著者
神原 正明
出版者
佐賀大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

本年度は主に具体的なデ-タを収集するため東京及び関西方面に調査に出かけた。作家の死因についてデ-タを整理するとともに、彼らの生活態度、及び作風に「結核」や「ガン」の影響がどういうかたちで現われるかに注目した。何か一貫性があるものと考えて結果を期待したが、作風の展開を決定するには様々な要因が複雑に重なりあっており、死に対する恐怖のみが、大きくクロ-ズアップされるとは限らず、作家の個性によって、思ったより多様な現われ方をするようだ。ことに現代は「死」に遭遇する様々な機会があり、「ガン」だけを特定するわけにはゆかず、多かれ少なかれ死に対する恐れは、日常生活の中で埋没しており、時折何らかの体験が引きがねになって顔を出す。中には常に死にこだわり続ける作家もいるが、それはむしろ特例といってよい。こうした現代の美術家についての個別的なデ-タ集めとあわせて、主に国会図書館や東京大学、京都大学など大学附属図書館で、時代そのものが、あるいは集団が死に向かう態度について研究した欧米の文献を調査した。その場合、美術作品をデ-タとして利用しているものも多く、ことに心理的に緊迫した時代に秀作が頻出する点は興味深い。そうした中で、中世末期ことに西暦1500年を前後した時期に「最後の審判」の主題とともに、多くの名作が生まれており、そこでは死に対する恐れが下敷きにされている。しかし重要なのは、実際の死よりも死に対する恐れの方が上まわったという点であり、そこに芸術作品の必要性が準備されたといえるようだ。様々な怪物が画面に現われるのもその時である。またそうした恐怖を笑いとばそうとした「阿呆船」というような諷刺的テ-マの出現も見のがせない。来年度はさらに「流行病」「地獄」「終末思想」といった死の恐れを喚起するこの時代の文脈を調査し、再度現代へと投げ返してみる計画である。
著者
大谷 貞夫
出版者
国学院大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

江戸幕府の直営牧は、下総国内に小金5牧と佐倉7牧が、安房国内に嶺岡5牧が、駿河国内に愛鷹3牧がそれぞれ存在していた。本研究は、これら20牧の管理にあたっていた諸役人のうち、下総国小金に在住した野馬奉行の綿貫氏、牧周辺部の農村に居住し、普段は農業を営み、牧の仕事に関連してのみ苗字帯刀御免の特権、扶持米や給金の支給を認められていた牧士について研究したものである。1 野馬奉行綿貫氏について:綿貫氏はその由緒書によると、慶長期に徳川家康によって召し出され、高30俵で野馬奉行に任命されたという。一方、三橋家文書の中の「従野馬始之野方万控」によると、同氏は元禄期に小金厩の書役となり、享保2年に同厩の馬預(5人扶持)、享保後半期から延享頃に野馬奉行(高30俵)に任命されたという。武鑑や島田家文書の「江戸5年々野馬捕御越候日記」の裏付けもあって、後者が正しいと結論付けられる。2 牧士について:牧士も野馬奉行と同様に家督相続に際して、由緒書を幕府に提出した。由緒書は宝暦5年に初めて提出されたものであり、近世前期の牧士の研究に、従来この由緒書をよく利用していたが、他の史料と比較し検討することが大切である。小金牧の場合元和5年には牧士が存在していたことは、「下総小金領馬売付帳」(染谷家文書)で明らかであるが、当時は苗字帯刀御免の特権はなかった。佐倉牧の場合、寛文6年に老中若年寄が連署し、代官関口作左衛門に与えた覚によって(島田家文書)、寛文元年の時点で島田長右衛門・藤崎半右衛門・佐瀬長左衛門・綿貫市左衛門の4名の牧士が存在していたことが明らかである。佐倉牧では当時から苗字帯刀御免であった。嶺岡牧の牧士石井氏の場合、安房の雄里見氏に仕えた厩の役人であった(石井家文書)。
著者
仁平 義明
出版者
東北大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

ハシボソガラス(Corvus corone)が自動車にクルミをひかせて割り、子葉部分を摂食する行動(車利用行動)の学習について研究を行なった。仙台市川内地区での連続的な観察からは、この行動には次のような要素についてバリエーションがあることが明らかになった:(1)クルミの性質と調達方法(花肉のついた青いクルミを木から直接とる、埋めて貯蔵しておいた核果だけのものを取り出すなど)、(2)クルミを道路にセットする方法(赤信号で停車した車の直前に出ていったクルミを置く、車の通りそうなルートへらかじめクルミを置く、など)、(3)場所、時刻、交通量などのいわゆるTPO条件、(4)待ち時間、(5)置き直しなどの修正行動など。こうした行動には同じ個体の中で柔軟な変化が見られることから、多項的な知識構造であるスキーマの学習がされたと考えた方がよいと思われた。また、認知心理学的なスキーマ論からは、車利用行動の学習についても、スキーマ形成のほかに、変数の制約範囲の変更や変数の付加などによる行動の効率化(チューニング)と、スキーマに基づく一回一回の行動の結果に関するデータ蓄積という下位の学習を区別すべきであると考えられた。さらに北海道、東北地域の広域的な質問紙調査からは、車利用行動は宮城県以外にもいくつかのみでみられる行動であることが確認された。また、その発生時期からは、ハシボソガラスの車利用行動は各県独立にしかも同じような時期に発生した行動であると考えた方がよいと思われた。
著者
寺林 伸明
出版者
北海道開拓記念館
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

1.満州拓殖政策の企画・立案・実施の経過、満蒙開拓青少年義勇軍の募集・訓練・入植・開拓営農の実施経過、および第一次義勇軍の創設から開拓団終焉にいたる経過等に関する基本文献・資料の収集をした。2.第一次鏡泊湖義勇隊開拓団の関係者団体、「鏡友会」会員192名に対して、応募の事情、訓練・開拓・営農の体験、従軍および敗戦後の現地収容あるいはシベリア抑留等の体験を聞いたうえで、現在どのように考えているかなど多角的にアンケート調査を実施した(8〜10月)。3.アンケートの実施結果は、回答数46(うち2名死去のため不明)、転居先不明10、無回答136で、有効回答数は44(22.9%)だった。なお、アンケート調査時に無回答だった2名については、その後の聞き取り調査で面談でき、回答がえられた。4.アンケート結果によって第二次の聞き取り調査をおこなうため、9〜10月に回答内容について仮集約作業をおこない、聞き取り対象者を抽出した。5.11月、兵庫県・長崎県在住の元1次義勇隊員と鏡泊学園関係者など、9名の聞き取り調査を実施した。あわせて、関係者から鏡泊学園の関係印刷物を収集した。6.2月、愛知県・千葉県・埼玉県在住の元1次義勇隊員・補充団員・農業指導員など、4名の聞き取り調査を実施した。あわせて、関係者から『満州開拓史』、鏡友会の『鏡泊の山河よ永久に』および会員有志の『賭けた青春』、満州国農事試験場関係者の文集等々を収集した。7.札幌郡広島町、上川郡愛別町在住者2名の聞き取り調査を実施した。
著者
村田 幸作 井上 善晴
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

C-P結合は、極めて強固な結合であり、化学的、熱化学的、あるいは、光化学的にこの結合を切断することは不可能に近い。酵素による切断が、現在期待できる唯一効果的な手段である。特に、C-P化合物が除草剤、殺虫剤、あるいは、抗カビ剤などとして多量に自然界に散布されている現状、および、食物連鎖を通じてこれらC-P化合物の生体への高濃度蓄積の懸念を考える時、微生物酵素によるC-P化合物の分解は重要な意味を持つ。そこで、C-P結合開裂酵素の実体を明らかにするため、C-P化合物を唯一のリン酸源として生育し、かつ、培地中に著量の無機リン酸を蓄積するバクテリアとしてEnterobacter aerogenesをスクリ-ニングした。E.aerogenes IFO 12010は、種々のC-P化合物(methylphosphonic acid,pherylphosphonic acid,phosphonoacetic acid)を唯一のリン酸源として生育し、培地中に無機リン酸を蓄積した。しかも、本菌の無細胞抽出液は種々のC-P化合物より無機リン酸を遊離する活性を示し、初めてC-P結合開裂酵素の無細胞系での証明に成功した。本酵素は、リン酸欠乏下で誘導合成されることにより、Phosphate Starvation Inducible(PSI)regulonに含まれる遺伝子にコ-ドされていると考えられた。本菌の抽出液を透析後、DEAE-celluloseとSephaclex G-150(voidに溶出される)で分画し、活性画文をTSK-HW65カラムでゲルロ過することにより、本菌には2種類のC-P結合開裂酵素(E1とE2)が存在し、その中の主要酵素であるE2はC-P結合開裂酵素活性の発現に2種類のタンパク質の共存を必要とすることを明らかにした。このように、E.aerogenes IFO 12010に初めてC-P結合開裂酵素活性を検出し、しかも、この酵素は活性発現に特殊なタンパク質構造をとることを明らかにした。有機化学的に殆んど不可能なC-P結合の開裂が酵素化学的に進行するというこの事実は、酵素の超化学的な機能を物語るものであり、我々の知らない化学反応がまだ残されていることを示唆した。
著者
吉村 学
出版者
京都府立医科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

血中のカテコラミンの約6割を占めるドーパミンは測定可能な遊離型が0.3%と微量(10-20pg/ml)であり、他は抱合型として存在することから臨床検査としてルチンに使用するのは難しかった。しかし、今回ジフェニルエチレンジアミン法を用いるHPLC法を開発して、ドーパミンを5pg/ml迄測定する系を確立した。健常者に於ける血中遊離型ドーパミン(以下ドーパミン)濃度は若年者で6.4±1.5pg/ml、高齢者で16.2±8.2pg/mlとなり、血中ノルアドレナリン濃度と同様に加齢の影響を認めた。臥位で低下し、座位及び立位で高値を示すことから、採血は臥位で行った。24時間に於ける血漿ドーパミン濃度は日内変動を示さなかったが、血漿ノルアドレナリン及びアドレナリン濃度は日内変動を示した。運動時の血漿ドーパミン濃度は等尺性運動では軽度の上昇を示したが、律動性運動では著明な高値を示した。その上昇は運動強度の増大と共に上昇し、好気性運動から嫌気性運動に移行する時点で急上昇した。血漿ドーパミン濃度と乳酸濃度とは有意の正相関を示したことから、ドーパミンは運動時の筋肉内循環に重要な役割を占める事が示唆された。各種疾病との関連では、本態性高血圧症患者で低値を示し、β遮断薬投与患者では更に低下した。原発性アルドステロン症や褐色細胞腫などの二次性高血圧症では血漿ドーパミン濃度が高値を示した。又心不全などの浮腫性疾患や甲状腺機能低下症でも上昇した。パーキンソン病や症候群でL-DOPA投与後の血中ドーパミン濃度は経時間内に上昇し、又、循環不全患者でドーパミン製薬投与中の症例では血中ドーパミン濃度が著増することから、薬物濃度のモニターとしても利用可能である。今後は各種疾患及び各種薬剤投与症例の血中ドーパミン濃度を測定して臨床検査的有用性を確認する予定である。
著者
徳田 迪夫 内迫 貴幸
出版者
三重大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

木構造の設計をより合理的に行うためには、釘接合のメカニズムを基本に戻って詳細に調べておく必要がある。そこでまず第一に、木材に特有の釘の保持能力を調べる過程として、釘打ちによる木材の割れと保持力の関係に注目をしてみた。木材を切ったりすることなしに、割れ全体が視覚化できる方法はないものかと思考錯誤した結果、浸透性の高い胃透視用のバリウム液を釘打ちによって生じた割れ内部に減圧後に浸透させ、X線撮影によって割れの形状を定量的に簡便にできる方法を考え出した。第二に、打釘による割れを利用して、逆に木材の材質を判定することを試みた。打釘による割れはほぼ木材の比重に比例するが、樹種、成熟材か未成熟材といったものが大きくきいてくる可能性がある。これらの因子を打釘による割れから推定した。次のような結果が得られた。1)バリウムを釘打ちによって生じた木材の割れ内部に浸透させることにより、木材内部に広がる割れについても、定量化できた。2)割れの形状は試験管型、楕円型、すり鉢型の3種類で、いずれも同一割れ面積の楕円で近似が可能であった。3)釘の打ち込み回数の木材の割れ量への影響は極めて大きかった。4)異形釘は、スムーズ釘に比べると割れ量は少なかった。5)先端角度が大きい(鈍い)釘程、木材の割れは少なかった。6)木材の含水率が割れに及ぼす影響は大きかった。7)釘の打ち込み面が板目か柾目ということの割れへの影響は少なかった。8)釘内による木材の割れ量は同一樹種間では、木材の比重と釘径の関数として表せた。このことを利用して、釘接合部の設計の際の最適釘配置方法を釘径および木材の比重をパラメータとして提案した。しかし、樹種が異なると、それぞれ樹種特性があり、単純に比重の関数として表すことはできなかった。9)ヒノキは他樹種より釘打ちによる木材のの割れが少なく、しかも、比重に比例した引抜き耐力を有する粘りのる材であることが、バリウム浸透法で明らかになった。10)未成熟材と成熟材では同一比重でも、釘打ちによる木材の割れ量は大きく異なったが、生長の遅いベイツガは、比重のわりに材がもろくて、割れ量が少なく、材のどの部分でも、未成熟材と同じ性質を有していた。11)釘打ちによる木材の割れは樹種や材質と深い関係にあり、今後さらに本研究手法を用いることにより、木材の新たな材質の評価が可能であると考えている。特に国産のスギ、ヒノキと北米産の針葉樹との違いが明らかになり、スギ、ヒノキを建築用材として用いる際の長所が引き出せるものと考えている。
著者
鳥飼 勝隆 浜本 龍生
出版者
藤田保健衛生大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

ウイルス感染が結合織疾患(CTD)の発症に関与する可能性が従来より考えられていた。1986年にSalahuddinらによって、免疫不全患者より新しいヘルペス群ウイルス、HHVー6が分離された。これはTリンパ球にも感染するので、自己免疫疾患との関連性が想定された。そこで、本ウイルスとCTDとの関連性を検索した。間接蛍光抗体法と中和反応とで、各種CTD66例の血清の抗HHVー6抗体価を測定した。その結果、CTDでは健常人に比し、抗HHVー6IgG,IgM抗体が有意に高値であった。しかし、他のヘルペス群ウイルスであるEBウイルス,サイトメガロウイルス,単純ヘルペスウイルスなどに対する抗体価とは必ずしも相関していなかった。また、各種自己抗体との相関をみたところ、抗HHVー6抗体価は抗nuclear RNP抗体価と相関した。しかし、抗DNA抗体や抗SSーA抗体などとは相関しなかった。このことより、抗HHVー6抗体価が高値である理由は、多クロ-ン性B細胞活性化現象によるもののみでは説明できなかった。このウイルスの持続感染や、ウイルス抗原とnuclearとの抗原性のホモロジ-が存在する可能性が示唆された。これはHHVー6がCTDの原症機序に関与しうることを示唆するものである。CTDにおいて本ウイルスが持続感染している可能性を検索した。末梢血単核球,唾液,皮膚生検組織などからウイルスの分離を試みた。しかし、現時点では、ウイルスは分離できなかった。今後は、持続感染していると予想される本ウイルスを、感度のよいDNA検出法であるPCR法などを用いて検討することが課題であると考えられた。
著者
大久保 一良 岩淵 せつ子 浅野 三夫
出版者
東北大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

大豆サポニンはその薬理作用が明らかにされて以来、注目されている成分であり、我々のこれまでの研究結果、Aグル-プサポニンとしてAa〜Afの6種類、Bグル-プとしてBa、Bb'、Bc、Bc'の5種類、Eグル-プとしてBd、Beの2種類、計13種類のサポニンを明らかにすることができ、その遺伝性、植物体における分布等多くの知見を得、大豆の食品加工上考慮すべき重要な成分でることがわかった。最終年度である本年度は、大豆サポニン各成分の量的調製を試み、動物実験、物性実験、ウイルス実験等への試料の供給を行った。醤油粕と胚軸にサポニンが濃縮していることに着目し、宮城県醤油醸造共同組合の協力を得て、サポニン分離プラントを試作することができた。得られた。粗サポニンからのサポニン各成分を単離し、山口大・医・山本直樹教授の協力で、エイズの原因ウイルスであるHIVへの影響を調べた結果、いずれのサポニン画分でもHIV増殖抑制効果がみられ、特にBグル-プにその活性の強いことがわかった。さらに、コレステロ-ル食を与えたラットへの影響を調べた結果、血中トリグリセライドの低下、すなわち、抗脂肪血作用のことも追認できた。大豆食品は胃癌、大腸癌等の低リスク食品であることから、サポニン等の配糖体成分の生理作用を追求することは今後も重要な課題であることがはっきりした。また、サポニン組成と遺伝との関係が明らかにばったことから、植物の分類マ-カ-としても有効であり、さらに品種の改良と判別にも応用され、新たな展開が期待される。
著者
野田 隆三郎 洞 彰人 神保 秀一 池畑 秀一 石川 洋文
出版者
岡山大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

1 タイトt-デザインの分類については ウイルソン多項式の根の整数条件が有力な手がかりであるが これの処理方法においてかなりの進展が得られた。今後はこれ以外に入の整数性をうまく結びつけて 最終的な解決をはかりたいと考えている。2 擬対称4-デザインはタイト4-デザインに他ならず すでに分類が完成している。条件を擬対称3-デザインに弱めても 同じ手法がかなりの程度まで使えることが分かった。デザインの諸パラメーターの整数性および付隨する強正則グラフの結合行列の固有値の整数性が 強い制約を与えており これらをうまく処理して分類を完成させる 見通しができた。3 スタイナーシステムS(t,k,v)において よく知られているキャメロンの不等式 V≧(b+1)(k-t+1) および私の証明した不等式 V≧(b+1)(k-t+1)+(k-t)の改良として次の結果を得た。 定理 tが奇数で V>(t+1)(k-t+1)とすると V≧(t+2)(k-t+1) が成りたつ.さらに等号が成りたつのは(t,k,v)=(t,b+1,2t+4)のときに限る.この結果は近く論文にまとめる予定である.4 等周問題については3次元におけるミンコフスキーの不等式 M^2≧4πA,およびA^2≧3VMの改良がいま一歩のところまで進展した。これは有名なブルン・ミンコフスキーの不等式の改良とも結びついているので完成すれば大変面白い結果であると考ている。近いうちに是非完成したい。また逆向きの等周不等式については 2次元におけるゲージの証明はそのまま3次元以上に適用することはできないがボンネゼンの定理をうまく使う事によって解決への重要な手がかりが得られた。
著者
野田 隆三郎 池畑 秀一 石川 洋文 梶原 毅 脇本 和昌 堤 陽
出版者
岡山大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

1 tight3とtight5-orthogonal array(つまり Raoのboundを達成する直交配列)の分類を完成した。(別掲論文)。その他のtight orthogonal arrayの分類の研究は現在進行中である。2 Steiner system(つまりt-(v,k,l)デザイン)に関する次の新しい不等式が得られた(論文準備中)。これはP.J.Cameronが与えた不等式の改良になっている。tが隅数の時 v≧(t+1)(k-t+1)+(k-t)がなりたつさらに等号がなりたつのは 4-(23,7,1)がt-(2t+3,t+1,1)に限る。また tが奇数で v>(t+1)(k-t+1)とあると v≧(t+2)(k-t+1)がなりたつ3 orthogonal arrayに関する不等式も得られたが、更なる改良を、現在考慮中である。
著者
森田 康彦
出版者
鹿児島大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

前年作成した装置は従来のX線CTの検出器を輝尽性蛍光体イメ-ジングプレ-トに置き換えたものであったが今年はさらにイメ-ジングプレ-トを2次元X線検出器として用いた小型実験用X線断層撮影装置を試作し、画像再構成をおこなった。この装置では1ピクセル1mmx1mmで128x128ピクセルでスライス厚さ1mmの連続した画像5スライスを1回のスキャンで得ることができた。これは1ボクセル1mmx1mmx1mm128x128x5ボクセルの画像を1スキャンで得られるということもできよう。また装置の大型化により人乾燥下顎骨の画像再構成が可能となった。特にわずか幅5mmではあるが2次元投影デ-タ収集が可能になったため"下顎骨に沿った投影デ-タ"と仮に呼ぶ軌道により得られた2次元投影デ-タから5枚の連続した横断画像を1回のスキャンで得ることが可能になった。この画像は現在のX線CTにより同一下顎骨を撮像し得られた画像にくらべればいまだ劣るものであるが、1回のスキャンで5枚のデ-タが得られたことは重要な成果であると考えられる。以上のような成果については日本歯科放射線学会総会にてすでに口演し、またコンピュ-タシミレ-ションについては歯科放射線学会誌上に発表した。さらに詳しい内容については近く投稿の予定である。
著者
青木 宣明
出版者
島根大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

予備冷蔵(以下予冷)と冷蔵期間並びにGA処理が促成シャクヤクの花芽の発育と開花に及ぼす影響について調査した。[花芽の発育]野生タイプシャクヤクの花芽の発育について,6月下旬から12月中旬まで10日ごとに調査した。調査開始時の6月20日から9月下旬までは葉数の増加のみ認められた。10月中旬には花弁が,11月中旬には雄しべが,また下旬には雌しべの分化がそれぞれ観察された。‘サラ・ベルナール'の冷蔵(4℃)開始時(10月上旬)における花芽の状態については,数枚の花弁が観察され,‘サラ・ベルナール'の花芽分化は野生タイプよりやや早い傾向を示した。15℃で予冷されたシャクヤクは花芽の発育が促進された。30日〜70日冷蔵中における花芽の発育については,冷蔵期間が長くなるほど花芽の長さは長くなる傾向を示したが,花芽の直径や花弁数については一定の傾向を示さなかった。[促成]植え付け日が早いほど発芽日や開花日は早くなった。植え付けから開花までの到花日数は冷蔵期間が長くなるほど短縮された。発芽から開花までの積算温度は,冷蔵期間の長短にかかわらずほぼ一定であった。一年生株において,開花率は30日冷蔵が67%で最も高かったが,実用限界の80%には及ばなかった。冷蔵期間の長短による切り花形質の差は少なかった。予冷により開花期が促進した。予冷とGA処理の組み合わせにより,開花率は向上し,切り花品質も優れた。GA処理は出芽直後の1回処理が開花率向上に最も効果的であった。GA処理により,切り花の花色は薄くなる傾向があった。
著者
丸山 工作
出版者
千葉大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

アクチン調節タンパク質No.1のβ-アクチニン(1965)は, 本申請者によって発見されたものであるが, アクチンフィラメントの自由端(即矢じり端)に結合すると1977年に報告した. ところが, ジョンズ, ポプキンス大学のグループは, β-アクチニンと同じサブユニットからなるタンパク質をニワトリ筋肉から純化し, 反対の反矢じり端に結合して, しかもZ線に存在することを示し, キャップZと命名した(1986-87). 本研究は, この違いを解明するためにおこなわれたものである.本研究において, まず明らかになったのは, ジョンズ・ホプキンスグループの方法で純化したキャップZは, たしかにアクチンフィラメントの矢じり端ではなく反矢じり端に結合すること, 35Kと32Kのサブユニットからなることである. 後者は, β-アクチニンのサブユニット(βIとβII)と同じサイズであり, しかも抗β-アクチニン抗体と反応することから, 同一とみなされる. すなわち, キャップZとβ-アクチニンは同じタンパク質にほかならない. すると, どうしてアクチンフィラメントの異なる末端に結合するのかが問題となる.ウサギやニワトリの筋肉からβ-アクチニンを調整すると, アクチンフィラメントの両端に結合しうることがわかった. その結合の方向性がぎのようにしてきまるのかは, なお不明である. また, 抗β-アクチニン抗体は, 筋原線維の2点ならびにM線ふきんに結合することが蛍光抗体法によって示された. 抗βII抗体はZ線にのみ局在するタンパク質と反応し, 抗βI抗体はM線近く)すなわちアクチンフィラメントの自由端)を染色した. そこで, β-アクチニンは, βIとβIIのなんらかの相互作用によって, アクチンフィラメントのどちらの端にも結合しうるのではないかと思われる. この点は, さらに研究を進めていきたい.
著者
増田 昌敬 長縄 成実 宮沢 政 田中 彰一
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

微小な隙間内において低粘性流体が高粘性流体を置換する場合、流体間界面に不安定性が生じてフラクタルなパタ-ンを形成する。本研究では、0.8mmの隙間をもつアクリル板を2枚重ねたHeleーShaw実験モデルを製作し、この上下板間の微小な隙間に満たされたある流体が他の流体により置換される時の流体界面の形状を観察した。上下のアクリル板は、各々、直径60cmと66cmの円板であり、厚さ2cmである。実験では、まずモデル内に一方の流体を満たした後、下板の中心に開けられた径1mmの注入孔より、他の流体を放射状に圧入する。本年度は、濃度200、500、1000ppmのポリアクリルアミド水溶液を水で置換する場合の流体界面の形成過程の観察を行い、流体のレオロジ-特性が流体間の界面の不安定成長に与える効果について解析した。観察デ-タを画像解析した結果、以下のことが言える。(1)低粘性のニュ-トン流体が高粘性の擬塑性流体を置換する場合は、ニュ-トン流体同士の置換の場合に比べて、その流体間界面にはより大きな不安定性が生じる。この置換パタ-ンのフラクタル次元d_fは1.69〜1.81の値であり、前年度に得られたニュ-トン流体同士の置換の場合の1.80〜1.96に比べて小さくなる。(2)流体間の界面に生じる不安定性(フラクタルなパタ-ン)は、時間経過とともに大きなフィンガ-(指状体)に成長していく。この成長過程においては、流体のレオロジ-特性が大きな影響を及ぼす。2次元流れの数値シミュレ-ションでは、差分法を用いてラプラス方程式を解いた。計算の初期条件として、流体間の界面にゆらぎを与えることにより、流体界面の不安定性の成長過程はある程度予測できた。しかし、実験に特徴的であった樹枝状のフィンガ-の成長は再現できなかった。
著者
伊集院 直邦 宮内 睦美
出版者
大阪大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

我々はこれまで科研費の補助のもとに、内毒素の歯週組織破壊に及ぼす影響をラットを用い実験病理学的に検索し種々の知見を得てきた。それらの知見の一つとして、内毒素は歯根膜線維芽細胞によるコラーゲン原線維の貧食作用の著しい亢進をきたす可能性を示唆する所見を得た。そこで、そのことをさらに組織化学及び組織計測的な検討を加え確認することを試みた。その結果、歯根膜線維芽細胞は生理学的状態においてもコラーゲン原線維の貧食能が高く、さらに、内毒素によりその作用が有意に亢進される事が明らかになり、辺縁性歯周炎における歯周靱帯の破壊に大いに関与することが示唆された。また、このことをラット臼歯歯根膜より線維芽細胞株を樹立し培養歯根膜線維芽細胞を用いin vitroの系でも証明することを試みた。その結果、顎骨より抜去したラット臼歯歯根より、4種類の歯根膜由来継代可能な培養細胞を得ることが出来これらの細胞は短紡錘形ないし多角形をし、いずれも歯根膜線維芽細胞に特徴的な性状であるアルカリホスファターゼ陽性を示す細胞を含み、免疫組織学的にビメンチン、ケラチン、オステオカルシンに陽性を示すと共に、アリザリンレッドS染色により石灰化能を有することが示された。しかしながら、これら細胞をコラーゲンゲル中で立体培養したところ、細胞内へのコラーゲン原線維の取り込み像を認めたものの本研究の遂行の為には不十分な所見しか得られなかった。コラーゲンゲルの濃度培養条件、観察方法を検討したがin vitroの系で内毒素が歯根膜線維芽細胞のコラーゲン原線維貧食能の亢進を来すことまで証明することは出来なかった。引続き、ラット尾部より調整した生のコラーゲンを用いる事や、培養液中にコラーゲン形成や石灰化等に重要な因子であるアスコルビン酸、β-グリセロリン酸、テキサメサソン等の添加も考慮しながらさらに検討する予定である。
著者
赤澤 史郎
出版者
立命館大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

本研究の成果は、三部に分かれる。第一部は「第二次大戦後の戦争犠牲者の補償問題」であり、戦後初期から1980年代末までの民間人戦争犠牲者の補償問題の推移を追ったものである。ここでは、日本における戦争犠牲者の補償が民間人をも含めた国民平等主義に立たなかった理由として、その補償政策の立案と実施が1950年代の逆コースの状況の中でおこなわれたためであったことを指摘している。とはいえ1960年代には民間人戦争犠牲者への補償要求運動が生じ、この運動は1970年代には一定の盛り上がりを見せて,議会にも野党の提案で戦時災害援護法案が上程されるが、1980年代に運動は退潮に向かうと述べられている。第二部は「名古屋空襲訴訟」であり、戦争末期の名古屋空襲で負傷した三人の民間人女性が、民間人に対して補償がないのは法の下の平等に反すると訴えた裁判について論じたものである。この裁判は1976年から1987年まで続いたものだが,ここでは訴訟の経過を記すとともに、その争点の性格を説明し,さらに訴訟の歴史的な位置づけに言及している。第三部は「戦時災害保護法小論」であり、第二次世界大戦中から戦後初期にかけて、民間人戦災者に対する援護法として存在した同法を扱ったものである。ここでは戦時災害保護法がその運用状況からすると、事実上補償主義に傾斜した性格であることを説明し、さらに戦災への補償の性格の強い給与金として、膨大な金額が支払われていた事実を指摘している。以上の三部によって,第二次世界大戦中から1980年代までの民間人戦争犠牲者の補償問題の推移を、全体的に明らかにしようとしたものである。
著者
山本 禮子
出版者
和洋女子大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

近代公教育の体制下にあって、日本の女子教育の中心的役割を担った戦前の女子中等教育機関としての高等女学校の教育実態を明らかにするため、高齢化する高等女学校卒業生対象のアンケ-ト調査・面接調査の緊急性を痛感している。ここ数年来、公立・私立の高女卒業生対象の調査を実施してきたが、本年度は、外地の高等女学校卒業生に焦点をあてて行った。まず、朝鮮・台湾・関東州・樺太・満洲・中国に設立された高女の同窓会に名簿提供を依頼し、承諾を得た34校に対し、1915年から5年おきに最高20名を限度に無作為抽出し、1917名にアンケ-トを発送(7月下旬〜8月上旬)した。返送されたものを減ずると実質発送数1730、回答数659で回収率は38.09%である(回収10月末日)。この回収率は内地のそれより高く(公立高女アンケ-ト回収率33.59%、私立高女30.71%)意識の高さを証左している。未だに詳細な調査結果の分析・考察には至っていないが、現地人を入学させた学校、現地語を教科の学習として位置づけた学校、課外学習として取扱った学校等様々であるが、それは全体の1割弱の学校にしかみられない。当時、日本語使用を義務づけたため(朝鮮など特に)現地語導入は考えられないことである。現地語学習が顕著なのは満洲の撫順高女やハルピン高女である。日本の国がそれぞれの地域とどのような関係をむすんだかが教育に鮮明に反映している。その他、1930年前後の修学旅行は船中泊を含めると2週間にもわたる旅で、京都・奈良・東京はもとより、学校によっては日光・九州、時代によっては橿原神宮もコ-スに入り、大々的なものになっている。しかし、戦局切迫する中で中止となる。異句同音に外地に育った者の大らかさを自負し、引き揚げ後の困窮生活をも前向きにとらえる姿が窺われる。
著者
馬淵 久夫 平尾 良光
出版者
作陽短期大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

三国時代の魏で作られたか日本列島で作られたかが考古学の問題になっている三角縁神獣鏡を材料面から検討するために鉛同位体比の測定を行なった。過去の測定で、三角縁神獣鏡に含まれる鉛は「舶載」も「〓製」も例外なく中国産と推定されているので、異なる鏡式の間の比較に主眼を置いた。研究の結果は次のように要約される。1.鉛同位体比から観測される事実(1)「舶載」三角縁神獣鏡は鉛同位体比図の上で狭い範囲(B-1)に集中し、特定の系統の原料が使われていることを示す。(2)日本出土の魏の紀年鏡は、平成6年出土の青龍三年銘方格規矩四神鏡を含めて、すべてB-1に入る。つまり、「舶載」三角縁神獣鏡と同じ系統の原料で作られていると考えられる。(3)日本出土の呉の紀年鏡は魏の紀年鏡とは別の領域(B-2)に集まる。これは中国出土の呉の紀年鏡と同じ系統の原料である。(4)「〓製」三角縁神獣鏡は「舶載」三角縁神獣鏡と近接するが、明らかに異なる領域(B-3)に分布する。(5)三角縁神獣鏡以外の古墳出土〓製鏡の大部分はB-1、B-2、B-3にまたがって分布し、さらに少数は弥生時代の前漢鏡タイプの鉛を含む。つまり、一定の原料で作られていない。2.三角縁神獣鏡に関する諸説との整合性(1)魏鏡説は、全般的に鉛同位体比の結果と整合性がよい。(2)日本列島製作説は、一定の材料が中国から輸入され、その材料だけを使って「舶載」三角縁神獣鏡が作られたとすると説明がつく。(3)渡来呉人製作説は、(2)のヴァリエーションの一つで、その場合、呉の工人は呉の紀年鏡の材料ではなく、日本列島に輸入されていた一定の材料を使って作ったと考える必要がある。