著者
藤井 真一
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.82, no.4, pp.509-525, 2018 (Released:2018-10-18)
参考文献数
31

本稿の目的は、ソロモン諸島真実和解委員会の活動とガダルカナル島における在来の紛争処理に 注目して、ソロモン諸島における「エスニック・テンション」後の社会再構築過程にみられる課題、 とりわけ紛争経験の証言聴取をめぐって生じた緊張関係を解明することである。 冷戦終結後に世界各地で頻発・長期化するようになった地域紛争への対応として、真実委員会に よる修復的な紛争処理が増加している。1998年から2003年に「エスニック・テンション」と呼ばれ る地域紛争を経験したソロモン諸島国でも、2010年から2012年にかけて真実和解委員会による社 会再構築の試みがみられた。本稿では、ソロモン諸島真実和解委員会が世界的な紛争処理の動向を 受けながら外部から導入された紛争処理としての側面があることを示す。次に、ソロモン諸島ガダ ルカナル島においてみられる在来の紛争処理について述べ、真実和解委員会の証言聴取活動との競 合関係を指摘する。最後に、真実和解委員会が公聴会の場面に伝統的な贈与儀礼を導入したことを 踏まえ、在来の紛争処理について考察する。 本稿の考察から明らかになることは、以下の三点である。第一に、ソロモン諸島真実和解委員会 の中心的活動であった証言聴取について、ソロモン諸島の文化的規範と競合する問題があったこと。 第二に、証言聴取と文化的規範との競合を乗り越えるために、公聴会において贈与儀礼が執り行なわ れたこと。第三に、在来の紛争処理であるコンペンセーションを損失した財に対する補償や知識・情 報への対価として捉えるのではなく、継続的な関係構築のための手続きとして捉えるべきであること。 ソロモン諸島において真実和解委員会が証言聴取をしたことは、ローカルな規範に則った紛争処理と の間で葛藤を生じさせつつも、平和へと向かうポテンシャルを創発するものであったのだ。
著者
中村 真司 中川 貴美子 原田 樹 栗田 康寿 藤井 真広 伊藤 宏保 菊川 哲英 吉田 昌弘
出版者
富山救急医療学会
雑誌
富山救急医療学会 (ISSN:21854424)
巻号頁・発行日
vol.33, 2015

【はじめに】多数傷病者発生事案では分散搬送が原則であるが、医療圏を越えての搬送は実際には難しい。今回、4人家族の交通事故において分散搬送し、状態安定後再集約する事案を経験した。<br>【症例】トンネル内での軽自動車と4tトラックの衝突事故。軽自動車乗車中の4人(両親、長男、長女)が受傷した。救急隊トリアージにて父親は骨盤骨折疑い、母親は大腿骨骨折疑い、子供2人は心肺停止であった。砺波医療圏MC医師の判断により、母親、長男は市立砺波総合病院へ、父親および長女は当院へ搬送された。<br>症例1: 2歳女児。来院時心肺停止。病着後8分、受傷後54分で心拍再開した。全身CTで外傷性くも膜下出血、高度脳腫脹、頸部血管損傷疑い、骨盤骨折、左大腿骨骨幹部骨折を認めた。脳腫脹強く、神経学的な改善は望めない状熊であった。<br>症例2: 28歳男性。右股関節脱臼骨折を認め、整復後にICU入室となった。<br>女児が重度脳機能障害のためBSCの方針となり、家族の集約を目的に、父親が第3病日に、女児が第4病日に市立砺波総合病院へ転院となった。なお、母親は大腿骨骨折、長男も心肺停止であったが、蘇生に成功した。<br>【考察】3次病院においても、小児2名の外傷CPAの初療は難しい。また、救急隊の判断による医療圈を越えた分散搬送は現実には難しい。今回はオンライン指示によるMC 医師の調整により、2名とも心拍再開することができた。現場医師要請、あるいは県全体のルール策定などにより、よりスムーズな現場分散搬送体制の構築が重要と思われた。<br>【まとめ】今回、我々は4名の傷病者、うち2名が小児の心肺停止であった事案を経験した。分散搬送することにより2名の心肺停止の小児を蘇生することができた。
著者
藤井 真湖 Mako Fujii
出版者
国立民族学博物館
雑誌
国立民族学博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Ethnology (ISSN:0385180X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.483-607, 2003-03-24

『ジャンガル』は,『元朝秘史』や『ゲセル』と並ぶモンゴル三大文芸作品のひとつに数えられているモンゴル英雄叙事詩であり,主として口頭で受け継がれてきた。その伝承地域は,新疆(中国),カルムイク(ロシア),モンゴル国である。ジャンガルは,この物語の舞台となるアル= ボムビーン= オロンの盟主であり,彼には“12勇者”の側近がいると語られている。“12勇者”の「12」という数詞は一般に「12人」という人数を表す数詞とみなされているが,実際には12人に満たないことが多く,それ以外にも疑わしい点が多々観察される。本論では,信頼できる資料をもとに“12勇者”の表現をすべて検討し,この“12勇者”が指示する勇者を特定することを目的とする。考察の結果,「12」は数詞ではなく,固有名詞として用いられている場合が認められる。そして,固有名詞として用いられる場合,次のような3つの意味を表しているものと考えられる。1)12人で構成されていてもよいが,基本的に人数とは関係のない「12」と呼ばれる集団2)「アルタン・チェージという勇者を念頭に置いた集団」とそうでない集団のいずれかの集団3)アルタン・チェージという個人の勇者 以上の考察をふまえてカルムイクジャンガルの学術的に最も信頼できるテキストを眺めると,ここにおいては“12勇者”ではなく,むしろ“6千12勇者”という表現が主流であることが観察される。そして,この事実から再び新疆ジャンガルの“12勇者”表現の現われている箇所を振り返ると,“6千12勇者”に対応する“8千12勇者”という表現が存在していたことが確認される。ただし,新疆ジャンガルのテキストの場合,カルムイクジャンガルの場合とは異なり,“8千勇者”という表現は“12勇者”と対に現われるよりも,単独で現われる頻度が高い。このことは新疆ジャンガルのテキストで“12勇者”が「12人の勇者」として意識されることと相関関係があるものと考えられる。カルムイクジャンガルにおいては2)と3)の用法は確認されないが,新疆ジャンガルの考察を応用すると,“6千12勇者”の「12」にアルタン・チェージの暗示をみることになる。 以上により,“12勇者”の「12」は,一般に理解されているような12人という人数ではない可能性が高い。アルタン・チェージが「12」で表される理由には,「12」と隣接する「11」か「13」との数字との関連が見込まれる。この場合,「11」は,「12」の変形として以外にテキストに現われないので,対象外となる。それゆえ,対象とされる数字は「12」に隣接するもうひとつの数字「13」となる。そこで,新疆ジャンガルにおける「13」が用いられる表現をすべて検討することになる。考察を通して,「13」がある特定の勇者を指示している可能性が高いことが明かにされる。アルタン・チェージが「12」で表された背景には,通常アルタン・チェージよりも地位が低いと考えられている「13」で表される勇者と対比させるためであったと推論される。この場合,アルタン・チェージは勇者の序列を示すと考えられる座席において右側の第1席に位置する最高位の勇者であるが,アルタン・チェージと対比させられる「13」で標識づけられる勇者は左側の第1席,あるいは右側の第2席に座していることが確認される。 モンゴル文化において右側の席は左側の席よりも上位とみなされることを考慮に入れると,「13」で標識づけられる勇者は表向き(明示的に)アルタン・チェージより地位が低いにも関わらず,アルタン・チェージが「12」で標識づけられることにより,明示的に与えられている席次の序列が逆転し,アルタン・チェージは「13」で表される勇者よりも下位に位置づけられるということになる。したがって,「12」や「13」という隠喩が用いられたのは,物語の表層や現実の生活世界における秩序に照らし合わされたときに浮上する反秩序性を隠蔽するためであったと結論しうる。
著者
藤井 真
出版者
日本静脈経腸栄養学会
雑誌
静脈経腸栄養 (ISSN:13444980)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.903-907, 2009 (Released:2009-08-10)
参考文献数
3
被引用文献数
2

南大和病院は2001年にNSTを立ち上げ、現在まで8年間稼動してきている。2004年頃より、病院外での栄養管理の必要性を感じ、ホームNST、サークルNSTへの取り組みを始めた。ホームNST・サークルNSTにおいては、病院から施設へ、施設から在宅へと生活の場が移り変わっても、一連して適切な栄養管理が継続できるように、家族も含め、患者に関わるすべてのスタッフが共通の概念をもち、情報を共有していくことが栄養療法継続の上で重要である。そのためには情報を共有するための媒体の作成が急務となっており、地域密着病院の果たすべき役割は大きい。
著者
梅澤 佳乃子 大西 尚 湯村 真沙子 藤井 真央
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器内視鏡学会
雑誌
気管支学 (ISSN:02872137)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.233-238, 2019-05-25 (Released:2019-06-10)
参考文献数
18

背景.慢性腎不全患者における難治性胸水例が呼吸器内科に紹介となることがある.胸水貯留の原因の一つとして尿毒症性胸膜炎が知られているが,局所麻酔下胸腔鏡所見に関しての報告は少ない.目的・方法.2012年2月から2014年8月に当院にて局所麻酔下胸腔鏡検査を施行し,尿毒症性胸膜炎と診断した維持透析患者9例を対象とし,その臨床的特徴を検討した.結果.平均年齢は65歳,男性8例,女性1例.胸水量は中等量が7例,大量が2例.透析期間は中央値36か月(12~252か月),胸水貯留指摘から検査までの期間は中央値4か月(1~7か月).淡血性から血性胸水が7例,黄色胸水は2例.胸腔鏡所見は8例でびまん性胸膜肥厚と線維素が形成され,詳細な観察は困難であった.生検可能な8例に対して胸膜生検を施行し,全例で線維素性胸膜炎として矛盾しない結果であり,除外診断として尿毒症性胸膜炎と診断した.結論.慢性腎不全患者における難治性胸水の原因として尿毒症性胸膜炎を念頭に置く必要があり,その特徴的な胸腔鏡所見はびまん性胸膜肥厚と線維素形成であった.
著者
森田 愛子 藤井 真衣
出版者
広島大学大学院教育学研究科心理学講座
雑誌
広島大学心理学研究 (ISSN:13471619)
巻号頁・発行日
no.12, pp.269-277, 2012

本研究の目的は,どのような領域の子どもの発達に保護者が気づきやすいかを調べること,保育者を基準としたときの,保護者の気づきやすさについて検討すること,様々な種類の行動の発達に育児がどの程度影響すると保護者が思うかを検討することであった。6 領域20 項目の発達チェック項目に関し,保育園・幼稚園の3 歳児クラスの保護者72 名と保育者7 名,4 歳児クラスの保護者114 名と保育者3 名から質問紙で回答を得た。主な結果は以下のとおりである。保護者は生活技術の発達に最も気づきやすかった。3 歳児クラスの保護者は,言語理解の発達に比較的気づきにくいことがわかった。また4 歳児クラスの保護者は対人技術の発達について他の領域より比較的気づきやすいこともわかった。保育者の気づきやすさと比較しても,保護者の気づきやすさの得点は高いケースが多かった。ただし社会性の発達については,保育者のほうが気づきやすい傾向がみられる。育児の影響については,3 歳児・4 歳児クラスのいずれの保護者も,生活技術については,育児の影響が大きく,粗大運動の発達については育児の影響が小さいとみなしていた。
著者
新居 久也 牧口 祐也 藤井 真 上田 宏
出版者
公益社団法人 日本水産学会
雑誌
日本水産学会誌 (ISSN:00215392)
巻号頁・発行日
vol.76, no.5, pp.855-869, 2010 (Released:2010-11-01)
参考文献数
53
被引用文献数
3 4

シシャモの産卵遡上の知見を蓄積するために,超小型の電波発信機の体内装着が魚体に及ぼす影響を水槽実験により検証した。さらに,装着魚(鵡川産の雄 14 個体)の河川内行動を受信機により追跡した。装着魚と非装着魚の間に,泳力,産卵行動,生理学的ストレス指標値に差はなかった。河川内では,平均遡上速度が 3.8~17.8 cm/sec であり,流心部を避けて遡上した。定位箇所は,流速が遅く(60 cm/sec 以下),倒木等のカバーが存在した。小型の遡河回遊魚であるシシャモの遡上行動が初めて連続的に解析された。
著者
高橋 和雄 藤井 真 原野 安弘
出版者
長崎大学
雑誌
長崎大学工学部研究報告 (ISSN:02860902)
巻号頁・発行日
vol.27, no.49, pp.305-311, 1997-07

The volcanic disaster of Mt. Fugen in Unzen was prolonged and enlarged more than four years. Roads and railway with in off-limit area were closed and damaged by debris flows. The volcanic activity rendered severe bad effects on the local economy in commerce and industry. In this paper, study on travel choice behavior of commuters during interception of traffic due to volcanic disaster of Mt. Fugen in Unzen is reported by the questionnaire survey. Transport behaviors of commuters and effects on daily living are discussed.
著者
望月 貴裕 藤井 真人 八木 伸行 篠田 浩一
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. PRMU, パターン認識・メディア理解 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.107, no.384, pp.77-82, 2007-12-06

本稿では,ダイジェスト映像を処理対象としていた映像のパターン化によるシーンの数値列化に基づくイベント(ホームラン,シングルヒット,四球など)識別手法を試合全体映像に適用するフレームワークを提案し,さらにイベントの間の区間に含まれる試合状況に関する情報を用いて,識別結果に修正を加える手法を提案した.試合全体映像から,投球ショット,リプレイシーン,イニングチェンジなどの出現位置に基づき,識別対象とするイベント候補シーンをセグメンテーションする.パターン化および数値列化したイベントシーンの学習によるイベント識別手法により,各イベント候補シーンのイベント識別を行う.各イベント候補シーンの識別結果とシーンの長さとの関係を利用し,イベントの生起しないシーン(非イベントシーン)を特定する.非イベントシーンおよびイベント候補シーンのセグメンテーションで除去された区間から,画像解析によるベース領域検出などの手法を用いて試合状況に関する情報を抽出し,そこから定められる制約条件に基づきイベントシーンの識別結果の修正を行う.数試合のメジャーリーグの野球映像を用いて識別実験を行い,評価を行う.
著者
新里 里春 玉井 一 藤井 真一 吹野 治 中川 哲也 町元 あつこ 徳永 鉄哉
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.26, no.5, pp.397-407, 1986-08-01
被引用文献数
10

The purpose of the study is to develop and to study validities and reliabilities of translated version of the Eating Attitudes Test (EAT) developed by Garner et al.1. The subjects of the study were 35 female anorexics before psychosomatic treatment (AN group) (average age 20.5±5.3,average duration 4 years). The control subjects were as follows : 26 female anorexics on psychosomatic treatment (ANDT group) (average age 21.1±6.5,average duration 3.5 years), 414 healthy female control subjects (FN group) (average age 18.8±2.4).2,20 out of 40 items were extracted by a good and poor analysis (t-test). Using the 20 items, three meaningful factors, namely food obsession (F1), dieting (F2) and phodia of obesity (F3) were factors analytically extracted.3. To study the validity of the factors and their combined EAT (EAT-20), correlational study was conducted between the scores of F1,F2,F3 and EAT-20 and clinical scales of the Kyushu University Medical Index (KMI). Followings were significant : F1 and KMI Obsessive-compulsive neurosis scale; F2 and KMI Obsessive-compulsive neurosis scale ; F1 and KMI Hypochondria scale; F1 and KMI Depression scale. A correlation between F3 and past percent maximum body weight was significant.