著者
岩附 研子 堀本 泰介
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

インフルエンザウイルスの核外輸送に関わるNS2蛋白質のN末側に、蛍光標識蛋白質(Venus)を組み込み、蛍光標識組換えウイルスの作製を行った。このウイルスを培養細胞(Madin-Darby Canine Kidney細胞)に感染させ、共焦点顕微鏡を用いてタイムラップス解析を行ったところ、NS2蛋白質が一度核内に集積した後、一気に核外に放出される映像をリアルタイムでとらえることに成功した。本研究で得られた蛍光標識組換えインフルエンザウイルスは、NS2蛋白質の細胞内輸送を解明する有効なツールとなることが期待できる。
著者
三田 智文 角田 誠 船津 高志
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

近年、分析化学におけるダウンサイズ化として、半導体微細加工技術を利用したマイクロ化学分析システムが注目されている。本研究では、微量生体成分の高感度分離検出系を組み込んだ液体クロマトグラフィー(LC)のマイクロチップ集積化を目的とした。最初に、高感度検出を目指して、ベンゾフラザン骨格を有する水溶性の蛍光標識試薬を開発した。水溶性の試薬はマイクロチップ上での分離において問題となる基板への吸着を防ぐことができると考えられる。さらに、核酸類似骨格を有する二環性化合物を合成しその蛍光特性を検討し、デオキシシチジン誘導体が強い蛍光性を有することを明らかにした。今後この骨格を有する蛍光標識試薬を開発する予定である。また、開発した試薬とLCを用いてペプチド類、微量生体成分および薬物の分析法を開発した。これら開発した分析法はマイクロチップ上に集積化可能である。マイクロチップLCの検出系として質量分析も有力視されている。そこで、質量分析用標識試薬を開発し、生体成分の分析法に適用した。本法もマイクロチップ上に集積化可能である。また、モノリス型キャピラリーカラムおよびチップ上でのモノリスカラムの作成に取り組み、分離系の微量化を検討した。さらに、チップ上でのLC用レーザー蛍光顕微検出法の開発に取り組んだ。溶液中の蛍光検出対象物質が対物レンズから近い距離に存在すれば、蛍光を十分に集光できるため高感度に検出できる。そこで流路の厚さが5μm程度以下の部分を作成し、この部分で検出を行うことにより高感度検出を可能にした。今後、これらの方法をマイクロチップ上に集積化する予定である。
著者
森田 実穂 上村 博 藤澤 三佳 原田 憲一 土屋 和三 上村 博 藤澤 三佳 原田 憲一 土屋 和三
出版者
京都造形芸術大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

教育、福祉、医療の場における芸術の役割を探求した本研究成果として、学校教育における造形芸術教育環境の悪化がみられ、福祉、医療、精神医療においても、機能回復に重点をおいた造形活動が多い点を調査結果から導出した。それを改善する創造的で能動的、自由な自己表現を可能とする造形教育学習プログラムを、上記分野において、地域の市民への芸術普及活動、環境や自然科学との融合の観点も含めて開発し、実践をおこなった。
著者
松原 哲哉 原田 憲一 椎原 保 中路 正恒 上村 博 水野 哲雄 森田 実穂 曽和 治好 藤村 克裕 坂本 洋三 寺村 幸治
出版者
常磐大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

芸大と過疎地域の連携を目指す研究メンバーと芸大生が、地域の小中高生用の芸術系総合学習プログラムを作成するため、始原的な創造力を持つ「お窯」の制作やその実際的な活用を含む「ものづくり」の実践を京都市右京区の黒田村で展開。この試行をもとに、過疎地域の潜在的な価値を大学生と地元の子ども達が協働し、4種の「お窯」を使って再発見する「お窯プログラム」を開発。
著者
種村 正美
出版者
統計数理研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

空間のある領域の中に多数の点(粒子と呼ぶ)が配置されているとき、粒子配置の統計的性質を特徴付けて配置データがもつ情報を適切に引き出し、当該分野で有用となる結論を導く手段を提供するのが「空間統計学」の重要な役割である。一方、与えられた配置図データ(粒子座標データ)にもとづいて観測領域を分割して得られるボロノイ・セルやデローネイ・セルの形状の統計分布から、空間データの性質を導き出す手法が「ボロノイ・デローネイ解析」である。しかし、従来は「ボロノイ・デローネイ解析」は「空間統計学」のいわば補助的手段にとどまっていた感がある。本研究計画はボロノイ・デローネイ解析を空間データに関する詳細な情報抽出の手段として、また多様な統計モデルの構築手段として利用することによって、空間統計学との融合を積極的に図ることを目標とした。ランダムな粒子配置の典型であるボアソン点過程に対するボロノイ・セルの統計分布の研究においては、4次元,5次元におけるボアソン・ボロノイ・セルの種々の特徴量に関する統計分布を精度良く求め、多変量の空間統計学へのプロトタイプを提出することができた。また大規模な時空間データのボロノイ・デローネイ分割計算も行った。このデータは国内の余震活動記録であって、緯度・経度・発生時刻の3次元データとなっている。データ数(粒子数)は560,000程度であり、この規模のデータの3次元ポロノイ・デローネイ分割を行うため、統計数理研究所のスーパーコンピュータ・システムAItixと本研究計画で導入したUMIXワークステーションを併用した。今回の大規模計算のためにはデローネイ・セルのリスト作成のために効率の良い計算プログラムを開発した。さらに、全地球規模の余震活動データのボロノイ・デローネイ解析を準備した。後者の計算を実行するためには、球面上のボロノィ・デローネイ分割が必要となる。われわれは、すでにそのためのコンピュータ・プログラムを開発済みである。その他、生物組織におけるランゲルハンス細胞の配置データなどのボロノイ解析を空間配置の分析に用いた。
著者
岡田 信彦 菊池 雄士 壇原 宏文
出版者
北里大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

ブタコレラ菌(Salmonella enterica serovar Choleraesuis)の細胞侵入による血管内皮細胞の宿主反応を明らかにし、引き続き起こる局所炎症反応についての分子メカニズムを明確化することを目的とし、次のことを行った。(1)ブタコレラ菌の血管内皮細胞への細胞侵入能について、ブタコレラ菌野生株(RF-1)およびその細胞侵入能変異株(invA変異株)を用いて、血管内皮細胞(HUVEC細胞)および上皮細胞(HEp-2細胞)に対する細胞侵入性について検討した。RF-1株はHEp-2細胞およびHUVEC細胞の両細胞に対して同様の細胞侵入性を示したのに対して、invA変異株はHEp-2細胞およびHUVEC細胞への細胞侵入能は野生株に比べて明らかに減少していた。(2)ブタコレラ菌の血管内皮細胞への侵入に伴う炎症性サイトカインIL-1α, IL-1β, IL-6,IL-8およびTNF-α)の産生をRT-PCR法を用いたmRNAの定量化を行い、野生株感染血管内皮細胞とinvA変異株感染血管内皮細胞とそれぞれ比較した。その結果、野生株感染血管内皮細胞のみでIL-8の発現が上昇していた。(3)ブタコレラ菌の血管内皮細胞への侵入による接着分子の細胞表面への発現を蛍光抗体法を用いて観察することを試みた。Green fluorescent protein(GFP)を発現するブタコレラ菌野生株を血管内皮細胞に感染させ、各接着分子の単クロン抗体を用いて蛍光染色した。ブタコレラ菌感染5時間後の血管内皮細胞において接着分子、E-selectin(CD62E)、ICAM-1(CD54)およびVCAM-1(CD106)で細胞表面への発現がみられた。
著者
堀江 秀典 井上 宏子
出版者
神奈川歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

酸化型ガレクチン-1(GAL-1/Ox)はマクロファージを刺激しサイトカインIL-6の発現上昇を促進する傾向が見られたが、更に実験を重ねて統計的有意差を確認する必要がある。IL-1βやLIFの発現を有意には上昇させなかった。次にiNosを加え更に実験を重ねて統計的検討を行った結果GAL-1/Oxは1ng/mlの濃度で有意にiNOSの発現を上昇させた。iNOSは酸化作用のあるNO産生に関与する酵素で酸化型ガレクチン-1刺激によりマクロファージ内でその発現が上昇する。このNOは細胞外に分泌され、神経細胞やその軸索並びにシュワン細胞から分泌された還元型ガレクチン-1を酸化し、酸化型ガレクチン-1とする作用が考えられる。マクロファージから分泌されたNOの作用についてはin vitro並びにin vivoの研究から今後明らかにしていく計画である。次に炎症下でマクロファージを刺激する物質LPS(lipopolysaccharide)のマクロファージへの作用に酸化型ガレクチン-1がどのような作用を示すか検討を行った。10ng/ml,100ng/mlのLPSをマクロファージに作用させそのときのIL-1β、IL-6,LIF, iNOSのmRNAの発現変化を各作用時間1h、2h、3h、4hについて解析した。10ng/mlではIL-1β、LIF, iNOSのmRNA発現を上昇させたが、IL-6につてははっきりした効果が見られなかった。100ng/mlでは4種類の因子の発現上昇がはっきり見られた。この系に1ng/mlの酸化型ガレクチン-1を作用させると、4時間作用させた群では明らかに発現の減少が見られた。その抑制効果は酸化型ガレクチン-1の濃度を0.1ng/ml,0.01ng/mlと下げていくと次第に減少し、LPS10ng/mlでは0.01ng/mlの酸化型ガレクチン-1の抑制効果が、LPS100ng/mlでは0.1ng/ml以下の酸化型ガレクチン-1の抑制効果が見られなかった。以上の結果より酸化型ガレクチン-1がLPSのマクロファージ刺激作用を抑制することが示唆された。今後実験を重ねこの効果が統計的に有意であることを確認し、in vivoでの抑制効果を検討することにより、酸化型ガレクチン-1を炎症抑制因子として確立していく計画である。
著者
山田 泰弘 清島 満 和田 久泰 斉藤 邦明
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

C57B1/6のWTマウスに対し放射線照射を行うことにより、血液幹細胞を死滅させ、その照射マウスに対してWTならびにTNFやIL-6ノックアウトマウスから抽出した骨髄を投与して骨髄移植マウスを作成することに成功した。照射マウスに対して骨髄を移植しない場合には、これらのマウスは1ヶ月以内に死滅してしまうことを確認している。これらの移植済みマウスを1ケ月間無菌状態で飼育し、移植骨髄が生着したのを確認した後に、ガラクトースアミン並びにLPSを腹腔内に投与することにより,急性肝障害モデルを作成した。H&E染色を行ったところ、その時間的経過における肝障害の状態の違いを確認することが出来た。すなわちIL-6 KO移植モデルにおいてWTに比較してより早期の肝障害が観察されると同時に、TNF KOモデルにおいては、その肝障害が遅延することを初めて観察した。血清中の肝機能測定により肝障害の度合いの差異も裏付けられている。生存率の差異においては、さらに顕著であり、WT移植モデルにおいて処置後12〜18時間後に死滅するのに対して、IL-6 KO移植モデルにおいては処置後6〜8時間以内にその全てが死滅してしまう。TNF KOモデルにおいては、処置後16時間後より個体死が認められるようになり、処置後30時間後になってその全てが死滅していくのである。このように各種サイトカインを骨髄中からノックアウトすることにより、肝臓における障害の差が認められるようになったことは、今まで例を見ないことであり、今後は影響を及ぼしたサイトカインの経路を検討し、肝障害機序の解明について検討する予定である。
著者
簗瀬 英司 岡本 賢治
出版者
鳥取大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

世界に先駆けて、セルロースから直接バイオエタノールを生産できる遺伝子組換え発酵細菌を開発するために、セルロース系バイオエタノール生産のキーとなる遺伝子群の解析を実施した。先ず、我が国独自の発酵細菌であるZymobacter palmaeの全ゲノムを完全解読し、そのゲノム情報に基づき作製したDNAマイクロアレイを用いてエタノール発酵時に発現する遺伝子群の挙動を詳細に解析した。その結果、高効率なエタノール生合成代謝のキー遺伝子群、糖質の細胞内取り込みに働くキー遺伝子群、およびストレスに応答遺伝子群を初めて明らかした。
著者
巽 あさみ 白石 知子 野原 理子 安田 孝子 大見 サキエ
出版者
浜松医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

女性労働者の健康支援を行うために、月経痛や人間関係など女性特有の生物学的心理社会的な特徴を理解する必要があると考え、女性労働者に特有な疾患・症状、労働環境、生活環境、ストレス、働き方に関する希望等、種々の関連要因について検討した。その結果、月経周期および月経痛の関連要因は、喫煙の有無、主観的健康感、早朝深夜勤務、職場でのストレス、勤務時間への不満、長時間の月経不順などの症状であることがわかった。また、月経不順や月経痛と関連する業務内容・職場環境に共通している因子は「乾燥しすぎる職場」であり、月経不順は「音がうるさい」、「粉じん」など主に職場環境に、一方、月経痛は「身体に動揺・振動の衝撃の伴う業務」、「対面による応対業務」など作業方法・作業管理的側面に影響を受けていた。SOCとの関連では、年齢、睡眠時、主観的健康感、ストレス反応、職場・家族のサポートと有意な関連が認められた。また、働き方に関する希望では、正社員(正規雇用)で、子どもが小さい時は短時間を希望するものが多かった。特に25歳~39歳までは短時間労働にすることが望ましいことが示唆れた。今回の研究ではシステム開発までには至らなかったが、月経痛等に関しては夜勤や残業が少なく乾燥しすぎない、音、粉じんがなく作業環境も快適であることが健康で働き続られる職場ではないかと考えられる。女性労働者はキャリアが分断されずに発達段階にあわせた働き方を望んでいることが示唆された。
著者
中島 志郎 衣川 賢次 西口 芳男
出版者
花園大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

中国の歴史的な研究には、六祖慧能の弟子である荷沢神会(684-758)は、伝説的な六祖慧能よりも歴史的な実像が確実である点では、はるかに重要であると云えるかも知れない。本研究は、神會の残された語録からその思想を中心に考察して、新たな解釈で禅宗教団という既成の枠組みから解き放ち、禅宗という中国仏教の画期的な転換点における、その思想史上の意味について幾つかの新視点を提案した。その研究成果を概観すると、一つには敦煌文献を中心とする『神會語録』の注釈的研究であり、二つには本人の五編の論文である。前者は初期禅宗思想の語録を採りあげた具体的な注釈研究であり、別記の研究協力者の参加を得てなったものである。語句の精密な解釈を通して、その他の禅宗文献との思想的な関連を追及した。後者の論文では、中国仏教史の上で、禅宗の登場を中国中世の終焉期と規定し、禅宗は中国中世仏教の積極的な革新、克服運動として理解することで、その後の禅宗の特徴は説明できるという新たな提案を行った。禅宗は初期から一貫してこの性格を懐胎していたと理解できるが、誰よりやはり荷沢神会の運動と思想がその後の禅宗の形成に決定的に重要であったことを分析した。また「神会の菩薩戒思想」という論点で、初期禅宗の成立過程で、六祖慧能の顕彰活動という決定的な役割をはたした荷沢神会が、思想的にも「大乗菩薩戒」を宣揚することで、初期禅宗の仏教運動としての思想的特徴を決定づけたと論じた。つまり大乗菩薩戒こそは、中国仏教に決定的な質的転換をもたらす原理であり、禅宗の運動は結局、この菩薩戒思想を根拠とし宣揚する運動だったのではないか、という仮説を得た。これは次の研究課題となるものである。かくして禅宗と称される新たな仏教運動が中国の仏教思想の上でもつ、独自の思想的な役割の分析ができたと思う。
著者
林 真理
出版者
工学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

生命倫理学が進展する一方、それに対する歴史的反省の試みも始まっている。本研究はかつて生命倫理学なるものがまだ形をなしていなかった時代の言説を振り返って、その中から忘れ去られたもの、失われたものを拾い上げることを目的とした。その結果、生命の手段化・資源化・商品化批判を軸にした生命倫理思想を見いだした。そして、それらをもとにしつつ、生命の偶然性、固有性、有限性、関係性を基礎とした新しい生命倫理のあり方が可能であることを示した
著者
林 真理
出版者
工学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

1970 年代におけるライフサイエンス創成期の日本の生命倫理思想には、生命科学技術の発展に伴って生じつつあった、生命操作の可能性の増大に対する批判的な見解が存在していたが、それは「生命」と「科学技術」のあいだの両立不可能性という考え方を基礎にしていたことを明らかにした。そして、そういった生命の概念を特徴付けるものを、偶然性、固有性、有限性、関係性としてまとめることができること、この生命の概念は近年の生命倫理論争においても、重要な役割を果たしてきたことを示した。
著者
綾部 広則 中村 征樹 両角 亜希子 黒田 光太郎 川崎 勝 小林 信一
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

欧米においては、近年、科学コミュニケーションにおける新たな試みとして、カフェ・シアンティフィーク(以下、CS)と呼ばれる活動が急速に広まっており、すでに実施主体間での国際的なネットワークが形成されている。一方、日本においても最近になってCSの手軽さもあって実際に実行しようとする団体が増えてきているが、しかしそれらの大半は欧米の表面的な模倣である場合が多く、そもそもなぜCSが開始されたのか、そしてそれは科学コミュニケーションにおいていかなる位置づけをもつのかを十分に理解した上で行われているとは言い難い。そこで本研究では、1)欧州各国における対話型科学コミュニケーションの現状に関する調査と国際的ネットワークの確立を行うとともに、2)日本における実験的導入と国内ネットワークの構築を実施した。まず、1)については、その他の国と際だった違いをみせているフランスとアジア地区の事例として韓国の状況を調査した。とりわけ、フランスについてはCSの発祥とされている英国のように話題提供者による発話を基本とするスタイルとは異なり、最初から議論に入ること、しかも単一の話題提供者ではなく、賛否双方の意見を持つ複数の話題提供者を参加させるというスタイルなど、英国やその他の地域において一般的に行われるのと際だった違いが見られ、日本における今後のCS運営においてもきわめて示唆的な成果であった。2)については、1)の海外調査の結果を活かしつつ、東京・下北沢において数回程度の実験的活動を繰り返したが、さらに4月に開催された「カフェ・シアンティフィーク」に関するシンポジウムに企画段階から協力することで、国内の実施主体を招聘し交流を行い、国内間でのネットワークが形成される重要な契機をつくった。
著者
堂前 雅史 廣野 喜幸 佐倉 統 清野 聡子
出版者
和光大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

聞きとり調査では、主として、死生観に関する知識のいくつかについて、生産・流通・受容過程の情報を収集した。まず、日本では、脳死問題が現れる以前に「三徴候説」のような死の基準は法的には一定せず、むしろ法曹界は医者に一任することをもってよしとする傾向があったことが示唆された。以上より、1.死に関しては法律家による専門的知識の生産があったとしても、それが流通・受容過程に乗ったのではない、2.科学に関する事項に関しては、料学者による知識が法律家よりも優位に立って流通するシステムになっている、3.脳死概念登場以前は、むしろ一般の想定が法曹家の世界に流入したと見るべきことが判明した。次に、中国伝統医療では、生きている者のみであり、死にゆく者は除外されつづけた。よって、東洋医学では、死の判定基準を医者が設ける発想すら希薄であった.また、緻密な世界観・生命観に裏打ちされた中国伝統医学が日本に入る際、背後の生命観は捨象され、純粋に技術として吸収された。したがって、4.科学技術が受容される際は、技術のみを導入し、背後の科学思想を拒否することが可能であること、また、5.科学知識は人々の嗜好によって受容が拒否される、6.一般市民にただ科学知識を注入してもサイエンス・リテラシーは向上しない可能性があることが分かった。今日の科学技術においても、一般人を科学知識の生産者と見なしうる場合がある。しかし、こうした「素人理論」の流通機構は整備されていない。そこで、本研究では、吉野川可動堰問題を対象に、一般市民が科学知識の生産・流通に成功した例を分析し、7.一般市民の科学知識生産を促すシステムが整備される必要があることを明らかにした(廣野)。また、そうしたシステム整備の具体的提言として、8.市民科学がもたらす「公共空間の科学知識」媒体の必要を唱え、大学紀要の利用を提唱した(堂前)。
著者
橋本 毅彦 廣野 喜幸 岡本 拓司
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究においては、1960年代以降に通商産業省の主導によって設立された技術研究組合の活動内容の調査分析を目的とするものである。特に、戦後日本において不活発であったとされる産学連携、すなわち大学と企業との間の共同研究に関して、技術研究組合という場を通じて、直接的ないしは間接的な協力があったかどうかを調査することを目的とするものであった。平成17年度においては、そのような技術研究組合のいくつかを取り上げて、その研究活動を検討した。平成18年度においては、それらの技術研究組合に対して、過去における産学共同の有無、当時の史料の有無を問い合わせるアンケートを実施した。アンケートに対しては、10余りの技術研究組合から回答が寄せられた。また、『科学技術白書』などの政府の報告書に現れる記事を通じて、戦後の産学協同のあり方を概括した。それとともに、化学産業、コンピュータ開発などをめぐるいくつかの技術研究組合に関しては、関連する報告書等をより具体的に調査した。いずれの調査委においても、大学と企業とが直接共同研究するのではなく、本研究で取り上げた技術研究組合や科学技術の各分野において設立されている財団法人の研究機関などが、共同研究の場を提供することで両セクターの仲介役のような役割を果たしたものがあることが示された。
著者
吉岡 基 鳥羽山 照夫
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

実験対象予定個体の飼育事情により,研究内容を変更して行い,以下の成果を得た.まず,シャチの精液採取訓練については用手法による精液採取を可能とするための訓練を続けたが,最終的に安定した精液採取には至らなかった.カマイルカ精子のストロー法による凍結保存を新たに試みたところ,従来のペレット法と同様な成果があげられることが明らかになった.シャチを含む10種の鯨類精子の外部形態を比較したところ,精子サイズには種間差が認められ,シャチの精子は平均頭幅が最も広く,かつ頭部は団扇型をしており,他鯨種とは大きく異なった形態をしていることが判明した.バンドイルカとカマイルカのペレット法による凍結融解精子を用いて,4℃と36℃で精子運動率,精子速度,精子直線性,精子頭部振幅を解凍直後から48時間後まで精液自動解析装置を用いて測定したところ,それらの値は新鮮精子を用いたヒト,ウサギ等の結果とよく一致していることがわかった.また,雌雄それぞれについて超音波画像診断装置を用いた生殖腺の観察を実施したところ,バンドウイルカ,カマイルカについて,黄白体や胎児の存在が確認できた他,季節による精巣の発達度合いの違いをみることができた.さらに,イルカ類における妊娠関連ホルモンに関し,黄体と胎盤がともに妊娠期間中のプロゲステロンの分泌源となり得ることが示唆された.また妊娠診断指標としての利用の可能性を探ることをふまえ,妊娠特異タンパクの存在を調べたところ,対象鯨種(パンドウイルカ他2種)の血中および胎盤組織中にはその存在を確認することはできなかった.また妊娠診断,胎盤機能の指標となり得るエストロンサルフェートについて調べたところ,妊娠イルカの血中にこのホルモンが検出され,妊娠期間中の,種による異なる変動パターンの存在が示唆された.
著者
大谷 元
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

筆者はまず,牛乳αs1-カゼインのトリプシン消化物を対象にリンパ球の増殖調節ペプチドの探索を行い、59〜79域に相当するホスホセリン集中域を念むペプチドがリンパ球の増殖を促進することや免疫グロブリンの生産を促進することを明らかにした。ホスホセリン集中域を有するカゼイン由来のペプチドは一般にカゼインホスホペプチド(CPP)と呼ばれており,CPPは牛乳β-カゼインからも調製できる。そこで筆者は,牛乳β-カゼインのトリプシン消化物からβ-カゼインの1〜25域に相当するCPPを調製し,そのペプチドにも牛乳αs1-カゼインの59〜79域と同様の免疫促進活性があることを確認した。CPPはカルシウムの吸収促進を目的として市販されている。そこで筆者は,市販のCPP標品を購入し,その標品にも細胞培養系において牛乳αs1-カゼインの59〜79域やβ-カゼインの1〜25域のCPPと同様の免疫促進活性があることを示した。また,市販CPP標品をマウスや仔豚の飼料に添加して与えると,それら動物の腸管の抗原特異的および総IgAレベルが有意に高くなり、妊娠豚に与えると分娩後の初乳中のIgAレベルとIgGレベルがCPP無添加の場合よりも高くなることを見出した。一方、各種合成ペプチドを用いることにより,CPPがマイトージェン活性,リンパ球増殖促進活性およびIgA生産促進活性を発現するためには,SerP-X-SerPという構造が必要であり,遊離のホスホセリンやSerP-SerPにはそれら免疫促進活性はないことを明らかにした。さらに、CPPはTh2細胞に作用して,インターロイキン-5やインターロイキン-6の生産を有意に高めることを観察した。
著者
新倉 真矢子 菅原 勉 小島 慶一 平坂 文男 井上 美穂 菅原 勉 小島 慶一 平坂 文男 井上 美穂
出版者
上智大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究は英語、ドイツ語、フランス語の「らしさ」が「リズム」に関係するとの前提から日本人学習者を初級者と中・上級者のグループに分けてコーパスを構築し、外国語発話における「リズム」の分析を行った。リズムを構成する音響パラメータのうちアクセント表示機能と境界表示機能そして韻質の特徴において日本語話者が的確に制御できずに母語の影響が大きく関与していることが結論づけられた。また、自立学習用のオンライン学習ソフトの開発を行った。
著者
杉山 登志郎 猪子 香代 小堀 健次
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

黄柳野高校に入学した生徒に対する6年間にわたる調査の集計を行った。その結果、調査が可能であった796名の生徒のうち不登校の既往者は73%、いじめの既往者は48%にのぼった。不登校と相関が認められた要因は、生育歴上の家庭の混乱、いじめ、家庭内暴力、教師との葛藤、などの項目であり、非行行為の既往をもつ62%もまた不登校を伴っていた。早期に集団教育でトラブルが生じたものの方が、不登校の開始年齢が若く、また学力の問題を抱えるものの方が、不登校の開始年齢が優位に早いことが示された。軽度発達障害をもつ生徒は、全体の15%程度であるが、このグループでは多動傾向の既往と非行と、言葉の遅れと学力の問題が高い相関をもつことが示された。また症例検討からは、対人的過敏性や強迫性、低学力を抱える生徒において不登校からの回復が不良となる可能性が高いことが示された。また生徒の20%は精神科的な治療を要する問題を抱えており、不登校への対応に対する医療との連携の必要性が示された。