著者
尾上 圭介
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

漫才を中心とする話芸とテレビドラマの会話の分析によって,以下のことが明らかになった。[1]ある言語表現が,聞き手に対して何らかの言語的反応(広義応答)を要求ないし期待するというのは,なにも質問(回答要求)表現に限ったことではない。聞き手に対する積極的な働きかけの意志を帯びた表現は,以下の13種に分類することができるが,(1)命令,(2)禁止,(3)要求,(4)依頼,(5)質問,(6)相手状況評価,(7)訴え,(8)注意喚起・教え,(9)宣言・宣告,(10)同意確認,(11)勧誘,(12)あいさつ,(13)呼びかけこのすべての種類の言語的働きかけに対して,聞き手はまず言語によって反応することが普通である。この中には,聞き手の言語的反応が,聞き手の反応の中心である場合から,反応の前ぶれ的一部分である場合(命令に対する応諾など)までの幅があり,また,無言による応答という場合さえあるが,概括すれば,上記13種類の言語的働きかけは,すべて,広義応答(言語的反応)を要求,ないし期待するものだと言える。[2]上記のほかに,(つまり聞き手に対する働きかけの発話でなくても)ディスコ-スの中で,聞き手が黙っていられなくなるようにしむけるという種類の発話ー反応の型が見られる。(1)長い発話を「ネ」で切って、そこまでの聞き手の理解を確認する.(2)意外な内容を唐突に持ち出して,聞き手からの説明催促,質問などを誘い出す.(3)話し手の困惑,喜びなどの情動を表明して,聞き手の反応を誘う。(4)判断や意志決定をめぐる躊躇・逡巡を表明して,相手の援助の発言を誘い出す.これらの発話も、広義応答(言語的反応)を要求するものと言える。
著者
野口 博司
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

パセリのCHS制御領域-46〜+8(ATG)とBoxI-IIをGUSにつなぎPUC-19に組み込んだpBTu1-2、ベチュニアのCHS-Aの-800までをCATに繁いだ遺伝子、同様にして金魚草のCHSの-357までをPUC-19に組み込んだ遺伝子をブドウの色素生産株に導入しそれぞれの発現の比較を行った。対照としてCAMV35Sプロモーターを用いた。この発現を調べたところ強弱はあるもののいずれも発現した。さらにキントキニンジンの培養系で2、4Dを加えた増殖培地中と2、4Dを除いた分化培地中で発現を調べたところ何れでも発現が見られ、果たして以上の実験がアントシアンの生産に関与する制御領域のポジティブなコントロールとなるか否か、再考察が必要となった。さらにこれらをタバコ培養系に導入したところイーストエキス処理の有無にかかわらず発現が誘導された。最近欧米では上記の遺伝子をフラボノイドをファイトアレキシンとしないタバコの培養細胞に加えて発現の見られることが報告されており、植物の外界からの刺激に対する応答の複雑さの一環と思われる。クズ培養細胞より刺激に対応してえられたCHSライブラリーから独立なCHSを検索したところ、独立なクローン1-14が得られた。この14はインゲンの5上流と極めて相同性が高く、エリシター由来であることをうなずかせるものだったが、ダイズのchs-1、chs-2との相同性は低く、またパセリのCHSとの比較では全く近縁性がないことは上の結果と考え合わせると、刺激に対応する配列はひとつでなくより緻密な解析を行わなくては植物の応答性を論じることは難しいという結果となった。
著者
鈴木 和男 大川原 明子 佐々木 次雄 山河 芳夫
出版者
国立予防衛生研究所
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

慢性関節リウマチ、全身性エリテマトーデス(SLE)、半月体形成腎炎(CRGN)などの自己免疫疾患において、最近、正常時はほとんど血中に認められない好中球の顆粒酵素のMPOが自己抗原となり抗MPO自己抗体(ANCA)が血中に増加することが問題となっている。これらの疾患において、血中MPO活性と抗MPO抗体との相関関係についてわれわれはすでに報告してしてきている。特に、病初期の血中MPO活性は高値を示し、急性炎症像に類似している。自己免疫疾患の発症機序を明らかにするために、自己抗原となるMPOの蛋白質、活性とその抗MPO自己抗体の3者の測定系を確率する必要があった。昨年度までに、ウエスタンブロットにより半月体形成腎炎の患者血清は、MPOの59 kDaの長鎖と反応し、Endoglycosidase-Hで糖を切断したところ抗MPO血清は強く反応したことから、抗MPO血清はMPOの59 kDaの長鎖の糖結合箇所付近が反応部位と推定した。そこで、本年度は、59kDaの長鎖をいくつかの部分のフラグメントに対応するリコンビナントMPOフラグメントを作成した。当初は、GSTとの融合蛋白質として作成したが、目的のサイズより小さく切断されたフラグメントのみが出来たので、Hisx6と結合したフラグメントとして作成することを試み、目的とするすサイズのリコンビナントMPOフラグメントを検出する。キレートカラムによりリコンビナントMPOフラグメントを精製し、抗ヒトMPO抗体および患者血清を用いウエスタンブロットにより反応することを確認した。
著者
八尾坂 修
出版者
国立教育研究所
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1988

1各州における教員免許状の効力(有効期間)と現職研修の対応調査研究の結果得られた知見・成果は次の通りである。(1)今日卒業後即座に終身免許状を発行する州は3州(ニュー・ジャージー、マサチューセッツ、ミズーリ)に過ぎず、他の州はいずれも免許状の更新制、上進制を採用している。他のタイプとしては3タイプが考えられた。第1のタイプは有効期限付きの1種類の免許状を発行し、しかも一定の更新要件を課そうとするものである。第2のタイプは、等級別の免許状を上進させるたとによって最終的に終身免許状取得の道を開くものである。第3のタイプは終身免許状を発行することなく、有効期限付きの免許状を教職経験のみならず、一定の単位あるいは修士号取得等により、更新あるいは上進させようとするものである。(2)更新・上進要件として、大学(院)での単位履修のみならず、地方学区主導の研修プログラムを義務づけあるいは代替可能にしている州が多くの州に存するようになっていることはアメリカにおける免許制度と現職研修の対応における一つの変革とも指摘できる。(3)以上の結果を日本と比較してみると、わが国でも1989年4月以降、上位の免許状については在職年数のみによって取得することは適当でないとし現職研修が要求されたことからしてアメリカと同一方向を歩むことが予測され得る。2今後の研究の展開各州個別あるいは全州的にとらえた免許状の更新・上進制と現職研修の関連性の実態(免許状の名称、種類、有効期間、更新・上進要件、具体的な現職教育内容、現職教育の主体等)を明白にすること。さらにはこの研究対象を一般教員のみならず教育官吏職(校長等)にも視点を広げることが今後の研究課題である。
著者
三宅 明正
出版者
千葉大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

1 研究経過平成6年度には、いずゞ自動車株式会社、東京急行株式会社、神奈川県立公文書館、横浜市史編集室、東京大学社会科学研究所、同志社大学人文科学研究所を調査し、神奈川県地域を主な対象として、戦時・戦後の労働組織に関する史料を調査、収集した。また、労働関係図書を購入し、これを併せて参照しつつ、収集した史料を分類して整理した。新たに得られた知見としては、(1)いくつかの工場には、戦時・戦後の労働組織について、学界でなお末利用の史料があるということ、(2)戦時、戦後初期(労働組合結成期)、企業再建整備時(占領後期)の3つの時期について、労働組織のありかたには共通する側面が強いということの、2点である。後者について、やや詳しく述べると、表面的なイデオロギーとは別に、労働組織の編成原理(工員と職員を包含しようとする点、従業員を生産を行なう主体として位置付けしようとする点)に一貫性がうかがわれるということである。2 研究の評価当初に計画した研究目的、計画方法との関連では、史料の存在状況から、調査対象を一部変更した点を除いて、ほぼ予定通りに遂行された。また、当該テーマの少し後の時期の労働者組織に関連する論文もまとめることができた。
著者
徳井 淑子
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

ロマン派の若者の間で流行した懐古趣味の服装について、その発端と背景を回想録・新聞記事・文学作品・風俗版画等から調査し、この流行のロマン主義ににおける意義を考察し、次の知見を得た。1.異装の起因が歴史物の芝居の流行にあることは既に指摘されているが、デュポンシェル制作の舞台衣裳で大成功したデュマ父の戯曲『アンリIII世とその宮廷』の上演が特に大きな影響を与えていること、つまり異装の背景には衣裳の時代考証を重んじるロマン派の新しい演劇思潮のあることが明らかになった。2.異装の流行を促した時代の土壌として、カ-ニヴァルの仮装舞踏会の隆盛と、ボエ-ムの言葉で知られる芸術家の自由奔放な生活態度が指摘されているが、仮装服もヴォ-ドヴィルやオペラ・コミック等の登場人物の扮装に取材され、舞台衣裳の影響の大きいことが具体的に確められ、こうした芝居の世界を日常生活にたやすく取り込む独自の生活感情を芸術家がもっていたことが理解された。異装は生活の中で想像世界に遊ぶ行為であり、これがボエ-ムの生活空間の特質である。3.舞台衣裳であれ仮装服であれ異装であれ、歴史服の知識は巨匠の絵画作品に求められ、従ってル-ヴル美術館や王立図書館版画室に通う画家が、いわば服飾史の専門家として舞台の衣裳係を務め、仮装服のデザイン書を著したこと、そして画学生の異装が過去の肖像画に取材されたことを明らかにした。一方、絵画は歴史小説の服飾描写にも影響を与えており、服飾をめぐって文学と美術と演劇が相互に密接に関わっていることから、服飾を含めた芸術の総合性をロマン主義の特質と見るべきであることを理解した。服飾の歴史に対する強い関心は、世紀後半に服飾史という学問に結実するから、懐古趣味の異装は服飾史学の成立に貢献したといえ、これはロマン主義の成果として位置づけられた。
著者
栃内 新
出版者
北海道大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

一昨年度・昨年度と同様に,材料としてアフリカツメガエル純系(Xenopus laevis, JJ)とその近縁種で細胞マーカーをもち,多数の比較的大きな斑紋を持つ近交系(X. borealis, BB),およびJJとBBの第一代雑種(JB)を用いて模様パターン形成の解析実験を継続した.斑紋は成体型の皮膚が完成する変態後期に出現する.通常どおりの時間で変態した個体には比較的大きめのスポットが少数出現するが,変態が遅れたものでは変態までに要する時間に応じてスポットの大きさが小さくなり数も増加する.逆に変態を早めることにより,時間に応じてスポットの大きさが大きくなるとともに融合したりして数が減少することもわかった.JB個体ではJ系とB系の中間型の斑紋が形成される.斑紋は主に黒色素胞の拡がり具合で認知されるが,斑紋部分で数が少なく分布深度も深い黄色素胞,および斑紋部分にはほとんど存在しない虹色素胞の働きも無視できない.つまり,皮膚の中におけるこれらの細胞の3次元的分布およびその細胞質の拡がり具合が斑紋形成の基盤をなしている.これらの色素細胞の分布・分化運命,そして生理的状態を決めているものが,斑紋パターン形成を支配している要因であるといえる.斑紋形成を支配する要因の分布状態(プレパターン)は幼生atage56あたりで形成されたものが変態期に可視化されることがわかった.斑紋のプレパターンが出来上がる時期に筋肉層の表面に分布していた黒色素胞が真皮および表皮に移動して侵入する.プレパターンを支配すると考えられる筋肉層などからの働きかけの実体を探るための移植実験は継続中である.フラクタル解析を用いたコンピューターシミュレーションでは,斑紋によく似たパターンをつくり出すことに成功したが,磁性体形成の際のイジング・モデルの方がより適切であるという可能性が出てきたため,検討中である.
著者
井樋 慶一 須田 俊宏
出版者
東北大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

アセチルコリン(ACh)は脳内の代表的神経伝達物質であるが,ACh作動性ニューロンは視床下部室傍核(PVN)のcorticotropin-releasing factor (CRF)産生細胞の近傍に神経終末を形成している。PVNにおいてAChがCRFの合成,分泌に及ぼす影響を明らかにするために,無麻酔ラットを用い,脳内微量注入法により直接PVN内にAChを投与し,Northern blot法を用いてPVN内CRFmRNAおよび下垂体前葉(AP)内proopiomelanocortin (POMC)mRNAの定量を行った。同時に末梢血中ACTHの変化を検討した。さらにAChの作用がいかなる受容体を介して発現するかを明らかにした。1.無麻酔ラットPVN内ACh (1-100pmol)投与後血中ACTHは用量反応性に増加し,30分で頂値を示し,120分で前値に復した。2.PVN内ACh投与後120分でAP内POMCmRNAおよびPVN内CRFmRNAはACh (0.1-10pmol)用量反応性に増加した。3.脳室内アトロピン前投与により,PVN内ACh投与による血中ACTH増加は抑制されたが,ヘキサメリニウム前投与により抑制されなかった。以上の結果は,PVNにおいてAChがCRFの合成および分泌を刺激することを強く示唆するものであり,ACh作動性神経路がCRFニューロンに対する刺激性の調節系であるころが明らかとなった。またAChの作用はムスカリン受容体を介することが明らかとなった。
著者
児島 孝之 高木 宣章 尼崎 省二
出版者
立命館大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

ねじりを受けるプレストレスト鉄筋コンクリ-ト(PRC)部材の終局耐力、変形性能に及ぼす導入プレストレスの影響を、軸方向鋼材量、横方向鉄筋量を要因とした一方向あるいは正負交番純ねじり載荷試験を行なうことにより検討した。得られた研究成果は、次のとおりである。1.ひびわれ発生ねじりモ-メントは、導入プレストレスの増加に伴い増加する。その増加率は、プレストレス係数にほぼ等しいものの、導入プレストレスが大きいとプレストレス係数より大きい傾向にある。2.土木学会「コンクリ-ト標準示方書」のねじり耐力式における終局時の軸方向鋼材と横方向鉄筋のせん断流q_1q_wがほぼ等しく、両者の鋼材比もほぼ等しい比較的大断面を有するPRC部材であっても、導入プレストレス量の増加に伴い終局ねじり耐力を増加する。3.ねじり耐力式における終局時の軸方向鋼材と横方向鉄筋のせん断流q_1とq_wがほぼ等しいねじり型配筋であっても、両者の鋼材比のつまり剛性の差による変形破壊のために実験値が理論値より小さくなることがある。4.ねじりモ-メントの増加によりPC鋼棒のひずみはほとんど増加せずに、最大ねじりモ-メントに達する。最大ねじりモ-メント後、荷重繰返しに伴いPC鋼棒のひずみは増加するものの、ねじり耐力は増加しない。そのため、導入プレストレスの少ないPRC部材の終局ねじり耐力の理論値は、実験値より大きく危険側になる。5.高強度せん断補強鉄筋は、最大ねじりモ-メント時に非常に小さいひずみしか生じず、降伏していない。最終グル-プまでに数本の高強度せん断補強鉄筋が降伏するものの、全般的にひずみの増加が少なく、普通強度のせん断補強鉄筋に比較してねじりに対して必ずしも効果的に抵抗しない。
著者
山田 勝士
出版者
福岡大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

本研究では、ラットにおけるあくび行動の発現機序について検討を加え、以下の研究結果を得た。1.あくび行動は、選択的ドパミンDー2受容体作動薬のタリペキソ-ルの皮下投与によって誘発され、本あくび行動は、βーアドレナリン受容体遮断薬のピンドロ-ルあるいはαー1アドレナリン受容体遮断薬であるプラゾシンやブナゾシンの前処置によって増強された。2.ムスカリンMー1受容体作動薬であるRS 86およびAF102Bの皮下投与によってもあくび行動を誘発した。3.RS 86、AF102B、ピロカルピンおよびフィゾスチグミンの投与によって誘発されるあくび行動は、ピンドロ-ルの前処置によって増強されたが、プラゾシンやブナゾシンの前処置では影響を受けなかった。4.これらの薬物によって誘発される全てのあくび行動はムスカリン受容体遮断薬であるスコポラミンおよびαー2アドレナリン受容体遮断薬であるヨヒンビン、イダゾキサンあるいはラウオルシンの前投与によって著明に抑制された。5.ドパミンDー2受容体作動薬誘発あくび行動は、ジヒドロピリジン系カルシウムチャンネルアンタゴニストであるニフェジピンおよびニカルジピンの前投与によって増強されたが、非ジヒドロピリジン系のベラパミルやジルチアゼムでは増強されなかった。6.ムスカリンMー1受容体作動薬およびコリンエステラ-ゼ阻害薬によるあくび行動は、いずれのカルシウムチャンネルアンタゴニストの前処置によっても影響されなかった。以上の結果より、あくび行動は、高感受性ドパミンDー2受容体あるいはムスカリンMー1受容体の刺激を介して発現し、また本行動に関与するドパミン性神経ーアセチルコリン性神経連絡系のアセチルコリン性神経活動に対してノルアドレナリン性神経が抑制的に、さらにアセチルコリン性神経に続く未知の神経に対してアドレナリン性神経が抑制的に制御していることが明らかとなった。さらに、あくび行動の発現に関与するドパミン性神経活動においてカルシウムが重要な役割を演じていることが示唆された。
著者
長尾 桓 渡辺 建詞 冨川 伸二 三田 勲司 井上 純雄 杉本 久之
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

移植医療が現在直面する問題の1つにドナーの不足がある。すでに欧米ではドナー臓器の不足から移植を受けられないまま待機中に死亡してしまう患者が数多く出ている。この問題を解決する方策の1つとして異種移植、すなわちヒト以外からヒトへの移植が追究されている。しかし異種移植における免疫学的障害は大きく未だ動物実験の域を出ないのが現状である。今回の研究では大動物を用いて異種移植を行い、その長期生存を目指した。異種移植における免疫学的障害の最も大きいものは自然抗体の存在であり、その制御を如何に行うかが移植の成否にかかわる。筆者らは自ら開発した新しい吸着剤PC-1による自然抗体の吸着除去を試みたが、PC-1の吸着特異性に問題があり本法による抗体除去は困難であった。ついで既に確立した抗体除去法である血漿交換を行ったが、肝移植のような侵襲の大きい手術の前後に血漿交換を行うことは動物の循環動態を著しく悪化させ生存を難しくした。今後は吸着療法、血漿交換、免疫抑制剤の組合せによるより副作用が少なく、より効率のよい併用療法の検討が必要であろう。
著者
大津 浩 山内 広平
出版者
東北大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

ヒスタミンの合成酵素であるヒスチジン脱炭酸酵素(HDC)は,血球系の細胞では主に肥満細胞系,好塩基球系に限局して発現している.ヒト肥満細胞株HMC-1とヒト赤血球系細胞株K562を比べると,HMC-1ではHDCmRNAが発現しているものの,K562では発現が見られなかった.このような細胞特異的な遺伝子発現はどのような機構で制御されるのであろうか.先ず,核蛋白のRun-On Assayでは,確かにHMC-1ではK562に比べ,HDC遺伝子の転写量が増大していることが判明した.それでは,肥満細胞特異的な転写調節部位はどこにあるのであろう.そのために,HDC遺伝子の上流側からの欠失変異体とルシフェラーゼ遺伝子との融合遺伝子を構築し,肥満細胞系細胞株HMC-1と赤血球系細胞株K562に遺伝子導入した.HMC-1でもK562でも共に上流153bpと52bpとの間でルシフェラーゼ活性が下がるためHDCの基本的な転写にとってこの間に存在する配列が大切である事が推測された.さらに,上流153bpと52bpとの間を細かく評価できるようなプラスミッドを構築し,一過性に遺伝子導入し,ルシフェラーゼの発現を測定した結果,HMC-1,K562共に上流64bpと52bpとの間でルシフェラーゼ活性が下がり,この間に存在するGCboxがHDCの基本的な転写を司っていることが推察された.このGCboxを中心とした配列を持ったオリゴヌクレオチドを用意し,ゲル・シフト法にて結合蛋白の量的あるいは質的な差を検討した.この結果,HMC-1,K562ともにGCboxを中心としたオリゴヌクレオチドに特異的に結合する蛋白が存在し,それはSp1であることが判明した.さらに上流,遺伝子自身,下流に検索をすすめたが,組織・細胞特異的にHDC遺伝子の転写を増強するシス配列は見つかっていない.今後,組織・細胞特異的な遺伝子発現機構を解明するためには,更に種々の実験系を組む必要がある.
著者
保母 敏行 山田 正昭
出版者
東京都立大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

フェニルアセトアルデヒド(PAA)とアミノ酸とを反応させてシッフ塩基を得、これとフェントン試薬とを反応させる際に発生する光を測定するアミノ酸の化学発光定量系を開発した。又、反応場としての逆ミセル溶液の有効性を2つの化学発光系で確認した。まず、シッフ塩基生成において、均一溶液系および不均一溶液系で行わせ、種々の酸化剤を添加し、観察される化学発光について検討した。その結果、シッフ塩基生成はAOT逆ミセル溶液中で著しく加速されることがわかった。又、酸化剤にはフェントン試薬を用いた場合、最も強い化学発光応答を得た。AOT逆ミセルでのシッフ塩基生成速度はミセルサイズが小さくなるに従い大きくなる事が分った。アミノ酸のフローインジェクション化学発光定量法を確立した。定量下限1pmol〜100pmolという結果を得た。又、HPLC用検出系とする試みも行った。すなわち、ODSマイクロカラムを使い、アミノ酸を分離したのち、逆ミセル溶液を混合し、テフロン製反応管中でシッフ塩基を形成させる。続いてメタノールとフェントン試薬を混合、発光検出する系を開発した。チロシン、フェニルアラニン、トリプトファンおよびヒスチジンの定量下限それぞれ14、1、34および62pmolという結果を得た。さらに、化学発光反応系における逆ミセルの有効性を示す例としてシュウ酸ジエステル化学発光系を見出した。2,4,6-(トリクロロフェニル)オキザレートは過酸化水素との反応でジオキセタンを生成し、ケイ光物質の存在で強く化学発光する。逆ミセル利用により、シュウ酸ジエステルが水に難溶で、しかも加水分解されるという問題点を解決できた。また、アセトニトリル溶媒中で発光させる場合と比較し、10倍以上の感度向上を見た。提案した手法で過酸化水素定量が行える事を確認するとともに反応機構に関する理論的考察も行った。
著者
伊藤 肇躬
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

PSE豚肉のような異常肉質を惹起しやすい傾向を有するストレス感受性豚乃至豚悪性高熱症は遺伝性疾患であって、その疾患の有無は現在ハロセン麻酔時の四肢のケイレン等の有無により判定されているが、遺伝学に立脚した判定法の開発が待たれている。筋小胞体のカルシウム・チャンネルであるライアノジン・レセプターの生理機能の異常により誘起される豚のストレス感受性乃至悪性高熱症の分子遺伝学的解析を行うことを目的として、ライアノジン・レセプター遺伝子のうち、そのfoot領域及びチャンネル部位に相当する部分をPCR法により増幅を行い、遺伝学的変異の有無を解析した。その結果、foot領域の少くとも一ケ所に変異箇所が存在することが見い出されると共に,PCR増幅物がcDNAの塩基数より明らかに多いことから、ライアノジン・レセプター遺伝子中にはイントロンが存在することも明らかにされた。また、ハロセン・テストにおいて陰性と判定される豚のゲノムDNAのPCR増幅物中にも陽性のそれと同様の変異が見い出されたことから、ゲノムDNAの解析法の方がハロセン・テスト法よりもストレス感受性豚検出法として優れていることが明らかとなった。これらのことから、ストレス感受性豚のDNA診断を目的とする特定DNA断片を用いたサザンハイブリダイゼーションによるDNA診断法開発への道筋が開かれようとしていることが示唆された。
著者
國友 直人 矢島 美寛
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

この研究では経済変動の中でも時間とともに変化している動的変動を分析する手段として統計的時系列分析の中でも非正則時系列理論及びマクロ経済データや金融データを計量的に分析する計量経済分析への応用可能性を検討した。非正則時系列理論としては特にエルゴード性を持たない非定常時系列理論及び非線形時系列理論を検討し、計量経済分析との関連を特に以下の問題を中心に検討した。(i)新しい非線形時系列モデルとして定常同時転換(simultaneous switching)時系列モデルを開発し、さらに非定常時系列へと拡張した。経済時系列の変動における非対称性の例として市場データと金融資産価格の変動を分析を計画し、農産物市場データ及び日経インデックスのスポット・レート及びフューチャー・レートを使って比較分析を行い興味ある結果を得た。(ii)最近の計量経済分析では単位根と呼ばれている非定常時系列をしばしば用いるようになっているので、その分析方法を検討した。特に多次元時系列において構造変化が存在するときの非定常性の検出方法を提案した。新しい点は構造変化点が複数ある場合及び変化点がある個数以下であるがその個数は事前にはわからない場合も考察した。(iii)経済時系列理論における弱従属の場合ではスペクトル密度関数の連続性を仮定して様々な議論が組み立てられている。時系列が強従属である場合にはスペクトル密度関数が発散するのでその場合の理論を考察し、経済分析への応用可能性を検討した。(iv)経済時系列では観察値が欠落している場合があるが、最近しばしば実証分析で利用されている非定常性の検出方法についての結果を得た。
著者
伊野 良夫
出版者
早稲田大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

日本海側の最大積雪1.5m以上の地域にはヒメアオキ、ユキツバキ、エゾユズリハなお、太平洋側に近縁種をもつ常縁低木がブナ林床などに分布している。これらは多雪環境に適応して太平洋側の近縁種より小型、ほふく型になったと考えられている。平成3年度〜4年度の一般研究(C)「多雪環境に生育する常緑低木の生理生態学」において、それらの光合成活性と生育環境を近縁種アオキ、ヤブツバキと比較し、機能面から環境適応を考察した。1.5m以上の積雪による圧力は大きなものであり、これら常緑低木は積雪期間を地表に押しつけられた状態で過ごしている。しかし、春になって、積雪量が少なくなると、上部の雪をはね除けて直立し、常緑葉で盛んな物質生産をおこなすことが判明している。秋には雪をかぶるとひれ伏し、春には雪をはね除けるということは茎の弾性が冬の間に変化するか、弾性にある閾値が存在するかを示している。本研究ではこの茎の弾性の季節変化とそれに関わる構造炭水化物量の季節変化について、ヒメアオキ、ユキツバキ、エゾユズリハとアオキ、ヤブツバキを比較し検討した。ヒメアオキ、ユキツバキでは11月あるいは12月と5月の茎の性質(重さと曲がりの関係)はあまり違わなかった。しかし、アオキ、ヤブツバキでは生重の増加に対する曲がりにくさの増大は大きく、枝の肥大が木化とつながっていることが明らかであった。一方、エゾユズリハでは12月の枝はやわらかさがあったが、5月の枝では著しく曲がりにくくなっていて、雪に埋もれている間に枝に構造上の変化があったことが推測された。茎に含まれる炭素は細胞壁などの成分となっている構造性のものと、移動可能な非構造性のものとに分けられる。非構造性の炭素は主に澱粉とスクロース、グルコースの形態とをとている。トータルの炭素含有率は年間で大きな変化は認められなかったが、非構造性炭素含有率は変化し、多雪地の種類で雪解け前後にその含有率が高かった。少雪地の種類では冬前のトータルの炭素含有率が高く、非構造性炭素含有率は低かった。これらのことから構造性炭素の含有率が茎の曲がりやすさと関係あることが推察された。
著者
仲間 勇栄
出版者
琉球大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

マングローブの方言名プシキはマングローブの方言の総称である。オヒルギは方言でビギプシ(古見)、マツァプシキ(祖納)、マダプシキ(星立)、ヤエヤマヒルギはミープシ(古見)、マヤプシキ(星立)、ビープシキ(星立)、ハマザクロはトゥ〓ダプシ(古見)、ヒルギモドキはカニャーキー(星立)などと呼ばれている。マングローブの利用一番多くは、オヒルギやヤエヤマヒルギの皮を煮詰めて帆船の木綿帆、魚網、ミンサー織物などの染料として利用していたことである。皮を剥いだマングローブは薪に、またメープシやビギプシを切ってきて自家用木炭を作った。ビギプシは家のタルキや桁や洗濯物の竿掛用などに使われる。マングローブ林と食生活ガサミ(カニの一種)はゆでて身を取り、油で炒めたり、そのまま水炊きにする。また身を取ってメリケン粉と混ぜ、ダンゴ状にして油にあげカマボコを作る。ギジャグ(シレナシジミ)は身をオオタニワタリの新芽と混ぜ、油で炒める。アンサンガヤー(カニ)はおつゆに、サクラエビはゆがいて乾燥させ、野菜と炒めて食べる。そのほかに魚やウナギなどを取って料理して食べた。マングローブ林の管理利用伐採方法は小規模の皆伐や適度の抜き切りが基本だったようである。必要な利用可能なものだけを切って使う。老木や枯れ木を優先的に切り、適当に母樹を残して間引きをする。これといった利用上の取り決めがあったわけではなく、各人が長年の伝統的な生活の知恵にもとづいて、資源の再生する範囲内でうまく管理し利用していた。
著者
定光 大海 中木村 和彦
出版者
山口大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

電気的心室細動と高カリウムによる心停止モデルを用いて、体外循環による蘇生法の有効性を検討した。【方法】実験動物にはネコを用い、電気的心室細動群と高カリウム群の2群に分けて、次のように心停止とした。[電気的心室細動群]大腿静脈より右房まで挿入したワイヤ-と前胸部に刺入した鋼線との間に交流を通じて心室細動とした。[高カリウム群]中心静脈より塩化カリウム1ー3Emqを投与して心停止とした。両群とも心停止中に大腿動静脈に体外循環用の送脱血管を挿入した。[心肺蘇生法]両群とも12分間の心停止後、心マッサ-ジと薬剤投与(ノルアドレナリン、リドカイン、重炭酸ナトリウム)を行い、心マッサ-ジ開始1.5分後より1分間隔で自己心拍が再開するまで電気的除細動を繰り返した。心マッサ-ジ開始後4分以内に自己心拍が再開しない場合には、申請したチュ-ブポンプ及び体外循環回路を用いて、大腿静脈から脱血し、大腿動脈より送血して体外循環を行った。両群とも蘇生後4日間経時的に神経学的スコア-を評価した。【結果】電気的心室細動群では、全例体外循環を必要とせず、心マッサ-ジ開始4分以内に自己心拍が再開した。一方、高カリウム群では約半数が4分以内に蘇生できず、体外循環を行った。体外循環を行ったネコは体外循環開始5ー20分以内に自己心拍が再開した。電気的心室細動群の90%は蘇生後4日間生存し、4日目の神経学的スコア-(0=正常、100=脳死)は大半が20ー40であった。高カリウム群では、体外循環使用と非使用との間で生存率と神経学的所見に有意差はなかった。また、電気的心室細動群の方が高カリウム群よりも生存率、神経学的所見ともに良好であった。【結語】体外循環を用いた蘇生法は、高カリウムによる心停止の心蘇生に対しては有効と思われるが、脳蘇生の効果は明らかでなかった。
著者
大谷 滋 田中 桂一
出版者
岐阜大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

鶏における細胞レベルでの糖新生機序と脂肪肝の糖新生機序におよぼす影響を明らかにするため, 正常鶏, 実験的に作成した脂肪肝症鶏および肥育終了時のブロイラー鶏の肝臓からコラゲナーゼ灌流法により単離肝細胞を調製し, そのグルコース新生能について比較検討した.本実験で用いたin situで酵素液を灌流する方法により, すべての供試鶏において, 細胞収量および細胞生存率ともに良好な単離肝細胞を得ることができた. 単離肝細胞による種々の基質からのグルコース生成量は, すべての供試鶏において, 乳酸およびフラクトースからが最も高く, ついでピルビン酸, オキザロ酢酸であり, グリセロール, アスパラギン酸およびアラニンからのグルコース生成量は非常に低いかほとんど認められなかった. 正常鶏から調製した単離肝細胞では, グルカゴンおよびc-AMPの添加によりフラクトースおよび乳酸を基質としたグルコース生成量は無添加より明らかに増加し, グルカゴンあるいはc-AMPに対する応答能は単離細胞調製操作で損なわれなかった. 実験的に作成した脂肪肝症鶏から調製した単離肝細胞でのグルコース生成は正常鶏よりも明らかに低く, 肝臓に脂質が異常に蓄積した場合その肝細胞におけるグルコース生成能は阻害を受けることが認められた. 肥育終了時のブロイラー鶏より調製した単離肝細胞によるグルコース生成量は正常鶏とほとんど同じであり, 腹腔内に多量の脂肪が蓄積し, 肝臓も肥大して黄褐色の外観を呈していたのにも関わらずグルコース生成能の低下は認められなかった. 肥育末期に発生するブロイラーの突然死の原因が血糖値の急激な低下であるとしても, それが肝臓におけるグルコース生成能の異常によるものだけではなく, 他の要因との複合によるものであると考えられた.
著者
渡辺 信三 吉田 伸生 国府 寛司 重川 一郎 西田 孝明 池部 晃生
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

確率解析をWiener空間上の解析学、特にMalliavin解析の方法を用いて研究した。Malliavin解析においては、Wiener汎関数のなすSobolev空間が導入され、その枠組でWiener空間上におけるSchwartg超関数の類似物であるW´iener超汎関数も定義される。このWiener超汎関数には、Donskerのデルタ関数をその代表とする正の超汎関数があり、これにはWiener空間上のエネルギー有限の測度が対応している。さらにこの概念に対応してWiener空間上に(r,P)-容量(capacity)の概念が定義され、Wiener空間上、Wiener測度に関し“ほとんどいたるところ"なりたつ諸性質を“quosi every where"でなりたつ性質に精密化できる。こうした方法は、Malliavin解析に関連して“quasi-sure analysis"と呼ばれ、確率解析において最近大きな注目をあつめている。このquasi-sure analysisにおける一つの研究成果として、(r,p)-容量に関する大偏差の原理が、Wiener測度に関するSchilderの定理と同じ形で成り立つことが示された。これを用いると、例えば、Strassen型の重複対数の法則を、almost everywhereの概念をquasi-sureの意味に精密した形で示すことが出来る。Donskerのデルタ関数が、どういう可積分および可微分指数のSobolev-空間に属するかについて、補間理論を用いて詳細に研究した。このことの応用として、Wiener空間上のある種の條件つき平均についてそのregnlarityがHolder連続性の言葉を用いて論ずることが出来た。さらにWiener空間におけるSobolev空間の概念を、より一般の可分な距離空間上で対称Markov半群が与えられた場合に一般化することが出来、またWiener空間上に限っても基礎になるOrnstein-Uhlenbeck作用素を一般化することによって一般化出来た。これらの一般化Sobolev空間は量子物理学に有効な応用をもつものと期待される。