著者
岸 玲子 原渕 泉 池田 聰子 三宅 浩次
出版者
社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業医学 (ISSN:00471879)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.101-113, 1986
被引用文献数
1

有機溶剤トルエンの中枢神経系への急性影響を「濃度・暴露時間積と生体のパフォマンス変化」の面から明らかにすることを目的として行動中毒学的手法を用いて検討した. Wistar系ラットを光警告つき条件回避反応で訓練し,一定の回避成績を示すようになった時点でトルエンに125~4,000 ppmの6段階の濃度におのおの4時間単回暴露し,暴露前後7時間のレバー押し数,回避数,有効回避率,光刺激に対する反応潜時を測定した.<br>得られた結果は以下のとおりである.<br>1) トルエン125, 250, 500 ppm暴露では,暴露開始後20分間は有効回避率の有意の減少が見られた. 125 ppm暴露では暴露240分目の有効回避率が対応コントロールに比べて低かった.<br>2) トルエン1,000 ppmと2,000 ppmでは濃度と暴露時間に比例してレバー押し反応数の顕著な増加と有効回避率の低下が認められた. 2,000 ppm 4時間目には反応数は暴露前の150%を越え,有効回避率は暴露前のパフォマンスの70%に低下していた. 1,000 ppmおよび2,000 ppmトルエン暴露時には,いずれも暴露後2時間目以降は光刺激に対する反応潜時の有意の短縮も認められた.<br>3) 4,000 ppm暴露の場合は,最初の40分間は反応数の著しい増加を示すが,その後次第に麻酔性の行動抑制を示し, 8匹中6匹のラットは痙攣および運動失調を呈した. 4,000 ppm暴露終了後は全ラットの反応数は増加し興奮状態を示した.有効回避率は暴露打ち切り2時間後も回復しなかった.<br>低濃度および高濃度トルエン暴露の行動影響について,考察を加えるとともに,方法についての検討を行って,有機溶剤の中枢神経系への影響を明らかにするうえでラットの弁別条件回避行動の有用性を示した.
著者
中島 そのみ 仙石 泰仁 中村 裕二 加藤 静恵 岸 玲子
出版者
日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.309-316, 2010-06-15

要旨:ベイリー乳幼児発達検査一第2版(以下,BSID-Ⅱ)は乳幼児期の発達状況を評価できる,国際的にも用いられることの多い検査の一つである.しかし,日本では標準化されておらず使用報告が少ない現状にある.本研究では,生後6ヵ月児192名にBSID-Ⅱを実施し,日本版デンバー式発達スクリーニング検査(以下,JDDST)から見たBSID-Ⅱの有用性を検討した.BSID-ⅡのMentalとMotorの平均得点は米国の標準値よりも約10低い値であった.また,BSID-ⅡのMental,MotorはともにJDDSTの関連領域との間で感度・特異度が高く有用性が認められた.しかし,本邦においてはBSID-ⅡのMotorは過剰に遅れと判定する可能性があった.
著者
安住 薫 小林 祥子 岸 玲子
出版者
北海道公衆衛生学会
雑誌
北海道公衆衛生学雑誌 (ISSN:09142630)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.29-38, 2012

環境化学物質の胎児期の曝露が、児の発育・発達、疾病に影響を及ぼすことが明らかになりつつある。その作用機序の解明に、最近、エピジェネティクスが注目されている。2012 年までに報告された、胎児期環境化学物質曝露が児ゲノムDNA のメチル化に与える影響を調べた疫学研究の文献レビューを行った結果、喫煙由来や多環芳香族炭化水素などの環境化学物質の曝露により、児ゲノムDNA のメチル化状態が変化することが確認された。曝露要因の中では、妊娠中の母親の喫煙がDNA メチル化に与える影響を調べた報告が最も多かった。DNA メチル化の変化は蓄積することによって遺伝子発現を変化させるため、胎児期の化学物質曝露によって生じる児ゲノムDNA メチル化の変化は、胎児の発育・発達への影響のみならず、出生後の児の健康リスクに影響を及ぼすことが示唆された。
著者
岸 玲子 吉岡 英治 湯浅 資之 佐田 文宏 西條 泰明 神 和夫 小林 智
出版者
北海道大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

いわゆる化学物質過敏症を疑って札幌市内1医院を受診した患者全員(30人)に基本調査票の記入を依頼し、男性2名を含む26名から回答を得た。平均年齢は44.5歳、発症からの経過年数は2-5年が10人、発症時と比べて症状が悪化した11名、症状頻度が増加した13名だった。ドイツのBeilerらが開発した化学物質過敏症尺度(IEI尺度)を用いた結果、主訴は「においを強く感じる、頭痛、集中力の低下、疲労感、眠気」であり、原因物質は「ある種の香水、塗料または希釈液、タバコや葉巻、ガソリンのにおい、整髪料、マニキュア」だった。化学物質曝露による「健康状態、職場や学校での能力、余暇、家庭生活、身体的能力」への影響の有訴が高かった。この結果、先行研究同様に本研究対象者にとってもいわゆる化学物質過敏症は複数の身体症状が長く続く状態であるといえた。このうち同意が得られた18名(内男性1名)に芳香療法(アロマセラピー)の介入を、無作為化クロスオーバー比較試験として実施した。IEI尺度、および不安尺度については、介入期間前後と対照期間前後の得点差には統計学的有意差は見られなかったが(p>0.05)、各回のアロマセラピー前後では気分尺度の6つ全ての下位尺度に有意な改善が認められた(p<0.05)。化学物質過敏症は臨床的な疾病概念が定義されていない。しかし患者にとって身体症状は事実であり、症状コントロールが必要であるにもかかわらず、現在までに有効性が示された療法はない。本研究は化学物質過敏症へのアロマセラピーの効果を初めて検討した。対象者数が少なく、アロマセラピー介入による症状改善効果は本研究では明らかにならなかったものの短期には気分の改善が認められ、対象者の多くは機会があればこれからもアロマセラピーを受けたいと答えたことから、本研究の課題を改善することでさらなる研究の可能性が示唆された。
著者
河野 一郎 禰占 哲郎 上島 隆秀 高杉 紳一郎 岩本 幸英 岡田 修司 根岸 玲子 鈴木 理司 河村 吉章 石井 櫻子
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.E0271-E0271, 2004

【目的】老人福祉施設では、利用者の増加に伴いそのニーズも多様化しており、独自のサービスを工夫し提供している。その一環としてゲームセンター用の業務用ゲーム機を導入している施設もある。ゲーム機には、楽しく夢中になることで自発的に身体を動かす効果が期待されているが、その身体機能改善効果の科学的検証はほとんどなされていない。今回、デイサービス利用者に対するゲーム機導入の有用性について検討した。<BR>【方法】対象は青森県八戸市のCデイサービス利用者のうち、痴呆を有する者を除き、ゲーム機導入時から1年間継続してデイサービスを利用した者27名であり、ゲーム機を継続的に使用した群(ゲーム機群)8名(男2名、女6名、年齢79.1±5.5歳)およびゲーム機を使用しなかった群(未使用群)19名(男1名、女18名、年齢79.4±6.6歳)に分類した。<BR> 両群とも各種体操や集団レクレーション等、一般的なデイサービスのプログラムを受けており、ゲーム機群ではこれに加え各人が自由選択したゲームを週1から3回行った。なおゲーム機群のすべての対象者は右手でゲームを操作していた。<BR> 使用したゲーム機は、namco社製 "ワニワニパニック"(ワニ叩き)、"ドドンガドン"(ボーリング)、"プロップサイクル"(自転車)、"ジャンケン倶楽部"(階段昇降)であった。<BR> 導入前および導入後2ヶ月毎に体力測定を行い、2群を比較検討した。体力測定の項目は、光刺激に対する反応時間(反応時間)、長座体前屈、Functional Reach(FR)、膝伸展筋力(両側)、握力(両側)、10m最大努力歩行(歩行速度)であった。<BR> 統計学的検討は、まずTwo-way ANOVAを行い、次に各群で、導入前と導入後の各月をそれぞれ対応のあるt検定にて比較検討した。<BR>【結果】ANOVAでは、すべての項目において両群間に有意差は認められなかった。しかし、t検定では、導入前に比べて複数の測定月で有意差を認めた。その項目は、ゲーム機群でFR、長座体前屈、左手握力、未使用群で反応時間、両手の握力であった。このうち両群とも握力は低下傾向で、他の項目は改善傾向であった。<BR>【考察】"ワニワニパニック"では出現するワニに対して前下方にハンマーを振り下ろす動作が、"ドドンガドン"では前方の目標物に対してボールを押し出す動作が要求されるため、前方への重心移動を反映するFRと前方への柔軟性を含む長座体前屈で改善傾向があったものと考えられる。また、握力についてゲーム機群の右手のみが有意な低下を示さなかったことは、ハンマーやボールを握ることで握力が維持されたものと考えられる。<BR> 楽しみながら行うアクティビティは内発的動機付けを促し、長期継続の効果が期待できる。今後は症例数を増やしゲーム機使用の効果をさらに明確にすると共に、心理面の評価も加味した研究を実施していく予定である。
著者
喜多 歳子 池野 多美子 岸 玲子
出版者
北海道公衆衛生学会
雑誌
北海道公衆衛生学雑誌 (ISSN:09142630)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.33-43, 2013

日本では、子どもの相対的貧困率が上昇しているが、就学前の子どもの発達に及ぼす影響は報告されていない。そこで、諸外国で行われた親の社会経済状態(socioeconomic status; SES)と子どもの発達に関する研究に基づき、今後の課題を探った。PubMedを利用し、主に先進国の原著論文の分析を行った。その結果、①SES指標に親の教育歴、所得、職業が多く用いられていた。②発達は、「発達の遅れ」と「問題行動」に大別して報告されていた。③SESと発達の指標は多様であったが、就学前であっても、SESが子どもの「発達の格差」や「問題行動」に影響していた。④その関連に、親の抑うつ、育児ストレス、不適切な養育態度、物的困窮、少ない育児資源などが複雑に関係していた。欧米の研究は、「関連の強さ」から、「効果的な介入」を求める方向に向かっている。本邦の研究課題は、①日本社会にふさわしいSES指標の発見。②親のSESと子どもの発達に関する調査、及び効果的な介入方法の検討である。
著者
嶺岸 玲子
出版者
東北大学
雑誌
言語科学論集 (ISSN:13434586)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.111-122, 1997-12-31
被引用文献数
1

日常会話で頻繁に用いられている縮約形について、外国人がそれを用いた際に日本人がどう感じるかということを評価実験によって検討した。フォーマルな場面では原形の使用が、インフォーマルな場面では縮約形の使用が高く評価されたが、初級学習者に対しては評価が甘くなる傾向が見られた。また、「んだ」「けど」などの縮約形は原形よりも評価が高く、初級の段階からフォーマルな場面でもその使用が許されることがわかった。
著者
佐木 成子 中島 そのみ 岸 玲子
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

妊娠中の喫煙曝露と化学物質に対する遺伝的感受性の個体差が胎児発育に関与することはいくつか報告されてきたが,出生後の神経発達・認知機能への影響についてはまだ十分な検証がされていないことから,妊娠23~35週に前向きコーホート研究に登録した妊婦を対象として,胎児期の喫煙曝露と母親の遺伝的感受性素因による交互作用が小児神経発達に及ぼす影響を検討した。外来異物と結合してチトクロムP450(CYP)などの発現誘導に関与しているアリル炭化水素受容体(AhR)やたばこ煙に含まれる化学物質である多環芳香族炭化水素類(PAHs),ニコチンやニトロソアミン類などの代謝,解毒に関与する酵素の遺伝子多型およびDNA修復に関与する酵素の遺伝子多型について解析したが,喫煙曝露による小児神経発達への遺伝-環境交互作用に有意な関連は認められなかった。
著者
安住 薫 岸 玲子 佐々木 成子 岩野 岩野
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究では、胎児期の環境化学物質曝露が臍帯血のIGF2/H19領域、LINE1のDNAメチル化に及ぼす影響について検討した。札幌の一産科病院で2002年-2005年にリクルートし同意を得た妊婦514名のうち、臍帯血の得られた267名を対象とし、パイロシークエンス法を用いてIGF2/H19、LINE1領域の臍帯血DNAメチル化について定量を行い、環境化学物質との関連について重回帰分析にて検討を行った。交絡因子で調整後、PFOA曝露によるIGF2メチル化の有意な低下、MEHP曝露によるH19メチル化の有意な低下、水銀曝露によるLINE1メチル化の有意な増加が認められた。
著者
吉野 博 長谷川 兼一 岩前 篤 柳 宇 伊藤 一秀 三田村 輝章 野崎 淳夫 池田 耕一 岸 玲子 持田 灯
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、ダンプビルの原因となる高湿度環境を解決するための最適設計法・住まい方の提案に資する資料を構築することを目的とする。そのために、住宅のダンプビル問題の実態を全国的規模で把握し、居住環境と居住者の健康状態との関連性を統計的に明らかにした。また、室内の湿度変動を安定させる機能をもった様々な多孔質の建材(調湿建材)等の高湿度環境緩和技術の使用効果について、実測やシミュレーションを用いた評価を行った。