著者
茶園 梨加
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

最終年となる本年度は、今まで行ってきた北部九州のサークル誌に関する調査を続けながら、「サークル村」の一要素である水俣の問題について調査、考察、研究報告を行った。報告者(茶園梨加)は、本年度始めより「サークル村」同人であった石牟礼道子の『苦海浄土-わが水俣病』に関する調査を精力的に行ってきた。日本近代文学会秋季大会の研究発表が決定して以降は、熊本県立図書館(熊本市)や熊本学園大学水俣学研究センター(水俣市)、水俣病歴史考証館(水俣市)を中心に調査を行った。『苦海浄土』については、これまでさまざまな先行研究があるが、「サークル村」に初出「奇病」が掲載されたことを踏まえた研究は少ない。よって、報告では「サークル村」の存在がいかに石牟礼道子の創作過程に影響を及ぼしたのか、その過程を明らかにした。また、同内容をさらに発展したものを、「サークル村」終刊50周年記念集会(中間市)にて報告した。会では、森崎和江をはじめとした「サークル村」同人であった当事者たち、諸研究者たちと意見交換を行い、充実した報告となった。また、これまで資料調査を行った日炭高松の文化運動についても調査を進めた結果、資料発掘がまたれていた「月刊たかまつ」の総目次を「九大日文」16号に発表することができた。これは、研究代表者が一、二年目に行った法政大学大原社会問題研究所での調査に加え、遺族への聞き取りを実施した結果である。以上が本年度の主な研究成果である。より幅広く研究成果を報告することができ、有意義な年度であった。
著者
浅羽 茂
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.44-52, 1998 (Released:2022-07-22)
被引用文献数
2

ネットワーク外部性が働く市場では,競争圧力だけでなく,企業間の協力を促す力が企業に加えられる.その結果,多様な企業との間で複雑な相互作用が生じることになる.この市場を分析することによって,企業間の相互作用をより明示的に扱った競争戦略論が展開できるかもしれない.本稿では,ネットワーク外部性が働く市場に特徴的な,競争と協力のミックス,錯綜する利害関係という2つの点について議論し,今後の研究課題を示す.
著者
Taisuke Jo Daisuke Shigemi Takaaki Konishi Hayato Yamana Nobuaki Michihata Ryosuke Kumazawa Akira Yokoyama Hirokazu Urushiyama Hiroki Matsui Kiyohide Fushimi Takahide Nagase Hideo Yasunaga
出版者
The Japanese Society of Internal Medicine
雑誌
Internal Medicine (ISSN:09182918)
巻号頁・発行日
pp.1946-23, (Released:2023-07-26)
参考文献数
24
被引用文献数
1

Objective The effect of Rikkunshito, a Japanese herbal Kampo medicine, on chemotherapy-induced nausea and vomiting (CINV) has been evaluated in several small prospective studies, with mixed results. We retrospectively evaluated the antiemetic effects of Rikkunshito in patients undergoing cisplatin-based chemotherapy using a large-scale database in Japan. Methods The Diagnosis Procedure Combination inpatient database from July 2010 to March 2019 was used to compare adult patients with malignant tumors who had received Rikkunshito on or before the day of cisplatin administration (Rikkunshito group) and those who had not (control group). Antiemetics on days 2 and 3 and days 4 and beyond following cisplatin administration were used as surrogate outcomes for CINV. Patient backgrounds were adjusted using the stabilized inverse probability of treatment weighting, and outcomes were compared using univariable regression models. Results We identified 669 and 123,378 patients in the Rikkunshito and control groups, respectively. There were significantly fewer patients using intravenous 5-HT3-receptor antagonists in the Rikkunshito group (odds ratio, 0.38; 95% confidence interval, 0.16-0.87; p=0.023) on days 2 and 3 of cisplatin-based chemotherapy. Conclusion The reduced use of antiemetics on day 2 and beyond of cisplatin administration suggested a beneficial effect of Rikkunshito in palliating the symptoms of CINV.
著者
岡﨑 晴輝
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.2_56-2_77, 2016 (Released:2019-12-10)
参考文献数
62

日本の政治学では, ジョヴァンニ・サルトーリの類型論が支配的地位を占めてきた。しかし, サルトーリの類型論は, 少なくとも原型のままでは有用性を喪失している。1988年から94年の 「政治改革」 以降, 政党システム=選挙制度をめぐる争点は<政権選択可能な二大政党制=小選挙区制か, 民意反映可能な穏健多党制=比例代表制か>へと移っている。ところが, サルトーリの類型論は二大政党制と穏健多党制の相違を過小評価しているため, この問いに答えることができない。我々に必要なのは, このギャップを埋めるため, サルトーリの類型論を修正することである (第4節の表3を参照)。この修正類型論を採用すれば, 政党システムをより構造的に分類できるようになるであろう。のみならず, 穏健多党制を多極共存型・連立交渉型・二大連合型に下位類型化することで, 政権選択可能かつ民意反映可能な政党システム, すなわち穏健多党制 (二大連合型) を特定することができるようになるであろう。
著者
矢野 桂司
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.64, no.6, pp.367-387, 1991-06-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
56
被引用文献数
5 6

Wilsonのエントロピー最大化モデル以降,さまざまな空間的相互作用モデルが開発されてきた(石川, 1988). 従来,これらモデルの類似性については部分的に指摘されてきたが,それらを技術論的に統合しようと試みたものはみられない.本研究は,これらの新しい空間的相互作用モデルを,最尤法に依拠する一般線形モデルの枠組みによって統合した.そして,一般線形モデルの代表的な汎用ソフトであるGLIMを用いて, 1) 対数正規型重力モデル, 2) ポアソン重力モデル, 3) エントロピー最大化モデル, 4) 競合着地モデル, 5) 対数線形モデル,のキャリブレーションを,簡単な数値例を用いて示した.このような一般化の結果,近年展開されているさまざまな空間的相互作用モデルのキャリブレーションに関する技術論的な問題は,あまり重要でないことがわかった.むしろ,対象とする空間的相互作用システムのモデル化に対して,発地区,着地区あるいは当該地区間の関係を示す変数として,,どのような変数を採用し,モデルを特定するかといった概念化が,今後の空間的相互作用モデル研究の重要な課題となることを指摘した.
著者
Takuya Yoshizawa Hiroyoshi Matsumura
出版者
The Biophysical Society of Japan
雑誌
Biophysics and Physicobiology (ISSN:21894779)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.25-29, 2020-04-04 (Released:2020-04-04)
参考文献数
48
被引用文献数
2 5

Low-complexity (LC) sequences, regions that are predominantly made up of limited amino acids, are often observed in eukaryotic nuclear proteins. The role of these LC sequences has remained unclear for decades. Recent studies have shown that LC sequences are important in the formation of membrane-less organelles via liquid–liquid phase separation (LLPS). The RNA binding protein, fused in sarcoma (FUS), is the most widely studied of the proteins that undergo LLPS. It forms droplets, fibers, or hydrogels using its LC sequences. The N-terminal LC sequence of FUS is made up of Ser, Tyr, Gly, and Gln, which form a labile cross-β polymer core while the C-terminal Arg-Gly-Gly repeats accelerate LLPS. Normally, FUS localizes to the nucleus via the nuclear import receptor karyopherin β2 (Kapβ2) with the help of its C-terminal proline-tyrosine nuclear localization signal (PY-NLS). Recent findings revealed that Kapβ2 blocks FUS mediated LLPS, suggesting that Kapβ2 is not only a transport protein but also a chaperone which regulates LLPS during the formation of membrane-less organelles. In this review, we discuss the effects of the nuclear import receptors on LLPS.

2 0 0 0 13歳の進路

著者
村上龍著 はまのゆか絵
出版者
幻冬舎
巻号頁・発行日
2010
著者
福井 弘教
出版者
法政大学大学院
雑誌
大学院紀要 = Bulletin of graduate studies = 大学院紀要 = Bulletin of graduate studies (ISSN:03872610)
巻号頁・発行日
vol.79, pp.227-235, 2017-10-31

「ギャンブル大国」と称される日本に、カジノという新たな選択肢の付加を想定した法的枠組みが構築された。詳細については現時点では不明な点もあるが、既存の公営ギャンブルに包含される公営競技については、売上減少対策以外の検証がほとんどなされていない。公営競技場は住宅地や学校など多様な建築物、公共施設と近い場所に立地するケースが多いが、本稿では「地域資源」である公営競技を、都市空間において多様なステークホルダーとの共存をいかに構築するかという点に着目して考察した。考察の結果、既存の枠組みにとらわれない、官官連携・官民連携が多様なステークホルダー間、相互に利益をもたらすことが示唆された。
著者
石井 明男 長岡 耕平 永平 晃造
出版者
一般社団法人 廃棄物資源循環学会
雑誌
廃棄物資源循環学会研究発表会講演集 第31回廃棄物資源循環学会研究発表会
巻号頁・発行日
pp.133, 2020 (Released:2020-11-30)

昭和10年に始まった, し尿の海洋投棄は平成11年に廃止された。廃止までの経緯を報告する。
著者
官 文娜
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究 : 国際日本文化研究センター紀要
巻号頁・発行日
vol.28, pp.145-175, 2004-01-31

日本古代国家の成立から律令制の完成にかけての時期と見なされる六世紀から八世紀半ばにかけては、王位をめぐる争いが頻発した時期であると同時に王位の継承に関してもさまざまな特色を持つ、波乱に富んだ時代である。この時期、王位継承の最大の特徴は兄弟姉妹による継承である。一部の研究者はその姉妹を含んだ兄弟による継承を、直系継承制中の「中継」と考えていた。しかし筆者はその見解には賛成できない。以下、日本のこの時代の王位継承の実態、また中国古代の継承制における「兄終弟及」、直系継承およびそれを実行する条件、日本の女性継承などの問題について検討し、さらに日本古代社会における王位継承の特質を中心に血縁集団構造の分析もあわせて行いたい。 本論は以下の項目に分けて検討している。一、王位継承の意味、二、兄弟姉妹継承の実態と「直系」説、1、日本古代社会における兄弟姉妹継承と中国殷の「兄終弟及」、2、王位候補者と継承者の資格、3、直系継承と立太子、4、持統~元明天皇以後の立太子と譲位、三、女帝の継承、1、女帝登極の正統性、2、女帝の身分と女帝継承の性格。 以上の問題の研究によれば、この時代の王位の継承には以下の五つの特徴が見られる。第一に、継承者が成人しなければ王位に即けないという不文律があった。この不文律のもとで被継承者の兄弟(日本では姉妹も含む)は常に必然的に継承者となった。第二に、王位を継承した兄弟または姉妹はいったん王位に即けば、死ぬまで譲位しない。つまり、兄弟姉妹が即位すれば高齢になっても死ぬまで前帝の後裔にバトンを渡さなかった。それも不文律であった。このように日本において兄弟姉妹による継承は、直系継承制のもとでの一時的な補助としての「中継」とは異なるものであった。第三に、伝統に則り、勇力豪族の合議によって継承者を推戴していた習慣があるため、合議される継承者の範囲は被継承者の子だけではなく、兄弟姉妹および彼らの子も含む皇族内の全員が王位継承の資格を持っている。第四に、太子を立てても、その太子は必ずしも即位するわけではなく、立太子は往々にして形式的になる。また太子は前天皇の子に限らず、選定の仕方には、直系継承の意図は見られない。第五に、この時期には、皇族の女性は皇女でも皇女と皇后の二重の身分でも堂々と登極できたため、女帝が頻出した。 これらの特徴から明らかなように、日本において王位の直系継承は行われておらず、またそれはあり得ないことであった。なぜなら、日本では皇族の中で単位家族が未だ独立も、成立もしていなかったからである。中国においては、王を中心とする単位家族としての血縁集団内における権力、財産などの分配・相続の権利を守るために、王は必ず王の息子を継承者とする必要があった。日本では継承者は皇族内の全員から生み出され、またそれによって一族の権力や財産が守られた。そして、中国とは異なり、皇族内の女性も男性同様皇族としての成員資格を持っていたために、皇族内の極端な近親婚が行われ、その結果彼女らは皇后や女帝となり得たのである。こうした特徴はすべて血縁親族集団の構造がしからしめるものであった。 以上、本論文において日本古代における血縁集団構造の父系擬制的、被出自集団としての無系あるいは血統上での未分化のキンドレッドの性格が明らかになったと認識している。

2 0 0 0 社会学講義

著者
清水 幾太郎
出版者
同志社大学
巻号頁・発行日
1952

博士論文
著者
清水 邦彦
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.92, no.2, pp.107-130, 2018-09-30 (Released:2018-12-30)

明治時代初期において、地蔵像等の仏像が撤去・破壊された事例が全国に散見する。本稿では、地域を絞って、地蔵像等の仏像撤去・破壊の原因を解明することを目的とする。京都府・大阪府・滋賀県の三地域では、開化政策の一環として、路傍の地蔵像が撤去され、地蔵祭が禁止された。しかしながら、開化政策の一環であったためか、三地域いずれも明治時代中期には、地蔵像が再安置されている。加賀藩・富山藩では、当初、粛々と神仏分離が行われた。その後、富山藩では経済政策として寺院整理が行われ、仏像が鋳つぶされた。加賀藩を引き継いだ石川県は、水源確保を目的として白山より仏像を下山させ、時に仏像は破壊された。東京都御蔵島では、神道思想に基づき、寺が廃寺となり、地蔵像が破壊された。明治時代初期において、地蔵像等仏像が撤去・破壊された原因として、①開化政策、②神道思想に基づく廃仏毀釈の二つがあることが判明した。