著者
藤田 恵美 中田 誠
出版者
日本林學會
雑誌
日本林學會誌 = Journal of the Japanese Forestry Society (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.83, no.2, pp.84-92, 2001-05-16
参考文献数
43
被引用文献数
3

新潟県下越地方において、海岸砂丘地のクロマツ林への広葉樹の混交が林床植生と土壌特性に及ぼす影響について研究を行った。亜高木層に落葉広葉樹が混交した林分では、クロマツのみから構成される林分に比べて低木層の被度がやや低いが、高木・亜高木性の常緑広葉樹の稚幼樹が多く出現した。草本層ではイネ科植物が優占し、クロマツ林では砂地や草原を好む種の被度が高いのに対して、混交林では被度がやや低いが木陰や林内に生育する種の比率が高かった。これらはクロマツ林への広葉樹の混交による林内の光環境と土壌特性の変化が原因と考えられた。土壌はいずれもA0-A-C層からなる砂質未熟土だった。混交林ではクロマツ林に比べてA0層のCa、Mgの含有率が高く、塩基飽和度とpHが上昇していた。また、混交林では表層土壌(0~10cm)へのCa、Mg、Nなどの養分の蓄積が進行していた。海岸砂丘地のクロマツ林における落葉広葉樹との混交林化とそれに続く常緑広葉樹の侵入は、海岸防災林の保全や機能強化にとって重要な役割を担うと考えられる。
著者
小島 克己 上條 厚 益守 眞也 佐々木 惠彦
出版者
日本林學會
雑誌
日本林学会誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.76, no.3, pp.p258-262, 1994-05
被引用文献数
4

マツノザイセンチュウの病原力の弱い培養個体群も, セルラーゼを体外に分泌していることを活性染色法により確かめた。マツノザイセンチュウが分泌するセルラーゼ酵素群の組成は, ニセマツノザイセンチュウとは異なるものの病原力の強い培養個体群と弱い培養個体群の間で違いはみられなかった。マツノザイセンチュウが分泌したセルラーゼの活性を比べると, 病原力の強い培養個体群の方が病原力の弱い培養個体群よりも強かった。またマツノザイセンチュウの分泌するセルラーゼが結晶セルロースを分解する能力をもつことを明らかにした。マツノザイセンチュウの分泌するセルラーゼがマツ樹体内においてもセルロースを分解しうると考えられた。以上よりセルラーゼがマツ材線虫病の病原物質であるという可能性がより確かになった。
著者
川村 健介 橋本 靖 酒井 徹 秋山 侃
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.83, no.3, pp.231-237, 2001-08-16
被引用文献数
6

林床の光の分布は, 空間的, 季節的に不均一であることが知られている。そこで本研究では林床の光環境に最も影響を与えると思われる林冠構成樹種のリーフフェノロジーを調査し, 同時に測定した林床の光環境の季節変化との関係を比較した。調査林分で優占している樹種ごとの葉の開葉から落葉までの季節変化は, 経時的な観察と, 各樹種葉の採取によって得られた葉面積の季節変化から調べた。試験林内各点の光の量的変化は簡易積算フィルム日射計を用いて, 経時的, 定量的に測定した。その結果, 調査林の優占種のうちダケカンバとシラカンバのカンバ類は, ミズナラより開葉および落葉時期が数日早いことが明らかになった。また, 調査林内で優占樹種が異なる場所の間での相対日射量の季節変化に違いがみられた。すなわち開葉期にはカンバ類が優占する場所がミズナラが優占する場所よりも早く暗くなり, 落葉期では反対に早く明るくなった。これは林冠の優占樹種のリーフフェノロジーを反映していると思われた。開葉の完了した夏期においては, 優占樹種が異なっていても相対日射量の値に違いはみられなかった。以上より, 林床の光環境は優占する林冠構成樹種のリーフフェノロジーの違いによって, 春期と秋期に影響を受けていると考えられた。
著者
越智 鬼志夫
出版者
THE JAPANESE FORESTRY SOCIETY
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.7, pp.188-192, 1969

本報告は,マツ類を加害する穿孔性害虫である<i>Monochamus</i>属2種,すなわち,マツノマダラカミキリ<i>M.alternatus</i> HOPE, カラフトヒゲナガカミキリ<i>M. saltuarius</i> GEBLERについて,主として飼育によってえられた成虫の羽化脱出から産卵までの生態を比較対照して論じたものである。<br> 1. 成虫の羽化脱出は,カラフトヒゲナガカミキリが4月中旬~5月上旬,マツノマダラカミキリは6月上旬~7月下旬であった。<br> 2. 後食は両種とも羽化脱出後,マッ類の芽や新条,古い枝の樹皮などで行なわれるが,マツノマダラカミキリのほうが古い枝などの樹皮を多く食べる。<br> 3. 後食を行ない,生殖器官の成熟が完了した成虫は,羽化脱出後3週間前後で産卵をはじめる。産卵は,樹皮をかじってかみ傷をつけた白色の内樹皮の間に行なわれる。<br> 4. 産卵期間は,マツノマダラカミキリが約2ヵ月,カラフトヒゲナガカミキリが約1ヵ月である。<br> 5. 1雌当たりの卵数は,卵巣小管の数では両種とも平均で21.7であったが,産卵数はマツノマダヲカミキ9が59~184, カラフトヒゲナガカミキリでは44~122であった。<br> 6. 卵期間は, 5~lO日であった。
著者
黒田 慶子 伊藤 進一郎
出版者
日本林學會
雑誌
日本林学会誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.74, no.5, pp.p383-389, 1992-09
被引用文献数
5

マツノザイセンチュウ以外の微生物がマツの萎凋に関わる可能性があるかどうか, 接種した線虫の樹幹内分布や木部の通水阻害開始時期と糸状菌や細菌の検出状況とを比較しながら検討した。クロマツに接種した線虫は, 150cm/日と非常に速く接種枝から樹幹の上下方向に移動した。最初の病徴, つまり仮道管のキャビテーションによる通水阻害の出現は, 線虫接種の1週間後であった。それに対してマツ組織に分布する微生物は, 線虫接種後4週間は健全木と同様であり, Pestalotiopsis spp., Nigrospora spp., Cladosporium spp., Phomopsis spp., 細菌類がごく低率で検出された。発病に先立つ菌相の変化はなかった。また, 線虫の培養に用いたBotrytis cinereaは検出されなかった。接種5週後に, 青変菌Ceratocystis sp.が初めて検出され細菌類の検出率が上昇するなど, 菌相に変化が現われた。しかしこの時期以前に, すでに樹幹全体で通水阻害が進行し, 形成層の壊死が開始していた。これらの結果から, 接種したマツノザイセンチュウは単独でクロマツに萎凋を起こすことができ, クロマツ木部から検出されたCeratocystis sp.その他の糸状菌や細菌類はマツ材線虫病の発病および病徴進展に関与していないものと判断された。
著者
小林 享夫 佐々木 克彦 真宮 靖治
出版者
日本林學會
雑誌
日本林学会誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.6, pp.p184-193, 1975-06
被引用文献数
2

マツ健全木の幹からPestalotia, Papularia, Trichodermaが, 枝からPestalotiaとRhizosphaeraが, 健全苗木の茎枝からRhizosphaera, Pestalotia, Cladosporiumが検出され, 材中における糸状菌の潜在が示唆された。線虫の加害によりマツが異常・枯死を起こすと樹体内の糸状菌相は急激に変化し, 枝幹上部にはCeratocystis, Diplodia, Macrophomaが, 幹下部の辺材部にはVerticicladiellaが優占し, 細菌も一時的に異常に増加する。健全木の糸状菌の中ではPestalotiaとRhizosphaeraが線虫増殖に好適でマツ樹体内で線虫の食餌の一つとして役立ちうることが示された。マツが異常を起こしてのちの材中での線虫の増殖にはCeratocystisとDiplodiaが好適である。Ceratosystisは線虫とマツノマダラカミキリ両者の共存関係にもう一つ加わり三者で共存関係を形成することが示唆された。晩秋から早春に異常枯死を起こすマツからはマツノザイセンチュウは検出されず, 材中から糸状菌Amylostereumが優占的に検出され, キパチ類との関連性やマツへの加害性など, 線虫によらない枯損原因の一つとして検討の必要性が示された。
著者
小林 享夫 佐々木 克彦 真宮 靖治
出版者
日本林學會
雑誌
日本林学会誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.136-145, 1974-04
被引用文献数
4

マツノザイセンチュウの生活環の中で, 糸状菌のかかわり合う程度とその役割を明らかにするため, 幾つかの分離・培養実験を行った。えられた結果は次のとおりである。1)マツノザイセンチュウがマツ樹冠の後食枝に侵入してから翌春マツノマダラカミキリによって運び出されるまでの間の, いろいろな時期に検出される糸状菌相には, それぞれ特徴が認められた。2)マツノザイセンチュウの侵入場所である健全木樹冠の枝の後食部では, Ceratocystis, Pestalotia, Alternaria, Cladosporium, Rhizosphaera, Colletotrichumが主として検出され, 針葉に葉枯性の病気を起す菌類がかなりの頻度を占めることと3)4)で高い検出率を示すVerticicladiellaが全く検出されないことが特徴的である。3)マツが枯れたあと線虫の生息場所である幹の材中では, RhizosphaeraやColletotrichum等の葉枯性病菌は検出されず, Ceratocystis, Pestalotia, Alternariaに加えてVerticicladiella, Diplodia, Fusariumが主な糸状菌となる。またTrichodermaやPenicilliumによる汚染もかなり認められる。4)マツノザイセンチュウが集中してくるマツノマダラカミキリ蛹室壁面からは, Ceratocystis, Verticicladiellaが主として検出され, とくに前者は蛹室壁の表面に多量の子のう殻を形成, しばしば黒色じゅうたん状を呈する。カミキリ幼虫の不在の孔道や蛹室ではTrichodermaの汚染の多い傾向がある。5)線虫の伝播者である羽化脱出したカミキリ成虫体からは, Ceratocystis, Aliernaria, Pestalotia, Diplodiaが主として検出され, とくにCeratocystisはマツノザイセンチュウと同様に, もっぱらこのカミキリによってマツからマツへと伝播されるものと思われる。6)これらの各種糸状菌のうち, Diplodia, Pestalotia, Ceratocystis, Verticicladiella, Fusariumの菌そう上で, 線虫は菌糸を食餌として良く増殖する。これに反して, Trichoderma, Cephalosporium, Alternariaの菌そう上では, 線虫は全くあるいはほとんど増殖せず, これらの菌糸を餌として利用できない。7)マツの材組織を円板あるいはおが屑にして殺菌し線虫を接種したが線虫は全く増殖できなかった。これらの実験結果から, マツが樹脂浸出の停止を起してからの樹体内におけるマツノザイセンチュウの増殖に際しては, 樹体内にまん延繁殖した糸状菌を食餌として利用しているものと推測される。Ceratocysits, Pestalotia, Diplodia, Verticicladiella, Fusarium等が線虫の増殖に好適な糸状菌であり, 線虫は材中でこれらの菌類を選択することなく餌として利用するのであろう。逆にTrichodermaやCephalosporiumが優占した材中では, 線虫の増殖はほとんど行われないものと考えられる。
著者
倉田 益二郎
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.32-34, 1949-02-28
被引用文献数
4

1) Introduction : The new theory on natural regeneration of forest by the prevention of bacterial injury dealt with in this treatise, is a hypothesis established on the supposition that, if the bacterial injury or damping-off is prevented, seeds and seedlings will sprout and grow well and lead to the luxury and growth of forest, in the meanwhile, if they suffer the injury of bacteria for lack of the prevention, they will not sprout and results in the ruin of forest in next generation. 2) Outline of Existing Theories on Natural Regeneration : No established theory seems to have been advanced yet on the cause for the formation of natural forest. There are, however, two theories, positive and negative. The positive one asserts the possibility of regeneration of forest by human power, the negative one insits upon the difficulty of artificial regeneration. Recently Dr, Yataro Sato has succeeded in his test on"Sugi"(Cryptomeria japonica. D. DON). Besides this, there are some other instances of success. 3) Result of Experiment : Dr. Hasegawa and others pointed out that the majority of the seedlings sprouting from the numerous seeds which fall in natural forests, perish through the infection of microbes. I, the researcher, ascertained this fact in a wood of"Kiri"(Paulownia tomentosa. STEUD.) first of all. As for the particulars, I refer to"The Journal of the Japanese Forestry Society". To sum up, I found that the seedling of Kiri thrives in such places as the burnt spot, the old seat of charcoal kiln, the moss-grown spot, the spot under eaves, the earthen wall, the straw thatched roof, the tile roof, the stony place, the railway track, the cleared spot in the wood, the reclaimed ground, etc. where anthracnose, the dreadful enemy of the young seedling can be avoided. The experiment on"Himeyashabushi"(Alnus firma. SIED. et ZUCC. var. Sieboldiana. WINKL.) proved the following facts ; a. Fusarium. bacteria kill the young seedling. b. The rainy weather and wet place are hot beds of diseases. The experiments on"Akamatsu"(Pinus densiflora SIED. et ZUCC.) and"Sugi"proved the following facts : a. Fusarium bacteria kill the young seedling. b. Diseases seldom break out in the clayey or the dry zones. c. Bacteria, though scattered, often fail to cause diseases in the clayey zone. d. Rain and humidity help the prevalence of diseases. e. In the sterilized or bacteria-proof zone, no seedling dies from want of sunlight even at a very dark place. 4) Disease Endurance and Shade Endurance : It seems that the"intolerant tree"is an appellation for the specie with weak endurance against diseases, while the"tolerant tree"is an appellation for"one with strong endurance against them". The seedling can easily avoid the bacterial injury at a place which is unfavourable or almost unfit for the breeding of bacteria such as the dry slope or hill top, the sterilc soil containing little humus, the sunny place, etc. But at a place of the opposite condition it falls a easy victim to the bacterial injury. It seems to me that the species with the above property is called"intolerant tree"or"one with weak shade endurance", while the another specie which can thrive under the same conditions enduring against diseases, is called the"tolerant tree"one with strong shade endurance."5) Cause for the Formation of Natural Forest : The natural forest may have deen formed as the result of various requisites having been met. The most important factor among these requisites is the prevention of bacterial injury from the seedling. If the seedling suffers the bacterial injury no forest will come into existence no matter how favourable other circumstances may be. "Akamatsu"is the weakest against the bacterial injury, but it regenerates well in the burnt place, the sterile soil, the spot of land slide, the hilltop, etc. "Sugi"is a little stronger than Akamatsu against diseases, but it is believed that it can thrive well in the above mentioned places where the bacterial injury can easily b
著者
斉藤 正一 中村 人史 三浦 直美 三河 孝一 小野瀬 浩司
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.83, no.1, pp.58-61, 2001-02-16
被引用文献数
4

山形県内のナラ類の集団枯損被害地で, カシノナガキクイムシの脱出状況と被害木の枯死経過を6年間調査し, カシノナガキクイムシと枯死に関与する特定の菌類(仮称ナラ菌)の動態に関する試験を行って, これらの相互関係を検討した。カシノナガキクイムシは, 6月下旬に短期間かつ大量に羽化脱出し健全木に穿入して, 8月上旬に被害木は枯死することが確認された。また, 羽化脱出初期の時期と枯死に関する時間的経過との間には有意な関係が見出された。ナラ菌伝搬に関する実験と時期別のナラ菌の接種試験の結果から, カシノナガキクイムシは枯死に関与するナラ菌を樹幹内に伝搬し, 羽化脱出初期の時期と同様の接種時期にのみ枯死が発生したことから, ナラ類の枯死経過には, カシノナガキクイムシの穿入と伝搬されたナラ菌の樹幹内での動態が関連することが強く示唆された。
著者
伊藤 進一郎 窪野 高徳 佐橋 憲生 山田 利博
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.80, no.3, pp.170-175, 1998-08-16
被引用文献数
18

1980年以降, 日本海側の各地において, ナラ類(コナラとミズナラ)の集団的な枯死が発生して問題となっている。枯死木には, 例外なくカシノナガキクイムシの穿入が認められるのが共通した現象である。このナガキクイムシは, 一般的には衰弱木や枯死木に加害するとされており, 枯死原因は現在まだ明らかでない。この被害に菌類が関与している可能性を検討するため, 野外での菌害調査と被害木から病原微生物の分離試験を行った。被害発生地における調査では, 枯死木の樹皮上にCryphonectoria sp.の子実体が多数形成されているのが観察された。しかしながら, 日本海側の6県にわたる調査地に共通する他の病害, 例えばならたけ病や葉枯・枝枯性病害の発生は観察されなかった。そこで, 枯死木やカシノナガキクイムシが穿入している被害木から病原微生物の分離試験を行った。その結果, 変色材部, 壊死した内樹皮, 孔道壁から褐色の未同定菌(ナラ菌と仮称)が高率で分離されることが明らかとなった。この菌は, 各地の被害地から採集した枯死木からも優占的に分離されることがわかった。また本菌は, カシノナガキクイムシ幼虫, 成虫体表や雌成虫の胞子貯蔵器官からも分離された。分離菌を用いたミズナラに対する接種試験の結果, ナラ菌の接種において枯死したのに対し, 他の処理では枯死は認められなかった。これらの結果から, この未同定菌は, ナラ類集団枯損被害に深く関与しているものと判断した。本菌は, 母細胞に形成された孔口から出芽的(Blastic)に形成されるポロ(Polo)型分生子を持つことがわかったが, 現在その所属については検討中である。
著者
大宜見 朝栄 久保 芳文 樋口 浩 瀧川 雄一
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.72, no.1, pp.17-22, 1990-01-01
被引用文献数
3

沖縄, 鹿児島, 宮崎および高知県内のヒメユズリハの幹, 枝にこぶ(癌腫)を形成する新しい細菌による病害が発見された。こぶの大きさは, 小豆大から拳大で, こぶの表層は淡褐色ないし黒褐色で, 不規則な割裂を伴い粗造である。こぶ形成後の病徴の進展は, 枝幹をほぼ水平方向に巻く傾向がうかがわれた。こぶ組織から分離された病原細菌の細菌学的性質は, 木本植物にこぶ形成能のあるPseudomonas syringae VAN HALL の既知病原型にきわめて類似していた。しかし, 本菌はヒメユズリハにのみ病原性を有し, 宿主範囲が他の病原型とは明瞭に異なった。これらの結果からヒメユズリハのこぶ病菌をPseudomonas syringae pv. daphniphylli pv. nov. と命名し, 病名を新たにヒメユズリハこぶ病Bacterialgalldiseaseofhimeyuzuriha(Daphniphyllum teijsmanni ZOLL.)と呼称することを提案した。本菌のpathotype strainとしてDAT 1 (ATCC49211,NCPPB3617,1CMP 9757)を指定した。
著者
安藤 愛次
出版者
THE JAPANESE FORESTRY SOCIETY
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.7, pp.265-268, 1960

6月から8月にかけて, 5日ごとにニホンギリの伸びをはかり,そのときの気象条件との相関性をしらべた。くらべた気象の因子は貝平均気温,最高,最低気湿,降水量および雲量とである。<br> 相関関係のみとめられた因子は気温,ことに平均,最高気温であり,キリの伸びと降水量および雲量との相関性はみとめられなかつた。伸びの量と気温との回帰式から,この地方の台切りしたキリの上長生長において,貝平均の気温が1°Cたかいときには13cmおおくのびて2.6mとなることが推定された。
著者
鈴木 正 長島 善次 内山 正昭
出版者
THE JAPANESE FORESTRY SOCIETY
雑誌
日本林学会誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.5, pp.180-183, 1959-05-25 (Released:2008-12-18)
参考文献数
9

(1)植付後12カ月経過のワサビ(品種ダルマ)を葉,葉柄,根茎,根の4部に分けて4~8までの月別の無機成分変化をしらべた。 (2)窒素含有率は特に葉に多く,葉柄が最も少なく,株全体として3.05%で時期別変化は少ない。しかし4月と7月の葉,葉柄の生長期には,この部分に多い。 (3)燐酸含有率は三要素中最も少なく,葉に最大で根は最小,株全体として0.60%で,6月が最も低く変化は少ない。 (4)加里含有率は窒素に次いで多いが,葉に最も多く根茎,根はほかの部分に比べて特に少ない。株全体として2.65%で,葉,葉柄における変化は特にワサビの生育と関係深く, 5月と8月に高く7月に低い起伏に富む曲線を示している。 (5)株全体の三要素含有率は,窒素>加里>燐酸の順で燐酸を1とすれば窒素5,加里4の割合となり,加里の時期別変化は葉,葉柄の含有率変化に影響される。(6)総じて葉の養分含有率は特に高い。 (7)三要素含有量は6>5>8>7>4の順に多い。 (8)三要素含有量は試料重量に,含有率は生育時期に深い関係がある。
著者
野手 啓行 沖津 進 百原 新
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.81, no.3, pp.236-244, 1999-08-16
被引用文献数
2

ヤツガタケトウヒとヒメバラモミの生育立地の特性を, それらと混生する樹種の立地と比較することにより明らかにした。赤石山脈北西部巫女淵山中(標高1,300〜1,800m)の64地点で, 四分法調査, 斜面傾斜と露岩被度の計測, 実生調査を行った。64地点全体における胸高断面積合計比ではコメツガが25%で最も優占し, ウラジロモミが続いた。ヤツガタケトウヒとヒメバラモミは, いずれも14%程度を占めるにすぎず, 分布が斜面傾斜36°以上, 露岩被度31%以上の岩塊急斜面にほぼ限られた。これに対し, コメツガの分布は斜面傾斜, 露岩被度に関係なく一様であった。ウラジロモミは露岩被度20%以下の腐植土が被覆する立地に集中した。一方, 実生についてみると, ヤツガタケトウヒとヒメバラモミは母樹周辺の露岩面上に集中した。コメツガは腐朽倒木・根株上に, ウラジロモミは腐植土面上にそれぞれ多かった。以上より, ヤツガタケトウヒとヒメバラモミは, 種子散布が母樹周辺に限られることと実生の定着が露岩面上にほぼ限られることによって, 岩塊急斜面以外の地形では個体群の維持が困難であると考えられた。
著者
恩田 裕一 湯川 典子
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.77, no.5, pp.399-407, 1995-09-01
被引用文献数
22

われわれは第1報において,ヒノキ林において下層植生の失われたところではクラストがあり,浸透能が低いことを示した。そこで,室内実験において,下層植生のクラスト形成抑止効果に関する実験を試みた。実験材料は現場A層(鈴鹿山地の花崗岩土壌および古生層土壌)を4mmの篩でふるったものを用い,28.5cm×17.0cm×14.0cmの容器にさまざまな植生を植えて降雨実験を行った。その結果,花崗岩土壌では,被度と浸透能の相関が高いことがわかった。一方, 古生層土壌では, 被度と浸透能の相関は低いが,それぞれの植生の葉面積と浸透能の関係には高い相関が認められた。中古生層土壌の方が団粒百分率が大きく,クラストが形成されやすいと考えられることから,雨滴エネルギーを抑止しクラスト形成を妨げる効果は,被度により支配されるが,葉の面積が大きいほど効果的であることがわかった。
著者
湯川 典子 恩田 裕一
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.77, no.3, pp.224-231, 1995-05-01
被引用文献数
33

下層植生が失われた林地における浸透能の低下の現状と原因を明らかにするために、三重県の鈴鹿山地の下層植生の被覆状態がさまざまなヒノキ林において、土壌の浸透能と土壌物理性の測定を行った。浸透能測定には、雨滴衝撃の少ない散水型浸透計を使用した。測定から、下層植生が失われた林分は、下層植生の繁茂する林分と比較して浸透能が低く、粗孔隙率が高いという結果を得た。また、林床の裸地化したヒノキ林では、土壌硬度が高く浸透能が低い特徴をもった乾燥した皮膜が観察された。この皮膜は、雨滴衝撃による団粒構造の破壊によってできるクラストであると考えられた。以上のことから、下層植生の失われた林地においては、粗孔隙率よりクラストの有無が浸透能に影響を与えることが推察された。
著者
佐藤 邦彦 太田 昇 庄司 次男
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.37, no.12, pp.533-537, 1955-12-25

MH-30の葉面撒布はスギ苗の秋伸び抑制にきわめて有効であり, 0.12%の濃度では根切りによると同じ程度の効果があり, とくに根切りとの併用はきわめて効果が大きかつた。MH-30によつて成長抑制を行つた苗は初霜の被害がきわめて少なく, 根切り区よりもまさつた。塩素酸カリ溶液による耐寒性の検定結果は, 圃場における結果と一致しなかつた。Botrytis cinereaとSclerotinia Kitajimanaの接種試験結果は, 霜害の発生とほぼ同じ傾向を示し, 処理苗はいちじるしく罹病が少なかつた。処理苗の圃場における越冬中の灰色黴病の発生についてもMH-30の処理はきわめて防除効果があり, とくに根切りとの併用区がいちじるしく, また根切りも効果が大きかつた。MH-30はB. cinerea, S. KitajimanaおよびRhizoctonia solaniの菌糸の発育とB. cinereaの胞子の発芽を阻害する。MH-30の処理苗は翌春成長開始期になると, 一且苗の先端が枯れて新に不定芽を生じて成長を開始する。しかし枯損率には有意差が認められない。
著者
大石 康彦 金濱 聖子 比屋根 哲 田口 春孝
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.85, no.1, pp.70-77, 2003-02-16
被引用文献数
14

日林誌85:70〜77,2003 森林環境のイメージと気分を比較検討することを目的に,5種類の森林と対照区(森林外)で実験を行った。各実験区においては被験者(n=44)に10分間の自由行動を与えた後にPOMSおよびSD法により評価させ,最後に5種類の森林を順位付けさせた。POMSの結果,活気を除く5尺度(緊張,抑うつ,怒り,疲労,混乱)に森林外と各実験区の間に有意差が認められたが,5実験区相互の間では一部を除き有意差が認められなかった。SD法の結果,価値因子,空間因子が認められた。価値因子においては,2区が最高,1区が最低の評価を得た。空間因子においては,1区が最も開放的な評価を得,4区が最も閉鎖的な評価を得た。好みの順位は2区-5区-4区-3区-1区であった。POMS尺度,SD法因子,好みの順位の結果からSpiamanの順位相関係数を求めた。POMSの活気尺度と好みの順位の間にプラスの相関が,疲労尺度と好みの順位の間にマイナスの相関が認められた。