著者
中田 かおり
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.196-204, 2010 (Released:2011-04-07)
参考文献数
31
被引用文献数
1

目 的 妊婦の循環動態・体水分バランスの変化と妊娠経過・予後との関連について文献検索と吟味を行い,助産実践における妊娠期の水分管理・水分補給の基礎となる知見を得る。対象と方法 医学中央雑誌web版,PubMed,CINAHL,Cochrane libraryと,国内外の産科学テキストおよび検索された論文の文献リストを用いて文献検索を行った。各データベース登録開始年から2009年8月5日現在に出版された,日本語および英語論文で,妊娠期の循環動態の変動あるいは妊婦の体水分バランスと妊娠経過・予後との関連について論じられた83文献を対象とした。対象文献をレビューし,言語,論文の種類,専門ごとに整理した後,研究内容ごとに分類し,得られた知見を,本文献検討の焦点ごとに統合し,検討した。結 果 妊婦の水分補給・補液の効果として,羊水量の増加を報告した研究論文が複数特定された。しかし,妊娠合併症の予防や治療を目的とした妊婦の水分補給・補液に臨床的な意義を認める研究成果は限られていた。妊婦の水分補給の実態を調査した研究は検索できなかったが,妊婦のカフェイン摂取と妊娠経過への影響と自記式調査票によるカフェイン摂取量把握の妥当性に関する調査は特定された。また,妊婦の循環動態と体液量の測定にはさまざまな方法が検討されているが,妊婦管理の一環として臨床実践に適切と思われる,非侵襲的な方法のみを用いた測定方法は,特定できなかった。今回の文献検討では,妊娠期の水分補給に関する保健指導の臨床的な根拠を示すことはできなかった。結 論 妊婦の水分摂取・補液と羊水量増加との関連,妊婦に推奨する摂取水分の種類を吟味する必要性,生体インピーダンス法を用いた非侵襲的な妊婦の体水分バランス管理の可能性が示唆された。今後,妊娠期の水分摂取の実態とその効果に関する調査,妊娠期に推奨される水分の種類・量の特定,妊婦にとって過度の負担とならない簡便な体水分バランスの測定方法・評価指標の開発が必要である。
著者
斉藤 仁
出版者
一般社団法人 日本ヘルスケア歯科学会
雑誌
日本ヘルスケア歯科学会誌 (ISSN:21871760)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.11-15, 2019-12-18 (Released:2022-08-27)
参考文献数
6

一般開業歯科診療所に初診で来院する患者の主訴は,過去に治療したことのある歯に起因するものが多いと思われる.実際に初診患者の主訴がどれくらい過去の治療に起因するものかを調べるために,日本ヘルスケア歯科学会の会員のうち,本調査に協力が得られた48歯科医院で2017年9月1日から11月30日までの間に来院した初診患者について,その主訴の原因を調べ,48歯科医院のうち対象期間内でのデータがすべて揃っている20医院の20歳以上の初診患者718人についてまとめた.主訴の原因が過去に治療したことのない歯に起因するものが全体の10 %だったのに対して,治療歴があるものの合計は43 %であり,20歳以上の初診患者は過去の治療の何らかの再治療で歯科医院に来院している可能性が高いことがわかった.
著者
三宅 克英
出版者
石川県立大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

加賀地方や能登地方の水辺林に生息するアカテガニから消化管抽出液を作製し、そのバイオマス分解能力を解析した。セルラーゼ活性やリグニン分解活性を検討したところ、非常に強いグアヤコール酸化活性、つまりリグニン分解活性を検出することができた。またこのアカテガニやヨコエビなどの甲殻類からバイオマス分解能力のあるアカテガニ消化管由来細菌群を単離同定し、そのセルラーゼ活性やリグニン分解活性も検出することができた。単離した細菌群は一つずつでは、消化管抽出液の活性には遠く及ばないが、群集として機能させることで、強い活性を再構成することが可能と考えている。
著者
宮 史卓 松嵜 美紀 山本 真由美 中井 栞里
出版者
日本脳死・脳蘇生学会
雑誌
脳死・脳蘇生 (ISSN:1348429X)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.76-81, 2022 (Released:2022-08-26)
参考文献数
3

臓器提供の現場では,原疾患の悪化から回復不能と診断され法的脳死判定,臓器摘出と時間の経過が早く進むなかで,揺れ動く家族の心情をくみ取り支える体制整備が重要である。一方,臓器提供のみを行う施設の職員において移植医療に対する認識は低く体制整備に難渋する。伊勢赤十字病院では過去に脳死下臓器提供を希望された症例を通して反省点を踏まえて家族支援体制を整備してきた。代表例3例をあげて提供施設における家族支援体制について報告する。救急・急性期治療の現場では,懸命な治療を目指すがゆえに患者が回復不能の状態に陥っても終末期という概念が忘れ去られ生命維持治療が続けられる傾向にある。患者が回復不能に陥ったとき,医療者が考えている以上に臓器提供を考える家族は多い。脳死状態となった患者において人生最後の迎え方の意向をくみ取る体制を整えることが臓器提供における家族支援の第一歩である。また,臓器提供をスムーズに実施するためには家族の心情の変化を確実に把握することが重要である。家族の心情変化をとらえるためには,脳死・臓器提供・移植医療や院内体制についての知識をもった同一人物による家族支援が必要である。そして,臓器提供が始まってからではなく患者が回復不能と判断された時点から介入を開始することで,患者支援における一貫性が保たれ家族との信頼関係をより充実したものにできると考える。
著者
高橋 正樹
出版者
新潟国際情報大学国際学部
雑誌
新潟国際情報大学国際学部紀要 (ISSN:21895864)
巻号頁・発行日
vol.1, no.創刊号, pp.117-133, 2016-04-28

西欧植民地主義勢力は周辺国の植民地化がコスト高だと判断した場合、その主権国家化を支援した。ただし、そのような国家形成は、植民地化された国と同様にその周辺国の国家と社会との亀裂を内在化させた。タイの国家形成史はまさにこのケースに当てはまる。タイは、19世紀中期から20世紀初頭まで、英仏がバンコク王朝の宗主権を侵食しつつビルマ、マレー、インドシナを植民地化し、他方でバンコク王朝はその結果、領域主権国家としての境界を画定していった。その結果、タイ国家はとくにイギリスの支援を受けながら主権国家としての国家機構を構築した。この過程で他の政治勢力に対して圧倒的な力をもつ国家エリートがバンコクを中心に構築される一方で、地方エリート勢力は解体され、また地方エリートと民衆の関係が解体していった。さらに、1930年代から40年代にかけて、新興の国家官僚層は、英仏植民地主義体制が不安定化すると、南進政策をとる日本に接近し、領域主権国家としての強化を試みた。
著者
白井 淳平
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.56, no.9, pp.598-602, 2014 (Released:2019-10-31)
参考文献数
6

ニュートリノは物質を構成する最も基本的な粒子(素粒子)の一つである。自然界には大量に存在するが電荷がなく,物質とほとんど反応しないため幽霊粒子とも呼ばれ,その性質は神秘のベールに包まれていた。近年その研究は大きく進展し,興味深い性質が明らかになってきた。その解明には原子炉から大量に放出される原子炉ニュートリノが大きな役割を演じてきた。そして今やニュートリノを用いて地球内部を探る新たな観測方法が現実のものとなっている。本稿では最先端のニュートリノ研究を推進するカムランド実験(Kamioka Liquid scintillator Anti-Neutrino Detector)を紹介し,これまで何がわかったか,そして今後のニュートリノ研究について紹介する。
著者
相澤 雅文
出版者
日本発達支援学会
雑誌
発達支援学研究 (ISSN:24357626)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.31-40, 2021 (Released:2022-10-01)

本研究では、公立小学校2 校(全17 学級、児童数393 名)、公立中学校1 校(各学年3学級、生徒数241 名)の児童生徒に「あなたの楽しみ・安心についてのアンケート」を実施した。小学校下学年(小学校1 年~3 年)、小学校上学年(小学校4 年~6 年)、中学生と3 年毎の学年グループに分類し比較検討を行った。児童生徒にとって楽しいと感じる場所は、半数近くが「家庭」であり、学校は3 割程度であった。家庭で楽しいことは「ゲーム・ネット」であり、学校では「友だちと遊ぶ・話す」ことであった。家庭と学校で児童生徒に影響を与える事物が明確に異なっており、役割も分化されていると捉えられた。Well-Being を育むためには、ポジティブな情動経験を特に学校という場でどのように保障していくのかが大切と考えられた。
著者
石神 靖弘 後藤 英司
出版者
日本生物環境工学会
雑誌
植物環境工学 (ISSN:18802028)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.228-235, 2008-12-01 (Released:2009-09-04)
参考文献数
24
被引用文献数
2 2

In order to achieve plant production in a closed ecological life support system (CELSS) in space, environmental control is a key technology because the environment is completely artificial. One advantage of the CELSS in space is that each module's gas composition and total pressure can be regulated at an optimal level. For example, the nitrogen contained in air is not necessary for plant growth, and low oxygen concentration may enhance net photosynthesis by reducing photorespiration. Hypobaric conditions, obtained by reducing nitrogen and oxygen concentrations, could facilitate gas control, reduce construction costs, and simplify maintenance of modules on a lunar base and in plant production systems on Mars. This review summarizes previous papers and evaluates significant effects of total pressure on growth and development of higher plants, especially crops. Previous studies showed that photosynthesis and transpiration of plants were enhanced under low total pressures because gas diffusion rates increase at low total pressures. Spinach and lettuce in vegetative stages can grow normally under 25 to 50 kPa total pressures. Seeds of rice and Arabidopsis thaliana germinated at 25 kPa total pressure. Flowering was normal in Arabidopsis under hypobaric conditions. Seed growth of soybean and Arabidopsis under low total pressures with a low O2 partial pressure was greater than under the atmospheric pressure with the same O2 partial pressure. This indicates that O2 concentrations inside siliques were maintained higher by the higher diffusion rates prevailing under hypobaric conditions. The results indicate that if total and partial pressures are controlled precisely, plants can grow normally in their life cycle from germination to harvest under hypobaric conditions.

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出版者
日本甲殻類学会
雑誌
CANCER (ISSN:09181989)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.81-85, 2022-08-01 (Released:2022-08-24)
著者
村田 晃嗣 阿川 尚之 小島 誠二 中谷 直司 山口 航
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

グローバル化を背景として、国際政治における都市をめぐる外交の重要性が増している。本研究は、「都市からの外交」と「都市への外交」の2つの方向を軸として、①自律的プレイヤーとしての都市による外交の実態を把握し、②都市外交研究の基盤となる分析枠組を構築し、③国家を始めとする他のアクターとの相互作用を分析し、「都市」が世界政治で果たしつつある役割を明らかにしていくことを目指した。都市をめぐる外交を2つの方向から事例を研究し、都市の経済活動の結果ではなく、世界政治の構成要素としての「都市外交」研究を目標にした。本年度は、これまでの成果を踏まえた上で、「世界政治における都市外交」(潜在的役割の評価と政策提言)について研究を進めた。都市が今後「世界政治」のなかで発揮すべき役割について、検討をしていった。とくに①新しい「国際規範」の発信者としての都市と、②国連や地域機構と協力して紛争後地域の「平和構築」に貢献する都市の姿に着目をした。①については、国家主権の制限に必ずしもしばられない都市が、規範(新たな理念)の意識的な発信者として行動を活発化させれば、すでに実績があるNGOや多国籍企業を上回る影響力を発揮することが可能ではないかと予測した。②については、停戦監視や武装解除の初期段階ではなく、その後の自治機構の整備や地域コミュニティーの安定化に、都市が組織的に関与できる「国際制度」の構築を想定した。しかしながら、新型コロナウイルス感染症による国内外の情勢に影響を受けたため、国内外での資料の収集や、研究メンバーによる機動的な行動が困難となり、研究に遅れが生じた。