著者
中嶋 幹郎 佐々木 均 中嶋 弥穂子
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、注射薬の後発医薬品の安全性と毒性に関する品質試験を培養細胞や実験動物を用いて行うとともに、医薬品の心毒性をオンチップ心筋細胞集団ネットワーク計測法により評価する実験法の開発を試みた。その結果、心筋細胞集団ネットワークの拍動リズムに対する影響を観察することで、医薬品が作用するイオンチャネルの違いを区別できることを明らかにし、心毒性評価法としての本法の可能性を示した。また被験注射薬の中でその先発医薬品と比較し安全性や毒性に関する品質面において問題のある後発医薬品はなかった。
著者
松尾 博哉 丸尾 猛 佐本 崇
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

3種類の絨毛細胞、細胞性栄養膜細胞(cytotrophoblast:C細胞)、合胞体栄養膜細胞(syncytiotrophoblast:S細胞)ならびに絨毛外栄養膜細胞(extravillous trophoblast:EVT)に関して以下の研究成果を得た。1.Bcl-2蛋白はS細胞の機能分化を誘導すると共に、分化したS細胞のアポトーシス抑制を介して妊娠維持に関わると推察され、Bcl-2蛋白発現の障害とPIHの関連が示唆された。2.妊娠時の多価不飽和脂肪酸の上昇はPPARを介して絨毛細胞の増殖能を抑制し、分化機能を誘導することが推察された。また、PPARとRXRとの間にinteractionの存在が示唆された。PIH胎盤では多価不飽和脂肪酸による絨毛細胞の分化誘導が障害され、その結果VLDL-R発現が低下し、これが胎児発育の障害につながる可能性が示唆された。3.部分胞状奇胎、胞状奇胎、絨毛癌の順に増殖能は高く、アポトーシスは抑制されるが、腫瘍性絨毛細胞でのアポトーシス抑制にはBcl-2蛋白は関与しないことが示唆された。4.EVTのアポトーシス発現はFas/Fas-Lとbcl-2 familyにより調節され、脱落膜浅部に比して深部のEVTでアポトーシス発現は高いが、脱落膜深部でtrophoblastic cleftを形成するEVTはBcl-2蛋白発現が著しく強く、例外的にアポトーシスから回避されていることを認めた。PIH胎盤では細胞接着関連因子の発現が抑制され、EVTのアポトーシス発現が高まり、EVTの脱落膜侵入が損なわれる可能性が示唆された。また、甲状腺ホルモンはEVTのアポトーシス抑制とVEGF発現促進を介して妊娠初期の胎盤形成に重要な役割を担うことが推察された。
著者
兒玉 浩明 長田 聡史
出版者
佐賀大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

好中球活性化ペプチドの二量体アナログの開発を目的に、受容体の2つのサブタイプに選択的なアゴニスト及びアンタゴニストの二量体を合成した。合成した二量体アゴニストは、2つのペプチド間の距離が短いほど高い生物活性を示した。また、ヘテロ膜貫通ペプチドとして、3つのFPR サブタイプの第4 膜貫通ドメインをヘテロに架橋した。好中球の活性酸素放出能で評価したところ、活性酸素産生をプライミングすることを見いだした。
著者
赤塚 若樹
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究のテーマは、20世紀のチェコの視覚芸術において発揮されている想像力のあり方を美術史的・文化史的文脈を考慮するだけでなく、歴史的・社会的・政治的状況も視野に入れながら考察することにあった。おもに映画、写真、絵画、グラフィック・デザインといったジャンルをあつかい、その特色が、シュルレアリスムを中心とするアヴァンギャルドの美意識ならびに社会主義体制下の歴史的・社会的状況と密接に結びつきながら独自の発展を遂げてきた点にあることをあきらかにした。
著者
本川 達雄
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

キャッチ結合組織を用いると、筋肉を用いるのに比べ、非常に少ない消費エネルギーで姿勢維持が可能なことを示した。キャッチ結合組織に特異的な神経を発見した。キャッチ結合組織の硬さ変化機構に関わるタンパク質を分離した。
著者
平田 浩一 吉村 直道 河村 泰之
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

学校教育における図形・幾何教育の観点から、最近の折り紙研究の成果の紹介しつつ、折り紙を科学的・数学的にとらえる視点に立った折り紙教材の開発を行った。具体的には、(1)計算幾何学分野での折り紙研究の成果を紹介する教材の製作、(2)折り紙作図を紹介する教材の製作、(3)折り紙作図の特徴を活かした作図問題の収集、(4)折り紙作図シミュレーションソフトウェアの開発、及び(5)折り紙を利用した数学教育の実践、を行った。
著者
竹内 郁雄
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

(1)相手の行動の観察を、その能力を判定できるエージェントを開発した。これは異種のエージェントが導入されたのに伴い、正しく異種エージェントに対応するために必要である。(2)2人または3人がやや長い時間連携するようなチームプレイを発動する短いかけ声を開発した。これは、これまでの反射的な行動を促すかけ声に対してより高度なチームの協調行動系列を促す、進化したかけ声である。(3)RoboCupサッカーシミュレーションの対外試合等で時折観察される、開発者の意図しないエージェントの不審な行動をどのように修正するかを検討した。その結果、エージェント内に自分の一連の行動を結果として評価するモジュール(エージェント内エージェント)を組み込んで、自己監視または自己評価させる方法を採用し、どの程度の効果が得られるかを確認する予備実験を行なった。エージェントの中にエージェントをもう1個置き、自己の異常行動コマンドを発行直前に検出し、それに対する応急措置を主エージェントに要請するとともに、異常行動をもたらした状況について開発者に詳しくレポートさせた。実験結果から、個々のエージェントの内省と、チームの協調行動としてのいわば群内省に関して、新しい研究方針を固めることができた。(4)3次元サッカーシミュレーションに対応するための研究を行なった。現在球形である選手を、人間のモデルとしてより自然な円柱としてモデル化する検討を行ない、物理シミュレーションと整合させる技法を開発した。
著者
古川 龍彦 秋山 伸一 住澤 知之
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

2デオキシ-D-リボースはチミジンホスホリラーゼ(TP)によるチミジンの代謝物の一つである。これまで我々は2デオキシ-D-リボースが血管新生活性を持っていることを見いだしてきた。初年度までに、2デオキシ-D-リボースの光学異性体である2デオキシ-L-リボースを作用させると、TPあるいは2デオキシ-D-リボースがもつin vitroの血管内皮細胞の管腔形成の促進、牛大動脈内皮細胞の遊走能の亢進、血管新生活性の作用を抑制することを見いだして、今年度はさらにTP強制発現ヒト癌細胞を移植したヌードマウスにデオキシ-L-リボースを経口投与して、対照群に比べて有為に腫瘍の増殖を抑制すること、また、脾静脈からTP強制発現ヒト癌細胞を肝転移させる転移実験モデルで転移病巣を有為に低下させることを明らかにした。これらのことから2デオキシ-D-リボースの構造を認識する分子を介して、多彩な機能を発揮させていることがさらに裏付けられた。また、2デオキシ-L-リボースが持つTPの生物活性を抑制作用を利用して新たな抗腫瘍薬剤として用いることができる可能性が示された。TPの発現細胞において低酸素に対して抵抗性であることを見いだしていたがさらに詳細に検討した。デオキシ-D-リボースを加えることで低酸素下でのHIF1αの安定化されるが妨げられること,p38MAPキナーゼの活性化が抑制されることを見いだした。現在、デオキシ-D-リボースが直接に作用する分子が何かを検討中である。TPのノックアウトマウス(TPKO)とTP/UP(ウリジンホスホリラーゼ)ダブルノックアウトマウス(TP/UPKO)を作成した。これらのマウスは雌雄とも妊娠可能で、形態的異常、体重減少などは見られない。TPKOにおいては肝臓でのみTP活性が失われていた。UPKOにおいては肝臓以外のすべての組織でTP活性が欠失していたTP/UPKOマウスでは各臓器ともTP活性が検出されなかった。血中のチミジン濃度は野性型と比較しTPKOは約2倍、TP/UPKOは約5倍であった。1999年にNishinoらはTPがヒトの神経筋疾患であるMNGE(Mitochondrial NeurogastroIntestinal Encephalomyopathy)の原因遺伝子であると報告した。10ヶ月齢の野性型マウスとTP/UPKOの骨格筋ではMNGIEに特徴的所見られなかったが、脳ではTP/UPKOにMRIのT2強調画像で高いシグナルが認められ、また、電顕写真での変化を見いだしており、TP/UPKOはTPの生理的役割の解析とともに、白質脳症のモデルマウスとして病因の解析に有用である可能性がある。
著者
伊藤 寛 中西 俊介 伊藤 稔
出版者
香川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

光学緩和過程には結晶,非晶質,液体,気体等の物質の状態に応じて種々の緩和メカニズムが考えられる。物理的にはこれらはゲスト分子と熱浴との電子格子相互作用として扱われる。特にこの研究では将来的には生体物質中の熱緩和・熱伝導の解明を目的として,その手始めとして生体中の水との関係を考慮し親水性アモルファス系の光学緩和のメカニズムの解明を目的としている。具体的には,ポリビニールアルコール(PVA)をホストとして,その中に溶かし込んだ色素の電子状態の位相緩和を観測することにより,ホスト-ゲスト間の電子格子相互作用の様子を調べる。特にPVA分子中に含まれるOH基やCH基或いはC-C結合などの固有振動の大きさにより,この相互作用がどのように変化するかを調べる。このことにより,PVA中の分子振動の緩和速度或いは伝搬速度などを理解することができる。この場合色素はあくまでホスト分子の熱緩和過程を見るためのプローブである。実験は(1)色素としてサルファローダミン640を使い,これをPVAに封入し4.2Kの温度に保ったものを使った。この試料にシリコニット発熱体からの赤外線を照射しながら,四光波混合信号を観測する。さらに,この赤外光を分光器で分光しOH基に共鳴する3200cm-1を中心に2000cm-1から4000cm-1の範囲の波長を照射しながら測定した。四光波信号の測定には,色素系の緩和時間に対して十分な時間を保証するために10Hzの色素レーザーを使用した。(2)チタンサファイアレーザー励起光パラメトリック発振器(OPO)の発振波長をOH基の固有振動に同調し試料に照射しながら同様な四光波信号を測定した。今後,このような測定法でホスト分子の緩和過程を解明する事が可能である事の糸口を得た。今後振動の励起用および緩和測定用に同期したフェムト秒パルスを用い時間領域での緩和の検出実験を行う。
著者
津田 正史
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

マクロリド化合物Amphidinolide類は、海産扁形動物ヒラムシ(Amphiscolops sp.)の体内に共生する渦鞭毛藻Amphidinium sp.が生産するマクロリドであり、培養腫瘍細胞に対して強力な細胞毒性を示すことが知られている。これまでマクロリド生産能をもつAmphidinium sp.の検出・同定は、藻体抽出物を化学的に分析することにより行ってきた。しかし、Amphidinium sp.のマクロリド生産性が高くないことに加えてAmphidinium sp.自体の増殖速度が遅いことから、細胞を分離してから検出し、大量培養を行うまでに半年以上を要していた。そこで今回、目的とするAmphidinium sp.をより迅速に探索する方法論を検討した。当研究室で保有するAmphidinium sp.5株について系統解析を行ったところ、マクロリドを生産する株としない株は、異なる系統に属することが分かった。そこで、これらの18S rDNA配列を比較し、マクロリド生産能をもつ株に特異的なBELAU2-BELAU9プローブ、それと同位置を増幅させ、生産能をもたない株に特異的なCARTE2-CARTE9プローブ、および両株に共通する部分を増幅させるBC2-BC9プローブの3種を設計し、各種分析法を用いて迅速探索法を検討した。渦鞭毛藻Amphidinium sp.(Y-71株)の培養藻体のトルエン可溶画分より、新規マクロリドAmphidinolide C2を単離し、スペクトルデータの解析に基づいて化学構造を帰属した。一方、沖縄県恩納村真栄田で採取した無鳥類ヒラムシAmphiscolops sp.より、単細胞分離した渦鞭毛藻Amphidinium sp.Y-100株を大量培養し、得られた藻体のトルエン抽出物より、培養腫瘍細胞に対して強力な殺細胞活性を示す新規マクロリドAmphidinolide B4とB5を単離した。スペクトルデータの詳細な解析に基づいてこれらの化学構造を帰属した。抗腫瘍性を示す26員環マクロリドAmphidinolide Hの結晶構造は、21位水酸基とエポキシ酸素との間で水素結合を形成した、全体として長方形な分子形状を有しており、同じく26員環マクロラクトン構造をもつAmphidinolide Bの結晶構造と極めて良く似た結晶構造であることが知られている。Amphidinolide Hの構造活性相関と活性発現の分子機構解明の一環として、本化合物の溶液中での安定配座を検討した。
著者
大堀 研
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

地域デザインの一環としての環境政策の形成および展開過程を、岩手県葛巻町、福井県池田町を対象に社会学的・実証的に検討した。社会課程の相違点として、開発政策の有無など初期条件の違いにより、展開される政策内容に違いが出ることが明らかとなった。また、両町に共通の要素として、町の特性を意識した環境政策の展開、柔軟な住民参加手法の採用の二点を把握することができた。
著者
宇佐美 繁
出版者
宇都宮大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

農家世帯員である女性達の就業形態が、明確に分化してきた。a農作業に全く関与しない純粋勤労者(または専業主婦)型、b農業以外の勤務先を持ちながら、農繁期だけ手伝う兼業型、c経営主等の下で無償の従業員として農作業に関わる従属的農業専従型、d配偶者等と対等なパートナーとして経営に関わっている自立的農業専従型、e経営の一部門を責任をもって担当する独立的農業専従型の五類型である。cは伝統的タイプで、戦後自作農経営を代表し、三ちゃん農業時代の担い手でもあった。今日最も一般的な類型はbであり、二十代から五十代に及んでいる。二十代から三十代にかけては、a類型が急速に広まっている。d,eは90年代にはいってから注目されるようになった類型であり、家族経営協定、女性による起業は、この類型を中心に進展した。近年農村を活気あるものにしている直売所等のグループ活動も、リーダーはこうした類型の女性達である。若い時から家族に気兼ねすることなく、地域の様々な活動に参加してきた女性農業者に多い。後継者を確保している農家は、絶対数ではc類型におおく、家産価値の大きい農家ほど定着している。d,e類型の農家では大半の農家で農業跡継ぎを確保している。女性が誇りと喜びをもって農業経営に参加している農家は、農業経営自体が魅力的であるだけでなく、家族関係も風通しがよく、若者にとっても就業しやすいためである。しかし職業選択についても寛容であり、長男を含めて他産業を選択する場合も少なくない。そこでの後継ぎ問題は、家族関係の領域を越える。
著者
遠藤 辰雄 田中 教幸
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

本研究の初年度では我々が過去に国内の遠隔地(幌加内町母子里北大演習林)において行なった酸性雪の観測の解析を進めた結果によると、硝酸塩も硫酸塩と同様に長距離輸送物質である可能性が示唆されている。そこで2年次において、これが長距離輸送物質であることを特定するために、充分なる遠隔地として北極圏のニーオルソンを選び、そこで降雪粒子と環境大気中のエアロゾルやガスの成分を調べてみた。その観測は1998年12月16日から1999年1月9日までと同年3月2日から同月18日までの擾乱の到来頻度の高い二期間に行なわれた。酸性雪の採取には地吹雪きの混入を避ける為に大型の防風ネット設置し、その中で蓋付きの受雪器を並べておき、降雪時のみ蓋を開けて受雪して,降雪が止むと蓋をしてドライフォールアウトの混入を辞ける様にした。さらに地上降雪観測として独自で開発した電子天秤方式の降雪強度計とTime-lapse-videoによる降雪粒子の顕微鏡写真の録画システムも防風ネットの中に設置した。まだロ―ボリュムエアサンプラーによる濾紙法で大気試料がそれぞれ採取され、環境大気のガス状成分とエアロゾルの化学成分がそれぞれ分析された。この時期の現地では珍しく比較的風の弱い状態の降雪が多く降雪粒子が長時間に亘って採取された。初めの12月〜1月の期間の分析結果では次のことが注目された。大部分の降雪粒子は風向が東南東で、雲粒付結晶であるが、風向が北西である時の降雪では雲粒の付かない雪結晶が多く観測されている。その降雪粒子の化学成分は、他と比べて、S042-が少なく、逆にN03-が多くなっているのが明らかな特徴である。この結果は、これまでの日本国内での観測結果と一致して矛盾はしていない。この風向から降雪をもたらす気流の起源を、考察してみると、現地から見て、東南東の気流はメキシコ湾流が北上して出きる北限のopen-seaからの気流であり、 水蒸気が豊富で過冷却の雲粒が高濃度で生成されていたもの考えられる。一方、北西の気流は現地から更に高緯度の北極海の結氷している氷原野からの気流であるので低温であることも含めて、水蒸気量はかなり希少であり、過冷却の雲粒はほとんど蒸発し、降雪粒子は気相成長のみで成長するために、雲粒の付かない綺麗な雪結晶が卓越するとが考えられ、その発生源が明確に特定できる。ここで得られた新しい知見は次の事柄である。長期間の降雪の末期では降雪に含まれるN03-が減少して検出限界にまで達してしまうが、その環境大気の成分変化を見るとHNO3ガスより粗粒子のエアロゾルに含まれるN03-が減少していることである。このことからガスの物理吸着機構よりエアロゾルのスキャべンジング効果がより効いていることを示唆している。
著者
福迫 博 滝川 守国 久留 一郎
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

鹿児島県北西部地震および出水市土石流災害に関連して発生するPTSDに関して実態を調査し,免疫機能の変化について検討した。北西部地震においては,小学生,中学生,高校生を対象とした調査では,震災3カ月後に10.2%にDSM-IV修正版でPTSDにスクリーニングされた。6カ月後の調査時には4.5%に減少し,一年後の調査では3.1%,一年半後は1.8%,二年後は1.8%であった。一方,成人では6カ月後に6.5%,一年半後には4.2%であった。したがって,児童生徒の方が低頻度であり,児童生徒の心の傷の回復力は成人に比べて高いことが示唆された。地区別での検討からは,震度だけでなく,地区のPTSDに対する取り組み特性,余震の頻度などで経過が影響されることが示された。出水市土石流災害においては,災害発生3カ月後には28.8%がPTSDとしてスクリーングされ,その後の調査では20%前後で推移し2年後も同様の頻度でみられた。被害状況の大きさや死者が出ていることから,地震に比べて尾を引いていると考えられた。免疫機能については16名においてCD4,CD8,CD56,NKCCを測定した。被災3カ月後の調査では,16名中3名(19%)のNK細胞活性が正常の-2SD以下であった。これは-2SD以下の度数が約2.5%であることを考えると,7.5倍と高値であった。一方,CD4,CD8,CD56は増加する傾向がみられ,CD8およびCD56は不安の強い者で高値を示した。PTSDと細胞性免疫能の関連については否定的であった。しかし,NKCCの低下していた3名にNKCCの結果に基づいて個人面接をすると,災害発生後フラッシュバック体験をしていたことや雨音に敏感になって不眠であったことなどと語るようになった。フォローアップした結果では,CD8およびCD56は減少することが示されたが,対象者数が少なく決定的なことは言えないと考えられた。
著者
岡本 拡子 無藤 隆 新開 よしみ 松嵜 洋子 吉永 早苗
出版者
高崎健康福祉大学短期大学部
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究では,子どもと音との素朴なかかわりや音楽的表現の芽生えに着目し,保育における音環境のあり方と,意識的な音環境づくりがどのように子どもの表現教育へと繋がるかについて検討した。音環境に関する物理的調査(環境機械論)とサウンドスケープの思想(環境意味論)に基づき,(1)音圧測定による園の音環境の実態調査,(2)保育者の意図的な音環境づくりと子どもの活動との関連に関する調査,(3)これらの調査結果に基づいた,「望ましい音環境」のあり方とそれらをいかした保育に関するチェックリストの作成を行った。また,保育者を対象に,チェックリストを用いた予備調査を実施し,今後のチェックリスト改良のための検討すべき課題を明らかにした。
著者
福島 哲仁 永幡 幸司 嘉悦 明彦 守山 正樹
出版者
福岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

バリアフリーの視点で環境を整えることによって、痴呆を患っても、ユーモアのセンスと豊かな人間性が養われる事がわかった。デイケアにより、初期の不十分な状況の下で生じた不安または混乱から起こったトラブルが消え、彼ら自身と環境への自信が生まれていた。家族へのインタビューから、痴呆を患うことで、痴呆高齢者の隠された人間性が表に現れてくることが明らかになった。痴呆高齢者とその家族双方の「記憶障害」に対する受容は、家族間に生じるトラブルを防ぎ、痴呆高齢者の豊かな人間性を発展させる上で重要なプロセスと考えられた。ケアスタッフの視点、役割は、痴呆高齢者と家族の間のこのダイナミックなプロセスの進行にとって非常に重要である。幸福に今を生きることは、痴呆高齢者にとって重要であるが、将来への希望や豊かで人間的な生活への期待がさらに重要であることがわかった。痴呆高齢者の生活環境の改善について考える時、音の効果を無視することはできない。痴呆高齢者の生活環境に対する音の効果を明らかにするために、どのような種類の音が回想されるかを調べた。デイケアのリーダーが、擬声語を書いた大きなカードを示し、その擬声語を声を出して数回読み、その間に何を想像しているかを自由に話してもらった。この結果わかったことは、(1)一般的に、鳥の鳴く声や雨の音など自然にある音は、性を問わず擬声語から容易に回想される。(2)台所仕事の音は、女性によりよく回想される。(3)昔の生活習慣に関する音は、はっきりと回想される。(4)それぞれの生活史に関わる音は、深い感情を呼び起こし、鮮明に回想される。これらの結果は、痴呆症を患う高齢者が、痴呆を患う前に身近にあった音を容易に回想することができることを示している。
著者
中嶋 哲彦
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

2006年の教育基本法改正及び2007年地方教育行政の組織及び運営に関する法律・学校教育法の改正は、地方教育行政及び学校管理への目標管理システムの導入を促進する意味をもっていた。全国学力テストの実施や学校評価・教員評価はその一環を成すものであることが確認された。他方、教育振興基本計画による目標管理は当初予想されたほど強い統制力は発揮していないことが確認された。
著者
大黒 太郎
出版者
福島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、「極右政党」を組み込んで、1990年代のヨーロッパで相次いで登場した右派連合政権(オーストリア・イタリア・オランダ)によって実現した年金・医療保険制度改革において、「極右政党」が果たした独自のインパクトを確定することがその第一の目的である。また本研究は、ドイツ・イギリスなど左翼政党主導で実現した同時期の同種改革との対比のなかで、その改革の性格を明らかにしようと試みた。
著者
杉谷 嘉則 影島 一己 西本 右子 天野 力
出版者
神奈川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

高周波分光法は、物質と水の相互作用の変化を鋭敏に捉えることを可能にする、われわれ独自の手法である。すなわち、物質の状態変化に伴う誘電率変化を共振周波数の変化として検出する手法である。また、エマルションとは、界面活性剤の力により、水中の油滴、逆に油中の水滴の形で一様に分散する系をいう。食品(牛乳)、化粧品(ヘアーオイルなど)、農薬、塗料、その他多くの産業分野に用いられている。これらエマルションは熱力学的に不安定な系である為、時間経過によりいずれ相分離を生じる(別の言い方では、劣化する)。これらの相分離過程を高周波分光法により観測することに成功した。実際には、多種類のエマルションを合成し、その劣化過程を高周波スペクトルのピーク位置の移動という形でとらえることができた。結果の一例を示すと、エマルション合成時に、界面活性剤の割合を多くしたものは、時間経過に対する劣化が緩やかに進行することが判明した。また、高温で保存したエマルションは、劣化がより速やかに進行することも判明した。これらは経験的には自明として知られていることであるが、目視や他法では観測し得ないような微小の変化も本法で鋭敏にとらえることができた。