著者
黒木 貴一 磯 望 後藤 健介 張 麻衣子
出版者
The Tohoku Geographical Association
雑誌
季刊地理学 = Quarterly journal of geography (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.63-78, 2005-08-25
参考文献数
23
被引用文献数
1

2003年九州豪雨により, 福岡市の御笠川沿いの平野部は広く浸水した。JR博多駅周辺も, 1999年に続き再び浸水した。本研究では, JR博多駅周辺の浸水深の分布, 洪水堆積物の層厚分布, 洪水堆積物の粒度の分析結果から, 氾濫水の流下方向やその速さを推定し, 都市内の詳細な土地条件について論じた。<br>浸水範囲は, 地盤高におおむね支配され, 周囲より低い後背湿地にある。しかし, 都市の構造物にも強く影響を受けて, 氾濫水の流下方向, 浸水深, 洪水堆積物の層厚は多様である。御笠川から溢流した氾濫水は, JR博多駅および鹿児島本線に流れを阻まれ, その東 (上流) 側で広く湛水した。次に峡窄部となる鹿児島本線と交差する道路2箇所から西 (下流) 側へ流出した。浸水範囲には, 細粒土砂が堆積する湛水しやすい地域, 粗粒土砂が堆積する土砂の堆積しやすい地域, 土砂はあまり堆積しない氾濫水の流れやすい地域が区分できる。さらに土砂の堆積しやすい地域には, 自然堤防, 三角州, サンドスプレイ, 後背湿地の形成場に類似した土地条件地域を見出すことができた。このように, 都市化による人工的な地形改変により, 洪水特性を決める新しい土地条件が生み出されたことを本研究では示した。
著者
後藤 亨 二瓶 武史
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.54, no.12, pp.979-983, 1999-12-05

スーパーカミオカンデ実験の結果を用いて, 最も簡単な超対称SU(5)大統一模型における陽子崩壊を再解析した. 今回の解析の結果, これまでは寄与が小さいと思われてきた右巻き粒子が関与する有効相互作用 (RRRR型) が, 大きな寄与を与えることが示された. かつての解析では, 主要な項の間の干渉効果によって陽子崩壊の振幅を十分に小さくできると思われてきたが, RRRR型相互作用の効果でそれが不可能となり, 現在の制限からスクォーク(クォークと超対称多重項を組む粒子)の質量が2TeV以下のパラメータ領域が排除されてしまうなど, 陽子崩壊実験からのこの模型への制限は非常に厳しくなった.
著者
関 孝和 建部 賢明 建部 賢弘 後藤 武史 小松 彦三郎
出版者
京都大学数理解析研究所
雑誌
数理解析研究所講究録 (ISSN:18802818)
巻号頁・発行日
vol.1858, pp.27-55, 2013-10

[編集] 関孝和, 建部賢明, 建部賢弘; [校訂] 後藤武史; [再校訂] 小松彦三郎
著者
緒方 誠 岩田 訓 後藤 和彦
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

桜島の大正大噴火の際、1914年(大正3年)1月12日18時28分頃に発生した地震については、当時の震度分布や被害等から鹿児島湾に震源があり、その規模はM7.1というのが現在の通説となっている(Omori(1922)、宇津(1982:気象庁カタログ採用)や、阿部(1981))。今般、大正噴火から100年が経過し、次の大正級噴火が近づく中、現存する地震記象紙や原簿・文献等を再点検し、現在気象庁で使用している速度構造(JMA2001)を用いて震源位置の再評価を試みることにした。この地震については、当時、鹿児島測候所に設置されていたグレー・ミルン・ユーイング式地震計の地震記象紙が現存しており、強震動の初動部分のみ記録し、その後は記録針が振り切れて記録は途絶えている。今回の調査では波形をデジタイズし、初動部分の解析を行った。その結果、初動から期待される震央の方向は、鹿児島測候所(鹿児島市坂元町)から見て南東象限であることが明らかとなった。次に、文献や原簿等に記載された日本国内(一部当時の統治領含む)のS-P時間(初期微動継続時間とされているもの)について収集・整理を行った。この際、地震記象紙が現存しているものについては、可能な限りP相、S相の読み取りを行った。そして、収集したS-P時間データを用いて震源決定を行った。S-P時間を収集した観測点数は20数点となったが、原簿や文献、読み取り値により同一観測点で複数の値が存在し、その値が大きく異なる場合もあるため、後藤(2013)が1911年喜界島近海の巨大地震の震源再評価で用いた手法を参考に震源計算に使用する観測点やS-P時間の選別を行った。最終的には、9観測点のS-P時間データで震源計算を行い、鹿児島市付近に震源が求められた。なお、震源計算には、気象庁カタログ(過去部分)の改訂作業に使用しているツール(走時表は、気象庁が現行の震源計算に用いているJMA2001準拠であるが、観測点の距離による重みは観測網を考慮しJMA2001前に使用していたもの)を使用している。本調査には、気象官署が保管している地震記象紙を地震調査研究推進本部が(公財)地震予知研究振興会に委託して行っている強震波形収集事業で高解像度スキャンしたファイルのほか、国立国会図書館、東京大学地震研究所所有の資料を使用しました。
著者
伏見 千宙 多田 雄一郎 増淵 達夫 松木 崇 菅野 千敬 岡田 拓郎 佐々木 剛史 丹羽 一友 町田 智正 三浦 弘規 後藤 俊行 黒坂 正生 鎌田 信悦 小高 利絵 矢郷 香
出版者
一般社団法人 日本口腔腫瘍学会
雑誌
日本口腔腫瘍学会誌 (ISSN:09155988)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.232-236, 2016-12-15 (Released:2016-12-29)
参考文献数
13
被引用文献数
1

当科にて救済手術を施行した口腔扁平上皮癌深部再発症例27例の検討を行った。救済手術後の1年生存率は75%,2年生存率は61%であった。無病生存期間は中央値10.9か月(2.6か月~61.3か月)であった。予後不良因子は術後病理断端陽性・近接および,原発巣亜部位が舌・口腔底・頰粘膜であった。原発巣再々発部位は,後方および副咽頭間隙が88%を占めており,後方の安全域の設定,副咽頭間隙郭清も考慮すべきと考えられた。
著者
山下 良子 神山 秀一 山本 明日香 加納 宏樹 結城 祥充 上田 晃 川本 由加里 後藤 仁和 山本 聡
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.136, no.12, pp.1641-1649, 2016 (Released:2016-12-01)
参考文献数
28
被引用文献数
6

The efficacy of cefepime (CFPM) is known to depend on the ratio of the time that the serum levels exceed the minimum inhibitory concentration (MIC) to the dosing interval (%T>MIC). The objective of this study was to clarify the relation between %T>MIC and clinical outcome of CFPM, and to identify the optimal dosage regimen. We investigated the outcome of CFPM treatment for febrile neutropenia (FN) patients with normal renal function. Treatment success was defined as the completion of FN therapy with CFPM only. And we calculated %T>MIC for each case based on population pharmacokinetic parameters. The MIC value for simulation was set as 8 μg/mL. In logistic regression analysis, treatment success was significantly associated with the elevation of %T>MIC in the group with persistent neutropenia, yielding a receiver operating characteristic curve with an optimal cutoff value of 73.1%. Next, we simulated %T>MIC for each case under various dosing regimens. For patients whose creatinine clearance (CLcr) exceeded 100 mL/min, it was found to be difficult to attain the objective under the current regimen. In contrast, it was calculated that treatment with 2 g three times a day (t.i.d.) could attain the objective for most of the patients with 3 h of infusion. These results suggest that CFPM treatment under the current regimen is ineffective for FN patients with normal or augmented renal function, and that 2 g t.i.d. is necessary in quite a lot cases, although such use is off-label.
著者
後藤 佐昌子 八軒 浩子 高田 充隆
出版者
一般社団法人日本医療薬学会
雑誌
医療薬学 (ISSN:1346342X)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.21-30, 2011 (Released:2012-04-27)
参考文献数
17
被引用文献数
4

To quantitatively investigate the history of medical pharmacy research in Japan,we analyzed the titles of articles in theJapanese Journal of Pharmaceutical Health Care and Sciences and the Japanese Journal of Hospital Pharmacy,the principalmedical pharmacy journals in Japan,by text-mining.All article titles (2884 articles) between 1975 and 2009 were collectedfrom article databases,and the text of titles was analyzed using the KH Coder,free software for quantitative textanalysis of the Japanese language.This software produces basic information on text data such as the rate of occurrence ofcertain words.Nine research categories were identified through multivariate analysis of frequently appearing words.Also,coding rules were created to assign article titles to these research categories,and the categorization results were analyzed quantitatively.Pharmaceutical investigation was the principal category in the 1970 s and 80 s,with the quality evaluation of drugs asthe major area of research.Articles assigned to this category accounted for 41.4% of all articles published during the period1980-1984.Articles assigned to the drug therapy category began to gradually increase in the 1990 s,and since 2000,drugtherapy has been the major area of medical pharmacy research in Japan.In addition,there has been an increase in investigationsassociated with the education of pharmacists and pharmacy students in recent yearsOur findings suggest that there has been a shift in the dominant research area of medical pharmacy in Japan from qualityevaluation of drugs to patient care.
著者
中野倫靖 吉井和佳 後藤真孝
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
研究報告音楽情報科学(MUS)
巻号頁・発行日
vol.2014, no.2, pp.1-7, 2014-08-18

本稿では、歌声と伴奏を含む音楽音響信号を対象として、「ボーカルの歌声」、「楽曲中の音色」、「リズム」、「和音進行」 の確率的生成モデルを構築し、モデルからの生成確率を計算することで、「楽曲間の類似度」 や 「楽曲のありがち度」 を推定する手法を提案する。歌声、音色、リズムに関しては、LPMCC、MFCC、Fluctuation Pattern に基づく音響特徴量を抽出し、それぞれに関して潜在的ディリクレ配分法 (LDA) を用いたトピック分析を行う。個々の楽曲毎に学習したモデルと全曲から学習したモデルから、楽曲における各音響特徴量の生成確率を計算することで、それぞれ楽曲間の類似度とありがち度を推定した。和音進行に関しては、能動的音楽鑑賞サービス Songle のコード認識結果に対し、可変長 Pitman-Yor 言語モデル (VPYLM) でモデル化した。ここでは、個々の楽曲毎に学習したモデルと全曲で学習したモデルから、各曲のパープレキシティの逆数 (各和音の平均的な生成確率) を計算することで、それぞれ類似度とありがち度として推定した。本稿では、ポピュラー音楽 3278 曲を対象として分析した結果を報告する。
著者
後藤 康志
出版者
日本教育メディア学会
雑誌
教育メディア研究 (ISSN:13409352)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.27-42, 1996-03-31

本研究では、ハイパーメディアによる情報検索活動と直接体験を組み合わせたオープン性の高い単元を構成し、児童の学習の支援を目指した。単元の学習を分析した結果、学習は情報検索の活動から情報発見と新たな活動へ、そして見学を含む他のメディアによる情報活動に発展していき、その結果(1)伝統工業に携わる人々の苦労に関する知識の構成と、(2)知識の実感とそれに基づく知識の再構成という、クローズドな学習ではできなかった学習の支援が可能になったことが明らかになった。
著者
矢倉 大夢 中野 倫靖 後藤 真孝
雑誌
研究報告音楽情報科学(MUS) (ISSN:21888752)
巻号頁・発行日
vol.2016-MUS-112, no.3, pp.1-10, 2016-07-23

本稿では,作業時に集中度を高めることを目的として聴取する楽曲,「作業用 BGM」 に特化した楽曲推薦システムを提案する.従来,ユーザが好むであろう楽曲を推薦する手法が研究されてきたが,「とても好き」 な楽曲は作業者の集中を阻害することが知られており,作業用 BGM として推薦する楽曲に適していない.提案システムは,「とても好き」 や 「とても嫌い」 ではなく、「好き」 もしくは 「どちらともいえない」 楽曲を,BGM 聴取時のユーザからのフィードバックに基づいて推薦する.具体的には,楽曲のサビ区間までをダイジェスト的に聴取する (部分的にしか再生されない) システムとして設計することで,楽曲を 「スキップ」 するフィードバックによって 「嫌い」 な楽曲を推定する従来手法に加え,「もっと聴く」 フィードバックを導入して 「好き」 な楽曲を推定する.さらに,「好き」 として推定された楽曲は,ユーザの集中度を行動ログから推定して 「とても好き」 か 「好き」 かを識別する.これは集中度が高い時のフィードバックは,低い時より嗜好度を強く表しているという仮説に基づく.そして,楽曲間類似度に基づく Label Spreading により,頑健にかつ再生履歴が少ない状況でも適切に楽曲を推薦することを可能にした.
著者
後藤 正幸 石田 崇 鈴木 誠 平澤 茂一
出版者
社団法人日本経営工学会
雑誌
日本経営工学会論文誌 (ISSN:13422618)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.97-106, 2010-08-15

近年,インターネットの普及により膨大なテキストデータからの知識発見を扱うテキストマイニングの技法が注目されている.本研究では,テキストマイニングが取り扱う問題の中でも,特に文書分類の問題を取り上げ,形態素解析後の単語の出現分布としてある確率モデルのクラスを仮定し,文書分類の性能,並びに分類に用いられる距離について漸近的な分析を行う.一般に,文書分類に不必要な単語の混入を完全に排除することは難しく,様々な重要単語の重み付け法などが提案されている.本論文で扱う最初の問題は,このような分類に不必要な単語が混入することが,文書分類に与える性能劣化の程度を把握することである.さらには,単語の出現頻度に基づく文書分類においては,個々の単語の生起頻度は少なく,多くの単語の頻度がゼロとなってしまうというスパースネスの問題がある.すなわち,このベクトル空間上で一つの文書を表す点は,ゼロを多くの要素に持つベクトルで表現される.しかし,「このような状況で,文書同士の距離による分類がある程度の分類性能を示すのは何故か」という疑問については依然として経験的な解釈が与えられているのみである.その理論的根拠を与えるため,本稿では,各要素の出現頻度を有限に保ったまま,次元数を無限大とする新たな漸近論の概念を導入することにより,スパースな文書ベクトル間の距離について解析的な性能を示す.
著者
緒方 淳 後藤 真孝 江渡 浩一郎
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告音声言語情報処理(SLP)
巻号頁・発行日
vol.2007, no.11, pp.41-46, 2007-02-09
被引用文献数
7

本稿では、ポッドキャストを検索できる Web サービス「PodCastle」を実現するための音声認識手法について述べる。ポッドキャストでは多様な内容が異なる環境で録音されており、多数の未知語を含む新たな話題も多いため、従来の音声認識システムで適切に認識するのは困難だった。この問題を解決するために、本研究では、Web 2.0 によって得られる様々なデータを用いることによって、継続的に、音声認識システムを改善していく。具体的には、各ポッドキャストの内容に応じた言語モデルの話題適応、Web 2.0 のサービスを通じた単語発音の自動獲得、PodCastle 上でのユーザが音声認識誤りを訂正した結果を用いた未知語の学習等を試みた。実際にポッドキャストを対象とした認識実験を行い、性能向上に有効であることを確認した。This paper describes speech recognition techniques that enable a web service "PodCastle" for searching podcasts. Most previous speech recognizers had difficulties dealing with podcasts because they include various contents recorded in different conditions and new topics with many out-of-vocabulary words. To overcome such difficulties, we continuously improve speech recognizers by using information aggregated on the basis of Web 2.0. For example, the language model is adapted to a topic of the target podcast on the fly, the pronounciation of unknown words is obtained from a Web 2.0 service, and out-of-vocabulary words are automatically acquired by analyzing user corrections of speech recognition errors on PodCastle. The experiments we report in this paper show that our techniques produce promising results for podcasts.
著者
持橋 大地 吉井 和佳 後藤 真孝
雑誌
研究報告自然言語処理(NL)
巻号頁・発行日
vol.2013-NL-213, no.11, pp.1-8, 2013-09-05

本論文では,単語に潜在空間における座標を明示的に与え,その上でのガウス過程を考えることで,通常の混合モデルに基づくトピックモデルより高精度なテキストモデルが得られることを示す.提案法は潜在層が二値ではなく,ガウス分布に従う RBM の生成モデルともみることができ,MCMC により単語の潜在座標を学習することは他の多くの応用や,可視化にも自然に繋がることができる.
著者
中田 高 渡辺 満久 水本 匡起 後藤 秀昭 松田 時彦 松浦 律子 田力 正好
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

富士川河口断層帯は,平均変位速度が7m/1,000年を上回る活断層によって構成され,駿河トラフのプレート境界断層の陸域延長にあたると考えられてきた(山崎,1979:地震調査委員会,1998など).一方,活動度が高く1回の変位量が大きい逆断層であるとされながら,多くの地点で実施されたトレンチ掘削や群列ボーリング調査によっても,断層運動を示す明確かつ決定的な証拠は発見されず(下川ほか,1996:静岡県,1996: 丸山・斎藤,2007,Lin et al. 2013など),大きな疑問となっていた. 富士川河口断層帯を構成する活断層のうち,東側の断層列は津屋(1940)が最初に指摘したもので,羽鮒丘陵の東縁を限る安居山断層とその南の星山丘陵の北東縁と南東縁をそれぞれ限る大宮断層と入山瀬断層からなり,富士山を中心として円弧を描く急斜面の崖下に北西側を低下させる断層が存在すると推定されている.西側の断層列は羽鮒丘陵の西の芝川に沿った芝川断層と蒲原丘陵の西縁を限る入山断層から構成される.羽鮒丘陵と星山丘陵は北西−南東方向に延びる背斜状の細長い高まり地形をなす.丘陵を開析する谷には小規模な河岸段丘や新規の富士溶岩流(大宮溶岩流(津屋,1940))が分布し,丘陵の長軸に直交する胴切り的な正断層によって上下変位を受けている.古富士泥流堆積面からなる丘陵の北縁に沿って丸みを帯びた急斜面が発達し,その下位の段丘面も富士山側に向かって撓んでいるが,古い面ほど急傾斜となり累積的な変形が継続していることが読み取れる.最近,筆者らはフィリピン・ルソン島中部のタール火山のカルデラ湖を囲む外輪山に,重力性の変形により形成されたと考えられる高まり地形を発見した(中田他,2016).この地形は羽鮒丘陵・星山丘陵と酷似しており,両者の成因が共通する可能性が高い. 駿河トラフの海底には,ほぼ南北に延びる急峻で直線的な東向きの海溝斜面が南海トラフの東端部のから連なり,その基部に活断層が発達する.活断層は,海溝斜面を開析するガリーが形成する小扇状地や谷底を変位させ比高数10mの低断層崖を発達させており,活発な断層変位が繰り返していることを示唆している.この急斜面は湾奥では北北西に走向を変え,由比川河口に達する(中田他,2009).大陸棚斜面上には,海底活断層が富士川河口に向かって分岐することを示す変動崖も存在しない。また,星山丘陵の南東縁を限る入山瀬断層は逆断層とされており,1854年安政東海地震の際に蒲原地震山・松岡地震山がこの断層に沿って出現したとされてきたが,その根拠は必ずしも明確ではない. 近年,詳細な空中写真判読から,富士川沿いの地域で南北性の活断層が次々と発見・確認されている.水本他(2013a,2013b)は,松田(1961)が西傾斜の逆断層と認定した身延断層に沿って,富士川の河岸段丘面の西上がりの変位や支谷の左屈曲を発見した.このうち,山梨県南部町原戸付近の支谷の系統的な左屈曲や,同町井出における河岸段丘面を西上がりに変位させる直線的な低断層崖は,身延断層が左横ずれ変位が卓越する活断層であることを示す確実な証拠である.また,渡辺他(2016)は富士川の東岸,身延駅南の角打〜樋之下に系統的な谷屈曲をもとに新たに南北性の左横ずれ断層を認定し,段丘礫層を変位させる断層露頭を確認した. さらに, 糸魚川−静岡構造線と富士川河口断層帯との間に発達する西傾斜の逆断層(松田,1961)のうち,根熊断層と田代峠断層に沿って河谷の左屈曲が複数発達することを新たに見出した.これらの断層は,「日本の活断層」(活断層研究会,1980)では確実度III(活断層の疑いのあるリニアメント)として記載されているものにほぼ一致する.このうち田代峠断層では,興津川上流の大平付近で認められる支谷の左屈曲が極めて明瞭である.伊藤他(2013)は地下構造探査の結果から,田代峠断層は逆断層成分を有する西傾斜の高角左横ずれ断層とした.また,野崎他(2013)は,田代峠断層の北方延長に当たる音下断層(松田,1960)の断層岩を解析し,この断層が高角西傾斜の横ずれ断層である可能性を指摘した.以上の結果から,南部フォッサマグナでは、糸魚川−静岡構造線と富士川との間の横ずれ変形帯が,駿河トラフにおけるフィリピン海プレート境界沿いの変動帯の陸域延長部にあたると考えることができる. 上述の新知見を考慮すれば,富士川河口断層帯、特にその東列をフィリピン海プレート北縁における陸域プレートの境界をとする考えには再検討が必要である.由比川沿いでは富士川河口断層帯の西列に当たる入山断層が活断層として認められてきた(活断層研究会,2001).しかし,由比川の支谷に左屈曲が複数認められるものの,活断層を連続的に認定するにたる明確な地形的な証拠は得られていない.また,入山断層の北方延長とされる芝川断層についても活断層であることを示す確実な証拠は得られておらず,さらに入念なフィールドワークと詳細な分析が不可欠である.