルスをめぐるリスク・コミュニケーションは,これらの差異をふまえて行われる必要があることが示唆された。
著者
翠川 裕 仲井 正昭 翠川 薫 新家 光雄
出版者
公益社団法人 日本金属学会
雑誌
日本金属学会誌 (ISSN:00214876)
巻号頁・発行日
vol.80, no.3, pp.165-170, 2016 (Released:2016-02-25)
参考文献数
10

A novel method for detecting antimicrobial activity using an innate property of the Salmonella bacteria, namely, the ability of Salmonella to produce hydrogen sulfide (H2S) was developed in this study. The effectiveness of the method was evaluated by comparing the antibacterial activity of copper to that of aluminum. Salmonella was inoculated over the entire surface of deoxycholate hydrogen sulfide lactose (DHL) agar plates that included Ammonium ferric citrate (C6H8FeN). Approximately 25 μL of cupric chloride (CuCl2, 1% weight ratio) solution or aluminum chloride (AlCl3, 1% weight ratio) solution was added to the center of the medium. The surface of the medium was covered with plastic PET (polyethylene terephthalate) material to induce an anaerobic state. Salmonella was cultured under anaerobic conditions at 310 K (37℃) for 86.4 ks (24 h). The antibacterial activity of copper was determined by observing the medium surface color change due to iron sulfide (FeS) formation, which was caused by the production of H2S by Salmonella; blackness indicated presence of newly formed FeS. A quantitative evaluation of copper's antimicrobial activity was performed using a gradient of CuCl2 concentrations; results were compared with those of the present standard method, Kirby-Bauer disk diffusion method on the Mueller Hinton medium. Finally, in order to evaluate the antibacterial activity of metals, Salmonella was inoculated on DHL agar plates. Subsequently, Japanese coins (1 yen, 5 yen, 10 yen, 50 yen, 100 yen and 500 yen coins) were placed on the agar and cultured at 310 K for 86 ks. Salmonella cultured in the presence of AlCl3 produces black color, while no blackening is observed with CuCl2, suggesting that copper possesses an antibacterial property against Salmonella. CuCl2 suppresses H2S production by Salmonella, as Cu2+ forms a transparent circle or ellipse (new halo) around the point at which CuCl2 had has been plated. The size of the new halo increases in direct proportion to the concentration of CuCl2. The halo is no longer visible at 0.034 mg of CuCl2 in our method, while the halo disappears with 4.34 mg of CuCl2 in the Kirby-Bauer method. Therefore, the present method is 129 times more sensitive than the standard method, suggesting increased usefulness and effectiveness in testing antibacterial activity. No FeS-dependent black circle is formed under any of the coins, with the exception of the 1-yen coin, which contains aluminum and no copper. Therefore, the copper-containing coins have an antibacterial effect.
著者
大隈 慎吾
出版者
埼玉大学社会調査研究センター
雑誌
政策と調査 (ISSN:2186411X)
巻号頁・発行日
no.19, pp.15-24, 2020

株式会社社会調査研究センターは毎日新聞社と共同で、2020年4月から、「ノン・スポークン(Non-spoken)調査」と名付けた独自方式の世論調査を実施している。原則的に月1回実施される本調査は、スマートフォンを対象としたショートメール調査と固定電話を対象としたオートコール(自動音声応答)調査の混合モード調査である。回答者の属性に関して、性別には男性への偏りが見られるが、年代は国勢調査の分布に近い。固定電話調査部分の世帯内対象者抽出に関して標本の代表性に問題があるものの、内閣支持率等、政治意識に関する回答で従来型の世論調査法であるRDD調査との間に大きな違いは見られなかった。Since April 2020, The Social Survey Research Center Co., Ltd. and The Mainichi Newspapers Co. Ltd have conducted a opinion survey using an original method referred to as “non-spoken survey”. It is a mixed-mode survey consists of short message service (SMS) survey via smartphones and interactive voice response (IVR) survey via landline, and is conducted once a month. The sample of survey respondents was biased toward men, but the distribution of age group was closer to the census data. The landline mode's within-household respondent selection method lacks representativeness. However, the respondent’ attitudes toward politics (cabinet support rate, etc.) was closer to the conventional random digit dialing (RDD) telephone surveys.
著者
早川 裕二 溝神 文博 長谷川 章 天白 宗和 間瀬 広樹 小林 智晴
出版者
一般社団法人 日本老年薬学会
雑誌
日本老年薬学会雑誌 (ISSN:24334065)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.1-6, 2022 (Released:2022-04-21)
参考文献数
17

Polypharmacy involves problems related to not only the use of many medications but also improper drug administration. The questionnaires used at the time of admission were retrospectively investigated to determine the number of drugs that patients would like to reduce. Most patients wanted to reduce the number of drugs prescribed to them. The target patients were those who visited the National Center for Geriatrics and Gerontology and met the criteria during the hospitalization period from August 1, 2020 to November 30, 2020. In all, we selected 313 patients: 68 in the drug reduction group and 245 in the non-drug reduction group. We investigated the extent of desired reduction and the patient background factors for both groups. Multivariate analysis revealed significant differences between the groups in family management with an adjusted odds ratio of 2.62 (95% CI 1.30-5.29, P < 0.01) and in the number of drugs with an adjusted odds ratio of 1.20 (95% CI 1.09-1.31, P < 0.01). Analysis of the area under the receiver operating characteristic curve(AUC)was carried out for all the cases. The cutoff for self-management was six points (AUC = 0.73, 95% CI 0.64-0.81, P < 0.01). Patients on polypharmacy who are taking more than six drugs, especially family-managed patients, often wish to reduce the number of medications and prescribe it from a pharmaceutical point of view. This aspect needs to be reviewed further.
著者
吉川 義之 野中 紘士 滝本 幸治 前重 伯壮 植村 弥希子 杉元 雅晴
出版者
Japanese Society for Electrophysical Agents in Physical Therapy
雑誌
物理療法科学 (ISSN:21889805)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.72-76, 2022 (Released:2022-08-20)
参考文献数
19

本研究ではヒト皮膚由来線維芽細胞(HDFs)を異なる温度で培養し,細胞増殖に及ぼす影響を検討した.HDFsを5×104 cells/dishの濃度で35-mm dishに播種し,31,33,35,37,39°Cの5条件で培養した.HDFsは24,48,72時間後に剥離し,血球計算板を使用して生細胞数と死細胞数をカウントした.解析には,37°Cで培養した24時間時点での細胞数を基準とした細胞比率を用いた.また,それぞれの温度における細胞生存率を算出した.統計学的検討は温度と時間については二元配置分散分析を用い,細胞生存率については一元配置分散分析を行った.分散分析にて有意差がみられた際にはBonferroniの多重比較検定を行った.結果は二元配置分散分析にて主効果,交互作用ともに有意差を認めた(p<0.01).インキュベーター設定温度の違いによる細胞比率は,48,72時間のいずれの時点においても培養温度の高さに依存して高い結果となった.細胞生存率については有意差はみられなかった.以上のことから,今回検討した5条件においては,31,33,35°Cでは37°Cよりも細胞増殖が低下し,39°Cでは37°Cに比べ細胞増殖が促進した.
著者
桑原 智之 山本 祥平 吉田 俊介 西 政敏 帯刀 一美 佐藤 利夫
出版者
一般社団法人 廃棄物資源循環学会
雑誌
廃棄物資源循環学会論文誌 (ISSN:18835856)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.50-57, 2017 (Released:2017-04-18)
参考文献数
12
被引用文献数
2 3

竹チップ燃料の燃焼残渣からカリウム(K)を高効率かつ低コストで回収するため,抽出条件(抽出液の種類と固液比),回収方法(加熱濃縮-温度差析出法)について検討した。抽出液が 1.0 mol L−1 HCl,固液比が1:10 の条件で高効率に K を抽出でき,このとき抽出液から K を 85.4 wt% で回収できた。ただし,薬品コストを考慮すると 0.01 mol L−1 HCl がより妥当であると考えられ,さらに燃焼残渣を微粒化することで抽出率を 65.5 wt% に維持することができた。回収物は水溶性 K を 53.7 wt% 含有しており,回収物の K の化学形は KCl であったことから,肥料としての適用性について検討した。その結果,肥料取締法に基づく KCl 肥料としての含有率の基準を満たしていた。また,As, Cd, Cr, Ni, Pb についても,同様に実験した結果,肥料取締法に基づく焼成汚泥肥料における許容含有量を下回った。よって,竹チップ燃料燃焼残渣からの回収物は K 肥料として使用可能なことが明らかとなった。
著者
小田 寛貴
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.66, no.8, pp.380-383, 2018-08-20 (Released:2019-08-01)
参考文献数
2

鎌倉時代以前の古写本の大部分は,掛軸などにするために頁毎・数行毎に切断され,現存するものは極めて少ない。しかし,切断された断簡としては,かなりの量が伝世している。これが古筆切である。ただし,古筆切には,後世に制作された偽物や写しも多く混在する。そのため,炭素14(14C)年代測定という放射化学的手法によって古筆切の真贋や書写年代を決定することは,失われてしまった古写本の一部分が復元されることを意味する。さらに,こうした古筆切を史料とすることで,新たな歴史学・古典文学・書跡史学の研究が可能となる。
著者
松浦 健治郎 津村 大揮
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.623-629, 2019-10-25 (Released:2019-11-06)
参考文献数
15

本研究では、近世城下町を基盤とする県庁所在都市のうち、昭和初期に城郭地区内に官庁街を形成した17都市を対象として、城郭地区内の境界と官庁街の変遷の関係性を明らかにすることを目的とする。具体的には、1)城郭地区内の境界の保存の程度を境界の種類や位置との関係から明らかにし、2)城郭地区内の官公庁施設及び市民利用施設の立地の変遷及びそれらと境界との関連性を明らかにすることを目的とする。 明らかになったのは、第1に、境界保存率について境界の位置に着目すると、内側から1・2番目の境界は保存され、3番目の境界は保存されない傾向にあり、境界の断面形態では台地型が、境界の構成要素では自然的境界が保存される傾向にあること、第2に、官公庁施設・市民利用施設の総数は、昭和40年代までは増加傾向にあったが、平成30年では減少しており、それらは階層3に多く立地していること、第3に、境界Cの境界保存率が低い8都市では周辺市街地と空間的連続性のある官庁街・シビックゾーンが階層3に形成され、境界Cの境界保存率が高い3都市では周辺市街地と明確な境界を有する官庁街・シビックゾーンが階層3に形成されていること、である。
著者
平出 文久
出版者
耳鼻咽喉科展望会
雑誌
耳鼻咽喉科展望 (ISSN:03869687)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.65-66,4, 1981-02-15 (Released:2011-08-10)
参考文献数
5

A patient with an animate foreign body in the external auditory canal obviously needs immediate help. Before removal of insects from the external auditory canal the author has used 8% Xylocaine spray against them for several years. Most insects were paralyzed in a few seconds after two or three sprays of 8% Xylocaine. It is clinically confirmed that Xylocaine is insecticidal to most insects, but harmless to stato-acoustic organs of patients.An application of Xylocaine to an animate foreign body in the external auditory canal is strongly recommended.