著者
水島 宏太 前田 敦司 山口 喜教
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌プログラミング(PRO) (ISSN:18827802)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.117-126, 2008-01-15

Packrat parsingは,バックトラック付き再帰下降構文解析にメモ化を組み合わせた構文解析法であり,parsing expression grammar(以下PEG)で記述できる広範囲の文法を入力サイズの線形時間で解析することができるという特徴を持っている.しかし,packrat parsingには,メモ化を行うために入力サイズに比例する記憶領域を要するという欠点がある.本論文では,カット演算子をPEGに加えることにより,不要な記憶領域を削除する機能を持つpackratパーザ生成系を提案する.カットはPrologから借用した概念であり,構文規則中でカットより後ろでバックトラックが不要な場合にそのことを処理系に指示し,不必要なバックトラックが起こらないようにするための機能である.カットの評価によって,ある入力位置より前にバックトラックしないということが判明した場合,その入力位置より前にバックトラックしたときのために使用されているメモ化領域を動的に削除し,再利用することができる.我々は,構文規則中にカットを適切に挿入することで,多くの実用的文法について有界なメモリ量で解析できるパーザを生成可能と考えている.一方,カットによるメモリ効率の改善は,パーザ生成系のユーザが手動でカットを挿入しなければならないという問題点があるが,本論文ではこの問題点を解決するために,解析する言語の構文の意味を変えない範囲でカットを自動的に挿入する手法と,不要なメモ化が行われている箇所を検出して必要な記憶領域を静的に削減するための手法についても提案する.Packrat parsing is a parsing technique that combines memoization with backtracking recursive descent parser. It can handle any grammars that can be expressed in powerful grammar notation called parsing expression grammar (PEG). Generated parsers can analyze its input in linear time. However, to memoize intermediate result, packrat parsing requires storage area proportional to the input size. In this paper, we propose the packrat parser generator system that disposes unnecessary storage area by adding the notion of a cut operator to PEG. Cut operators is the notion we borrowed from Prolog that can be used by programmers to 'cut off' an alternative execution branch of a choice point in a syntax rule when the alternative should not be tried for suppressing unnecessary backtracking. When an alternative is removed by execution of a cut operator (and thus the parser can make sure that no backtracking can occur before a particular input positon), the memoization storage kept against backtracking can be deallocated and reclaimed dynamically. We believe that, for most pratical grammars,parsers which only use bounded memory size can be generated by appropriate insertion of cut operators in syntax rules. Although memory efficiency that can be achieved by hand-insertion of cut operators would be valuable, it is awesome and error-prone. In this paper, we also propose a technique to reduce required storage area by statically detecting syntax rules which memoization is unnecessary and another technique for automatically inserting cut operators without changing meanings of syntax rules.
著者
佐藤 和之 菅原 若奈 前田 理佳子 松田 陽子 水野 義道 米田 正人
出版者
日本語学会
雑誌
國語學 (ISSN:04913337)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.85-86, 2001-03-31

1995年1月の阪神・淡路大震災以来,私たちは被災した外国人や外国人対応機関からの聞き取りを行ってきた。一連の研究から明らかになったことは,(1)多言語での情報提供より,彼らにも理解できる程度の日本語で情報を伝える方が現実的ということであった。そしてまた,一人でも多くの外国人を情報弱者という立場から救うためには,(2)身の安全と当座の生活確保のための緊急性の高い情報をいかに厳選し,(3)いかにわかりやすい表現で伝えるかということであった。このような言語的対策の研究成果として,私たちは1999年3月に『災害時に使う外国人のための日本語案文-ラジオや掲示物などに使うやさしい日本語表現-』と『災害が起こったときに外国人を助けるためのマニュアル(弘前版)』を作成し,初・中級程度のやさしい日本語表現を使っての情報提供が有益であるとの提案を行った。やさしい日本語表現を用いて,外国人被験者(日本語能力が初級から中級程度)へ聴解実験を行ったところ,通常の文では約30%であった理解率が,やさしい日本語の文では90%以上になるなど,理解率は著しく向上した。発表では,72時間情報の意味(もっとも混乱した時間帯での情報とは何か),伝えるべき情報の種類と発信時間(災害発生時に外国人にも伝えるべき情報,緊急性の高い情報の種類と発信時間),やさしい日本語の構文(わかりやすく伝えるための構文の提案),使用できる語彙(買い物やバスの利用ができる程度の日本語語彙の選定と言い替えの方法),音声情報の読み方(ポーズの効用やスピード),使用すべき文字種(漢字仮名交じり文かローマ字文か),シンボルマークの使用(雑多な掲示物の中で外国人の目をひくための表現方法),コミュニティ版(弘前市を実例としたマニュアルの構成と内容)といったことについての試論を報告した。
著者
竹久 洋子 前田 環 中田 裕二
出版者
藍野大学
雑誌
藍野学院紀要 (ISSN:09186263)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.17-22, 2007

一般的な医療現場における有効な手洗い方法を明らかにするために,看護学生を対象とした示指細菌数の測定と手洗い効果判定を行った。手洗いの方法は,通常石鹸,0.1%塩化ベンザルコニウム液,通常石鹸+0.1%塩化ベンザルコニウム液,70%エタノール,ウエルパス,市販薬用石鹸の6通りを比較した。手洗い前後の菌数の比較では,0.1%塩化ベンザルコニウム液,通常石鹸+0.1%塩化ベンザルコニウム液,70%エタノール,ウエルパスについてはそれぞれ手洗いの後に有意に細菌数が減少していたが,通常石鹸・市販薬用石鹸では有意な減少が見られなかった。また,示指に存在する抗生物質(アンピシリン,カナマイシン)耐性菌の構成率を測定し,耐性菌の存在が確認された。以上より,各段階における結果を踏まえた上でより有効な手洗い方法を確立していくことが重要と考える。
著者
前田 英三 三宅 博
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.340-351, 1996-06-05
被引用文献数
1

イネの反足細胞は, 卵細胞から離れ珠心側壁に接して存在する. 多くの裂片をもつ巨大な異常核, 粗面小胞体, 細胞壁内向突起などが, 開花直後のイネ反足細胞内に観察された. 細胞核の裂片は核質の小さな架橋により連結しており, プラスチドやミトコンドリアや粗面小胞体を含む細胞質の一部を取り囲んでいる. 珠心細胞と接する反足細胞の細胞壁には, よく発達した内向突起が見られる. 粗面小胞体の先端が細胞壁内向突起と融合している場合も観察される. 反足細胞付近の珠心細胞は, すでに退化しはじめている. これらの細胞構造及びリボゾームを表面に伴った小胞の行動などから, 珠心細胞から胚嚢内中心細胞へのアポプラスチックな物質輸送に関する反足細胞の役割につき考察した. また, 胚嚢内の物質の移動経路についても, 簡単に述べた.
著者
前田 誠一 末田 八郎 伊藤 敏晴
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. B-II, 通信II-無線通信・無線応用 (ISSN:09151885)
巻号頁・発行日
vol.78, no.8, pp.547-552, 1995-08-25

レーダの送信周波数を超高速で変更できる周波数アジリティレーダでは,優れた対電子妨害性能が得られるだけでなく,反射断面積が揺らぐ目標の探知確率を向上できる等の効果が期待される.しかし,従来方式のレーダで,例えばパルスごとというように高速で周波数を変更すると,通常のドップラー処理が行えないという問題があった.本論文では,周波数アジリティレーダにドップラー処理機能を付与するため,1パルスでクラッタを抑圧した後,それで得た目標信号をパルス間でコヒーレントに積分する手法と,シミュレーションの結果について述べる.
著者
加藤 隆文 米良 仁志 前田 岳 細山田 明義
出版者
THE JAPAN SOCIETY FOR CLINICAL ANESTHESIA
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.22, no.6, pp.217-222, 2002-07-15 (Released:2008-12-11)
参考文献数
11
被引用文献数
1 1

Electroconvulsive Therapy(以下ECT)においてプロポフォールまたはチオペンタールにて麻酔し,投与量の増減によってそれぞれを2群に分け,ECTによる痙攣時間と循環動態の変動を検討した.両薬剤ともに投与量が増すと循環動態は安定したが,投与量が少ないとチオペンタール群で変動が大きかった.プロポフォールは投与量を増すと痙攣時間が有意に短くなったが,チオペンタールは投与の増量による痙攣時間の短縮幅が小さかった.痙攣時間の観点からはプロポフォールの投与量は1.4mg・kg-1までにとどめるべきである.プロポフォールは,循環制御のため投与量をそれ以上増すと肉眼的観察をする限りECTの痙攣時間が短縮してしまう点でECTの麻酔として望ましくない.
著者
只熊 憲治 土井 智之 志田 充央 前田 和宏
出版者
公益社団法人 自動車技術会
雑誌
自動車技術会論文集 (ISSN:02878321)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.37-42, 2011 (Released:2011-05-18)
参考文献数
7
被引用文献数
2

昨今のエネルギー・環境の観点から燃費改善に重きをおいたITS開発が求められている.本報では,隊列走行時における空気抵抗・燃費改善効果について検討を行った結果について報告する.具体的には,2台隊列走行における結果,及び,その結果を元にして,後流に関する理論を応用した予測式について示す.
著者
増野 雄一 三好 麻希 前田 明信 福本 和生 髙石 義浩
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.48, no.11, pp.627-634, 2015 (Released:2015-11-27)
参考文献数
28
被引用文献数
2 1

慢性維持透析患者の高齢化, 透析期間の長期化が進んでおり, 透析患者の健康状態の維持・向上させるための一つの手段として運動療法の重要性が高まっている. 一般的な血液透析の場合, 透析日は時間的制約や透析後の疲労感により身体活動量が低下するため, 透析施行中の運動療法の必要性は高い. 透析施行中の自転車エルゴメーターやゴムチューブなど運動器具を用いた運動療法により透析患者の運動機能やquality of life (QOL) が向上すると報告されている. 本研究では当院外来血液透析患者23名を対象とし, 運動器具を用いない簡便な方法で下肢の筋力強化運動をセルフトレーニングにて12週間実施し, 移動能力・QOLの効果を検討した. 歩行・立ち上がり能力, 膝伸展筋力の向上など移動能力が改善し, 日常役割機能の向上やQOLの改善を認めた. われわれが施行した運動療法においても移動能力やQOLの向上が示唆された.
著者
前田 清司 樽味 孝 田中 喜代次 山縣 邦弘 小崎 恵生
出版者
早稲田大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2019-06-28

継続的な高強度の持久性運動トレーニングは、身体(臓器)に様々な構造的・機能的な適応を引き起こす(スポーツ心臓など)。しかし、日頃から高強度の持久性運動トレーニングを実施している持久性アスリートの腎臓について詳しく調べた研究はこれまでに存在せず、高強度持久性運動トレーニングが腎臓にとって“善”か“悪”かは不明である。そこで本研究では、高強度持久性運動トレーニングに伴う腎臓の生理的適応を核磁気共鳴画像法(MRI: magnetic resonance imaging)を用いて探索することを目的とし、「スポーツ腎臓」という新しい概念を提唱することを目指す。
著者
前田 智美 京田 亜由美 飯嶋 友美 神田 清子
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.18, no.4, pp.273-281, 2023 (Released:2023-12-27)
参考文献数
24

現在のがん看護において,病期の進行に伴い化学療法継続かどうかの意思決定支援が課題である.本研究は外来化学療法室看護師が治療継続を再考する時期と判断する際の視点と行動を明らかにすることを目的に,看護師14名にフォーカスグループインタビューを実施し,内容分析の手法を参考に分析した.判断の視点は[患者の望む生き方が尊重されているか][患者が望む日常生活を送れ,QOLが維持できるか]などの4カテゴリーが形成された.行動は[傾聴を重ね,患者の望む生き方が叶うよう,今後の治療への向き合い方を共に考え検討する][適切な時期に治療中断への介入が行えるように,看護師間で協力する]などの3カテゴリーが形成された.外来化学療法室看護師は,臨床倫理の視点で日々の看護を行い,患者の望む生き方が尊重されているかを判断していた.また,タイミングを逃さず介入するために医療スタッフ間の連携を大切にしていることが示唆された.
著者
山本 悠太 平栗 学 前田 知香 水上 佳樹 堀米 直人 金子 源吾
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.77, no.1, pp.70-73, 2016 (Released:2016-07-29)
参考文献数
11
被引用文献数
2 2

症例は60歳の男性.6年10カ月前に辺縁性歯周炎に対して全抜歯を施行され,総義歯であった.1月初旬,起床時からの腹痛・嘔吐を主訴に救急外来を受診した.CT検査で回腸末端に30×22×6mmの高吸収を呈する直方体の異物を認め,同部位より口側の回腸の拡張を認めた.前日に義歯を装着せずに汁粉の餅を丸飲みしていたことから,餅による食餌性イレウスと診断した.腹膜刺激症状や発熱を認めず,腸管の拡張が軽度で虚血を疑う所見も認めなかったことから,絶飲食,補液に加え,でんぷん・蛋白質などの消化酵素複合剤の内服による保存的治療の方針とした.入院3日目に腹痛の消失,排便が認められた.腹部CTで回腸末端の餅および口側の拡張は消失し,結腸内に餅片と思われる高吸収構造を認めた.餅による食餌性イレウスは比較的稀な疾患であり,総合消化酵素剤を用いた保存的加療が有用である.
著者
前田 綾 宮脇 正一 大賀 泰彦 中川 祥子 古川 みなみ 上村 修司 井戸 章雄 日野 沙耶佳
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2023-04-01

本研究では、胸焼けなどの不快感と求心性の内臓知覚とストレス物質の動態に着目し、食道内酸刺激で産生されるメディエーターおよびストレス物質の動態などの神経免疫学的観点からブラキシズムの発症メカニズムを解明することである。また、求心性知覚神経を介した胸焼け等の不快感を自覚させる食道知覚とストレス物質の動態が咬筋活動を増加させることに着目し、ブラキシズムの発症のメカニズムを解明する。これらが明らかとなれば、上部消化器疾患と精神疾患およびブラキシズムに関する難治性の病因について新たな知見を提供して新規治療方法の開発に繋がる可能性があり、患者のQOL向上ひいては健康寿命の延伸に繋がると考える。