著者
前田 弘
出版者
The Japan Society of Applied Physics
雑誌
応用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.524-530, 1989

1987年クリスマスイブに,新しいBi-Sr-Ca-Cu-O系高温超伝導体がこの世に現れた.この物質は,超伝導遷移温度, <i>T</i><sub>c</sub>が初めて100Kの大台を超えたため,応用的観点から多くの注目を集めた.と同時に,超伝導を支配するCu-O面を積み重ね,その枚数を増やすことによって処を上昇させることが可能となる,という高温超伝導発現機構に関する理論的展開にも新しい知見を与えたといえよう.さらにこの発見は,当時漂いかけていた「Y-Ba-Cu-O系以上の高温超伝導体はもうないのではないか」という暗雲を払いのけるとともに,「まだまだ高温超伝導体はあるよ」という希望と勇気を多くの人に与えたように思われる.本稿では,この発見に至った経緯とそれに関連して研究に対する考え方,取り組み方について私見を述べる.

4 0 0 0 OA 日墨協会会報

著者
日墨協会 編
出版者
日墨協会
巻号頁・発行日
vol.第3号, 1927
著者
荒川 高光 寺島 俊雄 三木 明徳
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Aa0138, 2012

【はじめに、目的】 内側広筋は解剖学的に斜頭が存在すると報告されて以来(Lieb and Perry, 1968)その解剖学的な分類と機能について議論されてきた筋である。しかしながら、内側広筋斜頭に関しては、線維の方向が他の部と違い膝蓋骨に横から付着するもの(Lieb and Perry, 1968)という説が一般的であるが、その線維方向だけで斜頭を決定している報告(Peeler et al., 2005)や大内転筋腱から起こる部分が斜頭であるとする説(Williams, 2005)があり、定義が一定でない。さらには解剖学的に分けられないという報告(Hubbard, 1997)も存在するなど、その解剖学的詳細が明らかになっているとは言い難い。よって今回われわれは、内側広筋の起始と、内側広筋起始の周囲にある広筋内転筋板に着目し、その機能的意義や臨床上の応用について詳細に検討を加えることとした。【方法】 本学医学部の解剖学実習に提供された遺体8体12側(右6側、左6側)を使用した。関係構造物の破損が激しい場合や遺体の固定の状態のため、全例で両側を使用することはできなかった。内側広筋、大内転筋など、広筋内転筋板と関係する筋群を中心に詳細に解剖した。大腿動脈、大腿静脈、大腿神経、およびそれらの枝たちも広筋内転筋板との関係に注意して詳細に解剖した。その後、広筋内転筋板を切開して翻転し、大腿動脈、大腿静脈、大腿神経の枝たちの位置を確認後、それらを適宜翻転しながら、内側広筋を起始に向かって詳細に解剖した。とくに内側広筋の起始・停止を詳細に観察し、スケッチとデジタル画像にて記録した。【説明と同意】 本研究で使用した遺体は死体解剖保存法に基づき、生前に適切な説明をし、同意を得ている。解剖は全て、定められた解剖実習室内にて行った。【結果】 内側広筋と広筋内転筋板は全例で認められた。広筋内転筋板は大内転筋の腱部の一部が外側上方へと張り出して腱膜となるが、12側中10側で長内転筋の停止腱からも広筋内転筋板へ連続する腱膜が存在した。内側広筋の起始を観察すると、大部分は深層の大腿骨粗線内側唇から起こる部が占めるが、下部浅層約4分の1には、広筋内転筋板から起こる内側広筋の筋束があった。深層から起始した筋束も、下部浅層の広筋内転筋板から起こる筋束もお互いに並んで外側下方へと走行した。停止は、膝蓋骨内側へと放散する筋束もあるが、横膝蓋靱帯などの膝関節内側の関節包へと連続するものも一部認められた。【考察】 内転筋管は大腿動脈と大腿静脈が前方から後方へと通過する管であり、その前壁に張る腱膜構造が広筋内転筋板である。今回、われわれの観察により、広筋内転筋板は大内転筋の腱部のみでなく、長内転筋の停止腱からも線維が関与することが明らかになった。内側広筋の下部浅層の筋束は広筋内転筋板から起こり、膝蓋骨や膝関節内側の関節包に停止する。よって内側広筋の下部浅層の筋束は、他の内側広筋の筋束よりも起始が前に位置することとなり、そのため筋腹も前方へと移動する。体表解剖学において内側広筋の下部は外側広筋と比較して前方へ膨らんで観察される。すなわち、体表解剖学的に観察できる内側広筋が前方へ膨らんだ下部こそ、広筋内転筋板から起こる筋束の部である可能性が高い。大内転筋や長内転筋の一部の筋束がその筋の停止腱から広筋内転筋板を介して内側広筋と連続する構造は、機能的に二腹筋の構造を呈していると考えたい。すなわち、大内転筋や長内転筋の収縮があって初めて内側広筋の下部浅層の筋束は起始が固定されるのかもしれない。言い換えれば、立位・歩行時に股関節外転筋群が収縮して片脚立位を保つと、股関節内転筋群の収縮が抑制され、内側広筋の下部浅層の筋束はその起始の固定を失ってしまうため、内側広筋の下部浅層の筋力を十分に発揮できない可能性がある。内側広筋の斜頭は解剖学的には明確に分離できなかったが、広筋内転筋板から起こる筋束として定義することが可能ならば、機能的・臨床的意義は高いと考えられる。【理学療法学研究としての意義】 長い間問題となっていた内側広筋斜頭の解剖学的事実を明らかにし、内側広筋の機能的・臨床的な応用を新しく提唱できたと考える。
著者
Saori Nakashita Takeshi Enomoto
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
SOLA (ISSN:13496476)
巻号頁・発行日
pp.17A-006, (Released:2021-03-23)
被引用文献数
2

The predictability of Typhoon Hagibis in October 2019 is examined with ensemble forecasts from four major operational numerical weather prediction centers. From six to four days before the landfall, the forecast from the Japan Meteorological Agency was the best among the four centers. However, the error increased sharply three days before the landfall. Consistent with the westward track error, a northwestward bias is found in the environmental winds. The ensemble sensitivity analysis for the landing region indicates a large sensitivity to a ridge located to the southeast of the typhoon. The member with the largest track error has perturbations that act to weaken the ridge. A low-pressure disturbance to the southeast of the ridge is found to migrate westward faster than the member with the smallest track error. Therefore, the typhoon is advected westward by the easterlies associated with the low. These results indicate a significant influence of the tropical disturbance on the predictability of Hagibis.
著者
玉井 眞理子
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.67, no.3, pp.302-318, 2016 (Released:2017-12-31)
参考文献数
37

本稿では, クリフォード・ショウのモノグラフをアメリカ移民史のなかに位置づけ, ショウのライフヒストリー研究の再検討を行った. その意義は, ショウのライフヒストリー研究の歴史的・社会的意義を問い直し, ライフヒストリー研究が切り拓く社会学的地平を展望することにある.本稿ではまずショウのモノグラフに対する先行研究をまとめ, それとの対比で本研究が持つ独自の視点を説明した. 次にアメリカ移民史を概観する中で, 移民マイノリティに対する偏見がアメリカ社会で公式に共有されていたことについて論じ, ショウのモノグラフが書かれるに至った社会的背景を明らかにした. 続いて『ジャック・ローラー』 (1930[1966]), 『非行歴の自然史』 (1931), 『犯罪に手を染める兄弟たち』 (1938) のいわゆる「生活史三部作」が著された当時, 逸脱者を移民マイノリティに結びつける偏見が広く社会に浸透していた社会的背景に触れ, スラムの移民の子どもたちが置かれていた状況をこれらの作品をもとに素描した. そこではショウのモノグラフが, この偏見が現実とどれほど大きく食い違っているかを例証していることが浮き彫りになる. 最後にショウのライフヒストリー研究が有する歴史的・社会的意義をまとめ, 移民マイノリティとの共生を目指すことにこれらの研究の真意があったことを明らかにした.
著者
高橋 精之
出版者
法政大学社会学部学会
雑誌
社会労働研究 (ISSN:02874210)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.40-103, 1966-02
著者
中村 雅俊 池添 冬芽 西下 智 梅原 潤 市橋 則明
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.124-130, 2017 (Released:2017-04-20)
参考文献数
30

【目的】本研究の目的は,ストレッチング方法の違いが大腿二頭筋の伸長程度や伸長部位に及ぼす影響を検討することである。【方法】若年男性15 名を対象に,超音波診断装置に装備されているせん断波エラストグラフィー機能を用いて,大腿二頭筋の近位・中間・遠位部の弾性率を測定した。安静時は股関節・膝関節90°屈曲位(Rest),ストレッチングとして股関節屈曲位での膝関節伸展方向へのストレッチング(KE),膝関節伸展位での股関節屈曲方向へのストレッチング(SLR)の3 条件での弾性率を測定した。【結果】多重比較の結果,すべての部位でRest と比較してKE とSLR の弾性率は有意に高値を示したが,KE とSLR 間では有意な差はなかった。Rest からの変化比は,有意な交互作用を認めなかった。【結論】本研究結果より,2 種類のストレッチング方法は大腿二頭筋を伸長することは可能だが,伸長程度や伸長部位に差がないことが明らかになった。
著者
渡辺 雄一郎 栗原 志夫 霧生 尚志
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.S011, 2004

植物にウイルスが感染すると、同類のウイルスによる再感染から免れることが知られている。われわれはシロイヌナズナ-TMV Cgの系をもちいて、この干渉作用と呼ばれる分子基盤を解析している。まずTMV-CgからYDと名付けた人工弱毒ウイルスを作成した。このYDは増殖量は少ないがちゃんと全身感染し、無病徴で成長に影響を与えない。この状態に強毒TMV Cgが2次感染してもまったく受け付けない。病徴がでないのみならず、RT-PCRによる検出でもその2次感染は検出できない。干渉作用はRNAの配列レベルでの類似性に依存して起こる状況からposttranscriptional gene silencing (PTGS) 現象との類似性が示唆されてきた。しかし、いくつかのPTGSに関与することがしられた遺伝子の変異体シロイヌナズナでもこの干渉作用が観察されることから、PTGSとの相違点が明らかとなった。シロイヌナズナでは種々のmiRNAが合成され、通常の発生制御などに関わることが示唆されてきた。われわれはCgとYDが感染したシロイヌナズナにおいてmiRNAの量に変動があるのかを調べた。その結果、多くのmiRNAがCgの感染によってその蓄積が上昇することがわかった。それに対してYDが感染したアラビドプシスではmiRNA量に変動は見られず、miRNAの量の変動と病徴発現との関連が強く示唆された。
著者
今井 美奈 松本 園子 堤 祐介 光畑 裕正
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.115-123, 2014 (Released:2014-10-17)
参考文献数
28
被引用文献数
2

四逆散の難治性疼痛に対する報告は少ない。西洋医学的治療で鎮痛を得られなかった26症例で四逆散の有効性が認められた。男性13症例,女性13症例,年齢は57歳~85歳であり,発症から受診までの期間は1週間から15年であり,慢性痛に分類される症例は17症例であった。四逆散7.5g分3を処方し,証により他の漢方薬を併用した。NSR で0~4にまで痛みが改善した期間は3日~90日であり,平均26±19日であった。痛みの部位は様々であり,漢方医学的腹診では,腹直筋の緊張を認めた症例は58%,胸脇苦満は38%,心下痞鞕は38%であった。これらの腹候がある場合には四逆散を基本とした治療で鎮痛効果が認められた。特に腹候が明らかでなくてもうつ状態と脇胸部から背部にかけての痛みでは四逆散と香蘇散の併用で効果が認められた。四逆散は難治性疼痛に対して試みる価値のある方剤であることが示唆された。
著者
安川 洋生 正宗 行人 YASUKAWA Hiro MASAMUNE Yukito
出版者
岩手大学教育学部附属教育実践総合センター
雑誌
岩手大学教育学部附属教育実践総合センター研究紀要 (ISSN:13472216)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.109-113, 2015-03-01

「イオン」に関しては中学校の理科で学習する.その際,「電気分解」や「電気泳動」を例にあげながら「化学」の一項目として学ぶ.「電気分解」も「電気泳動」も日常で接することはほとんどなく,生徒を含め一般の人たちが日常で化学に関連して「イオン」を想起するのは乾電池を手にした時くらいかもしれない.一方で「イオン」という単語自体は幾つかのスポーツ飲料等のラベルに表記されているので多くの人に馴染みがあるであろう.運動や,夏季の発汗による脱水症状を防ぐために水分補給が推奨されているが,その際に「イオン」と関連付けて説明されることがある.また,生活習慣病予防の観点から塩分の摂り過ぎに注意するよう喚起されているが,この場合も「イオン」との関連で説明されることがある.「イオン」は,実は生物にとって極めて重要な因子であるが,それについて学ぶのは高校の生物においてである.しかし残念なことに,細胞の内外でカリウムイオン(K+) とナトリウムイオン(Na+)の濃度が異なっていることと,それが神経細胞にとって重要な役割を果たしていること,に関して僅かに説明される程度である.そもそも細胞の内外でK+とNa+の濃度が異なっている必然性については何らの考察もない.学校における「生物」という科目を「暗記するだけの科目」と考えている生徒も多いようであるが,「生物」は「物理」と「化学」を基盤とした総合分野であり,生徒には「知識を総動員して考えぬく科目」として認識をしてもらいたい.本稿では,細胞膜をはさんだK+とNa+の濃度差の重要性を概説し,教科書には触れられていない濃度勾配の必然性について考察する.
著者
鈴木 由加里 SUZUKI Yukari
巻号頁・発行日
vol.21, pp.219-230, 2014-12-25