著者
又吉 里美
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.49-64, 2007-01-01

本稿は、沖縄津堅島方言の手段表示機能を有する格助詞を取り上げ、構文論的な分析を行い、助詞の意味機能を見出そうとするものである。本稿の結論は以下の三点である。1.津堅島方言の手段表示機能を有する助詞には〓i、〓ka、karaの三つの助詞があることを見出した。2.三つの助詞は承接する名詞、結合する動詞によって使い分けられる。動詞の性質との関わりに注目すると、特に「動作行為、変化、移動」の性質を持つ動詞と結合し、これらの動詞の性質によって取りうる助詞が異なる。その対応関係は次の通りである。〓iは動作行為/状態変化の動詞と対応する。〓kaは位置移動/形質(状態)変化/状態変化の動詞と対応する。karaは移動動作/情報発信/情報獲得/生成の動詞と対応する。3.〓ka、karaと結合する動詞は動作行為、状態変化の中でもより限定された性質を持つ。その結果、承接する名詞も自ずから限定される。しかし、〓iはこのような限定の制約がない。その結果、〓kaやkaraの意味機能を獲得しつつあり、使用範囲を拡張しつつある。
著者
赤司 和昭 中村 泰治 伊從 慶太 大隅 尊史
出版者
日本獣医皮膚科学会
雑誌
獣医臨床皮膚科 (ISSN:13476416)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.217-220, 2019 (Released:2019-12-27)
参考文献数
16

ベンガル,1歳1ヶ月齢,未去勢雄が,8ヶ月前から継続する両耳の耳垢蓄積および瘙痒を主訴に来院した。耳垢の直接鏡検でDemodex catiに形態学的に合致するニキビダニの生存虫体が多数検出された。その他の皮膚に症状は認めなかった。10%イミダクロプリド/1%モキシデクチン製剤0.8 mlを2週間毎,計4回背部に塗布したが,ニキビダニは消失しなかった。その後,フルララネル製剤(約41 mg/kg)を単回経口投与したところ,投与39日目後に症状の改善およびニキビダニの陰転を認めた。
著者
井手口 彰典
出版者
The Japanese Association for the Study of Popular Music
雑誌
ポピュラー音楽研究 (ISSN:13439251)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.3-16, 2004-12-28 (Released:2009-10-29)
参考文献数
22
被引用文献数
1

筆者の考えによれば、いわゆる「ストリートミュージシャン」という言葉によって示される対象は、特に90年代後半からの日本において大きく変質してきている。旧来的には当然であった「芸を演じる」という感覚を持ち合わせない者たちが出現しているのだ。しかしそのような変質に着目する研究的視点は未だ少なく、旧来的なストリートミュージシャン像との間に混乱をきたしている。本論文は、近年現れた「非-芸人」とでも呼びうる新たなストリートミュージシャンを、特に他者との関係性から分析し、旧来的なものとは区分して捉える重要性を提言する。またそのような異質なストリートミュージシャンたちが現れてきた背景を明らかにし、その活動が生み出される機制を考察する。
著者
竹田 晃子
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.101-117, 2015-04-01

国語調査委員会による「音韻口語取調」は明治末期に実施されたが,第二次取調は関東大震災で焼失したとされ,全国的に集約して学問的かつ学史的に検討されることがなかった。本論では,2回にわたって実施された「音韻口語法取調」を取り上げ,調査の全体像を把握し,残された第二次取調の報告類があることを明らかにした。また,岩手県の第二次取調の稿本を取り上げ,現代的視点から後代の研究成果と比較し,近代方言の資料としての価値があることを明らかにした。さらに,過去の方言調査資料を言語研究に有効に利用するために,調査目的や資料の成立背景などを方言学的・社会言語学的に把握する必要があることを指摘した。
著者
納見 健悟
出版者
日経BP社
雑誌
日経アーキテクチュア (ISSN:03850870)
巻号頁・発行日
no.948, pp.112-114, 2011-03-25

建築を取り巻く職域が広がっている。発想の転換で新たなビジネスにつなげられる。日本CM協会認定CMrで、あるく計画事務所共同代表の納見健悟氏が、4回にわたり最前線の事情を解説する。(本誌) 建築技術者の担う役割が変わり始めている。
著者
高崎 晴夫
雑誌
情報処理
巻号頁・発行日
vol.55, no.12, pp.1337-1345, 2014-11-15

本稿は,EUにおける現行のプライバシー保護及びデータ保護に関する法的な枠組みがどのような経緯で作られてきたのかを振り返りながら,EUにおいて現在検討されているデータ保護の改革案のポイントや課題を,法律専門家ではない方々を対象に分かりやすく解説したものである.
著者
野田 幸裕名 鍋島 俊隆 毛利 彰宏
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.130, no.2, pp.117-123, 2007 (Released:2007-08-10)
参考文献数
48
被引用文献数
1 1

非競合的N-methyl-D-aspartate(NMDA)受容体拮抗薬であるフェンシクリジン(PCP)の乱用者は,統合失調症と類似した精神症状(PCP精神病)を惹起することから,統合失調症にはグルタミン酸作動性神経の機能低下が関係しているという「グルタミン酸作動性神経系機能低下仮説」が提唱された.PCPは単回で投与した場合には一過性の多様な薬理効果を示すが,連続投与した場合は,依存患者が摂取を中止した後も,その精神症状が数週間持続する様に,動物モデルでも行動変化が持続する.例えばPCPをマウスに連続投与すると休薬後において運動過多が増強(自発性障害:陽性症状様作用)され,強制水泳ストレスによる無動状態が増強(意欲低下の増強:陰性症状様作用)され,水探索試験における潜在学習や恐怖条件づけ試験における連合学習が障害(認知機能障害)される.このモデル動物を用いた研究により,統合失調症の病態解明,新規治療薬の開発につながることが期待されている.
著者
山本 佐和子
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.29-44, 2012-01

助動詞「ベシ」は本来ク活用だが,中世室町期にはシク活用化したものが見られる。本稿では,シク活用化が「ツ+ベシ」である「ツベイ」でのみ起きることに注目し,「ベシ」の意味の二面性とモダリティ体系の史的変遷との関わりから,その要因を考察する。「ベシ」の意味は,状態・性質を表す〈事態的意味〉と,話し手の判断作用を表す〈認識的意味〉とに大別される。「ツベシ」「ヌベシ」は,中古から〈事態的意味〉専用の形式として存しており,「ツベシ」が「可能」,相補的に「ヌベシ」は「潜勢状態」を表す。室町期に,「ツベイ」から「ツベシイ」が生じたのは状態を評価的に表すためで,当期にク活用形容詞からシク活用形容詞が派生した現象と一連のものと捉えられる。また,当期には「ウズ」が,「ベシ」の〈認識的意味〉を担って,「ベシ」は文語化する。〈事態的意味〉を表す「ツベイ」は,「ベシ」より長く口語に残り,後代,「サウナ」等が発達するまで命脈を保ったものと考えられる。
著者
国文学研究資料館
出版者
国文学研究資料館
雑誌
十年の歩み
巻号頁・発行日
pp.295-308, 1982-10-29

本文は、冊子体の正誤表に基づく修正を行っております。
著者
伊藤 雅光
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.112-129, 2008-01

小稿の目的はフロッピー版『古典対照語い表』を資料にして,語彙の量的構造史モデルを提案することにある。見出し語の使用頻度と時代的使用範囲を基準にした量的語彙構造分析法により,上代,中古,中世の各時代の語彙構造の二次元モデルと,それをさらに抽象化した語彙構造の一次元モデルとを構築する。各レベルの共時態を時系列順に並べることにより,各レベルごとに語彙の量的構造史が構築されることになる。それにより,語彙の量的構造史自体が抽象レベルの違いによる多層構造になると解釈した。
著者
劉 志偉
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.1-16, 2009-07-01

中世のテニヲハ研究の専門書を代表するものに「姉小路式」と呼ばれる一群の秘伝書が挙げられる。本稿では「姉小路式」の「かなをやすむる事」の巻を取り上げ、テニヲハ意識の展開を促したとされる「休めの類」について考察を行った。その結果、「姉小路式」を中心とする中世の「休めの類」は中古のそれを拠り所としながらも、完全に一致するものではないことが分かった。そして、それはその背後に進行していた当時の日本人の歌に対する接し方の変化やテニヲハ意識の深化によるものと考えられる。つまり、「休めの類」は、中古では歌語や古語解釈の一原理として用いられたのに対し、中世になると和歌の作法の修辞表現法として認識されるようになったのである。
著者
石丸 羽菜
出版者
名古屋大学
巻号頁・発行日
2019-03-25

主論文ファイル公開2019年8月20日
著者
衣畑 智秀 岩田 美穂
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.6, no.4, pp.1-15, 2010-10-01

本稿では,現代日本語に見られる,カの名詞句位置の用法のうち,特に選言,不定の成立過程を明らかにした。カは中古まではほぼ疑問の助詞として用いられていたが,覚一本平家物語に文末で選言と意識される用法が見られ,その後15世紀以降名詞句の位置で選言の用法を発達させていく。不定は従来江戸後期から見られるとされていたが,本稿ではその前段階として副詞的な不定の用法が見られることを示した。従来の歴史変化の記述は,ある特定の用法が特定の時代にあるかないかを問題にするものが多かった。それに対し本稿では,用法は突然発生するものではなく,漸次的に成立していくものであることを,構文的観点から再現性の高いデータを提示することで示した。また,以上と間接疑問を含めたカの歴史は,名詞性の獲得と疑問詞との共起性という点から記述できることを論じた。
著者
山田 昇平
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.10, no.4, pp.33-47, 2014-10-01

本稿では「言便(ごんびん)」を扱う。「言便」は中世中期の義源撰『法華経音義』で発音に関する事柄を広く指すのに用いられる。しかし中世後期には口語的資料の上で発音の良し悪しに関する用法に多く使用される。この用法は「音便」にもみられるが,「音便」は言語事象を説明する文脈に多用され,両者には用法による棲み分けが確認される。また「言便」は,「ゴンビンザワヤカ」の形で多用されるが,近世初期にはこの形が「ゴンビザワヤカ」へと変化した。これにより「言便」は使用の場を狭める。一方で近世中期になると学術的文脈で「言便」が確認されるが,これは先の事情により従来の「言便」が使用されにくくなったため,新たに生じたものと考える。本稿では特に「言便」と「音便」との用法による棲み分けに注目し,学術用語「音便」の成立には,この語の俗語的な側面を「言便」が担っていた背景があると考える。