著者
堀田 あゆみ
出版者
総合研究大学院大学文化科学研究科
雑誌
総研大文化科学研究 (ISSN:1883096X)
巻号頁・発行日
no.8, pp.117-135, 2012-03

本稿では、必要最低限のモノだけで暮らしモノに執着しないといったモンゴルの遊牧民に対する言説によらず、現地調査によって得られた知見をもとに、彼らのモノをめぐる世界を明らかにする。遊牧が盛んなアルハンガイ県において、遊牧民の生活世界にあるモノの悉皆調査を行った結果、一世帯に373品目1539点のモノが存在していることがわかった。特徴的なのは、譲渡や貸借によってモノが生活圏を越え頻繁に移動することである。 とりわけ貸借は広く行われておりその対象も多様である。所有者から得た利用権によって借り手は自由に使用できる。廃棄や第三者への譲渡は許されないが、利用が終了しても所有者が取りにくるまで手元に留め置いてもかまわない。なぜなら遊牧民にとって、モノの所有とは占有を意味しないからである。切迫した必要がなければ手元に無くてもよく、入用の際に返却を求めるか、別の家から拝借すればよいと考えるのである。 しかし、常に気前よく要求に応じるわけではなく、譲渡や貸借をめぐって熾烈な駆け引きが展開される。所有者も要求者も様々な交渉を用いて自己主張を行う。所有者による要求の拒否はいずれ我が身に跳ね返るというリスクを伴うため、交渉で妥協点を探りあうことが重視される。また、社会関係を損なわずに交渉を有利にすすめるための戦略として情報管理が行われる。その一つが隠蔽工作であり、生活世界に存在するモノの三分の二を隠すことで、モノに関する情報の漏洩と物理的なアクセスを阻んでいる。他方で、見せることを前提に情報操作を行うこともある。あえて目に付く場所にモノを置き、アクセスさせることでケチではないという実績を作りながら、隠蔽しておいた残りを家族だけで利用するのである。 モノに執着する一方で必ずしも占有を意図しないという事実から、遊牧民はモノの所有には執着しないと言える。彼らにとって重要なのは、入用の際にモノが利用できるということであり、必要なモノが誰の所にあるかという情報である。モノは交渉によって入手できるため、全てを自らの所有にしておく必然性がないのである。つまり、本当に執着しているのはモノの情報であると言える。This article aims to clarify the place of material things in the Mongolian nomad's world. It does not rely on the discourse about nomadic values, which has held that nomads make do with the bare minimum and are not attached to things, but rather it is based on findings acquired in field work. In an exhaustive survey conducted in Arkhangai Province, I found that a nomadic household possesses a considerable number of material things—1,539 items of 373 different kinds of things. Further, I found that things have an existence that goes beyond the sphere of everyday life, and they change hands frequently by means of transfers and loans. Possession of things does not always mean continuous custody. Nomads may keep at hand an item that they have borrowed even after they have finished using it, until the owner comes to take it back. Nomads usually think that they do not have to be surrounded by their things all the time. It is only when they need a particular thing that they think they should either ask for its return or go to borrow the item from another house.However, nomads occasionally resort to fierce tactics when they demand or request transfers or loans. Both the owner and the requester assert themselves in various types of negotiation. If the owner refuses the request, there could be a risk of causing a future refusal of their own demand. Thus it is extremely important to try to seek and reach a compromise by negotiation. As a strategy to push negotiations forward to one's own benefit, efforts at concealment and information control are often part of the process. We can say that nomads are not deeply attached to possession of things, from the fact that their strong attachment to things does not always mean having concrete custody of them. The most important thing for Mongolian nomads is information about where things are. It is this information that allows them to negotiate with others and brings a chance to obtain the things that they need. That is to say, they do not have to keep things around them at all times. In conclusion, it can be said that it is information about things, not things themselves, that nomads are deeply attached to.
著者
上田 悦範 山中 博之 於勢 貴美子 今堀 義洋 Wendakoon S.K.
出版者
日本食品保蔵科学会
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.73-84, 2019 (Released:2019-08-07)

果実中のアルコール含量を測ることはその果実の香気評価に重要である。果実(バナナ,パイナップル,メロン,トマト,キウイフルーツおよびイチゴ)の未熟果,完熟果,過熟果からカットフルーツを作り,カット直後および3℃,24時間後のエタノールおよびメタノールの含量を測った。過熟のバナナおよびパイナップルから作ったカットフルーツは高いエタノール含量と酢酸エチルの生成も多く,オフフレーバーが発生していた。過熟のメロンからカットしたものも酢酸エチルの生成が多く,やはりオフフレーバーが発生した。一方トマトはカットすることにより3℃,24時間後,急激にメタノール含量が増え,エタノール含量もまたある程度増加し新鮮さが無くなった。イチゴは使用した栽培品種の内,1品種は24時間後および老化後(3℃,2日間)では高いエタノール含量を示し,酢酸エチルの生成も多くオフフレーバーが感じられた。キウイフルーツは熟度やカットにかかわらずエタノール,メタノールが低含量でそのエステル生成もみられなかった。完熟果におけるアルコールデヒドロゲナーゼ活性を調べたところ,高い活性を示す果実は,キウイフルーツを除き,アルコール含量も高かった。ペクチンメチルエステラーゼの活性はトマトが他に比べて非常に高く,トマトカット後のメタノール急増の原因と考えられる。エステルの生成能力はすべての果実で認められ(キウイフルーツは極低活性),過熟果実のオフフレーバーを加速していると考えられる。カット後すぐに供給され,消費される業種形態もあるので,室温でカット後,2時間までのアルコール含量変化を完熟のバナナ,トマト,イチゴで調べたところ,これらの果実は24時間冷蔵の結果と同じ傾向であった。完熟イチゴおよびトマトをカット後,直ちに測った場合,それぞれエタノールおよびメタノールは極少量検出されたのみであった。イチゴは両品種とも急激なエタノールの増加が起こり,オフフレーバーが認められた。一方,トマトでは遅れてエタノールが増加し始めたが,2時間までは新鮮さが保たれていた。
著者
堀 翔平 齋藤 潤也 花田 恵介 竹林 崇
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.535-542, 2021-08-15 (Released:2021-08-15)
参考文献数
12

要旨:右上肢麻痺を呈した脳卒中者に対して,エビデンスの高い手法を組み合わせた多角的なアプローチに加えて,装具装着下で実生活における麻痺手の使用を促す介入を実施したので報告する.介入は,装具・電気刺激・ロボット療法を併用したCI療法を1日1~2時間実施した.さらに,筋緊張の抑制・実生活での麻痺手の使用といった異なる目的の装具を作成し,実生活での装着を促した.結果は複数の上肢機能評価において,臨床上意味のある最小変化量を超える改善が見られ,麻痺手使用の機会が増大した.手指の伸展が十分でない脳卒中者に対しても,装具着用下での実生活の麻痺手の使用は麻痺手の使用場面の拡大の一助となる可能性が考えられた.
著者
大野 治俊 堀越 陽子 堀越 敏子 落合 玲子 本誌編集室
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1386-1393, 1986-12-01

昨年8月12日,羽田発大阪行日本航空123便,ボーイング747SR機か群馬県多野郡御巣鷹山山頂付近に墜落,乗員15名,乗客509名のうち‘奇跡の生存者’4名を除く520名の犠牲者を出した惨事はまだ記憶に新しい. 4名の生存者のうち吉崎博子・美紀子さん親子と落合由美さんの3名が藤岡市内の病院に収容ざれ,川上慶子さんはその病院で応急処置を受けたあと,すぐ国立高崎病院に転院となった.
著者
風間 孝 菅沼 勝彦 河口 和也 堀江 有里 清水 晶子 谷口 洋幸 釜野 さおり 石田 仁
出版者
中京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究では、セクシュアリティおよびジェンダーの軸と、階層・階級、人種・民族、地域、国籍といった軸とを交差させるなかで、日本においてクィア・スタディーズを展開していくことを目的とした。その結果、法制度や社会調査、社会制度設計において、理論研究と実証研究の問題意識とが交流のないままに研究が進められている現状が明らかとなり、研究成果を他の学問分野および(市民)社会領域と交流させていくことの意義と緊要性が確認された。
著者
小埜 栄一郎 村田 純 堀川 学
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.57, no.8, pp.715-720, 2021 (Released:2021-08-01)
参考文献数
25

ゴマ(シソ目ゴマ科ゴマ属 Sesamum spp.)は種子にフェニルプロパノイドの二量体のリグナンと呼ばれる植物特化代謝物を蓄積している。セサミンに代表されるリグナンは多様な生物活性を有しているものの、同じフェニルプロパノイドから生合成されるフラボノイド類に比べると医薬や食品分野では認知度は低い。それらの多岐に渡る薬理活性については優れた先行文献に譲り、本稿ではリグナン代謝物の多様性がどのようにして生じているか、つまり特化代謝の進化をゴマの栽培種と野生種の酵素活性の比較を通じて論じたい。
著者
徳永 智史 堀田 和司 藤井 啓介 岩井 浩一 松田 智行 藤田 好彦 若山 修一 大藏 倫博
出版者
日本ヘルスプロモーション理学療法学会
雑誌
ヘルスプロモーション理学療法研究 (ISSN:21863741)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.73-79, 2020-07-22 (Released:2020-08-04)
参考文献数
36
被引用文献数
3

【目的】地域在住高齢者におけるアパシーの身体活動量に及ぼす影響を明らかにする。【対象】2017年7月に茨城県笠間市で行われた長寿健診に参加した地域在住高齢者328名とした。【方法】アパシー評価としてやる気スコア,身体活動量評価としてPhysical Activity Scale for the Elderly,抑うつ評価としてGeriatric Depression Scale 短縮版(GDS‐15),ソーシャルネットワーク評価としてLubben Social Network Scale 短縮版(LSNS‐6),身体機能評価として握力,5回椅子立ち上がり,開眼片足立ち,Timed up and go test,長座体前屈,認知機能評価としてファイブ・コグ,Trail Making Test(TMT)を実施した。【結果】アパシーのみ呈した者の割合は23.2%,抑うつのみ呈した者は12.2%,アパシーと抑うつを合併していた者は15.2%であった。重回帰分析の結果では,身体活動量に対してやる気スコアやLSNS‐6,長座体前屈,ファイブ・コグ,TMT が有意に影響を及ぼしていた。GDS‐15の有意な影響は認められなかった。【結語】アパシーと抑うつは独立して存在し,身体活動量には社会交流や身体機能,認知機能などの多要因が影響しているが,アパシーもその一つである可能性が示された。
著者
于 楊 日永田 智絵 堀井 隆斗 長井 隆行
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集
巻号頁・発行日
vol.2020, pp.4F2OS25a03, 2020

<p>近年,スマートフォンやタブレットなどデジタル端末の発展により,ユーザーが視聴できる動画は膨大な量に達している.こうした中で,消費者のニーズに対応するパーソナライズされたビデオコンテンツの分類,検索および配信は依然として解決すべき課題である.一般に,人間は情緒的特性に基づいて映画や音楽を選ぶ傾向がある.従って,感情喚起を分析することで,この課題に対して一つの指針が得られる可能性がある.動画によって喚起される感情は,オーディオとビデオの両方のモダリティに関係している.そこで本研究では,マルチモーダル情報の統合によって動画による感情喚起を推定する深層学習モデルを提案する.映画データベースを用いた実験により,マルチモーダル情報を統合したことによる推定性能の変化について検証し,従来手法に比べ推定精度が向上することを示す.また最近話題となっているAutonomous Sensory Meridian Response (ASMR) 動画を解析し,感情喚起と閲覧回数,高・低評価数など視聴者の行動との関係性を検証する.</p>
著者
堀井 久一
出版者
マテリアルライフ学会
雑誌
マテリアルライフ学会誌 (ISSN:13460633)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.80-84, 2005-07-31 (Released:2011-04-19)
参考文献数
12
被引用文献数
2
著者
堀井 雅弘
出版者
福井県文書館
雑誌
福井県文書館研究紀要 (ISSN:13492160)
巻号頁・発行日
no.18, pp.47-62, 2021-03