著者
前田 富士男
出版者
中部大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

画家パウル・クレー(1879-1940)は、その制作論の基礎に形態学的な「生成(Werden)」を掲げた。本研究はまず、その背景に世紀転換期の実験発生学の研究、とくに生物学者ハンス・ドリーシュの新生気論の活動を指摘した。つぎに、19世紀半ばから発展したドイツの生理心理学のエルンスト・ヴェーバーらの研究による体性感覚の「ハプティク(内触覚Haptik)」の様態を検証し、クレーの多種多様な作品も、こうした内触覚的な様態の反映にほかならないことを解明した。
著者
島村 礼子
出版者
津田塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究の目的は、語がもつと考えられる形態的緊密性という特徴を拠り所にしたときに、語の正確な定義がどこまで可能になるかについて考察することである。本研究で明らかになったのは主として以下の2点である。まず、語の形態的緊密性の原理は一般には、diSciullo and Williams (1987)などで言われている原理、つまり、統語規則は語の内部に直接アクセスしてはならない、という原理と考えられているが、これを、Haspelmath (1992)で示唆されている原理、つまり、語順や構成素配列に関係する統語規則は語の内部に適用することはできない、という原理に改めるべき(弱めるべき)である。二番目に、派生語の場合、その基体である動詞の項構造を統語構造へ投射するのを許す派生語と許さない派生語とがあり、その違いは主要部の接尾辞の違いに帰することができると考えられる。もしそうであるならば、形態的緊密性の原理によれば、上述の種類の統語規則は語の内部を「見ることができない」ことが予測されるのに対して、基体動詞の項構造の継承は、語内部の情報が統語構造において「見える」現象の一つの表れと見なすことができるように思われる。今後、形態的緊密性および項構造の継承を、形態論と統語論との相互作用の観点から、さらに考察することは興味深いことである。
著者
長谷川 千秋
出版者
山梨大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

『和字正濫鈔』における契沖の仮名遣研究の本質とは、定家仮名遣などの仮名遣書にあるような「どの仮名で書くか」という仮名遣の規範を示すことにあるのではなく、語が本来、「どのような音をもち」、「その音がどのような仮名で現され」、さらに「どのような意義をもつか」という形音義を示すことにあることを明らかにした。『和字正濫要略』は、その題名の通り『和字正濫鈔』の抄出のように見えるが、仮名遣書として仮名遣の規範を示すに止まり、編纂方針に大きな方向転換があることを明らかにした。契沖の『和字正韻』は、契沖が字音仮字遣の研究を行っていた証左となる文献であることを明らかにした。
著者
谷口 和美 眞鍋 昇
出版者
北里大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

味覚は従来、甘味、旨味、苦味、酸味、塩味の5つが基本味であるとされてきたが近年、脂肪にも味があるとされるようになってきた。甘味受容体、旨味受容体、苦味受容体といった味覚受容体は舌以外にも多くの臓器に存在することが知られている。一方で、近年になって見つけられた脂肪味に関しては、未だに全身臓器での正確な分布およびその作用は十分に解明されていない。そこで本研究は供試動物として雄のC57BL/6Jマウス15匹を用いて、長鎖脂肪酸に対する受容体、すなわちG-protein coupled receptor (GPR) 40、GPR 113、GPR 120およびCluster of differentiation 36 (CD36) のmRNA量の多臓器分布を、Real-Time PCRにより定量的に検索、GPR113とGPR120は免疫組織化学的に観察した。結果、PCRにおいて、これら4種類の脂肪酸受容体は、舌(有郭乳頭、茸状乳頭)、下顎腺、涙腺、網膜、十二指腸、結腸、膵臓、肝臓、腎臓(皮質、髄質)のうち多くの臓器で発現していた。GPr40は涙腺、網膜および有郭乳頭には発現が認められなかった。Gpr40は膵臓、Gpr113は有郭乳頭、Gpr120は結腸、Cd36は腎臓において他臓器よりも有意に高い発現量を示した。免疫組織化学的検索ではGPR113は盲腸、膵臓など、GPR120は十二指腸および結腸の基底顆粒細胞、網膜の杆体視細胞と錐体視細胞層、精巣上体、陰茎、涙腺や下顎腺の星状筋上皮細胞、腎臓などで陽性を示した。これらの結果より、これまで報告されている以外にも多くの組織に肪酸受容体が分布していることを明らかにした。また、GPR120が分布しているといった報告が無い腎臓、涙腺、下顎腺でも本研究では免疫組織化学的検索で陽性を示した。さらにqPCRの結果、Gpr120の存在を確認した。
著者
高橋 知之 福谷 哲 藤原 慶子 木野内 忠稔 服部 友紀 高橋 千太郎
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

東京電力福島第一原子力発電所の事故では大量の放射性核種が環境中に放出された。このうちTe-127mの半減期は約109日と比較的長く、IAEAの報告書に記載された土壌ー農作物移行係数を用いて評価すると、特に福島第一原発から南方向では、放射性テルルの内部被ばくへの寄与が放射性セシウムに比べて無視できるレベルではない可能性があった。よって、安定テルルと安定セシウムを同時に添加した土壌を用いて植物栽培実験を行い、それぞれの移行係数を求めた。その結果、テルルの移行係数は既報値よりも低く、実際の放射性テルルの線量の寄与は既報値を用いた評価よりも十分に低くなる可能性があることが明らかとなった。
著者
岡本 祐之
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

ヒトおよびラット皮膚においてiNOSが誘導されNOが産生されることが明らかとなった。乾癬をはじめ、アトピー性皮膚炎、扁平苔癬、水疱症、膠原病などの炎症性皮膚病変においてiNOSが表皮ケラチノサイトに発現されていることが認められたが、iNOSの発現様式は疾患によって異なっていた。乾癬ならびにアトピー性皮膚炎の表皮におけるiNOS発現の推移を調べると、ステロイド外用剤による治療によって皮膚症状の改善とともにiNOS発現の低下が観察された。2種類の実験的接触皮膚炎、すなわちアレルギー性および一次刺激性皮膚炎では、表皮におけるiNOS発現に明らかな差は観察されなかった。紫外線皮膚炎におけるNO関与では、少量の紫外線(UVB)照射によりケラチノサイトはNOの産生上昇を示した。マウスに紫外線照射を行い、照射前または照射後にNOSの阻害剤であるL-NAMEを腹腔投与し耳介腫脹を日焼け細胞数を測定すると、腫脹の程度および日焼け細胞数ともL-NAMEの投与により抑制された。一方、紫外線のマウス接触アレルギー反応抑制作用に対する効果を検討すると、L-NAME投与は紫外線の抑制作用に影響を示さなかった。今回の研究において、NOは紫外線の皮膚に対する直接障害に関与するものの、紫外線が及ぼす免疫反応には効果が認められないことが示された。アトピー性皮膚炎患者よりリンパ球を採取し、ケラチノサイトと混合培養しそのNO産生への影響を調べると、ケラチノサイトからのNO産生がアトピー性皮膚炎患者リンパ球では正常人リンパ球に比べて有意に増強することが認められた。以上の実験結果より、紫外線をはじめとする種々の起炎刺激に対して生じる皮膚炎や炎症性皮膚疾患にNOが関与していることが示唆された。
著者
鶴田 昌三 伴 清治 岩田 純士 川瀬 真由 鈴木 崇由 安藤 正彦
出版者
愛知学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

鏡面研磨した歯科修復用ジルコニアは撥水性であるが、(1) 歯磨によって水のぬれ性が向上すること、(2) 673K以上に加熱すると同じく優れたぬれ性を得ることを見出した。加熱試料上は細胞増殖能に優れ、インプラントの前処理として可能であった。XPS分析によると、表面に吸着したカーボン量が歯磨や加熱により減少していた。すなわち、歯磨には加熱と同様にジルコニア表面に吸着したカーボンを除去する働きがあり、このため親水性を獲得することを明らかにした。
著者
加来 伸夫 渡辺 昌規
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

水田土壌微生物燃料電池(水田MFC)の負極バイオマスの細菌群集構造をPCR-DGGE解析により調べた結果、Rhizomicrobium属の微生物が検出された。また、負極からはClostridia綱に配属される電流発生細菌が分離され、電流発生細菌が多様であることを示していた。肥料の違いは、水田土壌MFCにおける起電力に影響し、堆肥の施用は発電を低下させることが示唆された。阻害実験を行ったところ、メタン生成は発電と競合する一方で、硫酸還元は発電に寄与していることが示唆された。これらの結果とポット試験の結果から、水田MFCを利用することで水田土壌からのメタン放出を抑制できる可能性が示唆された。
著者
池田 光男 篠田 博之
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

人間は3次元空間に生きているから、3次元空間の認識が最重要な大脳の機能であるといえる。しかしよく考えてみると外界の情報はまず網膜で取り入れられるが、外界の網膜像は2次元像になってしまっている。次元ダウンである。大脳はしたがって2次元網膜像を受け取った後それを3次元空間に戻さなければならない。次元アップである。これが通常の大脳機能と考えられる。さて壁に掛けられた絵画を人間が見た場合、その網膜像は2次元像である。上記の論で言えばこれは直ちに3次元空間として認識されるはずである。しかし実際はそうではなく、2次元画像はやはり2次元画像としてしか認識できない。何故か。それは次元アップ機能は絵画が掛けられている空間の方に使われてしまったからである。そこでその空間情報を排除して絵画だけを網膜にインプットすると大脳は当然それを次元アップし、絵画は3次元空間として認識されるはずである。このことをまず大きさの恒常性を利用して証明した。遠方に比叡山が見える場所で写真を撮り、比叡山だけ大きさをいろいろに修正し、実際に見た比叡山の大きさと同じと思う写真を被験者に選ばせた。実際より大きな比叡山の写真を選んだ。つぎに次元アップゴーグルを使用して写真のみが見えるようにして同じ判定をすると修正無しのものを選んだ。写真が次元アップされて大きさの恒常性が働いたと考えればよい。つぎに、夜景の写真を次元アップゴーグルで観測し、光源色に見える明度を測定すると、10以下となった。やはり次元アップがされたので真っ白の物体以下の明度ですでに光源色になったと考えればよい。最後に、ネッカーキューブを次元アップゴーグルで被験者に観測させ、テスト刺激の明度判定を行わせた。次元アップされ3次元の立方体を認識したときのみ現れる明度に被験者は設定した。以上のように、2次元画像でもそれのみを網膜に入力すると、大脳は自動的に3次元空間に変換したことを証明することができた。
著者
佐藤 健司 重村 泰毅
出版者
京都府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究により新規の線維芽細胞増殖促進効果のある食事由来コラーゲンペプチドHyp-Glyを見いだすことができた。さらにマウス皮膚より遊走してきた線維芽細胞は、ペプチドトランスポーターPEPT-1,2を発現しているが、継代により急激にその発現が減少することを見いだした。これらの知見は初代培養線維芽細胞が継代細胞よりもコラーゲンペプチドの細胞増殖促進活性を受けやすいこととの関係が示唆される。
著者
野津 司 奥村 利勝
出版者
旭川医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

オレキシンは胃収縮を促進し,また大腸収縮を促進させ便排出を促進させる.また迷走神経による胃運動促進効果は,内因性のオレキシンが関与することを明らかとした.さらにCRFの末梢投与は胃排出を抑制するが胃収縮を促進することをラットで示した.CRFはCRF1,2の2種類の受容体を介して作用するが,CRF1の刺激により胃収縮は促進し,CRF2はこれに拮抗する作用を持つことを初めて示すことができた.さらにwater-avoidance stressは胃排出に変化を与えないが,CRF1を介して胃収縮を促進させることを明らかにした.これらは,消化管機能障害の病態理解のために重要な結果である.
著者
小平 麻衣子 島村 輝
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

雑誌初期の人脈や文学傾向、戦中の国策への雑誌の対応、現代作家の参加様態などについて、分析した。具体的には、年間5回の研究会開催の中で明らかにした。研究会における発表等の内容は、下記の通りである(会場は、特記してある会を除き、いずれも慶應義塾大学三田キャンパス南館5階会議室)。【第1回】2017年7月23日(日)15:00~18:00。小川貴也氏「初期『文藝首都』と「新人」の範疇― 無名作家をめぐる「文壇」のオルタナティブ―」、 第2部では今後の研究分担と計画について議論した。【第2回】2017年10月1日(日)14:00~18:00。小川貴也氏「初期『文藝首都』のコノテーション―「公器」からの出発―」、松本海氏(早稲田大学大学院)「新人・中上健次の出発―『文藝首都』の終焉にかけて―」、コメンテーター:浅野麗氏(亜細亜大学)。【第3回】2017年11月25日(土)14:00~15:30。佐江衆一氏講演「私の『文芸首都』『犀』の頃」。【第4回】2017年12月17日(日)14:00~18:00(日本大学スポーツ科学部キャンパス本館2階会議室1)。清松大氏(慶應義塾大学大学院)「上田広「黄塵」と『文芸首都』―『大陸』への転載と本文異同から―」、高橋梓氏(東京外国語大学大学院)「植民地出身作家の交流の場としての『文芸首都』―読者会の記録と書簡を中心に―」。【第5回】2018年3月24日(土)13:00~17:00。椋棒哲也氏(立教大学兼任講師)「『文芸首都』における和田伝/和田伝における『文芸首都』―同誌掲載の創作を読み解く―」、作家・勝目梓氏公開インタビュー「勝目梓先生に『文芸首都』時代を伺う」。司会:井原あや氏(大妻女子大学非常勤講師)。
著者
吉松 博信 加隈 哲也 正木 孝幸
出版者
大分大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

ストレスと肥満症における脳内神経ヒスタミン機能を明らかにするために、平成22年度は以下のような研究成果をあげた。1)痛覚ストレスおよび情動ストレスは負荷後24時間の1日摂食量を有意に減少させた。2)4時間拘束ストレスは負荷後24時間の1日摂食量を減少させた。3)飢餓ストレスとしての72時間の絶食負荷後、再摂食時の摂食量はストレス負荷前の摂食量と比べ有意に減少した。4)インスリン誘発性低血糖はインスリン投与後2時間の摂食量を有意に増加させた。5)寒冷ストレスは食行動に影響しなかった。6)tail pinchによるストレス負荷は食行動を誘発した。以上の実験結果から各種ストレスは主に摂食行動を抑制する方向で作用するが、寒冷ストレスは効果がなく、tail pinchは食行動促進性に作用するなど、ストレスの種類にともない反応が異なることが確認された。現在これらのストレスの慢性負荷による影響を検討している。また3),4)より飢餓ストレスの効果は低血糖などのエネルギー欠乏が直接原因ではなく、エネルギー欠乏によって生じる神経ヒスタミンの増加など、他の要因の関与があることが示唆された。そこで、ストレスと神経ヒスタミンに関して以下のことを明らかにした。7)拘束ストレスによる食行動抑制反応はヒスタミンH1受容体欠損マウスでは有意に減弱した。8)拘束ストレスは視床下部において、ヒスタミン合成酵素であるhistidine decarboxylase (HDC)のタンパク量を有意に増加させた。9)拘束ストレスは視床下部の神経ヒスタミン代謝回転を有意に増加させた。10)寒冷ストレスは視床下部のHDCタンパク量を有意に増加させた。以上より、拘束ストレスによる摂食抑制作用は神経ヒスタミンを介していることが明らかになった。他のストレスによる神経ヒスタミンの動態変化を現在解析中である。
著者
金兼 弘和
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

原発性免疫不全症(primary immunodeficiency disease: PID)は、先天的に免疫担当細胞に欠陥がある疾患の総称であり、障害される免疫担当細胞(例えば、好中球、T細胞、B細胞など)の種類や部位により300以上の疾患に分類される。臨床症状は易感染性のみならず、自己免疫疾患や悪性腫瘍も合併も高頻度であり、これらの合併症が前面にでるPIDも存在する。単一遺伝子病でありながら、臨床的多様性が広く、epigeneticな要因などが想定されているが、詳細は明らかではない。最近、腸内細菌叢がさまざまな疾患の病態に関わっていることが報告されているが、PIDの腸内細菌叢に関する研究はまだ多くない。本研究ではPIDでも自己免疫疾患の合併が多く、腸内細菌叢の異常を伴うことが予想される炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease: IBD)の合併が多い疾患を対象とし、腸内細菌叢がPIDの病態にどのように関わっているかと明らかにする。本研究では家族性腸管ベーチェット病の原因として同定されたA20ハプロ不全症ならびにIBDを高頻度に合併するX連鎖リンパ増殖症候群2型であるXIAP欠損症を対象とした。両疾患はPIDのなかでも比較的稀であるが、当科はレファレンスラボであり、多数例の患者をフォローしており、信頼性のあるデータが得られる可能性が見込まれる。患者ならびに家族から同意を得て、患者本人ならずに同居家族から糞便を採取した。また造血細胞移植を受けたXIAP欠損症患者では移植後の検体も採取した。便からDNAを採取し、次世代シークエンサーを用いた腸内細菌叢の解析を行っているところである。
著者
江頭 祐嘉合
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

神経毒キノリン酸の産生増加因子EPAやデヒドロイソアンドロステロンによるACMSDmRNAの低下は核内転写因子PPARαを介さないことを示した。糖尿病時の肝細胞内外におけるキノリン酸濃度を調べた結果、細胞内で生成したキノリン酸を細胞外へ積極的に排出する機構の存在が示唆された。脳神経マクロファージ細胞ミクログリアの培養液にLPSと食品成分を添加した時、ある種のポリフェノールはIDOの発現を有意に低下させることを示した。
著者
田中 康一
出版者
(財)東京都老人総合研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

大脳皮質シナプスにおけるアセチルコリン合成活性やそのレベルには加齢変化はないものの、脱分極刺激によるアセチルコリン放出が老齢シナプスにおいて低下することが種の違いを超えて認められた。この老齢シナプスにおけるアセチルコリン放出低下は、放出のトリガーとなるカルシウムイオン流入低下によることがカルシウムイオン蛍光指示薬を用いた実験で明らかとなったため,シナプスにおける電位依存性カルシウムチャネル(VDCC)の加齢変化を調べることを目的とした。大脳皮質シナプス膜のVDCCサブタイプの分布を各サブタイプに特異的なブロッカーを用いて調べたところ、L型チャネルが27%,N型チャネルが32%,P型チャネルが27%,Q型チャネルが23%であった。個体の老化によってP型チャネルの分布は全VDCCの16%となり,成熟期のラットに比べて著しく減少していた。さらに,シナプス膜への放射標識ブロッカーの結合実験によって,VDCC密度の加齢変化を検討した。その結果,25ヶ月齢では、L型,N型,Q型チャネルのBmax値,すなわち最大結合サイト数が6ヶ月齢に比べそれぞれ50%,35%,52%と顕著に減少していた。このVDCC密度の減少が、カルシウムイオン流入低下の直接の要因となっていることが推察された。また,L型チャネルブロッカー結合に対するKd値が老齢シナプスで成熟動物シナプスに比べて大きな値を示すことが認められた。この結果は、L型チャネルのブロッカーを結合するサブユニット(おそらく、α1サブユニット)の加齢による構造変化を反映している可能性を示唆していると思われる。以上,本研究の結果から、大脳皮質コリン作動性シナプスにおけるアセチルコリン放出低下とそれに伴うシナプス可塑性の加齢低下の根底には、電位依存性カルシウムチャネルの分布や密度の異常が関与していることが強く示唆された。
著者
井關 敦子 中塚 幹也 山口 琴美 山田 奈央 大橋 一友
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

MtF当事者は社会適応が低くqolが低いと報告される.MtF当事者2名にインタビューを行った.共通する点は,性別違和についてネガティブな価値観を持つとは限らずその価値観も多様であった.日常生活において他者の配慮があれば大きな困難なく生活でき,就業や経済状態が安定していること,家族がいることは重要であった.その他,29年度は,性の多様性に関わる以下の活動や研究を行った.29年9月に看護職,教育,研究職向けの講演会「LGBTを理解する」を岐阜大学は開催し,研究責任者は講師となった.LGBT支援団体からの協力も受け,科学研究費を活用しこの講習会を遂行した.この講習会は看護,教育,医療従事者のLGBTに対する認知を促した.29年12月には中部地方の看護職の.GBTに対する認識について質問紙調査を実施し,その結果は30年3月のGID学会で発表した.また,28年12月に実施した「岐阜県内の小中学校に勤務する養護教諭のLGBTに対する認識」に関する質問紙調査の結果が、30年3月GID学会誌に論文として掲載された.これらの調査や活動から,今後の研究を遂行するうえで重要な情報を得た.また研究を遂行するうえで,協力者を得る機会になっている.
著者
三井 純
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

多系統萎縮症(MSA)患者群と健常対照者群に対して,血漿コエンザイムQ10濃度測定を行い,MSA患者ではCOQ2変異の有無にかかわらず血漿コエンザイムQ10濃度が有意に低いことを見出した.また,MSA患者からiPS細胞を樹立し,iPS細胞由来の神経細胞の分化誘導を行ったうえで機能解析をした.複合ヘテロ接合性にCOQ2変異をもつMSA患者では,ミトコンドリア呼吸機能ならびに抗酸化機能が低下していること,またCOQ2変異を持たないMSA患者でもアポトーシスが増加していることを認めた.これらの知見から,コエンザイムQ10の補充がMSA患者にとって有益である可能性が示唆される.
著者
三輪 正人 中山ハウリー 亜紀 大久保 公裕 飯島 史朗 村上 亮介
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

ドライスキンと同じく、ドライノーズの病態がアレルギー性鼻炎の前駆段階である可能性を実証するため、スギ花粉抗原鼻誘発前後の鼻粘膜上皮バリア機能の非侵襲的生理学的検査である鼻粘膜水分蒸散量、鼻粘膜上皮間電位差の測定、鼻汁浸透圧、pHの測定、鼻および口呼吸時の呼気凝集液中の過酸化水素濃度の測定、鼻粘膜上皮擦過細胞の糖鎖解析をおこなった。また、ドライアイの成因として、涙液の高浸透圧が考えられている。高浸透圧溶液のモデルとして5%の高張食塩水の点鼻誘発刺激をおこない、同様の検討を実施した。抗原特異的鼻誘発後、非特異的刺激である高張食塩水点鼻の両者とも、鼻粘膜水分蒸散量は増加、鼻粘膜上皮間電位差は減少し、鼻粘膜上皮バリア機能は低下したことが示された。抗原刺激後、呼気凝集液中のpHは上昇したが、高張食塩水刺激では有意な変化はみられなかった。両者共刺激後の呼気凝集液中の過酸化水素濃度も増加したが、異なる経過をたどった。鼻粘膜上皮擦過細胞の糖鎖の解析では、ABA, LCA, SSA lectinの反応性が、スギアレルギーの被験者で特異的ならびに非特異的誘発刺激後、減少していた。ドライノーズの病態とアレルギー性炎症、高浸透圧環境の関連性について引き続き解析中である。