著者
田中 実 小野 滉貴 山本 康裕 高橋 義朗
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.77, no.6, pp.355-360, 2022-06-05 (Released:2022-06-05)
参考文献数
15
被引用文献数
1

素粒子物理学には,いくつかのフロンティアがある.一つは高エネルギーフロンティアで,高エネルギーの状態から新たな素粒子を発見することが主な目的である.CERNの大型ハドロン衝突型加速器(LHC)が現在の最高エネルギーの実験装置であり,LHCにおける2012年のヒッグス粒子の発見により,素粒子標準模型に登場するすべての粒子が既知のものとなった.もう一つのフロンティアは高輝度(あるいは高強度)フロンティアで,特定の素粒子を大量に生成し,その性質を詳しく調べることで素粒子の相互作用について解明することを主眼とするものである.日本ではKEKのスーパーBファクトリー実験やJ-PARCにおけるK中間子,ミュー粒子,ニュートリノの実験等がこれにあたる.宇宙も素粒子物理のフロンティアであり,インフレーション理論の検証等が行われ,コスミックフロンティアと呼ばれている.これらに加えて,高精度フロンティアと呼ぶべき研究が近年重要さを増している.例えば,標準模型を越える新しい素粒子模型の多くが予言する,電子の永久電気双極子能率の探索が,原子や分子を対象とした高精度の測定に基づいて行われている.このフロンティアは,原子物理学の発展と密接に関連している.かつてはマクロな数の原子集団の測定によって個々の原子の性質が決定されてきたが,実験技術の進歩とともに,少数の原子を対象とした実験が可能になり,1個の原子やイオンをトラップし,単独原子の孤立状態を実現できるようになった.また,多数の原子の低温の孤立集団も実現されるようになり,ボーズ・アインシュタイン凝縮といった量子的なマクロ状態も観測されている.私たちは,原子スペクトルの同位体シフトを精密に測定することで,標準模型を越える新しい物理の探索を行っている.もし,電子と中性子に結合する新粒子が存在すれば,この粒子が電子・中性子間で交換されることでも同位体シフトが起こる.同位体シフトの実験値と標準模型での理論値を比較すれば,原理的には,この効果を検出できる.しかし,同位体シフトの系統的精密測定が行われているカルシウムやイッテルビウムのような電子多体系のスペクトル計算の不定性は,実験精度に比べてかなり大きい.このため,同位体シフト自体の実験値と理論値の直接的な比較による新物理探索は,単純な原子を除いて現実的ではない.そこで,複数の遷移の同位体シフトが満たす線形関係に注目し,新粒子の効果でこの線形関係が破れることを利用して,新物理探索を行った.具体的には,魔法波長の光格子に中性イッテルビウム原子をトラップし,578 nmの狭線幅光学遷移(時計遷移)について,数Hzの不確かさで系統的に同位体シフトの測定を行った.この結果と先行研究のイッテルビウムイオンの411 nmおよび436 nmの遷移の同位体シフトの測定結果を合わせることで,世界初の3遷移間の線形性検証を行った.その結果,線形性が有意に破れていることが分かったが,同時に,この線形性の破れは標準模型で説明されるべきものであることも明らかにした.新物理に由来する非線形性には上限が得られ,これに基づいて新粒子の結合定数に対する制限を与えた.現状では得られた制限は既存の実験のものよりも弱いが,今後の実験精度の向上によりこれを上回ることが期待される.
著者
田中 実
出版者
人体科学会
雑誌
人体科学 (ISSN:09182489)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.31-40, 2019-07-15 (Released:2019-12-25)
参考文献数
25

発生学的に、細胞では細胞膜が内部陥入して核膜や細胞小器官の膜を形成すると共に、原始本能的脳として機能する。相似的に、人体では表層細胞層(広義の皮膚)が内部陥入して腸(原腸)さらに諸内臓を形成し、原始本能的・情動的・直感的脳として機能する。このような脳として振る舞う細胞膜や皮膚・腸・内臓が、「心しんぽう包・三さんしょう焦は共に名ありて形なし」、「三焦は孤腑、全身をつなぐ油膜」等とされてきた心包(六番目の臓)や三焦(六番目の腑)の実体と考えられることは既に報告した。本報告では、両手両上肢から前胸部の膻だんちゅう中穴へとつながる心包・三焦両経のルートに関する考察を通じて、両臓腑が前傾合掌に象徴される祈りや祭祀そして天人合一(東洋毉 (註1) 学の理想)への道を開くうえで重要な役割を果たす可能性を述べる。
著者
田中 実 藤堂 具紀
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.12, pp.973-978, 2016 (Released:2016-12-25)
参考文献数
15

G47Δは第三世代のがん治療用単純ヘルペスウイルスⅠ型で, ウイルスゲノムのγ34.5, ICP6, α47の3つの遺伝子に人為的三重変異を有する. 腫瘍細胞特異的なウイルス複製と殺細胞作用, 特異的抗腫瘍免疫の惹起力がいずれも増強されているため, 脳腫瘍に限らずあらゆる固形がんに対し高い抗腫瘍効果を示す. G47Δの第Ⅰ-Ⅱa相臨床試験は, 2009年より5年間, 再発膠芽腫を対象とし, 定位的脳手術により2週間以内に2回の腫瘍内投与が行われて, 脳腫瘍内投与の安全性が確認された. 効果を示唆する所見も複数例で観察され, 特に長期的効果は特異的抗腫瘍免疫の寄与が大きく, それを惹起して治療効果を期待するにはG47Δ投与後約半年ほどの時間がかかることが示唆された. 2015年より第Ⅱ相試験が医師主導治験として開始された. 標準治療に対するウイルス療法の上乗せ効果を検討するため, 初期治療後残存もしくは再発した, KPSが60%以上の膠芽腫患者を対象とし, テモゾロミドを併用して, 定位的脳手術により4週間間隔で最大6回までG47Δを繰り返し投与する. 2016年にはG47Δが厚生労働省の先駆け審査品目に指定され, 早期医薬品承認が見込まれる. G47Δが実用化されれば膠芽腫の治癒も可能となるため, 近い将来日本において, 悪性グリオーマの標準治療となることが期待される.
著者
田中 実
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.66, no.8, pp.2-14, 2017-08-10 (Released:2022-08-25)

現在、日本の近代文学研究はポストモダンの運動がなし崩しに終焉した後、文化研究と併存する形で旧体制に回帰し、原理論に向かうエネルギーを喪失していますが、本稿ではソシュールの言語論やロラン・バルトの「還元不可能な複数性」を踏まえて〈言語以前〉の問題に遡り、〈第三項〉を立てることで、読むことの原理論を提示、実践します。客体の対象の文章には「正解」という実体は未来永劫存在しない、そこは究極のアナーキーであり、これを克服するには〈第三項〉を介在した〈宿命の創造〉に向かうことが求められ、そこに〈読み〉の真髄も現れます。これを鷗外の『舞姫』と『うたかたの記』を取り上げて具体的に示します。
著者
太田 雅己 堀江 邦明 土井 誠 田中 実 草場 公邦
出版者
東海大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1995

代数曲線,特に楕円モジュラー曲線の塔に付随する"大きな"p-進エタール・コモホロジー群の研究を行った.素数pと正整数N(pXN)を固定し,モジュラー曲線の塔{X^1(Np^γ)}(γ=1、2、……)を考える.昨年迄の研究により、これに付随するパラボリック・コモホロジー群の通常部分が良いp-進ホッジ構造をもつ事がわかっていた.即ち,この群に自然なp-進ホッジfiltrationが入り,それをA-進カスプ形式の言葉で記述することができ,"特殊化社塑像による個々のレヴェル,重さをもつコモホロジ群のp-進ホッジ構造が取り出せる事を示した。この研究の自然な継続,発展として開曲線の族{X_11(Np^γ)-{cusps}(γ=1,2,……)のエタノール・コノホロジー群の通常部分のp-進ホッジ構造の研究を開始した.これは上記結果をアイゼンシュタイン級数のp-進族を含む形に拡張する事を目標にしており、応用としてはアーベル対上のアーベル体上のアーベル拡大の具体的構成が見込まれている。未だ理論の全体が構築された訳ではないが,今年度の研究により次の諸点が明らかになった:・上記コホモロジー群が∧-加群としてうまくcontrolできる事;・モジュラー形式に関する,異なった重さに対応する"大きな"p-進ヘッケ環の通常部分が重さによらない事:・モジュラー形式の射影系と∧-進モジュラー形式の間に,カスプ形式の場合と同様の対応がある事;・一般ヤコビ多様体を用いて,上記コホモロジー群を記述するp-divisible群が構成できる事;等である.この研究は来年以降も継続して行う.尚,A. WKilesによりフェルマ-の最終定理が証明されたが,それについての解説的仕事も行った.
著者
田中 実
出版者
一般社団法人映像情報メディア学会
雑誌
テレビジョン (ISSN:03743470)
巻号頁・発行日
vol.20, no.9, pp.616-624, 1966

テレビジョン技術を応用したコンパクトな高速度現字装置を開発した.これは撮像管のひとつであるビジコンを母体とし, その中に母形電極を封入して文字信号発生管 (母形管) を作り, 入力信号に応じ電子ビームの走査により母形管からとり出した映像信号は, 増幅補正のあと静電印刷管で再現し印刷する.印刷速度は掃引周波数の選び方によっても異なるが, 実用的には50,000字/分が可能である.用途面については, データ伝送の端末機器あるいは電子計算機の出力装置が期待できる.
著者
田中 実マルコス
出版者
佛教大学
雑誌
佛教大学大学院紀要. 文学研究科篇 (ISSN:18833985)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.33-48, 2011-03-01

黄檗宗萬福寺開山隠元禅師(以下諸師敬称略)とともに来日した獨湛は、後に萬福寺の第四世となる。獨湛は日本で『勧修作福念佛図説』を上梓し、念仏教化の資糧とした。それは昭和初期まで十刷も刊行されるほど用いられた。『勧修作福念仏図説』の左右には長文があり、その典拠は蓮宗九祖の一人に数えられる明代の雲棲.宏のものであると伝えられているが、今回はそれを証明し、さらに『勧修作福念佛図説』が近世日本の念仏教化にどのような影響を及ぼしたかを考察する。
著者
田中 実
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.91-101, 1986-02-10

『舞姫』の主人公は独白し、手記を書いたが、鴎外によって『舞姫』というテクストが成立した時、主人公は多層的意識構造に絡みとられている。母・法の精神・天方伯など彼が認識の光を当てず対象化しなかったことは鴎外終生の近代化批判のかたちに尾を引く問題でもある。それは太田が自己回復のための認識の光を当てるという手記のモチーフから逸脱し、<歌>を歌ってしまったことにも関わろう。そうした『舞姫』の弱点を等閑に付すことはできぬとともに、『舞姫』にはエリスという他者の言葉、あるいは成熟が表出し、それは異国人同志の男女の自我の深刻なすれ違いによる悲劇を齎した要因にもなり、太田は日本の近代化にアンビバレンツを起こさせていった。
著者
田中 実
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.32-42, 2010-02-10

童話集『注文の多い料理店』の「序」文には、「わたくしは、これらのちいさいものがたりの幾きれかが、おしまひ、あなたのすきとほつたほんたうのたべものになることを、どんなにねがふかわかりません。」とある。この童話はその願いを実現しようとしたもの、それにはこの作品のパースペクティブを日常的遠近法で読むのでなく、その向こう、永劫の虚無を定点にして読まれなければならない。そのためには大森哲学の「知覚されたものがその人にとっての真実」であるという知見に立つ必要がある。この童話集がそれを要求しているというのが、私見である。また童話にもジャンル論が必要で、物語童話と小説童話とが峻別されなければならない。この作品は後者、プロットの末尾は作品の末尾ではない。深層批評が求められ、そこは絶対的なものの前で全てが相対の海に化すべく<仕掛け>られているのである。
著者
田中 実
出版者
社団法人日本化学会
雑誌
化学教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.195-201, 1963-06-20
著者
佐々木正文 田中 実
出版者
北海道情報大学
雑誌
北海道情報大学紀要 (ISSN:09156658)
巻号頁・発行日
pp.11-23, 1997
被引用文献数
2

Availability analysis for a system with fixed time intervals of reaction time-interval, mission time-interval and alert time-interval is presented for a model which might apply to the PINE-net system, automatic saving-paying machine systems, vehicles, vessels or aircraft. A delay time and a maintenance time for the model are considered. The failure-time destributions for the system are exponential and Weibull. The comparison among availability and delay time is illustrated by numerial examples.
著者
中村 皖一 中川 明彦 田中 実 増田 裕 林 康之 西園 寺克
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.83, no.2, pp.183-191, 1984 (Released:2007-03-07)
参考文献数
33
被引用文献数
11 7

3位にmethyltetrazolylthiomethyl基を有するセフェム系抗生物質によるジスルフィラム様作用の発現機構を追求するために以下の実験を行った.1)cefetazole(CMZ),cefoperazone(CPZ),latamoxef(LMOX)をヒト,サル,イヌ,ラットに静脈内投与後の原薬物ならびに3位置換基由来のmercaptomethyltetrazole(Me-TZ)の累積尿中排泄率(0~24時間)を求めた.ヒトにおけるMe-TZの尿中排泄率はCPZ(39%)>LMOX(14%)>CMZ(3% of dose)となり,同様の傾向はラット,サルでも見られた.2)ラットにCMZ,CPZ,LMOX,Me-TZを静脈内に単回投与し,一定時間後ethanolを経口負荷したところ,血中アセトアルデヒド値は用量依存的に上昇した.その傾向はMe-TZの尿中排泄率に比例し,CPZ>LMOX>CMZとなった.またサルの2回静脈内投与群においてもCPZ>CMZの傾向が見られた.以上の結果からMe-TZがジスルフィラム様作用の原因物質と推測できたが,本作用発現の強弱に種差,抗生物質問の差異が見られた.それらはこれまでに報告されている各抗生物質の胆汁移行率の大小および組織液中での安定性に起因していると考えられた.
著者
田中 実 Minoru Tanaka
雑誌
人文論究 (ISSN:02866773)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.33-48, 1992-12-20
著者
立花 誠 大久保 範聡 勝間 進 諸橋 憲一郎 菊池 潔 長尾 恒治 深見 真紀 田中 実 宮川 信一
出版者
大阪大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2017-06-30

本研究領域では「性スペクトラム」という新たな概念のもとに、性を再定義することを目指す。領域の全ての研究者が「性はこれまで言われれてきたような二項対立的なものではなく、連続的な表現型である」という視点を共有し、上記の領域目標の達成にむけて研究を推進する。このような目標のもとで、本領域では領域代表の下に総括班を置き、領域活動をサポートしていく2020年9月25日から10月23日にかけて、自己紹介を兼ねた公募班員のセミナーを開催した。新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から、オンラインでの発表となった。9月25日、10月2日、16日、23日の4日間で、全16名が研究発表を行った。活発な議論が交わされ、オンラインにもかかわらず大いに盛りあがった。2020年12月21日(月)から23日(水)までの3日間、東京農業大学世田谷キャンパスにて、新学術領域研究「配偶子インテグリティの構築」・「全能性プログラム:デコーディングからデザインへ」合同公開シンポジウムが開催され、立花が特別講演を行った。2021年3月25日(木)と26日(金)の2日間、第4回領域会議をオンラインにて開催した。本会議では、計画研究の研究代表者・分担者のほか、班友の3名、そして新たに公募研究班に加わった研究者1名も研究発表を行った。また、領域外からも講師1名を招き、ショウジョウバエ類の性染色体進化に関してご講演をいただいた。対面方式での会議の開催が叶わなかったが、非常に活発な議論が交わされ、各班員が順調に成果を上げていることを確認した。