著者
宇賀 大祐 遠藤 康裕 中澤 理恵 坂本 雅昭
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Cb1157, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 野球選手では,over useや運動連鎖の破綻,投球フォームの影響等により,肩関節や肘関節に障害が多く見られる.それらの原因追求や障害予防を目的とした数多くの研究がなされてきた.しかし,それらの分析は投手に着目しているものが多く,すべてのポジションの選手に当てはまるとは言い難い.特に,捕手は非常にポジション特性が高いにも関わらず,捕手に着目した研究は少ない.そこで今回,捕手の送球動作において肩関節と体幹に着目した動作分析をすることで,その特徴を明らかにすることを目的とした.【方法】 投球障害を有さない野球経験者14名(年齢20.9±2.0歳,身長170.8±5.7cm,体重65.4±11.2kg,野球経験9.6±2.8年)を対象とした.さらに捕手経験2年以上の捕手経験群7名(捕手経験3.7±1.4年)と,捕手経験なしの捕手非経験群7名に群分けした.セットポジションからの通常投球動作(以下,set条件)と,しゃがみ込んだ姿勢からの捕手送球動作(以下,catcher条件)の2条件の試技を行わせた.投球および送球距離は,本塁から2塁(約39m)とし,各条件3回ずつ撮影した.3回の投球および送球の中で,ボールリリース(以下,BR)後のボール初速度が最も速い1回を代表値として解析した.投球および送球動作は,2台の高速度カメラ(SportsCamTM,FASTEC IMAGING社製)をサンプリング周期250Hz,シャッタースピード1250Hzで同期させ撮影した.反射マーカは両肩峰,両上前腸骨棘,右肘頭,両足先端に貼付した.撮影した動画を,画像解析処理ソフトImageJにてマーカの2次元座標を読み取り,Direct Linear Transformation 法を用いてマーカの3次元座標を算出した.各部位の3次元座標から「ボール初速度」「TOP時肩水平外転角度」「BR時肩水平内転角度」「体幹回旋角度」「推進運動率」を求めた.なお,TOPとは肘を最も後方に引いた肢位(肩最大水平外転時)と定義した.統計処理はSPSS statistics 17.0を用い,各条件での群間比較は対応のないt検定,各群内での条件間比較は対応のあるt検定を用い,有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には研究の主旨を十分に説明した上で同意を得た.【結果】 「TOP時肩水平外転角度」は,捕手経験群では条件間での有意差はなかったが,捕手非経験群はset条件38.3±11.0°,catcher条件26.0±9.0°と有意差を認めた(p<0.05).また,肩水平外転角度は両条件とも群間での有意差はなかった.「体幹回旋角度」は,捕手非経験群でset条件55.3±9.0°,catcher条件44.9±10.3°と有意差を認めた(p<0.05).また,catcher条件での群間比較は,捕手経験群が63.6±16.4°であり有意に高値を示した(p<0.05).set条件においても有意差はないものの,捕手経験群が高値を示す傾向にあった.「ボール初速度」,「BR時肩水平内転角度」,「推進運動率」には群間,条件間いずれも有意差を認めなかった.【考察】 投球動作は,投球方向かつ,踏み出した足への重心移動や,股関節を中心とした骨盤回旋,体幹回旋,上肢の動きと運動連鎖が正確かつスムーズに行われることで,必要十分なエネルギーをボールに効率良く伝えることが出来る.また,投球動作における体幹の役割は,身体重心の移動や下肢筋力によって発生したエネルギーを,円滑に上肢に伝えることであり,体幹の機能不全により運動連鎖が破綻し,上肢への負担が大きくなる.今回の結果では,捕手経験群は,条件の違いによる変化は認められなかったのに対し,捕手非経験群はcatcher条件においてTOP時肩水平外転角度および体幹回旋角度が減少した.catcher条件では,set条件よりも素早い動作が求められるため,捕手非経験群は動作時間の短縮がTOP時肩水平外転角度および体幹回旋角度の減少に影響している可能性がある.それに対し,捕手経験群は,素早い動作が求められても角度に変化はなく,捕手非経験群よりも両条件で体幹回旋角度が高値を示した.本研究からは,この体幹回旋角度の変化が運動連鎖にどのような影響を及ぼすのかということまで言及することはできないが,捕手送球動作の特性といえるかもしれない.このことから,捕手経験年数により,障害が発生しやすい部位が異なるのではないかと考える.臨床において,今回着目した捕手に限らず,ポジションの聴取だけでなく,経験年数も考慮する必要性がある.今後は,捕手経験年数や練習量と障害の関係性について追求していく必要がある.【理学療法学研究としての意義】 これまで投球障害に関する研究としては投手が中心に行われてきた.しかし,投手以外の選手には,送球の正確さに加え,動作の素早さが求められる.そのため,ポジションの特異性やそのポジションの経験年数を考慮した評価・介入を行うことの重要性が示されたと考える.
著者
高橋(中口) 梓 平岡 毅 遠藤 泰久 岩淵 喜久男
出版者
公益社団法人 日本顕微鏡学会
雑誌
顕微鏡 (ISSN:13490958)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.47-52, 2014-04-30 (Released:2019-09-03)
参考文献数
25

生活環のほとんどを他の昆虫体内で過ごす内部寄生蜂は,それぞれの宿主に適応するため驚くべき進化を遂げている.本稿で扱うキンウワバトビコバチCopidosoma floridanumは宿主卵,そして孵化した宿主幼虫の中で生き延びるために,進化的にバリエーションが少ないはずの初期発生を大幅に変更し,卵割後,アメーバ様に移動できるステージを獲得した.この移動性の寄生蜂胚は宿主細胞に自己と誤認させ,宿主胚の胚発生に伴う細胞移動に便乗し,その細胞間を通って宿主胚体内に侵入する.孵化した宿主幼虫体内で寄生蜂胚は,宿主細胞の臓器を保護する宿主由来の嚢組織(cyst cell)で周囲を覆わせて宿主免疫を回避するだけでなく,酸素を得るため宿主に気管を形成させていた.本講座では,共焦点レーザー顕微鏡および透過型電子顕微鏡を用いて一連の現象を明らかにした経緯と,分子擬態に関与する分子機構の一部について紹介する.
著者
遠藤 恭生 田中 悠也 早川 庫輔 鷲澤 秀俊
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Cb1154, 2012

【目的】 当院において,10代におけるスポーツ障害患者の約4割は小学生である.その中でも,野球におけるスポーツ障害受診率は小学生全体の約3割と高く,その多くは野球肩,野球肘の診断を受けているのが現状である.一般的に野球肩・野球肘の発生頻度は投手と捕手に多いと言われている.今回われわれは,当院近隣にある少年野球チームに対し,メディカルチェック(以下MC)を実施した.少年野球選手をピッチャーまたはキャッチャー群とその他ポジション群の2群に分け比較検討し,ポジション別の身体特性を知ることを目的とした.【方法】 対象は,軟式少年野球3チーム58名の各選手に対し,事前アンケートとして学年・身長・体重・既往歴・現病歴・睡眠時間・食事内容・ポジション・投球側・打撃側・野球歴・その他のスポーツ歴を記入してもらい,MC当日は,理学療法評価として立位アライメントのほか,圧痛は肩関節・肘関節・膝関節・踵部に行い,関節可動域(以下ROM)の測定として,肩関節・前腕・手関節・股関節・膝関節・体幹に対し,投球側および非投球側の両側に実施した.スクリーニングテストにおいては,握力,母趾・小趾筋力,片脚バランス,立位四股テスト,しゃがみ込みテスト,体幹機能テスト,ブリッジテストを実施した.事前アンケートでポジションの記載があった51名のうち,ピッチャーまたはキャッチャーの選手19名をPC群,その他ポジションの選手32名(内野手15名、外野手17名)をO群の2群に分類し比較した.統計処理として,対応のないt検定またはMann-WhitneyのU検定を用い,有意水準を5%未満とした.【説明と同意】 対象者および保護者・チーム関係者には,十分な説明を行い,同意の上で測定を行った.【結果】 ROMにおいて,投球側肩関節HFTではPC群109.2±12.0度,O群118.9±15.0度であり,投球側前腕回外ではPC群95.3±7.4度,O群100.8±10.5度,投球側股関節外旋ではPC群48.4±8.3度,O群55.8±10.7度といずれもPC群がO群より有意に低値を示した(p<0.05).スクリーニングテストにおいては,投球側握力ではPC群20.0±5.8kg,O群15.8±6.2kgとPC群がO群より有意に高値を示した(p<0.05).体幹機能テストではPC群がO群より有意に高い傾向を示し,投球側軸足の片脚バランスにおいても,PC群がO群より片脚バランス時の動揺が有意に少ない傾向を示した(p<0.01).また他の項目に関しては、有意差は認められなかった.【考察】 少年野球選手において,野球肩・野球肘の発生頻度は投手と捕手に多いと言われている.今回,われわれのMCの結果から,ピッチャーまたはキャッチャー選手の身体特性として,ROMにおいて,いずれも投球側肩関節HFT・前腕回外・股関節外旋が有意に低値を示した.スクリーニングテストでは,握力が有意に高値を示したほか,体幹機能テストでは有意に点数が高く,投球側軸足の片脚バランスにおいても有意に動揺が少ない傾向を示した.これは,ピッチャーまたはキャッチャーというポジションが,チームの柱になるポジションであるため,筋力・スキルが高い選手に任させることが多いためと思われる.しかし,投球側上下肢のROM制限を認めることから,身体的負担が大きく,これらが野球肩・野球肘の発生に関与する一要因になるのではないかと考える.今後は,MCを定期的に継続し,障害発生の予防に努め,選手のみならず保護者や監督・コーチへのセルフケアの指導や全力投球数の制限などの啓蒙をしていく必要がある.【理学療法学研究としての意義】 ピッチャーまたはキャッチャー選手と,その他ポジション選手におけるポジション別の身体特性を知ることで,野球肩・野球肘の障害発生予防の1つの要因になることが示唆された.
著者
渡邉 亮 遠藤 俊太郎 曽我 治夫
出版者
日本交通学会
雑誌
交通学研究 (ISSN:03873137)
巻号頁・発行日
vol.60, pp.39-46, 2017

鉄道の廃線敷は、土地利用の転換・活用が難しく、特に地方部で有効に活用されている事例は少ない。しかし、一部では観光施設として有効活用されている事例もある。本研究では、国内3事例、海外1事例について、誕生の背景や施設の保有・運営形態、採算性等をヒアリング調査した。その結果、鉄道時代を上回る集客力を有し、一定の収支を確保している事例が確認でき、廃線敷を活用した施設が新たな観光資源として都市と地域の交流を生む可能性を秘めていることが明らかとなった。
著者
小島 友裕 遠藤 信綱 笹本 勇輝 石原 尚 堀井 隆斗 浅田 稔
出版者
一般社団法人 日本機械学会
雑誌
ロボティクス・メカトロニクス講演会講演概要集 2014 (ISSN:24243124)
巻号頁・発行日
pp._2A1-X06_1-_2A1-X06_4, 2014-05-24 (Released:2017-06-19)

Several observational studies suggest that the infant vocalization towards language acquisition develops through interactions with caregivers. However, what kind of underlying mechanisms works and how caregiver's behavior affects on this process have not been made clear since it is very difficult to control the infant vocalization. In order to attack this issue, we built an infant-like vocal robot "Lingua" as a controllable vocal platform. Lingua has two features; infant-like voice and high articulation capability. The shape of its vocal tract resembles that of a 6-monthold infant based on the anatomical data, and this may contribute to the former. 7-DOFs for articulation in the tongue is realized by sophisticated design of linkage mechanisms inside miniaturized vocal tract for high capability of its articulation. Preliminary experiments showed that the robot succeeded in vocalizing almost the same fundamental frequency vowel-like utterances similar to that of an infant.
著者
遠藤 薫
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.438-452, 1998-03-31 (Released:2009-10-19)
参考文献数
17
被引用文献数
1 1

電子メディアの爆発的な普及にともなって, 電子メディア上に構成されるバーチャルコミュニティが新たな「社会的現実」となりつつある。本稿では, バーチャルコミュニティを我々にとっての「自明の現実」である近代システムと比較することによって, 改めて近代システムを検討し, 同時にバーチャルコミュニティの意義と課題を抽出する。結論として, バーチャルコミュニティは, 近代システムの論理を貫徹しようとする意思によって生まれてきたものであるが, その結果, 近代システムの枠組みを無効化し, 近代システムの基盤となる自律的個人のアイデンティティを変容させる可能性がある。新たに発生する問題として, 多重自己アイデンティティおよび文化衝突の可能性がある。
著者
遠藤 崇浩 森 吉尚 沖 大幹
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.144-155, 2020
被引用文献数
2

<p> 飲用水及び生活用水の確保は地震災害時の最重要課題の一つである.現在,日本各地で水道施設の耐震化が進められているが,それを補完する手段の一つに災害用井戸の整備がある.災害用井戸に関する既存研究は個別事例の紹介に留まっており,広域的な普及度の調査が不十分だった.そこで本稿では全国20の政令指定都市における災害用井戸の現況を調査したうえで,2016年の熊本地震での経験から仮説的に導出した基準を用いてそれぞれの都市の災害用井戸制度の充実度評価を行った.その結果,災害用井戸が導入されているのは12の政令指定都市に留まっていること,導入済みの政令指定都市のうち千葉市,横浜市,川崎市,相模原市,名古屋市,熊本市の制度が比較的高い充実度をもつことを明らかにした.そしてその現況調査から災害用井戸の更なる普及の必要性,災害用井戸の維持に向けた環境政策統合,他の補給水利との連携強化という新たな課題を提示した.</p>
著者
遠藤 なつ美 田中 知己
出版者
日本家畜管理学会
雑誌
日本家畜管理学会誌・応用動物行動学会誌 (ISSN:18802133)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.163-170, 2016

<p>本研究では、加速度センサーによって測定した行動量の増加を指標とした発情発見補助装置の有用性を検討するため、国内で最近開発された発情発見補助装置(ハツハツ)を用いて以下の試験を実施した。実験1において、ホルスタイン種搾乳牛10頭の頚部に加速度センサーのタグを装着し、発情周期における行動量の変化を解析した結果、発情日においては1時間当たりの行動量が、黄体期の平均行動量に比べて9.2 ± 3.3(5.2〜11.0)倍に増加するピークが認められた。さらに、日内の行動量がピークとなる時刻は、その殆どが日中の作業時間帯に生じており、発情周期における観察日間(黄体期、発情日前日、発情日、排卵日)での有意な差は認められなかった。実験2において、搾乳牛14頭の合計27発情周期について発情行動の観察と排卵の確認を行い、ハツハツによる発情検知率との比較を行った。その結果、目視観察による発情検知率は14/27周期(51.6%)であったのに対し、ハツハツによる発情検知率は23/27周期(85.2%)と目視観察よりも有意に高かった(<i>P</i> < 0.05)。ハツハツにより黄体期に発情が誤検知された周期は8/27周期(29.6%)だった。以上の結果から、加速度センサーによる発情検知システムは、飼養頭数の少ない小規模な牛群においても目視観察による発情発見の補助手段として十分活用できることが示された。</p>
著者
遠藤 謙一郎
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.93-102, 2015

日本の文化・生活における「間(ま)」の重要性については、いろんな分野で研究されている。話芸においても、無言・沈黙の時間の「間」が述べられている。今回、落語の「間」を考えるときに、特に意図的に短縮された時間もしくは一切省略された「間合い」が多用されていることに着目し、これを「端折りの間合い」とよび検討を加えた。その「端折りの間合い」を具体例にて3つの類型に分けて提示し、イ.ながれ、ロ.かぶせ、ハ.いきなり、と分類してその演技上の効果について解説を試みた。
著者
遠藤 秀紀 九郎丸 正道 西田 隆雄 服部 正策 林 良博
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
日本獣医学雑誌 (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.119-123, 1992-02-15
被引用文献数
2

心筋組織の肺静脈壁への分布が, 多くの哺乳類で報告されている. 同組織の哺乳類における系統発生学的起源を明らかにする目的で, 食虫類ジャコウネズミ(スンクス)の肺内肺静脈を, 光顕及び電顕を用いて観察した. 心筋組織は肺門部より肺内肺静脈小枝にまで広く分布し, 同構造の系統発生学的起源は, 最も原始的な哺乳類のグループにまで, さかのぼることができると考えられた. 微細形態学的には, 肺静脈の心筋細胞は, 左心房の心筋細胞と類似し, 大型の脂肪滴の分布が特徴的であった. また, これらの結果から, 同構造が肺循環血流の制御に寄与していることが示唆された.
著者
遠藤 秀紀 前田 誠司 山際 大志郎 九郎丸 正道 林 良博 服部 正策 黒澤 弥悦 田中 一栄
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.57-61, 1998-01-25
被引用文献数
7 10

リュウキュウイノシシ (Sus scrofa riukiuanus) の下顎骨の形態に関して, 奄美大島, 加計呂間島, 沖縄島, 石垣島, 西表島の5島間の島嶼間変異を明らかにするため, 骨計測学的検討を行った. 上記5島より得られた下顎骨の内, 成獣と判定された95例の標本を用い, 14の計測部位を採用して議論した. 下顎骨全長において, 石垣島産標本は, 西表島産より明らかに大きかった. また, これまで提唱されてきた下顎骨全長に関するクラインを, 沖縄島を含む南西諸島全体において認めることはできなかった. 下顎骨全長に対する各項目の割合から, 石垣島産および西表島産は, 他島嶼産に比較して, 下顎枝が側方に発達し, 下顎体が背腹方向に成長するという傾向が見られ, また奄美大島産においては, M_2からP_3までの臼歯長と下顎連合面長が短いことが明らかになった. 以上の結果から, イノシシは, 種内集団間の形態学的変異がきわめて多様な種であることが示唆され, いくつかの形質の相違のみで, 南西諸島産集団を日本本土産集団に対して独立した種のレベルで扱うことは適切でない, と結論できた. 今後蓄積される形態学的データを基に, 各島嶼集団の形態変異に関する適応的意義が検討され, 歴史時代における各集団のサイズとプロポーションの変化に関する考古学的解明が進むことが期待される.
著者
荻原 啓文 加茂 智彦 田中 亮造 加藤 巧 遠藤 まゆみ 角田 玲子 伏木 宏彰
出版者
一般社団法人 日本めまい平衡医学会
雑誌
Equilibrium Research (ISSN:03855716)
巻号頁・発行日
vol.79, no.4, pp.218-229, 2020-08-31 (Released:2020-10-01)
参考文献数
29
被引用文献数
5

This study was aimed at (1) determining the risk of falls in patients with chronic dizziness/vertigo using the Timed Up and Go test (TUG), Dynamic Gait Index (DGI), Functional Gait Assessment (FGA), and Activities-specific Balance Confidence (ABC) scale, and (2) investigating the correlations and agreements among the measurements results of assessment by the aforementioned methods in these patients. A total of 52 patients with dizziness/vertigo were included in the study, and the risk of falls in these patients was evaluated by the TUG, DGI, FGA, and ABC scale. We analyzed the correlations and agreements in the fall risk assessed by the aforementioned methods using Spearman's rank correlation and kappa statistics. Of the 52 patients, 11 (21.2%), 26 (50%), 29 (55.8%), and 18 (34.6%) patients were assessed as being at a risk of falls by the TUG, DGI, FGA, and ABC scale, respectively. The results of the assessments by the above methods showed significant good correlations and agreement. However, the kappa coefficients for some results were low (TUG-DGI: k=0.423, TUG-FGA: k=0.351, TUG-ABC scale: k=0.299, DGI-FGA: k=0.885, DGI-ABC scale: k=0.385, and FGA-ABC scale: k=0.294). Risk factors for falls in patients with dizziness and vertigo include disturbances of psychological balance and gait. Multiple methods to assess the fall risk may yield more accurate results than assessment by one method alone.
著者
遠藤 秀紀 小宮 輝之 成島 悦雄 鈴木 直樹
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.64, no.12, pp.1153-1155, 2002-12-25
被引用文献数
1 3

コーンビーム型CTスキャンは,遺体から直接的に三次元データを集めることを可能とするものである.筆者らは,ジャイアントパンダ(Ailuropoda melanoleuca)の遺体の頭部を用いて,コーンビーム型CTにより,復構を経ずに直接的に三次元画像を得た.また三次元データからセクションを作ることで,非破壊的に頭部諸断面の観察を行った.得られた結果の要点は以下の2つである.1)三次元画像から咀嚼筋と下顎骨の形態学的関係を示すことができた.側頭窩の吻外側において下顎骨の筋突起の位置を認識することができた.2)三次元データから断面像を作ることで,鼻腔内を詳細に観察することができ,鼻甲介の発達が確認された.また鼻腔後部,嗅球の吻側領域には複雑な構造を備えた篩骨迷路が観察された.これらのデータは同種が繁殖期に交尾相手を見出す上で重要と推測される嗅覚機能の議論にも有効と考えられる.