著者
海江田 武 熊田 仁 松田 淳子 稲岡 秀陽
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【はじめに】成長期野球選手の投球障害肩の発生は15,16歳にピークを迎え,肩関節の痛みと投球動作の変化に注意する必要がある。成長期野球選手の投球障害肩の発生要因には,投げすぎによる肩周囲組織の損傷などの外的要因,成長期特有の内的要因,技術的要因があり,それらについての研究は数多く行われている。しかし,実際の投球直後の身体変化についての調査を行った研究は少なく,投球が身体に及ぼす影響についての報告は散見できる程度である。また投球動作後の疲労部位や可動域の変化についての調査はあるが,投球動作時痛を有する選手を対象とした投球直後の身体変化についての調査は少ない。そこで今回,投球前後の機能評価を行い,投球動作時痛が投球直後の肩関節に及ぼす影響について検討した。【対象と方法】高等学校1校の日常のクラブ活動を行えている硬式野球部員51名のうち,投手17名を対象とした。選手たちには事前に疼痛に関するアンケートを行い,投球動作時の疼痛の有無,部位を調査し,身体のどこかに疼痛を有する8名を疼痛あり群,疼痛を有しない9名を疼痛なし群とした。課題の投球動作はウォーミングアップのキャッチボールを20球行わせ,その後ブルペンにて全力投球50球を実施させた。使用ボールは高校が使用する試合球とした。課題の前後で肩内外旋可動域,肩内外旋筋力,hyper external rotation test(以下,HERT)を測定した。測定内容としては,(1)肩内外旋可動域は背臥位で肩外転90度,肘屈曲90度の肢位(以下2nd)で,基本軸を床への垂直線,移動軸を尺骨とし,ゴニオメーターを用いて3回測定し平均値を算出した。(2)肩内外旋筋力は端座位,上肢下垂位,肘屈曲90度の肢位で,ハンドヘルドダイナモメーターを用いて3回測定し平均値を算出した。なお(1)(2)については「投球前の測定値-投球後の測定値」を変化量として算出した。(3)2nd肢位を取りHERTを実施した。統計処理は,2群間で,関節可動域および筋力の変化量を比較するために,対応のないt検定を行った。有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】研究内容に対して各個人に十分な説明を行い,同意を得た上で実施した。【結果】肩外旋可動域は,疼痛あり群では投球前112.7±5.2°,投球後115.9±5.4°であり,変化量は3.2±2.8°であった。疼痛なし群では投球前113.6±6.7°,投球後113.1±6.3°であり,変化量は-0.5±3.2°であった。両群間の可動域の変化量は,疼痛あり群で有意な増加(p<0.05)を認めた。肩内旋可動域は,疼痛あり群では投球前28.8±9.0°,投球後31.8±9.8°であり,変化量は-3.0±4.4°であった。疼痛なし群では投球前27.7±10.7°,投球後30.6±12.4°であり,変化量は-2.9±6.0°であった。両群間の変化量には有意な差を認めなかった。外旋筋力は,疼痛あり群では投球前10.9±2.0Nm/kg,投球後10.0±1.7Nm/kgであり,変化量は1.0±0.9Nm/kgであった。疼痛なし群では,投球前10.4±1.7Nm/kg,投球後9.6±1.4Nm/kgであり,変化量は1.2±0.8Nm/kgであった。両群間の変化量には有意な差を認めなかった。内旋筋力は,疼痛あり群では投球前13.9±3.3Nm/kg,投球後13.2±2.8Nm/kgであり,変化量は0.7±1.2Nm/kgであった。疼痛なし群では疼痛前13.2±2.7Nm/kg,投球後13.3±2.9Nm/kgであり,変化量は-0.2±1.9Nm/kgであった。両群間の変化量には有意な差を認めなかった。HERTについては投球前,投球後ともに全例陰性であった。【考察】今回の調査では,課題前後の疼痛あり群の肩外旋可動域の変化量が疼痛なし群に比べ有意に増加した。投球動作は投球側の上肢を振るだけの運動でなく,下肢から体幹そして投球側上肢への運動連鎖である。そうした下肢・体幹のエネルギーを十分に使うことにより投球側上肢の負担は軽減するとの報告がある。疼痛あり群では,投球動作中の下肢から体幹,投球側上肢への運動連鎖が阻害され,十分なエネルギー伝達ができず,上肢への負担が大きくなり,その過剰な負担が肩関節外旋可動域の増加に繋がったものと考えられる。現在は疼痛あり群もHERTは陰性であるが,投球によるストレスが継続すれば,将来的に投球障害肩に進展する可能性も否めない。今後,より詳細に投球動作直後の身体機能の変化と選手個人がもつ身体特性の関係を調査し,投球障害肩発生のメカニズムを探っていきたい。【理学療法研究としての意義】成長期野球選手に対しての全身の身体評価は,安静時の身体機能を評価することが多く,投球直後の身体機能に対しては評価がまだ不十分である。投球動作が身体に及ぼす影響をより明確にしていくことで投球障害肩の予防の一助となると考える。
出版者
甘味資源振興会
雑誌
てん菜研究会報 = Proceedings of the Sugar Beet Research Association (ISSN:09121048)
巻号頁・発行日
no.47, pp.41-44, 2006-05

根腐病防除を茎葉散布により行う方法について検討を行った。その結果、アゾキシストロビン20%フロアブル、ペンシクロン50%顆粒水和剤を用い、早期(6月上旬頃)から防除を開始することにより実用的な効果が得られた。よって、本方法は、株元散布を行う専用の散布器具(根際散布機)を所有していない耕作者の対応策になると考えられた。
著者
秋坂 真史 尾尻 義彦 高倉 実
出版者
日本体力医学会
雑誌
体力科學 (ISSN:0039906X)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.375-381, 1997-08-01
被引用文献数
8 1

In order to obtain the basic data for the relationship between factors related to sports and bone density of high school girls, bone densities of a heel were measured, and physical characteristics and living backgrounds on exercises were surveyed.The subjects were one-hundred and forty two girls (15〜18years, mean±SD=16.5±0.84years)of a high school in Nagano prefecture, accepted our visiting bone health check.Bone density was measured by ultrasound bone-densitometer 'Achilles'(Lunar).As for the data, we obtained the stiffness index(Stiffness)with a self-registered questionnaire for the items of physical and exercise factors for the girls in puberty.High school girls who belong to a sport club have significantly higher bone density than other girls.In detail, those who do the sports which consist of mainly running or jumpping, have significantly higher bone density than others who do no sports.There also were significants on the kinds of sports, on the frequency of sports and on the duration of sports.Moreover, those who had the regular sports history have higher bone density than those who had no regular sports history, and the mean Stiffness of the group that care to do physical exersises daily was higher than those who do not care to do exercises.These results suggest that there are many kinds of factors related to sports which favourably contribute to obtain sufficient bone mass of high school girls who are in a developmental stage.
著者
林 和枝 中島 佳緒里 高見 精一郎 端谷毅
出版者
日本赤十字豊田看護大学
雑誌
日本赤十字豊田看護大学紀要 (ISSN:13499556)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.47-53, 2011-03-31
被引用文献数
1

本研究は、食育推進授業を計画するための基礎資料を作成することを目的とし、女子中学生を対象に骨量・身体測定ならびに生活習慣に関して調査をしたものである。対象は、B 公立中学校に在籍する1 から3 年生の380 名である。骨量の測定は、超音波骨密度測定器を使用し、右踵にて測定した。調査項目は、身長、体重、生活習慣、運動習慣、月経状況である。その結果、3 年生以外で骨量平均値とBMI に有意な相関を認めた。月経の有無と骨量平均値では、3 学年全体と1 年生で有意差がみられた。食生活では、3 年生のみ、偏食のある生徒の骨量平均値が低い傾向を示した。運動習慣は、運動部や学校以外の運動サークルに所属している生徒、小学生の時に運動部に所属していた生徒で、骨量平均値が有意に高い結果が得られた。以上より、女子中学生の骨量増加には、バランスのとれた食事を促すことと、学童期の運動習慣の獲得とその継続の重要性が再確認された。
著者
山口(渡辺) 彩子 綾部 誠也 千葉 仁志 小林 範子 佐久間 一郎 石井 好二郎
出版者
The Japanese Society of Physical Fitness and Sports Medicine
雑誌
体力科学 (ISSN:0039906X)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.305-312, 2014

The purpose of the present investigation was to examine the relationships between the exercise history and the bone mineral density (BMD) and bone mineral content (BMC) in female Japanese young adults using dual X-ray absorptiometry (DXA). One-hundred twenty females, aged between 18 to 28 years, participated in the present investigation. The BMD at the lumbar spine (L-BMD), whole body BMD and BMC (WB-BMD and WB-BMC), lean body mass (LBM) and fat mass (FM) were measured by DXA. Using a self-administrered questionnaire, the exercise habits during preschool (4-6 years), primary school (7-12 years), junior high school (13-15 years), high school (16-18 years), and the current habits (>18 years) were eveluated. The L-BMD, WB-BMD and WB-BMC were significantly higher in the subjects with exercise habits during both the period of <18 years and >18 years compared with those in the subjects without an exercise history during all periods (p<0.05). In a separate analysis with the data stratified by the school age, the subjects with an exercise history during primary school, junior high school, or high school had significantly higher BMD and BMC values compared with the non-exercisers (each, p<0.05). In contrast, the BMD and BMC did not differ significantly according to either the exercise history during pre-school nor the current exercise status. A multiple stepwise regression analysis revealed that the body weight, LBM, FM, age of menarche, and exercise habits during high school were significant determinants of the L-BMD, WB-BMD and WB-BMC (p<0.001). The results of the present investigation show that both the exercise history during school age and the current exercise habits affect the BMD and BMC in young adults. In particular, high school females should be encouraged to participate in the regular exercise to increase their bone health. Future studies will be needed to confirm the targeted age-group(s) for participation in sports/exercise for the improvement of bone health, including an analysis of the type and intensity of exercise/sports.
著者
鈴木 陽一 橋本 明記 田中 祥次 木村 武史
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. SAT, 衛星通信 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.111, no.179, pp.27-32, 2011-08-18

筆者らは21GHz帯放送衛星によるスーパーハイビジョン放送システム実現を目指し,衛星放送を利用したスーパーハイジョン伝送方式の検討に取り組んでいる.本稿では,これまで取り組んできた衛星を利用したスーパーハイビジョン伝送実験を紹介するとともに,誤り訂正符号としてLDPC符号を適用した300MHz級広帯域変復調器の開発について述べる.本装置は,変調方式2種類(Q/8PSK),符号化率8種類(1/2〜9/10)利用可能であり,シンボルレート250Mbaudにおいて251〜677Mbpsの伝送能力を有する.また,LDPC符号はシャノン限界に迫る性能を有するため,復調器の要求条件として訂正限界C/N下でも十分な同期性能を維持する必要がある.今回,π/2シフトBPSK位相基準バースト信号を,主信号に対して間欠的および周期的に挿入する手法を導入し,同期性能の向上を確認した.本報告ではモデムの基本性能であるIF折返しによるC/N-BER特性および位相基準バースト信号の挿入による同期性能向上効果について述べるとともに,WINDS衛星を利用した衛星折返しによる伝送性能についても報告する.
著者
山田 洋一 堀本 ゆかり
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.GbPI1476-GbPI1476, 2011

【目的】理学療法士(以下PT)養成校での教育目標は、「ある程度の助言の下で基本的理学療法が行えるレベル」とされ、卒業後、所謂「一人前」と言われるレベルまでの教育は、所属施設を中心に行われている。しかし、臨床現場における教育方法に、決められた手法はない。養成校教育での教育目標はブルームによる「認知領域」、「精神・運動領域」、「情意領域」の3つの領域「Taxonomy」に分けられているが、卒後教育ではあまり使用されることはない。特に、「情意領域」は、臨床実習で重要視されている反面、卒後教育では個性として解釈されるように思われる。今回の調査では、多項選択肢、自由記載等による無記名「自己認識アンケート」と「PRESIDENT版ゴールドバーグ性格検査」を医療施設に勤務するPTに行い、臨床現場で働くPTの意識調査を行い、「性格特性」との関連に知見を得たので報告する。<BR>【方法】静岡県内の医療施設を無作為に抽出し、そこに勤務するPTに郵送で調査を行った。調査期間は平成22年10月18日から10月22日までとし、5施設67名から回答を得た(回収率:100%)。対象者の内訳は、平均年齢29.5±6.5歳、平均経験年数6.4±5.7歳(男性42名、女性25名)最終学歴は、大学院1名、大学6名、短大1名、4年生専門学校23名、3年生専門学校36名である。統計解析は(株)日本科学技術研修所 JUSE StatWorks Ver.4.0を使用し、数量化1類で解析した。<BR>【説明と同意】ヘルシンキ宣言に準拠し、対象者には本研究の意義を説明し、同意を得たうえで実施した。<BR>【結果】まず、「免許取得後、一人前と判断する経験年数」は、経験年数に関係なく、概ね10年前後と回答しているものが多かった。「自己意識で治療技術と学術面のいずれの重要度が高いか」の質問では、経験年数が低いほど「治療技術向上」の重要度が高いと回答した。さらに「論文等への興味の有無」で層別化したところ経験年数が上がるにしたがい、「興味がない」と回答した者は「治療技術向上」の重要度が増加し、「興味がある」と回答した者は「学術的向上」が増すという傾向を示していた。<BR>「PRESIDENT版ゴールドバーグ性格検査」の結果では、「神経症傾向」が高い者のほうが「治療技術」の重要度が高い傾向がみられた。また、今後の自己課題の内容を問う設問では、臨床能力・問題解決能力・教育力・折衝力・リーダーシップ力・マネジメント力のうち「外向性」が低い者ほど「問題解決能力」が課題であると回答していた。さらに、目的変数を「一人前と判断する経験年数」とし、相関係数行列で関係性の強い変数を選択し数量化1類で解析したところ、今後必要とされる要因では「教育力」、「治療技術」、「マネジメント力」、性格特性では「外向性」が選ばれた(重相関係数 0.752)。選ばれた変数の中でも特に「教育力」の分散比が大きい傾向であった。<BR>【考察】ノーマンは人間の性格特性を「神経症傾向」、「外向性」、「開放性」、「調和性」、「誠実性」の因子に収斂されるとした。この性格特性と職業適性の間には高い相関性があるとしている。我々の業務の中心は患者と向き合い、理学療法を通して医学的側面から患者の社会適応性を高めることである。しかし、それ以外に日常的にそれぞれのポジションによる管理業務や調整、採算の効率化、教育なども行っていかなければならない。今回の回答で、解析上、PTが「一人前」になるための条件として「教育力」が選択されたことは、治療技術向上だけではPTとしての完成形ではないという意識の現れであると思われる。卒後教育に多くを依存する治療技術の習熟にはある程度のトレーニング期間が必要である。日常業務の中で上質な治療技術を提供し、患者貢献に役立てたいと思う若手の焦りは当然であろう。しかしながら、専門理学療法士制度にも垣間見るように理学療法は科学的根拠に基づく治療技術のスタンダード化を求められている。根拠のある治療技術の習得の基盤は学術的実績の積み重ねであることを認識することが重要と思われる。<BR>また、若手の教育では性格特性を踏まえて、教育法を選択しキャリア構築することが重要と思われる。中堅職員の育成に向け、早期に臨床的技術・学術・性格という3要素を考慮し、職場内教育を展開することは、組織の戦略上重要な課題であると考える。<BR>【理学療法学研究としての意義】専門理学療法士制度では、臨床技術・学術の双方の能力が求められている。この数年急増している若手職員の教育の如何では、PTの質の低下は加速する事が懸念される。さらにそれは彼らが教育する臨床実習生にも波及していく。若手のリテラシーの低下が懸念されるなか、より効率的な若手教育に向け意識や要因を分析し、教授方法を検討することは急務であると考える。
著者
北川 尚史
出版者
日本蘚苔類学会
雑誌
日本蘚苔類学会会報 (ISSN:02850869)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.21-22, 1977-08-10
著者
中村 菊之進
出版者
東北大学文学会
雑誌
文化 (ISSN:03854841)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.p43-50, 1992-09
著者
中村 順
出版者
安全工学会
雑誌
安全工学 (ISSN:05704480)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.67-72, 2011-04-15
参考文献数
12

<p>警察は産業事故についても事実を明らかにし,原因を究明して安全を確保する責務がある.対象となる事故は,死傷者を伴う事故や,社会的に関心の高い事故となる.現場検証は裁判所の令状に基づく公式な事故を記録するものである.関係者の供述についても証拠化され,他の調査機関と異なり,人に関する事故に至る背景,事情までも含めて調査を行うことになる.事故原因を明らかにして,責任を明確にすることが求められている.責任者の処罰ではない.</p>
著者
片岡 正教 安田 孝志 藤本 愛美 川崎 純 木村 大輔 島 雅人 赤井 友美 上田 絵美 山本 真士 日下 由紀夫 石原 みさ子 奥田 邦晴
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.E4P3215-E4P3215, 2010

【目的】<BR> 2009年9月8日~15日、東京にてアジアユースパラゲームズが開催され、14歳~19歳の身体障害者、知的障害者のユース選手を対象に陸上競技、ボッチャ、ゴールボール、水泳、卓球、車いすテニスの6競技が行われた。その中で、日本障害者スポーツ協会の次世代育成強化事業として、理学療法士10名が科学委員として関わり、大会参加選手の競技動作のデータ収集を行った。本研究の目的は、次世代を担うユース選手に対しての競技力向上における理学療法士の関わりについて、実際の競技場面での動作解析の有用性を通して、今大会で行ったデータ収集と共に報告することである。<BR>【方法】<BR> 対象は、2009アジアユースパラゲームズ陸上競技に参加した27ヶ国229名の選手であり、日本代表選手約65名を中心としたアジア各国代表選手であった。そして、対象種目は短距離走、長距離走、リレー競技、砲丸投げ、円盤投げ、走り高跳び、走り幅跳びであり、9月11日~13日に行われた実際の競技場面における動作をハイスピードカメラ(CASIO EXILIM EXF-1)及びデジタルビデオカメラを用いて撮影した。ハイスピードカメラの取り込み周波数は300Hzとした。また、デジタルビデオカメラで撮影した動画は二次元動作解析ソフトDARTFISH(DARTFISH社)で解析・処理を行った。そしてそれらの動画をDVDデータとして各国のパラリンピック委員会、撮影対象選手ならびに主催者であるアジアパラリンピック委員会に配布した。<BR>【説明と同意】<BR> 本研究は日本障害者スポーツ協会の科学支援事業として行い、大会主催者であるアジアパラリンピック委員会からも承認を得た上で行った。<BR>【結果】<BR> トラック競技においては、スタートダッシュや走動作、長距離走における周回ごとのフォームの違い、リレーのバトンパス等、フィールド競技では投てき種目でのスローイングフォーム、跳躍種目での踏み切りや跳躍動作等、実際の競技場面における選手の素早い動作を、ハイスピードカメラで撮影した動画によりスローモーションでより詳細に確認することができた。二次元動作解析では、実際の競技場での撮影であり、キャリブレーションを行うことができなかったため、各関節の角変位や角速度などの動作解析指標は算出することができなかった。しかし、ストロモーションという処理で、走動作や跳躍動作の連続的な動作を確認したい相に分けて観察することができた。その後、これらのデータは各国選手団の代表者が集う会議で公表され、各国から大きな賞賛を得ることができた。<BR>【考察】<BR> 我々は過去にも、日本障害者スポーツ協会の科学支援事業として、いくつかの競技団体に対して、競技力向上のために動作解析を行い、その中で、選手に対して解析したデータを用いたフィードバックを行ってきた。障がい者のスポーツは決して特殊なスポーツではなく、身体に何らかの障害があるためにできないことをルールや道具を適応させて行うものである。障がい者の障害特性や個人の身体機能を理解した理学療法士が、専門的な知識をもって行う「動作解析」を通して選手に関わり、フィードバックや動作の指導を行うことは、障がい者のスポーツ選手における競技力向上、選手育成に対して、非常に有用であると言える。また今回は、ハイスピードカメラで撮影した動画による動作解析という、より身近で安価な機器を用いることによってもデータ収集を行うことができた。今までも競技場面に近い状況下でのデータ収集を行ってきたが、今回はハイスピードカメラ及びデジタルビデオカメラで撮影した動画からの二次元動作解析によって、実際の競技場面でリアルタイムにデータ収集、動作解析を行うことができた。そしてこれらのデータは各選手、各国にDVDデータとして配布され、特別なソフトなどを使用することなく視聴することができ、自分自身の動作をより詳細に、客観的にチェックできるものであった。今回の動作解析手法を用いたデータ解析は簡便で一般的に行いやすいものであり、臨床場面において、障がい者と関わる理学療法士がこのような事業に関わっていくことが、障がい者の競技スポーツへの参加を促すきっかけにもなることが示唆された。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 本研究のように、障がい者のスポーツにおける理学療法士の関わりや動作解析の有用性を報告することで、障がい者の障害特性や身体機能を理解した理学療法士の知識や技術が選手の競技力向上のためには欠かせないものであり、理学療法士が臨床場面だけにとどまらず、幅広い分野で活躍が再確認された。また、これらの情報を当事者に提供していくことで、障がい者の社会参加を支援する一手段となりうることが考えられた。
著者
浅山 滉 中村 裕 緒方 甫 森田 秀明 児玉 俊一 畑田 和男
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.121-130, 1984-06-01
被引用文献数
1

国際障害者年を記念して, 初の大分国際車いすマラソン大会(ハーフマラソン:21.1km)が催された. 参加各国選手から任意に選んだ選手を対象に, 大会における選手の体力医学的検討を行った. 脊髄損傷による対麻痺者は体力の向上が望まれるが, 病態生理学的に問題が多く, 持久的体力を必要とする運動には危惧の念があった. 予備試験で車いすトレッドミルの負荷テストを行い, 各人の心拍数と酸素消費量(V0_2)の相関式を得て, 実際のレース時に装着した心拍数記憶箱から得られた値を基に, レース中の推定V0_2を得た. (結果)平均87.1±9.1分間(n=5)にV0_2-34.17+8.11ml/kg/minであり,レース中の高い心拍数(191-152拍/分)の割には低いV0_2であった, 脊損者は事故もなくこの持久運動に十分に耐え, 車いすマラソンは対麻痺者の体力向上に優れたスポーツであると考えられたが, 被検者は体力向上の余地があると思われた.