著者
小谷 昌司
出版者
新潟大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

脂肪酸結合蛋白は長鎖脂肪酸の細胞内転送に関わるものと考えられているが、この蛋白質が等電点電気泳動などで多数の分子種に分離されることから、翻訳後の修飾が多型の原因となっているとともに、これが機能と密接な関係にあること予想された。我々はラット肝脂肪酸結合蛋白について、今回アラキドン酸を特異的に結合しているもっとも酸性な分子種は、アスパラギン105がイソアスパラギン酸となった新規の修飾であることを構造解析の結果同定した。また、この修飾をうけた蛋白質のリガンド結合能・プロテアーゼ感受性などの機能変化を検討し、その生理的意義の解明とこの翻訳後修飾反応に関わる細胞内因子の検索をおこなった。まず、試験管内でのイソアスパラギン酸の生成を試み、0.5M炭酸ナトリウム緩衝液中で保温するとイソアスパラギン酸105をもつ分子種が高収率で生成することがわかった。蛋白質の内部で生じるこのイソアスパラギン酸結合の検出のためメチル化とLiBH_4による還元でこれをイソホモセリンとして同定する方法を考案し、さらに、PTC化による高感度化を検討し一定の成果をえた。また、この蛋白質を細胞内因子検索のための基質とするため抗体を作成し、等電点電気泳動とウェスタンブロットの組み合わせによる検出方法を確立した。また脂肪酸をはずした蛋白質を炭酸イオン存在下で保温すると別の酸性の分子種が定量的に生成することが観察された。この分子種を分取し構造解析した結果、N末端から2番目のアスパラギンが脱アミドしたものであることが明らかになり、リガンド結合と脱アミド反応との関連を示唆する結果を得た。一方、ラット肝脂肪酸結合蛋白のシステイン69に遊離のシステインが混合ジスルフィドを形成した新しい分子種を見いだし、機能の解析を行った。また、ラット皮膚から新規に単離した脂肪酸結合蛋白質は分子内に5個の半シスチン残基をもつこれまでに見られないものでSS結合と脂肪酸結合能との関連を検討した。
著者
高後 裕 加藤 淳二 越田 吉一 新津 洋司郎 茂木 良弘
出版者
札幌医科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

Long-Evans Cinnamon(LEC)ラットは金属(銅および鉄)代謝異常を有し、肝炎・肝癌を自然発症することが知られている。本研究では申請当初、長期エタノール摂取の中止による肝癌発症に与える影響を検討することを目的として本ラットにエタノールを投与したが、数日以内に死亡することが判明したため、平成5年度は本ラットに存在するエタノール代謝異常について検討した。LECラットの腹腔内にエタノールを投与し(2g/kg体重),血中エタノールおよびアセトアルデヒド濃度をガスクロマトグラフィーで測定すると,両者の血中濃度は,対照に比べエタノール投与4時間後まで約2倍遅延していた。次にLECラット肝のエタノール代謝関連酵素解析を行った結果、アルコール脱水素酵素(ADH)およびアセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)活性(とくにlow KmALDH活性)は,対照のWistarラットに比べ約25%低下していた。そこで両酵素の活性低下の原因を明らかにする目的で、LECラット肝のADH-1遺伝子およびALDH-2遺伝子を解析した結果、LECラット肝ADH-1遺伝子の第1イントロンに16塩基のinsertionが存在するとともに、ALDH-2遺伝子の第67codonにCAG→CGG(Gin→Arg)の点突然変異が存在することを見い出した。すなわち、LECラット肝のADH-1およびALDH-2遺伝子は異常を有しているためにこれらの2つの酵素が不活性型となっているものと考えられた。
著者
諸岡 晴美
出版者
富山大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

本研究では,サ-ポトタイプパンティストッキング(以下,PSとする)の適切な圧力分布に対する具体的な設計指針を得ることを目的として,下肢部の圧縮特性,衣服圧の個人差,下肢各部の衣服圧分布,動作に伴う衣服圧変化,圧快適性と衣服圧との関係,等々について明らかにした。以下に研究成果の概要を示す。1.人体は衣服圧によって変形し,曲率が変化する。そこで,はじめに下肢部とウェスト部の人体表面の圧縮特性を測定し,その特徴と体型との関係を明らかにした。2.次に,できるだけ体型差のある被験者を用い,静立位時のPSによる圧迫の範囲と体型との関係を明らかにした。また,動作に伴う衣服圧変化および強い衣服圧は快適性を低下させることなどを明らかにした。3.PS素材の引張特性から予測される衣服圧は,剛体であるマネキンでは一致度が高い。しかし,圧縮柔らかい人体では計算値と実測値とが必ずしも一致せず,衣服圧と着衣基体の圧縮特性との関わりが示唆された。4.従来より,PSの研究は下肢部に限られており,パンティ部についてみられない。そこで,本研究では、ウェストバンドの圧迫についても検討した。市販ウェストバンドの形態と引張特性を明らかにするとともに,着用時のウェストバンドの伸び変形を測定し,体型および衣服圧との関係を明らかにした。5.PSは,着用中に“ずり"を生じ,皮膚刺激を生む。その刺激の程度は,PSからの圧迫に依存するため,パラフィン法による観測方法を検討した。本研究において,人体の圧縮柔らかさが衣服圧の重要な因子の一つであることが示唆された。そこで今後は,皮膚表面の弾性腺維が減少する中高年齢層の女性をも視野に入れた研究を続行していく計画である。
著者
杉原 重夫
出版者
明治大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

富士火山や東伊豆の大室山単成火山群・伊豆諸島の完新世テフラを調査し、これらのテフラ累層中から考古学的な発掘によって発見された人類遺跡の遺物・遺跡との層位関係を明らかにした。その成果の要約は次の通りである。1.伊豆半島東部の伊東市三の原遺跡では,厚さ3〜4mの褐色風化火山灰層が分布し、上位から大室山スコリア層、鬼界ーアカホヤ火山灰層、小室山スコリア層、姶良Tn火山灰層、地久保スコリア層の4枚の示標テフラが認められた。このうち鬼界ーアカホヤ火山灰を狭んで、大室山スコリア層と小室山スコリア層の間の層準から、縄文草創期・早期・前期の遺物が発見された。2.千葉市神門遺跡は村田川低地に立地する数少ない縄文時代早・前期の遺跡である。この遺跡では、自生と考えられるオキシジミと廃棄された貝殻に混じって茅山式(縄文早期後半)と・黒浜式(縄文前期中葉)の土器が出土する。オキシジミについて ^<14>C年代測定を行い、テフラ試料について鬼界ーアカホヤ火山灰を検出するために鉱物分析、屈折率測定を行ったほか電子線マイクロアナライザ-による分析を検討中である。3.伊豆半島南部の蛇石火山・大池で、約6mのボ-リングを行ない、カワゴ平軽石層、鬼界ーアカホヤ火山灰、姶良Tn火山灰を採取し、これらの示標テフラの年代を明らかにするために、ボ-リング・コア(泥炭)について ^<14>C年代測定を行った。このうち,カワゴ平軽石層については中部日本に広域に分布することが明らかにでき、縄文後期から晩期にかけての土器形式との層位関係を調査した。4.以上の成果を総合して、火山活動史と考古学編年に関する考察を行なった。
著者
上 昭二 横川 和章 名須川 知子 岡部 毅
出版者
兵庫教育大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

本研究は、幼年児童期の「表現」の形成の過程を明らかにしようとしたものである。手続きは、出来る限り自然な状態の中で遊びを観察するために、本大学内プレイルームに、2組の親子に来訪してもらい、その様子を約40分間、4台のVTRで収録した。また、縦断的研究のために、5〜8回程度来訪してもらった。結果、4グループ,計26回分の収録ができた。それらのビデオテープを分析した結果、表現形成としては、1)身体の動きによる表現として「滑り台」を中心に分析したが、そこでは身体の方向性を変化させる動き,イメージを付加したという様々な動きの変化がみられ、また、自分でコントロールできる遊具を共にすべり台で使用する例がみられた。2)音による表現として、数台の楽器を配置したが、彼らは遊具として楽器を取扱っていた。しかしながら、そこには、「音」を媒介として、表現したいという意志が明確にあらわれていた。その結果、音を介した2者間の相互作用がみられた。3)幼年児童期の表現の形成は、音,描画,運動のような既成の教科的捉え方でみるのではなく、「遊び」の中で、表現の萌芽と発展が明らかに見い出せることがわかった。今後の課題としては、幼年児童期の個人における表現形成の過程について、7〜10年期にわたる長期的研究が必要であることを考える。本研究では数値上の、3年弱の表現形成の差違は見い出されなかった。
著者
柳川 洋 藤田 委由 中村 好一 永井 正規
出版者
自治医科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1988

厚生省の実施している感染症サ-ベイランス事業の対象疾患のうち,主に小児が罹患する12疾病を対象として,流行様式の観察を行った。観察の期間は,昭和60年第1週から昭和63年第52週までの209週とし,各週の全国1定点当たりの患者数を資料として用いた。流行の周期性をみるために,自己相関係数を求めた。次に,流行周期は,様々な要因から複合的に構成されることが考えられるため,各疾病ごとにフ-リエ解析を行い,スペクトルを求めた。この際,各疾病で患者数が異なることから,各週の患者数を209週の合計患者数で除して標準化を行った。更に,スペクトルの係数の大きいものから3つの周期を用い,どの程度元のデ-タと一致するかを観察した。結果は以下のとおりである。(1)麻しん様疾患,水痘,乳児嘔吐下痢症,ヘルパンギ-ナについては,季節性がはっきりとしており,第2スペクトルまでで流行の80%以上が説明できる。(2)流行性耳下腺炎,異型肺炎,伝染性紅斑は,長い周期性が推測され,観察期間をさらに伸ばす必要がある。(3)風しん,手足口病は,年間の季節変動と長い周期性があり,複雑なスペクトルを示した。(4)百日せき様疾患は,観察期間の前半と後半で流行の形が異なっており,今後の推移を観察する必要がある。(5)溶連菌感染症,突発性発疹は,季節方動が認められるが,さらに複雑な要因が関与している可能性がある。
著者
伊達 ちぐさ 田中 平三
出版者
大阪市立大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

健康な成人男子6名(年齢21〜26歳、身長160〜176cm、体重57〜63.5kg)をバランス・スタディーの対象者とした。食塩以外の栄養素は、すべて対象者の栄養所要量を満足させており、摂取食品群の構成も片寄りのないように工夫された基本食を作成した。この基本食を用いて食塩の摂取量が4レベル(1日当たり10g、7g、4g、1.5g)となるように使用する調味料の量を調整して、4種の実験食とした。6名の対象者を2群に分け、一方には10g食塩食を4日間、7g食塩食を7日間、4g食塩食を7日間、1.5g食塩食を10日間、最後に7g食塩食を4日間、合計32日間連続摂取させた。他方には10g食塩食を4日間、7g食塩食を11日間、4g食塩食を10日間、最後に7g食塩食を4日間、合計29日間摂取させた。実験食摂取期間中は、連日蓄尿した。また、7g食塩食と4g食塩食摂取時の最後の2日間には、バランス・スタディーを実施した。すなわち、体外へ排泄されたナトリウムを求めるため、尿へ排泄されたものと共に、この48時間に皮膚と便から排泄されたナトリウムを含むミネラルを全て収集した。実験食摂取中は3〜4日間隔で採血し、一般生化学検査と共に血中ミネラル類、レニン活性、アンギオテンシン、アルドステロン、抗利尿ホルモン等を測定した。ナトリウム出納は、7g食塩食、4g食塩食摂取時はほぼ零平衡を示したが、1.5g食塩食ではやや負出納を示した。血中成分の中では、アルドステロンは4g食塩食摂取時までは大きい変化は認められなかったが、1.5g食塩食摂取時には200%近くにまで上昇した。また、カルシウム摂取量は全実験食で一定であったにもかかわらず、尿中カルシウム排泄量は食塩摂取量が低いほど低下し、日本人にとって不足しやすいといわれているカルシウム摂取の面からは、食塩摂取量は低いほど望ましいことが示された。これらを総合すれば、わが国における成人1日当たり食塩最適摂取量は、4g付近にあるのではないかと推察された。
著者
中谷 剛
出版者
岐阜大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

本年度は長良川下流域の自然ワンドを対象に,生態系調査と熱環境調査を行った.対象としたワンドは、長良川下流部の距離標15.6kmの地点にある。長良川河口堰運用前は干満の影響を受ける汽水域であったが現在は淡水域へと変化していると考えられる。水域の長さは約800mの細長い形状のワンドで、入口部の平均水深が約1m、中央部で約1.8m、奥部で約80cmである。調査の結果,以下の知見を得た.(1)鳥類調査 文献^<1)>によると同じ季節に行われたH2.9.16の調査で,長良川下流域4ケ所総延長2km区間で30種の鳥が確認されている.今回の調査ではその3分の1がワンドで確認できた。対象ワンドは鳥類にとって重要な生息場所であることが確認できた。(2)底生動物と底質調査 クロベンケイガニ類の個体数密度の結果を1992年調査の結果^<1)>と比較すると,ワンドのカニ類個体数密度は増加していた.これは、長良川河口堰の運用で水位が上昇し,ワンドの陸地部分が減少しているので,一時的に避難しているのではないかと推測した.継続的な調査が必要である。ワンド周辺の底質について、7ケ所から土のサンプリングを行い、密度、粒径分布などについて調査した。ワンド水域の底質の平均粒径は,入口から奥部に向かうにつれ小さくなっている。土中微生物の活動状態は,木の根や植生の豊富なところ程活発であることがわかったが,土壌pHと微生物の活発度,およびカニ類の生息場所に関しては特に関係は見られなかった.(3)熱環境調査 秋期に2週間,冬季に4週間の水温変化をワンド水域3地点,5水深で行った.本川の水温に比べてワンドの水温は気温の影響を強く受け,湖沼や貯水池の水温環境と似た特性を示した.参考文献 1)長良川下流域生物相調査団編:長良川下流域生物相調査報告書
著者
浜野 美代子 伊野 みどり MIDORI Ino
出版者
東京家政学院大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1985

我が国では, 1982年以来, がんが成人病の死因のトップを占め, このうち胃がんによる死亡者は, 最近では漸減の傾向にあるとはいえ, なお全がん死亡数の約1/4を占めている. 現在までに胃がんの病因物質は明らかではないが食生活と密接な関係があるといわれている. N-ニトロソ化合物は, 我々の身近に存在する発がん物質であって, 亜硝酸塩(NO^-_xとアミン類の反応生成物である. すでに300種類を超えるN-ニトロソ化合物の80%が実験動物で発がん性が証明されている. 我が国のように, 諸外国に比べ, 野菜(NO^-_2, NO^-_3)や魚介類(アミン類など)を多量に摂取していることが, 胃がんの死亡率の高いことに関連があるか否か明らかにされていない. しかし究明しなければならない課題である.今まで, 我々は食品中のN-ニトロソ化合物および前駆物質の存在量, 調理過程におけるN-ニトロソ化合物の生成や, 食事摂取後の唾液中の亜硝酸塩, 硝酸塩の変化などについて研究してきた. 更に, 今回は, モデル実験として人の胃内条件を想定し, N-ニトロソ化合物, 特に発ガン性の強いN-ニトロソジメチルアミンの生成および抑制について, Invitroにおける検討をしてきた. その結果, 食品成分が加わると, 単純に水溶液や人工胃液などで行う実験と異なり, 同じ生成あるいは抑制実験でも複雑になり, 単純に評価はできない. 更に, 人間には, 長きにわたる食習慣の問題や, 現在のように複雑多様化する食生活が胃がんとどのような関わりあいをもってくるか, また, 個個の人間がそれぞれの生活環境から受ける要因など, きめ細かな調査, 研究が今後の重要な課題である.
著者
村瀬 嘉代子 柏女 霊峰 伊藤 研一
出版者
大正大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

われわれは幼児から成人にわたるライフサイクルの中で、(1)両親像、家族像がどのように形成され、成長変化していくか(2)そうした過程の中で変わらず根底にあるものは何かについて、調査研究を進めてきた。結果としていくつかの重要な知見を得た。第1は、年齢、性差を越えて存在する「厳父慈母」原型の存在、第2は発達の節目における両親像、家族像の変客、第3は両親像と適応との密接な関係である。さらに、両親像、家族像が混乱したり、十分に形成されないことが予想される養護施設の子どもを対象に調査研究を行った。(1)実父母の養育が十分とは言えない場合の両親像・家族像のありよう、(2)施設での養育が(1)をどう補い、変容し得るか(3)適応状態に(1)と(2)はどう影響するか、(4)今までの調査結果との比較検討、について新たな示唆が得られることを目的とした。施設は子供にとってみれば、家庭に相当するところであり、その場所への調査に行くことは極めて侵襲的となる危険があるため、方法論としては以前からの子供に対する方法論に加えて、いくつかの慎重な配慮をした。調査研究の結果、幼児被験者数が限られているため、はっきりとした発達傾向を見いだすことはできない。しかし事例の中には生後すぐに実母と分離していて、実親が両親像の形成にほとんど関与していないにもかかわらず、いわゆる典型的な「厳父慈母」的回答をした幼児がいた。小学生以上の場合、現実の生活状況に即した質問をしたため、実際の両親像については明らかにされない。しかし女性職員を通じて「ほめてくれる」「看病」「悲しい時慰めてくれる」体験をし、しかもそれを求めている姿が浮かび上がって来た。また理想の両親の関係として、厳父慈母とよき連携を上げている。このことは両親像や家族像の混乱が想定される場合でも(あるいは混乱があるからこそ)厳父慈母(特に慈母像)が中核に存在していると考えられる。
著者
城戸 照彦 小林 悦子 能川 浩二
出版者
千葉大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1995

バブル経済崩壊後、輸出産業である自動車や電気製品製造業に従事していた日系人労働者は再契約されず、各職場からその存在はほぼ消失した。一方、安定した国内市場を有する食品製造業においては、平成2年以降、今日に至るまで雇用が継続している。今回、調査対象とした事業所は従業員約2000名を有するが、そのうち平均30〜50名の日系ブラジル人を雇用している。契約期間は平均2〜3年で、満期になると大半は一時帰国する。日本で蓄えた金額は、住居の新築等に当てられ、住環境も改善され、ブラジルにおける充実した生活の糧となっている。5年間の雇用を通じて、新規の者は減り、再来日した者が主な労働力となっている。その結果、初期に問題となった結核等の感染者は、現在は発見されていない。また、食品製造業の性格上、入国後、約2週間は消化器系伝染病の保菌者の有無を確認し、その上で就労を開始しているので、入国時のトラブルも特に見られない。人事面でも、勤勉な労働者が再雇用され、生活習慣もより健康的な方向に向かっている。ただし、食習慣については、ブラジルとほぼ同様な食料品の入手が日本国内でも可能であり、その結果として、初期に指摘された、日本人に比べ、高度肥満が多い傾向は変わっていない。それと共に、高脂血症をはじめとした成人病対策は、日本人同様必要である。Zungの抑うつ尺度を用いた調査は、当事業所の定期健康診断が春期に実施されている関係上、今後、調査を開始する予定である。
著者
古沢 治司 山下 浩
出版者
金沢女子短期大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

Gを非初等的Klein群とするとき、次の結果を得た。(1),Gの要素Xが0<1【trace^2】×-41=S<So=2(-1+【√!2】)のとき、Xの軸、g(X)はCollar Nk(s)(X)をもち、その大きさは、【sinh^2】k(S)=【S^(-1)】【(1-S)^(1/2)】-1/2である。(2),X,YはともにGの要素で、XとYで生成される群が非初等的であるとする。また、0<1【trace^2】×-41,1【trace^2】Y-41<So,とするとき、XとYのそれぞれのCollarが互いに素になるようにとれる。(3),JΦrgensenの不等式で等号を与える群を調べた。またその中のある群は(1)で評価されたCollarの大きさの式に対して、漸近的に精密な例を示すことを証明した。(4),(1)における仮定を省くと、Gの要素でCollarをもたないものも存在することを示した。(5),Waterman は任意のKlein群の基本多面体の中に、群に依存しない絶対定数を半経にもつ球がとれることを示した。これを受けて、Collarが存在すればこの意味の球がとれることを示し、この逆は成立しないことを具体例で示した。
著者
土井 捷三 武田 義明 五味 克久 田結庄 良昭 今谷 順重 小石 寛文
出版者
神戸大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

本研究は次のことを目的にして行われた。1.「災害と防災」に関する教授用モジュ-ルを作成し、それらを統合し、カリキュラム化する。2.「災害と防災」についての意識調査を実施しながら、地域教材が子どもの学習意欲形成に果たす影響を解明する。3.これらを通し、カリキュラムの研究方法を明らかにしながら、災害と防災のカリキュラムを構想する。第1の目的を具体化するために、教材集を作成することにした。教材集は三年間でほぼ核となるモジュ-ルを完成させるようにし、第一年目は地形と地質に関係した災害と防災の現状を、第二年目は植生と植林に関係した防災対策を、第三年目は災害の原因の契機の一つとなる開発の問題と防災対策を取り上げ、教材化を行った。この場合、六甲山という我々の身近にある山を素材にすることにし、また、研究題目にある「地域性を生かした」としたのもこのことを念頭にしているのである。第2の目的を具体化するために、これらモジュ-ルによる授業前と後に調査を行い、地域学習の、学習意欲の形成への効果について解明した。この結果、これら教材は学習の意欲づけに資するということがわかった。第3の目的については具体化へ向けての方向づけを行った。また、現在のところ地域学習の中で実施することが適当であると提案した。以上が三年間に行ってきた成果である。しかし、カリキュラム化の構想が方向づけに止まっていることは不満であるが、これらの研究に比肩しうるものが不在であることを思うと、十分に成果は達成できたと考える。
著者
村嶌 由直 森 義昭 岡田 秀二
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

本研究は,一つは北米における育成的林業の成立過程と,それの採取的林業との併存構造を解明し,木材の対日輸出の経済力を問うこと,あと一つはその結果として,それが日本国内でどのような問題を生んでいるか,とりわけ日本林業との競争関係を解明することであった。明らかになった点をあげると以下のようである。1. 北米における採取的林業から育成的林業への展開は,old growthの生産から second growth の生産へ移行しつつ,その過程でアメリカ国内市場における地域問競争の激化と対日輸出の拡大をよんでいる。2. また一方,old growthの生産は環境保護を求める動きのもとで制約を受け,国公有林の生産規制へと発展している。その結果,輸出は木材企業(紙パルプ多国籍企業)の売り手独占的な構造になり,比較優位をより確実なものにさせている。3. しかも,80年代半ばからの円高ドル安移行とその定着は,製品輸入に中心を移しつつ,より外材化を進めた。それが日本の国内自給率を4分の1段階へといっそう後退させる結果になっている。4. しかし,円高現象は日本の企業の海外活動を活発化させた。日本の紙パルプ企業の北米企業の工場買収や,経営参加,さらには発展途上国における植林など新たな動きが展開した。製材企業や木材問屋の中にも海外投資を展開する企業が現れた。5. こうした外材中心の市場体制のもとで日本林業は後退傾向を強めているし,建築用の木材市場をみたとき輸入製品,国内挽き製品,国産材製品の三者が激しく競争を展開している。この中で日本の森林資源の管理の在り方が問われている。
著者
内田 照章 毛利 孝之
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

1.イエコウモリ精子は、子宮では上皮細胞の微絨毛を被うルテニウムレッド濃染の良く発達した微細な糖衣に精子頭部を接触させ、子宮卵管移行部では上皮細胞の細胞膜弯入部に精子頭部を嵌入させて長期貯蔵される。今回、子宮内膜上皮細胞の微絨毛糖衣は排卵と同調して失われ、そのために精子が上皮細胞から離脱すること、また精子貯蔵部位の上皮細胞にはグリコーゲン顆粒の他に、過蟻酸-燐タングステン酸に濃染する糖脂質様の分泌顆粒が多数認められることを明らかにした。2.イエコウモリ精子の貯蔵に関与する子宮卵管移行部の上皮細胞はまた、精子を貪食する機能を持つ。今回、これら上皮細胞の貪食能を更に確認するため、カチオン化フェリチンを用いて培養実験を行なった結果、貪食能の他に飲食能も認められ、そのために腔内が清澄に保たれることを実証した。一方、子宮内膜上皮細胞は精子を貪食せず、またフェリチンを取り込まなかった。3.今までに、雌性生殖道内に搬入された精子の受精能獲得に要する時間は50日以上であることを実験的に明らかにした。今回、更に既交尾雌の隔離実験と排卵促進剤の投与により、卵の賦活率と正常発生率を詳細に調べた結果、精子は少なくとも85日以上滞留しないと受精能を獲得し得ないことを明らかにした。4.ユビナガコウモリの遅滞着床機構を解明するため、冬眠前・中・後期における血漿プロゲステロン濃度を測定した結果、その濃度は非妊娠期に比して、冬眠前から始まる遅滞着床中は有意には上昇せず、その後の冬眠中の遅滞発生中には有意に低くなるが、冬眠覚醒後には有意に高くなることを知り得た。5.その他、モリアブラコウモリ、コウライアブラコウモリ、オオアブラコウモリ、クロアカコウモリ、テングコウモリなどの精子貯蔵様式を電顕的に比較検討すると共に、これらの受精過程をも観察中である。
著者
名和 行文 丸山 治彦 大橋 真 阿部 達也 緒方 克己 今井 淳一
出版者
宮崎医科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

宮崎県下では1988年に我々が世界初のドロレス顎口虫人体感染確定診断例を見いだし、それ以前の7例の類似症例のうち皮膚生検で虫体が確認されていた2例からも、パラフィンブロックから虫体を剖出し、いずれもドロレス顎口虫幼虫であると同定した。それ以後も新規患者の発生が続き、延べ14例(虫体確認例4例)の患者を見つけた。問診上、14例中13例は渓流釣り愛好家あるいはその家族で、渓流魚の生食歴があり、これが感染源として重要であると推測された。また、1例はマムシ生食の既往歴がある。患者への感染源、および流行地域でのドロレス顎口虫の生活環を明らかにする目的で、まず終宿主である野生のイノシシについて調査を実施したところ、宮崎県の中央山地では現在でもほぼ100%の感染率であった。また、雌成虫より虫卵を取り出し、人工孵化して得た第1期幼虫を第1中間宿主である冷水型ケンミジンコに感染させて、第3期幼虫を得ることができた。次に、第2中間宿主や待機宿主について調査をおこなったところ、患者発生と密接な関係のある西都市銀鏡地区に棲息するマムシにはドロレス顎口虫幼虫が濃厚にしかも100%という高率で寄生しており、この幼虫をブタに感染させたところ成虫が回収された。さらに同地区で捕獲されたシマヘビも幼虫を保有していた。聞き取り調査によると野生のイノシシはヘビ類を食するということなので、自然界の生活環のなかでヘビが重要であると推察される。患者への感染を源として、問診では渓流魚が感染源となっている可能性が高い。そこで我々はヤマメについて約200匹を検査したが、これまでのところ幼虫を検出することはできなかった。また、1990年にはブル-ギルを刺身にして食した夫婦が同時に発症したため、一ツ瀬ダムにて捕獲したブル-ギル約200匹についても検査をしたが、幼虫は発見できなかった。したがって今後更に多数の検体についての調査を実施する必要がある。
著者
安永 達也
出版者
近畿大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

1.圧力ジャンプ法により、炭酸カルシウム懸濁液において二重緩和を見い出した。得られた速い緩和時間は粒子濃度とともに速くなったが、遅い緩和時間はほとんど粒子濃度に依存しなかった。また、前者は【Ca^(2+)】濃度の増加とともに遅くなり、後者は塩無添加の場合、最大値を示した。【Ca^(2+)】および【CO(^(2-)_3)】の吸着量はかなり小さく、結晶成長が起こっているサイト濃度は炭酸カルシウム結晶表面全体のごく一部であり、【Cu(^2+)】および【NH(^+_4)】の吸着等温曲線よりサイトとしてのキンク濃度を決定した。一方、炭酸カルシウム微結晶表面近傍のイオンの動的挙動に重要な役割を演じているゼータ電位は、塩無添加の場合に最大値を示し、塩添加とともに急激に減少した。以上の結果を考慮して解析した結果、速い緩和および遅い緩和をそれぞれキンクサイトへの【Ca^(2+)】の吸脱着および吸着した【Ca^(2+)】の加水分解した状態CaOHへの【HCO(^-_3)】の吸脱着反応に帰属し、結晶成長機構の素過程を明らかにした。2.上法により、リン酸カルシウム,硫酸カルシウム,硫酸バリウム等の懸濁液においても緩和を見い出しており、現在測定中である。3.ストップトフロー法により、塩化バリウム水溶液と硫酸ナトリウム水溶液を急速混合することにより結晶核形成過程に関する高速現象を見い出しており、現在測定中である。
著者
樋口 保成 中屋敷 厚 中西 康剛 佐々木 武 高山 信毅 高野 恭一
出版者
神戸大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

本研究の主要な成果は大別して3つの部分に分かれる。その第一は相転移モデルの代数解析的、確率論的研究の部分であり、第二は超幾何微分方程式系の幾何学的、解析的な研究、そして第三は結び目の理論の研究の部分である。これらの三つの部分はゆるやかだが互いに影響を及ぼしあっており、特に本研究では代数的手法がその相互をつなぐ主要要素となった様に思われる。まとめて見ると予定以上に豊かな成果を得ることができた。以下、主要な成果のみを列挙する。第一の部分ではXXZ模型及び8頂点模型の一点相関関数の形を求めることに成功した(中屋敷)。また、二次元イジング模型におけるパーコレーションの相ダイアグラムを定性的な意味では完全に決定することができた(樋口)。一方、超幾何微分方程式系の研究では、E(3,6)の局所解を構成し、そのモノドロ〓郡の形算に成功した(佐々木、高山)。また、ガウスの超幾何関数のゲルファントによる多変数への拡張を合流型について行ない、最も基本的な性質を調べている。(高野)この多変数型の超幾何関数については、記億をもつランダム・ウォークの再帰性を調べるときにも現われることが最近わかった。これは新しいタイプの超幾何関数に対するアプローチになるようであり、今後ますます研究を深める必要が有ると思われる。最後の結び目の理論の研究においては、どんな結び目でも絡み数が偶数である平凡な結び目で偶数回ひねることを有限回行なえば平凡にできるという結果を含む一般的な結果を得ている(中西)。以上の数学的成果の他にも、重要な成果の一つとして、これらの計算の一部を支える計算環論の種々のアルゴリズムを組み込んだプログラム言語Kanを開発した(高山)ことを挙げたい。このソフトはインターネット上で公開している。
著者
武 恒子
出版者
静岡大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

1.「卯の花納豆」の品質改良試験豆腐かす(オカラ、卯の花)に納豆菌YA株を作用させ、卯の花納豆を製造する際、酵素剤併用の効果について検討した。酵素は、(1)セルラ-ゼ3S(繊維素分解酵素)及びマセロチ-ムA(植物組織崩壊酵素)と(2)コクラ-ゼ(澱粉分解酵素)及びコクラ-ゼSS(蛋白分解酵素)を用いた。それぞれの単一使用と併用の場合の至適作用条件を確認の上、i)酵素で前処理を行った後、納豆菌を成育させる。ii)納豆菌を成育させた後、酵素を作用させる。の二法で納豆を試作した。納豆菌の培養条件は果37℃,16時間に統一した。品質の評価は、遊離の還元糖(Bertrand法)、アミノ酸類(日立アミノ酸分析計Lー8500)、水溶性全窒素(Kjeldahl法)、ビタミンB群(Microbioassay法)及び官能評価(五段階評点法・順位法)によった。その結果、酵素剤はi)ii)群ともに基質の0.5%ずつを併用することにより、旨味、栄養効果を高める可溶成分が顕著に増加することを確かめた。なお、酵素で前処理を行った後、納豆菌を作用させて「卯の花納豆」をつくる方法、逆の方法を用いた場合の約1.5〜2倍の糖化力を示した。また、総アミノ酸量は豆腐かすの約10倍、総必須アミノ酸量は21倍、呈味力の強いGlu.,Asp.はそれぞれ17倍と7倍に増加し、ビタミンはRibofravin,PaA,Folic.aの増加が顕著であった。2.「卯の花納豆」の利用法卯の花納豆の生製品をはんぺん、さつま揚げ、Rouxへ混合する場合の添加量を官能評価とTexture(クリ-プメ-タRE3305)を測定して求めた。はんぺんは20%、さつま揚げは5%、Rouxは50%まで可能で独特の風味をもつ食品として評価された。乾燥卯の花納豆は、鰹節、ゴマ、のり、梅干しの他、各種香辛料と良く調和する。
著者
小坂 克子
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

我々は嗅覚の一次中枢嗅球におけるGABAニューロンについて、ニューロンの化学的性質及び形態的性質の両方に注目し、発生学的解析を進めてきた。現在までの結果は以下のことである。A.発生過程での表現形質の可塑的変化の可能性:我々の免疫細胞化学的研究によって、従来独立であるとされていた古典的神経伝達物質GABAとカテコールアミンが嗅球糸球体層で同一ニューロンに共存していることが判明し、しかも成体では共存関係を示さないニューロンも発生過程では一過性に共存関係を示し発生過程において古典的伝達物質GABAとカテコールアミンの共存関係が変化していく所見を得た.これは胎生後期に発生したGABA陽性カテコールアミンニューロンが、発生途上での表現形質の可塑的変化の可能性を示唆する所見であった。更に、ある時期に発生するニューロンを特異的に除去するX線照射実験により、上記の所見を支持する結果を得た。B.免疫細胞化学的研究によって嗅球の外網状層に存在するCa-結合蛋白parvalbumin(PV)含有ニューロンがGABAニューロンの一部であることを明かにし、Golgi鍍銀様に染色できるPV抗体で細胞体及び神経突起の形や広がりを解析した。その結果外網状層に存在するPV含有GABAニューロンは形態的に少なくとも5つ以上のサブグループに分けられた。更に、発生学的解析でそれらのPV含有ニューロンはラットでは生後10日頃、外網状層の内半層に観察され、その後急激に数が増えるが外網状層外半層には生後2週で初めて陽性細胞が出現し生後3週でほとんど成体と同様になる事を明かにした。我々はこの観察からa)外網状層の外半、内半の発生が著しく異なること、b)PVの発現が、推定されるニューロンとしての発生からかなり遅れていることを示唆する所見を得ることができた。