著者
久保 純子
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.73-87, 1990-06-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
33
被引用文献数
6 5

東京首部の地形は更新世の台地と完新世の低地とからなっている。台地は最終間氷期の海底面と最終氷期の河成面に由来し,その表面は後期更新世を通じて富士火山・箱根火山などにより供給された風成テフラに覆われている。台地には台地上に水源をもつ開析谷が分布する。これらの谷のなかには,台地表面の離水時に現われた名残川に由来し,その起源が最終氷期まで遡るものがある。 低地は最終氷期末に形成された谷が後氷期海進を受け,日本有数の大河である利根川水系により形成されたもので,厚い軟弱地盤を形成する。完新世後期の東京低地の形成過程は,従来ほとんど行なわれなかった考古歴史資料と微地形分布との関係の検討により明らかにされるであろう。17世紀以降になると,河道の改修,海岸部の埋め立て等の人工改変が大規模に行なわるようになった。 東京の台地と低地の地形には,変動帯の特色としての関東造盆地運動や火山活動に加え,ユースタティックな海水準変動の影響があらわれている。そして近年は人類による改変が最も大きなファクターとなっている。
著者
大塚 尚
出版者
日本カウンセリング学会
雑誌
カウンセリング研究 (ISSN:09148337)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.175-183, 2012 (Released:2016-03-12)
参考文献数
16

本研究では,精神疾患を抱えるクライエントの身体感覚違和の疾患群ごとの異同の検討,ならびにさまざまな主観的体験との関連の検討を目的として,精神科クリニックを受診する疾患群372名と,大学生・大学院生184名に対して質問紙調査を実施した。その結果,うつ病群では圧迫感や重感など多くの項目において他群より高い違和が示され,次いで躁うつ病群では非統御感や麻痺・硬直感が健常群より高いことが示された。また,神経症群では不安感が高い傾向が示され,統合失調症群においては健常群に比べて麻痺・硬直感が高い傾向がみられた。身体感覚違和の様相は抱えている疾患によってさまざまな異同があり,そこにはそれぞれの精神活動や病態,存在のあり方が反映されている可能性が示唆された。また,身体感覚違和と他の主観的な体験との間には有意な相関がみられ,精神疾患においても,精神的な面だけで苦痛を感じるというのではなく,心と身体が繋がりあって全身で苦悩や生き辛さを体験していることが示唆された。さらには,カウンセリング場面においても,身体感覚に目を向けることでクライエントの理解に生かしうることが示された。
著者
吉田 篤史 上野 文昭 森實 敏夫
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.31, no.6, pp.1215-1220, 2016 (Released:2016-12-20)
参考文献数
18
被引用文献数
1

胃瘻の歴史は長く、海外では外科的に造設された胃瘻が有用な栄養経路として普及していた。20世紀後半の PEGの開発により、胃瘻造設が内視鏡的に行われるようになった。1980年代の日本では、経静脈栄養あるいは経鼻胃管による経腸栄養が長期に行われる風土であったが、PEGの導入と医療制度の変革により、胃瘻が最も優れた長期栄養経路として認識されるようになった。現代の医療に定着した胃瘻を介した栄養療法ではあるが、著しい普及と共に濫用との批判を受けるようになった。確かに適応症例の選択の稚拙さもあることはあるが、多くの場合人工的水分栄養補給の可否を、胃瘻造設の可否にすり替えた議論の結果である。健全な臨床判断により、人工的水分栄養補給の必要性が認められれば、長期的には胃瘻を介した投与が適切であるのは当然と言えよう。
著者
吉塚 和治
出版者
日本イオン交換学会
雑誌
日本イオン交換学会誌 (ISSN:0915860X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.59-65, 2012 (Released:2012-09-26)
参考文献数
7
被引用文献数
6 9

海水中には,様々な鉱物資源が溶存しており,その絶対量の大きさから,資源枯渇化問題の解決法の一つとして注目されている。これらの鉱物資源量は大部分において,海水中の方が陸上の推定埋蔵量より大きいが,海水中に存在する元素の濃度は希薄であり,経済的にかつ高純度に回収することは極めて困難である。 我々は,海水からのリチウム回収に着目し,リチウムを高選択的に分離回収できるスピネル型酸化マンガン系吸着剤と吸着剤の造粒法の開発,リチウム吸着性能の評価,ならびにパイロットプラントによる海水からのリチウム回収の実証研究までを一貫して行ってきた。本稿では,リチウム資源回収視点から,リチウム資源の現状と将来の需要予測とともに,我々が開発した海水からのリチウム回収技術とパイロットプラントを用いたリチウム回収の実証試験の成果を解説する。
著者
宮口 英樹 石附 智奈美 宮口 幸治 西田 征治 安永 正則
出版者
広島大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

DSM‐5による発達性協調運動症(DCD)は、生活年齢における日常生活の諸活動を著しく妨害していると表記されるが、日常生活では多岐にわたる認知機能が要求されるため、身体運動を中心とした介入プログラムでは、日常生活活動の遂行能力を実際に改善するかどうか検証はされていない。そこで本研究では、認知機能トレーニングを包含した介入プログラムを独自に開発し、医療少年院入院少年のうちDCDを有する対象者に3ヶ月間10回実施した。効果検証は、日常生活活動の運動とプロセス技能を定量的に観察評価するAMPSを用い、介入前後で有意なスコアの改善が認められた。
著者
青木 栄一
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.86, no.2, pp.201-212, 2019 (Released:2019-10-12)
参考文献数
28

教育行政学の親学問候補は政治学、経済学、社会学、歴史学、哲学等多様であってよい。その中で筆者自身は政治学を親学問として措定している。教育行政学は親学問としての政治学に貢献することを意識するべきである。政治学、教育学はアカデミアの中でそれぞれポスト、学会、雑誌、助成プログラム、ネットワークを有するコミュニティである。教育行政学の研究者はそれら両方のコミュニティに貢献する必要がある。
著者
古川 顕 Akira Furukawa
出版者
甲南大学経済学会
雑誌
甲南経済学論集 = Konan economic papers (ISSN:04524187)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3・4, pp.21-57, 2019-03-30

貨幣の起源にはさまざまな考え方があるが, 最も重要で意味のある貨幣起源説は「原始貨幣」に由来するものであると考えられる。地域, 時代, 民族などによって異なる多彩な原始貨幣が存在し, それが貨幣生成の起源をなしたのではあるまいか。一方, 貨幣の未来について予想される有力な考え方として, キャッシュレス化の進展およびそれと密接な関係にある仮想通貨の普及がある。ただし, 筆者は仮想通貨の将来については否定的である。貨幣が貨幣たるゆえんは, その価値が安定していることであり, 貨幣価値が不安定化すると中央銀行や政府のコントロールによってそれを安定化させることが不可欠である。そうした観点からすると, 中央銀行や政府のコントロールが働かず, 投機の対象となりがちな仮想通貨は「通貨」とはなりえない。仮想通貨はニューマネーではなく, あくまでも“仮想”の通貨であり, 決して現金や預金などのリアル・マネーとはなりえない。
著者
末森 晴賀
出版者
日本中東学会
雑誌
日本中東学会年報 (ISSN:09137858)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.95-123, 2022-08-31 (Released:2023-09-10)

From the late seventeenth century to the early eighteenth century, disordering caused by “pirates” still continued aroung the Agean and Adriatic sea areas, where were battle fields in wars between the Ottoman empire and Venice just before the treaty of Karlowitz in 1699. In this situation, the Ottomans and the Venetians were trying to take anti-Ottoman “piracy” measures based on ahdnâmes. Maritime regime against “piracy” have been established during the sixteenth century and followed with slight elaborating some articles until the last ahdnâme given in the first half of the eighteenth century. The formation process of maritime regime on ahdnâmes are well known, however, its applications and practices have not received much attention. In this paper, we examined anti-“piracy” practices during that period with analyzing the Ottoman imperial orders registered in Düvel-i Ecnebiye Defteri 16/4, which shows continuing to following the “traditional” maritime regime on ahdnâmes since for the sixteenth century in practice, while the relationship between the Ottoman empire and Venice was beginning to adopt the European legal system in part.
著者
Daniel Dai Muneyoshi Ichikawa Katya Peri Reid Rebinsky Khanh Huy Bui
出版者
The Biophysical Society of Japan
雑誌
Biophysics and Physicobiology (ISSN:21894779)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.71-85, 2020 (Released:2020-07-22)
参考文献数
48
被引用文献数
13 28

Cilia or flagella of eukaryotes are small micro-hair like structures that are indispensable to single-cell motility and play an important role in mammalian biological processes. Cilia or flagella are composed of nine doublet microtubules surrounding a pair of singlet microtubules called the central pair (CP). Together, this arrangement forms a canonical and highly conserved 9+2 axonemal structure. The CP, which is a unique structure exclusive to motile cilia, is a pair of structurally dimorphic singlet microtubules decorated with numerous associated proteins. Mutations of CP-associated proteins cause several different physical symptoms termed as ciliopathies. Thus, it is crucial to understand the architecture of the CP. However, the protein composition of the CP was poorly understood. This was because the traditional method of identification of CP proteins was mostly limited by available Chlamydomonas mutants of CP proteins. Recently, more CP protein candidates were presented based on mass spectrometry results, but most of these proteins were not validated. In this study, we re-evaluated the CP proteins by conducting a similar comprehensive CP proteome analysis comparing the mass spectrometry results of the axoneme sample prepared from Chlamydomonas strains with and without CP complex. We identified a similar set of CP protein candidates and additional new 11 CP protein candidates. Furthermore, by using Chlamydomonas strains lacking specific CP sub-structures, we present a more complete model of localization for these CP proteins. This work has established a new foundation for understanding the function of the CP complex in future studies.
著者
兼子 伸吾 亘 悠哉 高木 俊人 寺田 千里 立澤 史郎 永田 純子
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.2302, (Released:2023-09-08)
参考文献数
58

マゲシカ Cervus nippon mageshimae Kuroda and Okadaは、その形態的特徴によって記載されたニホンジカ C. nipponの亜種である。しかし、2014年の環境省のレッドデータブックの改訂に当たっては、亜種としての分布域が不明瞭であり、分類学的な位置づけが明確でないとされている(環境省 2014)。その一方で、近年実施された遺伝解析の結果からはマゲシカの遺伝的独自性が示されつつある。その遺伝的特徴から、マゲシカの分布域を明らかにし、近隣に生息するヤクシカ C. n. yakushimae(屋久島および口永良部島)やキュウシュウジカC. n. nippon(九州本土)との関係性を議論することが可能となってきた。そこで本研究では、マゲシカの遺伝的な特徴やその分布について、先行研究において報告されているミトコンドリアDNAのコントロール領域のデータを中心に再検討を行った。その結果、マゲシカの分布域とされる馬毛島および種子島の個体は、キュウシュウジカだけでなくヤクシカとも明確に異なる塩基配列を有していた。また核DNAやY染色体DNAに着目した先行研究には、マゲシカの生息地である種子島とヤクシカの生息地である屋久島間で対立遺伝子頻度に明確な違いがあることが示されていた。形態については、馬毛島および種子島のニホンジカと遺伝的にもっとも近いヤクシカとの間に明瞭な違いがあることが先行研究によって示されていた。一連の知見から、少なくとも馬毛島と種子島のニホンジカを九州に生息するニホンジカとは明確に異なる保全単位として認識することが適切であること、さらに2島間にもミトコンドリアハプロタイプの頻度をはじめとする集団遺伝学的な差異が存在する可能性が高いことが示唆された。