著者
入江 彰昭 原田 佐貴 内田 均 竹内 将俊 Teruaki Irie Saki Harada Hitoshi Uchida Masatoshi Takeuchi
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.9-18, 2020-06-29

本研究は,宮城県・岩手県において数百年以上の間,持続的なマネジメントによって維持されてきた屋敷林「居久根(いぐね)」の多面的機能性,特に居久根の植栽構成の工夫と生活文化的価値,防風効果の価値,および鳥類の生息環境としての価値を明らかにした。1)居久根の竹類を除いた樹木構成は針葉樹7割,常緑広葉樹2割,落葉広葉樹1割であった。居久根の北西側に枝葉の細かいスギやアスナロなど常緑針葉樹を多数植栽することで防風効果を高めると同時にこれらの樹種は建築材として活用され,スギ下に植えられたタケ類は防風用として,かつ農業・漁業の道具として活用されていた。潮風に強いヤブツバキやマサキ,湿地帯に適応したハンノキを植栽する工夫がみられた。2)居久根の内外の気象データの解析から,居久根は冬季の季節風を7-9割減速させ,居久根内の母屋に安定した居住環境をもたらしていることを明らかにした。さらに3次元GISとCFD(Computational Fluid Dynamics)による風況解析シミュレーションによって居久根の防風効果と風の流れを可視化することで,減速域が風下側に約100 m以上の距離にまで広がっていることがわかった。3)冬季鳥類の生息環境としての居久根の機能を明らかにするため,水田域内の農地,居久根が含まれる水田域内の農地,丘陵樹林地の異なる3つの環境を対象に調査した。その結果,居久根が含まれる農地で31種が確認され,地点当たりの確認種数は水田域内の農地よりも多く,居久根は樹林内や林縁を好む種の生息場所として機能していた。今日の大災害時代の我が国においてグリーンインフラとしての多面的機能性を有する居久根は,気候変動の緩和と適応や災害に対するレジリエンスをはじめ,屋敷林文化の価値,野生動物の生息場所の提供,故郷の風景の再生や愛郷心に大いに貢献できると考えられる。
著者
内田 充範
出版者
山口県立大学
雑誌
山口県立大学学術情報 (ISSN:21894825)
巻号頁・発行日
no.13, pp.1-11, 2020-03-31

2015年4月から、生活困窮者自立支援法に基づく支援事業がスタートした。この生活困窮者自立支援事業に、学習支援をはじめ、日常的な生活習慣の修得や仲間と出会い活動ができる居場所づくり等、子どもと保護者の双方に必要な支援を行う「生活困窮世帯の子どもの生活・学習支援」がある。本稿は、この生活困窮者自立支援事業の「生活困窮世帯の子どもの生活・学習支援」を実施している独立型社会福祉士へのインタビューから、独立型社会福祉士によるソーシャルワーク実践の価値について明らかにした。独立型社会福祉士によるソーシャルワーク実践も社会福祉士の業務実践の専門性と守るべき規範を広く社会に宣言した『社会福祉士の倫理綱領・行動規範』をよりどころとしている。この『社会福祉士の倫理綱領・行動規範』の基盤とされたのが、国際ソーシャルワーカー連盟による『ソーシャルワークのグローバル定義』である。この定義から、社会変革、社会開発、社会的結束、エンパワメント、解放、社会正義、人権、集団的責任、多様性尊重の9つのキーワードを抽出し、独立型社会福祉士の実践と照合したところ、そのソーシャルワーク実践は、『ソーシャルワークのグローバル定義』の具現化に他ならないものであった。当事者主体の基本姿勢を基盤としながら、自身のソーシャルワーク技術を向上させるべく、日々研鑽に努めている姿勢こそが、『ソーシャルワークの価値』の自覚であり、この独立型社会福祉士のソーシャルワーク実践が、「社会が危機的状況にある時代」に変革を起こし、新たな社会を構築していくと考える。
著者
宮本 真二 安藤 和雄 内田 晴夫 バガバティ アバニィ・クマール セリム ムハマッド
出版者
人文地理学会
雑誌
人文地理学会大会 研究発表要旨
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.5, 2009

ブラマプトラ川流域における高所と低所の土地開発過程の検討を行った.低所では,バングラデシュ中部における沖積低地の開発は,1.3千年前以降に定住化が開始した.一方,高所であるインド北東部山岳地域の土地開発の集中化は,1千年前以降であることが明らかとなった.
著者
内田 杉彦
出版者
一般社団法人 日本オリエント学会
雑誌
オリエント (ISSN:00305219)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.1-18, 1983-09-30 (Released:2010-03-12)

imy-r ic3ww (overseer of ic3ww) is the title of the officials who played very great roles in the Sixth Dynasty's Policy towards Nubia. But, there are different opinions about the characters of ic3w (plural ic3ww) and of imy-r ic3ww.The aims of this paper are to consider their characters and roles in Egypt-Nubia relations in the Sixth Dynasty Period, and by doing so, to suppose the nature of the Sixth Dyasty's policy towards Nubia.The results are as follows:(1) ic3ww means ‘Egyptianized Nubians’, who originally were the descendants of the captives taken to Egypt from Nubia by some military expeditions before the Sixth Dynasty Period.They worked as the intermediaries between Egyptians and the natives of Nubia.(2) The main duty of imy-r ic3ww is to gain from the natives of Nubia the southern products, and cooperation including the offer of soldiers, by way of the dealings including barter.His activity was assisted by his followers, namely ic3ww.(3) The main objects of the Sixth Dynasty's policy towards Nubia are to gain the southern products easily from the natives of Nubia, and to make use of them as human resources, by way of the comparatively peaceful rule.
著者
秦 祐也 永井 修平 大屋 裕二 辻 美奈子 内田 孝紀 烏谷 隆
出版者
一般社団法人 日本風工学会
雑誌
風工学シンポジウム論文集
巻号頁・発行日
vol.21, pp.257-262, 2010

ポーラス状の外側部をもつ円柱のポーラス部の透過率Ctを変化させ、流れ場について数値計算(2D-DNS)を用いて詳細に検討した.透過率を変えることで流れ場の構造に3つのレジームが現れ、それぞれのレジームの流れ場は以下のようになった.レジームI(Ct< 1.0): 内部の円柱からKarman渦列が形成され、それとポーラス外縁から生じる2つの剥離せん断層が干渉する.レジームII(1.5 < Ct <10): 内部の円柱から渦列は発生せず、ポーラス外縁から生じる剥離せん断層が遠くの下流位置で渦形成を行う.レジームIII(15 < Ct ): ポーラス外縁から生じる剥離せん断層が物体背後に近づいてKarman渦列を形成する.
著者
内田 弘
出版者
The Japanese Society for the History of Economic Thought
雑誌
経済学史学会年報 (ISSN:04534786)
巻号頁・発行日
vol.39, no.39, pp.50-57, 2001 (Released:2010-08-05)

Marx-studies have brought about significant outcomes in spite of the collapse of the Soviet regime. The history of the extreme controversies following Marx's death reveals the essence of Marxian economics. Marx-lexicons recently published evaluate Marx in the light of the 19th century background and the 21st century problematic background. Following W. Hiromatsu's pioneering critical edition in which he condemns Adoratskij's as a fake, texts of Marx-Engels' German Ideology are reedited in new publications. Marx's theory of disposable time finds its actuality in the signs of post-capitalist society in which people want to utilize free time in realization of social causes regarding ecology, gender, minority and communal activity, etc. Marx's theory of history sees developing countries as articulating elements of a capitalist mode of production through the world system and coming to face the same social needs as industrialized countries.
著者
内田 あや 大橋 美佳 中村 美保 松田 秀人
出版者
名古屋文理大学
雑誌
名古屋文理大学紀要 (ISSN:13461982)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.33-39, 2008-03

米飯食は伝統的な日本型食生活の中心であり,日本食は肥満や糖尿病食として推奨されている.米飯食が血糖コントロールの面から良い食品であるかをパン食と比較検討した.被験者は19〜20歳の健常な女性35名で,被験食品(約350kcal)を10分間で摂取させた.空腹時,食後30分,60分,90分,120分の計5回指先より採血し血糖測定器で測定した.その結果,空腹時血糖値は全員110mg/dL未満で耐糖能異常者はいなかった.食後60分,90分,120分の来飯食の血糖値がパン食より有意に高かった.また,体脂肪率30%以上の被験者ではパン食と米飯食間での有意差はなく,30%未満では食後60分,90分,120分の米飯食の血糖値がパン食より有意に高かった.米飯食で比較すると体脂肪30%未満が30%以上に比べて食後30分値が有意に高かったが,パン食では有意差はなかった.体脂肪率30%以上の人には内臓脂肪によるインスリン抵抗性が惹起しているのではないかと考えられる.
著者
松尾 俊彦 内田 哲也 山下 功一郎 松尾 智江 川上 雄祐 人見 敏哉 多賀 幹治 眞田 達也 山下 祐介 蔵本 孝一
出版者
比較眼科学会
雑誌
比較眼科研究 (ISSN:02867486)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.3-12, 2018 (Released:2020-05-15)
参考文献数
23

岡山大学方式の人工網膜(OUReP)は光電変換色素分子をポリエチレン薄膜表面に共有結合した世界初の新方式の色素結合薄膜型である。光を受けて表面電位変化を生じ近傍の神経細胞の活動電位を惹起する。これまでの動物試験ではこの色素結合薄膜型人工網膜を20Gの眼内鑷子で掴んで網膜下に挿入していた。今回の報告では色素結合薄膜を網膜下に挿入する使い捨て注入器(OUReP Injector)を開発してウサギ模擬試験を行った。人工網膜注入器は色素結合薄膜を注入器先端から装填する先込め方式である。注入器本体と先込め器から構成される。注入器本体の先端は内径2mmの透明なチューブで、その中を注入器の押し棒が動き、押し棒は指を離すと注入器内部の押し棒周囲のコイル状金属バネによって自然に戻る。先込め器は平板上に内径2mmの透明チューブが固定してある。直径5-10mmの円形の色素結合薄膜を先込め器平板の切込み溝に立てて、溝とは反対側のチューブ口から25G眼内鑷子を突っ込み、切込み溝に立つ薄膜を掴んでチューブ内に引っ張り込む。先込め器のチューブと注入器先端のチューブとを透明な外筒チューブで連結して、先込め器チューブ内にある薄膜を注入器本体の先端チューブ内に先込め器用の押し棒で押し込む。先込め器を連結外筒チューブと一体で注入器先端チューブから外す。薄膜が装填された注入器先端チューブ中を27G 鈍針からの眼内灌流液で満たす。ウサギの実験的無水晶体眼8眼を使って注入器の動作性を確認する模擬手術を行った。25Gシステムの硝子体手術で38Gポリイミド針を使って網膜下に眼内灌流液を注入して網膜剥離を作成した。網膜凝固によって網膜剥離部に網膜裂孔を作成し、3mmの強膜創から人工網膜注入器を硝子体中に挿入し、その先端を網膜下に進めて薄膜を押し出した。その後、網膜下液を吸引して網膜を復位させ網膜裂孔周囲をレーザー凝固し、シリコンオイルを硝子体中に注入して手術を終えた。剖検して網膜下に色素結合薄膜が存在することを全例で確認した。この試験によってOUReP Injectorの技術的有用性が示された。
著者
泉 妃咲 冨永 晴郎 中島 チ鹿子 内田 淳一 渡辺 雄一 塚本 洋子 井上 岳 山田 洋子 山田 善史 山田 悟
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.6, pp.380-385, 2012 (Released:2012-07-20)
参考文献数
14

糖尿病治療の根幹である食事療法は,一般的にカロリー制限で指導されることが多いが,患者にはストレスが強く,そのコンプライアンスが問題となる.そこで,血糖値の上昇を最小限に抑えながら食事のQOLを向上させるための甘味品として,低糖質ケーキに着目した.今回は糖尿病患者で検討する前段階として,健常者を対象として低糖質ケーキが糖脂質指標に与える影響を同等カロリーの通常ケーキと比較した.低糖質ケーキでは通常ケーキと比較して食後の血糖値上昇が抑制され,インスリンの分泌刺激は弱かった.また,低糖質ケーキは中性脂肪や遊離脂肪酸に悪影響を与えず,一方で食後の満足度は通常ケーキと同等であった.今後糖尿病患者を対象にした検討においても低糖質ケーキの有望な結果が期待される.
著者
内田 真之 山口 薫 藤井 康友
出版者
石油技術協会
雑誌
石油技術協会誌 (ISSN:03709868)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.67-77, 1993

地震探査データにみられる炭化水素の存在と直接に関わっている現象いわゆるDHI (Direct hydrocarbon indicator) による炭化水素検知の手法として, 近年AVO (Amplitude variation with offset) 解析が注目を集めている。同解析は地震波の入射角の変化に伴う反射波の振幅の変化を観測することによって炭化水素貯留層を直接検知しようとするものであり, 重合断面上の特徴的なアノマリーの観測のみによる炭化水素検知法に比べてより精度の高い対比ができるものと期待されている。<br>AVO現象はP波の伝播速度および密度の他にポアソン比 (あるいはS波の伝播速度) というもう1つの岩石物性の変化にも起因するため特にガス貯留砂岩層の検知に有効であることが知られているが, データ処理において重合前の多くのデータを使用するためノイズ除去や振幅保存などに通常処理よりも大きな注意を払う必要がある。本スタディの対象となったエリアは東マレーシアの陸上地域で, 中新世~鮮新世に堆積したデルタ成の砂泥互層の発達が卓越し試掘によりこれらの砂泥互層中に複数の砂岩ガス層が存在することが確認されている。またこの地域では通常処理震探断面上で異常振幅やホライゾンの下方湾曲が観測されており, これらのアノマリーがガス層の存在に起因するものと期待されていたが, ガス層発見井の坑井データによりこれらの異常が必ずしもガス層の存在にのみ起因するものでは無いことがわかった。<br>本スタディではまず坑井データに基づきガス層でのP波伝播速度の減少を推定し, さらに密度の観測データとS波伝播速度の変化の推定からガス層上面での入射角の変化に伴う振幅変化の予測を行った。次にガス層が確認された構造とその背斜トレンドの延長部に存在する未試掘プロスペクトのそれぞれ頂部を通る測線の震探データに前処理を施した後AVO解析を行った。その結果使用したデータが比較的S/N比や重合数が低くAVO解析には必ずしも適していなかったものの, AVOの解析結果にみられる異常はガス層とよい対比を示した。また未試掘構造ではAVO解析の結果顕著な異常は認められなかった。