著者
吉田 睦 中田 篤
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本邦における氷下漁撈は、かつては諏訪湖、八郎潟で展開してきた氷下曳網漁やその他の漁法による寒冷地特有の生業形態であるが、現在はほぼ北海道に限定されて実施されている。中でも網走湖ではこの氷下曳網漁が動力化して毎年恒常的に実施されており、地域経済にも一定の地位と役割をしていることが確認できた。他方で、ワカサギを主要漁獲目標とする網走湖の氷下漁撈の状況は、近年の温暖化傾向やそれに関連する可能性もある水産資源の資源状況や生態などとも関係して、資源、漁獲量とも厳しい状況にあることが判明した。調査期間の2014年から2017年にかけては、近年では最も漁獲量の少ない期間であり、今後の動向が注視される。
著者
園田 義人 佐松 崇史
出版者
九州東海大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、振動膜等の物体を一切使わず、レーザ光により音を直接検出する方法、あるいは光の中から音情報を取り出す方法(総称:光波マイクロホン)の技術確立を目的とした開発研究を実施した。同法は、空中音波の位相変調作用により発生した極微弱回折光を検出することで可聴音を検出・再生しようとする試みである。微弱回折光の検出には光学情報処理システムを用いるが、光学システム(特に音検出部にあたる光ビーム構造)をどう組めば可聴音の検出が最適化されるか、あるいは任意のニーズに適う音受信特性が実現できるか、などについては未解明の部分が多い。本研究では、光波マイクロホンの中核部である光学情報処理部及び音検出アンテナ部の理論的・実験的検討を行い、それらを総合した光波マイクロホンの技術確立などを行った。主要な内容を要約すると、次のようになる。レーザビーム伝送路(レンズ群からなる計測光学系)に音が入射した場合、入射点とフーリエ変換の関係にある位置に光検出面を置くことにより音信号が有効に取り出せる。音入射領域のレーザビームウェストのスポットサイズは音波長に近い方が信号強度が大きくなる。実用上は、数mmのビーム直径が使いやすい。音検出部の光ビームの構成と音受信特性を、主に単純反射形及び左右反転反射形ダブルビームを中心に検討し、光ビームの構成(1〜3次元的)を変化させることで、指向性、信号強度増幅などを変化させることができることなどを示した。
著者
泉 佳伸 松尾 陽一郎 山野 直樹 砂川 武義 小嶋 崇夫
出版者
福井大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

マイクロ波技術を使ってこれまで困難だと考えられてきた水溶液系のDNAの評価を可能にした。具体的には、プラスミドDNAの鎖切断に伴う大きな構造変化とそれによる誘電率変化を、空洞共振器の共振周波数変化等で検出し、精度や再現性の向上のために環境の影響を低減させた。酵素で2本鎖切断させたDNAと切断前のDNAで測定値に違いが得られた。この技術を用いて、放射線被曝線量評価手法に応用できる可能性を見出した。
著者
伊藤 茂樹 田中 奈緒子 加藤 美帆 居郷 至伸 加藤 倫子 後藤 弘子 仲野 由佳理
出版者
駒澤大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

少年院に送致された非行少年に対する社会復帰支援は、少年院での矯正教育(施設内処遇)と出院後の保護観察(社会内処遇)として行われているが、日本において両者は制度的に分離しているほか、統制された施設とノイズに満ちた社会の間の環境面での「落差」が様々な困難を生んでいる。しかし更生保護の現場においては、施設内処遇の成果を踏まえつつ、保護司と保護観察官、更生保護施設の職員らがこの落差を調整しながら、少年の社会への「ソフトランディング」を可能にするべく支援や調整を行っている現状が明らかになった。
著者
倉田 二郎 尾崎 眞 三橋 紀夫 赤嶋 夕子 酒向 正春
出版者
東京女子医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

我々は、麻酔薬が痛みや意識を減弱・消失させる過程を、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いてヒトモデルで解明しようと試みた。その第一段階として、電気刺激による痛み感覚が脳に発現する様子をとらえ、それが実際の痛み感覚とどのように関連するかを調べた。2000、250、または5Hzの正弦波電気刺激により末梢神経のAβ、Aδ、またはC線維を選択的に刺激する装置(Neurometer)を用いて13人の健康被験者の左前腕腹側に痛み刺激を与えた。その結果、250Hzおよび5Hz刺激は、2000Hz刺激に比べ1/4以下の電流で、より鋭く不快な痛み感覚を引き起こした。次に、痛みスコア(VAS)が5または7を示す強さの電流を用いて痛み刺激を同様に与えながら、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)により疼痛関連脳活動を観察した。電流による画像artifactを最小限に抑えるため、最小電流値で痛みを起こす5Hz波を選択した。3人の被験者でブロックパラダイムによる全脳fMRI実験を、もう1人の被験者でさらに静脈麻酔薬propofolを鎮静および催眠濃度で与えて同じ実験を行った。Propofolは、Graseby社製TCI機能付きシリンジポンプにて投与した。MRIスキャナーはSiemens社製Vision(1.5テスラ)を用いた。ソフトウェアBrain voyager Qxを用いてgeneral linear modelによる画像解析を行った。その結果、VAS=3の痛みにより右第二次感覚野、右前頭皮質、右下頭頂小葉が活性化し、さらにVAS=5の痛みにより両側前頭皮質、両側下頭頂小葉、両側補足運動野が活性化した。一方、propofolを投与した実験では、多重比較を含む厳密な検定を行ったところ、background noiseが極めて高く、ノイズ振幅が信号強度の2.8%を占めた。輸液路・シリンジポンプなどいくつかの原因が考えられるが、ノイズ源を除去し、今後更に実験精度を高める予定である。
著者
本望 修 佐々木 祐典 浪岡 愛 中崎 公仁 浪岡 隆洋
出版者
札幌医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

脳主幹動脈閉塞による急性期脳梗塞においては、閉塞血管の灌流領域の脳代謝および機能は低下し、脳実質や脳血管は脆弱化している。一方、近年、血栓溶解療法や脳血管内治療の急速な進歩により、閉塞血管の再開通率は80-90%に至っている。このため、脆弱化した脳実質組織や毛細血管に対して、急速に血流が再開されることよって、脳細胞障害や出血性合併症等を引き起こす再灌流障害は、極めて重要な病態となってきており、急いで対応すべき課題となっている。我々はこれまで、脳梗塞動物モデルを用いた基礎研究で、骨髄幹細胞(mesenchymal stem cell: MSC)の静脈からの全身投与が治療効果を有することを多数報告してきた。治療効果のメカニズムとして、①神経栄養因子を介した神経栄養・保護作用、②サイトカインによる抗炎症作用、③脱髄軸索の再有髄化、④損傷軸索の再生、⑤軸索のSprouting、⑥血管新生による血流増加、⑦神経系細胞への分化による脳細胞の再生、⑧免疫調節作用などが、多段階に作用することが判明している。更に近年、これらの作用メカニズムに加え、⑨血管内皮細胞やペリサイトを再生させ、血液脳関門(blood brain barrier: BBB)を修復する治療メカニズムも報告している。本研究では、一過性中大脳動脈閉塞モデル等を用いて、再灌流障害に対する骨髄幹細胞移植の治療効果を詳細に検討することを目的とする。さらに、血栓溶解療法(tPA静脈内投与)と細胞移植治療との相互作用を解析し、tPAの副作用に対する軽減効果についても検討しており、補助金は適切に使用されている。
著者
井柳 美紀
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究の目的は、デモクラシー下の市民的資質との関わりで教養教育の果たす役割について、特に、J.S.ミル、マシュー・アーノルド、ニューマンなどを主な対象としつつ、19世紀イギリスの思想史的文脈において検討することである。同時に、現代における市民的資質の育成の観点から教養教育の役割について考えていくことをも目的とする。一昨年は、マシュー・アーノルドに関する論文や現代の若者の市民的資質に関する論文を書いたが、昨年は、まず、(1)図書において、共著として、熟議民主主義に関する章を執筆したが、これは本研究において市民的資質の一つとしての熟議に関する資質・問題を扱ったものとして位置づけられるものである。ここでは、熟議民主主義の前提として熟議する文化や環境の育成が必要であることなど、熟議民主主義の可能性や今後の課題について検討を行った。(2)そのほか、19世紀イギリスに関する政治的教養についての研究を、マシュー・アーノルド以外に同時代の教養論争に注目しつつ進めたが成果の公表は次年度となる。既にJ.S.ミルやマシュー・アーノルドについて市民的資質との関連から論文を執筆しているが、現在は、特に、19世紀後半におけるイギリスの教養論争において、民主化や産業化が起きる中で、従来の古典中心の教養教育に対する批判がおきる中で、新たな大学の役割や学校教育の役割などに関しておきた議論に着目しながら検討を行っている。(3)また、市民的資質と教養教育との関連で、シティズンシップ教育や教養教育に関する講演会を自治体向けに複数実施したり、一般市民向けの公開講座を実施するなど、本研究の成果を地域にも還元している。
著者
尾崎 純一 石井 孝文 神成 尚克
出版者
群馬大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究は、標題のシステム構築に必要な二種類のカーボンアロイ触媒の開発を目的とした。過酸化水素生成選択性をもつ触媒の開発では、第4周期金属を添加したポリマーを炭素化し、その過酸化水素生成を評価した。第2の触媒は、ヘテロポリ酸を固定化するための塩基性カーボンアロイであり、この触媒のキャラクタリゼーションと3-methyl-3-buten-1-ol酸化反応特性を評価した。その結果、表面塩基性をもつカーボンがヘテロポリ酸の固定化に有効であること、担持されたヘテロポリ酸の電子状態と酸化触媒活性および選択性をカーボン担体の表面特性でコントロールできる可能性を見出した。
著者
島岡 まな
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

フランス刑法(1992年)は、日本の刑法(1907年)と比較し、ジェンダー平等的である。それは、①差別罪、②セクシュアル・ハラスメント罪、③夫婦間強姦を含む配偶者間暴力の犯罪化・加重処罰、④網羅的な性犯罪処罰等に表れている。その基礎には「ジェンダー差別は人権侵害である」との問題意識がある。多くの男女平等推進立法が刑法に影響を与えている。日本刑法のジェンダー不平等性をめぐる議論の遅れは、 社会の男女不平等の反映に過ぎない。2000年にパリテ(男女議員同数)法を可決し2007年以来男女同数の内閣を実現しているフランスに倣い、日本も政治分野でのクォータ制の導入が必要であろう。
著者
三友 健容
出版者
立正大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

本研究にあたり基本文献として、1.Abhidarmakosa-vrtti-marma-pradipa. 2.Dam pa'i chos mngan pa mdzod kyi dgongs 'grel gyi bstan bcos thub bstan nor bu'i gter mdzod dus gsum rgyal ba'i bzhed don kun gsal.の2論を選定し研究を進めた。このうち、前者はインドにおける仏教論理学の確立者ディグナーガ(Dignaga,A.D.480-540)の手になるものであり、後者は上述の『倶舎論註』である。共にアビダルマ仏教のチベット受容・継承に関しては看過されえぬ重要な典籍である。しかしながら、本研究に至るまで校訂・翻訳等の成果は公表されていなかった。故にわれわれは、本研究を、この二典籍を基本資料として以下の計画のもとに遂行した。1, 校訂(Varlantの摘出と定本の確定)・データベース化2, 翻訳(特に1.の論書に対しては還元Sanskrltの想定)3, 「定義集」の作成上記の研究中、1に関してはコンピューター使用の至便を考慮して、北村・Wylie方式とAsiun Classic Input Project方式の折衷案である福田洋一氏の方法(cf.コンピューター処理を考慮したチベット語転写法の試案、日本西蔵学会会報38.1992.pp.23-24)を採用し、2並びに特に3に対しては、サンスクリットや漢訳も含めた複数のアビダルマ文献を参照した。以上の行程のもと、資料の正確な判読、有部数学の「定義集」に基づき、幾つかの新知見を発表したが、有部数学の整理は膨大な時間を必要とし、さらに詳細な検討を行わなければならず、研究を続行するものである。
著者
松井 利仁
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

交通騒音によって睡眠妨害以外の健康影響が生じることは必ずしも知られていない。しかし,近年の大規模な疫学調査などにより,虚血性心疾患や脳卒中の罹患率・死亡率の上昇が明らかにされてきた。欧州WHOはそれらの知見に基づいて,交通騒音による健康損失を障害調整生存年(DALY)で評価する方法を示している。本研究では,我が国にこれを適用する際の様々な課題について検討を行ない,DALY算定のための方法を確立した。
著者
小林 正人 藤森 智
出版者
明治大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

2011年に発生した東北地方太平洋沖地震では,津波により沿岸部に壊滅的な被害が生じた。本研究では,免震建物について南海トラフ地震を想定した津波浸水予想に関する調査および分析を行った。さらに,津波荷重に対する免震建物の構造安全性の判定手法を提案するとともに,その適用性を検証した。加えて,津波荷重の動的な作用と免震建物の応答の関係について弾性理論解および時刻歴応答解析により分析を行った。
著者
石崎 雅人 野呂 幾久子 小林 伶
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は、化学療法の受診を検討し、実際に受診した対象者426名に対して、患者主導型/共同意思決定型/医師主導型の意思決定方法の特徴を明らかにした。それぞれの意思決定方法ではそのプロセスに差があることが明らかになったが、共同意思決定と意思決定方法への納得度、治療全体への満足度の関連は認められなかった。しかし、希望していた方法で意思決定を行った患者は、そうでない患者に比べ、治療全体への満足度が高かった。
著者
吉永 明弘 寺本 剛 山本 剛史 熊坂 元大
出版者
江戸川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

学術雑誌『環境倫理』を発行した。2016年度に、小平の住民運動、福島第一原発事故後の双葉町長の避難に関する諸問題、吉野川河口堰に関する住民投票について、キーパーソンにインタビューを行い、ローカルな環境倫理を現場から掘り起こすことを試みた。それらを今年度は原稿にまとめ、解題もつけて雑誌に掲載した。並行して、勁草書房より、吉永明弘『ブックガイド環境倫理』と吉永明弘・福永真弓編『未来の環境倫理学』を刊行した。これらによって、過去の環境倫理学や環境論をレビューすること、最先端の環境倫理学の議論を紹介すること(原発に対する応答、世代間倫理、環境徳倫理、未来倫理、気候工学、環境正義、人新世における倫理など)が達成された。1年間に3冊の本を刊行することができ、関係者に献本したところ、たいへん好評だった。
著者
楯 直子
出版者
武蔵野大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

近年、アルツハイマー病患者の脳の老人斑を構成するアミロイドβペプチド(Aβ)の中に通常のL-体から異性化したD-アスパラギン酸(D-Asp)が確認されている。Aβはアミノ酸42残基より成り、1、7、23位にAspが存在する。AspがD-体に異性化した各種D-Asp含有Aβについて、構造と線維化、凝集体形成について解析し、[D-Asp23] Aβは線維化・凝集体形成速度が顕著に大きくなることを明らかにした。また、老人斑中では正常型Aβと各種D-Asp含有Aβが混在しているが、互いに線維化や凝集体形成の速度や進行度に影響を及ぼすことはないことも解明した。さらにD-Asp含有N末端フラグメントAβ1-23は全長Aβの線維化・凝集体形成を促進することを見出した。以上の結果より、アルツハイマー病発症に関わるAβ凝集現象の制御において、Aβ-23部位が重要な鍵を握っていることが明らかとなった。
著者
内堀 朝子 小林 ゆきの 上田 由紀子 原 大介 今西 祐介
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

平成29年度は本研究プロジェクト3年間のうち1年目として,文末指さしを含む日本手話文のデータ収集に取り掛かった。特に,研究体制として設定した二つの研究グループのうち,「話題要素担当グループ」によるデータ収集に重点を置き,日本手話母語話者の協力のもと調査を行った。調査では,第一に,文頭に話題化非手指標識を伴う要素と,その要素を指示対象とする文末指さしの両方を含む文が,日本手話母語話者にとって自然であると判断される文脈,つまり,その文が文法的かつ談話上適切であるような文脈を設定した。第二に,それと同じ文脈のもとで文頭の話題化要素を省略し,かつ,その要素を指示対象とする文末指さしが許されるかどうか,日本手話母語話者の内省・直観による判断を調べた。なお,第二のデータは,もう一方の研究グループである「非項/陰在的項担当グループ」の収集対象と合致するものが含まれることとなった。調査の結果,日本手話において以下の二つの可能性があることが確認された。すなわち,①話題化要素が省略される可能性(もしくは,空の話題要素が現われる可能性)があること,および②文末指さしが音声化されていない話題要素を指示対象とする可能性である。したがって,この調査は,「研究の目的」で述べた,本研究プロジェクトの課題のひとつである「問題Ⅰ:話題要素を含む文における文末指さしは,何を指示対象とすることができるのか?」に対する肯定的な回答を与えるものと言える。さらに,この調査は,「研究の目的」で述べた,文末指さしを持つ手話言語の類型に関わる問題に対して,日本手話が,文末指さしが主語を指すアメリカ手話と,話題要素を指すオランダ手話の両方の性格を併せ持つことを示唆するものであった。
著者
前岡 浩
出版者
畿央大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究は不快感や不安感といった痛みの情動的側面について、特に非特異的慢性腰痛者を対象に脳機能および自律神経機能の側面から明らかにし,さらに,痛みの情動的側面に対する有効な治療手段についても検討することである.平成29年度は,まず平成28年度に実施した痛みの情動的側面に対する有効な治療手段についてさらに詳細に検証した.内容は,情動喚起画像を使用し,受動的に画像内の痛みの部位が消去されるのを観察する条件と被験者自らが積極的に画像内の痛みの部位を消去する条件を比較した.その際,心拍変動を測定することで自律神経系の変化も評価した.その結果,痛み閾値と耐性の増加,強度と不快感の減少,さらに交感神経活動の減少も認められ,痛みの情動的側面に対する有効なアプローチとして可能性を示すことができた.次に,非特異的腰痛者に対する経頭蓋直流電気刺激の痛みの情動的側面における有効性と鎮痛効果について検証した.腰痛を有する50名を無作為に5群に割り付け,左右一次運動野,左右背外側前頭前野への陽極刺激および左背外側前頭前野へのsham刺激の5条件を設定した.評価項目は圧痛の閾値と耐性,腰痛における日常生活の影響,破局的思考,特性および状態不安,痛みの強度および質,不快感の強度とした.その結果,圧痛閾値では左背外側前頭前野への刺激によりsham群と比較して有意な増加が認められた.刺激1週間後における破局的思考では,右一次運動野への刺激により左背外側前頭前野と比較し有意に減少した.腰痛の強度は,左一次運動野において,刺激直後と比較して24時間後に有意な減少を認めた.今回の結果から,有効な刺激部位の特定には至っていないが,一次運動野は痛みの感覚的側面,背外側前頭前野が痛みの感覚的側面および情動的側面の鎮痛に関与している可能性が示唆された.
著者
鈴木 健弘
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

生体のエネルギー産生(ATP合成)と酸化ストレスの発生源として重要なミトコンドリアの機能異常によるミトコンドリア病は確立した治療法のない難病である。我々はミトコンドリア病患者細胞でATP産生を増加させて酸化ストレスを減少し、細胞の生存率を改善するミトコンドリア特異的機能改善薬 MA-5を開発した。MA-5はミトコンドリアの構造と機能維持に重要なミトコンドリア内膜蛋白質のMitofilinと結合してATP合成酵素の重合化を促進することでATP増加と酸化ストレス減少効果を発揮し、ミトコンドリア病マウスと急性腎障害モデルマウスで心臓と腎臓のミトコンドリア機能と腎障害を改善することが明らかとなった。
著者
金森 絵里 兵藤 友博 小久保 みどり 中瀬 哲史 佐野 正博 山崎 文徳 慈道 裕治 横田 陽子
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究では福島第一原発事故がなぜ起こってしまったのかを領域横断的に分析し,以下の点を明らかにした。1.被爆国日本が原子力を社会的に受容したのは夢のエネルギーだという考え方が浸透していたからである。2.原子力政策は日本学術会議などの議論を十分に反映しなかった。3.大型化・連続化による経済性追求が安全性軽視につながった。4.歴史的に形成された「国家との戦い」「企業を護る」という意識と経営行動が事故につながった。5.緊急時における組織的対応が不十分だった。6.原発は総括原価方式のもとで電力会社経営を安定化したが,事故やバックエンドのコスト議論は自主的自律的におこなわれなかった。
著者
村上 照夫 森 信博 宇根 瑞穂 横大路 智治
出版者
広島国際大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究では安全な耐性克服剤の第一候補化合物として、単独でも抗腫瘍効果を有しかつ健康増進にも益するゲニステインを耐性克服剤の原料として使用することに着目した。ゲニステインは、大豆製品に高濃度に含まれる化合物であり、安全性とかつ健康増進剤としての有効性は広く認識されている。また、アポトーシス誘導作用や細胞増殖抑制作用および血管新生阻害作用を有し、乳癌や前立腺癌,胃癌の予防に有効である。ゲニステインのP-gp,MRP阻害活性を検討するとともに、ラットを用い、ゲニステインの体内動態を精査した。さらに、耐性克服剤としての活性をさらに増強する目的で、ゲニステインにメチル化修飾を施し、P-gp阻害活性の増強を種々試みたが、化学的修飾により水溶性低下をきたす事などから、目的とする化合物を得るには至らなかった。関連する研究として、クルクミン類、グアバやツルダチスズメナスビのエタノール抽出物を用い、そのP-gp阻害活性を、Caco-2細胞やラット消化管を用い検討したところ、前2者は、強いP-gp阻害活性を示すことを明らかにした。また、大黄抽出物のP-gp機能に及ぼす影響についてラット消化管で検討し、通常投与量の大黄によりP-gp基質薬物の消化管吸収は増大しP-gp機能が抑制されることを認めた。また、バンウコン根茎抽出物のP-gp機能阻害効果を培養細胞で検討し、フェノール基がメトキシ基になっているフラボン化合物が特に強い阻害活性を示すことを明らかにした。