著者
岩井 將
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012

本年度は、膵臓におけるアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)の分布と、その役割についてACE2欠損マウスを用いて検討した。1)膵臓におけるACE2およびMasの発現と局在:野生型マウスの膵臓を採取し、ACE2およびMasのmRNA発現をリアルタイムRT-PCR法により検討すると、これらが膵臓においては、心血管に比して多く含まれていることが判明した。さらに、免疫染色にてACE2とMasそれぞれの局在を調べると、ACE2は膵臓のランゲルハンス島に限局して発現しており、しかもグルカゴンと共存することが分かった。一方、Masの発現はランゲルハンス島よりも外分泌細胞に多く染色された。マウスを絶食させた後膵臓のACE2発現を調べると、絶食によりラ氏島のACE2は増加することが分かった。Mas発現はほとんど変化しなかった。2)絶食時の膵ホルモン分泌に及ぼすACE2欠損の影響:上記の結果から、ACE2が膵ホルモン分泌に関わる可能性が考えられたため、ACE2欠損マウスを用いて絶食を行い、その時の血中インスリン及びグルカゴンの濃度変化を計測し野生型マウスと比較検討した。野生型マウスにおいては、絶食24時間目から48時間目にかけて血中インスリンは著明に低下した。一方血中グルカゴンは絶食24時間目に増加が認められた。これらに対し、ACE2欠損マウスでは絶食後のインスリン低下が野生型マウスよりもさらに著しく、また血中グルカゴンは絶食前においてすでに高値でありまた絶食によっても変動しなかった。3)絶食後の再摂食による膵ホルモンの変動とACE2の役割:マウスを24時間絶食させた後、再摂食をさせると、1時間後には野生型マウスでは血中インスリン分泌が増加し、グルカゴン分泌は低下する。ACE2欠損マウスにおいては、血中インスリンは再摂食によって増加したが、血中グルカゴンレベルは再摂食により、著明に増加するという反応が認められた。これらの結果から、膵臓においてACE2はラ氏島に限局して分布し、グルカゴン分泌細胞に共存して存在して血中グルカゴンに分泌に重要な役割を果たすと考えられる。Masについては、その分布から現在のところは特定の役割を推測することができなかった。このような膵組織ACE2/Masの意義に関しては、今後さらに詳細な検討が必要である。
著者
岩井 茂樹
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究 (ISSN:09150900)
巻号頁・発行日
vol.61, pp.45-67, 2020-11

本稿は、明治末期から大正時代にかけて増加した笑った写真(本稿では「笑う写真」とした)の誕生と定着過程を明確にすることを目的としたものであり、そこで重要な役割を担った雑誌『ニコニコ』の特徴について論じたものである。 従来、「笑う写真」の定着過程については、石黒敬章などによって、おおよそ大正時代のことであったということが指摘されてきたが、その原因についてはほとんど考察されることがなかった。 しかしながら、本稿では1911(明治44)年に、ニコニコ倶楽部によって創刊された雑誌『ニコニコ』が「笑う写真」の定着過程に大きな役割を担ったことを証明した。この雑誌には、従来なかったような特徴があった。その一つが「笑う写真」の多用である。口絵はもとより、本文中にも「笑う写真」を多数配していたのである。また1916(大正5)年時点での発行部数は当時もっとも多く発行されていた『婦人世界』に次ぐものであり、また図書館における閲覧回数も上位10 位内に入るほど広く読まれた雑誌であった。 この雑誌の発刊に尽力した中心人物は当時、不動貯金銀行頭取をしていた牧野元次郎という人物であったが、彼は大黒天の笑顔にヒントを得て「ニコニコ主義」という主義を提唱し、それを形象化するために雑誌『ニコニコ』に「笑う写真」を多数掲載したのである。大黒天の笑顔を手本にし、皆が大黒様のような笑顔になることを、牧野は望んだ。国民全員がニコニコ主義を信奉し、実践することによって、国際的な平和と、身体の健康、事業の成功(商売繁盛)を実現しようとしたのである。『ニコニコ』は好評を博し、大衆に広く受け入れられた。その結果、「笑う写真」が誕生し、急増した結果、大正時代になって「笑う写真」が普及したのである。 本稿によって、雑誌『ニコニコ』の特徴が示され、その普及程度が具体的な数値や言説を用いて推定されたとともに、この雑誌が「笑う写真」に及ぼした影響が明確になった。
著者
岩井 紀子 宍戸 邦章
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.420-438, 2013 (Released:2014-12-31)
参考文献数
6
被引用文献数
5

内閣府, 全国紙, NHK, 国立環境研究所, 日本原子力学会などによる世論調査の結果を基に, 福島第一原子力発電所事故発事故が, 人々の意識に与えた影響について, 震災以前と以降を比較したところ, 原発事故は, 災害リスク認知や原発事故への不安感および環境汚染意識を高め, 原子力政策に対する人々の意識を大きく変えた. 専門家と一般住民の原子力政策に対する認識のギャップは, 震災前以上に大きい.JGSSデータに基づく分析では, 原子力への反対意識は, 女性で強く, 若年層の男性や自民党支持層で弱く, この点はチェルノブイリ事故後の結果と一致している. 原発から70kmの範囲に居住している場合には, 原発の近くに住んでいるほど原発事故が発生するリスクをより高く認知していた. また, 原子力政策に対する原発からの距離と地震発生のリスク認知には交互作用効果が存在しており, 地震発生のリスク認知が低い場合には原発近くに住む人ほど原子炉廃止への支持が少ないことが明らかとなった. 原発事故は, 人々の意識を変えただけではない. 日本では節電意識は以前から高かったが, 原発事故後, 電気をこまめに消す以上の, 消費電力を減らすさまざまな工夫を行い, 電力需要は2011年度には5.1%減少し, 12年度にはさらに1.0%減少した. 節電の工夫の頻度は, 原子力政策への態度と関連しており, 原子炉廃止層の8割が消費電力を減らす工夫に取り組んだ. 電力需要の減少は原子力政策の今後に対する人々の意思表明であろう.
著者
金森 祥子 野島 良 岩井 淳 川口 嘉奈子 佐藤 広英 諏訪 博彦 太幡 直也
雑誌
コンピュータセキュリティシンポジウム2017論文集
巻号頁・発行日
vol.2017, no.2, 2017-10-16

サービス提供者が, ユーザのパーソナルデータを収集・利用する場合, 事前にサービス提供者とユーザの間で合意形成が必要とされている. その方法の一つとして, 現在, プライバシーポリシーを提示する方法が広く普及している. しかし, 一般にプライバシーポリシーは長くて難解であるため, 読んでいないユーザが多いとされている.本研究では, 利用するサービスによって,ユーザがプライバシーポリシーを読む度合いが異なることを調査したので報告する.さらに, プライバシーポリシーを読んだ際に, ユーザにとって,具体的にどのキーワードが理解が難しかいのかについても調査したため合わせて報告する.
著者
岩井 宜子 内山 絢子 後藤 弘子 長谷川 眞理子 松本 良枝 宮園 久枝 安部 哲夫
出版者
専修大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究においては、平成になってからの日本における殺人・傷害致死の第1審の判決例を収集し、その加害者・被害者関係をジェンダーの視点で分析し、おもに、家庭内暴力(DV)が原因として働くものがどの程度存在し、どのような形で殺害というような結果をもたらしたかを詳察することにより、今後の対策を考察することを意図した。昭和年間の殺人の発生状況との比較において、まず、注目されるのは、えい児殺の減少であるが、昭和年間にかなりの数のえい児殺が存在したのは、女性の意思によらない妊娠が非常に多かったことに基づくと考えられ、平成になり、少子化の背景事情とともに、女性の意思によらない妊娠も減少したことが推察される。しかし、年長の実子を殺害するケースは、増加しており、その背景には、被害者の精神障害、家庭内暴力、非行などが、多く存在している。夫・愛人殺の増加の背景にも、長期間にわたる家庭内暴力の存在が観察される。「保護命令」制度などが、うまく機能し、家庭内暴力から脱出し、平穏に暮らせる社会への早期の移行が待たれる。女性が殺人の被害者となり、また加害者となるケースは、多くは家庭内で発生しており、その背景には、種々の形の暴力が存在している。児童虐待の事案も顕在化が進んでいるものと考えられるが、徴表に対し、より迅速に対応し、救済するシステムがいまだ確立していないことが伺える。家庭内の悲劇を社会に救済を求めうる実効的なシステムの構築が必要である。
著者
岩井圭司
雑誌
精神科治療学
巻号頁・発行日
vol.13, no.8, pp.971-979, 1998
被引用文献数
1
著者
長谷 龍太郎 落合 幸子 野々村 典子 石川 演美 岩井 浩一 大橋 ゆかり 才津 芳昭 N.D.パリー 海山 宏之 山元 由美子 宮尾 正彦 藤井 恭子 澤田 雄二
出版者
茨城県立医療大学
雑誌
茨城県立医療大学紀要 (ISSN:13420038)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.47-56, 2001-03
被引用文献数
2

専門職種を特徴づける知識と技術に対する不安が生じると, 専門職アイデンティティが不安定になる。医療専門職種(Allied Health Profession)である作業療法は, 治療手段が日常的な作業であるために, 作業療法の効果判定や治療的作業の選定理由に曖昧さを伴っていた。米国では, 作業療法が科学的厳密性を伴った医療専門職種として認知される為に, 治療の理論的基礎, 治療効果の検証が重要とされ, 原因や結果の因果関係に比重をおく還元主義を基盤とした実践が行われた。結果として慢性疾患や障害に対する技術面が強調される機械論的モデルが隆盛し, 日本はこのモデルを導入した。還元主義的作業療法では人間の作業を扱う包括的な視点が欠如し, 専門職アイデンティティの危機が生じた。米国の作業療法理論家達は機械論的還元主義からの脱却の為に, システム論を用いた作業療法理論の構築と包括モデルの提示を行なった。日本では作業療法士に対する専門職アイデンティティの調査は行われておらず, アイデンティティ研究は日本独自の作業療法理論やモデルの構築に重要であると言える。
著者
岩井 儀雄 勞世竑 山口 修 平山 高嗣
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告コンピュータビジョンとイメージメディア(CVIM) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2005, no.38, pp.343-368, 2005-05-13
参考文献数
222
被引用文献数
24

画像処理による顔情報処理に関連した研究について,1)顔検出法 2)イメージベースの顔認識法 3)モデルベースの顔認識法 という観点に基づき最近の動向を紹介する.In this paper, we survey research on facial image processing. We explain the followings: 1) face detection, 2) image-based face recognition, and 3) model-based face recognition.
著者
笛木 司 松岡 尚則 牧野 利明 並木 隆雄 別府 正志 山口 秀敏 中田 英之 頼 建守 萩原 圭祐 田中 耕一郎 長坂 和彦 須永 隆夫 李 宜融 岡田 研吉 岩井 祐泉 牧角 和宏
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.38-45, 2014 (Released:2014-07-22)
参考文献数
22
被引用文献数
2

『傷寒論』成立時代の権衡の考証を目的に,近接した年代に著された『本草経集注』「序録」の権衡を検討した。同書の度量衡は,権衡の記述に混乱が見られ,また度・量についての検証がこれまで十分に行われていなかった。そこで敦煌本『本草経集注』の「1方寸匕に等しい容積の薬升」の記述に着目,同記述が『漢書』「律暦志」の度に従っていることを仮定して計算を行い,1方寸匕の容量として5.07cm3の値を得た。得られた値を生薬の実測数値を用いて検証し,仮定を肯定する結果を得た。得られた1方寸匕の容量から換算した1合の値は『漢書』「律暦志」のそれと一致しており,『本草経集注』「序録」の度量が『漢書』「律暦志」に従っていることが確認された。次いで同書中に記述された蜂蜜と豚脂の密度について実測と計算値の比較を行い,『本草経集注』「序録」中の薬物の記述の権衡は『漢書』「律暦志」に従っていることが明らかになった。
著者
岩井 博司 大野 恭裕 伊藤 裕進 遠藤 達治 小牧 克守 石井 秀司 盛岡 幸恵 芋縄 啓史 清川 知美 原田 剛史 廣田 則幸 山内 孝哲 宮武 利行 青木 矩彦
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.439-445, 2004-06-30 (Released:2011-03-02)
参考文献数
21
被引用文献数
5

症例は38歳, 男性. 10年前に近医にて糖尿病を指摘され, 5年前からメトホルミンとインスリンによる治療をうけていた. 2002 (平成14) 年8月以降, 当院で2型糖尿病, 糖尿病性腎症 (曲中クレアチニン値0.95mg/dl) と糖尿病性網膜症に対して治療を行っていた, 2003 (平成15) 年4月5日, 自殺目的でメトホルミン105錠 (26.25g) と睡眠薬を多量に内服しアルコールを多飲した. その後, 悪心, 嘔吐, 上腹部痛と意識障害が出現したため受診した. 高乳酸血症 (178.9mg/dl), 血中尿素窒素値 (128mg/dl) と血中クレアチニン値の上昇 (118mg/dl), anbngapの開大 (58.8) および代謝性アシドーシス (pH 7.219) の所見より乳酸アシド-シスおよび急性腎不全と診断し, 持続的血液濾過透析 (continuous hemodialysis filtration: CHDF) を施行した. 糖尿病に対してはインスリン療法を行った. その後, 血中クレアチニン値の低下と血糖値の改善を認め退院となった. 以上, 自殺目的でメトホルミンの多量内服後に乳酸アシドーシスと急性腎不全を発症した2型糖尿病患者の1例を報告した. この症例より, メトホルミンによる乳酸アシドーシスに対する治療には, 循環動態を安定に保てるCHDFを選択すべきであると考えた. また, 自殺目的でメトホルミンを多量に内服することがないように, 服薬状況の確認が必要であると考えた.
著者
岩井 博樹
出版者
安全工学会
雑誌
安全工学 (ISSN:05704480)
巻号頁・発行日
vol.54, no.6, pp.424-429, 2015-12-15 (Released:2016-07-01)
参考文献数
3

近年,様々なデバイスがインターネットに接続されると共にサイバー上からの脅威が高まってきている.その対象には,自動車や航空機,鉄道等の乗り物においても同様である.特に自動車においては身近な乗り物ある事に加え,人命が関係するために注目度は高いと言える. 従来,自動車の車載システムの不正操作はダッシュボード下からモジュールを接続するなど,物理的な側面が強かった.しかし,近年の車載システムはWi-Fi やBluetooth といった外部接続が可能であり,遠隔から自動車を不正操作することができるリスクが出てきた.現在,このリスクは特定条件下において実証されており,システム全体のセキュリティ対策の強化が望まれている. そこで,本稿では現状指摘されている自動車におけるサイバーリスクと想定される脅威について紹介し,その対策例を述べる.