著者
土屋 正史 豊福 高志 野牧 秀隆 力石 嘉人
出版者
独立行政法人海洋研究開発機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究では,ゼノフィオフォアの餌資源利用形態や他の微小生物との生態的な関係を明らかにするために,分子系統解析,細胞な微細構造の観察,炭素・窒素安定同位体比分析を行った。現場培養実験では,炭素ラベルしたグルコースと窒素ラベルした珪藻(Pseudonitzschia sp. NIES-1383)を現場培養装置に添加し, 2日間の培養を試みた。その結果,ゼノフィオフォアは,突発的な沈降有機物に素早く反応し,餌資源を効率的に捕集し利用することで,急速な成長を促すことが示唆された。
著者
星川 保 豊島 進大郎
出版者
東海学園大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

加齢の動作の退行に与える影響を検討するために、歩行動作を対象として加齢による歩行動作の変化を平均年齢70.3±6.0歳の男子6名と、平均年齢79.8±9.3歳の女子5名を被験者とした3年間の高速VTR撮影,及び座標値変換法による測定から検討した。1. 1995年と1997年で男女共に統計的に有意な変化を示した測定項目2. 1995年と1997年で男女共に統計的に有意な変化を示さなかった測定項目
著者
竹森 繁 田澤 賢次
出版者
富山医科薬科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

現在の温熱療法の主流は誘電加温法であるが,癌局所のみを選択的に加温するのは困難である.一方,電磁誘導加温法では選択的な加温が可能である.過去に磁性体としてDextran Magnetite(DM),Thermosensitive magneto-liposome(TMs)を用いた方法を開発し,その特性・治療効果について報告してきた.TMsは内部に封入した抗癌剤などの薬剤を温度感受性に徐放する性質を有し,選択的温熱化学療法が可能であるが,粒子径が小さく塞栓作用が弱かった.この問題点を解決すべく,新たにDMアルブミンマイクロスフェア(DM-AMs)を開発し,誘導加温法を行い,その特性と新しい温熱治療法について検討した.DM-AMsの粒径は条件を変更することで任意に作製でき,今回の実験には粒径4-6μm,鉄含有量39.6%のものを用いた.前年度の実験で,出力7kW,周波数500KHzの誘導加温装置と,光センサー式温度測定装置を用いた計測では,in vitroではDM-AMsの濃度20mg/mlで6℃/3分,10mg/mlで6℃/7分の温度上昇,in vivoではラットの肝尾状葉に経動脈的に投与し塞栓後,誘導加温を行ったところ,肝尾状葉は43℃に加温された.直腸温は36.7℃であり,投与局所のみ加温された.組織学的所見では,肝尾状葉の類洞,肝動脈は塞栓され,腫瘍内へもDM-AMsが取り込まれていた.塞栓加温後3日目の肝臓の病理組織所見では,辺縁部の腫瘍細胞は粗な配列を示し,他の部分は壊死と繊維化が始まっていた.以上のようにDMアルブミンマイクロスフィアによる塞栓を併用した誘導加温法は,有意に肝実質を加温することが可能であった.抗癌剤を同時に封入することで,薬剤を徐放性に放出する性質を合わせ持つことが期待され,十分量を塞栓することにより腫瘍内組織のみを選択的に加温し,局所の温熱化学療法を行える可能性が示唆された.本研究結果については第14,15回日本ハイパーサーミア学会において発表した.
著者
小島 智恵子
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

1.研究内容本研究は、原子力の民事利用開発の中でも高速増殖炉(以下FBR)を事例とし、日本とフランスのFBR開発を歴史的に分析することを目的としている。本研究では一次資料の収集に最も重点をおいた。特にフランスのFBR開発に関する一次資料に基づいた歴史研究はこれまで日本では殆ど行なわれていないので、同一次資料をフランス原子力庁アーカイブス,フランス国立図書館,パリ国立高等鉱業学校図書館等で可能な限り収集した。本研究ではさらにオーラルヒストリーの手法を導入し、FBR研究に貢献したフランス人研究者へのインタビューを実施した。日本よりも早くFBR開発が進められたフランスでは、その中心的役割を果たした研究者の方々がご高齢になられていることもあり、最優先でインタビューを行った。以上の資料をもとにFBR開発の歴史をまとめその中で日本とフランスのFBR開発の歴史的特徴、日仏研究協力の歴史的変遷を総括した。2.研究の意義・重要性これまでの原子力開発史に関する研究は主にアメリカの研究を対象としていたが、本研究では日本とフランスのFBR開発を中心に歴史分析をするという新しい視点を導入したことに意義がある。少なくとも日本では本研究が日仏FBR開発の通史としては初めての試みである。この研究の中で、初期のフランスのFBR開発においては米仏協力が重要な役割を果たしていたこと、FBR開発では国際協力が大きく貢献していたこと、初期の日本のFBR開発においてはフランスが指導的立場であったこと等を明らかにした。フランス人研究者へのインタビューの回答では、フランスではタブー視されている内容も含まれており、またフランス人的観点による日本のFBR開発に対する建設的な批判も得た。本研究のテーマは、日本人の研究者だからこそ扱うことができたという点においても重要であると考える。
著者
中川 丈久
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

最初の2年間(平成15年度及び16年度)の研究調査の成果は,次のとおりである。第1に,行政法の伝統的な教育が,主として行政官(すなわち国の行政職員)を念頭に,国法体系及びその執行を教授するものであったこと,またそれを克服しようとして提唱された新しい行政法教育が,主として地方行政職員の視点にたつものであったことを踏まえて,法科大学院においては,こうした行政機関の視線ではなく,法曹の視線から行政法教育を行う必要性があるという観点から従来の行政法教育を組み替えるための基礎的研究を行った。第2に,行政訴訟と民事訴訟の通約可能性,憲法論と行政法理論との共通言語化作業、民刑事実体法と行政法(個別法の仕組み)の間の共通言語化作業を行って異なる領域をシームレスに考察するための理論的環境整備である。最終年である平成17年度においては,これらの理論的成果を法科大学院における教育に応用するべく,教材として成果を結実させた。すなわち,法科大学院・における公法系の「実務と理論の融合」のための教育教材案を作成し,授業で試用した。その教材は,政上の紛争が実際に生起し,解決されるプロセスに即して,教材を組み立てて授業を行うというものである。この教材においては,とりわけ,紛争の発端における原告側及び被告側の弁護士の役割及び裁判所の役割という視点を明確に分けて,それぞれの立場において,憲法や民事訴訟とあわせて,行政法・行政訴訟の理論がどのように実務家にとって有効であるのかを示したものである。同時に,実務への導入教育ともなっている。平成18年度においては,この試用経験をもとに,さらに教材案を改定した。
著者
上原 克人
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

東シナ海陸棚は面積こそ全海洋の0.35%にすぎないが、この海域へ黄河・長江両河川から流入する土砂は世界中の河川から海洋へ流入する量の12%に達し、光透過度や栄養塩の輸送、海底堆積物の粒径変化などを通して海域の生態系に大きな影響を与えるとともに、中国東岸での過去6千年で200kmに及ぶ海岸線の前進を引きおこすなど陸棚の地形発達にも深く関与してきた。そのため東シナ海においてこの陸起源の土砂の振る舞いを把握することは当該海域の海洋環境を理解する上で非常に重要である。過去の観測結果からこの河川由来の土砂の多くは沿岸域でいったん堆積した後、再懸濁を繰り返しながら陸棚域を移動することが示唆されてきたが、再懸濁の発生頻度や空間分布は、陸棚全体にまたがる年間を通した研究はこれまで行われておらず、理解が十分であるとは言えなかった。そこで本研究では陸起源の土砂輸送過程の中でも再懸濁過程に的を絞り、東シナ海陸棚上で一般流、潮流、波浪に起因する底摩擦の強度を過去10年間にわたって推定し、再懸濁を引き起こす可能性のある強い底摩擦が発生する頻度を調べた。その結果、従来から指摘されていた冬場の暴風だけではなく、台風通過も再懸濁を引き起こす大きな要因となりうることが判明し、夏から初秋にかけての再懸濁も東シナ海の物質輸送に影響を与えている可能性が示唆された。さらに黄海の中国沿岸と韓国沿岸では、同じモンスーン気候の影響下にあるにもかかわらず、陸域配置の関係から再懸濁発生の季節変化のパターンが異なることが明らかになった。この結果は両岸での干潟発達の観測結果と良く対応しており、東シナ海沿岸の潮間帯の季節変動を理解する上で海域全体を体系的に調べることの重要性を示している。
著者
戸瀬 信之
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

1(特異約なフーリ工積分作用素)線形双曲型偏微分方程式の解の(超局所)特異性の伝播の研究においては、解の特異性の分岐、conical refractionなど様々な現象が解析されてきた。特に、結晶光学に現れるconical rehactionの現象は、自然界に現れる自然なものとして多くの視点から研究が進められてきた。1985年ころから、conical refractionの研究に、余接束をその包合的な多様体に沿って爆裂して解析を行なう第2超局所解析(second microlization)を用いて分析を行なうことが試みられ、P. Laubin(LIEGE大)や私の研究により一定の結果を得る事ができた。第2超局所解析は、包合的な多様体上の超局所特異性を、余接束をその包合的な特性多様体にそって爆裂した空間上で解析を行なうものであるが、上で述べた研究で中途半端になっているものがある。超局所解析では、量子化接触変換、フーリ工積分作用素によつて、擬微分方程式が単純特性的な点において簡単な標準形にうつることが示されているが、第2超局所解析ではこの方向の研究が不十分である。すなわち、変換理論自体はあるのであるが、マイクロ函数の第2超局所特異性を分解した層を部分層として含む第2マイクロ函数の層の枠組みで構成されたものである。この研究では、解の構成に変換理論が使えるように、マイクロ函数の第2超局所特異性を分解した層の枠組みで変換理論を構成するための様々な準備を行なつた。2(第2超局所特異性の基礎的な研究)第2超局所解析で自然に現れる第2超函数の層は、正則包合的な多様体上に制限した佐藤のマイクロ函数の層を含む。この第2超函数の層を退化した偏微分方程式の境界値問題に応用した。
著者
堀口 健雄
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

本研究は渦鞭毛藻類における眼点の多様性の実体を把握しようとするものである。また,分子系統学的な解析により,渦鞭毛藻類において眼点がどの系統で獲得され,あるいは二次的に消失したのかといった問に対する答えを見いだすことも目標とした。さらに特殊な眼点をもつDinothrix paradoxaについては,その眼点の分裂機構を明らかにつることに努めた。各地から採集した渦鞭毛藻類の眼点の有無を調査した結果,タイドプールに生育するGymnodinium pyrenoidosum,Scrippsiella hexapraecingula,Scrippsiella sp.の3種で眼点の存在が確認された。これらの眼点の微細構造を調べたところ,3種とも葉緑体中に脂質顆粒が並ぶタイプの眼点で,しかも脂質顆粒が2列に並ぶ構造をもっていた。このように脂質顆粒が2列に並ぶタイプの眼点は今まで知られていない。18SrRNA遺伝子の塩基配列を9種類の渦鞭毛藻類について決定し,DDBJのデータベースから取得した25種のデータを加えて分子系統解析をおこなった。その結果,同じタイプの眼点をもつG.pyrenoidosumとS.hexapraecingula が単系統となり,D.paradoxaも上記2種と同じクレードに含まれることが明らかとなった。このことは特殊であるとされるD.paradoxaの眼点も通常の眼点の変形である可能性を示唆するものである。D.paradoxaの眼点の分裂については光学顕微鏡レベルで連続観察をおこなった。その結果,元の眼点は分裂することなく,細胞質内でde novoに眼点が形成されるらしいことが明らかになった。この点については,眼点を包む膜の由来などの問題もありさらなる検討が必要である。
著者
矢ヶ崎 一幸 伊藤 秀一 柴山 允瑠
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

解析的および数値的な手法を用いて,偏微分方程式系や離散格子系などの,さまざまな無限次元力学系において起こる分岐現象およびホモ/ヘテロクリニック挙動を明らかにした.特に,偏微分方程式系のソリトンやパルス解,フロント解に対応した,常微分方程式系のホモ/ヘテロクリニック軌道に対して,サドル・ノードおよびピッチフォーク分岐が起こる条件を求めるための摂動的な方法を開発し,その軌道まわりの変分方程式の微分ガロア理論の意味での可積分性との関連を明らかにした.
著者
今泉 裕美子
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

日本統治下の南洋群島研究は、国内外に残存する文書史料が少ないと見なされてきたこと、ゆえに実証に裏付けられた研究が少ないだけではなく、海軍占領以来の日本の統治期全般を射程にいれた研究は行われてこなかった。こうした研究状況に加え、戦前、戦時期の日本の南洋群島統治時代を経験した人々が格段に減りっつあるなか、とくに聴き取りや個人が所蔵する史料の調査は緊要な作業であった。本研究では、国内外での文書史料を収集(米国議会図書館、ハワイ大学図書館、北マリアナ諸島歴史保存課、サイパン博物館、韓国政府記録保存所、日本国立公文書館、日本外交史料館、など)し、その内容分析に留まらず、個別分散して所在する各史料の関係を明らかにしようとした点で、南洋群島関係史料の発掘に大きな成果をもたらした。また面接調査、および個人や引揚げ者団体が所蔵する史料の調査を進めたことも、僅少な文書史料を裏づけ、まな文書に残されない諸事実を発掘することになった。これら諸史料に基づき、日本海軍による南洋群島占領(1914)から、第二次世界大戦中および戦後にかけての米軍による占領と日本人引き揚げまで(1946)を射程にいれた日本の南洋群島統治政策、及びそのもとでの植民地社会の形成について分析を進めた。なかでも、在住日本人については、出身地(沖縄、福島、九州、八丈島、朝鮮半島など)別の、あるいは職業別、男女別、そして子どもの生活など植民地社会の形成を多面的に追究した。現地住民については、サイパン、テニアン、パラオおよびアンガウルで聴き取り調査を行い、植民地社会下での彼、らの生活や意識に、ついて分析を進め、現在論文を作成中である。しかし、以下の事態から本計画の取材対象の多くを日本人にせざるをえなかった。それは、研究期間中の2005年が日本の「敗戦60周年」にあたり、これを機に、南洋群島関連の主要な引揚げ者団体や親睦団体がつぎつぎと解散したこ.とである。報告者は、約20年にわたってこれら諸団体や徊人の取材を進めてきたが、この間の活動を踏まえながら、組織の最終段階を取材することができたごとで戦後の南洋群島引揚げ者たちの活動を明らかにするという次の研究課題の準備ともなり、また解散時だからこそ聞きうる貴重な情報を得た。一方、従来、充分に明らかにされていなかった朝鮮半島出身者についても韓国の史料と米国の史料をつき合わせて、その実態の一端を明らかにした。同時に、ミクロネシアの研究者との交流も行い、現地では大きく不足している文書史料調査や分析についても、今後も積極的に協力を続けることとなった。また、これら研究は随時、研究会で報告し方法論や史料分析について示唆を得た。米軍占領下における占領政策とそのもとでの「植民地社会」については、主に日本人の聴き取り調査に終始したが、今後はミクロネシア住民からの聴き取りと、当該時期み公文書史、料の収集をすすめ、本研究課題を発展させ、論文化を進めたい。
著者
山本 由徳 吉田 徹志 宮崎 彰 坂田 雅正
出版者
高知大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

良食味米生産の産地間競合が激化する中で,沖縄県を除く国内で最も早い収穫,出荷を目指して,高知県では早期栽培用極早生品種とさぴか(多収性,良食味)を育成した.しかし,普及を開始した1998年に,農家水田において異常(不時)出穂が多発し,収量,品質が不安定となったため普及面積が伸び悩んでいる.本研究では,極早生品種とさぴかに発生した異常(不時)出穂現象を取り上げて,その発生要因と発生防止のための栽培技術的な方策を明らかにしようとした.得られた結果は以下のように要約される.1.とさぴかは北海道育成品種に比べ,最終主稈葉数が少ないため,早晩性を示す播種から止葉展開までの有効積算温度(基準温度10℃)が低く,播種からの有効積算温度が301〜348℃日で幼穂形成期(平均幼穂長1mm)に達することが明かとなった.また,とさぴかは感光性・感温性および基本栄養生長性程度も比較的小さく,これらの特性は交配母本の高育27号と類似していた..2.とさぴかの幼穂分化苗を移植して,不時出穂(主稈)が発生すると,収量は,不時出穂の発生しなかった幼穂未分化苗区に比べ9〜15%少なかった.これは,m^2当たり穂数は多いが,分げつ穂の発育が劣り,1穂籾数が少なく,m^2当たり籾数が減少したことと,発育停止籾割合が高く,登熟歩合が低くなったためであった.また,玄米品質も青米の増加により低下した.3.不時出穂を防止・軽減するために,育苗期間中での幼穂の分化,発育を遅らせるには,播種から200℃日(3.5齢)以上では窒素追肥は行わず,箱当たり播種量を多くして,地上部乾物重/草丈比を低くする管理が必要であると考えられた.また,育苗時の基肥窒素の増施や育苗期間中の剪葉処理も効果的であることが明らかとなった.
著者
蔵持 不三也
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究はアルザス地方の若者文化が2001年の徴兵制の廃止に伴ってどのように変化をしたかを、2度の現地調査と文献渉猟を通して追究したものである。具体的には、徴兵対象者が伝統的に行ってきた夏至の「聖ヨハネの火祭り」と若者集団の文化活動の変容を対象として調査・検討し、これらの活動が、1996・1997年度の調査時と較べて劇的に衰退し、さらにアルザス語への理解と関心も著しく弱体化していることが明確となった。
著者
近藤 慶一
出版者
横浜市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

(緒言)腎細胞癌株及び臨床検体ではHypoxia Inducible Factor(HIF)αサブユニット(1αおよび2α)の発現パターンが異なることが知られています。構造的には非常に近似しているサブユニットなのですが、どのような機能の相違を有しているのかは明確になっておりません。そこでこのテーマを検討するために、それぞれのサブユニットに対して特異的に結合する蛋白を検索することを目的として実験を行いました。(方法) VHLが正常に発現されており、さらにHIF1α及びHIF2αの双方を低酸素環境で発現しうる腎細胞癌株としてACHN及びSN12Cの細胞株の抽出液からそれぞれのHIFαサブユニットに対する免疫沈降を行いました。HIFαと共沈降してきた蛋白をSDS-PAGEで分離し、銀染色を用いて発現量を比較しました。(結果と今後の展開)コントロール抗体に対して発現の違いが見られるバンドが複数種検出されており、この結果を2次元電気泳動にかけて確認しました。その結果を元にゲルから目的とするスポットを切り出して質量分析を試みたのですが、ゲル内に含まれている蛋白の量があまりにも微少で、信頼のおける解析結果がまだ得られておりません。同定されていない以上、この蛋白の細胞内での発現量を増加させることはできませんので、現在はHIFαとこの蛋白の親和性を増強させることを考えております。具体的には培養条件を変化させてHIF1αと2αがそれぞれ有為に発現するような環境を選び出し、その条件下での細胞抽出液を用いて親和性の変化を検証しているところです。
著者
中村 統太 西脇 洋一
出版者
芝浦工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

新たな磁気・電気デバイスへの応用が期待されている磁気誘電体という物質群があります。本研究では、磁気誘電体に対する理論模型を構築し、磁場や温度による秩序状態の変化を機能制御の観点から計算機シミュレーションにより研究しました。詳細な磁場と温度の相図が得られ、実験未確認の新たな秩序相の予言まで行いました。また、臨界現象を解析する全く新しいスケーリング法の開発も達成することができました。
著者
波多野 純 野口 憲治 フォラー マティ
出版者
日本工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、長崎出島のオランダ商館長などが遺した記録(模型、日誌など)を基に、日本の町家の地域的特質を、従来とは異なる目で分析する。オランダ商館長らが製作させた模型は、長崎の町家等をモデルとした。それらは、外観の特徴ばかりではなく、部屋の格式や用途によって室内意匠が異なることを正確に伝えている。また、その様相は、1822年~1828年代の状況を示している。
著者
北田 敏廣 岡村 聖
出版者
豊橋技術科学大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

"持続可能"な都市・地域形成の要件として、二酸化炭素排出の抑制が求められている。このために都市規模での省エネルギー・未利用エネルギーの有効利用が必要であるが、重要な方策の一つとして土地利用の制御・計画と植栽等地表面の制御に基づく熱環境の緩和が考えられる。本研究は、都市大気の交換特性(風の道)を良くし、超熱帯夜・超真夏日を緩和するために、どのように都市の空間構造を設計すれば良いかを明らかにすることを目的とした。名古屋市を対象に、都市空間を500mx500mのセルに分割し、セル内の熱環境に関わる空間構造を以下のパラメーターで表しGISの下でデータベースを作成した:(1)都市建造物群のセル内面積比と高度分布(建物を中・高層、低層に二分し、それぞれの建物表面積をLAI,Leaf Area Indexで表現)、(2)道路面積比、(3)裸地面積比、(4)植生群の面積比と高度分布(植物を高木、低木に二分し、それぞれの葉面積指数LAIで表現)、(5)開水面の面積比、(6)人工排熱強度。これらのデータを入力にして名古屋市を囲む領域に対して熱帯夜や極度の日中高温と空間構造パラメーターの関係を明かにするべく三次元キャノピーモデルによるシミュレーションを行った(典型的夏型気圧配置であった1995年7月24日-31日を対象にして)。夜間の高温度(熱帯夜)、日最高気温の出現場所等について、ほぼ再現できた。これによって、上に述べた意味での都市構造の違いを熱環境に結びつける三次元キャノピーモデルが構築できた。現在、このモデルを用いての感度解析研究を実行している。
著者
倉田 敬子 上田 修一 村主 朋英 松林 麻実子
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

1 電子ジャーナルの現状と研究者の利用(1)既存学術雑誌の電子化の進展状況を継続的に調査することで、電子ジャーナルの黎明期の特徴がわかった。(2)STM分野の日本の研究者への質問紙調査により、電子ジャーナルの利用が急激に普及してきたことが判明した。ただし、利用者の多くがPDF版をプリントアウトしており、EJの新規な特徴を利用したものではなかった。これらの結果は日本および海外の査読つき学会誌に原著論文として掲載された。2 オープンアクセスの現状(1)オープンアクセスに関わる特に海外の政府、学会、出版社、大学等の動向の把握につとめ、Open Access Japanで主要な情報の提供を行った。(2)米国NIHによるPublic Access Policyの発布、実施を受け、医学分野におけるオープンアクセス進展状況調査に着手した。今回は、この施策の影響以前の2005年刊行論文のOA割合(26%)と特徴を明らかにした。(3)機関リポジトリ、オープンアクセスジャーナルの現状についても調査を行い、各時点でのデータを収集した。3 研究者の情報入手、電子メディア利用行動、オープンアクセスへの対処医学分野の研究者が雑誌論文を入手、利用する状況を調査した。最近読んだ論文の約7割が電子ジャーナルであり、PubMedから入手する論文が8割を超えていた。欧米における他の調査結果と異なり、サーチエンジンの利用は多くなかった。オープンアクセスの理念の認知度は34%と低かったが、無料での雑誌論文の利用は、PubMed Centralおよびオープンアクセス雑誌を通してかなりなされていることが判明した。
著者
井口 壽乃 伊原 久裕 西村 美香 山本 政幸 井田 靖子 吉田 紀子 エンズレイ ジェレミー
出版者
埼玉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

1930年代の芸術家バイヤー、チヒョルト(ドイツ)、モドレイ、ノイラート(オーストリア)、ストナー(チェコスロヴァキア)の英国および米国への亡命・移住によってニュー・タイポグラフィ、アイソタイプ、写真広告などのグラフィックデザインの理論と技術が移植され、戦後デザインの基盤形成を果たした. その際パーシー・ランド・ハンフリーズ社、スィーツ・カタログ会社が重要な要となった.研究成果はシンポジウム「越境のグラフィズム」開催と論文集『グラフィックデザイン1930』Fuji Xerox(2008)にまとめ、一般に公表した.
著者
中田 節子 中田 一志
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

この研究は、因果関係を表す構文について、日本語と英語のような西欧語との意味論的統語論的類似性と相違性を明らかにすることを目指している。特に、条件文に焦点をおいて研究を行った。なぜなら、条件文は、どの言語においても、その言語の構造的特徴を反映した特異な現象を示すからである。多くの条件文に関する意味論的研究は、西欧語の統語的特性に根ざした研究である。そこでは、realisとirrealisの問の対立が文法の中に表されている。それゆえ、反事実的条件文の扱いが長く議論されてきた。それに対し、日本語には、条件節あるいは帰結節の命題が偽であること、すなわち、反事実性の明示的なマーカーはない。この研究をとおして、われわれは、日本語の条件文のきわめて重要な特性を明らかにした。そのうち、二点をとりあげる。一つめは、日本語では、条件節命題の真偽が定まっている(settled)であることを文法的にマークする。西欧語のように、命題の偽あるいは命題成立に関する高い仮定性を文法的にマークすることはない。二つめは、日本語では、話し手が、条件節命題の真偽を知らないことを文法的にマークする。西欧語のように、条件節命題の偽を話し手が知っていることを文法的にマークするのではない。われわれは、このような日本語条件文の意味論的特性をKratzer流の様相意味論の枠組みで説明することを提案した。残された問題もあるが、目指したことの多くを達成できたと考えている。以下に研究成果の公表のための活動を要約する。1 平成17年に、成果の一部を国際学会等で発表した。特に、有田は、京都大学で開催された国際ウークショップ「Language under Uncertainty : Modals, Evidentials, and Conditionals」で口頭発表を行った。また、平成18年に、ロンドン大学SOASで開催された、国際ワークショップ「Revisiting Japanese Modality」で口頭発表を行った。2 平成18年には、成果の一部が出版された。特に、有田は、様相意味論の枠組みを援用した英語と日本語の条件文の対照的研究が、『条件表現の対照』(益岡隆志編、くろしお出版)の一つの章して公表した。また、有田は、日本語条件文の時制とモダリティに関する研究を単著『日本語条件文と時制節性』として出版した。
著者
草塲 英子
出版者
岩手県立大学盛岡短期大学部
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

台湾先住民のなかでも(1)アミ族、(2)近年タイヤル族から分離独立することが認められたタロコ族、タロコ族と民族的には同系統だが民族名称問題で、タロコ族と称することを拒んでいるセデック族に焦点をあてた調査・研究は以下のようにすすめられた。(1)アミ族は、台湾の東海岸の平野部に居住している民族であるため、早くから漢民族との交流も行われたり、日本植民地時代、山地の先住民よりは開化した民族とした位置づけが与えられたりしていた。なかでも都市部に近い平野部に居住するアミ族村落では、漢民族や他の先住民たちが入り込んで人口が爆発的に増加した地域もある。文化的にも漢民族からの流入も多い。そのような状況において、異民族の流入がかえってアミ族的アイデンティティを生み出す契機がつくられてきた。こうしたことを、アミ族村落への人口流入問題を扱いながらとりあげた。また、キリスト教や仏教、道教といった宗教を取り込む一方で、アミ族的な神世界とのかかわり方が存続することをとりあげた。その他、異民族流入以前からアミ族がもっていた時間の観念や、数詞に注目した。(2)2003年、タイヤル族から分離独立したいという希望をもっていたセデック族の一部、タロコ族は、タロコ族という名称を民族名称として名乗ることが承認された。タイヤル、セデック、タロコの関係について、従来、日本であまり知られることがなかったが、こうした3種類の名称が使用される背景には、日本植民地時代の民族分類の結果が影響を与えている。タイヤル・セデック・タロコをめぐる帰属と名称に関する運動の展開について、調査し、整理した。その他、(3)台湾で「原住民」と呼ばれる先住民の法的な扱いの変遷を歴史的におったもの、(4)戦前、台湾で調査研究し、今日の台湾での民族境界や民族概念の在り方に大きな影響を与えた馬淵東一等の研究について整理、考察した。