著者
谷川 好男 金光 滋 塚田 春雄 秋山 茂樹 木内 功
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

この研究課題では,ゼータ関数の対称性,すなわち関数等式をモデュラー関係式を通して一般的に捉えることにより,従来の数多くの研究を高い見地から見直し,更なる一般化を試みることが目的としていた.この研究において,モデュラー関係式を,メイヤーのG-関数やフォックスのH-関数を積分核とすることにより,最も一般的な形で定式化することができたことは大きな成果である.これにより従来の多くの研究の意味がより明確に理解できるようになった.たとえばダヴェンポート-セガルに始まる数論的フーリエ級数の公式を,モデュラー関係式の観点から一般化し,多くの新しい例を与えることができた.またフルウィッツゼータ関数に対しても関数等式の新証明を与えることができたし,エスピノザ-モル,ミコラシュに触発され,関数等式をフーリエ級数展開とみなすことで,数論的に興味深い多くの積分公式を得た.これらの成果は現在,本にまとめるべく執筆中である.多重ゼータ関数も当研究の大きな研究対象であった.特にオイラー・ザギヤー型の2重ゼータ関数の,いわゆる「臨界領域」における虚軸方向の大きさの評価において,クラッツェルの2重指数和の理論を駆使することにより,非自明な結果を得,従来知られていた結果を大きく改良することができた.これは今後数論的関数の和の研究などにおいて多くの応用をもつと期待される.また3重ゼータ関数に対しても同様の研究を進め論文としてまとめた.上記以外のゼータ関数として,多変数の多項式ゼータ関数を扱った.ある種のクラスの多項式について,対応するゼータ関数の解析接続可能な判定条件を与えるとともに,自然境界を持つような例を構成した.
著者
加納 修
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

西洋中世初期のフランク王国では贈与などの契約や紛争解決において多様な象徴物が用いられていた。その中でも、とりわけフェストゥーカと呼ばれる棒や茎は、フランク王権の伸張に伴ってブルゴーニュ、バイエルン、あるいは南仏へと広まっていった。しかし、その際に、各地の法的伝統にしたがってフェストゥーカの用い方や意味が変えられていった。王権の主導のもとフランク王国に同質的な法文化が広まったように見えるが、実際には地域的な法的多様性が残存していたのである。
著者
佐久間 亮
出版者
徳島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

英領植民地における野生動物保護政策、とりわけ国立公園設立のプロセスの比較検討を 1930 年代に焦点をおいておこなった。その結果、英領アフリカにおける国立公園形成においては英本国の保護団体の影響力が行使され、それが現地社会の著しい軋轢をもたらしたこと、これに対して、英領アジア(とくにマラヤ)においては現地社会との媒介を果たすローカルな保護団体の存在が、保護政策をスムーズなものとしたことなどが明らかとなった。
著者
磯本 一
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

内視鏡下に食道癌症例の癌部・周辺非腫瘍粘膜から生検サンプルを用いてマイクロアレイで同定した12種のヒトマイクロRNA(食道扁平上皮癌部で2倍以上の発現変化)を定量的に分析してみると、miR-1246、miR-1290、miR-196a、miR-196b、miR-1914、miR-424、miR-130b、miR-7、miR-455-3pが2倍以上発現上昇した。miR-203が2分の1以下に発現低下した。食道扁平上皮癌組織のmiR発現と臨床病理学的因子の関連性を明らかにするために、多段階に食道癌が発癌する過程においてmiRが果たす役割を解析する。しかしながら、異形成~上皮内癌~早期癌のサンプルが十分でなく、内視鏡下粘膜下層剥離術を用いて切除標本、施行時の血液サンプルを集積して、臨床病理database を構築した。化学放射線療法前後における非腫瘍部食道粘膜のmiRの変動を、6症例において統計的に解析した結果で有意差がなかったが、2倍以上増加したmiR-1914については放射線応答性miRである可能性があり、症例を追加し治療前後でその発現変動を追求する。食道扁平上皮癌における特性をさらに検討するため、アカラシア患者の食道粘膜における発現変化を検討した。対照群と比べて、アカラシアの食道粘膜では12種類のmiRで有意差がみられた。7つが有意に上昇、5つが有意に低下したmiRであった。注目すべき点は、食道癌をはじめとする多くの癌腫で発現上昇が報告されているmiR-21がアカラシア食道粘膜で上昇している点である。miR-21の標的分子として報告されているPDCD4、 SPRY1やCCDC12のmRNAが低下している。しかし、一方でmiR-1246、miR-196a、miR-196b、miR-1914、miR-424、miR-130b、miR-7、miR-455-3p、miR-203 はいずれもアカラシア食道粘膜では変動しておらず、食道扁平上皮癌の発癌過程における特性が示唆された。miR-1290は食道扁平上皮癌において血清miRが上昇している。miR-1290をターゲットに、食道扁平上皮癌特異的miRの特定を確かなものにしたい。
著者
有泉 高史 高橋 秀治
出版者
玉川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

ツメガエル胚の未分化細胞塊(アニマルキャップ)を個々の細胞に解離し、アクチビンとレチノイン酸で処理してできた再集合体は膵臓に分化する。これを他の胚に移植して成体まで育てると、正常な膵臓と同じ構造をもつ第二の膵臓(異所性膵臓)が作られた。異所性膵臓の機能を摘出実験や糖負荷試験を通して解析した結果、異所性膵臓は形態だけでなく、血糖調節能力においても正常な膵臓と同等であることが確認された。
著者
王 芙蓉 加藤 伸郎 須貝 外喜夫 孫 鵬
出版者
金沢医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

アルツハイマー病は大脳皮質での緩慢な神経細胞減少を特徴とする。神経幹細胞で補充する手法を開発し、その神経生物学的根拠について特に脳由来神経栄養因子の関与の面から明らかにすることを目的とした。アルツハイマー病モデルマウスにおいて、脳由来神経栄養因子を発現させることが知られている経頭蓋磁気刺激によって学習能力が改善することを見出した。蛍光を発する神経幹細胞を単離し、これを脳内へ移行させるための手技を利用可能にした。
著者
池田 裕明 西村 孝司 近藤 哲 宮本 正樹
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

【ヒト検体を用いた研究】食道癌患者の癌細胞HLA class I発現は癌組織CD8^+T細胞浸潤と相関し、癌組織CD8^+T細胞浸潤は良好な患者予後と相関することを見出した。即ち、CD8^+T細胞が食道癌の免疫監視に重要であり、HLA class I発現低下は食道癌の免疫監視回避機序の一つであると考えられた(論文投稿中)。157例の肺癌において、CD4^+、CD8^+両T細胞が浸潤する症例は良好な予後を示した。(Int J Oncol,2006)。CEAに対する抗体とT細胞レセプターのキメラ分子遺伝子を導入したT細胞を作成し、自家大腸癌に対する有効な抗腫瘍効果を示した(Cancer Sci,2006)。癌精巣抗原NY-ESO-1のCD4T細胞認識エピトープとして多種類のMHC class II分子に提示されるプロミスカスなペプチドを同定した(Cancer Sci.,2007)。骨肉腫腫瘍抗原としてCLUAP1を同定した(lnt J Oncol,2007)。【マウスモデルを用いた研究】抗原提示細胞とI型ヘルパーT細胞の相互作用の抗腫瘍効果における重要性(Cancer Res,2006)、トル様レセプターリガンドCpGを用いた腫瘍ワクチンにおけるI型インターフェロンの重要性(Int Immunol,2006)を見出した。腫瘍進展と共に腫瘍内制御性T細胞(Treg)が増加し、同時に腫瘍特異的T細胞移入療法の効果が低下した。T細胞共活性化分子GITRを刺激することにより腫瘍内Tregが減少し、T細胞療法が増強した(基盤的癌免疫研究会2007東京、CRI symposium 2007NY、日本癌学会2007横浜、日本免疫学会2007東京)。GITRを始めとする共活性化分子を刺激する方法が腫瘍の免疫監視エスケープ機序を克服する有望な技術となることが示唆された。
著者
高坂 史朗
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

日本は植民地朝鮮と台湾の地に帝国大学を設立した。1924年に京城帝国大学が、1928年に台北帝国大学が設置され、日本の教育制度がそのまま適用され運営された。これは1945年の日本の敗戦まで続いた。その地で「哲学・哲学史」講座を担当した安倍能成と務台理作を中心に「植民地教育」が日本の知識人の思索のどのような影響を与えたかを論じた。また李光来著『西洋思想受容史』を翻訳出版し、その「解題」に東アジア(中国・朝鮮・日本)の西洋思想受容の特色を比較する考察をなした。
著者
森河 裕子 三浦 克之 西条 旨子 中西 由美子 中川 秀昭 北岡 和代 西条 旨子 中西 由美子 中川 秀昭 北岡 和代
出版者
金沢医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

交代勤務特に深夜勤務への適応・不適応(耐性)に伴う健康問題と、適応・不適応に関連する要因を検討した。一製造工場の男性夜勤交代勤務者を対象に全体調査と抽出調査を行った。夜勤交代勤務への適応に最も強く影響したのは年齢であり、慣れによって不適応感が軽減していくものではないことが示された。客観的睡眠モニターから深夜日の睡眠はコマ切れであり、効率の悪い睡眠であることがわかった。不適応者における睡眠以外の健康影響として、疲労蓄積による自然免役能の低下が示唆された。夜勤交代勤務による健康影響の最小化のためには、特に不適応感を抱いている者に対する適切な対応が必要である。
著者
谷古宇 尚
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

おもに13世紀から14世紀にかけてのゴシック期のフランシスコ会修道院の建築と絵画を取り上げて, これまであまり研究の対象とされなかった修道院参事会室や修道女席, また回廊などに描かれる絵画図像について, 建築的文脈や当時の宗教的・政治的状況を考慮に入れながら考察した。特にナポリのサンタ・マリア・ドンナレジーナ修道院とサンタ・キアーラ修道院, シエナのサン・フランチェスコ聖堂については, 全般的な調査に基づき, 絵画の図像的な意味と建築の役割を明らかにすることができた。
著者
山口 由二 山口 不二夫
出版者
大東文化大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

研究調査国内の地方自治体について、自治体財政運営の実態調査ならびに資料収集を実施した。特に10月には財政破綻・財政再建準用団体移行を表明した北海道夕張市を訪れ、経理担当者にインタビューするとともに、市の運営する施設を見学した。この調査に関しては『環境創造第10号』「自治体が財政破綻にいたるまでの分析-赤池町と夕張市の財政分析による比較-」(2007年5月刊行)に論文として公表している。データベースの作成本研究の主要課題であるバランスシートのデータベース化に関しては総務省方式でバランスシートを作成し、公表している44都道府県で完成させた。分析結果このデータベースを活用して、山口不二夫の「総務省方式自治体バランスシートの経営分析方法」で、まとめられている、従来の分析指標、柳田(2004)が提案している総務省方式のバランスシートのもとづく分析指標、山口不二夫ならびに山口由二が新たに提案する分析指標を算出した。この結果については報告書巻末に掲載し、利用可能な状態にある。「格付け」などの評価の作業もこのデータベースと分析結果にから可能であり、利用価値の高いものである。今後、このデータベースを毎年更新して、各自治体の時系列分析も可能となる。最近の動向地方自治体のバランスシート作成状況は2006年公表では都道府県レベルでは100%市町村レベルで52%となり、初めて過半数となりかなり浸透してきている。しかし「第三世代の方式」といえる連結バランスシートの作成に関しては市町村レベルではわずか4.1%にすぎず、データベース化して比較分析できる状態にはない。今後の進展に期待する。
著者
田中 良明 斉藤 勉 藤井 元彰 斉藤 友也 前林 俊也
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

難治性悪性腫瘍に対する放射線治療において、進行固形癌や再発癌は通常の放射線照射単独では十分な治療効果が得られない場合が多い。そこで、三次元原体照射による優れた線量分布と、放射線増感作用を有する温熱療法併用することにより、局所一次効果と臨床症状に改善が得られるかを検討した。対象は平成15年1月以降の4年間に温熱併用放射線化学療法を行った消化器系の癌腫25例(男/女=18/7、平均年齢59.4歳)で、内訳は、膵癌8例、胆嚢癌2例、胆管癌4例、小腸腫瘍2例、S状結腸癌2例、直腸癌7例で、現症別では局所進行・手術不能12例、術後再発12例、その他1例である。放射線治療は可能な限り三次元原体照射、多門照射を適用し通常分割で50〜60Gy、温熱療法はRF波誘電加温装置(Thermotron-RF8)を用い、病巣部41℃、30分以上で週1回、計4回以上を目標に実施した。化学療法は膵癌にはGEM(800-1000mg)、結腸・直腸癌には5-FU/LV、UFT、TS-1もしくはFOLFOXを適用した。結果は、治療内容について予定の70%以上実施できた症例を完遂例とすると、完遂率は68%(17/25)で、臓器別では膵癌(7/8)、結腸・直腸癌(7/9)で完遂率が高かった。画像診断や臨床症状による治療効果は、著効7例、有効12例、無効6例であり、臓器別の奏効率は膵癌(6/8)、結腸・直腸癌(8/9)で高く、胆道癌(4/6)、十二指腸・小腸癌(1/2)では相対的に低かった。完遂率別の治療効果は完遂例で著効6、有効10、無効1(奏効率94%)、非完遂例で著効1、有効2、無効6(奏効率38%)であり、完遂例の方が奏効率が高かった。臨床的に疼痛の軽減、異常分泌物の排泄減少など、QOL(生活の質)の向上が得られる例が多かった。有害事象として、2例に急性胃潰瘍がみられたものの、局所の疼痛、熱感などは軽微であった。以上、本法により奏効率の向上と一次効果持続期間の延長ならびに患者のQOLに改善がみられ、難治性腫瘍に対して有効な治療法であることが明らかとなった。
著者
井関 邦敏
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

日本透析医学会の調査によるとわが国の慢性透析患者数は増加の一途をたどっている。2005年度には国民500人に1人の割合を超え、沖縄ではすでに400人に1人の高頻度である。透析導入の原因疾患は1998年度よりそれまで首位であった慢性腎炎から糖尿病(DM)に移行した。前者が減少しつつあるのに対し、後者は直線的に増加し続けている。透析患者増加の背景には膨大な数の透析予備軍が予想される。健診データ数の変動にもかかわらず2mg/dl以上のCKD頻度は約0.2%前後(千人に2人)と一定である(沖縄県総合保健協会の資料)。CKDは多くの場合、自覚症状がなく検尿異常(またはGFR低下)から始まり、徐々に腎機能が低下して末期腎不全に進行する。これまでに報告された透析導入の発症危険因子のなかで最も鋭敏で簡便な検査法は試験紙法による検尿(蛋白尿)である。透析導入の発症率は蛋白尿が多いほど高い。加齢に伴い腎機能は低下するが、蛋白尿を伴わなければ透析導入が必要になるほど低下しない。検尿以外の項目では血圧が重要で、血圧値は高いほど、性別に関係なく透析導入が増える。高血圧は患者数が多いこと、降圧薬で治療可能であることを考慮すると、血圧コントロールの重要性が伺える。肥満は蛋白尿発症および透析導入の有意な危険因子で、とくに男性において肥満の影響が大である。男女差の要因は不明であるが、男性では女性に比し生活習慣、治療コンプライアンスに問題があるのではと考えられる。空腹時血糖値:126mg/dl以上では糖尿病の可能性が高く、透析導入率も高くなる。CKDの発症、進展にメタボリック症候群、肥満が関与していることは明らかとなっている。禁煙、適度な運動、食事指導(蛋白質、食塩、カロリー)が必要である。肥満者では体重減少によって蛋白尿が低下する。生活習慣の改善は末期腎不全予防に有効である。
著者
鳴海 多恵子
出版者
東京学芸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、衣服の着脱における負担を軽減することにより、運動機能に障害のある人の衣生活を改善することを目的として、既製服の効果的な修正方法を提案するとともに、その修正方法の効果を心拍変動スペクトル解析による数値的評価を行い実証した。まず、健常者を対象に心拍変動スペクトル解析を用いた評価の有効性を確認し、その上で、運動機能に障害がある人を対象に評価を行った。被験者は健康な女性5名(21〜23歳)と脳性マヒがある男性1名(18歳)である。健康な女性5名は、異なる2つのタイプの長袖Tシャツ(着衣しやすいTシャツと着衣しにくいTシャツ)の着衣を行った。そして、介助を必要とする脳性マヒ患者は、既製服の長袖Tシャツを基本として、それを着やすくするために修正を加えたもの2種を作製し、3種の試験着を着衣した。自律神経活動は、それぞれのタイプのTシャツを着衣する前と着衣後3分間で、心拍変動スペクトル解析を用いて評価した。その結果、健常者、脳性マヒ患者とも着にくい服を着衣した際に、着衣1分後にLF/HFが明らかに増加し、HF/TPは著しく減少を示し、心拍変動スペクトル解析を着やすさの評価に用いることの有効性が示唆された。また、それを用いて衣服の修正効果が実証できた。さらに、心拍変動スペクトル解析による実験精度を高めるために、試験着の着衣順序の影響や従来、着用実験の評価として用いられている官能検査と心拍変動スペクトル解析との関係について確認したところ、着衣後の心拍変動反応は着衣の順序効果があることが認められ、解析において配慮すべきであることが明らかとなった。また、官能検査では身体的な負担が評価されることが認められ、着衣動作による負担の評価においては心理的な評価が可能な心拍変動スペクトルを併用することが適切であるといえた。
著者
武石 みどり
出版者
東京音楽大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

伊藤道郎が1916年4月にイェーツの舞踊劇『鷹の井戸』に出演した背景には、その前段階として、ロンドンの芸術家達との出会いと共同制作があった。1915年5月にコロシアム劇場で日本的舞踊を披露したことが、一方ではホルストによる『日本組曲』の作曲へと結びつき、また他方ではパウンド、イェーツ、リケッツ、デュラック、コバーンといった芸術家達との出会いへ結びついたのである。前者は二人の共同制作ではなく、伊藤が提供した旋律によりホルストが独自に管弦楽曲を作曲した。伊藤は『日本組曲』の完成を知らなかったものと思われる。後者の芸術家達は特に日本の浮世絵や能に大きな関心を抱き、伊藤から日本の芸術を学ぼうとし、反対に伊藤は、彼等の関心に刺激されて日本の芸術を新しい目で捉えるようになった。1915年秋から1916年初頭にかけて、伊藤はリケッツとデュラックが作った日本的衣裳で日本の伝統芸能の主題を強く意識した舞踊を踊り、1916年8月にニューヨークに移ったのちも、この日本的舞踊が伊藤の基本レパートリーとなった。日本的舞踊の伴奏音楽については不明な部分が多い。しかし、「狐の踊り」の音楽の原型は、おそらく『日本組曲』の終曲に近いものであったと推測される。ニューヨークでも、1917年以降は伴奏に積極的に日本旋律を用いた。能に対する興味はアメリカでも大きく、1918年に『鷹の井戸』を再演したほか、『田村』を英語版で上演、その後も幾つかの能と狂言を英語で上演した。『鷹の井戸』のニューヨーク再演では山田耕筰の音楽が用いられたが、現存するピアノ版楽譜が実際にはどのような編成で演奏されたのか、不明な部分も多い。能の英訳上演に関しても、謡と伴奏楽器が実際にどのようなものであったのか、今後さらなる追究を要する。1920年代前半を境に、能と狂言の要素が伊藤のレパートリーから排除されていった理由も今後の検討課題である。
著者
加藤 昌英 辻 元 田原 秀敏 横山 和夫 青柳 美輝 山田 美紀子 谷口 肇
出版者
上智大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本年度(補助金が交付されてきた期間を含む)に行った研究によって得られた結果は以下のとおりである。1.複素3次元射影空間のある種の領域(「広い領域」)の商多様体の分類に関して次のことが分かった。すなわち(1)この問題を(複素1次元の)クライン群理論の高次元化(奇数次元のみ可能)と考えた。特に複素3次元の場合には、Grassmann多様体G(4,2)に作用する群と考えることによって、うまく問題の定式化(2)クライン群理論における初等型の群に対応する部分の複素3次元版がほぼ完成した。ここで初等型の群とは3次元射影空間の稠密な領域に作用する「端点(end)」が有限である群と定義する。特に固有不連続な開集合の商空間が正の代数次元を持つコンパクトな成分を少なくともひとつ持てば、固有不連続な開集合は3次元射影空間の稠密な領域であって、クライン群は初等型になることが示された。同時に商多様体も有限不分岐被覆を除いて分類された。ここの議論では、(非Kaehler多様体を含む)複素多様体への正則写像の、S.Ivashkovichによる拡張定理が有効に用いられる。現在、発表のための草稿の作成と、証明の改良(なるべく概念的な証明に直すこと)を行っている。が出来ることがわかった。これによって基礎になる種々の概念が固まった。2.複素多様体がprobableになるための良い十分条件を求める問題についてはまだ手がついていない。複素射影構造が特異点集合の持つ場合の考察についても進歩がなかった。ともに今後の課題である。
著者
樽田 誠一 齋藤 直人
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

カーボンナノチューブ(CNT)を1.5SBF(無機イオン濃度が体液のそれよりも1.5倍高い溶液)へ浸漬させ、アパタイトの析出を検討した。CNTにアパタイトを短時間で均一に析出させるには、リン酸あるいはCaCl_2水溶液などで前処理した少量のCNTを1.5SBFへ均一に分散させることあると結論付けられた。また、CNTとアパタイト粉末を用い焼結法で複合化を行った。CNTが均一に分散した緻密な複合体が得られ、一般的なアパタイト焼結体と比べ、複合体の破壊靭性は向上したが、焼成中に発生したクラックにより曲げ強度は低下した。
著者
吉野 正史 滝本 和広 滝本 和広
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

ベクトル場の標準形理論にあらわれる形式変換の発散現象をDiophantine条件を用いることなく,解析的に扱う方法をしめした.方法は,漸近解析の考え方に沿い,ボレル総和法を拡張して発散級数を適当な部分領域で意味づけて行った.さらに.解析的非可積分性と滑らかな可積分性が同時におこるようなハミルトン系で,発散する第一積分をボレル総和法の観点から意味づけた
著者
中山 充
出版者
香川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

干潟など海域については、漁民・住民が環境共同利用権を持つことが認知されるべきであり、国と地方自治体はその海域について環境保全と適切な共同利用のための調整を行なうべきである。漁民・住民は、権利者として海域の管理への参加と情報公開を求めることができるとともに、誤った決定や管理の差止めを請求できる。差止請求を認容した様々な判決の分析、検討により、このような環境共同利用権の概念の有用性が明らかになり、差止請求権の根拠に関する考察が進展した。
著者
中村 博之
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、最近めざましい急進展を見せる在中国日本企業子会社において、数々の成功事例があることから、そのような実態の把握に努めた。さらにそれに基づき、今後の経営環境変化に対応する新たな日本企業子会社の管理会計システムの構築を行った