著者
小林 茂夫 細川 浩 前川 真吾
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

ほ乳類や鳥類は,環境温が低下すると,ふるえによる産熱反応を起こして体温を保つ。一方,爬虫類,両生類,魚類は,環境温が低下しても産熱反射を生まず体温が下がる変温動物である。しかし,ふるえが系統発生上いつ生じたのかわかっていないここでは,低温でふるえ様の反応がサカナで生まれるとの仮説を立て,それを検証する実験をおこなった.受精後3日齢のゼブラフィッシュの稚魚を,28.5℃から12℃の水に移すと,尾ひれを律動的に振る相(ON相,約10Hz)と静止する相(OFF相)が,約3秒の周期で断続的に生じた(ON-OFF相)。しかし,サカナに前進運動は見られなかったので,その運動は産熱のための考えられる.ここでは,発砲スチロールで熱流を遮蔽した試験管に少量の12℃の水を入れ,その中に稚魚をいれ,ふるえで生じる水温の上昇を産熱の指標として測定した。一匹の稚魚を入れたときの温度上昇は,対照群の温度上昇と差はなかった。5匹の稚魚を入れると,水温は,対照群の上昇速度より高い速度で上昇した。10匹の稚魚を入れると,水温は,5匹の上昇速度のほぼ2倍の速度で上昇した。魚類の麻酔薬MS222で処理した5匹の稚魚を入れたとき,温度上昇は対照群と差はなかった。これらの結果は,尾びれのふるえ様の動きで熱が生まれたことを示す。間欠的な動きを生む発振器の場所を探るため,脳神経系のレベルで切断しふるえの変化を見た。後脳と脊髄の間を切断すると,間欠的な動きが連続的なものに変わった.これは,脳の発振器が,連続的なふるえを周期的に遮断していることを示す。
著者
林 愛明 趙 国春 趙 国澤 徐 錫偉
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.104, no.2, pp.III-IV, 1998 (Released:2010-12-14)
参考文献数
1

1998年1月10日11時50分頃, 中国河北省張家口市北西部(北緯41.1°,東経114.3°, 第1図)で Ms6.2 (表面波マグニチュード) 地震が発生し, 河北省北西部の広い範囲に甚大な被害をもたらした. 中国国家地震局は今回の地震を張北-尚義地震と命名した. 1月17日までの集計で死者が50人, 重傷者が 11,439人,倒壊家屋が13.6万棟に達する大惨事となった. 筆者の一人(林)は1月15日から19日まで中国側の研究者と被災地の調査をしてきたので, ここに今回の地震の被害状況を報告する. 被害状況と地質構造・地盤・地形との関連などについては現在継続して調査・資料整理中である.
著者
小島 久子 鞠子 茂 中村 徹 林 一六
出版者
植生学会
雑誌
植生学会誌 (ISSN:13422448)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.55-64, 2003

長野県菅平にある筑波大学の樹木園に植栽されたブナとミズナラの開葉時期と,葉の霜に対する耐性について実験を行った.実験にはマイナス5度以下に調節できる生育箱と野外で同じような冷却条件が与えられる自然放射冷却装置を製作して用いた.この自然放射冷却装置は既報の論文を参考にこの実験のために製作した.同時にブナ群落の分布限界とされている黒松内を中心とした北海道南部各地の温量指数と遅霜出現時期を検討した.開葉時期は1988年から1994年までの7年間記録し,その平均を求めた.それによると,ブナはミズナラより平均10日ほど早く開葉し,それに要する日温量指数はブナで平均113℃日,ミズナラで182℃日であった.一方,開葉したばかりの葉の霜に対する耐性の実験では,ブナの開葉したばかりの葉は霜に遭うと枯死し,開葉前の芽の段階では霜にあっても枯死しなかった.ミズナラは枝の先端に複数の冬芽を付け,若葉が霜で枯れても側芽が開葉し,その後成長できた.それにたいして,ブナの頂芽は前年の8月ころから形成され,側芽をもたないので,開葉後,遅霜に遭うとその後の成長ができなかった.ミズナラは,開葉時期が遅いことと,側芽を持つことによって,遅霜の害を回避している.開葉時期の遅れは,遅霜のない地域では光合成の開始時期の遅れとなり,物質生産においてブナに対して不利である.ブナは光合成を早く開始する代わりに遅霜に遭遇する危険をもつ.この二つの実験から,ブナは日温量指数が113℃日に達した後遅霜がある地域には自然には分布できないが,ミズナラは上に述べた生態的特性によってその地域でも分布でき,より北に分布を広げることができると思われる.日温量指数が113℃日に達した後に遅霜がある地域を北海道南部で調べてみると,倶知安と岩見沢が相当する.ブナが分布できる黒松内と倶知安のあいだには羊蹄山,ニセコアンヌプリなどの山塊があり,この山塊付近が113℃日に達した後遅霜がある地域に当たりブナの自然分布を妨げていると考えられる.これをブナの北限を説明する開葉時期-遅霜仮説とする.この仮説から,日温量指数が113℃日に達する前に最後の遅霜のある地域では黒松内以北でもブナは生育できるので,人為的に植えればブナは生育できるであろう.
著者
栗林 佳代
出版者
佐賀大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

まず、フランス訪問権に関する法理論および立法過程に関する検討を行った。1970年の訪問権の立法は判例および学説を承認するかたちでなされた。それゆえ、フランスの訪問権は実社会に要請にそうものであり、訪問権の主体は父母・祖父母・第三者と広い。さらに、特に父母の訪問権は、1987年および1993年の法改正により離婚後の共同親権制度が導入されたことにより、訪問権は例外的に単独親権となった場合にのみ機能するものとして変化した。そして、フランス法の検討をもとに、わが国の面接交渉権について批判的に検討し、法理論の再構築をした。
著者
渡辺 弘 宮村 治男 林 純一 高橋 善樹 篠永 真弓 江口 昭治
出版者
一般社団法人 日本人工臓器学会
雑誌
人工臓器 (ISSN:03000818)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.301-306, 1996-04-15
参考文献数
10

小児例におけるIABPでは小容量のバルーンを細いカテーテルを介して高心拍で駆動させる必要があるため、駆動装置の特性によりバルーンの応答速度が異なる。駆動装置の特性が応答速度に及ぼす影響をin vitroで評価した。2、4、7、10ccのバルーンを4種類の装置を用い、成人用の通常モードと、2種類の装置では小児用モードで併せて評価した。密閉したモック内で90~180bpmで駆動し、inflation時間、deflation時間を測定した。駆動装置の多くの機種は、成人用のバルーンカテーテルの駆動を目的にしているが、いずれの駆動装置であっても小児用バルーンカテーテルの駆動は可能であった。小児用IABPでは小容量バルーンを細いカテーテルを介して高心拍で駆動するため、駆動装置によりバルーンの応答性は異なった。小児用バルーンのより効果的な駆動のためには、駆動装置の小児用IABPモードへの対応が必要と考えられた。
著者
大久保 正人 増田 和司 小林 由佳 中村 貴子 鈴木 貴明 石井 伊都子
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.141, no.5, pp.731-742, 2021-05-01 (Released:2021-05-01)
参考文献数
18

In 2010, the in-hospital practical training period for pharmacy students was extended from 4 to 11 weeks. We have conducted questionnaire surveys of these students every year with the aim of reviewing the quality of training by conduction of surveys and evaluations. However, it was not clear whether reviewing based on the questionnaire results improved student satisfaction with the in-hospital practical training. Therefore, the aim of this study was to verify the validity of reviewing based on the questionnaire results by analyzing the data accumulated during the long-term practical training. A questionnaire survey was conducted of 333 5th-year students upon completion of practical training at Chiba University Hospital from 2010 to 2017. Students self-evaluated their attitude toward practical training on a 6-point scale and their satisfaction level for each component of the practical training on a 5-point scale. The students were also allowed to share their feelings about hospital pharmacy work. Repeated review of the training content can facilitate communication with patients, which was lacking at the beginning of the training period. Improved communication led to higher-quality pharmacy practice and increased student satisfaction. Meanwhile, changes to work procedures may reduce student satisfaction unless the training strategy is reviewed accordingly. Because the work of hospital pharmacists is constantly changing, it is considered that the content of the practical training should be revised accordingly through continuous conduction of surveys and evaluations, thereby enabling optimal practical training.
著者
西田 博 小柳 仁 本田 喬 関口 守衛 椎川 彰 江石 清行 高 英成 富沢 康子 中野 清治 清野 隆吉 遠藤 真弘 林 久恵
出版者
一般社団法人 日本人工臓器学会
雑誌
人工臓器 (ISSN:03000818)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.139-143, 1987

今回, 自験例の4例を中心に緊急手術を目的としたIABP駆動下CCU間搬送の問題点, および10機種のIABPの移送に際した性能, 特性の比較検討をおこなった。移送に際し, 問題となる点としては, IABPのサイズと搬送車のサイズの問題, 搬送距離と消費電力, 内蔵バッテリー容量, そしてその容量を越える長距離間の搬送時の電源確保などであった。新型になるにつれ, 装置の小型化がはかられているが, 旧型のものでは, サイズ的に一般救急車には搭載不能でワゴン車などのレンタカーを用いる必要があった。また省エネ化も進んでいるが, 長距離搬送の際の電源としては, 予備バッテリーの使用, 100VACへのインバーターを用いて車より確保する方法, ポータブル発電機の使用などがあげられるが, 高容量車からの確保がもっとも実際的と考えられた。
著者
中原 和洋 内田 咲 小林 実央 山田 茂雄
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集
巻号頁・発行日
vol.2014, pp.2I5OS08b4, 2014

<p>知識ベースのConceptNetや推論手法のAnalogySpaceが開発され、コモンセンスAIの研究基盤が整いつつある。著者らは日本におけるコモンセンス知識収集と知識ベース構築を行ってきた。本論では、上述の知識ベースと推論を用いて市販幼児教材の仲間外れ概念探し問題に取り組んだ結果を報告する。Wikipediaを利用したLSA手法、WordNetの概念間類似度計算手法と比較し良好な結果が得られた。</p>
著者
林 輝幸
出版者
The Society of Synthetic Organic Chemistry, Japan
雑誌
有機合成化学協会誌 (ISSN:00379980)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.239-250, 1983-03-01 (Released:2009-11-13)
参考文献数
165
被引用文献数
1 1

Effects of the structure of diphosphines, especially of n in Ph2P (CH2) nPPh2 (PnP), on the structure, reactivity, catalytic activity and selectivity, and asymmetric induction ability of transition metal complexes are described. The catalytic activity and selectivity change variously depend on n when PnP are used with catalyst metal complexes. P2P is suitable when chelating species is active, while P3P or P4P is superior when dissociation of the diphosphine is necessary. In asymmetric reactions, the diphosphines which form rigid coordination structure bring about high optical yield.
著者
小林 正 康村 満枝
出版者
Center for Academic Publications Japan
雑誌
Journal of Nutritional Science and Vitaminology (ISSN:03014800)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.123-128, 1973 (Released:2009-04-28)
参考文献数
5
被引用文献数
10 18

In the irradiation of ergosterol, the effect of wavelength on the forma-tion of potential vitamin D2 (the sum of pre-D2 and vitamin D2) was investigated. Monochromatic UV rays obtained from a spectroirradiator were used for the irradiations and the yield of potential vitamin D2 was estimated by the GLC method as described previously (1). When an ergosterol solution in ethanol (1.0 mg/ml) was irradiated by mono-chromatic UV ray in the range 230-400mμ with the quantum of 4.0×108 erg/cm2, the figure of the relationship between yield of potential vitamin D2 and wavelengths of irradiating UV rays showed a mountain shape with a maximum at 295mμ. Ultraviolet rays in the range 285-310mμ were more effective than the other rays for the formation of potential vitamin D2 (yield: higher than 22%), whereas those either below 230mμ or above 330mμ were less effective (yield: lower than 3.5%). The gas chromatograms of TMS ethers of all the irradiated solutions showed the presence of peaks due to gyro- and isopyro-D2 (thermal cyclized products of pre-D2 and vitamin D2), lumisterol2, ergosterol and tachy-sterol2, although their peak area ratios were very different. The irradiations by various monochromatic UV rays with different quanta of energy were also examined, and the ray of 295mμ with quanta of 2.1-6.4×108 erg/cm2 was found to give the best yields of potential vitamin D2, between 31.5 and 33%. Further irradiations beyond the maxima effected a decrease in the yield.
著者
林 一馬
出版者
建築史学会
雑誌
建築史学 (ISSN:02892839)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.75-110, 1997
著者
桑水流 理 寺西 正輝 小林 正和 戸田 裕之
出版者
公益財団法人 高輝度光科学研究センター
雑誌
SPring-8/SACLA利用研究成果集 (ISSN:21876886)
巻号頁・発行日
vol.9, no.6, pp.383-390, 2021-11-29 (Released:2021-10-29)
参考文献数
16

板状の介在物粒子を含むアルミニウム鋳造合金の疲労破壊挙動を放射光 CT および大規模有限要素解析により検証した。疲労亀裂は主として介在物と母相の界面剥離から生じた。界面剥離と介在物粒子の破損はほぼ同時に多数発生し、多数の空隙を生じさせた。単一の亀裂の進展速度は遅く、多数の空隙が合体することで、亀裂は進展した。材料表面では Al 母相の塑性ひずみが蓄積し易く、Al 母相のひずみ硬化による応力増加が、材料表面近傍での介在物の破損を生じさせた。
著者
伊藤 進 黒岩 ルビー 浅川 奈緒子 本田 香織 森 祐子 林 優子
出版者
一般社団法人 日本てんかん学会
雑誌
てんかん研究 (ISSN:09120890)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.42-51, 2018-06-30 (Released:2018-06-29)
参考文献数
7

乳児期発症難治性てんかんにおける保育所就園及び保護者就業についての実態を明確とするため、ドラベ(Dravet)症候群及びウエスト(West)症候群の患者家族会は共同で実態調査を実施した。ドラベ症候群患者120名中70名(58.3%)及びウエスト症候群患者244名中136名(55.7%)よりウェブアンケートを回収した。保育所就園率は5歳以下児各25.0%及び36.8%(医療的ケア児0%、本邦乳幼児42.4%)であり、入通園制限は各66.7%及び19.6%にあった。抗てんかん薬の定時内服は各10.5%及び19.6%、発作時坐剤頓用は各36.8%及び16.7%で対応不可であった。通園中のてんかん発作は各85.0%及び44.0%、重積発作は各20.0%及び4.5%にあった。保護者就業率は、母親が各20.8%及び26.4%(本邦母親47.3~61.2%)、父親が各98.0%及び95.2%であった。難治性てんかんのある乳幼児においては、保育所の就園は低率、入通園制限は高率であり、その保護者、特に母親の就業率は低率であった。
著者
高野 美香 西村 正幸 林 紀孝 利谷 昭治 曽爾 彊 久野 修資
出版者
日本皮膚科学会西部支部
雑誌
西日本皮膚科 (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.276-280, 1992

症例は40歳の福岡県出身の主婦で初診の1年前, 躯幹に紅色丘疹を生じ, 2ヵ月前より同様の皮疹が全身に播種状に認められるようになった。組織学的に真皮上層から中層に異型性のあるリンパ球様細胞の浸潤がみられ, 表皮内にも異常リンパ球が認められた。浸潤細胞の大半はT cellの表面マーカーを有し, cutaneous T cell lymphomaと診断した。初診の2年後, 全身倦怠感と著しい皮疹の増悪, 表在リンパ節腫脹とともに末梢血に異常リンパ球13%を認めるようになった。化学療法(VEPAMなど)を開始したが効果なく, 初診後3年半(白血化してから1年半)の経過で死亡した。
著者
横尾 武夫 片平 順一 小林 英輔 山本 乃里子
出版者
大阪教育大学
雑誌
大阪教育大学紀要 (0xF9C5)教科教育 05 教科教育 (ISSN:03893480)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.p281-290, 1985-12

方位(東西南北)に関する基本的な知識や技術を身につける訓練は、初等教育の段階で行う必要がある。方位の学習は、それが一つの生活技術であること、自然探究の基礎知識であること等の外に「対自的な物の見方」を育てることに意義がある。初等教育における方位の学習の内容には、太陽及び天体の日周運動、地図、方位磁針が含まれる。ここで提案する、各学年の教材については、(1)児童の認識発達に応じた教材の選択を行うこと、(2)それぞれの教材が有機的な連繁を持っていること、に主眼がおかれている。学習をより効果的に行なうには、現在の学校教育の態勢の枠組を越えた考え方が必要である。すなわち、(1)野外教育の場を活用すること、(2)総合学習又は合科学習の場を拡げること、(3)生活学習を重視すること、等である。