著者
瀬藤 象二
出版者
東京大学生産技術研究所
雑誌
生産研究 (ISSN:0037105X)
巻号頁・発行日
vol.11, no.7, pp.258-258, 1959-07-01

生産技術研究所が10年前にこの土地に第二工学部の後をうけて出発することになったが,研究所になるまでにはいろいろないきさつがあった.当時アメリカのケリー博士のごときは,失業救済のためにこういう研究所案ができた,といううわさがあるがどうなのか,といったようなこともあった.その時,われわれは熱意をもってこのような研究所が日本で特に必要であることを力説し,やっと同氏も納得したのであった.私は皆さんと別れてから産業界に入り,8年余り経った.今日は産業界に身をおく前所長の一人として,何をこの研究所に期待し,どうしたら研究が円滑に進むかについて私見の一端を述べたい.この研究所は,工学の各分野を持ち,また研究者を数多く擁している点からみれば,日本の工学に大きな貢献をなし得る素質を持っていることは確信を以ていえると思う.ここで毎日研究していることは,もちろん学問の研究である.そもそも学問は微に入り細を穿ち,ますます分化し専門化することによって進む.しかしそのように分化し専門化して進むだけでよいのであろうか.顕微鏡にしても,だんだん倍率が上っており,電子顕微鏡もできて10万倍,20万倍と順次倍率を上げることに成功しつつある.何のためにこのように進めて行くのか.これを道具に例えるならば良く切れるように道具をといでいるようなものである.しかし,道具のみいくらよくみがいても木は削れない家は建たぬというのでは,道具が泣くであろう.これを学問についていうなら専門化分化の一面にのみ走るのみでなく,さらにこれを総合して,その効果を工業の具体的問題を解決しそれによって工業の進歩発展に貢献するようなことに期待したいのである.私は産業界で実際問題の解決につき指示を与えているが,その時に感じることは,各工学専門分野の総合効果をあげるために重要なものはリーダーである.リーダーに要求することは,第一には人徳である.しかし人徳のみでは足りない.各メンバーの長短を十分承知し,弱点とするところを有能なメンバーで補うことによって,チームの進む方向を決定することにあると思う.例えば揚水発電について考えると,電気機械については発電機としての作用とモートルとしての作用と両方要求され,他方水力機は水車とポンプとの両作用が必要である.発電機モートル担当の方でどれだけのことができるか,また水車,ポンプの方でどけだけのことがでぎるか,これを総合することによって効率をあげることになる.この場合電気機械のメンバーが強力であれば,モートル,発電機にいく分か多くの負担をさせ解決させる.逆に水力機械のメンバーが強力であれば,ポンプ,水車の方に難問を解決させるようにもって行かねばならぬ.しかも,いつまでに一応の解決をするというような時間的制約があるのである.このような例はいたるところにある.また個人主義に徹するとチームワークの力をあげることはできない.そこで個人と集団との利害関係の調節が必要となる.これらが調和したとき効果があがるのである.生産技術研究所も10年を経過したので,豊富な経験や困難を克服したと思う.産業界から申すなら,これだげの素質をもち各専門分野がそろっているところで,工学の総合化の実例をあげこれがモデルとなり国内各研究所で総合化が行われる機縁となることを切望する.この研究所はいろいろな点で新しい試みでもあり,また世間から必ずしも支持されていない面がある.どんな批判があっても研究成果さえ十分あげるなら,世間は決して見捨ててはおかない.産業界は皆さんの努力を遠くからではあるが,関心と期待とをもってみているのである.
著者
川鍋 祐夫 祝 廷成
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.91-99, 1991-04-30
被引用文献数
13

乾燥地に生成する草原は不適当な利用により砂漠化を招きやすいが,中国では草地など土地の不毛化を三化(退化,塩化,砂漠化)として警戒し,その対策を立てていて,生態学的な調査研究が多く行われている。中国東北部から内蒙古の半乾燥地帯に広く分布する羊草(シバムギモドキ,Aneurolepidium chinense)草原は良質の飼料を家畜に供給し,流通にも供する重要な草資源であるが,最近生産力の著しい低下が憂えられている。このため草地の永続的な利用を可能にする,保全を考慮した適正な利用方法,利用強度を探る第一歩として本研究を行なった。調査地は長春の北西約150kmにある吉林省,長れい種馬場の羊草草地で,やや湿潤な低平地に土壌的極相として成立し,排水良好な固定砂丘上には楡の林が成立している。多年にわたり無管理のまま採草,放牧が繰り返されてきて,過去40年間に生産力が半減したといわれている。この2,000haの草地のうちに,過去5年間利用を禁止した保護区,年1回刈取りする刈取り区,放牧地のうち羊草があり植生被度の高い放牧A区,羊草がなく裸地の多い放牧B区とを設けて,1985年,ライン法により植生を調査した。その結果,刈取り区は羊草が優占し,著しい植生の退化を起こしていないが,放牧区では撹乱が著しく,優良野草の羊草が減少し,耐アルカリ性の草や1年生の草が侵入していた。特に,放牧B区では羊草が消失して,草丈数cmのSuaeda glaucaが優占し,牧養力を殆ど失っていた。羊草の草勢が減退して消失し,アルカリ性土壌に適応するSuaeda glaucaにおきかわったのは,過放牧による土壌の劣化が関係しているとみられた。退化草地の復元と生産力の向上のため,耕起,粗耕,施肥,播種,潅漑等土壌改善を含む更新法が多く試験され,ある程度の効果を収めているが,牧養力に見合った放牧強度に調整すること,採草地と放牧地との輪換等,放牧システムの改善が基本になると考えられた。
著者
神戸 祐一 伊丹 誠 伊藤 紘二
出版者
一般社団法人映像情報メディア学会
雑誌
映像情報メディア学会年次大会講演予稿集 (ISSN:13431846)
巻号頁・発行日
no.2001, pp.170-171, 2001-08-27

中継局において再放送するシンボルに遅延を加え,異なったシンボルタイミングで送信するSFN方式の検討を行う.受信ではアレイアンテナを用いて,主局及び中継局からの信号を分離する.そして,分離された信号のシンボルタイミングを合わせた後,合成を行い特性の改善を図る.本稿では,この提案方式について理論解析,シミュレーションを行い,従来方式との比較により性能の評価を行う.
著者
浅妻 裕
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.289-309, 2004-12-30

川崎臨海部では, 1970年代後半以降, 国の産業分散政策や公害問題の激化等をきっかけとして事業所の移転が進んだうえ, 産業構造の転換が重なって, 鉄鋼業等の製造業が空洞化に長期的に直面し, 生き残りのための産業再編が進んでいる.本稿では素材型産業の産業再編やそれに伴う土地利用転換の現状を明らかにする.縮小再編傾向の強かった鉄鋼業は, 1990年代後半から, 大都市圏への隣接性を生かして, 廃棄物処理・リサイクルに関連した事業への積極的な取り組みを行っている.石油化学は, 従来から施設・設備の老朽化, 土地の狭隘生が強調されていたが, 石油化学業界の再編が, 汎用樹脂部門のみにとどまっていることなどが影響して, 土地遊休化を引き起こすような急激な再編はみられない.その一方で石油精製は, 1990年代後半からの激しい業界再編の影響で, 川崎臨海部でも事業所の集約化が進み, また遊休地も多く発生するなど, 再編が急速に進んでいる.また, これらの産業再編が進むことで, 土地利用転換が促され, 物流関連の事業所や都市的土地利用への転換が目立っている.川崎臨海部は, 長期的に公害被害に直面してきたが, これを歴史的チャンスととらえ, 環境負荷の削減を可能とする産業構造への転換や計画的な土地利用転換が求められている.
著者
鵜沼 宗利 武内 良三
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D-II, 情報・システム, II-情報処理 (ISSN:09151923)
巻号頁・発行日
vol.76, no.8, pp.1822-1831, 1993-08-25
被引用文献数
30

コンピュータグラフィックスの表現能力が飛躍的に伸び,さまざまな分野でリアルな物体表現,リアルな動作表現が求められている.コンピュータグラフィックスで扱う物体の中でも人間は非常に身近な存在であり,非常に多くの用途が考えられるが,いまだに十分な表現がなされていない.本論文では,人間の歩行動作を簡単な手続きでリアルに表現する手法を提案している.まず,実測した人間の歩行動作を周波数解析し歩行動作の基準となる基準歩行動作と動作の特徴を表す特徴量成分に分離し,それぞれをデータベースに登録する.歩行動作の生成は基準歩行動作と特徴量成分を足し合わせることにより行う.歩行動作の変更は特徴量成分を差し替えるだけでできる.また,特徴量成分の重みを変えることによる特徴量成分の内挿・外挿表現ができる.例えば二つの成分の中間の歩行表現あるいは特徴量成分を強調した歩行表現などである.重みを変化させると歩行動作は滑らかに変化する.更に,特徴量成分を複数足し合わせることにより新たな歩行動作の生成といった実測データ以外の歩行表現もできる.
著者
平野 拓一 杉山 哲也 広川 二郎 安藤 真 永堀 仁 齋藤 和男 谷口 徹 小山 佳也 黒澤 泉
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. A・P, アンテナ・伝播 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.109, no.117, pp.101-105, 2009-07-01

準ミリ波およびミリ波固定無線アクセス(FWA)の伝搬特性、PHSとの異種ネットワーク接続性などを調べるために、東京工業大学大岡山キャンパス内にモデルネットワークを構築した。キャンパス内の7つの建物の屋上に25GHz帯無線機を用いたFWA基地局を設置し、それらを結ぶ最長1km、最短80mの10回線の準ミリ波ネットワークを構築した。基地局の基幹回線応用を想定して、それら7つの建物のうち3つの建物にPHSの基地局を設置た。本報告では構築した準ミリ波モデルネットワークを用いて25GHz帯の伝搬特性を調べた。5秒毎に降雨強度、受信強度、ビット誤り率(BER)を記録している。記録したデータを処理して、25GHzにおける降雨減衰、レドーム表面に付着した雨滴による減衰、垂直(V)偏波と水平(H)偏波の降雨減衰係数の違い、月毎の降雨強度の累積時間率分布を調べた。降雨減衰は理論値と良い一致を示した。

1 0 0 0 セノオ樂譜

出版者
セノオ音樂出版社
巻号頁・発行日
0000
著者
遠藤大礎 川原 圭博 浅見 徹
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告ユビキタスコンピューティングシステム(UBI) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2008, no.110, pp.15-22, 2008-11-06

携帯電話の高機能化,ストレージの大容量化が進むにつれて,携帯電話にはより多くの情報が蓄積されるようになっている.携帯電話は紛失されやすいため,内部情報の保護は大きな課題である.そこで我々は一般に処理能力が貧弱な携帯電話における高速暗号化・復号手法として,自己暗号化法を用いた分散ストレージシステムを提案してきた.この手法は近年高速化しつつある無線通信を考慮し,通信総量が大きいが処理が単純な高速暗号を使うところに特徴がある.本稿では暗号化・復号を自動的に行うセキュアファイルシステムを FUSE(Filesystem in Userspace)を用いて Linux 端末に実装した.また携帯端末で行った暗号化・復号処理実験の計測結果について示す.また WILLCOM の端末開発プラットフォーム "Sandgate WP"において行った暗号化・復号処理実験の計測結果について示す.People have had more opportunities to preserve important information properties in mobile handsets. The security for mobile handsets will become essential in cases of the loss and the theft. We have proposed an architecture for the distributed storage system, which gives the high speed encryption to mobile handsets, by light-weight processing called self-encryption, in the high-speed wireless communication environment today and in the near future. In this paper, we implement the secure file system that automatically processes encryption and decryption working on Linux PC with FUSE (Filesystem in Userspace), and show the measurement result of the processing time at encryption and decryption by the terminal development platform "Sandgate WP" of WILLCOM.
著者
Kenji Kawakita Hisashi Shinbara Kenji Imai Fumihiko Fukuda Tadashi Yano Kinya Kuriyama
出版者
The Japanese Pharmacological Society
雑誌
Journal of Pharmacological Sciences (ISSN:13478613)
巻号頁・発行日
vol.100, no.5, pp.443-459, 2006 (Released:2006-06-24)
参考文献数
98
被引用文献数
78 98

The mechanisms of action of acupuncture and moxibustion as reported by Japanese researchers are reviewed. The endogenous opioid-mediated mechanisms of electroacupuncture (EA) as used in China are well understood, but these are only one component of all mechanisms of acupuncture. These studies emphasize the similarity of the analgesic action of EA to various sensory inputs to the pain inhibition mechanisms. In Japanese acupuncture therapy, careful detection of the acupuncture points and fine needling technique with comfortable subjective sensation are considered important. The role of polymodal receptors (PMR) has been stressed based on the facts that PMRs are responsive to both acupuncture and moxibustion stimuli, thermal sensitivity is essential in moxibustion therapy, and the characteristics of acupuncture points and trigger points are similar to those of sensitized PMRs. Acupuncture and moxibustion are also known to affect neurons in the brain reward systems and blood flow in skin, muscle, and nerve. Axon reflexes mediated by PMRs might be a possible mechanism for the immediate action of acupuncture and moxibustion. Reports on the curative effects of acupuncture on various digestive and urological disorders are also reviewed briefly.
著者
磯野 博
出版者
龍谷大学
雑誌
龍谷大学大学院研究紀要. 社会学・社会福祉学 (ISSN:13439855)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.57-66, 2006-03

There are various factors to be Non-pension disabled people. However, Those factors are not regarded as social problem, but as self-responsible problem. This paper clears the problems of non-pensioner disabled people, through the history of their movement to recover pension. The first chapter In this chapter, the movement of Spinal Injuries Japan from 1975 to 1985, are shown. Spinal Injuries Japan was established in 1959. It is Spinal Injuries Japan that tackles the problems as a self help-group for the first time that tackles Non-pensioner problems for disabled people. In 1985, National Pension System was drastically reformed. A port of non-pensioner disabled people was relieved by this reforms. The second chapter In this chapter, the movement of The Association of Non-Pensioner Disabled People from 1986 to 1994, are shown. The Association of Non-Pensioner Disabled People was established in 1989. It insists strongly that problems of non-pensioner disabled people should not be regarded as problem of self-responsibility, but as problem of social responsibility. In 1982, it published the first inquiry report on problems of non-pensioner disabled people to prove the truth. The third chapter Various self-help-group tackle the problems of non-pensioner disabled students, to make the first step to solve the problems of non-pensioner disabled people. In 2001, some of self-help-groups start administrative litigation to 9 district courts. They win four cases. On April 2005, another new law to relieve non pensioner disabled people partially was enforced. The fourth chapter On November in 2005, the Association of Non-Pensioner Disabled People published the second inquiry report on the problem of non-pensioner disabled people. This report explains the problem of non-entry people and the problem of unpaid contribution. It shows these problems are non self-responsible problem, but social problem.
著者
越後 博之 湯瀬 裕昭 干川剛史 沢野 伸浩 高畑 一夫 柴田 義孝
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.48, no.7, pp.2340-2350, 2007-07-15
被引用文献数
1

大規模災害発生時,行政・住民・ボランティア間の情報交換・共有の必要性が叫ばれながらも,実際にはうまく行うことができなかった事例が数多く報告されている.災害情報システムが,災害時のシステム障害を考慮した情報基盤上に構築されていないため,災害時に使うことができないことが原因としてあげられる.本研究においては,各地域ごとに災害情報システムが運用されていることに着目し,それらのシステムの資源を共有し,災害情報の分散化と統合化を行うことによりシステムの冗長化を実現するとともに,負荷分散も行うことを想定している.そのうえで,災害時にノードであるサーバや通信リンクに発生しうる障害に対し,障害を検知する機構を組み込むことにより,ネットワークの動的再構成を図ることで回避する仕組みを提案する.筆者らは,災害時に実運用可能なシステムのために,全国分散環境の構築を行い,その情報基盤上に,「広域災害情報共有交換システム(WIDIS:WIde-area Disaster Information Sharing system)」を実装した.本システムのロバストネスを考慮した基盤の有効性を確かめるため,性能評価を行いその有効性を確認した.When a large-scale disaster occurs, the information sharing functionality among the administrators, the residents and volunteers is important. However, there were many cases where information sharing was not actually well functioned because the disaster information network infrastructure did not consider the system failure when the disaster happened. In our research, we focus on the fact that the disaster information systems are operated on each local area. The system redundancy is realized by sharing the system resources and integrating the disaster information into a large disaster system while decentralizing the system and network loads. And, the system failure can be recovered by introducing system failure detection function for server failure and link disconnection and dynamically reconstructing the network system. In order to verify the usefulness of the suggested method, we constructed a nation wide disaster information network prototype system over Japan Gigabit Network (JGN2), implemented Wide-area Disaster Information Sharing system (WIDIS) and evaluated its functionality and performance.