著者
森田 美弥子
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:24342343)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.93-106, 2018-05-25 (Released:2019-05-25)
参考文献数
21

本稿は,学生相談の視点から大学生が抱える問題の多様化を論じる.学生相談というと,悩みを抱えたり不適応に陥ったりした学生のためのものとみなされやすいが,決してそうではない.広義の教育の一環として位置付けられている.昨今では,学生相談担当者や担当部署のみならず,キャンパス構成員全体で取り組む課題として学生支援が重視されるようになっている. 最初に学生相談の歴史を概観した後,学生相談という文脈で注目されてきたトピックス:(1)スチューデント・アパシー・(2)ふれあい恐怖心性・(3)発達障害傾向を紹介する.大学生における青年期心性の変化が生じているのかいないのか,学生支援の動向とそこで留意すべきことは何か,について検討する.心性という言葉を用いたのは,思考や感情といった心理的機能や行動特性などを含みつつも,青年自身の志向性,メンタリティ,その時々の心の動きに目を向けていたいという姿勢からである.
著者
藤原 進 中村 浩章 阿蘇 司 米谷 佳晃
出版者
京都工芸繊維大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2021-07-09

福島での原発事故において、トリチウム汚染水の処理が社会的関心を集めている。トリチウム被曝では、従来の研究で考慮されてきた直接作用と間接作用に加えて壊変効果が存在するにも関わらず、これまで見落とされてきた。本研究では、トリチウム被曝の第三要素「壊変効果」に着目し、置換トリチウムのβ壊変によるDNA損傷の分子機構を分子シミュレーションにより解明する。具体的には、トリチウムの置換部位を特定するための分子動力学(MD)計算とDNAの壊変効果を解析するための反応力場MD計算の組合せにより、置換トリチウムの壊変効果を解き明かす。さらに、置換トリチウムの壊変効果も含めたGeant4-DNAの開発を進める。
著者
田鳥 祥宏
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.155, no.2, pp.113-119, 2020 (Released:2020-03-01)
参考文献数
26
被引用文献数
1 2

オピオイド受容体調節薬であるナルメフェン(セリンクロ®)は,日本,EU,および他の国々で,アルコール依存症患者における飲酒量低減で承認されている.本稿では,ナルメフェンの薬理学的特徴とアルコール依存症治療としてのナルメフェンの飲酒前頓用による有効性と安全性について紹介する.エタノールは,μ-オピオイド受容体アゴニストであるβ-エンドルフィンや,κ-オピオイド受容体アゴニストであるダイノルフィンなどの内因性オピオイドの放出を増加させる.前臨床データは,ナルメフェンがμ-オピオイド受容体にアンタゴニストとして,κ-オピオイド受容体に部分アゴニストとして作用し,エタノール依存性およびエタノール非依存性ラットモデルで,エタノール自己投与を減少させることを示した.ナルメフェンは,β-エンドルフィン/μ-オピオイド受容体およびダイノルフィン/κ-オピオイド受容体システムのアルコールによる影響を調節すると考えられる.高飲酒リスクレベルの日本人アルコール依存症患者を対象とした,心理社会的治療と併用したナルメフェン飲酒前頓用の,多施設共同無作為化二重盲検第Ⅲ相試験で,ナルメフェン10 mgおよび20 mgは,プラセボと比較して,治療期12週の多量飲酒日数および総アルコール摂取量を有意に減少させた.24週の治療期間で,ナルメフェン10 mg群または20 mg群で5%以上発現し,発現割合がプラセボ群より2倍以上高かった有害事象は,悪心,浮動性めまい,傾眠,嘔吐,不眠症,食欲減退,便秘,倦怠感および動悸であった.有害事象の重症度の多くは軽度または中等度であった.以上より,ナルメフェンは,アルコール依存症治療に新しい選択肢として「減酒」を提供する.
著者
原田 隆史 吉村 紗和子
出版者
情報知識学会
雑誌
情報知識学会誌 (ISSN:09171436)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.65-72, 2010-05-15 (Released:2010-07-10)
被引用文献数
3 2

オンライン書店のサイトをはじめとして,読者自身が図書の感想などを投稿するオンライン書評サイトが増加してきている。本研究は,このようなオンライン書評の持つ特徴を,新聞書評などと比較することで明らかにするものである。書評中の各文を,評価対象,評価の視点,評価の客観性,評価極性(肯定的か否定的)かという4つの観点から分類し,集計した。その結果,1) 評価対象は「作品に対する評価」がどの書評でも評価組全体の約9割を占め,書評ごとの変化は見られない,2) 評価の視点について,新聞書評では「作家の表現手法」などが全体の48%を占めるのに対し,オンライン書評では「ストーリー」や「場面」がほとんどである,3) 新聞書評では客観的な表現や肯定的な評価がほとんどであるのに対し,オンライン書評では主観的な表現や否定的な評価も多く多様な内容であることが明らかとなった。
著者
中山 敦雄 松木 亨
出版者
愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

人工多能性幹細胞(iPS細胞)作製技術により、脳機能障害での神経細胞解析が可能になった。しかし自閉症は症例ごとに遺伝学的原因と背景が多彩で、コントロールiPS細胞・誘導神経細胞と比較しても神経細胞の表現型の差が原因遺伝子に由来するのか遺伝学的背景の差に由来するかはわからない。我々は標準iPS細胞にゲノム編集で既知の自閉症原因遺伝子変異を導入し、コントロールと遺伝学的背景に差がない自閉症モデル細胞の作製を試みた。 iPS細胞610B1株でNLGN4X遺伝子ノックアウトに成功したが、神経細胞への分化誘導が困難であった。別に2つのiPS細胞株で同様のノックアウトが完了しモデル細胞として解析する。
著者
新美 亮輔 設樂 希実
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
日本心理学会大会発表論文集 日本心理学会第84回大会 (ISSN:24337609)
巻号頁・発行日
pp.PI-074, 2020-09-08 (Released:2021-12-08)

自身の能力について自己評価を行うと,多くの場合,平均以上に位置付ける。これは平均以上効果と呼ばれる。平均以上効果では,しばしば性差が見られる。一方,このような自己の能力の過大視は実際の能力が低い者ほど大きい傾向があり,ダニング・クルーガー効果と呼ばれる。ダニング・クルーガー効果に性差があるかはよくわかっていない。そこで本研究は,日本の大学生に英文法テストを解いてもらい,ダニング・クルーガー効果の再現実験を行い,加えて性差を検討した。実験の結果,平均以上効果は見られなかったが,ダニング・クルーガー効果は再現された。性差が見られ,女性参加者は男性参加者よりも自身の英文法能力やテスト成績を低く評価する傾向があった。ただし,この傾向は実際のテスト成績の高さとは関連がなかった。したがって,ダニング・クルーガー効果に性差があるとは言えず,全般的な自己高揚傾向の性差が見出されたと考えられた。このような性差の考えうる原因について議論した。
著者
下田 芳幸
出版者
富山大学人間発達科学部附属人間発達科学研究実践総合センター
雑誌
教育実践研究 : 富山大学人間発達科学研究実践総合センター紀要 (ISSN:18815227)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.23-37, 2014-02

2006 年に福岡県筑前町で生じた中学生のいじめによる自殺は社会的に大きな注目を集め,この年度分から文部科学省は,“児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査”におけるいじめの定義を大きく変更した。また,2011年に発生した滋賀県大津市における中学生のいじめ自殺も一種の社会現象を引き起こし,既述のいじめの定義に,犯罪行為として取り扱われるべきものに関する既述が追加されたほか,いじめ防止対策推進法が2013 年に公布されるきっかけとなった。そこで本研究では,スクールカウンセリングを始めとしたいじめに対する心理学的支援に役立つ知見を整理して提供することを目的に,スクールカウンセラー事業が活用調査研究委託事業から活用事業補助に切り替わった2001年より2013年7月末時点までの,学校における主に心理学的な知見を中心に研究を概観した。
著者
川本 直義 清水 裕之
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会計画系論文集 (ISSN:13404210)
巻号頁・発行日
vol.74, no.643, pp.1985-1994, 2009-09-30 (Released:2010-01-22)
参考文献数
6

I investigated practice fields of city bands and grasped the state of a room in a performance, and considered problems about safekeeping and import of musical instruments to use for an exercise. It is necessary for depots of musical instrument cases besides performance area. Scale of an exercise room can think about 2.5 square meters per one person. In public cultural facilities and other institutions, it is necessary for safekeeping and an import method of large-sized musical instruments to be considered.
著者
加須屋 誠
出版者
京都大学
雑誌
研究紀要 (ISSN:03897508)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.42-99, 1988-03-31
著者
著者不明
出版者
文事堂
巻号頁・発行日
vol.元之巻, 1887
著者
松宮 朝
出版者
北海道社会学会
雑誌
現代社会学研究 (ISSN:09151214)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.59-76, 2023 (Released:2023-08-01)
参考文献数
40

2020 年春からのコロナ禍では,対面でのインタビュー調査,フィールドワー ク,学生の現地での調査実習など,コミュニティ実践の現場にかかわる調査活 動のほとんどすべてを中止せざるをえなくなった。こうしたなかで,コロナ禍 で激変した環境に対応しつつ,地域コミュニティの実践現場への調査,調査実 習でのかかわりをどのように継続・再開させるかが課題となった。この課題に 対して,本稿ではまず,地域コミュニティでの対面的なつながりが「悪」とさ れる政策がとられ,地域コミュニティ,コミュニティ実践が停滞もしくは中断 を迫られた状況を確認した。このことは,地域コミュニティをめぐる対面での 調査実習,調査研究にも大きな影響を及ぼしたのである。その上で,筆者のコ ミュニティ実践を対象とした量的調査,質的調査にかかわる調査実習を振り返 り,また,コロナ禍で調査をスタートさせた,屋外での支援活動と連携したア クションリサーチ,参与観察の成果と課題について検討した。コロナ禍に対応 したオンライン調査への移行は,調査方法の可能性を拡げた一方で,学生間の 調査スキル,地域コミュニティ参加,関係形成の継承については課題が残った。 以上のコロナ禍での調査実習と調査研究の検討から,①関係の継続と調査方法 の継承の持つ意味,②オンラインではつながることができない対象者へのアプ ローチの重要性という,対面調査の果たす役割が確認されたと考えられる。
著者
山本 堅一
出版者
北海道社会学会
雑誌
現代社会学研究 (ISSN:09151214)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.41-57, 2023 (Released:2023-08-01)

コロナ禍をきっかけに,世界中でオンライン授業の普及が進んだ。学生を教 室に集めて対面で授業を行うことは,リスクがあったからだ。オンライン授業 をやってみると,意外と良いなと感じている教員,学生がいれば,やはり対面 の方が良いと感じている教員,学生もいる。 オンライン授業を2年経験し,ある程度コロナ禍が落ち着いてきた中で,わ れわれが進むべき道が目の前で二つに分かれている。コロナ禍以前の対面授業 に戻すか,オンライン授業の活用を継続するか,である。前者は平坦な,後者 は険しい道である。 オンライン授業を活用したこの2年間,さまざまな課題が噴出したのは確か である。その一方で,やはり授業は対面でなければいけない,という確たる根 拠も出てきていない。しかしながら,オンラインは止めて対面に戻そうという 動きの方が強いように感じられる。 本稿では,オンライン授業の実践例,北海道大学の学生と教員に取ったオン ライン授業に関するアンケート調査結果を紹介し,オンライン授業の可能性に ついて考察した。解決が難しい課題はあるものの,オンライン授業は部分的に でも継続していくべきである,ということは示されたのではないだろうか。特 に,講義形式の授業においては,オンライン授業を活用することで,学習者中 心の授業へと転換しうるという点は,教育効果と共に検証が期待される論点と なった。
著者
佐藤 英二
出版者
日本数学教育史学会
雑誌
数学教育史研究 (ISSN:13470221)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.1-11, 2011 (Released:2022-03-10)
被引用文献数
1

Hiraku Tohyama (1909–1979) was a mathematician who developed two theories on arithmetic education. One is “suido-houshiki,” the systematic method of instruction for performing calculations on paper, and the other is “ryo-no-taikei,” the method of curriculum design wherein several types of quantities are arranged in the right order. This paper challenges the widespread understanding that Tohyama believed that arithmetic education should be provided in accordance with these theories. Around the 1950s, Tohyama clearly distinguished between mathematics and art on the ground that mathematics is logical and systematic. He intended to criticize those who advocate mathematics education that is suited to children’s everyday life . Tohyama developed the two abovementioned theories while editing arithmetic textbooks in the late 1950s. Because he believed that textbooks were indispensable to teachers, he wished to produce textbooks that were systematic. However , in 1963, he started to insist on the close relation between science and art and began to raise doubts about the effectiveness of lessons that were based on plans and textbooks. This radical shift in his educational thought occurred after he witnessed unexpected active participation by children in learning in the classroom. In conclusion, that teachers should use systematically organized textbooks was not a strong belief that Tohyama held throughout his life; rather, it was a temporary opinion. He finally concluded that instructional theories such as “suido-houshiki” and “ryo-no-taikei” were fallible.
著者
Yusuke Nakanishi Hong En Lim Yasumitsu Miyata
出版者
The Japan Society of Applied Physics
雑誌
JSAP Review (ISSN:24370061)
巻号頁・発行日
vol.2023, pp.230422, 2023 (Released:2023-08-26)
参考文献数
30

Transition metal chalcogenides (TMCs) have attracted significant attention in recent years owing to their diverse nanostructures and physical properties. In particular, the progress of growth techniques has enabled the efficient preparation of high-quality two-dimensional (2D) layered TMCs, as well as various one-dimensional (1D) TMCs, such as nanotubes, nanoribbons, and nanowires. In this study, we focus on 1D TMC wires. An overview of recent progress in this area and our findings on vapor-phase growth of isolated single TMC wires and large-area networks of TMC wires are presented.