著者
柴山 真琴
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.120-131, 2007-08-10 (Released:2017-07-27)
被引用文献数
2

本研究では,保育園児を持つ共働き夫婦が子どもの送迎分担をどのように調整しているのかを質的に分析した。データは,私立J保育園を利用する28家族についての送迎記録表と,2001年3月から8月の間に10家族を対象に実施したインタビューによって得た。分析の結果,送迎分担には,(I)母専任型,(II)父母分担型, (III)父専任型,(IV)祖母依存型(下位タイプ:(a)父母+祖母型,(b)母+祖母型),(V)ベビーシッター利用型,の5タイプがあることがわかった。この送迎分担タイプと夫婦間での調整過程(調整過程で使用される相互作用様式,送迎分担についての妻の考え,調整過程での妻の主導的役割の有無)との間には対応関係があった。父親が送迎を分担しない家族(I,IV(b),V)では,妻の多くが送迎は自分の仕事と考え,夫に働きかけて話し合うこともなく,妻が送迎の方針を決めて送迎を実行していた。特に前二者のタイプでは,「暗黙の了解」「話し合いせず」「話し合い不成立」という夫婦間で調整をしない相互作用様式が使用されていた。一方,父親が送迎を分担する家族(II,III,IV(a))では,妻の多くが送迎は夫婦で分担すべきであると考え,夫が送迎を分担するよう積極的に働きかけ,「話し合い」によって形成したルールに従って夫婦で送迎を分担していた。
著者
森本,研吾
出版者
日本海洋学会沿岸海洋研究部会
雑誌
沿岸海洋研究ノート
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, 1993-02-28

潮間帯の物質収支研究を,さまざまな形態の海岸線で比較する形でまとめた.礫浜,砂浜,干潟,塩性沼沢の四者を比較した.干潟や砂浜は全窒素で数10gNm^<-2>yr<-1>とほぼ同レベルの除去源になっている.有機炭素や全リンは場所により変動が大きいが,いずれも除去源となっている.ただし,一般の有機物に比べN:P比が小さい傾向にある.一方,塩性沼沢は有機炭素については生産傾向を示すが,栄養塩については中立的で周囲への影響が小さい.また,礫浜は砂浜とは大きく傾向が異なり,Pはむしろ発生源になっている.このように,同じ海岸線でも,形態や構成素材などの条件の差により,物質収支が大きく異なってくることより,今後海岸線の保全を考えていく上で,物質収支にも注目していく必要があると思われる.それに対して,現在では物質収支の測定例そのものが少なく,今後より詳しく調査していく必要があると思われるが,その際留意するべき点について考えてみた.
著者
川瀬 基弘 横山 悠理 横井 敦史 熊澤 慶伯
出版者
名鉄局印刷株式会社
雑誌
瀬木学園紀要 = Sekigakuen Kiyo
巻号頁・発行日
no.18, pp.3-9, 2021

Molecular phylogenetic analyses using mitochondrial COI gene sequences showed that Anodonta individuals from Nagoya and Toyohashi, Aichi Prefecture and Hokuto, Yamanashi Prefecture belong to Buldowskia shadini (Moskvicheva, 1973), proposing a new Japanese name “Yahazu-Numagai” for this species. This study raises the possibility that B. shadini individuals in various parts of Japan have been misidentified as Anemina arcaeformis (Heude, 1877) based on shell morphology.
著者
李 慶徳
出版者
特定非営利活動法人 日本小児外科学会
雑誌
日本小児外科学会雑誌 (ISSN:0288609X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.6, pp.1200-1205, 2017-10-20 (Released:2017-10-20)
参考文献数
25

慢性腹痛の原因のひとつとして腹壁の前皮枝が原因となるAnterior Cutaneous Nerve Entrapment Syndrome(ACNES)がある.ACNESは認知度が低く見落とされがちであるが,小児慢性腹痛の10~30%をACNESが占めるとされ決して見過ごすべきでないと報告されている.今回我々は,腸骨下腹神経切離を施行しすみやかに治癒しえたACNESの1例を経験したので報告する.8歳男児.右鼠径部痛を主訴に整形外科医より鼠径ヘルニアを疑われ紹介となった.初診時,右下腹部恥骨上に圧痛およびCarnett signを認めた.本人および両親ともに手術を希望した.手術では審査腹腔鏡および腸骨下腹神経切離術を施行した.覚醒後より右鼠径部痛は消失した.本症例は腸骨下腹神経に関連したACNESと診断した.小児の慢性腹痛に対してACNESを常に念頭に置くべきであると思われた.
著者
近藤 乃梨子
出版者
Japan Institute for Group Dynamics
雑誌
集団力学 (ISSN:21872872)
巻号頁・発行日
vol.31, 2014

<tt> 本稿は、日本海に突き出す本州最西北端に位置する過疎の半島で始まった、ある小さなグループによる村おこしの取組みの記録である。</tt>2010<tt>-</tt>2013 <tt>年初夏の黎明期から萌芽期にあたる様子を書き記した。</tt><br><tt> 山口県長門市油谷に位置する向津具半島は、過疎高齢化の進行著しい地域である。</tt>65 <tt>歳以上の高齢者が集落人口の半数を超える限界集落の存在も珍しくない。</tt>2007 <tt>年に家業である寺院経営を継承するために</tt>U <tt>ターンした一人の青年、田立氏の呼びかけで始まった村おこしの取組みは、災いを焼き尽くすといわれる「柴燈護摩」と、かつてこの地に楊貴妃が難を逃れて漂着したと語り継がれる「楊貴妃伝説」とを掛け合わせて生み出された楊貴妃「炎の祭典」と呼ばれる祭りである。衰退していく故郷を目前に、地域活性化の定義も定まっておらず、何をすればよいのかもわからない。けれども、このままではこの地域はダメになる。そのような思いから、目標を定め、行動に移していく。いかにして、無から有が生み出され、広がっていったのかを、本稿は記している。</tt><br><tt> しかし、順調なことばかりではない。むしろ困難なことの方が多いように思われる。田立氏が帰郷した当初、荒れ果てた行政施設「楊貴妃の里」を村おこしに活用したいと役場に相談した時には、適切な対応がなされないばかりではなく、宗教的活動には使用させられないと、門前払い同様の扱いであった。資金獲得のために助成事業に申請すれば、助成元の財団からも、宗教団体ではないかと調べられたり、詳細すぎるほどの説明を求められたりした。楊貴妃つながりで中国の留学生や領事館との交流が芽生えたかと思えば、祭りに私服警官が何人も配備されるほどの厳戒態勢で臨まねばならないこともあった。取組みを「二尊院の祭り」と言われ、地域の祭りとしての協力を仰ぐことが難しい時期も続いた。</tt><br><tt> 幸いにも運営ボランティアは集まったが、遊びの延長のような状態であったため、打ち合わせはバーベキュー方式や「決めない」会議になった。「欣ちゃんがやるから、てごする二尊院の祭り」を脱却して「みんながしたいからやる向津具の祭り」にいかにして変化を遂げられるのか。この問題に直面していた時、新たにボランティアに参加した、移住してきたばかりの若者、松本氏から疑問の声が上がった。なぜ会議で物事を決めないのか</tt>----<tt>。</tt><br><tt> この問題提起をきっかけに、膠着した動きに新たな風が吹いた。本稿では、村おこしの取組みの初期段階から、今後の展開に影響を与えうる重大な局面に至るまでを記録した。</tt>
著者
板屋 民子 飯島 正雄 斉藤 貢一 正木 宏幸 青木 敦子 斎藤 章暢 安藤 佳代子 徳丸 雅一 坂東 正明
出版者
日本食品微生物学会
雑誌
食品と微生物 (ISSN:09108637)
巻号頁・発行日
vol.8, no.4, pp.203-212, 1992

A large number of <I>Photobacterium phosphoreum</I> (6-7 log/g) was isolated from &ldquo;tamagoyaki&rdquo; (a kind of nigirisushi; Japanese food) that had been lumineferous in the dark. The isolates were smeared on the surfaces of sliced &ldquo;tamagoyakis&rdquo;. After the incubation at 10&deg;C for 48 hr or at 25&deg;C for 24 hr, the surfaces became luminous. It was indicated that this abnormality of &ldquo;tamagoyaki&rdquo; was caused by contamination with and multiplication by <I>P. phosphoreum</I>.<BR>On the surface of &ldquo;tamagoyaki&rdquo;, the bacteria in an early growth phase in such a small number as 4 log/g luminesced. Furthermore, the luminescence was observed when pieces of squid, boiled prawn or &ldquo;yakichikuwa&rdquo; (a kind of food made of fishes) with the bacteria were incubated, but not observed on pickled Japanese gizzard shad. Nevertheless the the bacteria grew on the surface of tuna, but no luminescence was observed on it.<BR>The bacteria produced a small amount of histamine on squid and tuna (less than 250&mu;g/g), and their ability to putrefy food seemed to be low.<BR>The opitmum concentration of sodium chloride for growth of the bacteria in a medium was 3%, but they grew in food containing sodium chloride less than 0.5%. When sodium chloride in the medium was replaced by potassium chloride, calcium chloride, magnesium chloride, ammonium chloride or sodium phosphate, the bacteria were still able to grow but unable to grow when replaced by potassium phosphate or sucrose. The bacteria metabolized arginine by arginine decarboxylase but not by arginine dehydrolase.

3 0 0 0 OA 職員録

著者
印刷局 [編]
出版者
印刷局
巻号頁・発行日
vol.大正8年, 1924
著者
村本 詔司
出版者
神戸市外国語大学研究会
雑誌
神戸外大論叢 = Journal of foreign studies (ISSN:02897954)
巻号頁・発行日
vol.53, no.5, pp.29-55, 2002-10-31
著者
山下 大地 島田 結依 増田 雄太
出版者
一般社団法人 日本アスレティックトレーニング学会
雑誌
日本アスレティックトレーニング学会誌 (ISSN:24326623)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.133-139, 2021-04-30 (Released:2021-08-19)
参考文献数
13

ハイパフォーマンス・ジム(HPG)ではトップアスリートを対象にアセスメントを行っている.2020年の緊急事態宣言中は,臨時特設サイトにてプログラムで用いているエクササイズの一部を動画で発信した.コロナ禍でのHPGの運営は,様々な競技団体の共用利用に配慮して工夫を凝らしている.選手サポートの要望も変化しており,個別化され,日々のトレーニングパフォーマンスを評価できるエネルギー代謝系の測定およびトレーニングが増えている.
著者
杉浦 亙
出版者
一般社団法人 日本薬剤疫学会
雑誌
薬剤疫学 (ISSN:13420445)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.91-97, 2021-06-20 (Released:2021-07-26)
参考文献数
32

新興感染症を制圧するためには治療薬の開発が重要である.しかし新興感染症では,パンデミック発生時点では有効な治療薬は存在しないことが多い.このような状況下で先ず取られる治療薬の開発手段は既存薬の中から治療効果がある薬剤の探索 repurposing であり,この 1 年間様々な COVID-19 治療薬の候補が検討されてきた.その結果,抗ウイルス剤としては Ebola の治療薬として開発が進められていた remdesivir,サイトカインストームを抑えるための抗炎症薬としては dexamethasone の 2 剤が治療薬として承認された.いずれの薬剤も海外での臨床試験の結果に基づく承認である.我が国でも多くの候補薬が提唱され,臨床試験が進められてきたが,明確な結論が得られた試験は数少ない.その中の一つ喘息治療 ciclesonide の有効性と安全性を検証する単盲検無作為割付比較試験(Randomized clinical trial:RCT)では,目標症例数 90 例の登録完了に 181 日を要した. 一方で同時期に実施されていた,ciclesonide の「観察研究」では 180 日間でその 30 倍にも達する 3,000 人が登録されており,現場の医師にとって RCT に参加するハードルが高いことがわかる.要因は様々であろうが,RCT を実施するにあたって投入できる人的リソースの不足などが課題として挙げられよう.今回のパンデミックを教訓に,これらの課題を解決すべく,また次の新興感染症も見据えた RCT を支援する司令塔の役割を担う組織の設立が切望される.SARS-CoV-2 は感染を拡大しつつ,変異の選択と淘汰を経てヒトを宿主とするウイルスとしての姿を整えつつあるようであるが,ヒトとの共存関係が落ち着くまでには相当の時間を有するのであろうか.予防ワクチンが開発・実用化され,治療薬についても間違いなく研究開発が進展しており,COVID-19 の制御が可能となり,社会活動の再開ができる日はそう遠くないことを期待する.
著者
呉 菲 谷光 太郎
出版者
大阪成蹊大学
雑誌
研究紀要 (ISSN:13489208)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.167-190, 2006-03-25

中国半導体産業発展の沿革と現状を踏まえ、中国政府の半導体産業政策の戦略的特質について、中国国務院が公布した「18号文書」を中心に考察する。「18号文書」の内容と実施における問題点を分析し、今後の中国半導体産業政策の行方を展望する。
著者
高増 哲也
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.25-30, 2019 (Released:2019-04-20)
参考文献数
25

小児の特徴は、成長・発達することにある。出生前後の栄養の重要性は、developmental origins of health and disease(DOHaD)やエピジェネティクスという言葉で表現され、注目されている。食物アレルギー予防の観点からも、出生前後の栄養のありようが見直されつつある。また、生活習慣病の予防という意味でも、小児期の栄養の重要性が指摘されている。本稿では小児の栄養管理において必要となる、栄養状態を把握する方法、すなわち食歴聴取と、身体計測、身体の診察について述べ、必要水分量と必要栄養量の算出方法について論じた。また小児の栄養管理を行っていく上で、病態ごとに対応が大きく異なるため、それぞれ少人数からなる栄養プロジェクトチームで活動する必要があることを述べた。例として重症心身障害、摂食行動障害、先天性心疾患、小児がん、食物アレルギーを紹介し、対応方法について述べた。小児の栄養管理に関する情報は非常に不足しており、英語文献から解決策を探っている状況にある。
著者
毛利 嘉孝
出版者
日本マス・コミュニケーション学会
雑誌
マス・コミュニケーション研究 (ISSN:13411306)
巻号頁・発行日
vol.90, pp.29-45, 2017-01-31 (Released:2017-10-06)
参考文献数
23
被引用文献数
1

On entering the twenty-first century, our media environment has been dramatically changed by the development of digital computer technology and the Internet, the spread of mobile information terminals, and the arrival of new technology such as VR, AR, and IoT. How can we develop critical media theory that has historically focused on mass media: newspapers, radio, and television? How do we identify with the media, when the media is fragmented and pene trates our society, everyday life, and even our bodies? This paper tries to map out some concepts in order to propose( a) critical media theo(r ies) in the Post- Media age. The paper explores four shifts along with the transformation of the media: from the culture industry( Horkheimer and Adorno) to the creative industries, from Fordism (Gramsci) to Post-Fordism (the Regulation School), from the media as messages (McLuhan) to the meta-medium as software (Manovich), and from the disciplinary societies (Foucault) to the societies of control (Deleuze). How the nature of the media, the relationship between human beings and environment, and the power relation in capitalism have been transformed is discussed through examining these shifts. Following the British Cultural Studies’ theoretical tradition, which has been concerned with articulations of different, sometimes contradictory theories, historical conjunctures, and contingencies, the paper proposes a new theorization of power in the digital media through re-considering the central concept of Marxist critical theory: ideology. It also discusses how we can articulate the theory of ideology in the Left’s politics with the latest affective theory.