著者
笹原 妃佐子 河村 誠 河端 邦夫 戸田 信彦 土田 和範 岩本 義史
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.45, no.5, pp.807-814, 1995-10-30 (Released:2017-10-06)
参考文献数
10

近年,自然科学系の研究者のみならず社会科学系の研究者においても,解析手段としての統計学はますますその重要性を増している。しかし,研究者は,通常,統計学における検定結果を第1種の過誤を犯す確率αによって解釈し,第2種の過誤を犯す確率βについて考慮することはほとんどない。本研究では,既存の有限母集団から,ある一定の大きさの標本を繰り返し抽出する実験を行った。母相関係数の異なる二つの有限母集団(母相関係数; 0.215,0.650)それぞれについて,標本の大きさとβについて検討し,再現性のある結果を得るための妥当な標本の大きさについて考察を加えた。有限母集団の一つは,幼児の母親から得られた2847組の歯科保健行動目録(HU.DBI)と口腔評価指数(ORI)のデータであり,その相関係数は0.215であった。他の一つは,2885組の大学新入生の身長と体重のデータで,その相関係数は0.650であった。それぞれの母集団から,標本の大きさが25,50,100,200,300,400の標本をランダムに100回ずつ抽出し,得られたすべての標本において. HU-DBIとORIの順位相関係数,ならびに,身長と体重の相関係数を計算した。その結果,母相関係数0.215 (P<0.001)のHU-DBIとORIのデータでは,有意水準を5%(α=0.05)とすると,標本の大きさが100の場合,全体の51%の標本で帰無仮説が棄却され,標本の大きさが400の場合, 99%の標本で帰無仮説が棄却された。つまり,標本の大きさが100の場合,βは0.49,標本の大きさが400の場合,βは0.01であった。一方,母相関係数0.650 (p<0.001)の身長と体重のデータでは,標本の大きさが50以上では,帰無仮説はすべての標本で棄却された。つまり,標本の大きさが50以上で,βは0.00を示した。以上の結果から,ある標本において,2変数間の相関係数の有意性が危険率5%以下で確認されたとしても,その標本の大きさが小さい時には,別の標本において同様の結果を得る確率は必ずしも高くないことが示唆された。即ち,第1種の過誤を犯す確率(危険率)が5%以下であったとしても,ある程度の標本の大きさが確保されていない場合には,結果の再現性はあまり期待できないと考えられる。
著者
石黒 梓 川村 和章 石田 直子 神谷 美也子 中向井 政子 晴佐久 悟 田浦 勝彦 広川 晃司 串田 守 荒川 勇喜 田中 元女 鈴木 幸江 荒川 浩久
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.67, no.3, pp.190-195, 2017 (Released:2017-08-08)
参考文献数
22

健康日本21(第2次)に歯・口腔の健康目標が示され,歯・口腔の健康が健康寿命の延伸と健康格差の縮小に寄与することが期待されている.学校保健教育は生涯を通じた口腔保健の取り組みの土台をなすものである. 本研究では,今後の子どもたちの保健教育の改善を目的に,平成28年度に使用されている小学校から高等学校の学習指導要領,学習指導要領解説および学校で使用されているすべての保健学習用教科書を資料に,口腔関連の記載内容を調査し,「歯科口腔保健の推進に関する基本的事項」の歯科疾患の予防計画の学齢期の内容と照合した. 小学校では大半が「むし歯」と「歯周病」に関する原因と予防について記載されていたが,フッ化物応用,シーラント,定期的な歯科検診の記載はほとんどなかった.中学校では「むし歯」と「歯周病」の記載はほとんどなく,「口腔がん」や「歯と栄養素」,水道法基準として「フッ素」の記載に変化していた.高等学校になると「むし歯」に関する記載はまったくなく,「歯周病」や「口腔がん」の記載が中心であったが,歯口清掃に関する記載はなかった. 現在の小・中学校および高等学校で使用されている保健学習用教科書は,「歯科口腔保健の推進に関する基本事項」の学齢期に示されている保健指導,う蝕予防,歯周病予防に関連する記載内容は不十分であり,学習指導要領を見直すとともに,子どもの発達に応じた表現で収載することを提言する.
著者
藤枝 真
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.379-397, 1995-07-30 (Released:2017-10-06)
参考文献数
57

われわれ歯科界の人間にとって基本的な用語である「歯」という語が,民俗学的にはどのように使われているかに強い関心を持ち,「定本柳田国男集(新装版)」(筑摩書房)をテキストとして,その「索引読み」を試みた。その結果,総索引中に30語が見出された。さらにそれらの内容について民俗学的諸分野にわたる分類を試みたところ,その分布状況を把握することができた。その一方で,テキスト読解に関する「索引読み」の方法論は,今後の電子機器とそれらに関連する教材開発の進展により益々威力を発揮するようになり,テキストの本質に,より接近しうる可能性が示唆された。
著者
大橋 たみえ 徳竹 宏保 小澤 亨司 石津 恵津子 廣瀬 晃子 岩田 幸子 米永 哲朗 横井 憲二 福井 正人 小出 雅彦 磯崎 篤則
出版者
Japanese Society for Oral Health
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.48-56, 2011-01-30 (Released:2018-04-06)
参考文献数
18

歯の切削時に発生する飛散粉塵には種々の口腔内細菌が付着している可能性があり,歯科医療従事者への細菌曝露の原因となる.そのため,特に発生源での切削粉塵の除去対策が重要である.本研究では,切削歯種を下顎中切歯として,患者,補助者,歯科医師の呼吸孔の位置および診療室中央での歯の切削による飛散粉塵濃度と口腔外バキュームの除塵効果を検討する目的で,レーザーパーティクルカウンター計4台を同時に稼動させて粉塵粒度別飛散粉塵濃度を測定した.その結果,下顎中切歯の位置での歯の切削粉塵は,本研究では,口腔外バキュームの使用により,粉塵粒度0.3〜1.0μmの粉塵を,患者の位置では75%以上,歯科医師の位置では60%以上,低減できることが示唆された.よって本研究の口腔外バキュームの設置位置は歯の切削時における患者,補助者,歯科医師の呼吸孔の位置での飛散粉塵濃度の低減に有効であることが示された.前報の上顎中切歯と下顎中切歯切削時との比較では,歯の切削により発生する粉塵濃度は,明らかに上顎中切歯のほうが高い.しかし,口腔外バキュームの使用により,ほぼ同じレベルまで低減することができる.除塵率は,患者と歯科医師の位置では上顎中切歯切削時前報のほうが高い傾向がみられた.本研究の補助者と診療室中央においては,粉塵粒度が小さいもので口腔外バキュームの使用により粉塵濃度が高くなる傾向がみられた.切削点からの距離やエンジンの回転方向,バーの向き等により,口腔外バキューム使用時でも,粉塵漏えいが認められ,全体換気の必要性も示された.今後,チェアサイドと診療室内の各位置で,最も除塵効果の高い口腔外バキュームの設定条件を検討していく必要がある.
著者
近藤 武 吉田 睦子 笠原 香
出版者
Japanese Society for Oral Health
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.187-192, 1976 (Released:2010-03-02)
参考文献数
6
被引用文献数
1

高濃度のフッ素はin vitroでコリンエステラーゼ (ChE) を阻害することを確認したので, NaFによるラットChEへの影響を検討することとした。先ず2%NaF溶液をラットの体重kg当り50mgを経口投与し, 投与後1, 3, 24, 48時間ごとに屠殺し, 解剖所見, 各重量を測定するため脳, 腎, 肝, 唾液腺, 血液などの採集を行った。各臓器および血清中のフッ素濃度とChE活性値を測定したが, フッ素はフッ素電極法, ChEはEllmanのDTNB法により定量を行った。血清, 腎, 唾液腺中のフッ素濃度は投与前の対照ラットと比較し, 1時間後には約100倍にまで達したが, 漸次減じ48時間後には投与前に回復した。またChEの抑制は1~3時間後に生じたが, 時間がたつと一部の臓器ではかえて上昇がみられた。ChEの抑制は, アセチルコリンの蓄積を促進させるので, 一般には副交感神経刺激症状を呈する。今回のラットの中毒でも一部のラットに流涎, 嘔吐様の症状などの中毒所見がみられた。
著者
日高 三郎 東納 恵子 岡本 佳三
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.165-172, 2005-07-30 (Released:2018-03-23)

洗口剤の口腔内リン酸カルシウム沈殿物形成(歯石形成, エナメル質再石灰化)に与える影響の可能性を調べるため, 洗浄, 抗菌, 殺菌, 抗炎症, 抗口臭, 湿潤効果のいずれかを1〜3つもつ9種類の市販洗口剤のin vitroリン酸カルシウム沈殿物形成に対する抑制能をpH低落法を用いて測定した.その結果は, ハイザック^[○!R]>コンクールF^[○!R]&gtモンダミン^[○!R]>GUM^[○!R]>レノビーゴ^[○!R]>リステリン^[○!R]>1/15希釈イソジン^[○!R]>1/50希釈ネオステリングリーン^[○!R]>絹水^[○!R]の順であった.さらに, これらの抑制能は抗歯石剤エチドロン酸の濃度範囲10〜60μMで比較すると, より強いかほぼ同じ能力のものであった.ハイザックはその成分中に促進剤を含んでいながら, その効果からは最強の抑制剤であった.これらのことから市販の洗口剤が副作用として抗歯石・抗エナメル質再石灰化作用を有する可能性が強く示唆された.このため, 洗口剤の適用にあたっては抗石灰化効果を考慮に入れておく必要があると思われる.
著者
金子 昇 葭原 明弘 濃野 要 山賀 孝之 財津 崇 川口 陽子 宮﨑 秀夫
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.27-33, 2019

<p> 職域における歯科保健事業として,疾病の早期発見を目的とした歯科健診が主に行われてきた.こうした従来型の歯科健診から,行動・環境リスク発見型・行動変容支援型歯科健診への転換を目的として,日本歯科医師会で「標準的な成人健診プログラム・保健指導マニュアル」(生活歯援プログラム)が策定された.本調査ではこのプログラムに基づいた歯科健診と保健指導が,歯科健診単独に比べてどの程度優れているのか検討を行った.新潟市内の3企業の従業員129名(44.6±11.5歳)を対象としてランダムに2群に分け,介入群には生活歯援プログラムに準じた歯科健診と保健指導を,対照群には歯科健診のみを行った.保健行動を把握するための質問紙調査をベースライン時,3カ月後,6カ月後および1年後に行い,この間の行動変容を調べた.その結果,介入群と対照群のいずれにおいても「職場や外出先での歯磨き」や「フッ素入りの歯磨剤の使用」,「歯間ブラシ・フロスの使用」が有意に改善していた.ただ,介入群では1年後まですべての時点でベースライン時に比べ有意に改善していたのに対し,対照群では一部の時点で有意な改善がみられたのみであった.したがって,従来型の歯科健診でも保健行動の変容がある程度期待できるが,その期間は限定的であること,歯科健診に加え生活歯援プログラムに準じた保健指導を行うことで行動変容はより確実となり,効果が少なくとも1年間持続することが明らかとなった.</p>
著者
岡崎 好秀 東 知宏 田中 浩二 石黒 延技 大田原 香織 久米 美佳 宮城 淳 大町 耕市 松村 誠士 下野 勉
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.310-318, 1998-07-30
被引用文献数
11

カリオスタットと齲蝕の関係について数多くの報告があるが,歯周疾患との関係については少ない。学童期における歯肉炎の多くは,不潔性歯肉炎であり,齲蝕と同様プラークが原因である。そこで中学生437名を対象に,齲蝕活動性試験カリオスタット^[○!R]および唾液潜血テストサリバスター潜血用^[○!R]を行い,齲蝕歯数(D歯数)・歯肉炎との関係について調査した。1)カリオスタット24時間判定結果(24H)においては,D歯数・歯肉炎と高度の相関関係が認められた(p<0.001)。また,歯肉炎の程度より3つに群分けし,カリオスタット(24H)との関係をみたところ,有意な分布の差が認められた(χ^2検定p<0.001)。2)カリオスタット48時間判定結果(48H)においては,D歯数・歯肉炎との間に相関関係が認められた(p<0.05p<0.001)。しかし歯肉炎の群分けにおいては,カリオスタット(48H)に有意な分布の差が認められなかった。3)サリバスターはD歯数と有意な関係は認めなかった。しかし歯肉炎とは相関関係が認められた(p<0.05)。歯肉炎の群分けにおいては,サリバスターには,有意な分布の差が認められなかった。4)カリオスタット(24H)とサリバスターの間には,有意な関係が認められなかった。5)カリオスタット(24H)を用い, 1.0以上を基準として歯肉炎をスクリーニングし敏感度・特異度を算出すると,それぞれ0.34,0.83となった。サリバスターで+以上をスクリーニング基準とすると0.55,0.55であった。歯垢を試料とするカリオスタットは,口腔衛生状態を反映し,齲蝕だけでなく,歯肉炎とも関係が深いことが考えられた。
著者
郡司島 由香
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.281-291, 1997
参考文献数
36
被引用文献数
1

18歳から31歳までの陸上自衛隊員を対象として,フッ化物を応用した齲蝕予防効果について介入疫学研究を行った。対象者はフッ化物洗口群(洗口群:0.05%NaF,週5回法),フッ化物配合歯磨剤群(歯磨剤群:950ppmF)および対照群の3群に分け,各群の2年間における齲蝕増加量を比較検討した。主な結果は以下のとおりである。1.視診型診査における新生DMFS-indexは洗口群1.96,歯磨剤群2.22,対照群3.17であった。洗口群の新生DMFS-indexは対照群に較べ38.2%小さく,有意な差が認められた(p<0.05)。また,歯磨剤群は対照群より30.0%少なかったが,有意性は認められなかった。2.部位別に齲蝕増加量をみると,臼歯部平滑面において洗口群は対照群に較べ47.5%少なく,その差は有意であった(p<0.01)。3.臼歯部隣接面齲蝕の咬翼法X線評価における新生DeMFS-indexは洗口群0.64,歯磨剤群1.05,対照群1.21であった。洗口群は対照群に較べ47.1%小さく,有意性が認められた(p<0.01)。歯磨剤群と対照群との差13.2%は有意でなかった。以上のことより,成人の齲蝕が増加しているわが国では,成人におけるフッ化物洗口法は非常に効果的な齲蝕予防法であることが示唆された。
著者
竹下 哲生 岩倉 功子 高垣 勝 埴岡 隆 玉川 裕夫 雫石 聰
出版者
Japanese Society for Oral Health
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.41, no.5, pp.617-623, 1991-10-30 (Released:2010-10-27)
参考文献数
22

Porphyromonas gingivalisの赤血球凝集機構に関与するシアル酸の役割について追究するため, Prevotella loesheiiより精製したノイラミニダーゼを用いて, P. gingivalisの赤血球凝集反応に及ぼす精製ノイラミニダーゼの影響について検討した。ヒトO型赤血球を精製酵素で処理して, マイクロタイタープレートを用いた連続2倍希釈法でP. gingivalisの赤血球凝集活性を測定したところ, アシアロ赤血球 (血球表面の糖タンパク質よりシアル酸を取り除いた赤血球) にするとP. gingivalisの赤血球凝集能が増大した。次いで, 分光光度計による赤血球凝集活性測定法により, P. gingivalis 381株の赤血球凝集能に及ぼす種々の因子について追究した。P. gingivalis 381株菌体の赤血球凝集活性は, 正常赤血球, アシアロ赤血球いずれも, 供試した糖やアミノ酸では阻害を受けなかった。また, サルミン, cGMP依存性キナーゼ阻害因子, アンジオテンシンI, IIおよびIIIのようなアルギニンを含むペプチドでは正常赤血球ならびにアシアロ赤血球に対して, 程度に差はあるが, 凝集の阻害がみられたが, サルミンは双方の赤血球に対し低濃度で凝集を特異的に阻害した。次いで, 正常赤血球表面よりシアル酸を精製酵素で除去した際, 赤血球表面の荷電状態の変化を調べるために, 正常赤血球およびアシアロ赤血球表面のゼータ電位を測定した。その結果, 正常赤血球のゼーダ電位は-18.3±3.10mVであったが, アシアロ赤血球のゼータ電位は-4.4±1.16mVと著明に変動した。さらに, 酵素量を変化させて, 赤血球表面より段階的にシアル酸を除去したところ, 赤血球からの遊離シアル酸量が増大するにつれて, 赤血球表面のゼータ電位は0値に近づき, かつ, P. gingivalis 381株菌体の赤血球凝集活性は増大する傾向を示した。以上の結果より, 本菌とアシアロ赤血球との凝集能が, 正常赤血球と比べて増大する現象には, 赤血球表面のゼータ電位の低下が密接に関与していることが明らかになった。
著者
石黒 梓 荒川 勇喜 田中 元女 鈴木 幸江 荒川 浩久 川村 和章 石田 直子 神谷 美也子 中向井 政子 晴佐久 悟 田浦 勝彦 広川 晃司 串田 守
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.67, no.3, pp.190-195, 2017

<p> 健康日本21(第2次)に歯・口腔の健康目標が示され,歯・口腔の健康が健康寿命の延伸と健康格差の縮小に寄与することが期待されている.学校保健教育は生涯を通じた口腔保健の取り組みの土台をなすものである.</p><p> 本研究では,今後の子どもたちの保健教育の改善を目的に,平成28年度に使用されている小学校から高等学校の学習指導要領,学習指導要領解説および学校で使用されているすべての保健学習用教科書を資料に,口腔関連の記載内容を調査し,「歯科口腔保健の推進に関する基本的事項」の歯科疾患の予防計画の学齢期の内容と照合した.</p><p> 小学校では大半が「むし歯」と「歯周病」に関する原因と予防について記載されていたが,フッ化物応用,シーラント,定期的な歯科検診の記載はほとんどなかった.中学校では「むし歯」と「歯周病」の記載はほとんどなく,「口腔がん」や「歯と栄養素」,水道法基準として「フッ素」の記載に変化していた.高等学校になると「むし歯」に関する記載はまったくなく,「歯周病」や「口腔がん」の記載が中心であったが,歯口清掃に関する記載はなかった.</p><p> 現在の小・中学校および高等学校で使用されている保健学習用教科書は,「歯科口腔保健の推進に関する基本事項」の学齢期に示されている保健指導,う蝕予防,歯周病予防に関連する記載内容は不十分であり,学習指導要領を見直すとともに,子どもの発達に応じた表現で収載することを提言する.</p>
著者
山田 季恵 犬飼 順子 柳原 保 向井 正視
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.328-337, 2016 (Released:2016-06-10)
参考文献数
21

本研究では,セルフケアによる歯面色素沈着の阻止効果の検討を目的として,各種歯磨剤を併用したブラッシングが,外来性色素沈着に伴う歯面の色調変化に及ぼす影響を,牛歯エナメル質試料と歯科用色差計を用いて調べた.試料を研磨後,ウーロン茶,人工唾液,ムチンを混合した溶液に14日間浸漬して色素沈着を誘引し,この間1日2回,研磨剤(無水ケイ酸A)と清掃補助剤(無水ピロリン酸ナトリウム)配合の美白用歯磨剤,研磨剤を配合した低研磨性歯磨剤,または研磨剤無配合歯磨剤を使用する,および歯磨剤を使用しない4条件で,歯ブラシ試験機を用いてブラッシングした.1日1回ブラッシング前に,L*値(明度),a*値(赤み),b*値(黄み)を測定し,これらの値からC*値(彩度)とΔE*ab値(色差)を算出した.その結果,すべてのブラッシングの条件とブラッシングをしないコントロールにおいて,経日的にL値は低下し,a*値,b*値,C*値,ΔE*ab値は増加した.美白用歯磨剤の使用は,コントロール,歯磨剤の未使用または研磨剤無配合歯磨剤の使用に比較して,b*値,C*値,ΔE*ab値が有意に低く,L*値が有意に高かった.また,低研磨性歯磨剤の使用は,コントロールまたは歯磨剤の未使用に比較して,ΔE*ab値が有意に低く,L*値が有意に高かった.一方,低研磨性歯磨剤の使用と美白用歯磨剤の使用との間には,すべての色調指標に有意差は認められなかった.以上の結果から,研磨剤や清掃補助剤を配合した歯磨剤を使用したセルフケアで歯面の色素沈着は阻止されるが,その効果は歯面の色調を維持するには十分でない可能性が示唆された.
著者
小木 冴理 犬飼 順子 中垣 晴男 向井 正視
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.60, no.5, pp.591-598, 2010-10-30

現在,市販キャンディには代用甘味料が含有されているものが多くなってきたものの,う蝕原性のスクロースが含有されているものも多く,その実状は報告されていない.そこで,本研究では,25種の市販キャンディ類に含まれる糖類について,スクロース量,グルコース量,その他の糖量およびpHを測定した.試料は蒸留水で10倍希釈し,全糖度は手指屈折糖度計を,スクロース・グルコースはバイオケミストリ・アナライザーを用いて測定した.その結果,フルーツはスクロース,グルコースとも含有量が多く,フルーツはのど飴と比較して有意に多い値を示した.さらに,のど飴はスクロース,グルコース以外のその他の糖がフルーツと比較して有意に多く含まれており,う蝕誘発の原因となる糖が少なかった.また,糖類含有量は商品によりばらつきが大きかった.pH値はほとんどの試料で5.4を下回り,フルーツが最も低かった.したがって,キャンディを摂取する場合ノンシュガー等表示されたものを選択するとよいと考えられる.しかし,スクロース値が低いものでもpH値が低いため摂取方法には注意が必要であり,適切な間食の指導により,キャンディを選択できる能力を身につけることが必要であると結論された.
著者
相田 潤 田浦 勝彦 荒川 浩久 小林 清吾 飯島 洋一 磯崎 篤則 井下 英二 八木 稔 眞木 吉信
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.362-369, 2015-07-30 (Released:2018-04-13)
参考文献数
13

歯科医師法では公衆衛生の向上および増進が明記されており,予防歯科学・口腔衛生学は歯科分野で公衆衛生教育の中心を担う.またう蝕は減少しているが,現在でも有病率や健康格差が大きく公衆衛生的対応が求められ,近年の政策や条例にフッ化物応用が明記されつつある.根面う蝕対策としてフッ化物塗布が保険収載されるなど利用が広がる一方で非科学的な反対論も存在するため,適切な知識を有する歯科医師の養成が求められる.そこで各大学の予防歯科学・口腔衛生学,フッ化物に関する教育の実態を把握するために,日本口腔衛生学会フッ化物応用委員会は,1998年に引き続き2011年9月に全国の29歯科大学・歯学部を対象に質問票調査を行った.結果,予防歯科学・口腔衛生学の教育時間の大学間の最大差は,講義で8,340分,基礎実習で2,580分,臨床実習で5,400分となっていた.フッ化物に関する教育の時間も大学間によって講義で最大540分,基礎実習で280分,臨床実習は510分の差異があり臨床実習は実施していない大学も存在した.さらに1998年調査と比較して,教育時間や実習実施大学が減少しており,特に予防歯科学・口腔衛生学の臨床実習は1,319分も減少していた.また非科学的なフッ化物への反対論への対応など実践的な教育を行っている大学は少なかった.予防歯科学・口腔衛生学およびフッ化物応用に関する講義や実習の減少が認められたことから,これらの時間および内容の拡充が望まれる.
著者
深井 穫博 眞木 吉信 高江洲 義矩
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.129-136, 1996-04-30 (Released:2017-10-14)
参考文献数
36
被引用文献数
6

保健行動は生涯発達の中で形成・獲得されるものであるが,成人期から老人期にかけての口腔保健行動が,社会的な影響を受けてどのように修正・形成・定着していくかについては必ずしも明らかではない。そこで本研究は,関東地域在住の20歳から50歳代の男女673名を対象に,成人のライフスタイルおよび健康習慣とその年齢特性について検討した。その結果,今回の調査では以下の結論を得た。25〜34歳,35〜44歳の年齢層は生活のゆとりおよびソーシャルサポートが少なく,また職場環境に関しても,「残業」および「ストレスを感じる」者が中高年層に較べて多かった。一方,「仕事の満足感がある」者では逆に中高年層ほど仕事にやりがいを感じていた。ただし主観的健康状態は,どの年齢層でも約60〜70%の者が「健康である」と回答しており,年齢層による差は見られなかった。健康習慣では「毎日の朝食摂取」および「定期健康診断受診」に関して,明らかに中高年層が若年成人に較べて高い割合であった。また,「喫煙」,「飲酒」,「運動」,「体重」,「睡眠」,「間食」,「ストレス」に関する項目では,その健康習慣を持っている者は,どの年齢層でも約10〜30%の範囲であった。これら9項目の健康習慣について各項目で「あり」と回答した場合を1点としその合計得点で評価した結果,24歳以下の群で2.1±1.9であったのに対し55〜59歳の群では3.0±2.1であり,高い年齢層ほど健康習慣得点は増加していた(p<0.05)。
著者
小倉 喜一郎
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.341-350, 2000
参考文献数
28
被引用文献数
3

亜鉛(Zn)は必須微量元素の1つであり,生体内の数多くの酵素の構成成分として生理機能に重要な働きを示しており,その欠乏時には味覚異常や成長抑制などの障害を引き起こすことが知られている。本研究はWistar系雄性ラットを用いて,Zn欠乏飼料で4週間飼育し,Zn欠乏における味蕾細胞のターンオーバータイム延長および大腿骨に及ぼす影響を調べる目的で,舌微小血管構築の走査電子顕微鏡観察,大腿骨骨密度および機械的特性について検討した。それらの結果としてZn欠乏群ラットは,対照群に比べて食餌摂取量が減少し,体重増加が抑制されたことや,実験開始3週間頃よりZn欠乏の特徴とされる皮膚症状や立毛などの肉眼所見が観察された。また,血液生化学値に関しては対照群に比べ血清中Zn濃度および血清ALP活性が有意に低値であった。舌中Zn濃度については対照群に比べ有意に低値であり,大腿骨における骨長,骨密度および最大ひずみ,最大曲げ応力は,対照群に比べともに有意に低値であった。さらに,舌微小血管構築像の電子顕微鏡観察により舌微小血管の漏洩像が観察された。これらのことから,Zn欠乏による味覚異常は,味蕾細胞の栄養供給路である舌微小血管の障害が関連しており,かつ大腿骨骨密度の成長障害および骨密度の低下が認められた。これらからZn欠乏が舌乳頭の局部組織障害とともに硬組織への影響が無視できないことが示唆された。