著者
田中 実
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.32-42, 2010-02-10

童話集『注文の多い料理店』の「序」文には、「わたくしは、これらのちいさいものがたりの幾きれかが、おしまひ、あなたのすきとほつたほんたうのたべものになることを、どんなにねがふかわかりません。」とある。この童話はその願いを実現しようとしたもの、それにはこの作品のパースペクティブを日常的遠近法で読むのでなく、その向こう、永劫の虚無を定点にして読まれなければならない。そのためには大森哲学の「知覚されたものがその人にとっての真実」であるという知見に立つ必要がある。この童話集がそれを要求しているというのが、私見である。また童話にもジャンル論が必要で、物語童話と小説童話とが峻別されなければならない。この作品は後者、プロットの末尾は作品の末尾ではない。深層批評が求められ、そこは絶対的なものの前で全てが相対の海に化すべく<仕掛け>られているのである。
著者
奥田 耕助 田中 輝幸
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.145, no.4, pp.183-186, 2015 (Released:2015-04-10)
参考文献数
28

Cyclin-dependent kinase-like 5(CDKL5)遺伝子はXp22領域に位置し,mitogen-activated kinases(MAPKs)およびcyclin-dependent kinases(CDKs)と相同性のあるリン酸化酵素CDKL5をコードする.2003年以降,早期発症難治性てんかんを伴う重度発達障害である「X連鎖性ウエスト症候群」および「非典型レット症候群」の患児においてCDKL5遺伝子変異の報告が相次ぎ,CDKL5はてんかん・発達障害の原因遺伝子として注目を集めている.CDKL5遺伝子の主な病因変異は,リン酸化酵素活性の阻害かタンパク質自体の喪失を来すloss-of-function変異である.CDKL5タンパク質は神経細胞の核と細胞質に分布し,細胞質では成長円錐,樹状突起,樹状突起スパイン,興奮性シナプスに局在する.これまでにCDKL5は,Rho-GTPase Rac1と相互作用し,BDNF-Rac1シグナリングを介して神経細胞樹状突起の形態形成を制御すること,興奮性シナプス後部においてNGL-1をリン酸化し,NGL-1とPSD-95の結合を強化し,スパイン形態とシナプス活動を安定化すること,さらにパルミトイル化PSD-95と結合し,その結合がCDKL5のシナプス標的と樹状突起スパイン形成を制御することなどが明らかにされた.また2つの研究室からCdkl5ノックアウトマウスの作製・解析が報告され,活動性変化,運動障害,不安様行動の減少,自閉症様の障害,恐怖記憶の障害,事象関連電位の変化,複数のシグナル伝達経路の障害,けいれん誘発薬に対する脳波反応の異常,樹状突起の分枝異常,歯状回神経新生の変化などが同定された.以上の結果と我々独自のデータから,CDKL5は興奮性シナプス伝達を調節し,ヒトのCDKL5変異に伴う病態がシナプス機能異常であることが示唆される.
著者
田中 裕理
出版者
富山大学比較文学会
雑誌
富大比較文学
巻号頁・発行日
vol.6, pp.15-26, 2013-12

『琵琶伝』は泉鏡花により,尾崎紅葉の『やまと昭君』を先行作品としてかかれた小説である。二年前に『琵琶伝』を扱い「夢・幻想」の観点から鸚鵡の登場による効果を考察し、『琵琶伝』は「観念小説」ではなく「幻想小説」であることを論じようと試みた。今回はその逆で『琵琶伝』は「幻想小説」ではないという論を進めていきたいと思う。「大衆と国家」や「家族と親族」などの観点から、社会の状況、婚姻制度や鏡花の恋愛・結婚観について見ていくことを通して『琵琶伝』における主題とは一体何であるのかを考察したい。
著者
鄭 東 田中 三郎 宮崎 康次 高尻 雅之
出版者
一般社団法人日本機械学会
雑誌
マイクロ・ナノ工学シンポジウム
巻号頁・発行日
vol.2013, no.5, pp.63-64, 2013-11-04

We investigated strain and grain size effects on the thermal transport of nanocrystalline bismuth antimony telluride thin films using both experimental studies and modeling. The fabricated thin films exhibited the average grain sizes of 30 < d < 100 nm, and the strain of-0.8% < ε < -1.4% in the c-axis direction whereas that of a-b-axis direction was constant at 1.7%. The thermal conductivities were measured using a 3ω method at room temperature. We calculated the lattice thermal conductivity using a simplified phonon transport model that accounts for the strain effect based on Christoffel equation and Lennard-Jones potential, and the grain size effect based on the full distribution of mean free paths. The theoretical calculation was largely in good agreement with our experimental results, and the detailed results will be discussed in the Symposium.
著者
田中 寛二 Tanaka Kanji
出版者
琉球大学法文学部
雑誌
人間科学 (ISSN:13434896)
巻号頁・発行日
no.10, pp.71-95, 2002-09

本研究では,大学生の大学構内と公道における交通行動を規定する要因を明らかにするために,大学生281人を対象とした信号無視,駐車違反,スピード違反,飲酒運転,及び危険運転の目撃,許容,行動に関する調査を行った。その結果から以下のことが明らかにされた。①各種の違反行為に対する許容と行動の各得点は低く,許容的でも,頻繁に行動するものでもないことが示された。②大学構内では各種の違反に対する許容性が公道よりも高いが,駐車違反と飲酒運転では公道にいて,信号無視とスピード違反については大学構内の方が高いことが示めされ,違反の内容によって行われやすい状況に差があることが示唆された。③行動と関連する要因として,大学構内では,概して目撃と許容が関連しているが,公道では必ずしもそのような一貫した傾向は認められなかった。すなわち,大学構内では目撃によって各種の違反行為が比較的直接的に誘発される可能性が高いことが示唆された。
著者
田中 慎一郎 間瀬 一彦
出版者
公益社団法人 日本表面科学会
雑誌
表面科学 (ISSN:03885321)
巻号頁・発行日
vol.23, no.12, pp.753-758, 2002-12-10 (Released:2008-10-09)
参考文献数
18

The core-level-excitation-induced ion desorption from surface is investigated. Two studies using electron-ion coincidence spectroscopy are shown. On Si(100)/H2O surface, it is shown that ion desorption is mainly induced by the shake-up/off excitation accompanying the Auger decay when the photon energy is near the O1s threshold. At a photon energy higher than the shake-up threshold, most of ions desorb resulting from the shake-up excitation accompanying the core-excitation. In both cases, the desorption is induced by the multi-hole final state. On ice surface, the kinetic energy of O1s photoelectrons gives the highest coincidence yield of H+ desorption is shifted by about −0.7 eV compared to the O1s peak observed in the conventional core-level photoelectron spectroscopy. It is ascribed to a core-level shift in the O1s level from which hydrogen ions desorb.
著者
田中 敦
出版者
国際基督教大学キリスト教と文化研究所
雑誌
人文科学研究 (ISSN:00733938)
巻号頁・発行日
no.38, pp.53-87[含 英語文要旨], 2007-03
著者
田中 利幸
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌 (ISSN:1340766X)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.126-135, 2008-06-05 (Released:2008-11-28)
参考文献数
26
被引用文献数
1

難しい組み合わせ最適化問題に対して,個々の問題の代わりにランダムな問題群を考え,問題の規模を十分大きくすることによって問題の詳細によらない巨視的な構造を捉えよう,という情報統計力学の方法論が注目を集めている.本稿では,kSATに対する近年の情報統計力学的アプローチの概要を解説するとともに,線形符号の復号の問題を一種の組み合わせ最適化問題として捉え,kSATとの対比に留意しつつ情報統計力学からのアプローチの一端を紹介する.
著者
岸野 元彰 古谷 研 田口 哲 平譯 享 鈴木 光次 田中 昭彦
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.10, no.6, pp.537-559, 2001-11-01 (Released:2008-04-14)
参考文献数
28
被引用文献数
1

海水の光吸収係数は, 海洋の基礎生産や海色リモートセンシングの研究において重要なパラメータの1つである。今まで, その測定法について多くの提案がなされてきた。本稿は, まず吸収係数の定義を明確に定義し, その海洋学における意義を述べた。引き続き, オパールグラス法, グラスファイバー法, 光音響法, 積分球法の原理を述べると共に問題点を挙げた。また, 採水処理しなくて済む現場法についてその原理と問題点をまとめた。引き続き吸収係数の組成分離法について直接分離法と実測値から求めた半理論的分離法を紹介した。最後に人工衛星によるリモートセンシングによる推定法に言及した。
著者
島井 哲志 田中 正敏
出版者
一般社団法人 日本音響学会
雑誌
日本音響学会誌 (ISSN:03694232)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.243-252, 1993
参考文献数
33
被引用文献数
6

131種類10秒間の環境音を実験室内で聴かせて、その快-不快評価と音圧の関係を検討した。用いた音は、自然音13音、生物音15音、人間音23音、楽音18音、ひっかく音8音、日常生活音19音、機械音22音及び信号音13音であった。16人の男子学生にこれらの環境音を提示して、音の快-不快感、その音が何の音であるか、及びその回答の認知の確信の程度をたずねた。被験者は8人ずつの2群に分けられ、ほぼ日常経験する音圧レベルとその約10dBA低い音圧の提示を受けた。快-不快評価の結果では、快い音は音楽や鳥の鳴き声などであり、不快な音は歯科医のドリル、すりガラスを擦る音などであった。快-不快評価と音圧の関係をみると、不快な音では音圧が高くなるにつれて不快になるが、快い音でも音圧が高くなるにつれてやや快くなる傾向がみられた。また、快い音には認知の確信度の低い音はなく、確信度が高い音ほど、快いと評価された。これらの結果は、環境音の快-不快は、音圧が高くなるにつれて、より不快になるという単純な関係ではないことを示し、環境の快適さを図るためには、快-不快や音圧と共に音の認知要因を系統的に検討することが重要であることが示唆された。
著者
赤松 信彦 田中 貴子
出版者
全国英語教育学会
雑誌
ARELE : annual review of English language education in Japan (ISSN:13448560)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.81-90, 2008-03

This study examined Japanese university students' knowledge of English articles. Specifically, the study investigated (a) Japanese university students' knowledge (i.e., accuracy) in their usage of English articles, (b) their meta-cognitive knowledge (i.e., confidence) in their usage of English articles, (c) the relationships between accuracy and confidence, and (d) the relationships between English proficiency and accuracy. Results showed that Japanese university students' knowledge varied in accuracy among the three types of articles: definite, indefinite, and no articles. Definite-articles were most properly used, while the accuracy in the usage of no articles was the lowest. It was also found that accuracy in the use of English articles was correlated with English proficiency and confidence. These results appear to suggest that (a) Japanese university students with higher English proficiency had more accurate knowledge in their usage of English articles, and (b) they used English articles with accurate meta-cognitive knowledge to a certain extent.
著者
永井 房子 田中 百子
出版者
The Japan Society of Home Economics
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.41, no.12, pp.1205-1212, 1990

Many ways of seam-finishing are used in sewing. The opening of a seam is one of them. For the most part, the seam-finishing brings about a loss in the width of sewn fabric. In this paper, the loss phenomena in the opening of a seam were investigated.<BR>The results obtained are as follows : <BR>(1) The loss in the width of a sewn fabric increases as the number of the stitch or the seam line increases.<BR>(2) The loss in the width of a sewn fabric increases as the thickness of fabric increases.<BR>From these results, it is considered that the loss in the width of sewn fabric could be prevented if the number of seams, the stitch density and the thickness of fabric were taken into consideration in pattern-making and dress-making.