著者
髙山 恵律子 上村 義季 近藤 淳 吉川 大和 瀬戸 英伸
出版者
日本皮膚科学会大阪地方会・日本皮膚科学会京滋地方会
雑誌
皮膚の科学 (ISSN:13471813)
巻号頁・発行日
vol.16, no.6, pp.422-426, 2017

8歳,男児。マイコプラズマ感染によると考えられた Stevens-Johnson 症候群を発症した。高熱と咳嗽を伴い,皮膚の紅斑と水疱はごく少数であったが,眼,口唇・口腔,陰部の粘膜症状が重症で2度のステロイドパルス療法および免疫グロブリン投与を要した。翌年,マイコプラズマに再び感染した。その際は咳嗽に続き高熱と,全身に猩紅熱様の紅斑を生じたが,粘膜症状はごくわずかで,ステロイド外用のみで速やかに軽快した。マイコプラズマの再感染時,Stevens-Johnson 症候群や多形紅斑を再発した報告は少数あるが,本例のように表現型が異なる皮膚粘膜症状を呈した報告は過去に見出せなかった。ただしマイコプラズマ感染による皮膚粘膜症状は多彩であり,マイコプラズマ感染と因果関係が広く知られた症状と異なる場合や,皮膚粘膜症状が複数回生じた場合,上気道症状を伴わない場合等は,マイコプラズマ感染の検索が見落とされやすく注意が必要である。マイコプラズマ感染に伴う皮膚粘膜症状はおもに宿主免疫応答により生じるといわれるが,加えて遺伝的要因,菌株要因など多要因の関与が推察された。(皮膚の科学,16: 422-426, 2017)
著者
髙橋 三郎
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.191-195, 2017 (Released:2017-05-31)
参考文献数
21
被引用文献数
1 2

本研究は,学齢期の吃音児を対象とし,語頭と語末のバイモーラ頻度が吃音頻度に及ぼす影響を検討したものである.対象児は7歳から12歳の吃音児21名であった.対象児に,語頭と語末のバイモーラ頻度をそれぞれ独立に操作した4種類の3モーラの刺激語(「高-高」語,「高-低」語,「低-高」語,「低-低」語)を音読させた.その結果,語頭のバイモーラ頻度の影響は語末のバイモーラ頻度が低いときのみ認められた.また,語末のバイモーラ頻度の影響は語頭のバイモーラ頻度が低いときのみ認められた.これらの結果から,語頭と語末のバイモーラ頻度は単体では吃音頻度に影響を及さないことが示唆された.むしろ「低-低」語の吃音頻度が4種類の刺激語のうち最も高かったことから,語全体のバイモーラ頻度が吃音の生起に影響すると考えられた.
著者
辰野 竜平 梅枝 真人 宮田 祐実 出口 梨々子 福田 翼 古下 学 井野 靖子 吉川 廣幸 髙橋 洋 長島 裕二
出版者
公益社団法人 日本食品衛生学会
雑誌
食品衛生学雑誌 (ISSN:00156426)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.28-32, 2021-02-25 (Released:2021-03-04)
参考文献数
16
被引用文献数
2

トラフグ属魚類の小型種であるムシフグは,毒性に関する情報が乏しく食用として認められていない.そこでムシフグの毒性を明らかにするため,熊野灘で漁獲した10個体(雄9個体,雌1個体)を試料とし,各個体の皮,筋肉,肝臓,生殖腺(卵巣もしくは精巣)をマウス試験とHPLC蛍光検出法に供した.各部位から試験液を調製し,前述の2つの方法により毒力とテトロドトキシン(TTX)濃度を算出した.マウス試験の結果,皮,肝臓,および卵巣で毒性が認められたが,精巣と筋肉は無毒(<10 MU/g)であった.一方,HPLC蛍光検出法で10個体中2個体の筋肉から1.4~1.5 MU/gのTTXが検出されたことから,ムシフグの食用可否を検討するため,引き続き毒性の調査を行う必要があると考えられた.
著者
髙梨 知揚
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.32-42, 2019-07-31 (Released:2020-07-31)
参考文献数
26

数が少ないながらに鍼灸師ががん緩和ケアに関与しているという報告が散見されるようになった。しかし通常医療とは医学モデルを異にする鍼灸師という職種が、医師や看護師らが中心となって構築する緩和ケアの場においてどのように他職種と関係を構築しながらケアを実践しているかは明らかになっていない。そこで本研究では、6名の鍼灸師と5名の他職種を対象として、チームでの緩和ケアの実践経験を有する鍼灸師と他職種の職種間連携の実態を明らかにすることを目的にインタビュー調査を行った。本研究結果から、病院における緩和ケアの「場」において両者が「繋がる」ための「障壁」が存在することが明らかになった。こうした「障壁」の存在に対して鍼灸師は様々な「戦術」を駆使し、一方で他職種も多様性のある医療を実践するために「小さな戦略」を展開しながら、ケアの「場」における相互の「繋がり」を構築する様が明らかとなった。
著者
和泉 俊平 髙橋 さやか 大村 優太 高桑 昌幸
出版者
南江堂
巻号頁・発行日
pp.152-156, 2021-02-01

は じ め に 超高齢社会に伴い,骨粗鬆症のほか易転倒性などロコモティブシンドロームやフレイルが喫緊の問題になっている.このような現状のなか,理学療法が担う役割として,従来の治療的な取り組みだけではなく予防的な理学療法が必要である. 高齢者のロコモティブシンドロームやフレイル,円背姿勢は身体機能を低下させる.その結果,転倒リスクの増加を招き,脊椎椎体骨折など日常生活動作(ADL)障害が発生し,最終的には生活の質(QOL)の低下,健康寿命の短縮につながるとされている1).一方で体幹筋の筋力強化を図ることにより,脊柱骨盤帯が安定し,身体機能やバランス機能の改善につながるという報告があり2),高齢者が体幹筋の筋力強化を行うことは重要である.しかし,従来の体幹筋トレーニング方法では,高齢者にとって負荷が強く,また疼痛や脊椎変形によりトレーニングの実施,継続が困難となる背景がある3). われわれは,ロコモティブシンドロームに該当する高齢者5名を対象として,簡便に体幹筋力の測定が可能で,同時にトレーニングも可能な機器である体幹筋トレーニング装置(RECORE:日本シグマックス社,東京)を用いて2週間トレーニングを施行し,ロコモ度,動的バランス,Safety Walk Navi(デサントジャパン社,大阪)を用いた歩行平均加速度の変化について短期間の結果を検討し報告する.
著者
髙橋 沙奈美
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.91, no.3, pp.25-48, 2017

<p>本稿はペテルブルグの聖クセーニヤに対する崇敬を事例として、人びとの日常生活の中で経験され、表現される「生きた宗教(lived religion)」が、社会主義時代にどのような主体によって維持され、いかに変容し、またいかに持続したかという問題を検討する。十八世紀末の帝都の下町に暮らしたといわれるクセーニヤは、十九世紀後半から二〇世紀にかけて、悩みや苦しみに寄り添い力を貸してくれる聖痴愚として、人びとに慕われ始めた。一九一七年の革命後、反宗教政策で教会が壊滅状態に陥り、祈?を依頼できる司祭がいなくなると、レニングラードの人びとはクセーニヤに「手紙」を書くことで崇敬を維持した。クセーニヤは過去の記憶ではなく、テロルや包囲戦の時期もレニングラードと共にある等身大の福者として意識された。また、帝政末期にすでに正教会にも認められていたクセーニヤ崇敬は、教会権力によって単なる民衆宗教として排斥されず、西側の世論を怖れたソ連政府も礼拝堂の破壊を思いとどまった。一九八八年の列聖は、信者たちにとって、革命以前の信仰生活の復活ではなく、ともに最も苦しい時代を生き抜いたクセーニヤの記念を意味したのである。</p>
著者
髙城 隆一
出版者
東京大学大学院人文社会系研究科・文学部言語学研究室
雑誌
東京大学言語学論集 = Tokyo University linguistic papers (TULIP) (ISSN:13458663)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.267-282, 2020-10-31

本稿では、先行研究によって「一型アクセント」であるとされてきた鹿児島県の大隅半島東部で話されている内之浦方言のアクセント体系を記述し、二型アクセントの痕跡が今なお残存することを指摘する。拡張語を2つ以上使用した文中での名詞の発音を観察すると、ある話者の発音では鹿児島市方言の二型アクセントと類似する、対立する2 種類のアクセント型が現れることから、この話者が鹿児島市方言と同じ二型アクセントに近い体系を意識下に持っていると考える。さらに、拡張語を単独で発音した際にはアクセント型の対立が見られない別の話者も、文中での発音においては2 種類のアクセント型が比較的安定して現れることが明らかになった。両話者の体系にはそれぞれ鹿児島市方言とのアクセント型の対応や語末音素による条件づけが想定でき、これは二型アクセントから変化したものであると考えられる。論文 Articles
著者
山本 雄貴 松井 尚子 平松 有 宮崎 由道 野寺 裕之 和泉 唯信 髙嶋 博 梶 龍兒
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
pp.cn-000976, (Released:2017-01-28)
参考文献数
23
被引用文献数
2 6

症例は60歳男性.小児期より運動後の筋疲労感や褐色尿を自覚したが症状は軽微であった.45歳頃より両下肢遠位部優位の筋萎縮,感覚障害が進行した.神経伝導検査で軸索型末梢神経障害を呈し,シャルコー・マリー・トゥース病(Charcot-Marie-Tooth disease; CMT)が疑われた.55歳より横紋筋融解症を繰り返すようになり,血清アシルカルニチン分析と遺伝子検査から三頭酵素欠損症と診断した.三頭酵素欠損症は先天性脂質代謝異常症の稀な一型であるが,末梢神経障害を合併してCMTに類似した臨床所見を呈しうる.筋症状を伴う進行性の末梢神経障害をみた場合,積極的に本疾患を疑って精査すべきである.
著者
髙橋 広行
出版者
一般社団法人 日本繊維製品消費科学会
雑誌
繊維製品消費科学 (ISSN:00372072)
巻号頁・発行日
vol.51, no.10, pp.777-784, 2010-10-20 (Released:2016-10-01)
参考文献数
23

本研究は,グレード化されたカテゴリーを形成する典型性要因,および具体性要因に基づく構造を前提にしながら,ブランド・ポジショニングを検討していくものである.先行研究におけるグレード化されたカテゴリーは「典型性」の研究に傾斜しており,競争環境やコンテクスト(文脈)などの具体性についてはほとんど議論されてこなかった.また,典型性と具体性の要因に基づくブランドの類型までは検討してきたものの,実際のデータで確認までは行っていなかった.そこで本研究では,このブランドの類型を検証していくものである.分析には2009年3月にIpsos日本統計調査株式会社の消費者パネルモニター,20代から60代前半の女性に対して収集した洗濯用洗剤ブランドのデータを用いた.分析の結果,認知者ベースから購入者ベースになるほど典型性要因が強く影響することが確認されたこと,ブランドの類型に基づいたブランド・ポジショニングによる競争構造が理解できたことから,このアプローチが有効であることを示唆した.
著者
髙林 裕 福井 亘
出版者
公益社団法人 日本造園学会
雑誌
ランドスケープ研究 (ISSN:13408984)
巻号頁・発行日
vol.83, no.5, pp.749-752, 2020-03-30 (Released:2020-06-09)
参考文献数
28

Avifauna in urban matrix may be influenced by forests and farmlands surrounded by the matrix. How does the matrix in the city center with few forests and farmlands work for birds? The purpose of this study was to clarify the effect of the green coverage ratio in the matrix of the city center on the birds appearing in small urban parks. We selected 29 urban parks ( area : 2561.21±371.97 ㎡ ) in the center of the Osaka City as study sites. Each site was visited three times for bird surveys in each of breeding and wintering seasons. Using the satellite images taken by Sentinel-2, we calculated the green coverage ratio around 29 urban parks. Moreover, we clarified the relationship between the appearing birds and the green coverage ratio in the matrix based on the hierarchical Bayesian model. As a result, the presence of large habitat patch in the urban matrix affected the appearance probability of some species. Furthermore, the result also showed that the green coverage ratio in the matrix during the wintering season influenced the probability of appearance of Hypsipetes amaurotis and Turdus pallidus which have features about eating fruits.
著者
髙尾 尚平
出版者
日本体育・スポーツ哲学会
雑誌
体育・スポーツ哲学研究 (ISSN:09155104)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.115-132, 2019

<p>This paper aims to show the ethical relationship between coach and player which respects the otherness of player and to explain exchanges between them required to overcome the violence in the relationship. This paper approaches the above objective in the following manner. First, based on the ideas of Levinas, this paper draws out the general framework of the ethical relationship between coach and player. Second, this paper examines what the roots of the violence in sport coaching are, and then searches for the situation that is requested to form the ethical relationship between coach and player. Finally, to realize an ethical relationship that does not result in the violence, this paper identifies what exchanges should be taking place between coach and player concretely. From the above, the following points are clarified: (1) An ethical relationship between coach and player is the relationship that coach desires the otherness of the player, not one in which the coach subsumes the otherness under his/her own comprehension. (2) This ethical relationship should be requested in the situation when the ego-ideal possessed by the coach is facing a crisis. (3) The ethic for overcoming violence is realized by the exchanges that player as a person speaks to coach, then coach puts the ego-ideal in question and seeks to a new path on sport coaching from receiving the language spoken by player. Therefore, according to this paper, what is called for overcoming the violence is the establishment of a relationship in which coach desires the language of player as the other, in the situation when coach's ego-ideal is facing a crisis.</p>