著者
八藤後 忠夫 水谷 徹
出版者
文教大学
雑誌
教育学部紀要 = Annual Report of The Faculty of Education (ISSN:03882144)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.79-86, 2005-12-01

近年急速に進歩しつつある先端科学・技術は,私たちの生活を一層利便性の高い豊かなものとしている.しかし一方では,特に医学・医療において診断・治療・予防のいずれの段階においても「社会における人間像」や「死生観」に抵触すると思われる側面も増大している.本稿は,これらの問題に関して,古代社会以来連綿と続いている優生思想の歴史的変容を概観し,検討した.その結果,出生前診断や着床前診断と選択的妊娠中絶においては,「障害者の生存権の否定」傾向に強く影響を及ぼしていることが確認された.このことは教育のあり方全般にも大きく影響を及ぼしていると推測され,その実践の一つとして今後の学校教育・社会教育全体に大きな課題を与えていると判断する.特に,障害児教育においてはその教育内容に更なる「内容の質の高さ」が求められていると考えられる.
著者
山田 妙韶
巻号頁・発行日
no.143, pp.173-183, 2021-03-31

2000 年から実施された成年後見制度では複数後見が認められた.その複数後見における支援の形態としては専門職後見人と親族後見人などが考えられる.そして,支援は権限分掌として分担することが主であるが,「権限の分掌はうまくいくことが難しい」とも言われている.複数後見人の関係性が被後見人に不利益をもたらすことを考慮すれば,たとえ権限分掌であっても相互に協力しなければならないことは自明であろう. 一方で,精神保健福祉士が成年後見人として選任される場合は,多くの法律家が不得手として敬遠することが多い知的障害者や精神障害者の後見を期待していることが少なくない.今回,筆者は,統合失調症と認知症をもつ成年後見人として身上監護を行い,法律実務家が財産管理を行うという権限分掌で受任した.そこで,筆者の後見人の実際を報告し,複数後見における精神保健福祉士の役割を考察した.その役割とは『被後見人の気持ちに寄り添う』実践をすることではないだろうか.
著者
金子 一夫
出版者
美術科教育学会
雑誌
美術教育学:美術科教育学会誌 (ISSN:0917771X)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.179-191, 2017 (Released:2019-09-03)
参考文献数
36

著者は今日の美術教育学研究における問題点を指摘し,その解決のため贈与交換論による美術教育学の再定義を提案した。論述を以下の三段階で行った。1.美術教育学の発生から現在に至る過程 2.美術教育学が本来備えるべき要件 3.美術教育学の問題とその解決方法の検討 1.で美術教育学の困難の外部的・内部的要因を指摘し,2.で美術教育学の要件は厳密な概念による美術教育現象の記述とした。3.で美術教育学の問題点として,主要な言説に1理論上の表現と学習と教育の区別がないこと,2理論上に表現者だけ存在し,教育内容,教師が存在しない不備を指摘した。その解決のため,教育,美術,美術教育を贈与交換の過程と再定義して,表現と学習と教育の区別,教育内容と教師の理論的再生を試みた。そして美術教育は教師,被教育者,教育内容・教材各々を下位要素システムとして交感するシステムと捉えられるとした。
著者
小山 薫 作山 正美 高橋 一男
出版者
岩手医科大学
雑誌
岩手医科大学教養部研究年報 (ISSN:03854132)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.103-109, 2004-12-31

全国制覇を成し遂げた経験もあり, 常に全国上位を占める岩手県立N高等学校ホッケー部の男女選手にPCIテストを実施調査した結果, 以下のような知見を得た. 1) 総体時において, 男子チームは「一般的活気」, 「技術効力感」, 「闘志」がやや高く, ポジティブな状態にあり, 女子チームは「競技失敗不安」, 「疲労感」が高く, ややネガティブな状態にあった. 2) 総体時のベンチ入り選手と控え選手の比較で, 男子の場合, ベンチ入り選手がポジティブな状態にあった. 女子では顕著な差は認められなかった. 3) 総体時のポジション別比較で, 男子選手及び女子選手ともに, ポジション間で有意差は認められなかった. 4) 新人戦時, 男女チーム間での有意差は認められず, 「競技失敗不安」に共通してやや高い傾向がみられた. また, 男子の場合, 新人戦チームは「疲労感」で総体チームを有意に上回った (p<0.01). 女子は総体チームとほぼ同レベルの心理的状態にあった. 以上, 大会規模, 性別, 技術レベル, ポジションなど, 様々な状況によって, 心理的コンディションに違いがみられることから, チームとしてのメンタルマネージメントを高めていくことが, 今後の課題である.
著者
今井 正之助
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.54-64, 2014

<p>中学校2年国語「扇の的」は、与一の技量および敵味方が称賛するすばらしさ((『平家物語』巻一一「那須与一」)から、与一を称賛して舞い出た平家方の「老武者」を射殺する場面(「弓流」)を加え、戦の非情さを考えさせることに力点がうつり、その方向に各教科書会社の足並みが揃いつつある。しかし、「老武者」は扇の的を立てた船に乗り組み、義経狙撃を企む一員であった可能性が高い。善良な老人を冷酷に射殺したと受けとめることは誤っている。また、義経は、敵は一人でも生かしておくわけにはいかない、と考え、与一に射殺を命じた、とみなされている。しかし、『平家物語』の義経の行動原理からはそのような理解は成り立たない。「老武者」が扇が立ててあった場所を占拠して舞を舞い、主役の座を奪うかの行為をしたことに対して、義経は激しく怒り、与一も同じ思いで矢を放った。</p>

2 0 0 0 OA 大漁節

著者
那珂湊芸妓連
出版者
ビクター
巻号頁・発行日
1933-07
著者
秋田 達夫
雑誌
臨床化学 (ISSN:03705633)
巻号頁・発行日
vol.35, 2006-07-14
著者
尾下 成敏
出版者
史学研究会 (京都大学大学院文学研究科内)
雑誌
史林 (ISSN:03869369)
巻号頁・発行日
vol.93, no.1, pp.36-70, 2010-01

天正十三年(一五八五) 冬、羽柴(豊臣) 秀吉は島津義久に対し、九州における戦闘停止を命じたが、この出来事は秀吉の全国統一過程、すなわち戦国争乱の最終過程を論じる際に注目され、「平和」の実現を狙った政策か否かは今日重要な論点となっている。本稿は、天正十四年七月の対島津戦開戦以前の政治過程を復元し直すことで、上記の九州停戦命令を再考しようとしたものであり、(1)停戦命令は九州派兵が困難な情勢下で採られた方策で、「和戦」双方を視野に入れていた。そして畿内近国・東国・西国の情勢に規定されながら、ある時期は「和」の比重が、また、ある時期は「戦」の比重が高まり、遂には対島津戦突入へと至った。(2)「平和」の実現という切り口から、停戦命令を惣無事令として捉える学説には賛成できない。(3)島津攻めが既定方針であったことを強調する学説は、九州政策の変遷を踏まえた主張とは言い難い点などを主張している。
著者
湊 哲則 コラー メラニー 木村 宏 マーン イングリット 山本 哲生
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会秋季講演会予稿集
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.39, 2004

太陽や他の主系列星は、ダスト円盤を伴っている。これらのダストは、太陽光による抵抗力で角運動量を失い太陽へ落ち込む(ポインティング-ローバーソン効果)。太陽光と同様に、太陽風イオンの衝突によってもダストは抵抗力を受ける。本研究では、球形ダストを仮定した、太陽風による抵抗力の研究(Minato. et al. 2004)を、より現実的なダストアグリゲイトの場合に拡張した。
著者
山口 覚
出版者
学校法人 関西学院大学先端社会研究所
雑誌
関西学院大学先端社会研究所紀要 (ISSN:18837042)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.115-131, 2012 (Released:2021-05-15)

後期資本主義の時代における脱工業化の進展の中で、関西の産業界は厳しい状況に置かれている。また、資本や人のグローバルな移動によって「世界都市」としての東京の位置づけが強まっている。関西の衰退と東京一極集中という空間の再編成のもとで、もともと移動性が低かったはずの関西の私鉄系不動産資本による首都圏への進出という現象が確認される。1970年頃における近鉄不動産の先行例もあるが、2000年以降には京阪電鉄不動産、そして本稿で扱う阪急不動産が新たに首都圏への進出を開始した。鉄道沿線開発というビジネスモデルないし「阪急文化」を重視してきたはずの阪急不動産がなぜ、いかに首都圏進出を進めてきたかを明らかにする。