著者
川合 泰代
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.188-198, 2016-09-30 (Released:2016-10-11)
参考文献数
3

現在の日本の地理学は,近代以降の欧米思想の導入に基づき成り立っている.一方,それ以前の日本では,中国に源を発する思想が,日本の思想や文化の根幹を形成していた.それは,「道」の思想であり,陰陽五行の思想である.近世までの日本人の聖地信仰も,この思想に基づいていたと考えられる.本稿ではまず,「道」や陰陽五行の思想と,陰陽五行に基づく干支の意味を説明した.そして,干支を用いた時間と空間の概念を説明した.その後,近世江戸の富士講による富士信仰を,庚申という干支を用いて読み解いた.本稿は,近世までの日本人が生きていた時間・空間感覚の再考を提案するものである.
著者
小長谷 有紀
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.34-42, 2007 (Released:2010-06-02)
参考文献数
17
被引用文献数
2

モンゴル牧畜システムは移動性が高いという特徴に加えて,多くのオスを維持し,多種の家畜を多角的に利用するという特徴を有しており,自然環境のみならず,社会環境にも適応的であった.それは単なる生存経済ではなく,軍事産業であり情報産業でもあった.20世紀になると社会主義的近代化のもとで脱軍事化すなわち畜産業化が進行した.市場経済へ移行してからは,牧畜に従事する人々すなわち遊牧民の間で地域格差と世帯格差が拡大している.今日,遊牧民たちは必ずしも自然環境だけではなく,むしろ社会環境に対して積極的に適応して移動している.
著者
松宮 邑子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.378-403, 2019 (Released:2019-11-27)
参考文献数
24

ウランバートルでは,体制移行後の人口増加を背景にゲル地区が拡大した.本稿では,ゲル地区の居住環境を改善すべく立案された再開発事業を焦点に,それが遅々として進まない実態と,計画に翻弄される人々の姿を描き出した.ゲル地区はインフラ設備の欠如によって開発の必要性が叫ばれ,アパート化による居住環境の改善が図られている.しかし再開発事業は,実現への具体的な道筋が不明確であるがゆえに期待通りに進展していない.そればかりかゲル地区で従来から実践されてきた居住者自身の手による居住環境の改善を阻害している.一部のアパートは竣工し,入居者は生活の利便性が向上したと評価する半面,ゲル地区ならではの住まい方が継続できない困難も指摘する.ゲル地区のアパート地区への置換や短期間でのインフラ整備が現実的でない中,居住者が元来発揮してきた内発的な居住環境改善の実践を正当に評価し,下支えすることで活用できるような方策の模索が望まれる.
著者
崎田 誠志郎
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.439-451, 2018 (Released:2018-10-04)
参考文献数
24
被引用文献数
2

ギリシャの水産物流通をめぐっては,漁業経営の小規模性や,長大な海岸線と多くの島嶼から成る国土の地理的特徴により,流通システムの断片化やインフラ整備の遅れが生じている.本稿では,ギリシャにおける水産物流通の現状を把握するため,各地の水産物が集積する首都アテネの水産物市場に着目し,流通水産物の内容や鮮魚店の経営形態,水産物の流通経路などについて報告する.調査の結果,アテネ市内において計42科60種の水産物の取扱いを確認した.産地は国内の広範囲にわたっており,海外からの輸入水産物も多くみられた.水産物は大半がアテネ近郊のケラツィニ港を経由していたが,鮮魚店によっては個別に流通ルートを有していた.市場における取扱水産物の傾向と多様性には,生産現場における漁獲魚種・漁法の多様性だけでなく,産地の広がり,鮮魚店の経営戦略,国内経済の動向,ギリシャ社会の文化・宗教的側面などが反映されていた.
著者
荒木 一視
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.239-267, 2014 (Released:2015-03-31)
参考文献数
228
被引用文献数
2 2

明治期以降の日本の食料供給を,穀物の海外依存に着目して検討するとともに,それに対する地理学研究を振り返った.食料の海外依存は最近始まったことではなく,明治中期以来,第二次大戦にかけても相当量を海外に依存していた.それに応じ1940年代まで,食料は地理学研究の1つの主要な対象で,農業生産だけではなく多くの食料需給についての論考が展開されていた.戦時期の議論には,問題のある展開も認められるが,食料供給に関する高い関心が存在していたことは事実である.しかし,その後の地理学においてこれらの成果が顧みられることは無く,今日に至るまで食料への関心は希薄で,研究の重心は国内の農業に収束していった.明治期以降もっとも海外への依存を高めている今日の食料需給を鑑みるに,当時の状況と地理学研究を振り返ることは,有効な含意を持つと考える.
著者
大石 太郎
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.12-29, 2017 (Released:2017-06-09)
参考文献数
19

2017年に連邦結成150周年を迎えるカナダは,英語とフランス語を公用語とする二言語国家として知られるが,その実態は複雑であり,必ずしも正確に理解されていない.そこで本稿では,言語景観と二言語話者人口に注目し,カナダの二言語主義の現状と課題を現地調査と国勢調査に基づいて解説する.カナダでは1969年に制定された公用語法により,連邦政府の施設は二言語で表記され,二言語でサービスを提供することになっている.一方で,各州の行政はそれぞれの法令に基づいている.したがって,同じ場所に立地していても,連邦と州の施設では用いられている言語が異なる場合がある.また,英語圏の大都市において二言語話者人口の割合が非都市地域よりもやや高い傾向がみられるものの,ケベック州をはじめとするフランス語を母語とする人口の割合が高い地域において,二言語話者人口の割合が高い傾向はあまり変わっていない.
著者
吉田 容子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.22-29, 2006 (Released:2010-06-02)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

男性による女性支配システムの構造解明や,そこに発生する権力関係のあぶり出しを目指すジェンダー研究は,いまや多様な学問領域に浸透している.地理学においても,1970年代に入ると,英語圏の女性研究者たちの間から,従来の地理学研究が男性中心主義に偏ったものであるとする批判がなされるとともに,空間に刻まれた男女の非対称の権力関係,すなわちジェンダー関係をあぶり出す作業が行われるようになった.本稿ではまず,英語圏を中心としたジェンダー研究の展開を整理する.次に,日本の地理学におけるこの方面の研究をもとに,これまでの到達点を明らかにする.さらに,個人レベルの男女間に潜む権力関係に着目し,それがより大きな権力関係へと転化され空間に刻まれ,そして,またそれが,空間に映し出されていることを示すため,二つの事例をあげる.一つは,大都市圏郊外につくられた「監視空間」ともいうべき住宅地におけるジェンダー関係であり,もう一つは,1950年代に軍事基地の建設が本格化した沖縄で,米兵相手につくられた特飲街にみられるジェンダー関係である.
著者
荒木 俊之
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.105-115, 2019 (Released:2019-03-20)
参考文献数
4
被引用文献数
1

本稿では,大阪府北部地域における7市(豊中市,池田市,吹田市,高槻市,茨木市,箕面市,摂津市)の地域防災計画を取り上げて,自然的,社会経済的な視点からみた地域特性が,予防対策や応急対策などの災害対策,被害想定や対策を行う想定地震などに考慮され,目次構成や想定災害に示されているかどうかを検討した.7市では,災害応急対策,中でも,事故災害に対する対策,そして,対策を行う想定地震に相違がみられた.想定地震の相違は,各市が想定する際の考え方の違いによるものであり,自然災害に対しては,自然的な視点からみた地域特性を踏まえて項目立てされている.事故災害に対する対策では,社会経済的な視点から類似性のある地域特性を有していても,各市の判断により,地域特性を考慮した項目立てがなされない場合がみられた.
著者
大石 太郎
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.18-24, 2015 (Released:2015-06-25)
参考文献数
26
被引用文献数
2

近年,欧米諸国において国勢調査(センサス)の調査方法の転換が進んでいる.本稿では,カナダの2011年国勢調査における詳細調査票の廃止とその影響を解説することを目的とする.カナダ政府は2010年6月,プライバシー保護を理由に,それまで回答が義務づけられていた詳細調査票の廃止を決定した.それに代わって導入された全国世帯調査は回答が任意であり,回収率はカナダ全土で68.6%にとどまった.したがって標本に偏りがある可能性が高く,データの質は従来よりも低下し,時系列的変化の分析も不可能になった.
著者
渡辺 真人
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.4-12, 2014-03-31 (Released:2014-04-23)
参考文献数
16
被引用文献数
6 7

日本の各地にジオパークの活動が広まった経緯について解説し,ジオパーク活動のこれまでの成果と問題点について解説した.日本のジオパークでは,地形・地質遺産の保全に関する意識の向上や,地元の子供たちへのジオサイトを利用した野外教育の振興,教育旅行を含むジオツーリズムが徐々に盛んになるなどの成果が出始めている.一方で,ジオパークの主要なコンテンツである地球科学的なストーリーの構築に関する問題など,さまざまな課題も山積している.それらの課題を解決していくためには,日本ジオパークネットワークを通じたジオパーク間の交流,日本ジオパーク委員会の再認定審査などを通じて,各ジオパークが自らの問題に気付き,自己修正していくことが重要である.
著者
林 紀代美
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.130-151, 2019 (Released:2019-04-13)
参考文献数
26

本研究は,岐阜県飛騨地域において,ブリ・サケの消費動向と,年末の伝統的風習「年取り」で用いられる年取魚としてのブリに関する人々の消費実態やそれへの認識について明らかにする.アンケート調査によると,日常の食事では,ブリよりもサケを食べる頻度が高い人が多い.しかし,ブリの摂食頻度は20年程前に比べても維持している人が多い.産地に対する人々の関心,認知も高い.年取魚としてのブリ消費の習慣を多くの人々が知っていて,かつそれを実行していた.多くの人が年末にブリを食べることが地域の食文化として重要と考え,年取魚ブリは日本海産であることを望み,伝統的形態からの変更(減塩での製造や切り身での販売)があっても「年取り」に用いる品として妥当と考えていた.
著者
池 俊介
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.359-366, 2018 (Released:2018-06-12)
参考文献数
4
著者
金子 直樹
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.244-264, 2016-09-30 (Released:2016-10-11)
参考文献数
68

本稿は岩木山信仰の伝播について,主にそれに関与した主体,および北海道における状況を,先学が明らかにした信仰圏モデルと関連づけて検討した.岩木山信仰は,ナイーブな自然崇拝的な特徴を有している一方,近世の津軽藩による別当百澤寺の庇護や津軽総鎮守化などの政治的影響力も指摘されてきた.このため,岩木山の信仰圏は津軽地方に意図的に限定され,百澤寺も信仰を組織的に拡大させる活動には消極的であった.しかし,津軽藩による管理が廃絶した明治以降,カミサマと称される宗教者,および非組織的であった民衆が,新たに信仰を広める主体となった.そして彼らの一部は,移住先の北海道において,岩木山系神社の建立という形式で,岩木山信仰を従来の信仰圏と考えられていた津軽地方を越えて,北海道に伝播させた.しかし,岩木山信仰の非組織的という特徴のため,こうした動きは長期的には持続せず,信仰の伝播という点では限定的な動きにとどまっている.
著者
鎌倉 夏来 松原 宏
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.37-64, 2014 (Released:2014-11-29)
参考文献数
37
被引用文献数
1

本稿の目的は,工業統計メッシュデータの地図化を通して,広域関東圏における産業集積地域の特徴と変化を明らかにし,産業集積政策の意義と課題を検討することにある.工場密度や従業者密度をもとに,広域関東圏におけるメッシュ分布図を作成したところ,主要な産業集積地域を摘出することができた.それらの多くは,「地域産業集積活性化法」の基盤的技術産業集積地域と重なっており, 各地域のメッシュ分布図および変化の大きな個別メッシュを分析したところ,以下の点が明らかになった.①工場密度の分布から集積地域の中心が同定されるが,出荷額の伸びが大きいメッシュは,工業団地や大規模事業所の立地の影響により分散的で,集積地域の中心とは乖離する傾向を示す.②集積地域間で工場密度や従業者密度の構成比が類似する組み合わせが存在する.③成長メッシュには大規模事業所が関わっており,大手企業の立地調整を踏まえた産業集積のあり方を考えていく必要がある.
著者
林 紀代美
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.96-118, 2013 (Released:2013-09-13)
参考文献数
50
被引用文献数
1 2

本研究は,沖縄県を対象として,当該地域の漁業活動で対象とされていない魚種の流通・消費を取り上げて,地域の食卓への普及過程とその背景,販売・消費活動の展開や地域的特徴を明らかにすることを目的とする.遠洋漁業用餌のサンマの一部が1950年代末から食用に転用され,1960年代には琉球の業者が食用商材を本土から集荷を開始していた.日本への復帰を契機に,本土の業者も流通に参入し,本格的にサンマ商材が扱われるようになった.今日では生・生鮮品の販売も普及している.沖縄の食習慣や社会・経済的条件の影響を受けて,本土とは異なるサンマの販売形態や調理・消費動向が確認された.
著者
松多 信尚 杉戸 信彦 後藤 秀昭 石黒 聡士 中田 高 渡辺 満久 宇根 寛 田村 賢哉 熊原 康博 堀 和明 廣内 大助 海津 正倫 碓井 照子 鈴木 康弘
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.214-224, 2012-12-31 (Released:2013-01-31)
参考文献数
26
被引用文献数
2 4

広域災害のマッピングは災害直後の日本地理学会の貢献のあり方のひとつとして重要である.日本地理学会災害対応本部は2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震直後に空中写真の詳細な実体視判読を行い,救援活動や復興計画の策定に資する津波被災マップを迅速に作成・公開した.このマップは実体視判読による津波の空間的挙動を考慮した精査,浸水範囲だけでなく激甚被災地域を特記,シームレスなweb公開を早期に実現した点に特徴があり,産学官民のさまざまな分野で利用された.作成を通じ得られた教訓は,(1)津波被災確認においては,地面が乾く前の被災直後の空中写真撮影の重要性と (2)クロスチェック可能な写真判読体制のほか,データ管理者・GIS数値情報化担当者・web掲載作業者間の役割分担の体制構築,地図情報の法的利用等,保証できる精度の範囲を超えた誤った情報利用が行われないようにするための対応体制の重要性である.
著者
岩間 信之 中島 美那子 浅川 達人 田中 耕市 佐々木 緑 駒木 伸比古 池田 真志 今井 具子 貝沼 恵美
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.170-185, 2023 (Released:2023-06-09)
参考文献数
61

本研究の目的は,外国人散在地域を事例に,外国にルーツのある子どもたちの成育環境と健康状態の関係を解明することにある.外国人労働者が増加する今日,外国人世帯の生活環境の改善は喫緊の課題である.中でも,外国人散在地域では,外国にルーツのある子どもたちの健全な成育環境の確保が難しいと推測される.そこで本研究では,外国人散在地域に該当する地方都市を事例に,3歳児健診データを分析した.その結果,成育環境の悪化がう蝕(虫歯)などの健康被害を誘引し得ることが明らかになった.特に,所得が低く社会的に孤立していると考えられる外国人世帯の子どもたちの間で,健康被害が顕著であった.一方,社会的統合の程度が高いと推測される世帯では,こうした傾向はみられなかった.社会的排除状態にある外国人世帯は,家族や社会から十分な支援を受けにくい.このことが子どもたちの成育環境を悪化させ,健康被害をもたらすと考えられる.
著者
蒋 宏偉 佐藤 廉也 横山 智 西本 太
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.324-338, 2023 (Released:2023-08-18)
参考文献数
15
被引用文献数
1

焼畑・漁労・狩猟・採集を生業としているラオス中部の少数民族マンコン集落において,雨季・乾季に分け,成人住民を中心とする生活時間配分調査を行い,主に(1)想起法によって収集した経時的な活動内容の記録,(2)GPSロガーによる生活活動空間情報の記録,および(3)身体活動に費やすエネルギーの加速度計による記録,の3つのデータを収集した.データの分析結果は,労働時間配分における成人男女の分業および男女活動範囲とその相違といった生活活動の時空間パターンを明らかにした.さらに,開発が急ピッチで進んでいるラオス中部地域に生活している焼畑農耕民の各種の生業間の時間配分のつり合いから対象地域の土地利用と生業の変化の解明に重要な手掛かりを提供した.
著者
小坪 将輝 中谷 友樹
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.112-122, 2022 (Released:2022-05-12)
参考文献数
35
被引用文献数
1

新型コロナウイルスのパンデミックが生じた2020年には,世界の多くの大都市で大規模な人口の転出が確認された.日本においても東京都からの転出の増加を含む人口移動パターンの変化が生じている.そこで東京大都市圏の中心となる東京都区部からの転出に着目して,その移動先の分布の変化にみられた特徴を分析した.結果として,移動者が増加した地域として東京大都市圏の郊外部と大都市圏外の北西部および南西部の地域が検出された.これらの地域の特徴と推定される移動者の年齢や職業の構成からは,新型コロナウイルスの流行が大都市圏都心部からのライフスタイル移住を促進したことが示唆された.
著者
田中 耕市
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.30-39, 2017 (Released:2017-06-09)
参考文献数
13
被引用文献数
1

本稿は,2015年に実施された「地域ブランド調査」を利用して,1,000市区町村を対象とした主観的評価に基づく地域の魅力度の構成要素とそのウェイトを明らかにした.はじめに,地域の魅力度に関わると考えられる同調査の75項目から,主成分分析によって13の主成分を導出した.次に,それらの13主成分を説明変数,市区町村の魅力度を被説明変数とする重回帰分析を行った結果,魅力度は11の構成要素から成り立っていた.それらのうち,魅力度におけるウェイトが最も高かったのは観光・レジャーであり,農林水産・食品,生活・買い物の利便性,歴史がそれに続くことが明らかになった.本稿で解明した地域の魅力度の構成要素とそのウェイトをもとに,客観的な地域の魅力度を評価することが可能となる.