著者
北村 琴美 無藤 隆
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.46-57, 2001-04-20 (Released:2017-07-20)
被引用文献数
5

本研究では,母娘関係が成人の娘の適応状態を規定する度合いを検証するとともに,娘の結婚や出産といったライフイベントによって母娘関係がどのような発達的移行を経るのかを探索的に調べるために,成人女性415名を対象とした横断的データに基づいて,独身女性,既婚で子どもがいない女性,既婚で子どもがいる女性間での比較検討を行った。その結果,母親との親密性は独身の娘の心理的適応と関連していると同時に,既婚で無職の娘の心理的適応に対してもある程度の効果を持つという結果が得られた。一方,母親への過剰な依存・接触は,職業の有無に関わらず,既婚で子どもがいない女性の心理的適応と負の関連を示していた。また,ライフイベントによる成人期の母娘関係の発達的移行に関しては,独身あるいは有職の娘と比較して,既婚で無職の娘は,母親との親密性が高く,サポートを求める気持ちが強いことが見出された。
著者
丸山 良平 無藤 隆
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.98-110, 1997-07-30 (Released:2017-07-20)
被引用文献数
5

インフォーマル算数は乳幼児期に生活の中で獲得される数知識で, 就学後の算数学習の重要な基礎力であるという。本論の目的はこの数知識の実態を文献により明らかにすることである。ここでは分離量に限定し, 数知識を1数, 2数, 3数関係に分類して検討した。この分類は思考の情報処理モデルに対応するものである。1数関係は集合の個数を数詞で表現するように, ある媒体の示す1つの数を他の媒体で表すことで, 筆者のいう数転換である。2数関係は2つの数に関する数の保存と多少等判断であり, 3数関係は2数から第3の数を生む演算である。検討の結果, 次のような実態が主に明らかとなった。乳児期初期から集合の弁別が行われ, 数量を表す言葉とその感覚が結びつき, 数理解の基礎が形成される。1数関係では数詞は集合の名称として獲得され, 数の媒体と媒体とを結ぶ軸となり, 数知識の発達を促す。2数関係の多少等判断では10進法の初歩的知識が4歳児期に使用される。また数の保存に関する知識は論理的に洗練されておらず, 日常生活を反映して具体的経験的である。3数関係の理解は数を示す媒体によって異なり, 事物集合, 数詞, 数字の順で困難さが高まる。初歩の演算は心内での集合イメージを操作して行われることが示唆された。本論ではインフォーマル算数の知識を3カテゴリーに分けることの有効性が示され, さらにいずれのカテゴリーにおいても数詞の役割の重要性が示された。
著者
横山 真貴子 秋田 喜代美 無藤 隆 安見 克夫
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.95-107, 1998-07-30

本研究では, 保育の中に埋め込まれた読み書き活動として, 幼稚園で行われる「手紙を書く」活動を取り上げ, 1幼稚園で園児らが7カ月問に書いた手紙1082通を収集し, コミュニケーション手段という観点から手紙の形式と内容を分析した。具体的には「誰にどのような内容の手紙を書き, 書かれた手紙はどのようにやりとりされているのか」について, 収集した手紙全体の分析(分析1)と手紙をよく書く幼児とあまり書かない幼児の手紙の分析(分析2)から, 全体的発達傾向と個人差を検討した。主な結果は次の通りである。第一に, 幼児は主に園の友達に宛てた手紙を書いており, 手紙の大半には, やりとりに不可欠な宛名と差出人が明記されていた。このことから, 幼児は園での手紙の形式的特徴を理解していることが示された。第二に, 全体的には絵のみの手紙が多く, コミュニケーションを図ることよりも, 幼児はまず手紙を書き送るという行為自体に動機づけられて手紙を書き, 「特定の誰かに自分が描いた作品を送るもの」として手紙を捉えていることが示唆された。特にこの傾向は年中児で頭著であった。だが第三に, 年長児になると相手とのやりとりを期待する伝達や質問等の内容が書かれ始め, 手紙を書くことの捉え方が発達的に変化することが示された。また第四に, 手紙を書くことに興味を持つ時期が子どもによって異なり, 手紙が書ける園環境が常時準備されていることの有益性が指摘された。
著者
秋田 喜代美 無藤 隆 藤岡 真貴子 安見 克夫
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.58-68, 1995-07-15 (Released:2017-07-20)

本研究は幼稚園年長, 年中, 年少児計129名に絵本を読んでもらう課題と内容の理解を問う質問を実施し, 課題の遂行を横断的比較と1年間の3期の縦断的比較によって検討したものである。その結果, 絵を見て話すことから文字を読むことへの変化は, かなもじ清音を約半数習得した頃から起こり, 文字を読む反応の初期には文字を指さすなどの補助的方略を用いる者が一部みられるが, これは読みの熟達と共に消失すること, 拾い読みから文節読みへと移行するにつれ話の筋の理解がよりできるようになること, ただし文字を読むようになっても挿し絵からも情報を得ていることが明かとなった。また文字は読めても縦書きの本を左から読む者がおり, この誤りは必ずしも読字数の少ない者に発現するわけではないことから, 本を読めるためには文字に関する知識のみではなく, 読書に関する慣習的な手続き的知識の習得が必要であり, 文宇知識と慣習的知識は独立に習得されることが示唆された。
著者
中島 由佳 無藤 隆
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.403-413, 2007-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
43
被引用文献数
1 1

本研究は, 就職活動におけるキャリア志向, 就職活動プロセス, 就職達成の関係についての検討を試みた。先行研究に基づいて仮説モデルを構築し, 女子学生394名 (短大2年生222名, 大学4年生172名) を対象とした質問紙調査を行った。キャリア志向として挑戦・対人志向, 就職活動中の意思・認知として選択的・補償的2次コントロール, 求職行動として選択的・補償的1次コントロールがモデルを構成する概念として使用された。構造方程式モデリングの結果, 就職への意思である選択2次の媒介因としての働きが明らかとなった。両キャリア志向は選択2次を介して選択1次・補償2次の求職行動に寄与しており, 特に対人志向は, 選択2次に媒介されてのみ直接的な求職行動である選択1次に寄与していた。また, 選択1次が就職の達成に寄与する一方, サポート希求などを含む補償1次は就職達成に負の影響を持つことが示された。しかし補償1次はまた, 選択1次を高める働きも見せた。短大生と大学生との間には, 各変数間の関係における有意な相違は見られなかった。キャリア志向とともに, 媒介因としての選択2次を高めるような援助を学生に行うことの重要性が, 本研究からは示唆された。
著者
駒谷 真美 無藤 隆
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.9-17, 2006
参考文献数
19
被引用文献数
1

児童は,テレビをはじめメディアが発信する様々な情報を受け取っている.彼らには,メディアと正しく上手につきあうメディアリテラシー教育が必要である.そこで本研究では,小学校低学年を対象とし,「テレビの中の空想と現実の理解」に特化したメディアリテラシー教育入門教材「うっきーちゃんのテレビふしぎたんけん」(ビデオ・ガイドブック)を開発し,実践において総括的評価を行った.プレポストデザインの統制群法による授業実験を公立小学校1学年2学級で実施した.その結果,「テレビの現実性理解度」について実験群が統制群より有意に上昇し,本教材の効果が認められた.この教材活用により,児童はメディアリテラシー教育への「気づき」と「やる気」を示した.加えて,本教材を使用しても児童の一般的なファンタジーは維持されることがわかった.
著者
角谷 詩織 無藤 隆
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.79-86, 2001-06-25 (Released:2010-07-16)
参考文献数
28
被引用文献数
2 4 9

In this study, the significance of extracurricular activities in the life of junior high school students was examined. Seventh and eighth graders participated in a two-stage questionnaire survey, administered in May and October. Based on developmental stage-environment fit theory (Eccles, Wigfield, & Schiefele, 1998), how well extracurricular activity settings fit needs of the students was analyzed. In support of the theory's hypothesis, results indicated that whether an extracurricular activity satisfied the student's developmental needs affected his/her sense of fulfillment and satisfaction in school life. In addition, the effect of seventh graders' commitment to extracurricular activities on their satisfaction of school life was stronger in October than in May. The findings suggested that for students who felt uneasy in class for whatever reasons, extracurricular activities provided an opportunity for relief.
著者
佐久間 路子 無藤 隆
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.33-42, 2003-03-30
被引用文献数
1

本研究の目的は,人間関係に応じて自己が変化する動機,変化に対する意識を測定する尺度の作成および自尊感情との関連における性差を検討することである。大学生男女742名を対象に,変化程度質問,変化動機尺度,変化意識尺度,セルフ・モニタリング尺度,相互独立的-相互協調的自己観尺度,自尊感情尺度などからなる質問紙を実施した。主な結果は以下の通りである。1)変化動機尺度は関係維持,自然・無意識,演技隠蔽,関係の質の4因子,変化意識尺度は否定的意識,肯定的意識の2因子が見いだされ,信頼性と妥当性が確認された。2)変化動機の関係維持,自然・無意識,関係の質は,男性よりも女性の方が得点が高かった。3)男女ともに,変化程度は自尊感情との関連が見られなかったが,女性においてのみ否定的意識と演技隠蔽の自尊感情への負の影響が認められ,変化動機および変化意識と自尊感情との関連には,性別による違いがあることが示された。
著者
無藤 隆 佐久間 路子 掘越 紀香 砂上 史子 齋藤 久美子
出版者
白梅学園大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、幼稚園の一つのクラスで週に1回ないし2回、3歳から5歳までの3年間の縦断的なビデオ観察を行い、その記録を分析することを中心とした。また並行して、各々の分担者がそのフィールドで行った観察を元に検討した。幼児教育を貫く3つの軸として「協同的な学び」や自己制御、学習の芽生えを取り上げ、それらを、構成遊び、ごっこ遊び、製作活動、クラスのグループの話し合い活動等を通して、「目的を志向する傾向」が成り立つ過程として位置づけられることを見いだした。
著者
秋田 喜代美 無藤 隆
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.109-120, 1996-03-30
被引用文献数
1

The purposes of this study were to examine mothers' conceptions of book-reading to their children and relations between those conceptions and their behavior styles of setting home environment on reading. Two hundred and ninety-three mothers in Study 1 and three hundred and thirty-two mothers in Study 2 answered a questionnaire concerning their recognitions on the functions, and their behavior of setting environment. The main findings were as follows : (1)Two functions were identified as "UTILITY" and "ENJOYMENT" ("UTILITY" : read to get children to master letters and acquire knowledge ; "ENJOYMENT" : read to share a fantasy world with their children and communicate them.) Although many mothers attached importance to "ENJOYMENT" function, some mothers did to "UTILITY" ; but differences were shown among mothers. (2)Mothers changed the ways of reading according to their children's age. (3)There were relations between conceptions of functions and ways of reading. Though mothers rated "UTILITY" higher, their reading styles were seen to promote children to become independent readers.
著者
無藤 隆 田代 和美 柴坂 寿子 藤崎 真知代
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1994

本研究は、幼稚園の保育を対象として複数の縦断的な観察研究を行い、幼稚園期における子どもの人間関係の体験の特徴と発達的変化を明らかにした。また、子どもの体験を大人がどのように理解しているかを、保育者と子どもの関わりの観察、保育者への面接等を通して検討した。6つの園で1年間あるいは2年間の縦断的な観察や面接を行った。その結果、いざこざに類したふざける行動に注目すると、対人的に微妙な調整を行う様々な機能を持っており、年齢の時期により機能の変化が見られた。クラスの中での子ども同士の評価が高い子どもについて、仲間入りに際してのトラブルが減少していった。評価が低い子どもについては、必ずしも減少せず、普段の評価が個別の仲間入りに影響していることが示された。ある園での保育のカンファランスの様子から、保育に対する実践的なレベルでの理解の難しさとその理解が進むなかで子どもへの関わりが変わっていく様子を示した。
著者
無藤 隆
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.407-416, 2013

本論文は,発達心理学が実践現場に役立つ可能性を,保育を例として検討する。特に,その問題を,研究が実践にどう役立つのかというより大きな問題の一部としてとらえる。発達心理学を含めた研究の進展が,実践と研究の関連を変えてきている。その中で,エビデンスベーストのアプローチがその新たな関連を作り出した。また,実践研究の積み上げを工夫する必要がある。実践を対象とする研究として,実践者自身によるものと,実践者と研究者の協働によるアクションリサーチ,そして研究者が実践を観察し分析するものが分けられた。さらに,関連する研究として,子ども研究全般,カリキュラムや指導法に示唆を与える研究,社会的問題に取り組む研究,エビデンスを提供する研究,理論枠組みを変える基礎研究,政策へ示唆を与える研究などに分けて,各々の特質を検討した。実践現場から研究を立ち上げることが重要だと指摘した。最後に,研究的実践者と実践的研究者の育成を目指すことが提言された。
著者
石毛 みどり 無藤 隆
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.356-367, 2005
被引用文献数
3

レジリエンスは, 困難な出来事を経験しても個人を精神的健康へと導く心理的特性である。本研究の目的は中学3年生の高校受験期の学業場面における精神的健康とレジリエンスおよびソーシャル・サポートの関連について検討することだった。精神的健康の指標はストレス反応と成長感を用いた。受験前は538名を対象に, レジリエンス尺度, ソーシャル・サポート尺度, 学業ストレッサー尺度そしてストレス反応尺度を用いて解析した。受験後は, 受験前と後の同一被験者263名を対象に, 上記の尺度に成長感尺度を加えて解析した。その結果, (1)レジリエンス尺度は「自己志向性」「楽観性」「関係志向性」の3因子構造だった。(2)ストレス反応の抑制には「自己志向性」, 「楽観性」, 母親, 友だち, 先生のサポートが寄与していた。(3)成長感には「自己志向性」が強く寄与していた。(4)女子のストレス反応の抑制にはレジリエンスよりソーシャル・サポートの方が大きな影響を及ぼしていた。(5)「関係志向性」および「自己志向性」には友だちサポートが最も高い相関を示した。最後にストレス状況下での精神的健康に対するレジリエンスとソーシャル・サポートの役割について討論した。