著者
島村 珠枝 田口 敦子 小林 小百合 永田 智子 櫛原 良枝 永田 容子 小林 典子 村嶋 幸代
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.2_3-2_12, 2010-06-21 (Released:2011-08-15)
参考文献数
32
被引用文献数
2

目的:多剤耐性結核の治療のため隔離入院中の患者が病気をどのように受けとめ,どのようなことを感じながら入院生活を送っているかを明らかにする.方法:入院中の多剤耐性結核患者5名に半構造化面接を実施し,質的記述的に分析した.結果:病気について,全員が『治りにくい病気に罹った』と捉えた上で,『治るだろう』と受けとめている者,『治らないだろう』と考える者の両者が存在した.ほとんどの協力者が『先が見えない』と感じており,長期入院と隔離に大きなストレスを感じていた.入院生活について,全員が『楽しいことはほとんどない』と感じていた.『人に会えないのが寂しい』と閉塞感を訴え,『外とのやり取りで気が紛れる』と入院生活の辛さを紛らわせていた.『看護師との日常的な会話が楽しみ』と話す者もいた.結論:看護師は日常的に患者と関わる中で患者と外との接点になり得るため,日常的なコミュニケーション場面での配慮が求められている.
著者
永田 智成
出版者
埼玉大学経済学会
雑誌
社会科学論集 (ISSN:05597056)
巻号頁・発行日
no.164, pp.51-67, 2021-06

君主制は世界最古の統治制度である。そしてこの制度は21 世紀においても存在し続けている。直感的には君主制はデモクラシーと矛盾するように思われるかもしれない。 本稿は、スペインの事例を概観しながら、なぜ依然として君主制が存在しているのかを明らかにする。具体的には、①君主制は優れた国家形態なのか、②崩壊した君主制と維持される君主制はどう異なるのか、という点について先行研究の議論を整理したうえで、スペインの事例と突き合わせることで得られる知見を提示し、比較政治学の理論に貢献する。 本稿での検討の結果、以下の知見が得られた。スペインの事例を見る限り、君主制から共和政への移行は、かなりの困難を伴い、前近代にどのような統治形態が採用されていたかという点が共和政の成否を左右すると考えられる。また、君主制そのものに疑義が唱えられないためには、国民との対立が決定的になる前に、君主が亡命するなどの国から立ち去ることが重要であるということがわかった。 The monarchy is known as the oldest system of governance, and this system still exists in the 21st century. If you make an intuitive judgement, you may perhaps think that the monarchy is in contradiction to democracy. This article gives an overview of the Spanish case and clarifies why the monarchy still exists. Specifically, after organizing the discussions of previous studies on (1) whether or not the monarchy is an excellent form of state, and (2) how the collapsed monarchy differs from the maintained monarchy, I will present the findings obtained by making comparisons with the case of Spain, through which I hope to contribute to the theory of comparative politics. As a result of the examination in this paper, the following findings were obtained. As far as the case of Spain is concerned, the transition from a monarchy to a republic is quite difficult, and it is thought that the success or failure of the republic depends on what form of governance was adopted in the pre-modern period. It was also found that it is important to leave the country, such as when the monarch goes into exile, before the confrontation with the people becomes decisive, so that the monarchy itself cannot be questioned.
著者
于 楊 日永田 智絵 堀井 隆斗 長井 隆行
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集
巻号頁・発行日
vol.2020, pp.4F2OS25a03, 2020

<p>近年,スマートフォンやタブレットなどデジタル端末の発展により,ユーザーが視聴できる動画は膨大な量に達している.こうした中で,消費者のニーズに対応するパーソナライズされたビデオコンテンツの分類,検索および配信は依然として解決すべき課題である.一般に,人間は情緒的特性に基づいて映画や音楽を選ぶ傾向がある.従って,感情喚起を分析することで,この課題に対して一つの指針が得られる可能性がある.動画によって喚起される感情は,オーディオとビデオの両方のモダリティに関係している.そこで本研究では,マルチモーダル情報の統合によって動画による感情喚起を推定する深層学習モデルを提案する.映画データベースを用いた実験により,マルチモーダル情報を統合したことによる推定性能の変化について検証し,従来手法に比べ推定精度が向上することを示す.また最近話題となっているAutonomous Sensory Meridian Response (ASMR) 動画を解析し,感情喚起と閲覧回数,高・低評価数など視聴者の行動との関係性を検証する.</p>
著者
橋口 克頼 永田 智久 森 晃爾 永田 昌子 藤野 善久 伊藤 正人
出版者
The University of Occupational and Environmental Health, Japan
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.271-282, 2019-09-01 (Released:2019-09-20)
参考文献数
25
被引用文献数
1 5

WHOは「各国・地域において,人々が経済的困難を伴わず保健医療サービスを享受すること」を目標としており,その指標としてEffective Coverage(EC)という概念を提唱している.ECとは“その国または地域における健康システムを通して,実際に人々に健康増進をもたらすことができる割合”と定義されており,産業保健の場面では治療が必要,もしくは治療を受けているうち,適切に疾病管理されている率に該当すると考えられる.本研究では産業保健サービスの効果を評価することを目的とし,「常勤の産業保健スタッフ(産業医または産業看護職)による労働者への産業保健サービスの提供は,高血圧,糖尿病,脂質異常症の各項目について,ECを向上させる」という仮説をたてて検証した.2011年度の一般健康診断,人事情報,及びレセプトからの個々のデータを分析した横断的研究である.特定の大規模企業グループの91,351人の男性労働者を対象とした.常勤の産業保健スタッフがいる事業場に所属する労働者(OH群)とそれ以外の事業場に所属する労働者(non-OH群)において高血圧,糖尿病,脂質異常症の各項目別にECを算出し,比較した.OH群はnon-OH群に比べて,高血圧・糖尿病において有意にECが高率であったが,脂質異常症については有意な差を認めなかった(高血圧aOR 1.41: 95%CI 1.20-1.66,糖尿病aOR 1.53: 95%CI 1.17-2.00,脂質異常症aOR 1.11: 95%CI 0.92-1.34).常勤の産業保健スタッフによる産業保健サービスの提供は,健康診断後の適切な管理に大きく影響する.
著者
日永田 智絵 堀井 隆斗 長井 隆行
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集
巻号頁・発行日
vol.2019, pp.3G3OS18a02, 2019

<p>感情は人において重要な要素であるといわれているが,そのメカニズムは完全には明らかになっていない.その中で有名な仮説として,神経科学者のDamasioは,情動を身体シグナルとし,外部の刺激によって引き起こされる身体シグナルが意思決定を効率化しているというソマティック・マーカー仮説を提唱した.本研究では感情メカニズム解明への足掛かりとして,計算機シミュレーションにて,ソマティック・マーカー仮説の検証を行った.具体的には,深層学習を用い,行動方策を学習するネットワークを構築し,身体シグナルがあることによって,報酬の高い行動の選択が行われるかを検証した.結果として,身体シグナルがあるものが最も報酬の高い行動を選択できるようになっていることが明らかとなった.</p>
著者
黒木 直美 宮下 奈々 日野 義之 茅嶋 康太郎 藤野 善久 高田 幹夫 永田 智久 山瀧 一 櫻木 園子 菅 裕彦 森田 哲也 伊藤 昭好 森 晃爾
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.51, no.5, pp.49-59, 2009 (Released:2009-10-08)
参考文献数
28
被引用文献数
2 1

小規模事業場において良好実践を行っている事業者の産業保健ニーズに関する質的調査:黒木直美ほか.産業医科大学医学部公衆衛生学―本研究では,小規模事業場における事業者の産業保健ニーズあるいは良好実践の動機を把握することを目的とした.これまでの調査では小規模事業場における産業保健活動の遅れが報告されている.これらの知見は主に質問紙調査から得られたものである.しかし,小規模事業場には事業者の意識が直接反映されるという特徴があり,積極的に産業保健活動に取り組んでいる事業場も存在している.このような小規模事業場の良好実践例において,事業者のニーズを分析した研究はこれまでにない.産業保健に対する事業者の動機を明らかにすることは小規模事業場間に良好実践を水平展開する一助となると考えられる.そこで,我々は産業保健活動の良好実践が行われている小規模事業場10社の事業者と半構造化面接を行い,その逐語録をKJ法を用いた質的手法で分析した.その結果,事業者はもっぱら「よい会社」,「よい経営」を強く意識していることが明らかになった.「よい経営」のための要素には「人材確保」,「取引先の信用」,「社会的信用」,「社長自身の健康」という4つがあった.事業者はこれらの要素を達成するため職場の安全,従業員の健康に関する活動は当たり前であると考えていた.さらに,具体的な活動には「コストの問題」,「担当者の問題」,「時間がない」,「外部資源」という既知の制約があった.調査結果から,経営と安全衛生活動を関連づけることが小規模事業場における安全衛生活動の向上に寄与すると考えられた. (産衛誌2009; 51: 49-59)
著者
海﨑 孝斗 澤山 郁夫 永田 智子 藤原 雅弘
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
pp.S47078, (Released:2023-07-24)
参考文献数
8

本研究では,大学生における手書きとタイピングによる日本語記述速度を比較した.またこの際,大学生は,手書きとタイピングではどちらがより速く記述することができると考えているのかという事前予想の正確性にも着目した.その結果,過半数(77.44%)の参加者がタイピング条件のほうが速い(ある定型文について,1分間でより多くの文字数を記述することができる)と予想したにも関わらず,実際には,タイピング予想群と手書き予想群のいずれにおいても,手書き条件の方が,1分間に記述した有効文字数がより多かった.
著者
大森 美保 永田 智久 永田 昌子 藤野 善久 森 晃爾
出版者
The University of Occupational and Environmental Health, Japan
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.293-303, 2021-09-01 (Released:2021-09-06)
参考文献数
64

Greater workplace social capital (WSC) can be related to workers’ health and productivity. We sought to clarify the association between horizontal WSC and presenteeism and sickness absence (SA) and to examine the effects of psychological distress on these associations among Japanese workers. A cross-sectional study was conducted in 2017 at seven large Japanese companies. Logistic regression analysis was performed with presenteeism and SA as the dependent variables, horizontal WSC as an independent variable, and sociodemographic characteristics and psychological distress as covariates. After adjustment for sociodemographic characteristics, the results showed that greater horizontal WSC was associated with lower presenteeism and SA. The odds ratios for the relationship between horizontal WSC and presenteeism and that between horizontal WSC and SA dropped moderately after adjustment for psychological distress but remained significant. Further exploration of the factors underlying the relationship between WSC and productivity is needed to confirm if WSC enhances workers’ health and productivity and to inform the development of effective occupational health initiatives.
著者
篠原 英美 衞藤 薫 勝浦 美沙子 橋本 和典 佐藤 友哉 水落 清 西川 愛子 永田 智
出版者
東京女子医科大学学会
雑誌
東京女子医科大学雑誌 (ISSN:00409022)
巻号頁・発行日
vol.93, no.2, pp.62-66, 2023-04-25 (Released:2023-04-25)
参考文献数
14

We report a case of pediatric Fabry disease in a girl whose pain was relieved and quality of life (QOL) improved with enzyme replacement therapy (ERT). Her father was diagnosed with Fabry disease based on the examination findings for pre-renal transplantation due to renal failure. Therefore, examinations were performed for her. Urinary mulberry bodies were positive, and the genetic analysis for α-galactosidase A (GLA) revealed a nonsense variant, leading to the diagnosis of pediatric Fabry disease. At 8 years of age, she presented with pain in the distal portion of the extremities and abdomen, which persisted despite oral carbamazepine. Therefore, ERT was provided. After initiation of ERT, blood lyso-Gb3 levels decreased, and extremity and abdominal pain improved. We asked her and her parent questions about QOL before and 12 months after the start of ERT. The European Quality of Life Five Dimension Youth showed improved scores for usual activities and pain or discomfort, and self-scoring of physical and mental condition on the European Quality of Life Visual Analogue Scale improved from 22 before ERT to 70 after 12 months of ERT. Pediatric Quality of Life also showed improved scores for physical and emotional functioning. Similar results were obtained by questioning the parent. Although the questionnaire is subjective and depends on the patient's physical condition at the time, we speculate that ERT improved QOL. Since the severity of clinical symptoms in women with Fabry disease varies, regular follow-up and appropriate intervention soon after the appearance of organ involvement are important to improve QOL and prevent complications.
著者
大塚 宜一 清水 俊明 永田 智
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

食物アレルギーや炎症性腸疾患の病態を解明する目的で、食物の未消化産物との関連を検討した。その結果、未消化産物の明らかな抗原性は確認できなかった。一方、それぞれの消化管粘膜の生検標本を用いmicroarray法、RT-PCR法、免疫組織染法などの検討を行ったところ、新生児・乳児消化管アレルギーにおいてCCL21、CXCL13の、また、小児炎症性腸疾患においてCXCL9、CXCR3などの発現亢進を認め、それぞれの病態に食物の侵入経路であるリンパ濾胞との関わりが示唆された。
著者
楠本 朗 梶木 繁之 阿南 伴美 永田 智久 永田 昌子 藤野 善久 森 晃爾
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
産業医大誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.385-395, 2021

<p>This study examines how psychological distress (measured by the K10 screening test) and presenteeism (measured by the quality and quantity method) change in the six months after returning to work from having taken a sick leave because of a mental illness. In a manufacturing company with approximately 2,600 employees, 23 employees returned to work after experiencing mental illness between April 2015 and March 2016, and all 23 agreed to participate in the study. We analyzed 18 cases for which we had sufficient data. Two of the employees were absent from work in the sixth month. We performed multilevel analysis for K10 and presenteeism over time on the 16 without recurrence. A significant decreasing trend was observed for both K10 and presenteeism. Eleven of the 16 employees were consistently below the K10 cutoff value of 10 for six months, and 5 had zero presenteeism in the sixth month, whereas 6 employees showed improvement in presenteeism that stopped midway through the study. An occupational physician judged that the employees could work normally with presenteeism of zero. After returning to work, it is important to monitor not only psychiatric symptoms but also presenteeism.</p>
著者
錦戸 典子 田口 敦子 麻原 きよみ 安斎 由貴子 蔭山 正子 都筑 千景 永田 智子 有本 梓 松坂 由香里 武内 奈緒子 村嶋 幸代
出版者
一般社団法人 日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.46-52, 2005-09-15 (Released:2017-04-20)
被引用文献数
3

保健師の用いる支援技術として,グループを対象とした支援は日常的に用いられており,重要な支援技術であると言える.先行研究として,いくつかの質的研究や活動報告などがみられるものの,保健師によるグループ支援に共通の枠組みや具体的な支援技術については十分に明らかにされていない.本研究では,保健師によるグループ支援技術を体系的に整理するための端緒として,保健師によるグループ支援の方向性と特徴を明らかにすることを目的に,既存文献からの知見の統合,ならびにグループ支援に関する概念枠組みの検討を試みた.システマティックレビューに基づいて17文献を選択し,それぞれの文献中に記載されている保健師によるグループ支援の具体的な働きかけを表しているフレーズを抽出した.それらを統合し,さらに抽象度を上げて分析した結果,「グループの形成支援」,「グループの主体性獲得の支援」,「グループ活動の地域への発展の支援」の3つのカテゴリーが,保健師によるグループ支援の方向性として抽出された.このうち,主体性獲得の支援,ならびに,地域への発展の支援に関しては,保健師活動におけるグループ支援に特徴的な支援の方向性であると考えられた.保健師は,グループ支援活動を地域ニーズの中で捉え,地域全体のエンパワメントの視点で関わっている可能性が示唆された.
著者
森 大毅 有本 泰子 能勢 隆 永田 智洋
出版者
宇都宮大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

(1) 叫び声を誘発しやすいオンラインゲームをプレイする状況のコーパスを開発した。このコーパスには既存コーパスの10倍以上の頻度で叫び声が含まれている。叫び声の音響分析により、通常語彙や感動詞との音響的特性の違いを明らかにした。(2) 感情表出系感動詞の形態を分類し、多様な形態を持つ「あ」を合成した。合成音声を用いた知覚実験により、形態とパラ言語情報との関係を明らかにした。(3) 自然対話コーパスから笑い声の構成要素の変動要因を明らかにするとともに、コーパスベース音声合成を応用した多様な笑い声合成を実現した。知覚実験により、定義した変動要因を考慮することにより自然性が向上することがわかった。
著者
永田 智章
出版者
広島経済大学経済学会
雑誌
広島経済大学経済研究論集 = HUE journal of economics and business (ISSN:03871436)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.57-66, 2021-03

本稿は,開放型プロスポーツリーグにおいて,トップリーグ昇格に挑戦するマイナーリーグ所属クラブにとって,その競技力と財務力の両方を充実させる戦略が重要であることを解明する。分析では,プロバスケットボールクラブである広島ドラゴンフライズの経験に焦点を当てた。マイナーリーグからスタートした同クラブは,4季を費やしトップリーグ昇格に成功した。その競技力と財務力を示す数値を標準化して分析すると,悲願成就の背後には健全な財務力が存在することが明確になる。同クラブの場合,フランチャイズである広島を中心とした地域のスポンサー及びパートナーによる支援が,クラブの財務健全化に貢献し,それが成功の鍵であることが確かめられる。また,トップリーグ昇格に挑戦するクラブにとっての財務健全化とは,必ずしも利益拡大を意味しているのではなく,赤字経営を回避しながら,競技力の充実に向けた投資を効率的に行い,そのために必要な収入を安定的に確保することを意味している。
著者
小林 裕子 村田 晋太朗 永田 智子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.61, 2018

【研究の背景と目的】<br><br> 平成29年告示の学習指導要領では,中学校家庭科において新たに「B衣食住の生活(5)生活を豊かにするための布を用いた製作」で「衣服等の再利用の方法」を扱うことになった。中学校学習指導要領解説技術・家庭編(2018)には「着用されなくなった衣服を他の衣類に作り直す,別の用途の物に作り替える」などが例として示されている。しかし,現在中学校で使用されている家庭科教科書(開隆堂・東京書籍・教育図書)の内,2冊はリフォーム・リメイク等の単語がイラスト付きで簡単に紹介されているのみ,1冊は古着を持ち寄り衣服や小物にリメイクしている団体の取り組みに関する内容であり,実践的で具体的な内容や方法は記載されていない。<br><br> 衣服等の再利用に関する研究として,高森(1999)や赤塚ら(2016)による「衣服等の再利用」に関する調査がある。中高生は衣服の再利用やリメイクに関心がない訳ではないが(赤塚ら2016),着用しなくなった衣服をリメイクする生徒は僅かである(高森1999)ことが分かっている。高等学校段階では消費生活やESDと関連づけた研究調査や実践があるが,中学校段階ではほとんど見当たらない。<br><br> そこで,中学校家庭科「衣服等の再利用の方法」の教材開発を目指し,本研究では中学生対象に「不要になった布製品の活用について」の質問紙調査を実施し,家庭で不要となっている布製品の実態や対処方法・リメイク経験や興味関心等について,中学生の実態を把握することとした。<br><br><br><br>【研究の方法】<br><br> 質問紙調査の内容は(1)家庭で不要になっている布製品の種類,(2)不用になった布製品の家庭での対処方法,(3)不要になった布製品を何かに作り替える(リメイク)ことへの関心度,(4)不要になった布製品を何かに作り替える(リメイク)ことの経験について,(5)何かに作り替えて(リメイク)みたい布製品の種類,(6)具体的なリメイクのアイデア(自由記述)である。<br><br> 2018年3月,兵庫県M市と大阪府S市の中学1・2年生422人(M市275人,S市147人)を対象に行った。<br><br><br><br>【結果】<br><br> (1)家庭で不要になっている布製品として,「Tシャツ(59.5%)」が最も多く,次いで「靴下(48.1%)」が家庭にあることがわかった。(2)不要になった布製品の家庭での対処方法は,「誰かにあげる・譲る(62.5%)」が最も多く,次いで「捨てる(59.5%)」となった。(3)要になった布製品のリメイクへの関心度は,「とてもある・少しある」と「あまりない・ない」がともに50.0%であった。(4)不要になった布製品のリメイク経験は「ある」の回答が31.3%,「ない」が68.7%であった。(5)リメイクしてみたい布製品は「Tシャツ(46.0%)」が最も多く,次いで「ジーンズ(41.5%)」,「タオル(36.7%)」,「ハンカチ(29.1%)」の順となった。<br><br><br><br>【考察と今後の課題】<br><br> 質問紙調査の(1)と(5)の結果から,家庭で最も不要になっている布製品であり,生徒が最もリメイクしてみたいと考えているものが「Tシャツ」であった。「Tシャツ」は,生徒が自宅から持参しやすく,リメイクに対して関心も高いことから,次期学習指導要領で新たに示された「衣服等の再利用の方法」を扱う授業の教材として適切であることが示唆された。<br><br> 今後は,不要になったTシャツをどのようにリメイクすることが中学生の発達段階に適し,かつ資質能力の育成に寄与するか,具体的なリメイクの方法を検討し教材化することが課題である。
著者
小林 裕子 永田 智子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.59, 2016

【研究目的】 <br>&nbsp; &nbsp;自然災害大国と呼ばれる我が国において、児童生徒に対し実践的かつ継続的な災害学習の実施は必要不可欠である。本研究の目的は中学校家庭科で災害時の食を扱った学習の開発、実施、評価を行うことである。前回の報告(小林、永田2015)では研究の第一段階として、中学生に災害に関する質問紙調査を実施した。その結果、食料を数日分備蓄している家庭は3割程度に過ぎず、災害時に水や食料の確保が不安だと答えた生徒が6割を上回っていた。また社会の中で広がりを見せる従来の「非常食」から保存のきく日常食を災害時に活かす「災害食」への転換や、「ローリングストック法」の考えはまだほとんどの中学生が知らないことが分かった。そこで次の段階として「災害食」を題材とした課題解決的な学習を開発し実践することとした。 【開発した学習】 <br>&nbsp; 開発した学習は3時間で構成され、B食生活と自立(3)ウの「食生活についての課題と実践」に位置づけた内容である。この題材の目標は「災害時の食生活に関心をもち、課題をもって災害時の調理活動と献立作成を体験することを通して、災害時に備えた食品の備蓄を工夫して計画を立てて実践できること」である。この目標に沿い、学習の構成は、1.生徒が災害時の食生活に関心をもち課題を見つけ、どのような解決方法があるかを知り考える 2.災害時を想定した「災害食」の調理実習を実施し、体験活動から工夫や学びをさらに深める 3.平均的な家庭の備蓄食品から災害時の一日分の献立を栄養バランスにも配慮して考え家庭での実践につなげる という展開とした。3ではB(2)イの献立学習内容を押さえながら家庭での備えの改善につながるよう工夫した。 <br> 【学習の実践】 <br>&nbsp; &nbsp;実践は兵庫県公立中学校2学年の生徒5クラス164名を対象に、2016年2月に行った。 第1校時の授業はパワーポイントを使用して行った。南海トラフ地震の被害想定と日本が自然災害大国であることの確認から入り、災害時の食生活の課題にはどんなものがあるか各自で考え、発表をして意見の共有を行った。次に日常的に保存のきく食品を備蓄しながら使い回す「災害食」の考えや、その実践方法として「ローリングストック法」が推奨されていることを学習した。従来の乾パンやアルファ米のように使わず備えておく「非常食」より、「災害食」は賞味期限切れの無駄がなく、味も普段から慣れているので合理的でよいという感想が大半を占めていた。 第2校時は災害時を想定した調理実習を行った。使う食材は保存食品のみ、水の使用は調理と洗い物含め各班2リットルに制限、ガスコンロは使用可とした。献立はポリ袋炊飯で作るわかめご飯とツナ缶を肉の代わりに使用したツナじゃがとした。栄養面で6つの基礎食品群をすべてカバーした献立である。炊飯時間が20分と短く洗い物も出ず、なおかつ食味も炊飯器で炊き上げたものとほぼ変わらないと生徒に大変好評であった。食器にラップを敷き洗い物を減らす体験も行った。被災地から生まれた節水になる工夫のすばらしさに感心している様子が伺えた。 第3校時は班活動とした。平均的な家庭の備蓄食品を各食品群別に分け一覧にしたプリントを配布し、まず各自で災害時の一日分の献立を栄養バランスも考慮して考えた。それを班単位で組み合せ1週間分にまとめるという活動を行った。その後、献立を立てる際に不足した食品や使用しなかった食品を挙げ、災害時の備蓄の課題を再度見直し、どのように改善していけばよいかを具体的に考えた。 今後は、授業で生徒が記入したワークシートの感想や自己評価、アンケートなどを分析し評価を行う予定である。
著者
チェ ジョンヒョン 村嶋 幸代 堀井 とよみ 服部 真理子 永田 智子 麻原 きよみ
出版者
Japanese Society of Public Health
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.49, no.9, pp.948-958, 2002-09-15
被引用文献数
4

<b>目的</b> 在宅ケアサービスの利用に関する従来の研究では,複数のサービスを一括して扱うことが多かった。本研究では,訪問看護と介護サービスについて,各々の利用者の特徴を明らかにすることを目的とした。<br/><b>方法</b> 人口36,000人の S 県 M 町における平成 9 年10月 1 日時点の訪問指導台帳より抽出した調査対象高齢者134人に対し,質問紙を用いた面接調査を行った。訪問看護,ホームヘルプの利用に関して,①利用の有無,および,② Andersen のモデルの 3 要因(属性要因,ニーズ要因,サービス利用促進/阻害要因)との関連性を明らかにした。<br/><b>結果および考察</b> 134人中,訪問看護は38.1%,ホームヘルプは36.6%の人が利用していた。<br/> 訪問看護は,高齢者の ADL が低下しているほど,過去 2 年間の入院経験があるほど家族の世話の仕方が少ないほど,介護者のサービス利用への抵抗感が少ないほど利用しており,ニーズ要因が最も影響していた。<br/> ホームヘルプは,家族の世話の仕方が少ないほど,訪問看護を利用しているほど,利用しており,属性要因と利用促進/阻害要因が影響していた。<br/> 訪問看護とホームヘルプの両方の利用者は,看護のみの利用者に比べて,家族がケアを提供するのが難しく,また,ヘルパーのみの利用者に比べて利用者の ADL 等身体状態が低い。<br/><b>結論</b> 訪問看護とホームヘルプの利用を推進する要因は異なっており,両者を併せて利用している者は,複合的ニーズを持っているという特徴が認められた。
著者
中村 真理子 永田 智子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.57, 2014

【背景と目的】<br>&nbsp; 2009年告示学習指導要領における改善の基本方針,及び学習指導要領解説家庭編から,家庭科教育において&ldquo;生涯を見通す視点を明確にし,一生の中で家族や生活の営みを総合的にとらえる力&rdquo;が求められていることがわかる。<br>&nbsp; 一方,学習内容は大して減っていないにもかかわらず,必修科目の主流は2単位の「家庭基礎」であり,家庭科の授業時間は半減したといえる。そこで,学習内容の関係性を高めて一連の流れをつくり,少ない時間ながら内容の濃い授業にするために,ライフデザインを「家庭基礎」の主軸に据えることにした。ライフデザインとは多様な夢や目標を考えることで,生活設計に該当する。<br>&nbsp;&nbsp;「家庭基礎」の学習内容をライフデザインで包括するために,年度当初の単元「自分の生き方と家族(以降「導入単元」とする)」で,ライフデザインに直接関わる授業を実施し,生徒一人ひとりに「人生すごろく」を作成させる。この「人生すごろく」をベースとして,導入単元以降の授業を展開しようという計画である。<br>&nbsp; 本研究では,導入単元の効果を検証するとともに,その後の授業に生かす課題を把握するため,すなわち形成的評価のために,生徒が作成した「人生すごろく」を分析することとした。<br>【方法】<br>&nbsp; 導入単元において作らせた3クラス118人の「人生すごろく」を分析・評価した。<br>【結果と考察】<br>&nbsp; 導入単元の指導目標には「生涯発達の視点」「各ライフステージ課題の認識」「青年期の課題の理解」等があり,これらが達成されたかをみた。ほぼ全員ライフイベントを10以上あげ,分岐を設けていた。悪いこと(アクシデント)については,学生特有の留年や受験失敗等や日常起こりうる嫌なことが多かった。良いことに比べて記入が少なく,また分岐も乏しかった。人生にはどんなアクシデントが潜んでいるか,より現実的に「自分の将来」を考える必要がある。そこで「家庭基礎」のまとめの単元で,もう一度この人生すごろくを振りかえらせ,起こりうるアクシデントについて考えさせる必要がある。<br>&nbsp; ゴールは生徒に自由に設定させた。死を想定している生徒が27%,老年期を想定している生徒が48%であった。これらを合わせると75%の生徒が自分の老年期の生き方まで思いめぐらすことができたと考えられる。成人期までで終わった生徒については高齢者福祉の単元で補充する必要がある。<br>&nbsp; 青年期の課題である進学や就職はほぼ100%記入されていた。また,成人期の発達課題については,結婚が86%,「親になること」は70%の生徒が記入していた。そこで,単元目標はほぼ達成できたと考えられる。しかし,残り30%の生徒が親になることを想定できていないことが明らかになった。保育の単元で補う必要がある。<br>&nbsp; ライフイベントやすごろくのコマの設定等から,具体的に生徒の職業観・恋愛観・結婚観・家族観などを認識できた。「結婚や出産したら仕事は辞めるのが当たり前」と考える女子生徒が多かった。ジェンダー等について授業で説明したにもかかわらずこのような結果となり,性別役割分業意識の根強さが明らかとなった。<br>【まとめ】<br>&nbsp; 「人生すごろく」の分析から,導入単元の目標を達成できたことがわかった。さらに生徒の作品を詳細に分析することによって,「家庭基礎」各分野における指導に生かすための課題を把握できたことから,「人生すごろく」が形成的評価として活用できることがわかった。&nbsp;
著者
勝浦 美沙子 岸 崇之 橋本 和典 石黒 久美子 小美野 勝 佐藤 和樹 阿部 和大 永井 智仁 西村 和幸 長原 光 永田 智
出版者
東京女子医科大学学会
雑誌
東京女子医科大学雑誌 (ISSN:00409022)
巻号頁・発行日
vol.90, no.3, pp.65-69, 2020-06-25 (Released:2020-06-25)
参考文献数
16

We report the clinical course of coronavirus disease 2019 (COVID-19) caused by severe acute respiratory syndrome coronavirus 2 (SARS-CoV-2) in two Japanese teenagers.Patient 1: :A 17-year-old girl complained of a fever, sore throat, and back pain for 2 days. A nasopharyngeal swab polymerase chain reaction (PCR) test for SARS-CoV-2 revealed positivity on the 17th day after the onset of symptoms. There was no remarkable change in complete blood count (CBC) and biochemical data. The virus tested negative on day 23. Patient 2: A 14-year-old girl, the sister of patient 1, complained of cough alone, and a nasopharyngeal swab PCR test revealed positivity for SARS-CoV-2 on the first day of the onset of symptoms. Her symptoms improved 3 days later. There were no remarkable changes in CBC and biochemical data on a blood test or findings of chest X-ray screening. The virus tested negative on day 10.Both patients exhibited mild symptoms for only a few days. Neither of the patients developed severe pneumonia or acute respiratory distress syndrome. However, it took 23 days for patient 1 and 10 days for patient 2 from the onset of the first symptoms for the virus to test negative on nasopharyngeal swab PCR testing. These cases indicate that patients with mild symptoms may spread the SARS-CoV-2 for the same duration as that of symptomatic patients. Hence, infection control among asymptomatic patients is very important to avoid human-to-human transmission in families or communities.