著者
大沼 保昭 能登路 雅子 渡辺 浩 油井 大三郎 新田 一郎 遠藤 泰生 西垣 通
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

1.この2年間の研究活動の成果は、主題に関わる分野の広汎さに対応して極めて多岐にわたるが、その主要な部分は、およそ以下のように要約することができる。2.(1)「国際公共価値」の中核におかれてきた「人権」に対する評価の持つ政治的・文化的バイアスを相対化して議論の可能性を担保するための方法を供給する視点としての「文際的」視点が提示された。(2)(1)の「文際的」視点を踏まえて、「公共性」という概念の多面的な解析が試みられた。J.ハーバーマスの著作の読解を出発点として、ハーバーマスの議論が持つ特殊西欧近代的な性質と、そうした特殊性を超えて普遍的に展開されうる可能性とを、批判的に弁別する必要性が指摘された。(3)(2)の指摘をうけて、「公共性」概念の持つ普遍化可能性を測定するために、中国・日本など非欧米の伝統社会における「公」「おおやけ」観念との比較研究を行った。その結果、「普遍」的形式への志向性こそが、西欧近代文明の持つ特殊性としての重要な意味を持つ、との見通しが得られた。(4)以上のような研究を通じて、「文化帝国主義」という概念の持つ問題点が明らかとなった。アメリカを中心とした欧米文化の「世界化」は、単に政治的経済的な比較優位に基づく偶有的な現象ではなく、欧米文化が持つ「普遍」という形式が重要な意味を持つ。この「普遍」という形式の持つ特殊性の解明が、重要な課題として認識された。(5)例えば「法」は「普遍」という形式を持つが、「法による規律」は必ずしも普遍的な方式ではない。そうした点を踏まえたうえでの、真に普遍性を持ちうる「国際法」概念の再構築の必要性が指摘された。3.2年間にわたる協同研究は、多くの成果を収めた一方で、多くの新しい課題を発見した。新たに発見された課題については、引き続き研究を進めてゆきたい。
著者
遠藤 さおり 松永 悦子 海老沼 宏安
出版者
JAPAN TECHNICAL ASSOCIATION OF THE PULP AND PAPER INDUSTRY
雑誌
紙パ技協誌 (ISSN:0022815X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.656-666, 1996-04-01 (Released:2009-11-16)
参考文献数
11

近年の産業の発達に伴い地球規模での様々な環境破壊が引き起こされ, 環境保全が社会全体での課題となってきている。そして, この問題は, 原材料の大半を森林に依存している紙パルプ産業においても, 根幹にかかわる重要な問題であり, 環境保全と産業の発達の調和が, 次世代への持続的な発展への重要な鍵となっている。様々な産業分野において, バイオテクノロジーを用いた技術が, 次世代における産業の発達を可能とする環境保全技術として注目を集めている。紙パルプ産業においても, 植林事業の推進に代表されるように, 環境保全と産業の発達の両面からの事業展開が繰り広げられている。しかし, 次世代において, 企業に対する環境保全の圧力はさらに増大すると推測され, 植林事業においても原材料としてだけではなく, 社会的にも付加価値の高い樹木の植林をおこなうことが必要となると考えられる。バイオテクノロジーの進歩により, 生物に新たな遺伝子を導入することにより, 生物に新たな能力を付加することが可能となってきている。そして, この技術を用い植林木の改良・開発をおこなうことにより, より社会的に付加価値の高い植林事業が可能となると考えられる。本報告では, バイオテクノロジーの中でも, 特に紙パルプ産業と関りの深い, 植物のバイオテクノロジーの環境問題への取り組みとして, 植物の汚染物質の浄化, 解毒に関した研究を紹介する。当研究室において遺伝子組換え技術を用い, 解毒能力を強化した環境ストレス耐性樹木の作成を行っている。遺伝子導入された樹木は, 大気汚染・除草剤などの環境ストレスに対し, 強い耐性を示すことが明らかとなっている。この結果も合わせて報告するとともに, 樹木における遺伝子導入技術の可能性と, 有用性に関し考察する。
著者
門田 吉弘 北浦 靖之 遠藤 明仁 栃尾 巧
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.73, no.4, pp.123-131, 2020 (Released:2020-08-19)
参考文献数
35

ケストースは, スクロースに1分子のフルクトースが結合した三糖のオリゴ糖である。我々は, プレバイオティクスとして流通している種々のオリゴ糖との比較試験を実施し, ケストースが, 最も幅広い腸内有用菌に対して良好な増殖を示すオリゴ糖であることを明らかにした。さらに, ケストースの継続的な摂取によって, アレルギー疾患や生活習慣病を予防・改善できる可能性も明らかにしており, ケストースが様々な生理機能を有するプレバイオティクスとして, 人々の健康維持に貢献できる可能性を示した。また, 我々は, ケストースの実用化に関する研究として, 工業的製造の際に使用される酵素の改良にも取り組んでいる。本稿では, ケストースによる有用菌増殖効果をはじめとして, ケストースが有する様々な生理機能および, 製造酵素の改良に向けた取り組みについて紹介する。
著者
Rafiqul Islam Promsuk Jutabha Arthit Chairoungdua 平田 拓 安西 尚彦 金井 好克 遠藤 仁
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会 第32回日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.36, 2005 (Released:2005-06-08)

アミノ酸輸送系B0は、中性アミノ酸の経上皮輸送を担当するトランスポーターであり、小腸及び腎近位尿細管の管腔側膜に存在するNa+依存性トランスポーターである。水俣病の起因物質であるメチル水銀は、生体内においてシステインと非酵素的に容易に反応し、メチオニンと類似構造をもつ化合物を生成するため、アミノ酸トランスポーターを介して吸収され、血液組織関門を通過すると考えられている。われわれはすでに、輸送系Lアミノ酸トランスポーターLAT1及びLAT2が、血液・脳関門、胎盤関門に存在し、メチル水銀輸送を媒介することを明らかにした。本研究は、メチル水銀の腸管吸収の分子機序を明らかにするために、最近同定された輸送系B0トランスポーターB0AT1をアフリカツメガエル卵母細胞に発現させ、メチル水銀輸送活性を検討した。B0AT1によるロイシンの取り込みは、メチル水銀-システイン抱合体により濃度依存的に抑制され、そのIC50値はアミノ酸輸送のKm値に比して有意に低く、B0AT1はメチル水銀-システイン抱合体を高親和性に受け入れることが明らかとなった。B0AT1によるメチル水銀-システイン抱合体輸送を確認する目的で、アフリカツメガエル卵母細胞に発現させたB0AT1において、14C-メチル水銀の輸送活性を測定した。その結果、14C-メチル水銀単独では輸送されないが、システイン存在下で14C-メチル水銀がB0AT1によって輸送されることが示された。このシステイン存在下でのメチル水銀のB0AT1を介する輸送は、B0を抑制するインヒビターであるBCH(2-aminobicyclo-(2,2,1)-heptane-2-carboxylic acid)により有意に抑制され、システイン存在下での14C-メチル水銀のB0AT1を介する輸送が確認された。本研究によりメチル水銀がシステイン抱合体としてB0AT1を介して小腸から吸収されることが示唆された。
著者
遠藤 徹
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.183, pp.245-261, 2014-03-31

現代日本の音楽学は欧米の音楽学の輸入の系譜をひく研究が支配的であるため、今日注目する者は必ずしも多くはないが、西洋音楽が導入される以前の近世日本でも旺盛な楽律研究の営みがあった。儒学が官学化し浸透した近世には、儒学者を中心にして、儒教的な意味における「楽」の「律」を探求する学が盛んになり独自の展開を見せるようになっていたのである。それは今日一般に謂う音楽理論の研究と重なる部分もあるが、異なる問題意識の上に展開していたため大分色合いを異にしている。本稿は、近世日本で開花していた楽律研究の営みを掘り起こす手始めとして、京都の儒学者、中村惕斎(1629~1702)の楽律研究に注目し、惕斎が切り拓いた楽律学の要点と意義を試論として提示したものである。筆者の考える惕斎の楽律学の意義は次の六点に要約される。①『律呂新書』に基づき楽律の基準音、度量衡の本源としての「黄鐘」の概念を示した、②『律呂新書』を基本にすることで近世日本の楽律学を貫く、数理的な音律理解の基礎をつくった、③『律呂新書』の説く「候気」の説は受け入れず、楽律の基は人声とする考え方を提示した、④古の楽律を探求するにあたって、実証、実験を重んじた、⑤古の楽律の探求にあたって、日本の優位性を説いた、⑥古の楽の復興を希求した。
著者
遠藤 次郎
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.193-198, 1987-01-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
21

著者は本報において, 古典の中に3種類の寸関尺診が存在することを明らかにした。 この3種に対し, 1尺2寸の寸関尺診, 1寸9分の寸関尺診, 3寸の寸関尺診と名付け, 各々の脈診の部位, 脈診の意義, および史的背景について検討した。
著者
佐藤 豪 池永 雅一 俊山 聖史 太田 勝也 上田 正射 板倉 弘明 津田 雄二郎 中島 慎介 遠藤 俊治 山田 晃正
出版者
日本外科系連合学会
雑誌
日本外科系連合学会誌 (ISSN:03857883)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.38-42, 2019 (Released:2020-02-29)
参考文献数
20

症例は51歳,男性.開腹歴はなし.腹痛,嘔吐を主訴に当院救急外来を受診した.来院時,腹部は膨満し,臍下に間欠的自発痛と圧痛を認めた.前日の夕食にしゃぶしゃぶを食べていた.腹部単純X線検査では小腸ガスの貯留と鏡面像を認めた.腹部造影CTで絞扼所見を認めなかったため,胃管減圧チューブを留置して緊急入院した.翌朝,腸管拡張の改善がなかったためイレウス管を留置した.その後2日間経過観察したが,腹部症状の改善が乏しかったために緊急手術を施行した.拡張した腸管の先端で軟らかい腫瘤を触知し,腸を切開して摘出した.術後に再度問診を行い,入院前夜に大量に摂取した木耳(きくらげ)による食餌性イレウスと診断した.木耳による食餌性イレウスは本邦でこれまで報告がなく,若干の文献的考察を加えて報告する.