著者
岩井 優祈 松井 圭介
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.68-81, 2022 (Released:2022-04-26)
参考文献数
41
被引用文献数
5

本稿は茨城県鹿嶋市における中心商業地を事例に,店主の経営をめぐる意識を明らかにしたものである.鹿島神宮に隣接する中心商業地では,地元客に加えて観光客の来訪がみられる.そのため本研究では,店主が重視する客層に着目しながら,彼らの経営をめぐる意識を分析した.その結果,店主の大半は依然として地元客を重視しており,その主たる背景には店主の高齢化および人手不足が関係していたことが判明した.一方で観光客対応に積極的な店主は,年齢が比較的若く,大型店の郊外進出に伴う中心商業地の衰退への危機感を抱いていた.観光客の往来が多い通りに店舗が立地することも,観光客対応を促進させる一因であった.一方,創業当時から地元の常連客を重視する店舗では,観光客の来訪は必ずしも望まれていなかった.商店会長らの経営をめぐる意識も踏まえると,鹿嶋市中心商業地では観光客よりも地元客に向けた経営が今後より一層優勢になると予想される.
著者
岩井 茂樹
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究 : 国際日本文化研究センター紀要 (ISSN:09150900)
巻号頁・発行日
no.27, pp.215-237, 2003-03-31

『百人一首』の研究は近年盛んになりつつあるが、近代(明治時代以降)の享受の実態についてはほとんど行われていない状態である。本論稿は、近代に特徴的に見られる『百人一首』の恋歌に対する非難の実態と、そのような論調により作り変えられた恋歌を排除した『百人一首』に関するものである。加えてその原因について考察を行った結果、①百人一首歌留多の興隆と受容形態の変化、②旧派歌人を中心とした恋歌の消滅、がその背景にあることがわかった。
著者
想田 光 岩井 岳夫 金井 貴幸 宮坂 友侑也 佐藤 啓 根本 建二 上野 義之 嘉山 孝正
出版者
日本加速器学会
雑誌
加速器 (ISSN:13493833)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.144-150, 2020-10-31 (Released:2021-10-05)
参考文献数
12

Yamagata University has carried out a heavy ion treatment facility project since 2004. Building and treatment machine has been constructed since 2017. The carbon ion medical accelerator consists of a permanent-magnet type electron cyclotron resonance (ECR) ion source, a series of linear accelerator of radiofrequency quadrupole (RFQ) and interdigital H-mode drift tube linac (IH-DTL) with an energy of 4 MeV/u, and an alternative gradient synchrotron of 430 MeV/u. There are two irradiation rooms, one has a fixed horizontal port and the other has a rotating gantry port with superconducting magnets. Since the irradiation rooms are placed above the accelerator room, the footprint of the building is only 45×45 m, which is significantly smaller than preceding facilities. The synchrotron has a variable-energy flattop operation pattern with 600 energies. This operation enables a three-dimensional spot scanning irradiation without range shifters. A superconducting rotating gantry is equipped with a pair of improved scanning magnets in the downstream of the final bending magnets and is downsized to 2/3 of the first model built in NIRS. The construction of the building was completed in May 2019. The treatment irradiation will start in February 2021 after machine optimization and clinical beam data measurement.
著者
岩井 和郎
出版者
Japan Society for Atmospheric Environment
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.35, no.6, pp.321-331, 2000-11-10 (Released:2011-12-05)
参考文献数
48
被引用文献数
7

ドイツ都市大気の測定では, PM2.5の約10重量%に0.1μm以下の超微細 (ナノ) 粒子が含まれている事が報告されている。実験的に酸化銅のナノ粒子をハムスターに吸入させてその体内動態を調べると'粒子は肺胞上皮を通過して肺間質に入り, リンパ管や血管内, 肺門リンパ節に運び込まれる事が見られた。また微小粒子とナノ粒子の動態を比較した定量的実験では, ナノ粒子で遙かに多い量が肺間質からリンパ節に入ることが示されている。健康人の肺に沈着しているナノ粒子には各種金属元素が含まれている事が分析電顕の研究から知られる。また各種排出源からの浮遊粒子状物質は肺障害性を引き起こすが, それは含まれる金属種により異なることが示唆されている。一方組織反応性に乏しい合成レジン, テフロンの蒸気に含まれるナノ粒子を吸入すると, 強い急性反応が起こることも報告されている。このナノ粒子が凝集して粗大塊となったものは直ちに毒性が消失しているという実験成績は, 化学組成よりも粒子が極めて小さいという事が重要であることを示している。もしPM2.5が疫学研究で報告されている心肺疾患死亡に関係するとすれば, ナノ粒子の血管内への容易な吸収は, その急性毒性を説明し得る。
著者
徳永 智史 堀田 和司 藤井 啓介 岩井 浩一 松田 智行 藤田 好彦 若山 修一 大藏 倫博
出版者
日本ヘルスプロモーション理学療法学会
雑誌
ヘルスプロモーション理学療法研究 (ISSN:21863741)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.73-79, 2020-07-22 (Released:2020-08-04)
参考文献数
36
被引用文献数
3

【目的】地域在住高齢者におけるアパシーの身体活動量に及ぼす影響を明らかにする。【対象】2017年7月に茨城県笠間市で行われた長寿健診に参加した地域在住高齢者328名とした。【方法】アパシー評価としてやる気スコア,身体活動量評価としてPhysical Activity Scale for the Elderly,抑うつ評価としてGeriatric Depression Scale 短縮版(GDS‐15),ソーシャルネットワーク評価としてLubben Social Network Scale 短縮版(LSNS‐6),身体機能評価として握力,5回椅子立ち上がり,開眼片足立ち,Timed up and go test,長座体前屈,認知機能評価としてファイブ・コグ,Trail Making Test(TMT)を実施した。【結果】アパシーのみ呈した者の割合は23.2%,抑うつのみ呈した者は12.2%,アパシーと抑うつを合併していた者は15.2%であった。重回帰分析の結果では,身体活動量に対してやる気スコアやLSNS‐6,長座体前屈,ファイブ・コグ,TMT が有意に影響を及ぼしていた。GDS‐15の有意な影響は認められなかった。【結語】アパシーと抑うつは独立して存在し,身体活動量には社会交流や身体機能,認知機能などの多要因が影響しているが,アパシーもその一つである可能性が示された。
著者
岩井 草介 菊池 智子 三浦 貴士
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
no.110, pp.23-29, 2013-10-18

出芽酵母は、増殖が速く、増殖期にある細胞では無性生殖の1つである出芽の観察も容易なため、学校で簡単に培養することができれば実験教材としての幅広い活用が期待できる。そこで本研究では、身近にある材料を使って簡便に酵母を培養する方法を検討した。その結果、糖および園芸用液体肥料を成分とする液体培地で、市販のドライイーストの酵母が増殖することを見出した。培養液中の酵母を顕微鏡で観察したところ、出芽中の細胞が多数見られた。また上の成分のいずれかを欠いた培地ではほとんど増殖しなかったことから、酵母の増殖には炭素源と、窒素・リン・ビタミン類・無機塩類などの炭素源以外の栄養素の両方が必要であることが確かめられた。この実験は、生物の増殖に必要な栄養素や生物を構成する元素についての理解につながると考えられる。さらに、糖・ブイヨン・粉寒天を成分とする寒天培地で酵母が増殖することも見出した。
著者
奥野 淳也 岩井 将行 瀬崎 薫
出版者
Japanese Society for the Science of Design
雑誌
日本デザイン学会研究発表大会概要集
巻号頁・発行日
pp.42, 2013 (Released:2013-06-20)

SNSの普及に伴い,現代では日々膨大なデータが蓄積されている.これらのデータの中には,ユーザの行動や興味に関する情報が含まれている.ユーザに関する情報は,都市計画やマーケティング等の分野から注目され,様々なデザインにおいても重要視される.一方で,現代におけるリサーチ手法はパーソントリップ調査に代表されるようなアンケートやワークショップが主流である.これらの手法では参加者の偏り,コスト面,実施期間といった点における問題が指摘されている. このような背景を受けて,SNSやブログからの情報抽出に関する研究が活発に議論されている.これらの研究の多くが,特定のキーワードや人物,地域に関する情報に注目しており,ユーザが意識的に共有する情報だけでなく,潜在的に共有あるいは保持している情報に注目しているものは多くない.本研究ではユーザ自身のSNS上の情報に対する認識範囲に注目し,SNSにおけるユーザの情報の認識範囲を視覚的に把握する手法について提案し,評価を行った.その結果,ユーザが意識していなかったSNS上の情報を把握することができた.今後は考察により明らかとなった課題の改善と,より多くのユーザが利用できるようにアプリケーションを公開することで,行動情報に関するリサーチ手法の一助となるよう研究を継続したい.
著者
岩井 敏 石田 健二 仙波 毅 高木 俊治 猪狩 貴史 福地 命 BAATARKHUU Undarmaa
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.60, no.11, pp.664-668, 2018 (Released:2020-04-02)
参考文献数
20

小児および未成年期に放射線被ばくによって甲状腺がんが誘発されることは,広島・長崎の原爆被爆者,X線を用いた白癬治療,胸腺肥大治療などの医療被ばく者,ならびにチェルノブイリ原子力発電所事故からの131I取込による内部被ばく者の疫学データから知られている。本稿では,甲状腺がんの種類と特徴ならびに,これまでに知られていた未成年者の甲状腺がん疫学情報の知見を中心に記述する。
著者
時岡 良太 佐藤 映 児玉 夏枝 田附 紘平 竹中 悠香 松波 美里 岩井 有香 木村 大樹 鈴木 優佳 橋本 真友里 岩城 晶子 神代 末人 桑原 知子
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.76-88, 2017-07-01 (Released:2017-04-15)
参考文献数
27
被引用文献数
1 3

LINEとは,友人とのコミュニケーションを主眼としたアプリケーションのひとつである。近年,LINEは特に若者にとって欠かせないものとなってきている。本研究の目的は,高校生のLINEでのやりとりに対する認知のあり方について探索的に把握することと,その認知に対して現代青年に特有の友人関係のあり方が及ぼす影響について明らかにすることであった。高校生423名を対象に,本研究において作成したLINE尺度と友人関係尺度への回答を求めるオンライン調査を行った。LINE尺度の因子分析により「既読無視への不安」「気軽さ」「やりとりの齟齬の感覚」「攻撃性の増加」「即時的返信へのとらわれ」「つながり感」の6つの因子が抽出された。次に,友人関係による影響について多母集団同時分析を用いて検討した。その結果,友人から傷つけられることへのおそれが,LINEでのやりとりへのアンビバレントな気持ちを生む一因であることが示唆された。
著者
池田 浩子 今井 昇 井川 雅子 岩井 謙 道端 彩 高森 康次
出版者
日本口腔顔面痛学会
雑誌
日本口腔顔面痛学会雑誌 (ISSN:1883308X)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.55-63, 2017 (Released:2019-04-24)
参考文献数
34

症例の概要:72歳男性.咀嚼時の両側咬筋の疲労感・開口障害による咀嚼困難を主訴に口腔外科を受診した.顎跛行,開口障害,複視,めまい,体重減少,間歇的な頭皮の痛みなどの症状が認められたため,精査目的に専門施設(神経内科)を紹介した.頸動脈エコー,側頭動脈生検の結果,巨細胞性動脈炎と診断された.ステロイド治療が施行され,速やかに症状の改善が認められた.考察:巨細胞性動脈炎は頭痛以外にも多彩な症状を呈する.顎顔面領域にも顎跛行や開口障害など様々な症状が発現するため歯科を受診する可能性も高いと考えられる.巨細胞性動脈炎が呈する症状のうち,顎跛行,複視,側頭動脈の拡大・圧痛・拍動消失は陽性尤度比の高い症状とされており,そのような症状が認められた場合は速やかに専門施設へ紹介することが重要である.そのためには歯科医師も巨細胞性動脈炎の病態を正確に理解しておく必要性があると考えた.結論:顎跛行および開口障害を主訴に口腔外科を受診し複視,めまい,体重減少,間歇的な頭皮の痛みおよびリウマチ性多発筋痛症の合併も考慮された巨細胞性動脈炎の症例を経験した.
著者
山本 一真 大熊 諒 岩井 慶士郎 渡邉 修 安保 雅博
出版者
日本言語聴覚士協会
巻号頁・発行日
pp.332-337, 2020-12-15

近年,脳卒中や脳外傷による後天性脳損傷者の自動車運転再開支援が全国の医療機関などで行われるようになり,実車での評価前のスクリーニングとして神経心理学的検査が実施されている.しかし,失語症者の場合は実施できる神経心理学的検査が非言語性のものに限られるため,運転再開に至る机上検査結果の基準が示しにくいのが現状である.そこで今回,脳損傷後の失語症例で自動車運転を再開できた再開例と再開できていない非再開例の「病巣」「失語症のタイプ」「SLTA(標準失語症検査)の結果」を比較し,運転を再開できた失語症者の傾向について予備的分析を実施した.結果,失語症者の運転再開例の脳損傷範囲や失語の重症度には幅がみられたが,病巣は前頭葉が多く,タイプはブローカ失語が多かった.そのことから,失語症者の運転再開には聴覚的理解がある程度保たれており,自身の病態を認識していることの必要性が示唆された.