著者
長友 和彦 井上 修一 平瀬 清
出版者
宮崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

日本・韓国・中国・台湾の教育研究機関・関係者と連携して研究を進めた結果、(1)三言語(日本語・韓国語・中国語)同時学習支援を支える三言語習得論・多言語多文化同時学習支援論・多文化共生論等の理論、(2)それぞれの国・地域における三言語及び多言語多文化同時学習支援に関わるさまざまな実践例、(3)三言語同時学習や多言語多文化同時学習支援のシラバスのあり方やその支援者・推進者の役割のあり方、等についての知見が得られた。
著者
馬場 忠雄 早島 理 佐藤 浩 丸尾 良浩 長倉 伯博 横尾 美智代
出版者
滋賀医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

難治性の重篤な患者、末期状態の患者などを支える緩和医療のより望ましいあり方を構築するため、医学・医療を学ぶ者と宗教者が医学教育の場で共に学ぶことを通じて、両者が実践的に協働できるシステムを研究開発し、滋賀医科大学のカリキュラムで実践することができた
著者
木田 雅成 大野 真裕
出版者
電気通信大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

代数的トーラスの有理点のなす群と最大基本アーベル拡大のガロア群の双対性を証明した。これは古典的なクンマー理論の1の冪根を含まない体への自然な拡張になっている。クンマー理論の基礎体が素体まで下げられるいくつかの場合について、巡回拡大を与える方程式の具体的な形を計算機を援用することによって計算することができた。またこの理論の代数学、整数論への応用も研究した。
著者
布柴 達男
出版者
国際基督教大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

非変異発がん物質Benzeneの代謝物、hydroquinone(HQ)の染色体分配異常に伴うヘテロ接合性喪失(LOH)誘発性を確認した。HQがtubulinとの相互作用を介し紡錘体形成におけるtubulin重合/解離のバランスを乱すことやHog1-Swe1 morphogenesis checkpointを活性化することから、それらの性質がLOH誘発に寄与すると考えられた。また様々な線エネルギー付与(LET)のイオンビームが相同組換えに起因するLOHを誘発することを確認した。
著者
小林 淳子 赤間 明子 大竹 まり子 鈴木 育子 叶谷 由佳 藤村 由希子 右田 周平
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

平成17年度は,妊娠を契機に禁煙した、あるいは喫煙を継続した女性喫煙者の「たばこに対する思い」を因子探索的に分析した。その結果,出産後まで禁煙を継続した女性では「子どものため,自分のため,他の人のために喫煙はやめるべき」という規範的意職と,「出産後のいたずら喫煙,育児の負担がなければ喫煙しない」という将来の再喫煙を避けるための対策の因子が抽出された。一方,再喫煙した女性では「また吸ってしまうかもしれない」という再喫煙の予感,「止めたいが止められない」という禁煙困難,「禁煙は考えていない」という無関心の因子が抽出された。「子どもと喫煙」に関するラベル数の割合が,禁煙継統群は喫煙再開群よりも明らかに高く,PRECEDEPROCEEDモデルの「実現要因」である喫煙環塊への対策に加えて,「前提要因」である「喫煙による子どもへの影響の認知」を高めるために,「強化要因」である医療関係者の役割の璽要性が示唆された。平成18年度は,地域における禁煙サポート源として看護職者が機能するために,看護職者よる禁煙・防煙支援の実態と関連要因を解明を目的とする質問紙調査を実施した。Y県内の55施設,所属する看護職1414名を分析対象とした。その結果、禁煙・防煙支援が業務としての位置づけられている407名(28.8%)、禁煙・防煙支援の経験あり267名(18.9%)と低率であり、禁煙支援・防煙支援の困難は189名(70.8%)が感じていた。同時に、禁煙・防煙支援の講習会の参加は250名(17.7%)に留まった。業務の位置づけがある群で支援経験ありは38.3%,位置づけが無い群では11.0%,しかし位置づけがあっても支援経験なしが61.7%を占めた。禁煙支援の自己効力感は100点満点で平均14.4(±12.3)点と低かった。以上の結果から,看護職者は禁煙支援・防煙支援を業務として位置づけられていても実施していない割合が高く,支援の自己効力感が低い点が課題であることが明らかとなった。
著者
羽多野 毅 王 華兵
出版者
独立行政法人物質・材料研究機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

高温超伝導体は層状の結晶構造そのものが超伝導性と絶縁性を示すことから、ジョセフソン素子としてどうさすることが知られ、固有ジョセフソン接合と呼ばれている。固有ジョセフソン接合Y-123系における磁束量子の層平行磁束と層に垂直の磁束との二状態間を、電流によりスイッチングさせることに成功した。磁束状態は温度を保持している限り電流を切っても不揮発性で記憶されていることを見いだした。また、その繰り返し読み出し・繰り返し書き込み消去動作を確認した。
著者
廣瀬 浩二郎 小山 修三 五月女 賢司
出版者
国立民族学博物館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本プロジェクトは、ユニバーサル・ミュージアム(誰もが楽しめる博物館)の具体像を模索する多様な研究活動を展開した。2011年10月にはプロジェクトの成果発表を目的とする公開シンポジウム「ユニバーサル・ミュージアムの理論と実践」を国立民族学博物館で行なった。吹田市立博物館の実験展示「さわる-五感の挑戦」(2009年・2010年)、特別展「さわる-みんなで楽しむ博物館」(2011年)の開催に当たっては、展示コンセプトの立案、資料選定などで協力した。
著者
谷口 真吾
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

亜熱帯地域の沖縄県を中心とする沖縄島嶼域では、森林のもつ公益的機能の高度発揮のため計27種の有用樹を造林樹種として指定している。沖縄県はこれらの有用樹種を用いた人工造林や樹下植栽、育成天然林施業など多種多様な森林造成を積極的に推進している。しかしながら、指定樹種には開花結実、受粉・交配様式などの繁殖特性が未解明な樹種が大半を占めている。亜熱帯域の多様な樹種から構成される森林を維持し、種子の供給と確実な更新を安定的に促すためには、構成樹種ごとに個々の繁殖特性を主体とする生活史を解明することが急務である。そこで、本研究課題では亜熱帯性樹木の繁殖特性を明らかにするため、有用樹4種の開花フェノロジー、送受粉機構、結実機構について研究を行った。本研究で得られた知見は、有用樹の効率的な種子生産に寄与する成果であり、沖縄島嶼域の森林保全あるいは再生、さらには新規造成のための地元産種子による苗木生産、あるいは天然更新のための種子確保に不可欠となる種子生産技術の基礎的情報の体系化に極めて重要な成果を提供するものである。
著者
池口 良輔
出版者
公益財団法人先端医療振興財団
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

近年,世界で30例以上の手同種移植成功例と数例の顔面同種移植成功例が報告されている。しかし、通常の免疫抑制療法には術後,感染や悪性腫瘍の発生など致命的な副作用があり,腎、肝,心肺移植などの生命維持器官の移植では,致命的副作用を伴う免疫抑制剤の使用は認められるが,生命維持器官でない四肢運動器官の同種移植では,免疫抑制剤の使用については議論の多いところである。一方、骨髄間葉系幹細胞(MSC)は、骨、軟骨、脂肪組織などへの多分化能を有し、採取分離培養が比較的容易な細胞として知られているが、移植医療分野では同細胞の免疫調節効果を用いた治療法が近年報告されてきている。今回我々は、免疫調節効果を持つ骨髄間葉系幹細胞を投与し、ラット四肢同種移植モデルでの拒絶反応の抑制効果を評価検討した。Lewisラットをレシピエントとし、Wisterラットの後肢の同種移植を行いMSC(2×10^6)と1週間のFK506(0.2mg/kg/日)を投与したものをMSC群(n=6)、同様に同種移植を行いFK506(0.2mg/kg/日)のみを投与したものをFK群(n=6)、コントロール群として免疫抑制療法を行わない群(n=6)とLewisラット間の同系移植群(n=6)を作成した。移植肢の生着期間を組織学的に評価し、拒絶反応の程度を免疫学的に評価した。移植肢の生着期間について、MSC群ではFK群に対して有意な生着期間の延長が認めら、組織学的にも拒絶反応が抑制されていた。免疫学的にもMSC群での拒絶反応抑制が確認された。MSCには免疫反応抑制効果があり、それによりラット四肢同種移植モデルでの生着期間が延長したものと思われる。運動器官の同種移植など通常の免疫抑制剤の使用が致命的副作用のため制限されるような場合、細胞を用いた新たな免疫抑制療法として間葉系幹細胞を応用できる可能性が示唆された。
著者
酒井 潤一 横山 賢一
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、不働態皮膜により高耐食性を有する合金の腐食に伴う水素吸収から脆化に至るまでの全体像の特徴とメカニズムについて、電気化学的観点と材料強度学的観点を相互に関連させて複合的に調べ明らかにした。得られた種々の知見は、使用環境中における金属や合金の安全性・信頼性のさらなる向上のための材料評価法及び新しい合金開発のための指針の一つとして期待されることを示した。
著者
那須 敬
出版者
国際基督教大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

17世紀半ばのイングランドにおける、宗教的寛容および不寛容をめぐる政治的・神学的・思想的な交渉過程を考察した。不寛容な前近代から寛容な近代へと直線的に発展する歴史像を提示し続けてきた「ピューリタン革命」理解をこえて、近世社会における宗教対立を理解する新しい枠組みを模索した。議会と教会、イングランドとスコットランド、書簡・請願と説教・印刷メディアなど、複雑な交渉過程の中で、「寛容」「非寛容」の概念がそれぞれを規定しながら動的に構築・再構築されるプロセスが明らかになった。
著者
宮村 倫司
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

大規模な接触問題解析を実現するために,領域分割法に基づく並列解析手法を開発することが本研究の目的である.最初に,摩擦のない接触問題の解法として, Semismooth Newton法の改良手法,内点法とSemismooth Newton法の組み合わせ手法を提案した.次に,内点法やSemismooth Newton法の反復の中に現れる等式制約条件付線形問題を多点拘束条件を考慮したBDD法で解くためのアルゴリズムの開発について検討した. GPGPU実装による高速化についてもプロトタイプコードを開発した.当初の研究計画には,摩擦のある大規模接触問題の解法の開発が含まれていたが,基礎的な検討にとどまり,研究期間内に実用的な手法を開発することはできなかった.
著者
大野 隆造
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

没入型VRシステムを用いて、火災発生時の異変察知から避難意思決定に至るまでの行動に関する実験を行った結果、火災放送は、単独では避難意思決定を促すには十分でなく、非常ベルと発報放送という事前情報があることで意思決定が促進されること、また非常ベルや火災放送の繰り返しが、避難意思決定および確認行動を早める効果があること、さらに建築の空間構成として、廊下側に窓のない居室や遮音性の高い居室では、避難行動が遅れることが明らかとなった。
著者
窪田 充見 手嶋 豊 大塚 直 山田 誠一 水野 謙
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

無形の利益が侵害された場合の損害賠償における損害の把握と賠償額の決定に関して、(1)損害論のあり方(水野)、(2)延命利益の賠償(大塚)、(3)自己決定権侵害における損害賠償(手嶋)、(4)純粋財産損害の賠償(山田)、(5)慰藉料請求権の内容と機能(窪田)の各テーマについて、各担当者が、我が国の判例と学説ならびに比較法的な状況を分析し、研究会においてその分析と解釈論的な提案を検討するという形で共同研究を進めた。その結果、(1)損害論のあり方においては、担当者より、従来の裁判例の分析を踏まえたうえで、口頭弁論終結時までの「プロセスにおける不利益状態」を類型ごとに規範的・金銭的に評価したものを損害と捉えるという従来の損害=事実説対差額説という図式に入らない損害概念の把握が提案された。(2)延命利益の賠償については、近時の最高裁判決を、延命利益論、割合的因果関係論、確率的心証論、機会の喪失論、救命率に応じた救命可能性の侵害論などの最近の理論的枠組の中で、どのように位置づけるのかを検討した。(3)自己決定権侵害における損害賠償においては、医療における自己決定権侵害を理由とする損害賠償額の決定について、従来の裁判例のマクロ的ならびにミクロ的な分析がなされ、具体的にどのような衡量要素によって賠償額が決まっているのかが析出された。(4)純粋財産損害の賠償については、この問題が、権利構成の法秩序に組み込まれてこなかった問題であるとして、裁判例の検討を手がかりとして、一般財産の状態自体が被侵害法益となるのではないかとの解釈論的提案がなされた。(5)慰藉料請求権については、ドイツ法の判例の展開を分析し、慰藉料の機能の拡張に関する問題が精神的損害固有のものではなく、損害賠償法一般の役割の問題として位置づけられるべきものに変遷してきたことを分析した。
著者
中村 哲也
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

民法の展開は、杜会における人々の行動様式及び規範意識の変化を基礎にするものであり、法形成は常に変動のなかにある。明治31年施行の民法典においては、財産法と家族(制度の)法の2本柱の下、個人の存在は財産主体(妻は制限的行為無能力)としての意味が中心であった。第2次大戦後の「個人」の進出は、財産主体たる地位にとどまらない個人の意義の承認・拡大を要請するものであった。しかしこのことは財産・市場と個人、家族と個人の関係の緊張のなかにあることによって、人格権・人格的利益の単線的拡大を意味するものでないとくに、大量生産・大量消費社会を押し進めてきた技術革新が情報及び医療分野で飛躍的展開を果たしてきていることによって、個人がその成果を享受するというだけでなく、人格の商品化に拍車がかり、そのことによって、個人と市場との緊張関係が新たな段階を迎えることになった。本研究はこの現象の損害賠償法での現れを、情報と医療それぞれにおける具体的問題を手がかりとして観察し、民法における人格保護の今後の方向を検討しようとしたものである。本研究は次の内容からなる。第1部人格権侵害と損害賠償法第2部Wrongful life訴訟にみる損害賠償法第3部補論(1)遺伝子組換え作物問題とドイツイミッシオーン法補論(2)末期がんの家族等への告知と個人の尊厳
著者
西山 正秋 前田 誠一郎 柳生 成世 折附 良啓 上垣 宗明
出版者
神戸市立工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

英語プレゼンテーション能力の評価に大きな比重を占める「アイコンタクト」を客観的に測定するための、装置・ソフト・手順が明らかになった。そのデータの分析によって、発表者の視線・アイコンタクトを高い精度で自動的に検出できた。また、目の動きの時系列波形分析を行うことによって、優秀な発表者の視線行動のパターンを比較出来ることが分かった。これらは今後、ジャッジの主観的判断を補うものとして利用できる可能性が示された。アイコンタクトに関するジャッジの評点・評価項目の分析結果と総合して、英語プレゼンテーション能力評価システム改善への方向性が示された。
著者
永富 良一 鈴木 克彦 矢野 博巳 鈴井 正敏 和久 貴洋
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

運動やストレスに伴う免疫学的パラメータの変化は多数報告されているものの、その意義は未だ明らかにならず、実用的な研究が少ない。そこで2003年7月国際運動免疫学会コペンハーゲン大会の将来構想委員会において、今後スポーツ選手など運動に伴う免疫学的な問題に焦点を当てることを提案した。その結果、2005年モナコでの学術集会、2007年10月日本での学術集会では実用的な研究に焦点を当てることになり、本研究の代表者永富は国際運動免疫学会副会長に選出され、同時に2005年学術集会のプログラム委員長を務めることになった。この決定に伴い、これまでほとんど行われてこなかったスポーツの現場での免疫系が関連する問題点の調査を実施した。様々なレベルのスポーツ種目指導者に面接の上、質問紙を作成し、平成15年12月〜2月にかけて、大学生、プロスポーツ選手、実業団スポーツ選手、目本代表候補選手などを対象に無記名のアンケート調査を実施し1409名から回答を得た。有効街回答1367件を分析した結果、およそ20%にあたる274名が免疫に関連する疾患がスポーツ活動の障害になっていることを申告した。原因疾患として48.9%が急性上気道感染症を、25.2%がインフルエンザを、22.3%が花粉症を挙げた。インフルエンザ以外は軽症疾患といえどもスポーツ実施者にとっては無視できない問題であることがあらためて浮き彫りにされた。詳細な分析結果は現在報告書にまとめつつあり、各競技団体に配布する予定である。また本研究代表者が代表を務める日本運動免疫学研究会では2005年、2007年の学会に向けて今回明らかになった現場での問題点に関連する研究を奨励していく予定である。
著者
幸田 正典 宗原 弘幸
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

平成13-15年度、及び16年殿一部の期間で、協同繁殖魚のジュリドクロミス・トランスクリプタス、およびカリノクロミスを用い、実験条件下での雌雄の繁殖戦術について複数の実験を行うことができた。まず、協同繁殖条件下で、なわばり雄・ヘルパー雄の精子競争が引き起こされることが、ペアで飼育した雄のGSIとの比較から明らかにされた。このことは本種の雄が、置かれたでの精子競争の程度に応じて、精巣への投資をダイナミックに対応させていることを示している。雌による雄の受精への操作についても、繁殖飼育実験からほぼ実証することができた。この場合もペア繁殖の場合となわばり雄・ヘルパー雄そして雌の鳥を出繁殖させた場合の雌の産の違いから検討されている。二匹の雄がいる場合、雌は卵塊を有意に幅広く産卵させた。DNA判定により巣のより奥に産卵された卵は小型雄が、手前の卵は大型のなわばり雄が受精させることが明らかになった。このことは、雌が産卵場所をコントロールすることで2雄の父性を操作しうることを強く示唆している。また、小型雄の受精率が高い場合、同雄による保護の頻度も高くなることも示唆され、雌の父性操作が雄の保護と関連していることも裏付けている。同属のオルナータスでは野外で一妻多夫の他、一夫一妻やハレムも形成されることが知られており、その主な要因は個体のサイズであることが考えられている。トランスクリプタスの雄雌をともに3個体用いた大型水槽での飼育実験から、雌雄にかかわらず、個体の大きさが婚姻形態の決定に大きな要因となることが示された。すなわち、雌雄ともに似たサイズでは一夫一妻が、一匹の雄が大きな場合は全ての場合で一夫多妻、一雌が大きい場合は一妻多夫の傾向になることが明らかにされ、個体のサイズが婚姻形態形成の上での重要性が、明瞭に示された。カリノクロミスでは、野外観察から雌がくさび形の巣を好むことが示唆されていた。タンガニイカ湖の調査個体群から持ち帰ったカリノクロミスを水槽で飼育し、雌の巣の選択実験を行ったところ、受精の操作が可能である「くさび形」の巣を選択することが明らかにされた。今後カリノクロミスでの雌による雄の父性の操作が成されるのかどうか、といった研究を継続する必要があるが、この結果は、非血縁のヘルパーを伴う協同繁殖において、雌による父性操作の重要性を物語っているといえる。
著者
舘野 義男 山崎 正明 小林 薫(深海 薫) 猪子 英俊
出版者
国立遺伝学研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

MHCは原索・脊椎動物が偶然に獲得し進化的に精緻化を重ねてきた生物機能であるが、MHC遺伝子群だけではなく、その周りのゲノム配列を進化的に解析することにより、その進化的起源や過程を明瞭に示すことができる。この研究では、ヒト(H)、チンパンジー(C)並びにアカゲザル(R)の3種について、MHCクラスI遺伝子群中のBとC並びにクラスI関連遺伝子MICAとMICBの2組の遺伝子の起源と進化に注目をして解析を行った。2組の遺伝子は2組のゲノム重複断片に存在することが分かっている。これらの重複が進化的に何時起こったか正確に推定することにより、2組の遺伝子の起源を明らかにすることが可能となる。ただ、ここで問題になるのは、これらの遺伝子は自然選択を強く受けているので、一定の速度で進化してはいないことである。従って、重複ゲノム断片中でこれらの遺伝子と一緒に進化している中立的な配列部分を選択する必要があり、私達はLINEの断片配列に注目して解析を行った。分岐時間の推定にはLINE断片の進化速度を求める必要があるが、私達はHとCの種分岐時間を、他の研究から得られた値、5.4百万年、をもとに推定した。この速度は、中立遺伝子の速度の範囲内にあることを確認して、BとC遺伝子の分岐時間を、2.23千万年と推定した。同様にMICAとMICB遺伝子の重複時間を1.41千万年と推定した。ゲノム解析の難点は、特定のゲノム領域に存在する遺伝子や他の配列がそれぞれ異なった進化要因を受けて進化しているので、一様に解析する訳にないかないことである。従って、問題としている領域の基本的な進化関係を正確に把握しないと誤った結論に導かれる危険性がある。そこで、H、C、Rのオーソログ領域のそれぞれの進化距離を求め、Rの分岐時間を2.70千万年と推定した。このような方法でRの分岐時間を推定したのは、おそらく世界で初めての試みであり、推定値も妥当と考えられる。上記の推定値もこの推定値に照らして妥当と結論される。
著者
川村 隆一 植田 宏昭 松浦 知徳 飯塚 聡 松浦 知徳 飯塚 聡 植田 宏昭
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

大気海洋結合モデルならびに衛星リモートセンシングデータ等の観測データを併用して、夏季モンスーンのオンセット変動機構の重要な鍵となる大気海洋相互作用及び大気陸面相互作用のプロセスを調査した。標高改変実験からは亜熱帯前線帯の維持のメカニズム、植生改変実験からは降水量の集中化と大気海洋相互作用の重要性が新たに見出された。また、オンセット現象と雷活動との相互関係、夏季東アジモンスーン降雨帯の強化をもたらす台風の遠隔強制やモンスーン間のテレコネクションのプロセスも明らかになった。