著者
伊奈 林太郎 五十嵐 淳
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.2_18-2_40, 2009-04-24 (Released:2009-06-24)

静的型システムと動的型システムの両者の利点を活かす枠組みとして,SiekとTahaは漸進的型付けを提唱している.漸進的型付けでは,型宣言された部分のみ静的型検査が行なわれ,残りの部分については実行時検査が行なわれる.これにより,当初型を付けずに書いたプログラムに型宣言を徐々に付加し,静的型付けされたプログラムを完成させることができる.本研究では,漸進的型付けをクラスに基づくオブジェクト指向言語で実現する理論的基盤として,Igarashi, Pierce, Wadlerらの計算体系Featherweight Java (FJ)に動的型を導入した体系FJ?を定義し,型付け規則を与える.さらにFJ?からFJにリフレクションを加えた体系への変換を定義することで意味論を与え,静的に検査した部分の安全性が保証されることを示す.
著者
久世 濃子 五十嵐 由里子
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第30回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.58-59, 2014 (Released:2014-08-28)

ヒトでは、骨盤の仙腸関節耳状面前下部に溝状圧痕が見られることがあり、特に妊娠・出産した女性では、深く不規則な圧痕(妊娠出産痕)ができる。妊娠時に仙腸関節をつなぐ靭帯がゆるみ、出産時に軟骨が破壊されることで、妊娠出産経験のある女性で特徴的な圧痕が形成される、と言われている。直立二足歩行に適応して骨盤の形態が変化し、産道が狭くなった為にヒトは難産になった、と言われている。妊娠出産痕もこうしたヒトの難産を反映した、ヒト経産女性特有の形態的特徴であると考えられてきた。しかし、妊娠出産痕と異なるタイプの圧痕は、男性や未経産の女性でも見られ、その形成要因は明らかではない。またヒト以外での種で、耳状面前下部に圧痕があるかどうかを確かめた報告はない。そこで本研究では、圧痕がヒトに特有な形質なのか否かを明らかにし、圧痕の形成要因について新たな知見を得ることを目的とした。博物館等に収蔵されていた動物園由来で妊娠出産等の履歴がわかる大型類人猿3属(ゴリラ:7個体、チンパンジー:15個体、オランウータン:10個体、合計33個体)の耳状面前下部を観察し、圧痕の有無や、その形状を調べた。その結果、ゴリラとチンパンジーの雌雄で、耳状面前下部に圧痕がある個体が観察され、特にゴリラでの溝の出現頻度は71%と高かった(チンパンジー40%、オランウータン20%)。またゴリラの経産雌1個体とチンパンジーの経産雌3個体で、ヒトの妊娠出産痕に近い、不規則な形の圧痕が観察された。以上より、耳状面前下部の圧痕はヒト特有のものではなく、大型類人猿に共有される形質であることが初めて明らかになった。大きな体で体幹を垂直にした姿勢をとることが多い、大型類人猿の形態や運動様式が、骨盤に負荷をかけることで圧痕が生じている可能性がある。今後はさらにサンプル数を増やし、圧痕の形成要因等について考察を深めることを計画している。
著者
中江 竜太 佐々木 和馬 金谷 貴大 富永 直樹 瀧口 徹 五十嵐 豊 萩原 純 金 史英 横堀 將司 布施 明 横田 裕行
出版者
一般社団法人 日本外傷学会
雑誌
日本外傷学会雑誌 (ISSN:13406264)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.398-402, 2019-10-20 (Released:2019-10-20)
参考文献数
12

カイロプラクティックという軽微な外力により両側頸部内頸動脈解離を来したと考えられた1例を経験したので報告する. 症例は41歳の女性, 痙攣を主訴に救急搬送された. 頭部CTでくも膜下出血を, 脳血管撮影でくも膜下出血の原因と考えられる左内頸動脈瘤を認めた. また両側頸部内頸動脈解離を認めた. 同日脳動脈瘤クリッピング術を行ったが, 翌日脳梗塞が出現した. その後の病歴聴取で27日前からのカイロプラクティックへの通院歴が判明し, 両側頸部内頸動脈解離の原因であると考え, 脳梗塞の原因も左頸部内頸動脈解離からの血栓塞栓症と考えた. 抗血小板薬で治療を行い第29病日にリハビリ病院に転院した. 発症3ヵ月後のMRAでは両側頸部内頸動脈解離は軽快した.
著者
藤崎 順子 山口 和久 山本 智理子 堀内 裕介 大隅 寛木 吉水 祥一 片岡 星太 平澤 俊明 由雄 敏之 石山 晃世志 山本 頼正 土田 知宏 五十嵐 正広
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.778-787, 2016-05-25

要旨●2013年4月〜2014年3月までの間に,当院でESDを施行した症例中,除菌後発見胃癌症例166例の検討を行った.臨床的には陥凹型,分化型が多く,除菌後5年未満,5年以上に分けると,5年以上で発見された病変サイズは小さい傾向にあった.さらに,レトロスぺクティブに画像の解析が可能であった分化型優位の140例について検討を行った.術前にNBI拡大内視鏡検査にて範囲診断を施行し,ESDを行った結果,病理学的に水平断端陽性,もしくはマーキング上に病変範囲が乗っていた範囲誤診例だった症例は,5年未満で79例中1例(1.3%),5年以上で61例中3例(4.9%)と5年以上の症例で多かった.画像の検討が可能であった140例は,除菌後5年未満が79例,5以上〜10年未満が38例,10年以上が23例であった.NBI拡大内視鏡検査での胃炎様所見は,5年未満で34例(43.0%)にみられ,5年以上で25例(41.0%)であった.さらに,5年以上を5〜10年と10年以上に分けた場合,5〜10年で13例(34.2%),10年以上経過例では12例(52.2%)であり,10年以上で高い傾向を示した.病理組織学的に表層の非癌上皮が確認できた症例は,5年未満で27例(34.2%),5〜10年で8例(21.1%),10年以上で8例(34.8%)であった.今回の検討では除菌後長期例での胃炎様変化の出現率が高かった.
著者
前田 治男 五十嵐 雅之 宮川 喜洋 小林 肇 佐藤 光三 眞弓 大介 坂田 将
出版者
石油技術協会
雑誌
石油技術協会誌 (ISSN:03709868)
巻号頁・発行日
vol.76, no.6, pp.530-537, 2011 (Released:2014-01-18)
参考文献数
7
被引用文献数
1 2

INPEX Corporation, Tokyo University and Natural Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST) have been working since 2008 to study methane-producing technology using microbes inhabiting depleted oil and gas fifields. The concept and mechanism of microbial methane conversion are depicted as follows. First, inhabiting bacteria prompt to produce acetic acid or hydrogen from residual petroleum components in the underground reservoir. Next, methane-producing microbes (methanogens) are concerned in generating methane from the produced acetic acid, hydrogen and carbon dioxide injected for geological sequestration as CCS operation.A wide variety of hydrogen- and methane-producing microbes have been discovered in (depleted) oil fields. We found that microbes indigenous to the reservoir brine could produce methane probably by using crude oil as a carbon source in the presence of CO2 (10 mol%).Kinetics of gas (methane, carbon dioxide) production and consumption of acetic acid indicated that there are two reaction pathways from oil to methane; the acetoclastic methane producing pathway and the hydrogentrophic methane producing pathway.Furthermore, from the result of methane producing experiments and Carbon isotope tracer test, the existence of syntrophic cooperation between hydrogen producing bacteria and methane producing archaea is also identified.We are currently evaluating the way to enhance the capability of methane-producing microbes and developing an effective and efficient process for methane production in the actual reservoir condition.Our results will lead to establish a new MEOR system that converts residual oil in depleted oil fields into environmentally friendly methane efficiently.
著者
久木元 由紀子 藤重 仁子 外村 晴美 五十嵐 淳介 前田 薫
出版者
森ノ宮医療大学 紀要編集部会
雑誌
森ノ宮医療大学紀要 = Bulletin of Morinomiya University of Medical Sciences
巻号頁・発行日
no.13, pp.1-14, 2019-03-20

現在欧米で一般的に実践されている現代ヨガは、アーサナと呼ばれる身体的ポーズに力点をおいたもので、それに体の姿勢、呼吸法、そして瞑想を組み合わせた健康やフィットネスを目的とするエクササイズであり、また補完代替医療(Complementary and Alternative Medicine:CAM)の一療法とも位置づけされるのが一般的になっている。その医学的有効性についての期待も高まっていることから、本研究では、現代ヨガと補完医療における位置付けについて、心疾患・肥満・乳がんの医学的有効性について、エビデンスをレビューしたので紹介する。結果として、ヨガによって生活習慣を改善すると心疾患のリスク因子を低減できる可能性が高いこと、過体重者ではヨガの定期的な実施と体重増加の緩和が関連していること、乳がんサバイバーにおいて不安・うつ・QOLにおいて効果があることなどが示唆された。しかし、それらの効果が運動そのものによる効果なのかヨガに特異的な効果なのかについては明らかにされていないため、今後のさらなる検証を期待したい。
著者
川上 未映子 杉浦 久子 五十嵐 太郎 平塚 桂
出版者
一般社団法人日本建築学会
雑誌
建築雑誌 (ISSN:00038555)
巻号頁・発行日
vol.123, no.1579, pp.3-5, 2008-08-20

第138回芥川賞を受賞した作家・川上未映子氏。関西弁をまじえたリズミカルな文体で状況を断続的に描写しながら、最終的に大きな骨格へと到達するあざやかな構成が評価を受けている。歌手活動を続けながら文学の世界へと飛び込んだジャンルを横断するクリエイターでもある川上さんの、言葉に対する思いや小説の構造への興味、創作の姿勢をうかがった。
著者
村上 道夫 小林 智之 越智 小枝 後藤 あや 五十嵐 泰正
出版者
一般社団法人 日本リスク学会
雑誌
リスク学研究 (ISSN:24358428)
巻号頁・発行日
pp.SRA-0361, (Released:2021-05-19)
参考文献数
41

A planning session was held at the 33rd Annual Meeting of the Society for Risk Analysis, Japan, with the aim of sorting out the similarities and differences between the Fukushima disaster and the COVID-19 pandemic, and discussing the implications for social policy. This paper reports on the planning session, entitled “Thinking about COVID-19 from Fukushima and Fukushima from COVID-19.” This paper reports on the topics including “Risk perception, psychological distress and social division at the Fukushima disaster and COVID-19 pandemic,” “Why Japanese people pursuit null-risk?: Lessons learned from the two disasters,” “Risk perception and resilience among mothers: Data from the Fukushima nuclear accident and COVID-19 pandemic,” and “Perspectives on societal risk trade-offs: Nuclear accident /pandemic.” Although the disaster and the pandemic have different characteristics, it was confirmed that there are many findings that need to be shared regarding various individual and societal risk issues, risk trade-offs, and measures to recognize and adapt to these risks. The significance of interdisciplinary and bird’s eye view disaster risk research across disaster types and disciplines was highlighted.
著者
五十嵐 由紀 緒方 茂樹
出版者
琉球大学
雑誌
琉球大学教育学部障害児教育実践センター紀要 (ISSN:13450476)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.109-123, 2001-03-31

本研究では、特に知的障害特殊学級に在籍する自閉的傾向を伴う知的障害児の事例について、教科としての音楽の枠組みにとらわれずに、学校生活全般にわたる各場面で音楽を活用した取り組みを行った経過とそれに伴う子どもの発達についてまとめ、事例を通して障害児教育における「音楽を活用した取り組み」の有効性について検討を加えた。小学校1年生から本児を実際に担当した2年間の取り組みの内容から、音楽や歌遊ぴを活用した取り組みを続けることで、自閉的な傾向をもつ知的障害児の全般的な発達を促すことができた。すなわち、歌に含まれる歌詞の意味を少しずつ理解することで、ある程度他人の気持ちを理解できるようになり、その結果として対人関係の改善がみられた。また当初は覚えているだけで言葉として理解されていなかった歌詞の内容が、教師との歌遊びを通じて有意味なものに変化するなかでコミュニケーション能力の発達が促され、場に応じた言葉の使い方などを身につけることができた。その他にも算数や図工の教科の時間に、数や色の概念を含んだ歌を歌いながら指導することで教科の内容の理解が進んだ。本児は歌を歌うことにきわめて大きな興味・関心を示す特異的な事例であったが、自閉的な傾向を伴う知的障害児に対する音楽を活用した取り組みの有効性が示されたと考えられる。
著者
五十嵐 隆
出版者
公益財団法人 日本学術協力財団
雑誌
学術の動向 (ISSN:13423363)
巻号頁・発行日
vol.22, no.10, pp.10_19-10_23, 2017-10-01 (Released:2018-02-10)
参考文献数
5
著者
前川 喜久雄 五十嵐 陽介
出版者
日本音声学会
雑誌
音声研究 (ISSN:13428675)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.33-42, 2006-08-30

In Tokyo Japanese, bimoraic accented particles like /ma'de/ and /su'ra/ are believed to lose their lexical accent when they are coupled with accented content words like /kyo'Hto made/. The deletion of particle accent, however, does not occur regularly. There are cases where particles constitute independent accentual phrases of their own, thereby preserving their lexical accents like in /kyo'Hto ma'de/. This paper examines this prosodic phenomenon by analyzing the Corpus of Spontaneous Japanese (CSJ). Analysis of CSJ revealed that none of ten particles examined in this study showed perfectly regular accent deletion. It also turned out that there were four factors that favored independence of particles, viz., 1) semantic property of particles, 2) distance between preceding lexical accent and that of particles, 3) presence of BPM tones in the particles, and, 4) speaking style. Various analyses suggested consistently that it was the semantic property of particles that was the most influential. Particles of contrast and/or limitation (toritate nojoshi) like /ko'so/, /su'ra/, /sa'e/, /no'mi/ tend to retain their accent and prosodic independence much more frequently when compared to other particles including /na'do/, /ma'de/, /yo'ri/, /de'wa/, and /de'mo/.
著者
阿部 智美 相田 潤 伊藤 奏 北田 志郎 江角 伸吾 坪谷 透 松山 祐輔 佐藤 遊洋 五十嵐 彩夏 小坂 健
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.143-152, 2019-05-31 (Released:2019-05-31)
参考文献数
32

目的:医療系大学生の社会関係資本及び社会的スキルの精神的健康に対する関連について検討することを目的とした.方法:質問紙調査による横断研究を行った.医療系大学生648名を対象に質問紙を配布し,回収された質問紙の有効回答414名を分析対象とした.分析は,属性(学校,性別,学年,同居形態,親の学歴),社会関係資本(認知的社会関係資本,構造的社会関係資本),社会的スキルを独立変数,対数変換した精神的健康度を従属変数として重回帰分析を行った.結果:重回帰分析から,学校の認知的社会関係資本(β=-0.13, P=0.02),友人・知人との集まり「週に数回」(β=-0.15, P=0.045),社会的スキル(β=-0.24, P<0.01)が精神的健康度の高さに関連していた.反対に,グループ学習「年に数回」(β=0.20, P<0.01),「月に数回」(β=0.15, P=0.01),「週に数回」(β=0.11, P=0.04)が精神的健康度の低さに関連していた.結論:医療系大学生の高い認知的社会関係資本及び社会的スキルのスコアはより高い精神的健康と関連していた.これらの関連については,さらに検討が必要である.
著者
渡部 茂 大西 峰子 河野 英司 新川 斉 五十嵐 清治
出版者
一般財団法人 日本小児歯科学会
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.57-63, 1990-03-25 (Released:2013-01-18)
参考文献数
34

小児の唾液クリアランス能に関与している唾液分泌量について,生理学的な背景を得るために,5歳児,男女各20名の安静時唾液分泌量と,クエン酸刺激による最大唾液分泌量を測定した.クエン酸は1%(52mmol/l),3%(156mmol/l),5%(260mmol/l)溶液を用い,直径2.5mmのチューブにて,流速5ml/minで1分間口腔内を刺激し分泌された唾液量を測定した.安静時分泌量は首をやや前傾させ,口を軽く開け,舌,口唇を動かすことを禁じたまま5分間採取し,1分間の分泌量を求めた.その結果,平均の安静時唾液分泌量は,0.24±0.13ml/minで,1%クエン酸による分泌量は2.34±1.11ml/min,3%クエン酸では3.18±1.03ml/min,5%クエン酸では4.25±1.38ml/minであった.これら全ての値に男女間の有意差は認められなかった.5%クエン酸による分泌量を100%とした場合,安静時唾液分泌量は約5%,1%クエン酸による分泌量は約57%,3%では約80%を示していた.これは同様の実験で得られたBecksら,Watanabeらの成人の値と比較すると,ほぼ等しい割合を示していた.また,安静時唾液分泌量は成人の分泌量の約75%,各クエン酸溶液による分泌量は成人の約50~60%の範囲にあった.今回の結果は乳歯列での唾液クリアランス能を成人と比較して考えるうえで重要な示唆を与えるものと思われた.