著者
香取 郁夫 土原 和子
出版者
近畿大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

仮説A「柔らかい突起は食草探索に役立つ」の検証実験をホソオチョウ幼虫を用いて行う。以下の2実験に細分される。実験A1:突起有り・無しの幼虫による食草探索実験。実験A2:突起表面の微細構造の観察と感覚子の種類の見極め仮説B「硬い突起は捕食者からの防衛に役立つ」の検証実験をゴマダラチョウ幼虫とフタオチョウ幼虫を用いて行う。以下の2実験に細分される。実験B1:天敵による突起有り・無しの幼虫の捕食実験。実験B2:突起表面の微細構造の観察と感覚子の種類の見極め
著者
渡辺 志朗
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

本研究計画の最終年度においては、防己黄耆湯がマウスの肝臓内と腸管内の胆汁酸構成ならびに肝臓と糞便中の脂質濃度に及ぼす影響を評価した。基礎飼料ならびにそれに防己黄耆湯の乾燥エキス粉末を2.0%(重量)となるように添加した飼料を、雄性C57BL/6マウスに5週間に渡って自由摂取させた。防己黄耆湯を与えたマウスの飼育の最終日に排泄された糞便中のαムリコール酸の濃度が高くなり、またデオキシコール酸の濃度は低かった。ただし肝臓中の胆汁酸濃度に対しては、防己黄耆湯の影響はみられなかった。糞便中の胆汁酸構成に及ぼす防己黄耆湯の影響から、腸管内の胆汁酸の疎水性の低下が生じていると判断できた。またムリコール酸はFXRのアンタゴニストであり、デオキシコール酸がFXRのアゴニストであることから、防己黄耆湯の投与は腸管のFXR活性の低下を来しているとも推測できた。一方、防己黄耆湯を与えることで、マウスの糞便中のコレステロール濃度が高くなることもわかった。さらに防己黄耆湯は、肝臓中のコレステロールエステルとトリグリセリドの濃度を低下させることも判明した。肝臓中のコレステロール濃度は、防己黄耆湯を与えることで、低下する傾向を示した。上述のような防己黄耆湯による腸管内の胆汁酸の物理化学的ならびに生物学的な活性変動が、糞便へのコレステロール排泄の増加や、肝臓の脂質濃度低下の要因であると推測できた。以上のことから、本研究において防己黄耆湯が腸管内胆汁酸の代謝変動を介した新規の脂質代謝制御効果の機構の存在を示唆した。
著者
小山 充道
出版者
藤女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

筆者は自分描画法(Self-Portrait Method;以下SPMと略す)研究において、子どもから大人へと成長するに従って落書きに変化が生じる点に着目した。本研究において落書きは人の思いを映し出していると仮定し、SPMを落書き行為とみなした。また筆者は思いの深まりの経過を説明する方法として、「思いの理論("OMOI"approach to psychotherapy);小山(2002)」を用いた。本研究結果、落書きには「今の自分のありよう」「今、自分が気になっていること」「心理的背景」「心の中に隠れているもの」の4つの要素が含まれ、これらが関わり合って人の思いが構成されることがわかった。2007年度は大学生40名に対してSPMを実施した。その結果、SPMは性差の影響をほとんど受けないこと、そしてSPMを用いると個人の思いを浮かび上がらせることが可能であることを確認した。2008年度は北海道立高校2校の協力を得て、総計219名にSPMを実施した。その結果、SPMを実施することで緊張緩和の効果が認められた。また「思い」という言葉から想起する色彩は男女とも「透明」と答える人が最も多く、そのあと赤、白、橙と続き、最後に紫と黒をあげる人が多かった。2009年度は中学生183名を対象にSPMを実施した。その結果、SPMを実施することで緊張が緩和されることがわかった。思春期にある人にはSPMは有効に働くことがわかった。「思い」という言葉に最も近い色を尋ねたところ、透明(22%)→白(18%)→赤(17%)→燈(14%)で71%を占めた。いずれも思春期の人が好む色だった。2010年度には、B高校からの依頼で、高校1年生と2年生合わせて総計320名に対してSPMを実施した。本研究目的は、SPMがスクリーニングテストとして活用できるかどうかを見定めることにあった。その結果、SPMはいくつかの留意点を踏まえた上で実施すると、スクリーニングテストとしての効果が見込まれることがわかった。以上、4年間にわたるSPM研究の結果、SPMは心理療法として活用できる可能性が充分にあることがわかった。
著者
馬場 幸栄
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

緯度観測所(岩手県奥州市水沢)の歴史を再構築するため、国立天文台や個人が所蔵する資料群を調査し、関係者への聴取調査を行った。ガラス乾板から復元した写真、簿冊『国有財産関係書類』から発見した図面、所員の証言から、眼視天頂儀室や歴代本館等の外観・構造および所員らの姿・担当業務を明らかにした。また、紙焼き写真、地域資料、所員の証言から、初代所長・木村栄が水沢宝生会を通して交流していた地域の名士を特定したほか、同観測所が大正時代から女性を積極的に雇用していたことも発見した。さらに、葉書、絵画、ビデオテープなど新たに発見した資料から、第2代・第3代所長や工作係長の人物像・業績も詳らかにした。
著者
矢島 正浩 揚妻 祐樹
出版者
愛知教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

近世期以降現代に至る上方・大阪語と江戸・東京語の条件表現の推移を明らかにし、変遷の原理について考察した。前件をどう提示するかを重要視する流れのなかで、上方・大阪語はさらに「整理化」の傾向が、江戸・東京語には「分析化」の傾向がそれぞれ見える。両地域言語の変化を理解するためには、「中央語であること/地域語であること」の意味を押さえた上で両地域言語の相互の影響関係を視野に入れることが重要であることが明らかとなってきた。
著者
川嶋 ひろ子
出版者
尚美学園大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

世界的ピアニストであり、作曲家としても数多くの作品を残しているクララ・シューマンのピアノ作品について、彼女の音楽的環境や性格、音楽的傾向に基づいて分析することにより演奏表現方法を見出し、楽譜上に校訂として表した。また日本語による演奏法の解説を付すことにより、日本でも彼女の作品を理解し、音楽的に演奏出来る人達が増えることを目指し、世界初となる「クララ・シューマンピアノ作品全集」を出版する。
著者
小島 康夫 工藤 弘
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

北海道に生育する植物一特に樹木を中心として、そのアレロパシー作用の有無を検討した。この研究では主にアレロパシー効果を種子発芽と幼杯軸の伸長に対する阻害作用に基づいて評価を行った。北海道における樹木では、グイマツ、シンジュ、ヒバ、サトウカエデ、ナナカマド、ホオノキ、ハリエンジュに強いアレロパシー活性が認められ、次いでクルミ科4種(オニグルミ、ヒメグルミ、サワグルミ、クログルミ)、カツラ、トドマツ、ミズナラにある程度の活性が認められた。草本では、クマイザサ、ラワンブキ、ミジバショウに強いアレロパシー活性が認められたこれらのうち、ナナカマド、クルミ、シンジュ、ササ、フキについて、アレロパシー活性の季節的変動、組織部位(例えば葉と茎と根など)による変動、活性成分と思われる物質の検索について、さらに詳しく検討を行った。ササについては、多年生のために季節的な変動は少なく、通年にわたりアレロパシー活性が認められた。ササの新芽には活性が認められない。部位の比較では、葉、茎に関して極性の高いフラクション(酢酸エチル可溶部やエタノール可溶部)に強い活性が認められ、根ではエタノール可溶フラクションとともに、極性の低いヘキサン可溶部でも強い活性を示した。フキでは秋に採取した根に活性が示され、ヘキサン可溶部からアレロパシー物質含むフラクションを特定することができた。ナナマカドでは、果実とともに葉にも強い活性が認められた。特に秋に強い活性が示されている。同様に、ミズナラでも秋に強い活性が示され、根、樹皮、根ともに活性があることを示した。一方、シンジュでは、秋よりも春から夏にかけて強い活性が示され、特に根に活性成分が多く含まれることが示唆された。
著者
仁木 國雄 冨澤 一郎 金子 克己 石井 明
出版者
電気通信大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

雪の融点近くで、短いモデル・スキー(長さ20cm)を用い、遅い滑走速度(0.001~1m/s)における摩擦係数を斜面滑走法およびトライボメータ法を用いておこなった。その結果、摩擦係数(μ)が、滑走速度と雪の温度に依存することが解った。そして、-10℃程度の低温で、速度が極めて遅い場合に最も小さなμ値を示す事を見出した。今回の実験結果で最も注目すべき点は、モデル・スキーの低速度における摩擦係数の温度依存性が、高速度で滑る実際のスキーの温度依存性と反対になった点である。また、モデル・スキーの摩擦係数に荷重依存性が測定されなかったことから、低温、低速度における小さな摩擦係数は摩擦融解による解け水の潤滑摩擦では無いと考えられる。すなわち、低温では凝着力が小さくなるために良く滑ると考えられる。
著者
林 文男
出版者
東京都立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

同翅亜目昆虫類について,セミ型類6科29種およびハゴロモ型類8科12種について,精子の形態および内部生殖器の観察を行うた.その結果,セミ型類のセミ科,アワフキムシ科およびヨコバイ科の3科で巨大精子束が形成されていた.セミ科とヨコバイ科では,長いヒモ状物質に精子の頭部先端が一列に付着するのに対して,アワフキムシ科では棍棒状の物質の周りに精子の頭部先端が付着して精子束を形成していた.他のセミ型類および観察したすべてのハゴロモ型類では精子が束になるということはなかった.これまでに知られているこの仲間の分子系統樹に,以上の結果を重ね合わせると,セミ型類では精子束を形成することが祖先的であり,その後コガシラアワフキムシ科,トゲアワフキムシ科,ツノゼミ科で精子束の形成が消失したと考えられた.巨大精子束を形成する物質(精子を束ねる物質)は,トリプシン処理によって分解されたため,タンパク質から成ることが明らかとなった.これらの精子束は精巣から貯精嚢にかけて徐々に形成され(成長し),そのままの形でメスに渡された.メスの交尾嚢の中で,精子束は分解してしまう.精子は離脱して受精嚢に集合しそこに蓄えられる.一方,精子を束ねていた物質は交尾嚢の中で完全に分解され,おそらく吸収されてしまう.ローダミンBという蛍光物質(タンパク質に結合)を取り込ませた物質をツマグロオオヨコバイのメスの交尾嚢に注入すると,卵巣で発達中の卵中にこの蛍光物質が取り込まれることが明らかとなった.精包などとともに,精子を束ねる物質も,オスからメスへの婚姻贈呈物として機能している可能性が示唆された.
著者
山本 武彦
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

平成13年度から開始した標記研究課題を達成するため、第一次資料と第二次資料の収集と分析を進めるとともに、研究成果の一部としてかつて発表した論文の補強・修正を行う一方、研究課題と深くかかわる現代の国際輸出統制問題と中国の関与に関して論文の執筆を行った。しかしながら、標記研究課題に関する収集資料は膨大にのぼり、また研究対象となるCHINCOMの活動期間が長期に及ぶため、資料を完壁に収集するに至らなかった。特にCHINCOMが消滅した1957年にまで遡って検証するには、関係者の残した日記・手記などの第一次資料の収集やヒアリングが不可欠と思われるが、日中貿易関係者や政府において輸出統制にあたった関係者のほとんどが他界した現在、これらの資料の収集には難渋を極めている。これらの資料の収集は、研究期間が終了した現在も継続して実施している。
著者
楢崎 洋子
出版者
武蔵野音楽大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

日本の作曲界が活発になる1930年代から第二次大戦後にかけての日本の作曲家によるオーケストラ作品を対象に、交響曲と題する作品と、交響曲と題さない作品との間に、どのような意識の違いと作風の違いがあるかを、作曲家の言説のほか第三者による評価、および実際の作風を通して考察した。その結果、交響曲と題する作品においても、モデルとされた独墺の交響曲の諸手法と形式を用いながらも、それらを凌駕するような日本的要素に由来すると思われる諸特徴が支配していることを指摘した。
著者
加藤 洋介
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

定家本源氏物語を復原する上でもっとも尊重されている大島本(古代学協会蔵)が、室町期書写の伝本と共通する本文や漢字表記を持つことから、定家自筆本系統の本文から直接書写されたのではなく、室町期に流布していた本文に定家自筆本系統の本文を校合することで成立したことを検証した。これは伊勢物語伝本においても、同一系統にある伝本間では漢字表記など共通する部分を多く持つことから考案したものであり、伊勢物語伝本の側から定家本源氏物語の本文成立史を窺うという横断的検討から得た成果である。
著者
安藤 宏 安藤 宏
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

日本の近代の定期刊行物のうち、文学関係のものについて、包括的なデータベースの構築を行うことを目的としている。具体的には次の三点の作業を行った。①これまで個人的に収集してきた6,000タイトル以上の雑誌の、既存のデータベースの管理。②これまで作成してきた、『文芸年鑑』『出版年鑑』『雑誌年鑑』のデータベースの整備。③『日本近代文学大事典』第五巻(新聞・雑誌編)収載の全刊行物のデータベース化。このうち③については、独立項目以外のものも含め、全2817点すべてのデータベース化を行った。
著者
杉田 正明
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究は低酸素(高地)トレーニングの効果を高める至適条件を検討するために運動時の酸素飽和度に着目して幾つかのトレーニング実験を行った。高度や運動強度に関わらず運動中の酸素飽和度を90%以下になるように負荷強度を設定し、1回30分間、一定期間(週2回、4週間)の自転車駆動トレーニング実施によって、有意な持久能力の向上が認められた。したがって低酸素環境における持久能力のトレーニング効果を高める条件としては酸素飽和度が90%以下の水準になるような負荷強度を選択することが重要であるといえよう。
著者
青木 光広
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

ストレス応答や免疫応答に中心的役割を果たす転写因子のひとつであるNF-κBを介した慢性炎症が難治性メニエール病の進行する難聴や両側化に、関与するかどうかを2年間の前向き研究で検討する。患者の末梢血単核細胞(PBMC)を分離し、コントロール(非刺激)、酸性刺激下、リポポリサッカライド(LPS)刺激下で培養した上で、炎症性サイトカインやアヂィポカインなどの放出の違いが聴力レベルへ与える影響から進行性難聴ならびに両側化の病態解明ならびにその対処法を解明する。
著者
岸本 覚
出版者
鳥取大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

18世紀中期~19世紀初頭は、武家に限らずさまざまな個人や集団が祖先への崇敬を具体的に形に表した時期である。本研究では、薩摩藩島津家と長州藩毛利家を事例として、明治維新期の藩祖神格化の特徴を考察した。その結果、西欧文明やキリシタンへの脅威に対抗するかたちで、明治維新期における藩祖の神格化を進行することが明らかになった。さらに、そこには神仏分離過程および戦没者追悼儀礼など明治政権の宗教政策全体を見渡す視点が関係することも指摘した。
著者
乾 淑子
出版者
東海大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

戦争柄の着物(着物、襦袢、帯などに軍艦、銃、国旗等の軍事的モチーフを染め、又は織り出したもの)と、それらの制作された同時代におけるメディア(新聞記事、絵はがき、雑誌挿絵、ニュース映画など)との関連を探った。大きく分類すると絵はがき、新聞紙面などをそのまま写した図柄と、ニュース映画などに基づいたことを示すことが目的かと考えられる図柄とがある。その両方ともに再現性が高く、抽象的な要素もある銃や軍艦などの図様との両方の手法を混在させた着物図柄の規矩による意匠化である。これらの意匠は基本的には商業的な目的において製造、販売されたにすぎないが、その故に大きな社会的な影響力を有したと考えられよう。
著者
綿田 辰吾 西田 究 関口 渉次 関口 渉二
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

2003年9月26日に発生した十勝沖地震時に江ノ島津波観測所(宮城県)、地震研究所の筑波地震観測所(茨城県)と、鋸山地殻変動観測所(千葉県)、霧島火山観測所(宮崎県)、海洋開発機構室戸ケーブル陸揚局(高知県)、防災科学技術研究所が管理する広帯域地震計観測点の菅野(山梨県)、中伊豆(静岡県)で地震動に伴う気圧変動を観測した。筑波観測所、中伊豆、菅野では微気圧と地動の同時観測により、地動と大気圧の音響結合データを取得することができた。地動は最大振幅5mm/secの15〜20秒のレイリー波が卓越している。群速度はほぼ3.2km/secであった。微気圧記録は50秒以下の短周期成分では最大振幅約2パスカルの変動が見られ、地動と同様の群速度で伝播している。50秒以下で大気圧変動と地動の周波数領域の応答特性が得られた。大気圧変動は地動面上下速度にほぼ比例し、位相も同一である(上向き速度で圧力増加)。比例定数は、(大気密度)(大気音速)をかけあわせた量である。また密度成層した大気中の長周期音波が地面の運動により発生する問題を解析的に扱い応答特性を理論的に導出した。理論応答特性は音波遮断周波数付近(約300秒)では音波は地動変位に比例し比例定数が約半分となることが示された。50秒以下でほぼ観測どおりの位相と振幅となることが確かめられた。微気圧・地動同時観測と理論予測の比較から、十勝沖地震から伝播した表面波がローカルに音波を発生させたことが明瞭に示すことができた。50秒より長周期側では大気圧ノイズが大きくなり地動と大気圧変動の明確な応答特性を得られなかった。このように放出された音波は大気中を伝播し高層にある電離層まで、エネルギー保存のため、振幅を増大させながら到達する。過去いくつかの研究で報告されている地震にともなう電離層擾乱もこのように地表で発生した圧力変動に起因していると推定される。
著者
瀬戸 直彦
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究課題は,2005年9月に開催されるボルドー大学での「第8回国際オック語オック文学研究集会」(AEIO)で行なう発表に向けて,「写本テクスト学」の実践として,テクスト設定に問題をはらむトルバドゥールの1作品の研究を,収集したマイクロフィルムをもとに試みるものであった。具体的には,ラインバウト・ダウレンガの,Non chantで始まる作品について,とくにその27行目にひそむ問題をテクスト校訂の立場から,各写本の読みを検討し,従来提出されることのなかった私なりの読みを行なったのである。いくつかの写本によればla amorと,母音接続(イアチュス)を容認せざるをえなかった部分を,あらたにトルヴェールのコーパスをも含めた他の作品のコンテクストを徹底的に探索することによって,cel amor que…という読みを導き出したのであった。この内容を実際にボルドー大学において発表したところ,これを傍聴していたローマ大学のエンリコ・ジメイ氏より,同氏の母音接続にかんする詳細な研究の一端を知ることができた。それによると,私の例では,定冠詞laと,アクセントのない母音a-morとの母音接続であったが,この場合は,やはりイアチュスを認めるには不自然であり,写本伝承の過程でテクストが変質したものと考えることができる。ジメイ氏の調査はある程度は徹底的なものではあるが,コーパスとしてデ・リケールのアンソロジーを用いているために,各写本の読みの違いは考慮されていない。私のいう「写本テクスト学」の必要性をあらためて痛感している。この立場から,ラインバウトの同作品におけるセニャル(仮の名)の研究を,トルヴェールのクレテイアン・ド・トロワの一作品と比較し,写本間におけるテクストの異動の重要性に着目した(大学院研究紀要における日本語論文)。また,ラインバウト・ダウレンガの作品とは別に,ペイレ・カルデナルの「寓話」一篇のあたらしいテクストと解釈を提示してみた(リケッツ教授献呈記念論文集)。ここでは,従来検討されてこなかった,アルスナル写本の読みをも考慮したテクスト設定を試みた。
著者
日置 幸介 齋藤 昭則
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

地震や火山噴火に伴う電離圏擾乱はドップラー観測などによって以前から知られていたが、我が国の稠密GPS観測網であるGEONETによって電離圏全電子数(TEC)として手軽かつ高時間空間分解能で観測できるようになり、多くの知見が得られた。その一つが2003年9月26日の十勝沖地震に伴う電離圏擾乱で、震源から上方に伝搬してきた音波が、電子の運動と地球磁場の相互作用であるローレンツ力を受けて生じる擾乱伝搬の方位依存性が明らかになった。また正確な伝搬速度が初めて求められ、この擾乱が地表を伝わるレーリー波や大気の内部重力波ではなく、音波によるものであることが明快に示された。これらの知見を基礎に、スマトラ地震による電離圏擾乱から震源過程を推定するという世界初の試みを行った。その結果地震計では捕らえられないゆっくりしたすべりがアンダマン諸島下の断層で生じたことを見出した。その論文は米国の専門誌JGRで出版された。また2004年9月1日の浅間山の噴火に伴う電離圏擾乱が確認された。これは火山噴火に伴う電離圏擾乱の初めてのGPSによる観測である。アメリカの炭坑でエネルギー既知の発破を行った際に生じた電離圏擾乱が過去に報告されているが、それとの比較により2004年浅間山噴火のエネルギーを推定することができた。この研究は米国の速報誌GRLに掲載された。さらに太陽面爆発現象に伴って生じる電離圏全電子数の突発的上昇のGPSによる観測結果をまとめたものを測地学会誌で報告した。今年度は、2006年1月に種子島から打ち上げられたH-IIAロケットの排気ガスの影響による電離圏の局地的消失現象をGEONETで観測した結果およびそのモデルをEPS誌に発表した。電離圏の穴は電波天文学に応用可能であるだけでなく、GPS-TEC法による穴の探査は地球に衝突する彗星の発見にも応用できる将来性のある技術である。また地震学会の広報誌である「なゐふる」に地震時電離圏擾乱の解説文を掲載して、その普及に努めた。