著者
笹井 芳樹 笹井 芳樹
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

脊椎動物の神経発生の初発段階は外胚葉に神経誘導が作用して始められる。神経誘導因子Chordinを作用させた未分化外胚葉とさせていないものとを用いてデファレンシャル・スクリーニングを行い、多数のChordinで誘導される神経特異的遺伝子を単離した。そのうち3つの転写因子(Zic-related 1,Sox-2,Sox-D)はこれらはごく初期神経板全体に発現しており「微細なパターン形成」が行われる前に働く遺伝子と考えられた。アフリカツメガエルのアニマル・キャップを用いた微量注入法の解析の結果、Zic-related1,Sox-Dは単独で外胚葉の神経分化を誘導することが明らかとなった。これらはChordinの下流で働き、神経誘導因子のエフェクターとして神経分化のごく早いタイミングで働き、proneural genesの発現の上流で働くことが示された。上記の2つのSox因子についての機能解析を行うため、DNA結合領域を欠損させたドミナント・ネガチィブ変異体を作成し、mRNA微量注入法により胚での神経発生における機能を検討した。SoxDのドミナント・ネガチィブ変異体を強制発現させ機能阻害をすると、胚の大脳の発生が顕著に抑制され、OTXなどのマーカーも抑えられた。このことはSoxDが大脳原基の発生に必須であることを示す。しかし、中脳より後方の発生は大きな変化が認められなかった。一方、Sox2のドミナント・ネガチィブ変異体を強制発現させた胚では、大脳のみならず神経板全体の神経マーカーの抑制が認められた。
著者
黒沢 晶子
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

中国語を母語とする学習者にとって識別の難しい入声音に焦点を当てて三部構成の日本語漢字音教材を開発した。まず、日本語字音を北京語、中国語南東部方言や韓国語の字音と対照させ、北京語で同音になる字群が他の言語では二つの異なる終わり方をすることを知る(例:fu 復・腹・福 フク、富・父・付 フ)。次に、音符を活用して、既習字音から未習字音を類推しつつ入声・非入声を識別する(適・敵→摘:入声、低・底→邸:非入声)。さらに、既知の語から音変化の規則性(例:発見と発明)を帰納的に導き出し、未習語に応用する。教材作成の基礎として、227の音符データベースを作り、学習者の方言使用・方言字音識別等の調査を行った。
著者
中尾 智博 村山 桂太郎 樋渡 昭雄 實松 寛晋
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

ためこみ症17名と、年齢・性別をマッチさせた強迫症患者、健常対照群それぞれ17名が本研究に参加した。3群の灰白質体積に差が存在するかを調査した。3群の平均年齢はそれぞれためこみ症:43.9±11.5歳、強迫症:39.9±9.0歳、健常対照群:42.4±10.4歳だった。分散分析において、右前頭前野で3群の間に有意な体積の差異を認めた。OCDと同様に、HDは認知機能障害をその基礎として有すると考えられている。 この結果は、HDの臨床的特徴を考慮した上で説得力があり、前頭前野領域の構造異常がHDの病態生理学に関連する可能性が示唆された。
著者
成田 正明 成田 奈緒子
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

研究代表者らが2001年にPediatric誌に発表した乳幼児突然死症候群(SIDS)におけるセロトニントランスポーター(5HTT)遺伝子多型結果は、SIDSの新しい危険因子を見出したもの、SIDSを未然に防ぎうるものとしてその後も、小児救急医学会での会長要望演題、学会誌への会長依頼論文、専門誌からの依頼原稿、マスコミからの取材などを引き受けたほか、突然死裁判での鑑定依頼、国内・国際学会からのシンポジウム講演依頼など、社会からの反響はますます大きくなるばかりである。2003年にはAmercan Journal Medical Genetics誌により大きな母集団を用いた追試実験の報告がなされ、そこで研究代表者らのデータが確かめられた。さらに本研究はSIDS研究のみならず、その発症にセロトニンが関与しているとされる他の疾患即ち慢性疲労症候群、神経性無食欲症などにも発展し、遺伝子解析でいずれも正常と比べ疾患群で有意な相関を認め学会、研究会などで報告、学術論文として投稿中である。一方5HTT以外のセロトニン関連遺伝子多型解析も同時に進めているが、これまでのところ有意な相関は認められていない。これは転写活性領域に存在する5HTT多型が、いわゆる"機能性"多型であることと関係があると思われる。そこで5HTT多型がアリルによってどのように転写活性機能が調べる必要がある。国内外の報告では活性調節における差に関するデータは議論が多い。これと平行して、セロトニン関連疾患の病因病態に関しては遺伝子からのアプローチだけでなく、神経栄養因子蛋白(脳由来神経栄養因子BDNF)の発現量測定で診断ができる可能性を見出した。また同じくセロトニン関連疾患とされる自閉症についても自閉症モデルラットを作成し論文発表した。以上述べてきた成果に基づき研究代表者は科学技術振興事業団「脳科学と教育」の班員にも任命されており、今後もSIDS原因究明・発症予防に向けて研究を続けていきたい。
著者
天野 敦雄 秋山 茂久 森崎 市治郎
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

Porphyromonas gingivalis線毛遺伝子(fimA)は核酸配列の違いにより5つの型に分類される.Polymerase chian reaction(PCR)法を用いたプラーク細菌叢の分析により,歯周病患者から分離されるP. gingivalis株と,健康な歯周組織を有する被験者からのP. gingivalis株の線毛遺伝子(fimA)型の相違を検索した.30歳以上の健康な歯周組織を有する被験者380名と歯周病患者139名からプラークと唾液を採取し,P. gingivalisの検出とfimA型の決定を行った.87.1%の歯周病患者と,36.8%の健康被験者からP. gingivalisが検出され,そのP. gingivalisのfimA型は,健康被験者では80%近くは1型fimA株であり,逆に歯周病患者では2型と4型fimA株が優性であった.特に,2型fimA株は歯周病との相関が,オッズ比で44と計算され,これまで報告されている中で最も強い歯周病のリスクファクターであることが示された.また,2型fimA株の分布は歯周ポケット深さと強い相関性を示し,8mm以上の深いポケットから検出されるP. gingivalisは90%以上が2型株であった.歯周炎に高い感受性を示す遺伝的素因を有し,早期に重篤な歯周疾患が併発するダウン症候群成人患者と,プラークコントロールが著しく不良な精神発達遅滞成人においても同様の検討を加えたところ,歯周病の重篤度とP. gingivalisの2型がfimA保有株との強い関連性が認められ,どのような因子をもつ宿主においても2型fimA保有P. gingivalisの歯周炎への密接な関与が示された.上記5つの型の線毛に対応するリコンビナントタンパク(rFimA)を新たに作製し,ヒト細胞への付着・侵入能を比較した.上皮細胞へのrFimAの結合実験では,2型rFimAが他のrFimAと比較して3〜4倍量の付着を示し,さらに細胞内への侵入も群を抜いて顕著であった.一方,繊維芽細胞への結合では型別による有意な差は認められなかった.rFimAの細胞への付着・侵入は,抗線毛抗体,抗α5β1インテグリン抗体により顕著に阻害され,同インテグリン分子が線毛を介したP. gingivalisのヒト細胞への付着・侵入に関わっていることが示唆された.さらに,各線毛型の代表菌株を用いた付着実験を行った結果,2型線毛遺伝子を保有する株は,30%と高い上皮細胞への侵入率を示したが,3,4,5型線毛株の侵入率は2-5%であった.これらの結果から2型線毛遺伝子を保有するP. gingivalisは口腔内上皮細胞への高い付着・侵入能を有し,上皮によるinnnate immunityを踏破し歯周組織への定着を果たすと考えられ,同遺伝子型のP. gingivalisが歯周病の発症に強く関与していることが示唆された.
著者
多田 旭男 岡崎 文保
出版者
北見工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

種々の無機多孔質基材に触媒金属水溶液を含浸させ、乾燥・熱分解を行なって細孔内に触媒金属酸化物微粒子を形成させた後、反応管に入れてメタンガスと500℃以上で接触させることによりまず金属酸化物微粒子を金属微粒子に還元し、続いてそれらの上でメタン分解反応を行なわせ、細孔内に導電性炭素粒子を蓄積させた。無機多孔質基材として市販発泡セラミック基材(イソライトレンガ)を用いた場合には反応温度が800℃であっても基材が熱変形せず、所期の電磁波吸収特性を示した。しかし、無機多孔質基材として発泡ガラスを用いた場合、反応温度が800℃では基材が熱変形を起こすことが多かった(特にリサイクルガラス発泡体)。また触媒金属としてて鉄を用いたときには電磁波吸収特性がきわめて低かった。熱変形は基材の融点が低いためシンタリングを起こすこと、酸化鉄はガラスと反応して鉄微粒子に還元されにくいケイ酸鉄を生成してメタン分解な阻害するため、導電性炭酸粒子を十分に生成しないことが原因であった。これらの知見は、無機多孔質基材として発泡カラス用いる場合には、シンタジンダしない温度でメタン分解反応を行なわせ、また触媒金属酸化物にはガラスとケイ酸塩を生成しにくいものを選択すればよいことを示唆する。実際、発泡ガラスに硝酸ニッケル水溶液を含浸させて酸化ニッケル粒子を細孔に生成させた場合には熱変形を起こすことなく、良い性能の電磁波吸収体を製造できた。基材として一辺が7cm程度の正四角錐形イソライトを用い、含浸法で触媒金属酸化粒子を細孔に形成させてメタン分解を行なった場合、炭素粒子濃度は表面部で高く内部では低くなった。それでも、その電磁波吸収特性は市販品に匹敵した。基材内外の炭素粒子濃度差は基材サイドが小さくなるほど縮まる傾向が見られたので、我が提案する方法は基材が小型化、平板化する高周波帯域用電磁波吸収体の製造に適していることがわかった。
著者
宍戸 真
出版者
東京電機大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究は視線データを2種類の方法で解析した。一つは学生の習熟度を基準としもう一つは英文の難易度を基準とした。視線動向の特徴は、英語習熟度ばかりでなく、英文の難易度と相関しており、認知的な要素もこれらと相関があることがわかった。習熟度が高くなると注視時間は短くばらつきは小さく、回数も少ない。英文の難易度が高くなると、注視時間は長くばらつきが大きく、認知的要素の干渉を受けやすくなる。今回の研究から、習熟度の低いものは注視時間が長、視線の逆行が多く見られる。英文読解時に、視線を一定間隔で左から右に移動させ、数語を一度に一目で見るような読み方を身につけるe-learning教材が理想的であると考える。
著者
小沢 憲二郎 三橋 渡
出版者
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

植物発現用ベクターを、以下の外来遺伝子とプロモーターを使用して構築した。外来遺伝子は、フゾリン遺伝子(ドウガネブイブイ寄生の昆虫ポックスウイルス由来)及びBt毒素(CryA1c)遺伝子の単独、あるいは両方、プロモーターは、35Sプロモーター、またはより高発現を目指したRubisCOプロモーターを35Sプロモーターに連結したものである。次に構築したべクターをアグロバクテリウム法により、ブロッコリー(緑嶺)、タバコ(SR-1)に導入した。選抜マーカーは、ハイグロマイシン耐性遺伝子(HPT)とした。ハイグロマイシン耐性を示す再分化個体について、PCRによってフゾリン遺伝子またはBt毒素遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子の確認を行った。発現系統の一部では交配によりF1個体を得た。次に、Bt毒素遺伝子、あるいはフゾリン遺伝子を導入したタバコ葉を粉末にし、単独、または両者を腐葉土に混ぜ、その腐葉土中でドウガネブイブイ1齢、2齢幼虫を飼育し、前者は4日後、後者は7日後の死亡率を腐葉土のみで飼育した場合と比較することにより、粉末の殺虫性を評価した。その結果、1齢幼虫で、Bt毒素遺伝子単独発現葉の粉末を加えた場合に2系統で殺虫活性が認められた。一方、両者粉末を加えた場合は、Bt毒素遺伝子単独発現葉の粉末を加えた場合と比較して死亡率の上昇は認められず、フゾリン発現葉の活性(Bt毒素の殺虫活性の増進)は特に認められなかった。この理由として、フゾリン発現量が増進活性を示す閾値以下である可能性、葉の乾燥時の高温によるフゾリンの不活化の可能性が考えられたので、次年度以降の実験方法の変更によりこの点を明らかにする必要が生じた。
著者
中村 洋 佐藤 是孝
出版者
愛知学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

ECMの分解において重要視されている酵素の1つであるMMPsとその共通の内因性阻害因子であるTIMPsのバランスの崩壊は、組織破壊の進行の重要なポイントとなっている。これまでに根尖性歯周炎関連細菌がMMP-1やMMP-9を活性化することは報告されているが、プロMMP-2の活性化およびTIMPsの不活性化についての報告は少ないので本研究で検索する。1)MMP-2活性の測定 各SBE共存下で培養したPL細胞培養上清中のMMP-2活性と、各SBEをHT1080細胞培養上清と反応したものをゼラチンザイモグラムで解析した。その結果、両実験ともにP.gingivalisSBE添加群では、活性型MMP-2と考えられるバンドの出現を認めた。2)TIMP-1量およびTIMP-2量の測定 TIMP-1量はKodamaらがそれぞれ開発したEIA法にて測定した。その結果、PL細胞培養上清ではP.gingivalis SBE添加群ではTIMP-1を検出できなかった。また、HT1080細胞培養上清とP.gingivalis SBEとの反応では、TIMP-1,2量はP.gingivalis SBEの濃度依存的に減少傾向が認められた。3)TIMP-1活性の測定 精製TIMP-1と各SBEを反応させ,反応液中に残存するTIMP-1活性をMMP-1およびMMP-2に対する阻害活性として測定した。P.gingivalisのSBEは、TIMP-1のMMP-1阻害活性を低下させた。また、リバースザイモグラム法にてMMP-2に対するTIMP-1の阻害活性を検索した。コントロールに比べて、P.gingivalisSBE添加群の場合には、その活性バンドの著しい減少(MMP-2に対する阻害活性)を認めた。
著者
知念 直紹 保坂 哲也
出版者
防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工学群)
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究の目的は、幾何学的群論において重要な群である無限離散CAT(0)群の研究である。特に、CAT(0)群の幾何的に作用するCAT(0)空間の位相的性質あるいは Gromovが提案したCoarse的な性質の研究である。当該年度はNovikov予想と関連があるasymptotic次元の有限性の研究に従事した。3月に実施された早稲田大学での幾何学的トポロジーの研究集会において、早稲田大学の佐藤氏よるBaumslag-Solitar群のHopfian性の解説、特に小山氏による計算トポロジーの視点からみた有限空間の逆極限の解析は、コンパクト空間の逆極限であるCAT(0)空間の理想境界の解析に適用できると考えられるので、有限空間の逆極限の解析をすることによってasymptotic次元の有限性の研究に生かした。また、任意のコンパクトな距離空間はある有限空間の逆極限とホモトピー同値であることから、この結果はCAT(0)群となんらかの関係があると予想される。CAT(0)空間の基礎的あるいは代表的な空間であるユークリッド空間の無限等長群を研究することは無限CAT(0)群を研究することにおいて重要である。もっと一般に、ある性質Pをもつ位相群について、その位相群は位相群の半直積と同型となるかを解析した。よく知られている有限次元ノルム空間の有限対称積の等長群を決定したが、無限次元ノルム空間はいまだに解決には至っていない。引き続き無限次元について研究を行う。また、任意のコンパクトな距離空間はある有限空間の逆極限とホモトピー同値であることのシンプルな証明を横浜国立大学の横浜セミナーにおいて発表した。特にその逆極限の中に位相的に距離空間を埋め込めることができ、その埋め込みは距離空間として最大であることも分かった。
著者
白鳥 英
出版者
東京都市大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

半導体デバイス、MEMS、ディスプレイのカラーフィルタ等の製法では機能性の液膜を基板に塗布する工程があるが、様々な物理要因によって種々の膜厚ムラが発生し、最終製品の寸法精度が低下してしまう課題がある。この膜厚ムラの発生を回避・抑制できるような最適塗布条件を数値シミュレーションによって探索したいが、従来の方法では①時間発展計算に時間を要すること、②計算に必要な塗膜の物性値の測定・入手が困難なこと、が障壁となっていた。本研究では①支配方程式を教師とした機械学習を導入して高速に膜厚ムラを予測する枠組みを構築し、②塗膜の物性値をデータ同化の方法によって推定できるようにすることで上記の課題の解決を目指す。
著者
辻本 拓司 和南城 伸也 石垣 美歩 西村 信也 戸次 賢治 Gerhard Hensler
出版者
国立天文台
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

金やプラチナに代表される中性子を素早く捕獲して形成されるr過程元素の天体物理学的起源については、未だ同定できていない。2017年の夏、連星系にある2つの中性子星の合体がその起源であるという極めて有力な手掛かりを我々は掴むこととなったが、まだ断定できる状況には程遠い。さらに、中性子星合体が唯一の起源であることに対し、複数の観測事実が疑問を呈している。本研究は星の化学組成という独自の視点からr過程元素の起源に迫ろうとするものであり、我々は中性子星合体が支持されること、しかし一方で銀河形成初期では特殊な超新星(磁気駆動型超新星)が出現していたことを突き止めた。
著者
丸山 博
出版者
室蘭工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

国際環境法や国際人権法の先住民族文化に関する条項を検討し、北欧のサーミ政策と日本のアイヌ政策との比較研究を行うことによって、「二風谷地域の伝統文化の再生と地域環境の保全にはアイヌ民族のエンパワーメントが不可欠であること」を原理的に明らかにした。具体的にいえば、生物多様性条約8条j項は、先住民族の伝統的知識(TEK)が生物多様性の持続性に寄与することから、その保護を求めるものであるが、日本の生物多様性基本法にはそれに対応する条項がなく、アイヌ・コミュニティの生物多様性の保全が危ぶまれていることを明らかにし、国際人権規約など国際人権法に照らして日本政府は直ちに対応すべきだとした。
著者
高橋 寛人
出版者
横浜市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

教刷委で教員養成をめぐってアカデミシャンとエデュケーショニストの論争が展開されたことが知られている。しかし、本研究によって、教刷委での議論の前に、CIEの指示に基づいて、東京第一師範学校での新カリキュラムの開発と師範学校用の新教科書の編纂が精力的に進められていたことが明らかになった。すなわち、CIEと文部省は、教員養成を目的とする学校の存続を前提として改革に着手しており、そこでは当初から教職教育を重視していた。
著者
菱田 慶文 中嶋 哲也 細谷 洋子
出版者
四日市看護医療大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

今年度の調査は、8月にタイで行われたアマチュアムエタイの世界ユース大会と12月末ブラジルのリオデジャネイロにある4つのブラジリアン柔術の道場に調査に行くことができた。タイ国のアマチュアムエタイ世界大会では、ブラジルチームにインタビューした結果、選手は、自ら渡航費を捻出するほどの金銭を所持しておらず、チームは、寄付金や企業にスポンサーとなってもらい世界大会に参加している状況であることが分かった。大会事務局発行のアマチュアムエタイの機関誌において、リオデジャネイロやサンゴンサロなどの都市では、ムエタイの普及が、教会や公民館などを借り,ボランティアて行われていることが分かった。ファベイラ(スラム街)では、特に、犯罪組織や麻薬の密売者に関わらせないためにも活動が重要であると記されている。ムエタイのボランティア指導は、週に2、3回行われており、参加者の中には、いじめ被害者や不登校児の報告もあった。12月に行ったブラジル、リオデジャネイロでの調査は、観光客でにぎわうコパカーナビーチにあるブラジリアン柔術道場やカンタガーロのファベイラにある柔術場の調査に成功した。コパカーナビーチの柔術道場は、ミドルクラス以上の白人が多く、フィットネスでもブラジリアン柔術は、行われていた。これらの道場の教育観は、少年少女に礼儀作法や身体訓練など健全育成のために、ブラジリアン柔術を教えるという理念のもと行われている。一方、ファベイラのジムでは、健全育成の側面に加えて、前述のムエタイと同様に、犯罪組織や麻薬の密売から遠ざけたい、という目的が第一であり、柔術をやっていれば、将来にファベイラ以外での生活ができるように、目標を持たせたい、等という、教育観を垣間見ることができた。これらの道場もボランティアでムエタイやブラジリアン柔術を教える人々の教育観や格闘技観を知ることができた。
著者
田島 木綿子 和田 敏裕
出版者
独立行政法人国立科学博物館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

2008年から2016年にかけて科博が収集した約1600個体のうち、約150個体を本研究用解析として選別し福島大学にて、当該筋肉サンプルの放射性セシウムと骨内放射性ストロンチウムSr90の蓄積量解析をゲルマニウム半導体検出器を用いて実施した。その場合、コントロールとして九州地区の漂着鯨類を用いた。その結果、風評被害もあるので詳細はまだ控えるが、原発事故直後に茨城県および千葉県で発見された数個体の漂着個体(鯨種も数種)の筋肉から高濃度のセシウムCr-134とCr-137が検出された。この成果は慎重に扱いつつ、解析サンプルを増やし、成果の信憑性を検証する。やはり九州地区の個体からは基準値以下の結果しか得られていない。さらに、実質的な病理学的変化はこれらの個体からはまだ得られていないが、脳を含めた各臓器の所見を引き続き比較・検討する。高濃度セシウムCr-134とCr-137が検出された鯨種の食性結果も別課題で共同研究している北海道大学から得られたため、生物濃縮を検証するための基盤ができた。また、福島原発近くにあたる、茨城県、千葉県、宮城県において、新たな漂着個体を約20件調査することができた。その中には、沿岸性個体と外洋性個体が含まれており、さらには浅瀬で棲息する個体と深海で棲息する個体もいる。海洋の場合は横の広がりだけでなく、縦の広がり(深いー浅い)もこうしたことを考えていく上で重要となる上、継時的変化をみるためには、本年度調査した標本も本研究に追加していく予定とする。さらに、アジア保全医学会(ボルネオ、マレーシア)、日本セトロジー研究会(函館、北海道)、日本野生動物医学会(武蔵野市、東京)、つくみイルカ島シンポジウム(津久見市、大分県)の学会・シンポジウムに参加し、本研究への共同研究の可能性ならびにサンプル提供の依頼を精力的に行った。
著者
新妻 実保子
出版者
中央大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

ロボットの愛着行動モデルの堅牢性に課題があり,長時間安定してロボットを動作させることが困難であることが実験の準備を通じて明らかになった。また,「なつき度」としてモデル化している人とロボットの関係性を,人とロボットのインタラクションの履歴から更新する処理が適切に計算されていないことがわかった。そのため,今年度は,長時間の実験実施に向けた愛着行動モデルの改良を行った。その結果,長時間安定して動作できることを確認し,愛着行動の有無によるロボットとのコミュニケーション実験を通じて,新しく改良した行動モデルによって,適切に愛着行動が示され,さらにロボットやロボットの振る舞いについて事前知識のない被験者であっても,ロボットが誰に対して懐いているかといった愛着行動の特徴を適切に理解していることを確認した。なつき度の適切な変化に関しては引き続き取り組んでいく。また,生活空間でのロボットの利用を考え,ロボットの愛着行動に加え,見守り機能を実装した。3次元測域センサによる人の位置,姿勢の計測,及びカメラとの統合による人の視野推定を新たに実現し,環境の構成と人,ものなどの動物体の移動履歴を表した環境地図を生成し,不審者,不審物,人の危険などを検出し,ロボットが人へ伝達する。この機能は,生活空間でのロボットの長期利用を想定しやすくするものと位置付けられる。さらに,不審物の存在などを非言語情報で伝達できることを確認し,また愛着行動をベースとして見守り行動を導入した際も被験者はロボットの愛着行動を理解していることを確認した。
著者
緒方 秀教
出版者
電気通信大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究は、科学技術計算におけるポテンシャル問題の数値解法である代用電荷法および双極子法の理論・実験的研究を目的とする。代用電荷法は仮想点電荷のポテンシャルの重ね合わせで解を近似する方法であり、点電荷の代わりに仮想電気双極子のポテンシャルを用いると双極子法を得る。双極子法について双極子配置の仕方に特に研究の重点を置き、円周の等分点を等角写像で写した点に双極子を置く方法がよいことを数値実験により示した。また、代用電荷法・双極子法の複素解析関数近似の応用も行い、理論・実験両面からこの解析関数近似が良い精度を達成することを示した。さらに、関連研究として、佐藤超函数論に基づく数値積分の研究も行った。
著者
乾 亨
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

近年多くの自治体が取り組みつつある「制度化された地域自治組織」の仕組みや実践事例の調査研究を通して、地域自治組織が自由に使える「拠点」と、地域組織の運営を下支えする「事務局機能」の存在が、コミュニティ自治力の向上(コミュニティ活動の活性化・地域運営力の向上)のために重要であることを明らかにした。調査対象事例は主に、神戸市の真野地区まちづくり推進会、福岡県下の自治協議会組織、京都市本能学区のまちづくり活動である。