著者
井田 諭 金児 竜太郎 今高 加奈子 大久保 薫 東 謙太郎 村田 和也
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.536-542, 2022-10-25 (Released:2022-12-06)
参考文献数
30

目的:本研究の目的は,高齢糖尿病患者における孤独感と高次生活機能との関連性を検証すること.方法:対象は伊勢赤十字病院外来通院中の65歳以上の糖尿病患者とした.高次生活機能の評価には,自己記入式質問紙によるTokyo Metropolitan Institute of Gerontology Index of Competence(TMIG-IC)を用いた.孤独感の評価には,自己記入式調査票である日本語版孤独感尺度短縮版を用いた.目的変数をTMIG-IC得点,説明変数を孤独感,及び調整変数とした重回帰分析を用いて,孤独感の高次生活機能に関する調整後偏回帰係数を算出した.結果:170例が本研究の解析対象となった.孤独感ありは,91人(53.5%),平均TMIG-IC得点は11.3点であった.孤独感の高次生活機能に関する調整前,及び調整後偏回帰係数は,それぞれ-1.61(95% confidence interval(CI),-2.31 to -0.91;P<0.001),-0.88(95% CI,-1.52 to -0.23;P=0.008)であった.結論:高齢糖尿病患者における孤独感が高次生活機能低下と関連することが明らかとなった.孤独感を有する糖尿病患者を診た際の高次生活機能低下に関する注意喚起が重要と思われた.
著者
金田 茂裕
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.333-346, 2022-12-30 (Released:2022-12-30)
参考文献数
46

教授者は日々の教育実践の中で,具体的に扱う「問題」に加え,それに対する「学習者の取り組み」とも対峙する。本研究では,教授者の知識に関する既存の概念をふまえ「課題知識」と「学習過程知識」の2つを定義し,教授者が各知識を獲得したとき,教授者主導,学習者主体の教授学習法の望ましさ判断をどう変化させるかを検討した。実験の参加者は大学生とし,問題として「答えが複数ある文章題」を設定し,公立小学校5年生を学習者として想定してもらい,課題知識付与群(問題の解法と正解を提示:N=147),学習過程知識付与群(学習者の解答例と出現率を提示:N=136)で,事前事後デザインにより判断の変化を調べた。その結果,問題の難易度が学習者にとりどの程度かの判断の平均評定値は,事前から事後にかけ,2群で同じように上昇したが,教授学習法の望ましさ判断の平均評定値は,2群で異なる方向に変化した。課題知識付与群では,教授者主導を望ましいと判断する傾向が強くなり,学習者主体の傾向は弱くなった。一方,学習過程知識付与群では,教授者主導の傾向が弱くなり,学習者主体の傾向は強くなった。以上の結果は,教授者が課題知識,学習過程知識のいずれを基礎とするかにより,教授学習法の望ましさ判断を異なる方向に変化させることを示唆する。
著者
淺野 敏久 金 枓哲 平井 幸弘 香川 雄一 伊藤 達也
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.223-241, 2013 (Released:2013-11-01)
参考文献数
13
被引用文献数
2

本稿では,韓国で2番目にラムサール登録されたウポ沼について,登録までの経緯とその後の取り組みをまとめ,沼周辺住民がそうした状況をどのように受け止めているのかを明らかにした.ラムサール登録されるまでの過程や,その後のトキの保護増殖事業の受け入れなどの過程において,ウポ沼の保全は,基本的にトップダウンで進められている.また,湿地管理の姿勢として,「共生」志向というよりは「棲み分け」型の空間管理を志向し,生態学的な価値観や方法論が優先されている.このような状況に対して,住民は不満を感じている.湿地の重要さや保護の必要性への理解はあるものの,ラムサール登録されて観光客が年間80万人も訪れるようになっているにも関わらず,利益が住民に還元されていないという不満がある.ウポ沼の自然は景観としても美しく,わずか231 haほどの沼に年間80万人もの観光客が訪れ,観光ポテンシャルは高い.湿地の環境をどう利用するかが考慮され,地元住民を意識した利益還元や利益配分の仕組みをつくっていくことが課題であろう.
著者
田上 裕記 太田 清人 小久保 晃 南谷 さつき 金田 嘉清
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.207-213, 2008-12-31 (Released:2021-01-23)
参考文献数
27

姿勢の変化が嚥下機能に及ぼす影響について検討した.対象は,健常成人21名(平均年齢:30.6±9.7歳)とした.研究の説明を十分に行い,同意を得た上で検査を行った.方法は,背もたれのない坐位をとり,頚部は制限せず自由とし,4つの姿勢条件を設定した.①姿勢(a):股屈曲90度,膝屈曲90度, ②姿勢(b):股屈曲135度,膝屈曲90度,③姿勢(c):股屈曲90度,膝屈曲0度(長坐位),④姿勢(d):両下肢挙上位,以上の姿勢条件にて,嚥下造影検査(以下,VF検査)および反復唾液嚥下テスト(以下,RSST)を行った.VF検査は,70%希釈バリウム液15ml を各姿勢にて,合図とともに随意嚥下させ,咽頭通過時間をLogemannの測定法に準じ測定した.同様の姿勢条件にてRSSTを施行し,触診法にて嚥下回数を測定した.尚,統計処理は,一元配置分散分析,Tukeyの多重比較検定にて検討した.結果は,VF検査,RSSTのいずれも一元配置分散分析において有意差が認められた (p<0.05).各群間の比較ではVF検査についてみると,姿勢(a)の咽頭通過時間は,姿勢(b)の咽頭通過時間と比較し有意な差はみられなかったものの,姿勢(c)(p<0.05)および姿勢(d)(p<0.01)の咽頭通過時間と比較し,それぞれ有意に低値を示した.また,姿勢(b)の咽頭通過時間は,姿勢(c)の咽頭通過時間と比較し有意な低値を示した (p<0.05).RSSTは,VF検査とほぼ同様の結果が得られた.摂食・嚥下障害に対し,下肢の肢位に関する報告は少ない.嚥下運動は,筋収縮を伴う一連の全身運動であり,頚・体幹・下肢のポジショニングによって嚥下に関与する筋の効率が変化する.以上の結果より,下肢を含めた姿勢の変化が嚥下機能に影響を及ぼしたことが推測された.頚部・体幹・四肢の相互関係を考慮した姿勢設定の重要性が示唆された.
著者
夏池 真史 金森 誠 前田 高志 嶋田 宏 坂本 節子
出版者
日本プランクトン学会
雑誌
日本プランクトン学会報 (ISSN:03878961)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.1-10, 2022-02-25 (Released:2022-03-06)
参考文献数
31

In Hokkaido, Japan, the toxic dinoflagellate Alexandrium catenella (A. tamarense species complex Group I) is the source of frequent contamination of bivalves with paralytic shellfish toxins over the last 40 years, whereas A. pacificum (Group IV) has rarely been reported. Recently, A. pacificum cells were identified based on their morphology and DNA sequences in Hakodate and Funka bays, southern Hokkaido. To understand their seasonal occurrence, A. pacificum and A. catenella cells in the two bays were detected using microscopy and multiplex polymerase chain reaction (PCR) over a 2-year period (May 2018–May 2020). Microscopic observation showed that cells of A. pacificum, a species without the ventral pore between the 1′ and 4′ plates, occurred in Hakodate Bay from July to November 2018 and in July 2019, with a maximum cell density of 4450 cells L−1 in November 2018. It also occurred in Funka Bay in October 2018, with a maximum cell density of 50 cells L−1. Multiplex PCR using Alexandrium species-specific primers showed a similar seasonal occurrence of A. pacificum in Hakodate Bay. In contrast, A. catenella was found from February to May in Funka Bay but its occurrence was uncertain in Hakodate Bay because the microscopy and PCR tests were not simultaneously positive. The occurrence of A. pacificum was limited to the period (July to November) of optimum water temperature for growth (15–25℃), suggesting that the occurrence of motile cells was affected by water temperature. When A. pacificum bloomed at a relatively high density in Hakodate Bay during autumn 2018, warmer water temperature and lower salinity in the surface layer were observed compared to the previous 5 years. These environmental conditions were thought to be established due to warmer air temperatures, a longer sunshine duration, and a large amount of precipitation from October to November 2018. Such environmental and meteorological conditions were suggested to be suitable for the growth of A. pacificum in Hakodate Bay.
著者
勝倉 りえこ 伊藤 義徳 根建 金男 金築 優
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.41-52, 2009-01-31 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
2

メタ認知的気づきとは、否定的な感情や思考を自己の実体や世界の直接的な反映としてではなく、過ぎ行く心的な出来事として経験するプロセスであり、反復性うつ病の脆弱性の改善との関連が指摘されている。本研究では、認知プロセスを変容させると考えられるマインドフルネストレーニングの中核的技法である坐禅の訓練が、大学生の抑うつ傾向およびメタ認知的気づきに及ぼす影響について検討する。結果として、坐禅訓練が大学生の抑うつ傾向と反すう的思考スタイルを減弱し、またその効果はメタ認知的気づきの獲得を媒介して発揮されている可能性が示唆された。今後は、本研究で得られた予備的知見を、臨床群においても検証することが望まれる。
著者
金子 武彦 大脇 明
出版者
日本蘇生学会
雑誌
蘇生 (ISSN:02884348)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.128-131, 1999-07-20 (Released:2010-06-08)
参考文献数
11

肺高血圧を伴った心内膜症欠損症, 左心低形成症候群, 心室中隔欠損症の3症例の心肺蘇生を経験し, うち2例は不幸な転帰をとった。これらの疾患では, 高濃度酸素投与は肺血管抵抗の低下や動脈管の閉鎖を, 低二酸化炭素血症は肺血管抵抗の低下をもたらすので, 蘇生中・直後の換気条件の設定が蘇生の効果に影響する。臨床では, 蘇生開始時の100%酸素投与と過換気はやむをえないが, 心拍再開後は脈波型酸素飽和度計による動脈血酸素飽和度の値と頻回の心エコーの所見を指標に可及的に吸気酸素濃度を下げつつ, 中枢神経系への影響も考慮して二酸化炭素分圧を調節するような換気条件の設定が病態に則した蘇生法と思われる。先天性心疾患患者を扱う施設では, これらの疾患に特有な肺循環動態を考慮した心肺蘇生を念頭に置く必要がある。
著者
斎藤 富由起 守谷 賢二 Fuyuki Saito Moriya Kenji 千里金蘭大学 生活科学部 児童学科 文教大学大学院 人間科学研究科
出版者
千里金蘭大学
雑誌
千里金蘭大学紀要 (ISSN:13496859)
巻号頁・発行日
pp.43-50, 2009

本研究では、境界性パーソナリティ障害(BPD)の治療として注目されている弁証法的行動療法(DBT)の観点から、DBT版マインドフルネス尺度を追試的に検討するとともに、DBTにおけるマインドフルネスと境界性パーソナリティ傾向の関連性を検討することが目的であった。マインドフルネス尺度を検討した結果、先行研究と同じ「中核的マインドフルネス」、「課題への注意集中」、「効果的な対人コミュニケーション」、「情動コントロール」という4因子構造が得られ、先行研究(守谷・池田・斉藤,2005)以上に信頼性と妥当性の高い尺度が作成された。さらに、境界性パーソナリティ傾向の高低を独立変数としDBT版マインドフルネス尺度得点を従属変数とした結果、境界性パーソナリティ傾向の高い人は低い人と比較して、マインドフルネス得点が有意に低いことが明らかになった。