著者
盛満 弥生
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.88, pp.273-294, 2011-06-10
被引用文献数
2

本稿では,エスノグラフィーという手法を用いて,学校生活の中で貧困層の子どもに特徴的に表れる課題を明らかにし,それらの課題が学校や教師から貧困層の問題として捉えられにくい背景にある学校文化のあり様について検討した。対象となった生活保護世帯出身生徒の約半数が「脱落型」の不登校を経験し,不登校経験や学習資源の不足等が直接的に影響して低学力に陥っており,将来の夢や進路に対する「天井感」が見られた。このような目立った課題を有する彼らであっても,生徒を家庭背景や成育歴によって「特別扱いしない」日本の学校文化の中にあっては,学校や教師から「貧困層」の子どもたちとして,特別に処遇されることはない。しかし,彼らの不利が他の一般生徒との違いとなって学校で表れた場合には,学校や教師から特別な配慮や支援がなされることになる。ただ,この場合の支援のあり方は,貧困による不利を解消しようとする積極的な働きかけというよりはむしろ,集団の中で顕在化してしまっている不利を隠そうとする消極的なものとなる。本来であれば,子どもの状況を一番把握しやすい,そして,貧困層の子どもが常に一定数存在し続けていたはずの学校現場で,貧困の問題がこれまでほとんど立ち現れてこなかった背景には,こうした「特別扱いしない」学校文化と,差異を見えなくするための「特別扱い」の影響があったと考えられる。
著者
杉浦 真理子 有賀 淳
出版者
一般社団法人 レギュラトリーサイエンス学会
雑誌
レギュラトリーサイエンス学会誌 (ISSN:21857113)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.83-94, 2018 (Released:2018-05-31)
参考文献数
27

近年, 遺伝子検査技術の革新的進歩により簡便で安価に遺伝子検査を受けられる時代への変遷が急速に進んでいる. 医療機関での遺伝子検査以外にも, 個人が医療機関を介さずに直接自分の遺伝子検査を実施できるDTCGT (Direct to Consumer Genetic Testing) が企業により提供されており, 自身の体質や能力, 将来起こしうる疾患を予測するサービスが普及している. 現在, 多くのDTCGTは専門の医師や遺伝カウンセラーなどの介入なく行われており, 医療面や倫理面で課題を抱えているが, いまだDTCGTを適切に規制する整備がなされていない. 筆者らは, 日米欧 (英, 独, 仏) における遺伝子検査に関する規制を比較し, DTCGTにかかる規制を検討した結果, 欧米のほとんどの国において, DTCGTは法的に規制されており, 実質禁止されていたが, 日本ではDTCGTにかかる規制はなく, 指針が示されているのみであった. さらに, 日本におけるDTCGTの現状と課題を検討するために, 個人での検査の窓口となるウェブサイト上でのDTCGT事業を調査し解析した結果, DTCGTを実施している112事業所の多くが医師の介入なしで検査および結果説明が行われており, 検査項目のなかには疾患診断に直結する検査結果や遺伝カウンセリングが必要となる結果が含まれていることがわかった. 今後, 日本でのDTCGTの急速な拡大によって生じる医療面, 倫理面での問題に速やかに対応するために, DTCGTの適切な規制および十分な実施体制の構築が急務と考えられる.
著者
石井 隆太 白石 秀壽 小野 晃典
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.83-93, 2020-09-29 (Released:2020-09-29)
参考文献数
10

アニメ等のコンテンツに登場するキャラクターを象ったフィギュアは,世界中のファンたちを魅了している。そんなフィギュアを生産するメーカーとして,国内有数のシェアを誇り,業界をリードしているのが,株式会社グッドスマイルカンパニーである。フィギュアの生産には,熟練工による手作業が必要不可欠であるため,フィギュアメーカーは,その生産工程の多くを,人件費の安い海外の委託工場に外注している。しかしながら,グッドスマイルカンパニーは,2014年,鳥取県倉吉市に楽月工場を建設し,全メーカーに先駆けて,一部の製品を,国内自社工場で生産することにした。このように,生産活動の内製と外注を同時に行う戦略は,デュアル・ソーシング戦略と呼ばれる。本論は,この戦略を採用することによって,同社が,フィギュアの品質向上・費用低下を実現するだけではなく,生産技術の立ち遅れを取り戻した上で,生産効率化の余地を探究し,取引条件に関する詳細な交渉を行うことにも成功しているということを示す。
著者
安田 敏朗 Yasuda Toshiaki
出版者
名古屋大学大学院文学研究科附属「アジアの中の日本文化」研究センター
雑誌
JunCture : 超域的日本文化研究 (ISSN:18844766)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.56-69, 2015-03-27

After the Great Kanto Earthquake of September 1923, the massacre of Korean residents was carried out by common Japanese influenced by groundless rumors and practices of discrimination. It is estimated that thousands of Koreans were killed, but the correct number is still unidentified. In carrying out this massacre, Japanese residents devised methods to distinguish Korean people from the Japanese. Various methods have been recorded, such as to make people repeat the names of Japanese Emperors or sing the Japanese national anthem. In this article, I will focus on one method: to make someone pronounce “15 yen 50 sen (jyuugoen gojissen)” in Japanese. This method was said to show a pronunciation difference between Korean and Japanese languages, and that if someone was Korean, she/he would pronounce the phrase as “chuukoen kochussen”. This method may have been invented by daily contacts between Japanese and Korean people before the earthquake. After the earthquake, this method spread with the diffusion of the groundless rumors throughout the Kanto district. This “15 yen 50 sen” method was documented with the memories of the Korean massacre afterwards by historians and writers. Nowadays, we hear ignominious calls such as “Kill the Korean”. In such situations, it is important to inspect the process of how such methods to distinguish people were created, and how they spread.
著者
俣野 裕美
雑誌
摂大人文科学 = The Setsudai Review of Humanities and Social Sciences (ISSN:13419315)
巻号頁・発行日
no.27, pp.19-37, 2020-01

本論は 2000 年以降のハリウッド映画における、日本人以外の登場人物たちによるサムライ化の表象を分析したものである。『ラストサムライ』(2003)、『キル・ビル vol.1』(2003)、『ウルヴァリン:SAMURAI』(2013)、『47RONIN』(2013)の4作品を分析したところ、様々なサムライ化の程度が存在するが、完全にサムライになることは避けられる傾向にあることが分かった。また、2000 年代と 2010 年代の作品では、サムライ化に違いが見られた。この点については、当時のアメリカの外交政策をはじめとする社会的背景から考察を行った。This article analyzes the representation of non-Japanese protagonists who become samurai in The Last Samurai (2003), Kill Bill: vol.1 (2003), The Wolverine (2013) and 4 7 R o n i n (2013). In each film, they internalize various aspects of samurai-ness but they avoid turning themselves completely into samurai. The portrayals of non-Japanese samurai, however, are different between 2000s and 2010s. The cause brought the difference is examined with the changing background of US diplomacy, especially military and economic affairs in world politics.
著者
小松 裕
出版者
熊本大学
雑誌
文学部論叢 (ISSN:03887073)
巻号頁・発行日
vol.78, pp.43-65, 2003-03-20

近代の日本人のほとんどは、まぎれもないレイシストであった。それは、中国(人)観が証明している。江戸期には、満州族の風俗である「弁髪」をもって、清国人を「芥子坊主」「ぱっち坊主」と呼んでいたが、そこに侮蔑的な意味合いは含まれていなかった。それが、江戸中期以降に少しずつ変化し、アヘン戦争などで中国が列強の前に敗退すると、知識人の中に中国を反面教師とする中国観が成立してくる。そして、明治に入るとすぐに「チャンチャン坊主」という侮蔑的な呼称が使われはじめ、「豚尾漢」などの呼称とともに都市部・居留地から地方へと徐々に広まっていった。その過程は、同時に、清国人を「豚」の漫画や絵で視覚化し、蔑視の対象にしていく過程でもあった。しかし、日清戦争までは、こうした中国人観が地方の民衆の中にまで浸透していたとはいえず、侮れない強国とする認識も存在していたが、戦勝により、国民的レベルで侮蔑的な中国人観が定着していった。
著者
杉山 あかし 神原 直幸
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究の目的は、今日、世界的にも注目を集めている我が国「おたく文化」の文化社会学的分析を行ない、文化に関する社会学理論の再構築を行なうことである。具体的な研究対象はコミック同人誌即売会「コミックマーケット」(通称「コミケ」)である。このイベントは現在、東京、有明の国際展示場を借り切って夏と冬の年2回、3日間日程で催行されており、参加者は一日あたり15万人を超える。運営はボランティアによるものであり、世界最大規模の文化運動と呼ぶことができる。本研究では初年度(平成16年度)に以下の(1)〜(3)の3調査、そして平成17年度には(4)の調査を実施し、調査対象の巨大さに対応して、文化社会学分野でこれまでにない規模の、極めて膨大なデータを集積した。このデータについてその後の各年度において分析作業を行なってきた。(1)【サークル参加者質問紙調査】サークル参加者全数調査。得られた質問紙回答は37,620票。(2)【スタッフ参加者質問紙調査】コミックマーケットを運営するボランティア・スタッフに郵送法によって行なった質問紙調査。得られた質問紙回答は336票。(3)【スタッフ参加者グループ・インタビュー調査】コミックマーケットを運営するボランティア・スタッフに対して行なったグループ・インタビュー調査。6グループについて実施。テープ起こし字数、総計23万5千字。(4)【米澤嘉博氏インタビュー調査】コミックマーケット準備会代表、米澤嘉博氏への聞き取り調査。テープ起こし数、総計3万5千字。データ分析・検討の結果、大衆操作という観点から立論された大衆文化論、ならびに、反抗の契機として大衆文化を捉えるカルチュラル・スタディーズといった、これまでの文化理論のいずれもが適用できない、"中間文化的"な現代日本文の動態が明らかとなった。
著者
山口 和晃 工樂 樹洋
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.170-179, 2020-12-01 (Released:2020-12-24)
参考文献数
48

全ゲノム配列情報が整備された生物種が増えてきたが,脊椎動物の中でとくに板鰓類(サメ・エイ類)ではその動きが大きく停滞していた。板鰓類は軟骨魚類の大部分を占め,約1,200種と種数では硬骨魚類に到底及ばないものの,約4億年という哺乳類や鳥類とは比べ物にならない長い時間をかけて地球上の生態系に定着した系統である。筆者らは,水族館との連携により試料を確保し,DNA シークエンスデータの取得および解析の全工程を最適化することにより,サメ3種の全ゲノム情報を読み取り,多面的な解析を行った。全ゲノム情報に基づいて遺伝子の有無を論じる際,その完成度が信頼性を左右する。また,同定した遺伝子について生物種間の対応関係を把握するには,分子系統解析によりオーソロジーを判定する必要がある。こういった点に留意してオプシン遺伝子を調べたところ,サメ類は視覚への依存度が低く,ロドプシン以外の多くのオプシン遺伝子レパートリを失ったことが明らかとなった。ロドプシンの吸収スペクトルの分光測定によって,深海に生息するサメのロドプシンは海水中で減衰しにくい480 nm 付近の波長の光を最も効率良く受容する性質をもつ可能性が示された。 今後,生体組織試料に依存しないこういった手法が,他の希少海棲動物の生態を明らかにする助けになるかもしれない。
著者
三田 武繁
出版者
東海大学文学部
雑誌
東海大学紀要. 文学部 (ISSN:05636760)
巻号頁・発行日
no.108, pp.101-124, 2018-03-30
著者
Pevnov A. M.
出版者
北海道大学大学院文学研究科
雑誌
サハリンの言語世界 : 北大文学研究科公開シンポジウム報告書
巻号頁・発行日
pp.113-125, 2009-03-08

My aim is to outline some problems and prospects of the study of two endangered languages of Sakhalin (namely Nivkh and Uilta which was previously called Orok). I believe that collaboration of Russian and Japanese linguists can substantially contribute to solution to many problems including those mentioned below.
著者
岩下 達雄
出版者
慶應義塾大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

片頭痛発作と気象との関係について個々の臨床・気象データを検討したところ、片頭痛発作は低気圧の接近前後に起こる傾向があり、気圧変化との関連が示唆された。天気が悪くなると頭痛が起こるなど、片頭痛患者の間で感覚的に語られていたことと同様の傾向であった。また、片頭痛の病態解明を目的とした研究で、脳硬膜に侵害刺激を加えると、三叉神経節でERKリン酸化が起こること、皮質拡延性抑制(cortical spreading depression:CSD)は三叉神経節においてERKリン酸化を誘発させることを明らかにした。これらの結果は、CSDと三叉神経血管系の活性化との関係に重要な知見を提示するものと考えられた。
著者
阿部 寛史 田淵 諒子 奥田 康仁 松本 晃幸
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.100, no.1, pp.8-14, 2018-02-01 (Released:2018-04-01)
参考文献数
41
被引用文献数
1 1

SSRマーカーを用いて,集団内,地域,全国の空間スケールでショウロ(Rhizopogon roseolus)の遺伝解析を行った。集団内ではショウロのジェネットは小さく(平均0.6 m,≦1.6 m),頻繁な更新があること(1年で95.8%)から有性生殖に依存した繁殖戦略を持つことが示された。また,空間自己相関解析の結果,老熟して融解した子実体から埋土胞子化する近距離(0~4 m) において正の空間遺伝構造が検出された。次に,鳥取県内の7集団の遺伝的特徴を比較したところ,鳥取砂丘の5集団は高い遺伝的多様性を持ち,他の2集団との間に有意な遺伝的分化を示した(例32.2 kmでFST=0.234)。日本国内のサンプルについてSTRUCTURE解析を行ったところ,地理的位置に対応した四つの遺伝的クラスターに分類された。以上から,地域間の遺伝子流動が長期間にわたり制限されたことで,集団間の遺伝的分化が進行していると示唆された。分化した集団に特有の遺伝変異はショウロの育種において有用な遺伝資源となる可能性がある。