- 著者
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汪 光煕
三浦 励一
草薙 得一
- 出版者
- 日本植物分類学会
- 雑誌
- 植物分類・地理 (ISSN:00016799)
- 巻号頁・発行日
- vol.46, no.1, pp.55-65, 1995-07-28
- 被引用文献数
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ミズアオイは東アジアに分布する抽水性の一年草であり, 水田, 水路, 多湿地などに多い。本研究では中国の黒龍江省, 吉林省, 遼寧省と日本の福井県三方郡の自然集団および京都大学付属農場の人工集団で, 水田雑草ミズアオイの花の形態と送粉様式について検討した。ミズアオイの花には雄蕊が6個ある。5個は小さくて葯は黄色, 1個は大きくて葯は花被片と同じ青紫色である。両方とも稔性のある花粉をつくる。その花には鏡像二型性が見られる。即ち, 花から見て大雄蕊が右側, 柱頭は左側に位置するもの(L型)と, 反対に大雄蕊が左側, 柱頭は右側に位置するもの(R型)がある。L型の花とR型の花は花序の各分枝上に交互に付く。主要な訪花昆虫は二ホンミツバチ, クマバチおよびマルハナバチ類であった。これらのハチが訪花した場合, 大雄蕊と柱頭は昆虫の体の左右対称の位置に接触する。従って, 異花受粉は異型花の間で起こりやすく, 同型花の間では起こりにくいことが予想される。また, 大雄蕊が青紫色をしているのは他殖用の花粉を昆虫に食料として持ち去られないための適応であると考えられる。黄色い小雄蕊は昆虫を引きつける目印であり, また, ミズアオイの花には蜜腺がないので, 小雄蕊の花粉は昆虫への報酬でもある。さらに, 昆虫が訪れない場合でも, 柱頭の上方に位置する小雄蕊によって自花受粉で種子をつくることができる。ミズアオイ集団内の虫媒による異花受粉は隣花受粉(同株同花序異花受粉, 同株異花序受粉)と他家受粉(同集団異株受粉)との様式がある。同一個体上に同時に異なる型の花が咲いた場合は隣花受粉が起こり得るので, ミズアオイの花の鏡像二型性は自殖回避の機構としては不完全である。しかし, 一個体に同時に咲く花の数が多くない場合には有効に他殖を促進する可能性がある。