著者
覚道 健治 清水谷 公成 四井 資隆
出版者
大阪歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

まず,in vitroの実験として,滑膜由来の培養細胞に対し生体におけるブラキシズムに類似したメカニカルストレスを与え,解析できる実験システムを開発した.それは,ラットの顎関節滑膜から初代培養により得た細胞を単層培養にて増殖させ,コラーゲンスキャホールドの中にコラーゲンゲルを併用して三次元培養組織を作製した.次に,顎関節解放手術の際に得られた滑膜組織からヒト滑膜由来培養細胞で同様に三次元培養組織を作製し,独自に開発した繰り返し圧縮刺激装置を用いて,生体におけるブラキシズムに類似した圧縮負荷ストレスを与えた.5日間負荷刺激後,三次元培養組織を回収し,細胞動態およびアポトーシス誘導を組織学的観察,炎症性サイトカインの遺伝子発現をRT-PCR法,タンパク発現をウェスタンブロッティング,ザイモグラフィ等の手法を用いて検索した。結果,過剰負荷想定の圧縮刺激により,MMP-1,MMP-3,IL-6,IL-8などの炎症性サイトカインのmRNA発現,タンパク発現の上昇が認められた.さらに,刺激直後,1時間後,6時間後の遺伝子発現の時間推移を調べた.その結果,サイトカインの種類により圧縮負荷刺激後の発現パターンが異なることが明らかになった.in vivoの実験として,ボランティアによる正常者の噛みしめ時の脳内賦活部位の解析をfunctional MRI(f-MRI)を使用して行った.その結果,噛みしめ時に賦活化される部位を特定することができた.さらに,噛みしめ時の不快症状が脳のどの部位で感知されているかどうかを調べるため,噛みしめのタスクに加え,浸潤麻酔および伝達麻酔を行い,歯根膜からの感覚を遮断し,その上で噛みしめ時のf-MRIを撮影,解析を行った.結果,片側の感覚遮断により,反対側の一次体性感覚野および運動野に賦活化が認められた.また両側の感覚遮断を行うことにより,脳の両側の体性感覚野および運動野の賦活領域の拡大がみられた.このことにより噛みしめ時の歯根膜からの感覚刺激が賦活化する脳の領域が明らかになった.
著者
須貝 俊彦 鳴橋 竜太郎 大上 隆史 松島 紘子 三枝 芳江 本多 啓太 佐々木 俊法 丹羽 雄一 石原 武志 岩崎 英二郎 木本 健太郎 守屋 則孝
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

関東平野の綾瀬川断層、濃尾平野の養老断層を主な対象として、地形、表層地質調査を行い、とくに河川による土砂移動プロセスと活断層の活動との関係に着目して、伏在変動地形の識別と伏在活断層の活動性評価を目的として研究を進めた。その結果、綾瀬川断層では、最終氷期の海面低下期に形成された埋没段丘面群と沖積層基底礫層の堆積面(埋没谷底面)において、明瞭な断層上下変位が見出され、その平均上下変位速度は約0.5 mm/年と見積もられた。養老断層では地震動による土石流発生と沖積錐の成長が繰り返され、断層崖を埋積してきたことなどが明らかになった。同時に平野の地震性沈降が、コアのEC、粒度、全有機炭素/窒素、帯磁率等の分析によって検出可能であることが示され、そのタイミングが^<14C>年代測定値によって与えられた。
著者
田上 耕司
出版者
九州工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

完全2次再結晶化させた焼結タングステン細線中のバブルを走査型電子顕微鏡により観察した。粒界上には平均で23nmの径のバブルが10^<13>m^<-2>の高密度で存在する一方で、粒内のバブルの面密度は粒界の約5%にしか過ぎなかった。また、2次再結晶粒の形態を定量化し、それらの変化が高温クリープにどのような影響を及ぼすかについて調べた。粒の形態を粒形状に関するパラメーターの1つf_1で代表させることにより定量的に表すことができた。そして、粒の最適なインターロック状態にある組織を「粒界面積の急激な増加を示さない最小のアスペクト比を有する粒の形態」と定義し、その状態f^0_1からのズレ指数ΔI(=f_1-f^0_1)によって高温クリープを特徴付けることができた。変形機構図中のベキ乗則クリープ領域は粒が最適にインターロックされている状態のΔI=0で最も狭く、それからズレるにつれて拡大した。そして、同領域の変形は粒界すべりによって強く影響を受け、ΔI>0ではΔIが増加するにつれてさらに粒界キャビテーションによる影響が加わると考えられた。これらの研究成果については平成9〜10年度研究実績報告書の研究発表欄に示す論文にて公表した通りである。このように線材中に軸方向に並んで数多く存在するバブルは2次再結晶粒形状の制御という重要な役目を果たしており、高温での強度はバブルの分散状態こよって決定される粒の形態によって最も強く影響を受けることが分かった。従って、粒内のバブルによる変形応力への直接的な寄与、つまりバブルによる非熱成分的硬化は粒形態の変化のために隠されてしまうので、現在粒形態の寄与分の分離方法に付いて検討中である。
著者
前田 良三
出版者
立教大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

1.ルートヴィヒ・クラーゲスの比喩論・言語論における美的身体性とメディアの問題:クラーゲスの『リズムの本質』が端的に示しているように、彼のリズム論は都市生活の機械的・無機的なタクト(拍子)に対するアンチテーゼとして構想されているが、それと同時に、19世紀的な個的・主観的身体性を超克する契機としての集団的リズムの発見という点において、複製技術的メディアによって可視化されたリズムの表象と通底している。2.ゲオルゲ派のメディア戦略と複製技術による自己演出:ゲオルゲの美的自己演出の戦略は、逆説的にも大都会的・技術メディア的な知覚が支配的になったヴァイマル期の視覚文化を前提としている。大衆文化とエリート文化がいわば同一平面上に並列的に展示され、「触覚的」(リーグル、ベンヤミン)な知覚の対象とされるとき、ゲオルゲ派の美学は自らの詩的世界のみならず、詩人としての社会的存在をも図(大衆文化)に対する文様=ゲシュタルトとして示そうとするものであり、この点においてすぐれて20世紀的といえる。3.伝統主義美学とメッセージの暗号技術:伝統主義者の美学において唐突に復活する「形式」という主題は、非大衆的メッセージ伝達形式として詩というメディアをあらたに発見する。そこでは日常的コミュニケーションに対する暗号として詩が表象されている。4.保守的文学者集団と技術者集団の男性同盟的組織原理:ゲオルゲ派にもっとも典型的に見られる男性同盟的かつカリスマ指導者+弟子という組織構造は、反近代主義的・宗教的な背景を有するが、同時に専門家集団としての技術者集団とその排他性・内的規律といった点で共通性をもつ。
著者
本郷 健 近藤 邦雄 齊藤 実 須藤 崇夫 堀口 真史 佐野 和夫
出版者
大妻女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

分散処理的な見方・考え方はさまざまな事象を、情報を軸として捉えるときに大切となる新しい考え方である.分散処理的な考え方を育成することを意図したカリキュラムを開発した.高等学校の共通教科情報の必修科目また選択科目で活用できる複数のカリキュラムを開発し実践して、その効果を確認した.また、指導する教師の研修カリキュラムを開発し、教育センターで実施して、その有効性を確認した.開発した資料等は書籍やWeb上で公開して、普及を図っている.
著者
多部田 茂
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

海洋生態系における炭素や窒素の循環をシミュレーションするための生態系モデルを構築した。低次生態系の窒素循環を扱うときに広く用いられているKKYSモデルをベースとし、植物プランクトンの分解実験に基づいて構築されたPDP(Phytoplankton Decomposition Process)モデルを参考にして拡張した。構築した生態系モデルを海域の流れや成層を再現する物理モデルと結合し、人工湧昇流を対象とした実海域の計算を行って観測値との比較により再現性を確認した。その際、長期間の炭素収支の推定には、準難分解性有機物の分解に支配される物質循環が重要であることが示唆された。そこで、3次元モデル(短期モデル)では易分解性有機物の分解に支配される物質循環がほぼ定常になるまでの時間スケールの計算を行い、その結果を用いて鉛直1次元モデルで長期の炭素収支を計算することによって、対象海域における長期間の炭素収支を推定するスキームを構築した。海底マウンドによる人工湧昇流に関して炭素隔離量評価モデルを用いたシミュレーションを実施し、炭素/窒素比の鉛直プロファイルが準難分解性有機物の生成・分解の影響によって徐々に変化し,それに伴って大気一海洋間の炭素収支が変動することを示した。また、オホーツク海沿岸や沖ノ鳥島周辺海域など日本近海のいくつかの海域において、海域の特徴を考慮した生態系モデルを構築し、物質循環のシミュレーションを実施した。さらに、海域肥沃化技術を導入したときの社会経済的な影響を評価するために、水産物を考慮した食料経済モデルを開発した。それを用いた日本の将来の動物性タンパク源食料(肉類・水産物)の需給予測、および海域肥沃化による水産物増産がこれらの需給に与える影響の予測を行ない、日本の食糧自給率に及ぼす水産物の重要性を示した。
著者
服部 泰直 木村 真琴 山内 貴光 立木 秀樹 横井 勝弥 松橋 英市 CHATYRKO Vitalij
出版者
島根大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本研究では主に計算理論へのトポロジーの応用と距離空間における次元の解析とその応用に関する研究を行った。前者においては、距離空間の計算モデルである形式的球体のドメインのMartin位相に関する研究から示唆された実数直線上のSorgenfrey型位相τ(A)の解析を行い、τ(A)がSorgenfrey位相自身と同相となる必要条件等を得た。また、図形のデジタル化におけるモデル空間であるKhalimski空間の部分空間に対するn次元性の表現を求めた。後者においては、帰納的次元のHurewicz形式と超限分離次元の振る舞い、及び種々定義されてきた小帰納的次元の統一的定義の提唱とそれらの相関関係を調べた。
著者
溝部 俊樹 田中 秀央
出版者
京都府立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

緑色蛍光蛋白(Green fluorescent protein : GFP)付加α2Aアドレナリン受容体をノックイン発現した遺伝子改変マウスの機能解析を行い、これらのマウスにおいてGFP 付加α2Aアドレナリン受容体が脳内、特に青斑核に発現し、その機能や分布は、野生型と同様であった。
著者
畑 啓介 篠崎 大 釣田 義一郎
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

近年、マイクロRNAが癌、自己免疫性疾患と関与していることが注目されており、癌や炎症などの治療法開発やバイオマーカーとしてマイクロRNAの臨床応用が期待されている。本研究では炎症性腸疾患患者の血清や腸管粘膜におけるマイクロRNAの発現プロファイルを明らかにし、炎症性腸疾患の臨床病理学的因子との関連を調査することで、疾患メカニズムの解明と炎症性腸疾患合併大腸癌の早期発見に応用するための基礎的なデータを構築することを目的とした。昨年度に引き続き潰瘍性大腸炎手術後の回腸嚢(正常および回腸嚢炎)からの生検サンプルを用いて、マイクロアレーを用いてmRNAの発現を網羅的に調べた。また、今年度も引き続き手術標本、内視鏡時の生検、および血清サンプルの収集を行った。それと並行して、炎症性腸疾患合併大腸癌症例のパラフィン包埋サンプルを利用し、あるマイクロRNAと発現が負に相関することが報告されているタンパクの発現を免疫染色により調査した。このマイクロRNAは孤発性の大腸癌やそのほかの臓器の癌において上昇していることが報告されている。まず実験に先立ち、孤発性の大腸癌症例を陽性コントロールとして、マイクロRNAの発現に関してはリアルタイムPCRを用いて、タンパク発現に関しては免疫染色を用いて、条件設定を行った。その後、内視鏡時の生検標本および手術時の切除標本を用いてそのタンパク発現を免疫染色により調査した。その結果、そのタンパク発現は正常大腸粘膜では発現が強くみられたのに対して、炎症性腸疾患合併大腸癌では一部で発現が弱くなっている傾向がみられた。
著者
小川 仁 柴田 近 佐々木 巖
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

臨床研究においては当科での回腸嚢炎の発症頻度を明らかにするとともに、従来明らかではなかった発症後の長期経過とくに抗菌薬治療に対する感受性の変化を明らかにした。基礎研究においてIL-23が腸管上皮細胞に対して細胞内シグナル伝達機構を活性化させるとともにサイトカインの放出を促すことを明らかにし、また大腸癌の一部においてもIL-23Rの発現を認めIL-23が増殖・浸潤を刺激する事を明らかにした。
著者
村松 慶一
出版者
山口大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

最近、心臓移植や小腸移植の実験研究をみると、キメリズムと免疫寛容の導入についての研究が特に注目されている。平成21年度はキメリズム現象、つまりドナーからレシピエントへの細胞移動についてこれまでの実験を発展させ、新たな結果が得られた。最も興味深い研究は骨髄移植によるキメリズムの誘導である。つまり、臓器移植前にレシピエントに骨髄移植を行いキメリズムの成立、確認した後に目的臓器を移植すれば何の免疫抑制剤を投与しなくても移植臓器が免疫反応を受けることなく生着する。これは移植骨髄のドナーに特異的な免疫寛容であり、小腸など抗原性が高い臓器ですら安定した生着が報告されている。この骨髄移植が免疫寛容を導くならば、四肢に含まれる骨髄は血行を保ったまま移植されることになるため免疫寛容を導かないのかという期待がもたれる。平成21年度はレシピエントに放射線全身照射を行った後にドナーの後肢を同所性に移植した。ドナーにはLacZ Tgラット、レシピエントにはInbred Lewisラットを用いた。この組み合わせだと、何も処置をしなければ移植後4日で移植後肢は拒絶される。MHCでは大きなバリアーがあるペアーである。ドナー骨髄からキメリズムを誘導するために顆粒球刺激因子を投与し、またGVHDを抑制する目的でFK506を28日間投与した。この結果については2009年度のJournal of Orthopedic Researchにすでに報告したが、約20%に高いキメリズムと免疫寛容が得られたが、非致死的な慢性GVHDが認められた。この結果は放射線の量や薬物の使用量によって異なったが、いずれにしろレシピエントに対しては大きな負担となるのは間違いないプロトコールであった。平成21年度は、全身照射量や非骨髄破壊的な前処置について検討すべき結果となった。
著者
水島 恒和 伊藤 壽記 竹田 潔 中島 清一
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

炎症性腸疾患(IBD)患者の炎症部では、マクロファージ様の形態を呈し、単球系マーカーのCD14 と樹状細胞マーカーの CD11c 両者が陽性である CD14+CD11c+細胞が増加していた。IBD 患者の非炎症部において、CD14+CD11c+細胞は非 IBD 患者と著変を認めなかった。CD14+CD11c+細胞は、腸管粘膜固有層において CD14-CD11c+細胞,CD14-CD11c-細胞に比し、有意に Th17 細胞を誘導していることが明らかになった。
著者
吉永 進一 赤井 敏夫 橋本 順光 SHORE Jeff
出版者
舞鶴工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本科研において子孫宅に残された平井文書の撮影が大きな目標であったが、予算面の制約から全資料の撮影を完了することはできなかった。しかし撮影資料をデジタル化したことは研究のスピードアップにつながった。またシカゴ万国宗教会議などのアメリカにおける講演関係の新聞記事、日本での雑誌記事といった基礎的史料に関してはデジタル化して報告書付録DVDに収録することができた。これらのデジタル資料は、電子文書保存の国際標準仕様であるJIS Z6017に準拠して作成され、ダブリンコア仕様のメタデータを添付されており史料的価値は高い。この三年間において、吉永は平井文書みならず、仏教雑誌、『道』誌、『新公論』誌などの平井関係の資料を調査し、平井金三の全生涯について伝記的な研究を行うことができた。これによって、多様な領域で活動した平井の全体像を描くことが可能になった。橋本順光は平井を神智学や在米中国仏教徒との関連で論じ、西洋主導の近代世界の中で東洋の文化的自立を目指す運動のひとつとして評価した。赤井敏夫は明治期仏教における神智学の影響について書誌学的な研究をおこなった。Jeff Shoreは平井の手稿についての調査を、研究協力者の野崎晃市は平井とユニテリアンに関する研究を行い、同じく協力者の橋本貴は資料のデジタル化に関する論考を執筆した。以上の研究から、明治二〇年代の仏教復興が国際化と連動した動きであり、平井や鈴木大拙など、仏教とキリスト教の対立構図を脱して東西宗教思想の比較と融和に向かう動きがあったことが検証できた。今後の研究課題としては、第一に貴重な歴史資料である平井文書の撮影を完了することが急務である。第二に、アメリカでの仏教受容を検証するためには平井のアメリカ側への影響を実証的に調査する必要があると思われる。第三には、平井と道会などの日本生れのキリスト教との関係についてはさらなる考究が必要であろう。
著者
藤田 博仁 橋本 明 加美 嘉史 山田 壮史郎
出版者
愛知県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究はホームレスの自立支援を目的とする、ホームレス自立支援センターの業務統計を定量分析し、自立の効果測定と就労自立の実態を明らかにすることを試みた。ホームレス自立支援事業は、2000年以降国がホームレスの自立についての支援モデルを提示し、自立支援センターを拠点に実施している。調査研究の対象となった名古屋市は事業開始後3年が経過しており、就労による退所者は221人であったが、そのうち171人を分析の対象とした。その結果、以下のことが明らかになった。(1)3年間に国が効果的と主張する就労による自立は、自立支援センター退所者全体の34%に過ぎなかった(この割合は東京・大阪でもほぼ同様であった)。(2)退所後の追跡調査では時間の経過と伴に自立生活継続者の割合が低下し、「失踪」者の割合が増加し、経済的自立が「就労」から「生活保護」に移行する割合も増加していることが明らかになった。(3)ホームレスの自立を就労に求め、就労先を雇用市場に求めるだけでは、経済的自立に結びつかないことが明らかになり、自立支援モデルの再考が必要になった。(4)就労、住宅確保による自立支援センター退所は、自立のきっかけを掴んだに過ぎず、真の自立支援は退所後の地域生活を持続可能な状態にすることである。生活保護制度下では自立助長に関するケースワークは法外の事実行為とされ、生活保護による効果より最低生活の保障により重点が置かれていた。しかし、自立支援事業は自立支援を目的にしているため、効果はデーターで明確に示されるようになった。このことによって、事業効果の低さに関心が向くことは当然であるが、併せて自立の理念や内容について問われることになる。本研究によってもたらされた成果の範囲は事業効果の測定までで、持続可能な地域生活のあり方についての実証的研究にまでは至らなかった。この点については次回の機会に委ねたい。
著者
大鐘 敦子
出版者
関東学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

フローベールの最晩年の短編『ヘロディアス』は、「フローベール的文体の極致」としばしば指摘され、膨大な科学的資料に基づいて創作されている。本研究ではこの『ヘロディアス』の文体の錬金術の創造過程を自筆草稿における生成批評研究(内的生成)およびヘロディアス=サロメ神話の間テクスト性の研究(外的生成)を並行して行い、これまでで最も総合的な解明を試みて、『ヘロディアス』を19世紀最大のファム・ファタル神話形成の起源の一つとして新たに位置づけた。
著者
中村 隆
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

A:「クルックシャンクにおけるホガース模倣」ポールソンの先行研究に異説を唱え、クルックシャンクはホガースに始まる英国の諷刺喜劇の図像的伝統に終焉をもたらした挿絵画家ではなく、ホガース的なエンブレム図像の正統な継承者の1人であるということを論証した。B:「クルックシャンクの連作版画『酒瓶』(The Bottle,1847)の社会文化史的解明」禁酒主義の思想を体現する『酒瓶』で用いられたのは「蝋刻電鋳版画」(glyphography)という版画媒体だった。精密さという点で銅版画よりも劣るこの方式をクルックシャンクが敢えて採用した理由は、安価な版画を直接労働者階級に届けるためである。労働者階級における飲酒の悪弊を根絶しようとした絶対禁酒主義者(teetotalist)としてのクルックシャンクの目論見がこの版画媒体を選択させたのである。
著者
長谷川 拓哉
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、既存鉄筋コンクリート造建築物から採取した供試体の強制乾燥試験を行って標準乾燥収縮ひずみを推定する方法により、ひび割れの原因を推定する手法の検討を行った。その結果に基づき次の提案を行った。(1)標準乾燥収縮ひずみ推定を目的としたコア供試体の強制乾燥試験手法(2)仕上材・環境条件を考慮した乾燥収縮ひずみの予測手法(3)(1)、(2)をふまえた既存建築物のひび割れ原因の推定手法
著者
立川 康人 寳 馨 佐山 敬洋
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

治水計画の基準となる河川流量を求める場合、わが国では、降雨の確率規模を設定していくつかの降雨パターンを想定し、流出モデルを用いて対象地点の河川流量を求めるという手順をとる。このとき、入力となる降雨は、ある確率規模を定めたとはいってもその時空間パターンには無数のバリエーションがある。また流出モデルも完全なものではない。したがって予測される河川流量には多くの不確かさが含まれる。基本高水はこの予測の不確かさを把握し総合的な判断のもとに決定される。したがって、予測の不確かさを定量化し、不確かさが発生する構造を明らかにすることが重要である。予測値と共にその予測値の不確かさを定量的に示すことができれば、治水計画を立案する上で有効な判断材料を提供することになる。河川流量の予測の不確かさは、主として1)入力となる降雨が不確かであること、2)流出モデルの構造が実際の現象を十分に再現しきれないこと、3)流出モデルのパラメータの同定が不十分であること、から発生する。これらは基本的には観測データが十分に得られないことが原因であるが、洪水を対象とする場合、100年に1回といった極めて発生頻度の低い現象が対象となるため、すべての流域でデータを蓄積して問題を解決しようとするのは現実的ではない。ある流域で観測されたデータをもとに観測が不十分な流域での水文量を推定する手法を開発し、その推定量の不確かさを定量的に示すこと、またその不確かさができるだけ小さくなる手法を追求することが現実的な方法である。そこで本研究では1)降雨観測が不十分な流域における確率降雨量の推定手法の開発、2)降雨の極値特性を反映する降雨の時系列データ発生手法の開発、3)不確かさを指標とした流出モデルの性能評価と分布型流出モデルの不確かさの構造分析、を実施した。
著者
佐藤 英明 西森 克彦 甲斐 知恵子 角田 幸雄 佐々田 比呂志 眞鍋 昇
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

1)インドネシア・ブラビジャヤ大学生殖生物学部門教授のS.B.Sumitro博士を招聘し、「The use of zona pellucida protein for immunocontraceptive antigen」と題するセミナー、及びをウイスコンシン医科大学生化学部門助教授の松山茂実博士を招聘し、「Bcl-2 family proteins and cell death regulation」と題するセミナーを行った。また、国内からアニマルテクノロジーに関する専門家を4名招聘し、セミナーを行った。2)自治医科大学分子病態治療研究センター教授の小林英司博士を招聘し、「ブタは食べるだけ?」と題するセミナーを行い、アニマルテクノロジーによって家畜の意義がより広い分野で高まっていることについて情報を収集した。3)オーストラリア・アデレード大学において体細胞クローンの研究動向調査を行った。スウェーデン農科大学獣医学部において受精卵の大量生産技術の現状と将来の研究方向の調査を行った。インドで開催されたアジア大洋州畜産学会議において、アジアにおけるアニマルテクノロジーの動向について情報を収集した。4)オーストラリア・アデレード大学において、アニマルテクノロジーに関するアジアシンポジウムを共催し、世界の動向について情報を収集した。5)体細胞クローン技術による遺伝子欠損動物作出戦略について検討した。特に、「卵巣から採取した卵子を体外成熟させ、除核未受精卵をつくる。また体外成熟卵子を体外受精・体外発生させ、胚盤胞をつくり、そのような胚盤胞から胚性幹細胞株を樹立する。胚性幹細胞株を用いて遺伝子欠損細胞を作り、これを除核未受精卵に移植する。このような核移植胚を体外で培養し、生存胚を仮親に移植する」という戦略の有効性を検討した。6)調査結果をまとめ、「Animal Frontier Science」と題する本に計9編の論文を寄稿し、出版した。
著者
橋本 晴行 横田 尚俊
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本システムは、全体で9個のサブシステムの構成となることを示した。中でも、浸水被害予測と住民の避難行動のサブシステムが主要部分を形成している。そこで、まず、浸水被害予測のサブシステムとして、福岡市の那珂川下流域を事例として、家屋が密集した河岸における越流量公式の提案、及び、地上・地下空間に対する平面2次元浸水被害予測シミュレーション手法の構築を行った。これに基づく予測情報を住民に提供して早期避難を図るため、次に、避難のサブシステムについて、豪雨時における住民の予測・避難情報に対する危険性の認識と避難行動との関係性などを明らかにした。