著者
吉森 和宏
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.151-162, 1999-04-30
被引用文献数
1

千葉県内の市町村に勤務する歯科衛生士が多様化していく歯科保健業務を担えるようになるため,現在の業務内容,不足している知識および技能などの研修ニーズを調査分析したところ,次のような結果を得た。1.現在の業務内容は,母子保健サービスについては,すべての歯科衛生士が従事しており,次いで,頻度の高い順に成人保健サービス,訪問歯科保健サービス,事業計画および予算案の策定,老人保健サービス,歯科保健に関する計画の策定・評価,学校保健サービスおよび心身障害児(者)保健サービスなどであった。2.不足している知識および技能について,1年未満の歯科衛生士は業務全般にわたり不足していると感じているが,勤務年数が長くなるにつれ,そう感じる者の割合が減少した。しかしながら,健康づくり推進協議会等の運営方針案の策定および運営,歯科保健関連情報等の収集および提供,心身障害児(者)保健サービス,訪問歯科保健サービスについては,勤務年数が長い歯科衛生士でも知識および技能が不足していると感じていた。3.不足している知識や技能の習得方法は,研修会への参加によるが最も多く,次いで,専門家向け雑誌の購読,他職(保健婦等)の同僚,同僚の歯科衛生士,他の市町村の歯科衛生士から情報を得た,歯科衛生士会に加入した等であった。以上の結果から,市町村に勤務する歯科衛生士の制度上の位置付けを明確化し,複数配置等マンパワー増強が必要と考えられる。また就業している歯科衛生士のさらなる知識および技能の向上が求められており,そのための研修ニーズに応えられる諸対策が実施されなければならない。
著者
荒川 浩久 黒羽 加寿美 山崎 朝子 川村 和章 小宮山 まりこ 飯塚 喜一
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.175-183, 1995-04-30
被引用文献数
15

わが国におけるフッ化物配合歯磨剤の普及を図るべく,7つの年齢グループにおけるブラッシング習慣とフッ化物配合歯磨剤の使用状況および使用者の意識に関する質問紙調査を実施した。1歳6か月児〜小学生までの4つの子供のグループにおいては,ブラッシング時に常時歯磨剤を使用している者が1.7〜49.2%であり,歯磨剤使用者の中でのフッ化物配合歯磨剤の使用割合は50〜90%であった。成人の3つのグループのそれは34〜47%と低かった。また,歯磨剤使用者が歯磨剤の選択理由として"フッ素入り"を挙げた者は8〜43%と少なく,その傾向は子供より成人のグループにおいてより明瞭であった。フッ化物配合歯磨剤使用者の中で"フッ素入り"を理由に挙げた者も13〜45%と少なかった。フッ化物の配合されていない歯磨剤使用者の中で"フッ素入り"を理由に挙げている者もわずかに存在するという奇妙な現象も見られた。以上の結果より,フッ化物配合歯磨剤の普及を図るには,以下の対策が必要であると結論できる。1.成人を含めたすべての人に対してフッ化物配合歯磨剤の有用性を啓発する。2.歯磨剤会社は,フッ化物配合歯磨剤であることをわかりやすく表示するとともに,成人用の歯磨剤にもフッ化物を配合する。3.日本の歯科保健機関は,フッ化物配合歯磨剤に対して推奨する旨の表示をする。
著者
内山 章 井上 志磨子 谷沢 善明 落合 良仁
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.132-140, 2004-04-30

本研究の目的は新たな化学的ステイン予防・除去方法を開発することであり,本報では薬剤によるペリクルの除去,および薬剤によるペリクルの除去メカニズムについて検討を行った.ハイドロキシアパタイト(HA)ディスクはマウスピースに取り付け,健常な被験者の口腔内に保持した.経時的に形成されたin situペリクルはフロキシンにより染色し,そのa値を色差計にて測定した.また,タンパク量はニンヒドリン法によって定量した.紅茶変性ペリクルは紅茶を含漱して形成し,化学的薬剤を含む溶液でブラッシングして残存したペリクルの量および形態を評価した.HA粉体は希釈唾液を2時間処理した後,ピロリン酸塩を添加して,HAに吸着したピロリン酸量と脱離した唾液タンパク量を測定した.ペリクルのa値とタンパク量の間に相開開係がみられた(r = 0.95, p<0.01) . 3名の被験者のペリクル量は経時的に増加し,約2時間後プラトーに達した.ピロリン酸ナトリウム溶液でブラッシングしたペリクルのa値(Mean±SD = 0.73±0.35)は,コントロール(6.28±0.28;p<0.01)よりも有意に低く,試験薬剤のなかで最も小さいa値を示した.走査型電子顕微鏡による観察から,ピロリン酸塩でブラッシングされたペリクルは化学的に脱離され,歯磨剤希釈放でブラッシングされたペリクルは物理的に除去されていることが推察された.ピロリン酸塩のHAへの吸着等温線はLangmuir型吸着を示し,またHAに吸着したピロリン酸量と脱離されたタンパク量の間に比例関係が確認された.以上の結果から,ピロリン酸塩はペリクルの除去に有効であり,ピロリン酸塩はHA表面に吸着し,ペリクルとHA間のイオン的結合を切断することが示された.本研究によってピロリン酸塩がステインドペリクルの除去薬剤としてのポテンシャルを有することが示された.
著者
相澤 文恵 岸 光男 森谷 俊樹 南 健太郎 米満 正美
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.53, no.5, pp.535-543, 2003-10-30
被引用文献数
6

自己の口臭に対する主観的評価と客観的口臭レベルの関連性を分析するため,2000年5月,宮城県の高校生106名を対象として,口臭に関する質問紙調査を実施した.また,学校歯科健診時にイラストを用いた歯肉炎症程度の生徒自身による評価,揮発性硫化物(VSC)測定機器ハリメーター^[○!R]による口臭の測定,舌苔スコアによる舌苔付着の評価を実施した.本調査の結果,口臭の主観的評価は口腔関連の自覚症状の認識頻度と関連し,口臭の客観的評価であるVSC値とは関連しないことが示された.また,自己の口腔に対して高い関心をもつ人ほど自己の口腔内状態に対する評価が厳しく,口臭の主観的評価も厳しい傾向にあることが示された.さらに,口臭がないにもかかわらず口臭に対する主観的評価が高い人は,自己の口腔状態に敏感であり,ストレスを強く感じる傾向が認められた.これらのことから,口臭を過度に意識する状態は,もともと自己の口腔内状況に対する評価が厳しい傾向にある人が,日常生活におけるさまざまな出来事をストレスと感じるようになった場合に成立する可能性があることが示唆された.
著者
井川 恭子 田浦 勝彦 楠本 雅子 千葉 順子 針生 ひろみ 小関 健由
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.53, no.5, pp.554-563, 2003-10-30
被引用文献数
3

フッ化物配合歯磨剤の利用状況を把握し,う蝕予防に効果的な使用を推進するため,宮城県内の1〜3歳児,4〜5歳児,学童と彼らの保護者ならびに高等専門学校生の計2,188名(1〜56歳)を対象に質問紙調査を行った.「いつも歯磨剤を使用している」者は全体の66.2%で,そのうちフッ化物配合歯磨剤使用者の割合は,1〜3歳児で13.4%,4〜5歳児で34.0%,学童で52.3%,高等専門学校生で55.3%であり,保護者では66.5%であった.すべての群におけるフッ化物配合歯磨剤の使用率は,現状の同市場占有率より低かった.また,増齢とともに歯磨剤の1回使用量が増加し,歯磨き後の洗口回数も増加した.歯磨剤選択理由については「う蝕予防」が第1位,「フッ化物配合」が第2位と多かったが,1〜3歳児の使用していない理由は「誤嚥の心配」が第1位であった.今後の歯の健康づくりのためには,年齢を問わず,フッ化物配合歯磨剤をWHOに推奨されている適量を適切に使用することが望ましい.また,う蝕予防を推進するために,フッ化物配合歯磨剤の効果的利用に関する普及啓発の必要性が示唆された.
著者
可児 徳子 新谷 裕久 上坂 弘文 小澤 亨司 廣瀬 晃子 可児 瑞夫
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.46, no.5, pp.707-722, 1996-10-30
被引用文献数
15

病院歯科診療室の粉塵の粒度分布の把握と,粉塵濃度と気菌濃度ならびに気候環境因子との関連性を検討する目的で,4診療室と屋外において2年間にわたり測定を行った。分析項目は1.診療室の粉塵濃度の経時的推移と粒度分布および屋外粉塵との関係,2.粒度別粉塵濃度と気菌濃度の相関分析,3.粒度別粉塵と気候環境因子の偏相関分析,4.重回帰式による気菌濃度推定における粉塵因子の影響についてである。その結果,次のような成績が得られた。1.診療室の総粉塵濃度は屋外よりもやや高く,季節変動は屋外と類似し,時間変動は診療時間中に高くなる傾向が認められた。診療室と屋外の粉塵の粒度別割合は,いずれも0,3〜1.0μmの比較的小さな粒度範囲で98%以上を占めたが,5.0μm以上は診療室で高い割合を示した。2.浮遊細菌は2.0μm未満,落下細菌は2.0μm以上の粉塵と相関性の高い傾向を示した。3.粉塵濃度とエアコン稼働因子は,広い粒度範囲の粉塵と高い負の相関関係が認められ,粉塵対策におけるエアコン稼働の有用性が示唆された。4.気候環境因子に粉塵因子を加えた重回帰式による気菌濃度推定は,高い精度が得られ,粉塵因子は気菌濃度の即時推定において精度を向上させるのに有用であることが示された。
著者
川崎 浩二 田中 康弘 好川 正 安田 克廣 高木 興氏
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.103-109, 1995-01-30
被引用文献数
7

Nd-YAGレーザー照射によるヒト・脱灰エナメル質の表面構造を結晶学的に検討する目的で,健全エナメル質,脱灰エナメル質,レーザー照射エナメル質,脱灰後レーザー照射したエナメル質を高分解能電子顕微鏡で観察した。その結果,TEM観察により脱灰エナメル質の表層部は健全エナメル質のそれと類似した比較的緻密な結晶粒構造であるのに対して,10μm程度深部では結晶粒間に空隙が認められた。脱灰後レーザー照射したエナメル質表層部のTEM所見は表層から約100nmの深さまでがその下部に存在するエナメル質結晶と比較してコントラストが明るく結晶粒が確認されにくい領域であった。しかし同部位の高分解能像では結晶構造の存在を意味する格子縞が確認された。さらにその格子縞の間隔を測定して,JCPDSの面間隔データと比較検討することにより結晶学的解析を行ったところ,同部位はα-TCPまたはβ-TCPに変化している可能性が高いことが示唆された。
著者
森下 真行 宮城 昌治 河端 邦夫 石井 みどり
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.49, no.5, pp.780-785, 1999-11-30
被引用文献数
5

平成7年度広島県歯科保健実態調査事業報告書のデータをもとに,広島県におけるう蝕,歯周疾患治療および欠損補綴治療ニーズを算出した。選挙人名簿登録者から無作為に5,017名を抽出して調査対象とした。対象者のうち1,544人が受診し,受診率は31.2%であった。う蝕治療のニーズ量は,未処置歯数に要再修復歯数を加えたものとした。歯周疾患治療のニーズ量はCPITN最大コード別割合に,年齢階級別人口を乗じたものとした。補綴処置を必要とする欠損部位を有するにもかかわらず,処置を受けていない者の人数を欠損補綴ニーズ量とした。全体のう蝕治療ニーズ量は約468万本で,人口構成の割合が高かった40歳台が最も多かった。ニーズ量を歯科医師一人あたりに換算すると2,463歯,一診療所あたりでは3,631歯であった。歯周疾患治療のニーズ量は全体で約180万人であり,男性では40歳台でコード3,女性では50歳台でコード3の人数が最も多かった。欠損補綴治療を必要としている人は約36万人で,20歳以上の全人口に占める割合は16.5%であった。歯周疾患治療ニーズ量はCPITN最大値コードを用いて推計したので,過小評価されている。したがって,歯周疾患治療に要する時間は,う蝕治療と同等かそれ以上である可能性が考えられた。今後さらにこのような実態調査を継続し,歯科治療ニーズ量の推計を行うことが重要と考えられた。
著者
深井 穫博 眞木 吉信 高江洲 義矩
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.46, no.5, pp.676-682, 1996-10-30
被引用文献数
11

口腔保健行動は生涯発達のなかで獲得・修正・定着するものであるが,成人期以降の口腔保健行動については不明な点が多い。本研究では質問紙調査を行ない,成人の口腔保健行動の年齢特性について検討した。調査対象は,関東地方の7企業に勤務する20歳から50歳代の男性468名,女性205名の計673名である。調査内容は,(1)口腔保健に関する態度,(2)口腔保健用語の認知度,(3)口腔の健康に関する自己評価,(4)口腔保健行動に関するものである。「歯・口に関する会話」,「新聞の健康欄への注目度」「歯・口を鏡でみる頻度」の質問項目から,自己の口腔内への関心度は中高年層ほど高まることが示された。しかし,この関心度は知識等の情報収集行動には反映されるが,自己の口腔内を直接観察する行動には結びついていないと思われた。口腔保健用語の認知では,全年齢層にわたり50%以上の者が「知っている」と回答した用語は「歯石」,「歯垢」,「歯周病」であり,成人期によくみられる歯周病に関連したものであった。口腔の健康状態に関する自己評価では「外観や噛み具合に満足している」と回答した者が,24歳以下の年齢層で10〜20%に対し,55歳以上の年齢層では20〜30%であった。昼食後・就寝前の歯みがき習慣の有無といった口腔清掃行動では中高年層に比べて若年齢層の方が定着していた。また「かかりつけの歯科医師の有無」,「定期歯科健診の受診」についての受診・受療行動では逆に若年齢層に比べて中高年齢層が高い割合を示していた。
著者
岡崎 好秀 中村 由貴子 東 知宏 宮城 淳 田中 浩二 久米 美佳 大町 耕市 下野 勉
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.2-8, 1999-01-30
被引用文献数
19

幼稚園児(5,6歳)94人を対象として,齲蝕活動性試験Cariostat^[○!R](三金工業)・Dentocult-SM^[○!R] Strip mutans (Orion Diagnostica)・Dentocult-LB^[○!R] (Orion Diasnostica)と口腔内状態の関連性について調査した。1 : Cariostatは,全員から採取可能であった。しかしDentocult-SM Strip mutans・Dentocult-LBは,85名(90.4%)しか採取できなかった。2 : 幼稚園児の齲蝕有病者率75.3%1人平均d歯数4.04歯,平均df歯数6.55歯,CSI 13.9であった。3 : Carinstat^[○!R]とDentocult-LB^[○!R]は,d歯数,df歯数,CSIの各齲蝕指数との関係において高度の相関が認められた(p<0.001)。4 : Dentocult-SM^[○!R] Strip mutansは,d歯数,df歯数と高度の相関性が認められた(p<0.01)。5 : すべての試験方法において,健全群と未処置群,処置終了群と未処置群の間に有意差が認められた(p<0.05)。6 : Cariostat^[○!R]はスクリーニング基準を1.5/2.0間にしたとき,敏感度0.703,特異度0.857となった。Dentocult-SM^[○!R] Strip mutansでは2/3間で敏感度0.359,特異度0.900であったDentocult-LB^[○!R]では10^3/10^4間で,敏感度0.625,特異度0.85となった。Cariostat^[○!R]とDentocult-LB^[○!R]は齲蝕指数と同程度の相関が認められたが,Dentocult-SM^[○!R] Strip mutansの相関はやや低かった。
著者
笹原 妃佐子 貞森 紳丞 津賀 一弘 河村 誠
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.148-155, 2006-04-30
被引用文献数
2

本研究では,質問紙により顎関節症の罹患状況の現状と経過を把握し,その現状や経過とデンタルプレスケール^[○!R]を使用した咬合の状態との関連を検討することを目的に疫学調査を行った.最初に,大学もしくは専門学校の1年次生に,顎の状態を尋ねる質問紙調査を行った.その後,1名の検者が感圧フィルム-デンタルプレスケール^[○!R](50H: Rタイプ,富士フィルム社製)を用いた咬合の状態の診査(有効咬合面積の割合,咬合面積,平均咬合圧,最大咬合圧および咬合力),および最大開口量の測定を行った.分析は,18歳から20歳までの男性359名,女性336名の計695名について行った.その結果,約半数の学生が顎の異常を経験していたが,調査時点で日常生活の不都合を訴えたものは少なかった.顎の異常を経験した学生のほとんどで症状は改善もしくは無変化であり,悪化を経験した者はまれであった.しかし,治療で症状の改善した者はわずか21名であった.顎関節症の罹患状況と咬合の状態との関連では,女性において,顎の状態の良い者ほど咬合接触面積が広く,咬合力が大きかったが,男性では,顎の状態の良い者ほど有効咬合接触面積の割合が小さく,最大咬合圧が大きかった.そこで,顎関節症は思春期には非常に一般的な疾患ではあるが,重症者は少なく,自然治癒が起こりうる疾患であると思われた.しかし,顎関節症の自覚症状と咬合の状態との関連については,性差の原因が不明であり,今後の検討が必要である.
著者
今井 顕 濱嵜 朋子 笠井 幸子 粟野 秀慈 邵 仁浩 安細 敏弘 朴 永哲 宮崎 秀夫 竹原 直道
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.53, no.5, pp.574-584, 2003-10-30

この研究の目的は,韓国人の歯列弓と口蓋の形質の特徴を明らかにすることである.研究には韓国人学生(18〜32歳)から得られた209組(男性105人,女性104人)の上下顎模型を用いた.得られた計測値について,男女間およびこれまでわれわれが報告してきた12集団との比較検討を行った.その結果,韓国人はほとんどの計測項目において有意な性差が認められた.また,男女ともに中央アメリカに住むヒカケ族と多くの項目において有意な差を示した.さらに,韓国人の口腔の形質人類学的住置づけを明らかにするために,クラスター分析,近隣結合法,多次元尺度構成法を行った結果,韓国人は男女ともバリ島民,台湾高山族やヒカケ族よりも日本人,台湾在住の中国人に近いということが明らかとなった.
著者
金子 正幸 葭原 明弘 伊藤 加代子 高野 尚子 藤山 友紀 宮崎 秀夫
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.26-33, 2009-01-30
被引用文献数
6

平成18年度より,地域支援事業の一環として口腔機能向上事業が実施されている.本調査の目的は,口腔機能向上事業が高齢者の口腔の健康維持・増進に与える効果を検討し,今後の事業展開のための指針を得ることである.対象者は65歳以上の高齢者で,基本健康診査を受診し,厚生労働省が示す特定高齢者の選定に用いる基本チェックリストの「半年前に比べて固い物が食べにくくなりましたか」「お茶や汁物等でむせることがありますか」「口の渇きが気になりますか」の3項目すべてに該当する55名である.対象者に対して,口腔衛生指導や集団訓練としての機能的口腔ケアからなる口腔機能向上事業を,4回または6回コースとして3ヵ月間実施した.口腔衛生状態,口腔機能およびQOLについて事業前後の評価を行った.その結果,反復唾液嚥下テスト(RSST)積算時間は,1回目:事前7.5±5.6秒,事後5.6±3.1秒,2回目:事前16.2±9.7秒,事後12.4±6.9秒,3回目:事前25.7±14.7秒,事後19.4±10.9秒と改善がみられ,2回目,3回目について,その差は統計学的に有意であった(p<0.01).口腔機能についてはその他のすべての項目について,統計学的に有意な改善がみられた.本調査より,新潟市における口腔機能向上事業は,高齢者の摂食・嚥下機能をはじめとした口腔機能の維持・増進に有効であることが認められた.
著者
米永 哲朗 新谷 裕久 小澤 亨司 福井 正人 徳竹 宏保 可児 徳子 可児 瑞夫
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.325-334, 1998-07-30
被引用文献数
1

病院内での快適な環境を構築するための改善の指針を得ることを目的として,外来患者に対し病院環境衛生に関するアンケート調査(診療室,待合室)を実施すると同時に,待合室の環境測定を行った。分析項目は,1.アンケート調査による快適性の検討,2.アンケート調査結果と環境測定値との関連性についてである。次のような結果が得られた。1.病院の環境衛生に不満を感じているものは少なく,総合評価で快適と感じているものの割合は診療室30.4%,待合室25.5%であった。快適と感じているものの割合の経時的推移は,月・時間により14.6〜38.2%の変動が認められ,7月,3月の午前に高く,5〜9月の午後に低いことが示された。2.数量化II類による快適性の判別的中率は高い精度(診療室93.3%,待合室91.6%)であり,快適性を弁別する因子は,診療室では高いほうから順に衛生状態,明るさ,騒音であり,待合室では明るさ,衛生状態,騒音の順位であった。3.待合室における環境測定値とアンケート回答には,温度,湿度,騒音ならびに明るさの因子については高い関連性が認められた。また患者の感覚に基づく快適な環境の推定値は,年間を通じて気温21.2〜25.0℃,気湿33.2〜41.5%,騒音58.9dB以下,照度750〜937 Lxであることが示唆された。4.待合室の快適性の判別分析による簡便なモニタリングに,照度ならびに騒音の環境測定値を用いることの有用性が示唆された。以上の結果,快適性の経時的推移,弁別因子ならびに数値目標が示され,より快適な病院環境を構築するうえでの指針が得られた。
著者
安藤 雄一 高徳 幸男 峯田 和彦 神森 秀樹 根子 淑江 宮崎 秀夫
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.248-257, 2001-07-30
被引用文献数
14

成人を対象とした歯科健診は低受診率による選択バイアスが生じやすいことから,1999年度に行われた第4回新潟県歯科疾患実態調査では,従来の歯科健診のみによる方式から,あらかじめ調査対象者全員に質問紙を配布して歯科健診を行う方式に切り替えた。本論文では,歯科健診の受診率と質問紙の回答率,健診受診者と非受診者の特性を比較することにより,新たに採用した調査方式の有用性を評価することを目的とした。調査地区は,新潟県内14保健所に1〜2地区を割り当て,23地区を抽出した。調査対象者は,対象地区内に在住する1歳以上の全住民3,561名とした。歯科健診の受診率は35.3%と低く,年齢・性差が大きかった昿質問紙の回収率は83.2%と高く,年齢・性差は小さかった。質問紙の各項目について健診受診の有無別に比較した結果,自己評価による現在歯数は60〜70歳代で受診者のほうが多かった。これは,歯科健診のみによる従来型の調査方法を採用し,受診率が今回のように低い場合,高齢者の現在歯数が過大評価されることを示唆している。また,歯科健診の受診者は,非受診者に比べて,口腔の自覚症状を有する割合が高く,歯科医院を早めに受療し,歯石除去経験のある割合が高かった。以上より,今回新たに採用した調査方式は,対象集団の実態を正しく示すために有用と考えられた。