著者
西村 清和 尼ヶ崎 彬 長野 順子 相澤 照明 山田 忠彰 中川 真 渡辺 裕 津上 英輔 青木 孝夫 外山 紀久子 大石 昌史 小田部 胤久 安西 信一 椎原 伸博 上村 博 木村 建哉 上石 学 喜屋武 盛也 東口 豊 太田 峰夫
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

本研究は従来自然美論、風景論、環境美学、都市美学という評語のもとで考えられてきたさまざまな具体的、個別的諸問題領域を、日常生活の場において企てられたさまざまな美的実践としてとらえなおし、あらたな理論化を目指すものである。具体的には風景、都市景観、森林、公園、庭園、人工地盤、観光、映画ロケ地、遊芸、雨(天候)、清掃アートなど多様な現象をとりあげて分析し、その成果を『日常性の環境美学』(勁草書房、2012)として刊行した。
著者
上村 博昭 Hiroaki KAMMURA 尚美学園大学総合政策学部 Shobi University
出版者
尚美学園大学総合政策学部総合政策学会
雑誌
尚美学園大学総合政策論集 (ISSN:13497049)
巻号頁・発行日
no.24, pp.17-35, 2017-06

本稿では、地方圏の自治体が、大都市圏に設置する拠点的店舗であるアンテナショップのうち、都道府県の施設を対象として、立地の動態と規定要因を明らかにすることを、目的とする。日本では、大都市圏での人口集中が進んだ一方で、地方圏では、人口維持や産業振興が、課題となっている。それを受けて、一部の自治体は、産業振興政策の一環として、大都市圏で、生産物の販売促進、観光誘客の拡大などを図っている。その一環として、地方圏の自治体は、物販機能、飲食機能、観光案内の機能などを伴う、アンテナショップを設置して、千代田区、中央区、港区の都心3 区へ、集中的に立地させている。その要因は、主な顧客層である中高年の女性が、多く訪れる地点であるという商業的要因と、都道府県の象徴として、東京大都市圏に立地する施設であるために、中心性の高い地点を指向することや、マスメディアの取材を受けやすいこと、あるいは、他のアンテナショップが多く分布しており、立地選定での失敗リスクが小さいことなども、考慮されている。本稿は、立地分析にとどめているが、今後には、産業振興政策としての、地域のマーケティングや地域ブランド化について、地理学的観点から、研究を蓄積することが求められる。In this paper, the locational pattern and its determinants of antenna shops, which are operated in metropolitan areas by prefectures, are examined. In Japan, the non-metropolitan region faced decline of its population and industrial activity, while major cities has increased its population. As a challenge for these, some prefectures try to promote products and touristic sites in major cities, and set antenna shops. The antenna shops have some functions, such as shops and/or restaurants, cafes, tourist information center etc. The antenna shops mainly locate in Tokyo metropolitan area, especially Chiyoda, Chuo, and Minato wards (Central Tokyo). This locational pattern caused by some factors. The prefectures seek the exact place where many elder women come. They are the main customers of the antenna shops, and this factor is similar to the locational factor of other shops.However, others factors are not same. The antenna shops are situated as a symbolic institution of the prefectures, and they tend to select the location of Central Tokyo. Also, prefecture offices select the location, by anticipating the chance of broadcasted, reported in newspapers. And, they tried to lessen the risks of management, by choosing the spot where other prefectures have already set the antenna shops. In this paper, we examined the locational patterns, but in the future, more geographical studies analyzing marketing places or local brands, as a measure of industrial promotion policy, are needed.
著者
宇佐美 文理 秋庭 史典 岩城 見一 上村 博 魚住 洋一 碓井 みちこ 加藤 哲弘 篠原 資明 長野 順子 根立 研介 岸 文和 島本 浣 西 欣也
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、〈醜〉という〈否定美〉に注目した。それは広い意味でのアートを、社会的、政治的文脈に戻して捉え直すことが、今日の大切な課題だと考えられるからである。〈醜〉の判定と、それを〈排除〉しようとする感情とは、人々の倫理観や宗教観と深く関わっている。また政治イデオロギーや、宗教的信念は、人間の感情の奥底にまで染み込み、美や醜の判断はそれに結びついている。〈醜〉に考察を加えることは、単に非歴史的な美的カテゴリー論にとどまるものではなく、きわめて歴史的社会的、そして政治的な文脈の中で知らないうちに形作られる、私たちの感情の文化的枠組みに光を当て、そこに隠れている力学を批判的に考察する文化研究的作業になる。古今東西の〈醜〉現象(判定)と、〈排除〉の感情の構造を考察し、現在の、私たち自身の経験のあり方に反省を加えること、これが本研究の主な課題となる。特に「醜」が主題にされたのは、このような否定美への感情こそが、人間の美意識の変遷のありようをむしろ鮮明に示すと思われるからであるし、また同時に、美的カテゴリーと政治的感情、人間経験におけるイメージと言語、感情とイデオロギーとの切り離せない関係を灸り出す重要なヒントになると思われるからである。本研究は、平成17、18年度は各年4、5回の公開研究会を開き、ゲストをも迎えて、課題遂行のための議論の場を設けた。最終年度は、これらの成果に基づく報告書作成に当て、分担者から寄せられた諸論考において、多様な切り口で醜の問題が論じられている。この報告書は、「醜の国」が「美の国」以上に豊穣な国であること多様な角度から照らし出すであろう。
著者
上村 博輝 高村 昌昭 五十嵐 正人 青栁 豊 菊田 玲 渡辺 和仁 中山 均 田村 務 寺井 崇二 薛 徹 荒生 祥尚 廣川 光 澤栗 裕美 渡邊 文子 小師 優子 坂牧 僚 土屋 淳紀
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.61, no.5, pp.245-254, 2020
被引用文献数
1

<p>平成21年に設立された新潟大学医歯学総合病院肝疾患相談センターは令和元年に10年目を迎え,236万人の新潟県民や医療従事者に対するウイルス性肝炎の情報の提供,啓発活動,助成制度のサポート等を新潟県健康対策課,厚生労働省健康局がん・疾病対策課肝炎対策室,国立国際医療センター肝炎情報センターとともに行ってきた.新潟県内の各種肝炎ウイルスの発生動向の報告,助成対象人数の把握や非受検者に対する啓発活動を各年度で行ってきた.C型肝炎については他県と同じく新規治療者数については減少段階にある.しかし,肝炎ウイルスは世界最大級の感染症であることにかわりなく,A型肝炎のエンデミック,B型肝炎ウイルスに対する耐性ウイルス発生や核酸アナログ製剤の長期利用による諸問題,E型肝炎の報告例の増加などについては今後も監視が必要である.また肝炎検査未受検者も多く,啓発活動を行う肝疾患相談センターの存在意義は今後も重要である.</p>
著者
上村 博
出版者
美学会
雑誌
美学 (ISSN:05200962)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.26-34, 2013-06-30 (Released:2017-05-22)

This article aims to point out the change of our sensibility towards fluidity occurred about 1900. The motifs of fluidity in art, especially that of water and the serpent (snake), connected with the figure of woman, were already motifs to represent an undomesticated evil character and an object of desire. But through the 19^<th> century, new attitude appeared. The water is observed scientifically, and the linea serpentina became thread conductor which reveals us the mystery of the material world. Even the figure of femmefatale, a traditional misogynistic image, has its new type in that of femme-enfant, attractive but incommunicable as the matter. In fact, with the discoveries such as that of electro-magnetic waves, the matter had changed its image, from a solid moving in the vacant space to the fluidity extended that has no real contours. The aether, a substance interpreted variously, symbolizes this universal continuity. The fluid matter, old symbol of ephemeral life, has become symbol of the mystic nature. Our aesthetic experience has been oriented to this subtle existence, and ponder in the exquisite perception of change.
著者
上村 博司 窪田 吉信
出版者
横浜市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

前立腺癌の発生および進展には、男性ホルモンであるアンドロゲンとアンドロゲン受容体が大きく関わっている。初期治療としてのホルモン療法は、完全に癌細胞を死滅させることはできず、治療を開始して数年後には多くの症例がホルモン非依存性を示し、再燃癌へと進んでいく。このメカニズムとして、ホルモン非依存性癌細胞からのパラクリンあるいはオートクリン作用として分泌される増殖因子やサイトカインが再燃への進展機序に関与していることが挙げられる。我々は、高血圧に関わるペプチドであるアンジオテンシンIIが前立腺癌細胞の増殖効果を持ち、降圧剤であるアンジオテンシンII受容体ブロッカー(ARB)が癌細胞の増殖抑制および抗腫瘍効果を持つことを解明し発表した。興味あることに、前立腺癌細胞や間質細胞はアンジオテンシンII受容体(AT1レセプター)を発現していることも、我々は確認している。このことは、ARBが前立腺癌細胞や間質細胞にも作用することを意味しており、ARBが前立腺癌に効果があることを示唆している。この研究では、前立腺癌細胞と間質細胞に対して増殖作用のあるアンジオテンシンIIに焦点をあてた。前立腺癌組織においてレニン-アンジオテンシン系(前立腺RAS)が存在するかどうかを、real time RT-PCRを使って調べた。結果は、正常前立腺や未治療前立腺癌に比べ、再燃前立腺癌で、AT1レセプターやアンジオテンシノーゲン、ACEなどが有意に強く発現していた。また、前立腺癌細胞であるLNCaP細胞をアンドロゲン、エストロゲン、デキサメタゾンや抗アンドロゲン剤で刺激すると、AT1レセプターが強く発現していることが分かった。以上の結果より、再燃癌はエストロゲン剤やデキサメタゾンなど各種治療が行われており、その結果、癌細胞でのAT1レセプターが強く発現し、ARBの効果が得やすいと推測された。
著者
伊藤 雅之 上村 博昭 Masayuki ITO Hiroaki KAMMURA 尚美学園大学総合政策学部 Shobi University
出版者
尚美学園大学総合政策学部総合政策学会
雑誌
尚美学園大学総合政策論集 (ISSN:13497049)
巻号頁・発行日
no.27, pp.1-26, 2018-12

本研究の目的は、組織農業経営体(集落営農団体や農業法人)を対象として、経営先進性に焦点を絞った経営実態と販売先に関する地方別特性を明らかにすることである。分析データを収集するため、組織農業経営体を対象として、2018年6 月に郵送配布郵送回収による記名式アンケートを実施した。配布数は1,072件、回収数は286件であった。このうち、無記入で返送されたのが3 件、回答団体が記入されていなのが9 件あり、地方別の分析対象件数は274件である。経営先進性の全体傾向をみたところ、常勤雇用者の確保は喫緊の課題である。特に、中部地方では緊急性が高く、要因の究明と解決方法の検討を要すると思われた。次に経営先進性を比較したところ、「関東地方と近畿地方」において、「生産・栽培技術や加工技術のレベルアップ」と「販路が着実に拡大」で有意な差が観察された。いずれの指標でも、関東地方のほうが近畿地方よりもあてはまり度合いが高かった(先進性が高かった)。このことから、関東地方の組織農業経営体では大都市圏に位置していることを活かした直営の直売所での、ならびに実需者への売上が順調に拡大している一方で、近畿地方の組織経営体では大都市圏に位置しているメリットを活かしきれていない組織経営体が相対的に多いのではないかと推測された。
著者
上村 博昭
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2018, 2018

<b>1.はじめに</b><br> 都市の発展に伴って,都市の内部では,既存の商業地区の変容や新たな商業地区の形成などが生じる.地方都市では,モータリゼーションで郊外にロードサイド型の大型店が増加し,商業活動の比重が変化した.鉄道駅付近の中心市街地が衰退傾向にあるため,活性化が課題とされる.他方,大都市圏では,鉄道の利用者が多く,駅前商業地区の商業集積は,店舗を入れ替えつつ,発展を続けている.<br> 既存研究では,地方都市における商業空間の変容だけでなく,後者の点も,実証的に検討されてきた.たとえば,中心市街地活性化や再開発など,都市内部で展開される政策と結びつけられて論じられている.ただし,大都市圏の商業地区といっても,大都市圏内のどの地域なのかという点で,商業空間の変容の在り方は異なるだろう.また,その分析では,戦後の商業や流通業を特徴づけるチェーン店の出店動向,近年に開発が進んでいる駅ナカや駅ビルの施設についても,併せて検討していくことが望まれる.<br> 本研究では,大都市圏の発展に伴う商業空間の再編成の実態を明らかにしたい.その際,大都市圏全体を検討するのではなく,大都市圏の郊外核となる地域を採り上げて,その内部における商業空間の再編成を検討する.このことにより,大都市圏の拡大が,郊外核の内部にある商業空間をどのように再編成してきたのか,を考察したい.本研究の事例として,城下町や商業都市として発展し,戦後に東京大都市圏の郊外核となった埼玉県川越市を採り上げる.<br><br><b>2.川越市の位置づけ</b><br> 川越市は,埼玉県南部の都市であり,東京大都市圏の郊外核の一つと位置付けられる.実際に,中核市や業務核都市に指定されており,中心性が比較的高い地域である.江戸時代には,川越藩が所在し,川越城の付近に城下町が形成されていた.その後,1893(明治26)年の川越大火によって旧来の城下町を焼失する被害が出たことに伴い,耐火構造とされる蔵造りの商家が,旧城下町地区で増加した.<br> 他方で,川越は,新河岸川の舟運で江戸との往来があるなど,物資の集散地として機能し,商業都市として栄えた.しかし,周辺の諸地域との競合によって,徐々に衰退したといわれる.明治期以降には,旧城下町の南部に,現在の西武新宿線,東武東上線やJR川越線が開通し,川越は鉄道交通の結節点となった.このほか,国道16号線や関越自動車道などの幹線道路が市内を通っており,今日では,通勤・通学の流動や物資流動が盛んな地域である.<br> 川越市の人口は,戦後の東京大都市圏の発展に連れて増加してきた.国勢調査によると,川越市の人口は,1960年に10.7万人であったが,2010年には34.3万人へと,50年間で3倍以上に増えている.2015年には川越市の人口は35.1万人であり,埼玉県では,さいたま市,川口市に次いで3番目の人口規模である.大都市圏郊外として,ベッドタウン化が進んでおり,鉄道駅の周辺に,複数の大型商業施設,商店街が立地するほか,駅ビルも整備されている.<br><br><b>3.商業空間の分化</b><br> こうした経過のなかで,川越市では,以下のように,特徴の異なる3つの商業空間が形成されたと考えられる.<br> 第1は,中心市街地の北部にある旧城下町地区である.江戸期の商人町や職人町に起源があり,川越大火を機に建造された蔵造りの街並みが残っている.かつては商業の中心地であったが,現在では,蔵造りによる観光空間へ変容し,観光関連産業の店舗が集積する地区となっている.<br> 第2は,中心市街地の南部にあたる鉄道駅周辺部である.川越市内には複数の鉄道駅があり,それらの周辺に商業集積がみられる.交通の結節点にあたり,通勤・通学客や観光客の流動が多く,駅ビルや駅付近の商店街が発達している.この地区は,今日における川越市の商業中心地である.<br> 第3は,中心市街地の外延部である.国道沿いにはロードサイド型のチェーン店が多く立地するほか,住宅地付近には食品スーパーなどが立地している.近年には,新たな宅地開発が進む地区において,複合的な商業施設が開業するなど,徐々に商業機能が高まりつつある.<br> 以上をふまえると,大都市圏の郊外のうち,比較的中心性の高い地域では,鉄道交通の利用者が多いことから,中心市街地は衰退しづらいこと,周辺部では自動車を利用したロードサイド型の店舗が立地しており,発展を続けていることを確認できる.また,このほかに,歴史的な建造物など,観光資源がある場合には,観光客を対象とする商業空間が,上述の商業空間と併存することを確認した.
著者
上村 博昭 箸本 健二
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2014, 2014

<b>1.はじめに</b><br> これまで,流通地理学,農業地理学,漁業地理学などの研究において,小売業・卸売業の流通・配送システム,製造業における部品の供給体制,第一次産業での農水産物の出荷・流通システム等が明らかとなってきた.このような大規模流通システムの一方で,小規模な事業体は直売所などローカルレベルでの流通・販売を行う傾向にある.しかし,ローカルな市場は相対的に小規模であるから,事業規模を拡大するには,近在の都市部,あるいは大都市圏への流通・販売の展開が模索される.この際,都市部へ進出する事業者には,大規模流通への対応,ないしは大都市圏で独自のマーケティング活動を行うことが必要となる. <br> 実際,近年では農商工連携など行政施策の展開もあって,離島や農山村など,経済活動に関して条件不利性を持つ地域の主体が,都市部への流通・販売を模索する動きがみられる.離島には本土と比べて流通面での不利性があるため,大規模流通システムへの対応,ないしは都市部でのマーケティング活動への障壁は大きいと考えられる.しかし,こうした事業活動のなかには,都市部に一定の販路を確保し,継続的な取引(流通・販売)に至った事例がみられる.そこで本報告では,こうした事例を採りあげて,条件不利地の中小事業者が,如何にして都市部への流通・販売を行い得たのかという点を,事業モデルをふまえながら議論する.本研究の分析にあたり,2013年6月と9月にヒアリング調査を実施したほか,事例事業の資料分析を行った. <br><b>2.対象事例の概要 </b><br> 本報告の事例は,島根県隠岐郡海士町のCAS事業である.海士町は,松江から約60km北方にある離島であり,島内に空港はなく,フェリーで3時間程度を要する.海士町では,2000年代初頭から地域振興政策が展開されてきた.本報告の事例であるCAS事業は,その一環として2005年度から開始された.海士町では,以前から鮮度の低下による魚価低迷を課題とし,食品冷凍技術であるCAS(Cell Alive System)を導入して流通圏を拡大することが試みられた. <br> このCAS事業は,発行済株式の9割以上を海士町役場が保有する(株)ふるさと海士が担っている.CAS事業の事業内容は,海士町内の漁業者,養殖業者から仕入れた水産物(主にケンサキイカと岩ガキ)のCAS凍結加工,ならびにCAS加工品の販売である.行政施策とリンクした事業活動であるため,海士町外での委託製造や,海外産,島外産の安価な加工原料の仕入れなどはみられず,海士町産の原料,海士町内での加工が原則となっている. <br> CAS事業の2012年度における年間販売額は,約1億2千万円である.このうち,レストランや直売所など,(株)ふるさと海士内の部門間移転を除く対外的な販売額は,約1億620万円(88.5%)で,CAS事業を開始した2005年度の約4倍にあたる.こうした事業拡大の背景にあるのが,都市部への流通・販売である.2012年度の販売金額(社内の部門間移転を含む)でみると,総販売額の6割強(約7,200万円)を関東で販売するなど,島根県外での販売額が全体の82.2%を占めている. <br><b>3.本研究の知見</b> <br> CAS事業は,離島でCAS凍結加工を行っているため,大都市に向けて流通・販売する際,フェリーの欠航リスク,輸送コストが課題となる.前者の欠航リスクについては,鳥取県境港市に大口取引先へ供給する加工品を保管する倉庫を確保することで対応するとともに,後者の輸送費には,大手運送業者のY社を使うことで対応した.Y社は,離島料金を取っていないため,輸送コストは島根県内の本土と同一であるため,課題は克服できた.ただし,Y社も海士町からの輸送にフェリーを使うため,欠航リスクは避けられず,(株)ふるさと海士は本土側に倉庫を必要とした.<br>都市部での流通・販売に向けたマーケティング戦略としては,大手のスーパーマーケット・チェーンなど低い仕入価格,大ロットかつ安定的な供給を求める小売主体はマーケティングの対象とせず,相対的に高い卸売価格を許容し,大量供給を求めない中小の飲食店や高級スーパーとの取引を戦略的に模索した点に特徴がある.さらに,(株)ふるさと海士の経営幹部が取引関係にある飲食店のイベントに参加するなど,人的関係の構築を含めたマーケティング活動を展開してきた. <br> 一方で,(株)ふるさと海士の経営は,海士町役場の支援を前提としている.加工施設・設備は町役場の所有で,指定管理者制度で委託されているほか,毎年の補助金投入によって,黒字経営が維持されている.そのため,民間資本による事業活動と本事例とを.同列で論じることはできない.しかし,公的資本による事業活動であっても,事業活動である以上,マーケティング,流通・販売への対応が必要となる.
著者
上村 博昭 Hiroaki KAMMURA 尚美学園大学総合政策学部 Shobi University
出版者
尚美学園大学総合政策学部総合政策学会
雑誌
尚美学園大学総合政策論集 = Shobi Journal Of Policy Studies,Shobi University (ISSN:13497049)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.33-53, 2017-12-25

本稿では、食品加工事業者の育成における政策の役割を検討している。本稿の対象は、比較的小規模で、国内の生産地と結びつきの強い事業者である。近年、食品産業の内部、あるいは農林漁業との関係について、フードシステム論で多く検討されているほか、ショートフードサプライチェーンなど、いくつかの論点で採りあげられてきた。他方で、こうした事業者は、地域の産業振興における担い手として期待され、事業規模の拡大に向けて、いかにマーケティング活動を展開するのか、という点が論じられている。本稿で、竹田市の事例を検討したところ、生産・加工・流通に至るまで、幅広く政策的に支援したにもかかわらず、マーケティングの課題は残った。この背景には、経営者が副業と位置づけて、事業規模の拡大に消極的なことがある。確かに、本稿の対象とする食品加工事業者は、産業振興へ明瞭な効果をもたらさないが、食品の多様性や食文化の醸成に寄与することから、こうした事業者への政策的支援も求められる。その際に、直売所の整備、商談会の開催、テスト販売などの機会を提供して、食品加工事業者の経営方針と整合的な支援を図ることも、政策の在り方として求められよう。This paper discusses the role of policies for developing the food processing businesses in the peripheral area. Although there are many type of businesses in the food industry,such as manufacturers, wholesalers, retailers, and restaurants, we focus on the small type of food processing businesses. These businesses often link directly to local agricultural producers, and this type is analyzed in a discussion of Short Food Supply Chain, Alternative Food System, or Regional Specialty Food Products. These businesses are also discussed from the view of promoting the regional economies in peripheral areas. But, these businesses are relatively small, and they face some challenges of marketing. To clarify how this occurs, we analyze a case of Taketa-shi, and discuss how the policies support them. In Taketa-shi, about 30 food processing businesses join the policies, and develop new food products or businesses. However, they manage the food processing businesses as a side business or hobbies, and some of them evaluate the size is proper, because the small size fits their management (craft) policies. To this situation, the role of policies is to provide the chance of sales, by setting direct sales stores or business meetings, or conduct some test marketing activities.
著者
上村 博昭
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2013, 2013

<B>1.はじめに</B><BR> 高度経済成長期には,人口や諸機能の東京一極集中が生じた一方で,その他の地域においては,人口の過疎化,高齢化など地域的課題が生じた.グローバル化の影響によって産業基盤が変化するなかで.農林漁業やその関連産業,観光など,域内資源を活用する方向性が打ち出されてきた.こうした社会的変化に伴い,1990年代以降に自治体がアンテナショップ(AS)を設置する動きが目立っている.ASは,民間事業者がマーケティング活動の一環として,市場ニーズの探索等を目的に設置する店舗であるが,近年では行政が公的に設置する事例が増加している.しかし,雑誌記事や一部の経営学における研究を除けば,十分に学術的検討はなされておらず,特に立地・運営の態様は明らかとなっていない.<BR> そこで本研究では,東京都区部の事例に対する検討を通じて,都道府県ASの立地・運営方式について明らかにしたい.調査方法は,本研究では各都道府県のアンテナショップ設置状況を把握し,各施設の概要や設置方針を検討することを目的に,2012年6月から12月にかけて,47都道府県を母集団としたアンケート調査を行った.その結果,回答のあった41道府県(87.2%)のうち,東京都区部へASを設置するものが31道府県であった.さらに,30道府県に対してはヒアリング調査を実施し,立地選定の経緯や現在の運営状況,今後の方針に関する調査・分析を行った.なお,本研究では都道府県ASを,行政施策の一環で設置される施設と捉えているため,実質的に行政の関与が存在しない施設については,本研究の調査対象から除いた.<BR><BR><B>2.都道府県アンテナショップの立地・運営状況</B><BR> 1つの都道府県が2~5カ所のASを設置している場合があるので,都道府県数と件数は一致しない.件数ベースでみると,2012年8月時点では,全国に48件の都道府県ASが存在する.都市別にみると,大阪や名古屋などの大都市圏,各道府県の県庁所在地への分布がみられるが,件数で最多の地域は東京都区部(32件)である.都区部では,千代田区7件,中央区13件,港区5件という分布を示し,銀座・有楽町周辺部への集中傾向がみられるほか,少数ながら新宿や池袋など副都心部への展開がみられる.設置目的は,地元のPR,観光誘客,域内経済の振興,そして都区部での情報収集(都市住民のニーズを把握)にある.ヒアリング調査によれば,都区部のASを通じて域内の魅力を発信し,物産販売や観光誘客を促進するとの回答が目立った.これは,都道府県ASの大半を商工観光系の部署が所管していることに関係している.<BR> 上記目的のもとで,各都道府県ASには食品中心の物産販売,観光案内,軽食提供やレストランなどの機能が置かれ,商談会の開催など事業者向け支援機能を持つ事例がみられた.ASの運営に際しては,都道府県が事業の統括と予算措置を行い,物産販売や飲食などの営利部門の管理・運営を,社団法人や民間企業へ委託する方式が採られている.都道府県ASには,行政の設置目的,運営方式に共通性がみられる一方で,いくつかの点で多様性がある.第1に,ASの施設総面積は1,658㎡から33㎡までと幅広く,施設規模では50倍の差がある.第2に,年間販売額では8億円から860万円までと,運営実績でみた場合にも,約100倍の差が生じている.第3に,施設形態では,一般にみられる物産販売,観光案内,喫茶・レストランを併設する型だけではなく,大分県のレストラン特化型,埼玉県や徳島県のコンビニエンスストア併設型など,設置方針によって施設形態に差異が生じている.<BR><BR><B>3.本研究の知見</B><BR> 本研究で得られた知見は,以下の諸点である.第一に,都道府県ASの立地方針は,コンセプトへの適合度や人通りの多さなど,事業内容に基づく明確な立地方針を持った事例と,他の道府県の分布状況を見て,大勢に追随した事例に分かれる.近年では,銀座,日本橋地区への集中化傾向が強まっており,立地選択の方針として後者タイプの増加を指摘できる.第二に,設置目的には共通性がある一方で,各都道府県ASの運営方式に多様性がみられた点である.都道府県ASは,百貨店における物産展と比べて常設である点が特徴的であり,都道府県ASの運営方式,および相対的な事業規模には,各道府県の方針が色濃く反映されている.第三に,既存研究においては,都道府県ASの課題として費用対効果が指摘されてきたが,本研究においても同様の課題が裏付けられる.AS不設置の府県には,費用対効果を懸念する回答があるほか,都区部に設置する道府県のなかには,コンビニエンスストア併設型を選択する事例もみられる.地元のPRや観光誘客などの目的に対し,明確な経済的効果を求められる一方で,行政活動であるために営利追求に対する制約があるという点に,都道府県ASの課題が存在する.
著者
出海 滋 上村 博 北口 博司 水船 栄作
出版者
社団法人 可視化情報学会
雑誌
可視化情報学会誌 (ISSN:09164731)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1Supplement, pp.361-364, 2000-07-01 (Released:2009-09-03)
参考文献数
3

A high energy industrial X-ray computed tomography system using silicon semiconductor detectors (Si-SSD) and electron linear accelerator (LINAC) was developed to obtain high resolution 3D images of high density and large scale object. To increase photon sensitivity, detector elements were placed parallel to the X-ray beams. The obtained sensitivity of 20% for X-ray of 3MeV was 3×104 times higher than that of X-ray films. It was clarified that the photon sensitivity of X-ray detectors restricts the performance of high energy X-ray CT, and it is shown that a CT image of 200mm thick iron object can be obtained with 0.2mm space resolution.
著者
長嶋 洋治 秋本 和憲 石黒 斉 青木 一郎 稲山 嘉明 上村 博司 佐藤 美紀子 谷口 多美代 水島 大一 泉澤 裕介 加藤 真吾
出版者
横浜市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

細胞極性の異常はがん細胞の主要な性質の一つである。本研究では細胞極性制御因子細胞極性制御因子atypicalprotein kinaseλ/ι(aPKCλ/ι)の各種癌組織、がん細胞における発現と局在を免疫組織化学的に検討した。また、前立腺癌においてaPKCλ/ιの下流に存在し、再発に促進的に働くことが細胞レベルで確認されたインターロイキン6(IL6)の発現についても検討した。これにより、胃癌、メラノーマ,膵臓癌,口腔癌,子宮頸癌についてもaPKCの過剰発現と転移や前癌状態からの進行との臨床的な相関を認めている。我々は前立腺癌ではaPKCとIL6の過剰発現との相関性を臨床検体で証明した。
著者
船橋 亮 槙山 和秀 土屋 ふとし 杉浦 晋平 三好 康秀 岸田 健 小川 毅彦 上村 博司 矢尾 正祐 窪田 吉信
出版者
泌尿器科紀要刊行会
雑誌
泌尿器科紀要 (ISSN:00181994)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.133-137, 2005-02

症例1(42歳男性).患者は他院で左精巣腫瘍(seminoma)の高位除精術を受け,その3年後にseminoma縦隔転移で化学療法を施行した.腫瘤は縮小したが,肝機能障害およびAFP高値(40ng/ml)遷延し,今回紹介入院となった.C型肝炎の活動性上昇からAFPのLCA分画測定を行い,化学療法による肝機能障害でC型肝炎の活動性が惹起されAFPが上昇したとの判断で経過観察とした.その結果,10ヵ月経過現在,AFPは13.4ng/mlまで下降した.症例2(30歳男性).患者は左精巣腫大で紹介入院となり,AFPは45ng/mlであった.左高位除精術を行なったところ,病理診断ではceminomaであった.化学療法後もAFPは29.1ng/mlで,LCA分画測定結果から更に化学療法を追加した結果,AFPに変化なかったものの,化学療法休薬中にもAFPは上昇せず経過観察となった.2年経過現在,AFPは20ng/ml台で推移しており,再発は認められていない
著者
大野木 啓人 川村 悦子 八幡 はるみ 松井 利夫 上村 博 松原 哲哉
出版者
京都造形芸術大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究は研究会合での研究発表と討論、それに実験的な制作活動の双方により進行した。研究会合では研究組織のメンバーや外部講師を招き、月と生活との関わりをさまざまな角度から考察し、それを特定の場における芸術的な環境づくりという実践に反映させた。太陰暦は、さまざまな身体感覚や自然の変化に照応している。そこに顕著な、自然の兆しによって四季の移ろいを把握するという時間の分節法には、環境に対する鋭敏な知覚が働いており、それがさまざまな生活上の意匠にも現れている。各種の年中行事において日々の生活空間を形作るしつらいや衣食住のありかたは、今日の表象芸術においても参考にすべきものを多くもっている。しかしそれは決して現代デザインに転用できる個別のモチーフとしてではない。むしろ、芸術的な場をどのような時間的リズムにおいて創出するか、という点に関する示唆である。そのため、研究会では、観月会、ひなまつりなどの機会に芸術的な場を作る実験を数次試みた。京都市や京丹後市で、地域の風土や場所の特性を生かした展示や茶会などの行事を通じ、建築物や周囲の土地と一体となった芸術的な環境を作ることを目標とした。こうした諸々の試みは、日常生活と芸術的世界の双方ともが貧困な情況に陥っていることへの反省でもある。太陽暦ないしは世界時間に代表される時間システムのもとでは、平板で均質な日常のイメージが優勢であるために、特殊な時間空間を設定して刺激を与える必要が生じた。その結果、日常/非日常、ケ/ハレ、生活/芸術の対照が過剰になってしまった。しかしながら、それは芸術領域の囲い込みと無限の自己批判によるジャーゴン化である。むしろ、太陰暦のもとでの世界、すなわち地域環境やそこに流れる時間のリズムを尊重することで、芸術活動の有していた雑多な豊かさを回復することができるのではないだろうか。
著者
上村 博司 里見 佳昭 菅原 敏道 山口 豊明 岸田 健 石橋 克夫 原田 昌興
出版者
社団法人日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科學會雜誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.82, no.2, pp.260-267, 1991-02-20

10年以上経過をみた前立腺癌症例70例を対象として, その予後調査を行った. 治療は内分泌療法を施行した. また, 除睾術を70例中54例 (77%) に施行した. 生存10例, 死亡60例で, 癌死は31例と半数を占めた. stageA, Bでは, 癌死は少なく, stageC, Dは癌死が10例と18例で高率にみられた. 一方, 長期生存例は, stageA_1 1例, A_2例, B1例, C4例, D2例とどのstageにおいても存在した. 病理組織別では, 高分化型群に癌死がみられず, またstageA, Bでは高分化・中分化型群に同様に癌死がなかった. ホルモン剤中断例では, 高分化型群で癌死は存在せず, 中分化型群でstageC, Dに癌死がみられた. 低分化型群は予後が悪く, とくに中断後は短期間内に癌死した. 高分化型群では癌死がいないと, stageA, Bでは高分化・中分化型群で癌死はなく, またホルモン剤中断後も癌死がないことより, 除睾術施行後の高分化型腺癌でstageA, Bの症例では, ある一定期間の継続的内分泌療法を施行後に, ホルモン剤の中断・中止の可能性が推察され, 一定の条件下でホルモン剤の中止ができるのではないかということを提唱した.